Serviceology
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Activities of International Standardization for Service
Masaaki MochimaruKeiko Toya
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2017 Volume 4 Issue 3 Pages 40-43

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1. はじめに

ISO(国際標準機構)やJIS(日本工業規格)のような標準は,今まで,その多くが製品(モノ)を対象として確立されてきた.近年,この標準の対象がサービスにも拡がってきている.シェアリングエコノミーの品質標準,高齢社会のケアサービス標準などが,欧米主導の国際標準として議論されはじめている.さらに,より一般的・横断的な標準として,持続的なサービス提供の基盤となる人間中心の組織設計や,Service Excellenceの標準なども開発されつつある.インバウンドの旅行者が来たり,インターネットで国境を越えてサービスが提供されたりする時代となり,サービスは国際的に取引されている.このような中で,サービスの運用や品質管理に関する国際的な取り決めが整えられることは,サービス利用者や提供者にとって,基本的には良いことである.しかしながら,日本のサービス産業が,この取り決めづくりに参加せず,単に国際ルールの制約を受けるだけの立場になると問題である.そこで,サービス学会は「サービス標準検討委員会(委員長:戸谷圭子)」を設置して,このような標準化の動きに対応している (戸谷 2016).本稿では,同委員会の活動を中心に,サービスに関する国際標準の動向を紹介する.

2. 標準化の対象はモノからサービスへ

標準とは関係者(ステークホルダー)間の合意である.関係者は,通常,提供者(企業),利用者(顧客),中立者(有識者)からなる.標準そのものは,必ずしも規制を意味するわけではない.関係者が互いに合意することで,利便性を増大させる,経済性を向上させる,あるいは,社会安全を実現することが目的である.標準は製品や部品(モノ)の形や寸法,機構などを統一する構造標準から始まった.ネジが好例である.次にはモノの性能を評価する方法とその性能基準を定める性能標準に展開した.防水性能などはこれに相当する.防水性能を発揮するモノの構造や仕組みは規定されないため,技術革新を阻害しにくい.さらに,モノに関わる手順を標準化するプロセス標準が生まれた.ISO 9001(ISO 9001 2015)のようにモノの品質管理手順を標準化しているのがこれに相当する.その手順を守れば品質が管理できるという考えである.品質管理というような,直接触ることができない測りにくいものを,手順という形で書き下し,関係者間で合意している.こうして,標準化の対象は,徐々に「モノ(触れる)」から「モノに付帯するプロセス(触れない)」そして「サービス」へと移ってきている.

3. サービスのQ計画研究会

ISO 9001の最新版は,サービスも対象として含んでおり,サービスの提供品質を管理することにも適用できるとされている.サービスによって生み出される価値は,サービスの提供者側から受容者に向けて一方的に提供されるものではなく,サービスの受容者(顧客)が協力(参加)して提供者とともに創り出していく(共創)ものである.残念ながら,現在のISO 9001には,この価値共創の概念が明示的に組み込まれていない.

そこで,この価値共創の考え方を整理し,書き下して,その上で,サービスの品質管理のプロセス標準を日本発で新たに開発しようという動きがある.日本品質管理学会,日本規格協会とともに,サービス学会はサービスのQ(品質)計画研究会(以下Q研究会)を発足し,現在,その研究会で議論を進めている(戸谷 2016).学会だけでなく,経済界も巻き込んだオールジャパンとしての動きが生まれつつある.2016年10月には一般社団法人日本経済団体連合会とともに,第1回サービス標準化フォーラムを開催した.2017年11月には第2回のフォーラムが開催される.研究会は,2017年度も月1回程度の会合を続け,

  • (1)サービス品質管理の理念と用語・概念に関する標準【A標準】
  • (2)サービス品質管理の一般的要求事項【B標準】
  • (3)具体的なサービス業ごとの品質管理プロセス標準【C標準】

