Serviceology
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Conference Report
IRSSM 7 (The 7th International Research Symposium in Service Management)
Kunio Shirahada
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2017 Volume 3 Issue 4 Pages 40-41

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1. はじめに

IRSSM(サービスマネジメントにおける国際研究シンポジウム)と聞いて,サービスに関心があってもおそらく初めて耳にする方が多いのではないだろうか.本稿を作成している筆者も,代表であるJay Kandampully教授(Ohio State University,Journal of Service Managementのエディター)から直接話を聞くまで,その存在を認識していなかった.

同シンポジウムは第1回目を2010年にモーリシャス共和国で開催し,その後,インドネシア,中国,インド,エストニア,マレーシアと続いた.なぜこのような場所で開催されているのか.本シンポジウムが目指す姿の1つとして「新興国においてどのようなサービスが必要かを議論し合うこと」という狙いがあるためである.日々生まれているサービスに関する新しいアイデアやパラダイムは,産業や顧客を変革する力を持っている.こうした知識や実践はこれまで先進国の研究者や実務家が中心となって共有してきた.それを新興国のメンバーとも共有していくことで,サービス研究の底上げや次世代の研究者の創造,そして新しい知見の獲得につなげられるという考えがそこにはある.

2016年が7回目となるIRSSMは8月2日-5日にかけて,タイ・バンコク市にあるMahidol大学にて行われた.参加者は約100名で,大学研究者や博士課程学生,実務家が参加した.初日はプレシンポジウムとして,ネットワーキングを目的にしたワークショップが行われ,3日からは基調講演,および2会場を使って計6セッション(46件の研究報告)がなされた.

図1 集合写真

2. 基調講演およびパネル討議

基調講演は,Alison Dean教授(New Castle University, Australia)が「Service management and change: review and reflection」という題で講演した.タイトルからも伺えるように,極めて教育的な中身である.サービスの特徴を示すIHIP(Intangibility,Heterogeneity,Inseparability,Perishability)の説明から始め,サービスマネジメントは価値提案,価値共創の促進,良質な顧客経験が重要であると指摘した.これに加え,Transformation,Sustainabilityのキーワードを用いて最新のサービス研究の動向についても丁寧に解説していた.

2人目の基調講演はタイの主要なテレコミュニケーション企業であるAIS(Advanced Info Service Public Co., Ltd.)でChief Customer Officerを務めたKhun Vilasinee Puddhikarant氏が,「Leading the Digital Transformation through Customer Service Excellence」と題して,同社の顧客サービスの状況について紹介した.

続いて,Javier Reynoso教授(Monterrey Institute of Technology (ITESM) in Monterrey, Mexico)が「Service research at the Base of the Pyramid (BoP)」という題で講演を行った.途上国におけるサービス研究として,貧困の緩和のためのサービス研究や低所得者のマーケットにおける価値共創の現状について同氏の研究を基に話した.最後に,こうしたBoPにおける良質なサービス事例を蓄積していくことが重要だとして,研究ネットワークを作る構想を呼び掛けた.

パネルディスカッションについては,「Research & Publication」と題して,Jay Kandampully教授, David Solnet教授, Sunmee Choi教授, Srikanth Beldona教授, Keng-Boon Ooi教授, Peter Kim氏らが,それぞれの研究の進め方や投稿論文作成への向き合い方について話をした.質疑では,企業の実務家が「なぜ研究者のキャリアを選んだのか」,「(現在,実務家であるが)博士課程に入学して論文を書いていくことの意義」について尋ねていたことが印象深かった.パネリストはそれぞれのキャリア形成を振り返り,丁寧にその意義を語り,登壇者と参加者が近い印象を受けた.

3. 研究発表セッション

研究発表セッションは工学的視点と経営学的視点が混ざり話題は極めて多様であった.会が小さいせいもあって,いくつものセッションが並行しているわけではない.参加者は何気なく参加したセッションで思わぬ面白い発見をすることができるかもしれない.

質疑応答では,若手研究者・博士課程学生の研究発表に対し,シニアの研究者が今後の研究進捗につながるような前向きな質問・コメントを多くしていた.それが他の参加者にも伝わり,お互いに良いアイデアを出し合う雰囲気を形成していたように思う.

図2 パネルディスカッションの様子
図3 研究発表セッションの様子1
図4 研究発表セッションの様子2

4. おわりに

2017年は韓国の延世大学校にて8月1日から5日まで行われる予定である.博士課程学生の研究発表の場や,様々な国の研究者とネットワークを広げる機会として活用できるのではないかと思う.

〔白肌 邦生 (北陸先端科学技術大学院大学)〕

 
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