Serviceology
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Conference Report
The 1st Service Standardization Forum - Service Quality learnt from Best Practice -
Tsunehisa Maekawa
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2017 Volume 4 Issue 1 Pages 42-43

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1. はじめに

2016年10月14日,地下鉄丸ノ内線大手町駅近くの経団連会館ダイヤモンドルームに250名余りが参加し,サービス学会,日本規格協会,日本品質管理学会共催の「第1回サービス標準化フォーラム~Best Practiceに学ぶサービス品質~」が開催された.

2. 基調講演

最初に日本規格協会の揖斐理事長が開会挨拶を兼ね基調講演を行った.我が国サービス産業はGDPの75%を占めるが製造業に比べて生産性が低いとされ,2014年6月に政府策定の“日本再生戦略”でも生産性向上の必要性を指摘されている.

飛躍的に進化する情報技術,グローバル化,安全・安心の確保,急速な高齢化など将来の社会の重要課題に対応しながら,サービス産業の生産性向上,品質を中心としたサービス標準化が果たす役割は大きいことから,サービス学会,日本品質管理学会,日本規格協会の三者が連携,2015年12月以降“サービス標準化”のあるべき姿、進め方等について議論を重ねてきた.

今般,関係省庁,学会及び消費者団体等の参加を得て「サービス標準化委員会」を設置,オールジャパン体制で「①高品質なサービス技術の再現性を高めたサービスの多様性に応えられる標準化,②グローバル化の観点から日本のサービス標準のISO規格化推進による国内事業者の海外展開における優位性確保,③消費者が安心・信頼してサービスを利用できるための標準化」の3点を目指している.

まずは個別・具体的なサービス標準の開発を進める共通基盤として必要な用語,サービス標準設計指針,サービス提供プロセス指針,サービス提供者の力量指針等についての標準化を急ぐことになった.

3. 日本品質管理学会・椿会長講演

サービス学会と日本品質管理学会が連携して「サービスのQ計画研究会」を起ち上げ,サービスの質について議論を重ねてきたが,国際的には標準化の目的や意義,「サービス」という用語の定義等についてはISO/IEC-Guide76で取組まれている.

サービス標準の現状を考えると初めに品質マネジメントシステム(ISO9001)在りきで,英国で1974年に制定されたISO9001が,我が国でも日本適合性認定協会(JAB)認定件数は48,036組織あり,サービス業も21,064組織が認証を受けている.

海外ISOの次期ターゲット領域に“サービス標準の国際化”を進めるため,2016年6月にスイスでワークショップが開催されたが,本主催3団体でも既に2016年12月にはサービス標準化委員会を設けて研究会を重ねている.その中で,例えば運輸,小売り,宿泊,飲食,医療,介護等など,分野毎に必要とされる個別・具体的なサービス標準化にも貢献でき,「サービスを科学にする」ことで教育も容易になり,今後の活動が大いに期待されている.

図1 講演風景

4. 産業界の実践事例講演

基調講演終了後,産業界の“Best Practice”として,人や荷物を運ぶ運輸業を代表して全日本空輸の町中氏,モノづくりの製造業分野では日立製作所の長谷川氏,販売業の頂点として幅広い分野の製品を販売する三越伊勢丹ホールディングスの池田氏による講演を通じて,各事業分野でのサービスの在り方,研究などについて学ぶ機会となった.

5. パネルディスカッション

パネルディスカッションの前半は話題提供

  •    (1)「サービソロジーはサービスをどう捉えているか?」を産業戦略研究所代表/NTTドコモ取締役/サービス産業生産性協議会幹事の村上氏

21世紀初頭に始まった“サービス”に対する科学的なアプローチとして,サービス工学,サービスサイエンス,サービソロジー(サービス学)などが次々誕生,その到達点“サービソロジー”が,今“サービス”をどう捉えるかについて講演した.

製造業では価値を創造すると考え,サービス中心のサービスドミナント・ロジックでは企業ができるのは価値を提案することで,価値自体は顧客と企業との協働の中で利用価値を共創(Co-create)する.