について,ワーキンググループごとに議論を進めている.このQ研究会の活動には,サービス学会から山本昭二会長,新井民夫前会長,戸谷圭子理事(サービス標準検討委員長)と,産総研の持丸正明,山本吉伸が参加している.日本品質管理学会からは,椿広計会長,水流聡子副会長が参加,日本規格協会から加藤芳幸氏他数名が参加している.他にも産業界や自治体などから参加をいただき,幅広い視点で議論を進めている.現在,サービス学会メンバーは主としてA標準原案の策定に関わっている.A標準ワーキンググループでは,価値共創を基盤とするサービスの理念,及び,理念の理解に必要でB標準,C標準で使用され得る用語の体系(コンセプトダイアグラム)の議論を進めている.現在サービスは,既存のサービス産業のみならず,プラットフォームビジネスやシェアリング,製造業のサービス化など,その範囲は多岐にわたり,実務界でも学術界でも各分野の使用する用語は統一されていない.サービスに関連する用語の体系整理は,標準の基礎であるばかりでなく,サービス実務・研究分野にとって重要である.

4. CEN TS 16880 Service excellence

このようなサービス品質管理の標準化議論は,日本だけで進められているわけではない.すでに,ドイツでは国内標準として「Service excellence」という共創性の高いサービスの品質管理に関する理念と一般要求事項に準ずるものを整備している.このドイツ国内標準をベースとして,2015年に欧州標準機構(CEN)において,CEN TS 16880「Service excellence — Creating outstanding customer experiences through service excellence」が策定された(CEN TS 16880 2015).TSとはTechnical Specificationの略で,正式な標準文書ではなく,その原案のようなものである.このTSを公開して幅広く意見を募り,次のステップで標準文書に格上げしていく.このTS 16880では,基本的なサービス(Core value proposition)はISO 9001で扱うとして対象外としている.ここでは,それより上位のサービス(Service excellence),すなわち,「Individual service」や「Surprising service」を対象だと規定している.用語定義には「service excellence」や「co-creation(共創)」も含まれており,Q研究会が狙う「価値共創の考え方に基づくサービス品質管理のプロセス標準」と非常に近いものとなっている.

ドイツは,これらの上位サービス「Service excellence」が今後の国際市場で重要になると考え,戦略的に国際標準の主導権を獲ろうとしている,と筆者らは推察している.

5. ISO 27500 Human-Centred Organization

ISOにおいても,近年,サービスを対象とした標準が数多く議論,策定され始めている.サービスシステムは,その中に人間を含み,人間の多様性に対応することで高い価値を生み出す働きを持つ.そのことから,ユニバーサルデザインや人間中心設計の拡張として,サービスを対象に含んだ「人間中心」のプロセスを標準化する動きがある.ISOに200程度ある技術委員会(TC; Technical Committee)の1つであるTC159(人間工学の技術委員会)でもその議論が進められており,その活動については,本誌Vol.2, No.1で報告した(戸谷,持丸 2015).その後,カナダ,米国,日本が中心となって,ISO/DIS 27501「The Human-Centred Organization -- Guidance for managers」を策定中である(ISO/DIS 27501 2017).DISとは,国際標準(IS)の手前のドラフト段階という意味である.現時点のDIS文書では,基本理念の箇所に,「企業マネジメント,従業員,顧客間の共創価値のバランスを考える」というサービストライアングルのフレームワークが記載され,三者間で共創される基本機能価値,知識価値,感情価値を明らかにし,共創価値が偏在しないように管理していくことが,長期的なサービスの持続に重要であるとしている(Toya 2014) .DIS文書では,これが人間中心の組織管理の中核的な概念と位置付けられている.2017年11月には,このDISについての各国の投票結果がまとまり,2017年12月に日本(東京)で開催されるISO TC159総会(及び,当該DISを所掌するTC159/SC1/WG5会議)で,投票コメントに基づくDISの修正と,最終版であるFDIS(Final Draft of IS)の策定が進められる予定である.

