Serviceology
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Conference Report
Research Report on "IT and Service-Design in United States"
Naho Saito
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2017 Volume 4 Issue 1 Pages 34-35

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1. はじめに

2016年11月7日から10日にかけて,米カリフォルニア州サンフランシスコの現地調査を行った.本調査研究は,国際IT財団(IFIT) *1の主催による.

米国経済は1990年代以降,小売業のトップ企業・ウォルマートなど,ITユーザーであるサービス産業を中心に,ITを活用し,顧客視点に立ったサービスを構築することで,復活を遂げた.また,製造業の「サービス化」の流れも進んでいる.GEは航空機エンジンにセンサーを取り付け,故障予知・運用最適化など,サービス性の高いビジネスモデルを提供したことで知られている.製造業・サービス業を問わず,顧客視点に立った,ITによるサービスデザインが求められている.

このような問題意識のもと,米国におけるIT活用の現状と,ビジョン構築,事業戦略とはどのようなものか.そして,サービスデザインはどのように取組まれているのか.企業訪問による聞き取り調査を行った.

2. 参加メンバー

当調査は,澤谷由里子・東京工科大学大学院教授の指導の下,日本の経営リーダー7名(鈴木輝重・アルケア代表取締役社長,山下寛人・オイシックス執行役員システム本部長,岩井智子・クラブビジネスジャパン取締役,黒田達也・事業創造大学院大学副学長・教授,岩崎薫里・日本総合研究所上席主任研究員,本多健吾・フューチャーアーキテクトディレクター,湯浅勝浩・日本生産性本部 サービス産業生産性協議会(SPRING) 課長が参加した.

図1 GEデジタル/デザインセンターにて

3. 企業訪問

  • (1)   GEデジタル/デザインセンター

全社横断的に点在していたデジタル関連機能を1つに集約した後,ユーザー・エクスペリエンス戦略と普及の拠点として2015年,GEデジタルを発足.インダストリアルインターネット実現のプラットフォームPredixをベースとした事業を展開.データサイエンティスト,デザイナー,リサーチャー,プロダクトマネージャー等,約1,300人が在籍.デザイナーは社内コンサルタント的な立場で色々な事業部の業務を受け持つ.1階のデザインセンターでは,顧客企業とのワークショップが常に開催され,ステークホルダーを巻き込んでサービスを再構築することに取組んでいる.

  • (2)   Pivotal Labs

GEのサービス化の中心であるPredix構築を全面的に支援した.製造業を基盤とするGEを変革するには,GE単体では不可能との共通意識があったという.

Pivotalはクライアント企業と自社チームでのペアプログラミングなどを通じ,開発プロセスの知識共有を徹底.システム単体ではなく,クライアント企業内にアジャイル開発チームを育てることを最終成果とする.

図2 Pivotalでのペアプログラミングの様子

  • (3)   Instacart(生鮮食料品宅配サービス)

忙しい若年層世帯を支援する都市型サービス.全米人口の12%にあたる1500万世帯が利用している.ターゲット等大手を含む100社の小売店や個別ブランドと多数提携し,幅広い商品アイテムを提供.

「子供を持つ母親で,忙しく,一週間分の献立を予め決めているビクトリア」「我が社のエンジニアのような若者で,買い物が面倒で,好きではないエリック」など,5つのペルソナを共有し,サービス開発に取り組む.1時間刻みの配達時間指定や,注文品が欠品している場合の通知など,徹底したデジタル化によるきめ細かいサービスを実現している.

図3 Instacartのペルソナ

  • (4)   SAPラボ

SAPはシリコンバレーで最大規模(4000人)の外国企業.母国ドイツを遠く離れた当地にサービスデザインによるイノベーション組織を立ち上げ,新プラットフォームHANAをいち早くローンチしたことで,一時は苦境に立ったSAPの事業構造を大幅に改善した.

多くの大企業は,既存事業の基盤があることにより,非連続の変化に対応しうるイノベーションに後れを取ってしまう.SAPはHANAの経験から,イノベーション組織と既存組織とのシナジー形成は不可能で,イノベーション組織自体が成長した後,本体との関係を考えるべきという.

  • (5)   IBMアルマデン研究所

サービスサイエンスの概念をいち早く提唱し,顧客と供給者との間でいかに価値を創造するか,データに基づいた研究を行い,米国競争力委員会パルミサーノ・レポート(2004)で脚光を浴びた.現在,シナプス,医療,ゲノム分野など50の研究分野を手掛ける.リサーチャーは,研究テーマの市場性を見極め,どのような形で事業部門へと繋がるか,常に考え行動する.いかに商品化の道筋をつけるかという点でサービスデザインの手法を取入れる.リサーチャーによるハッカソン開催など,常に挑戦をする文化が根付いている.

4. 調査を終えて

「いま一つ腑に落ちなかったデザイン思考が,商品開発やデザイン部門のみならず,事業立ち上げのプロジェクト・マネジメント,さらには経営TOPにまで浸透し,活用されていた」とのメンバーの感想のとおり,サービスデザインは,組織の課題を一旦俯瞰で捉え,ステークホルダー間で共有し再構築する手法として,主たるグローバル企業で主流となっている.プロジェクト・マネジメントに留まらず,全体朝礼などコミュニケーション,人事評価制度の改定など,組織全体・各階層を巻き込む様々な仕掛けがなされていた.

「GE,IBM,SAPといった大企業がまるでスタートアップのような雰囲気になっていた」との感想もあった.グローバル企業には既存の事業基盤がありつつ,いかに変革を進め,市場の非連続の変化に対応できるかが問われる.そのようななか,世界中の精鋭人材が集結する当地で,いかに人材を確保するか.企業が求める人材要件としてのみならず,人材側が求める企業の条件としても,「顧客満足」「ステークホルダー」「情報共有」を重視し,未来志向のサービスデザインをいかに実行できるかが,益々重要になると考えられる.

5. 今後の調査予定

「英国・公共サービスのデジタル変革」(澤谷由里子教授がコーディネーターとして同行)を2017年夏予定.

〔齋藤 奈保(国際IT財団)〕

*1  1988年6月に「国際AI財団」として設立(創設時の理事長:牛尾治朗・ウシオ電機会長).米国をはじめ,欧州(英国・ドイツ・エストニア)の海外調査等を実施.最近は,海外調査プログラムを通じ,日本企業のIT革新のための相互研鑽のプラットフォーム作りに取組む. http://www.ifit.or.jp

 
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