2004年頃からパラダイムの変化が起こり,日本でも多様な取組みが行われ,2010年から国のサービスサイエンス研究開発プログラムが始まった.その後6年間の研究の蓄積で,サービソロジーはどのようなテーマを扱う領域であり,そこで扱われるサービスは何を示すか,包括的な枠組みが出来上がった.

「サービス価値共創フレームワーク(通称:ニコニコ図)」では,企業の価値提案が顧客の事前期待に出会い,両者のダイナミックな交流の中で利用価値が共創され,その結果,顧客満足度評価が行われ,次のサービスへの事前期待を形成して新たなサイクルが生まれること,同じような価値共創のサイクルは,企業側にも,顧客の価値発信→経験価値の共創→学習度評価→知識・スキルの蓄積→新たな価値提案という形で存在すること等が紹介された.

  •    (2)「サービスの標準をどう考えるか? 有効な標準とは何か?」をサービス学会の山本会長

“オープンイノベーション”について最初に触れ,標準化をしようとしても全日本空輸のようにチャネル全体を標準化するのは極めて稀で,一般的には閉じたチャネルの中で完結した標準化が行われる.

病院や学校などを考えれば規制が厳しいため,より効率的な標準化が求められる.

自動化等,技術革新のスピードに対して標準化が追いつけない実情で,サービスの多様性を維持するためには標準化が足を引っ張りかねない.

インターネットの広告流通では標準化され一部はロボットによる取引が行われており,海外に比べて日本は標準化がかなり遅れているため,取組むを急ぐ必要があり,顧客を含むプロセスの標準化などで今後,関係者の協力を得て取組みたい.

  •    (3)「サービス標準化スキームの提案」と題して東京大学特任教授/日本品質管理学会副会長(サービスのQ計画研究会主査)水流氏

東京大学品質・医療社会システム工学科教授の水流氏は「サービスのQ計画研究会」は“サービス標準化”を進めるための「サービス標準化スキーム」を示し,科学化,標準化,実用化のフェーズの順に進めたい.科学化では現在提供されているサービスの質は良いものが提供されている,それらを標準化し,効果測定などを行い,最終的に教育等を行い実用化に結びつけたいと紹介した.

図2 パネルディスカッションの風景

3氏による話題提供の後,前出の町中氏,長谷川氏,池田氏が加わり,参加者からのコメントや意見を基に「社内標準化」,「オープンイノベーション」,「国際市場での競争力」と“サービス”との関わりの視点で議論された主な内容を以下紹介する.

  • ●   多くの質問があった“社内標準化”は先に改訂された鉱工業製品と標準化をどう考えたらよいか,今回ISO9001が大幅に改定された中で製品とサービスを分けており,「顧客とのやりとりが無いものが“製品”」,「顧客とのやり取りが無ければ成立しないものを“サービス”」と定義している.
  • ●   産業という観点では日立製作所の鉄道事業の事例などはサービスという視点では大変参考になる.

    標準化の多くをAmazonなどアメリカ企業が作っているが日本では標準化しなくてもできており,ISOのような標準化が進むと日本が遅れてしまう点は問題である.また公的なサービスではかなり専門的な標準化が進んでおり,細かな点が具体的に決められているが,そのスキームは壊せない.

  • ●   “オープンイノベーション”の観点からサービス標準化を考えると講演の中で紹介された“見える化”をすると頑張るというのがサービス標準化では1つの切り口になると思う.
  • ●   何でも自社で作るのが日立流だが,他企業が得意分野を持つケースが多く,得意な企業と連携してサービスを提供する必要性があり,サービスの価値をどう標準化するのか,議論が必要である.
  • ●   小売業はお客様との接点が多く,何処までサービスすればお客様に感動して頂けるか,提供する側と受ける側がどこまでするのか等,標準化は難しい.
  • ●   “国際競争力を確保するために何に取り組むべきか”という視点で標準化がやるべきことは何か.
  • ●   1980年代,日本の製造プロセスなどが研究され,ISOが標準化されたが,サービスについても同じくグローバルな標準になるにはどうするか?
  • ●   標準化ではサービスの認証などで国際標準をリードできるようにすることが重要である.

などパネルディスカッションでは熱心な議論が交わされた.

〔前川 恒久 (日本品質管理学会)〕

 
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