6. 新しいTC設立の動き

ISOにおいては,TC159のような既存の技術委員会が対象をサービスに拡張していくだけでなく,サービスそのものを明確に対象とする新しいTCの設立提案の動きもある.第1に,4章で述べたCEN TS 16880を基盤とした「Service excellence」に関する技術委員会の設立がドイツから提案されている.価値共創に立脚したサービスを構成するための理念(A標準)や一般的要求事項(B標準)を扱うことになるであろう.より具体的なサービス業に特化した標準としては,たとえば,シェアリングエコノミーの品質管理ガイドラインを国際標準化する動きがある.フランスやカナダが中心となって,TC設立の前段階となる国際ワークショップ合意(IWA, International Workshop Agreement)に向けた文書作成が動き始めている.また,高齢社会のケアサービス標準も,すでに合意されているISO IWA 18「Framework for integrated community-based life-long health and care services in aged societies」(ISO IWA 18 2016)に基づくTC設立がイギリスから提案されている.サービス学会では,前述のサービス標準検討委員会が中心となって,日本規格協会や経済産業省国際標準課と連携をとりながら,産業界とともにこれらの標準化の動きに対応している.

7. JIS法改正の動き

前述の通り,ドイツやイギリスは,自国内での標準を原案としてCENやISOに提案し,国際的な合意を取り付けるという形で国際標準化のイニシアチブをとっている.しかしながら,現時点では,日本はこれと同様の国際標準化戦術を採ることができない.日本工業標準(JIS)は,その対象が製品か建造物に限定されており,純然たるサービスは標準の対象外となっている.ISO 9001は,日本においてもJIS Q 9001(JIS Q 9001 2015)というかたちで翻訳されてJISとなっているが,実は,これも“製品の”品質管理手順ということで,無理やり日本工業標準の枠にはめ込んでいるのである.しかし,先に述べた上位のサービスや,シェアリングエコノミーなどの純然たるサービスに関する国内標準を策定しようとすると,現在の工業標準化法が障壁となってしまう.国際標準化戦略においても,また,国内の産業基盤形成においても,国内標準でサービスを扱えないのは大きな問題である.

現在,経済産業省では,この問題に対応するために工業標準化法の改正を視野に入れた議論を進めている.2017年には,産業構造審議会の下部組織として基準認証小委員会が組織され,議論が行われた.その議論を踏まえた答申案が公開されている(経済産業省 2017).ここでは,サービス標準の重要性や産業における意義,国際戦略を整理した上で,JISでサービスを対象とするための工業標準化法改正が提言されている.国際的な製造業のサービス化の流れに国内産業が立ち後れないために,学会や産業界が横断的に議論をして国内合意としてのJISを策定し,それに基づいて国際標準のイニシアチブをとるべきであると書かれている.是非,御一読いただきたい.

8. おわりに

サービスに関する国際標準化の動向と,それに対応するサービス学会,並びに,日本全体の動きを紹介した.サービスの国際標準化は,多岐にわたり,その活動も活発化している.これに対して,現在,学会内に設置されているサービス標準検討委員会の構成員は数名以下で,十分な対応が取り切れていない.サービスの国際標準化に関心のある方は,是非とも,委員会活動に参加いただきたい.

著者紹介

  • 持丸 正明

産業技術総合研究所人間情報研究部門 部門長.1993年,慶應義塾大学大学院博士課程生体医工学専攻修了.博士(工学).専門は人間工学.人間の身体特性,行動と感性の計測とモデル化,産業応用研究に従事.

  • 戸谷 圭子

明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科教授.筑波大学大学院経営・政策科学研究科博士課程修了.博士(経営学).専門はサービスマーケティング.サービスにおける共創価値尺度の開発,製造業のサービス化研究に従事.

参考文献
  •   CEN TS 16880 (2015). Service excellence — Creating outstanding customer experiences through service excellence.
  •   ISO 9001 (2015). Quality management systems – Requirements.
  •   ISO IWA 18 (2016). Framework for integrated community-based life-long health and care services in aged societies.
  •   ISO/DIS 27501 (2017). The human-centred organization -- Guidance for managers.
  •   JIS Q 9001 (2015). 品質マネジメントシステム−要求事項.
  •   Toya, K. (2014). A model for measuring service co-created values. MBS Review, 11, 29-38.
  •   経済産業省 (2017).今後の基準認証の在り方 –ルール形成を通じたグローバル市場の獲得に向けて– 答申(案), http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/sangyougijutsu/kijun_ninsho/pdf/003_02_00.pdf , last accessed on Aug. 27, 2017.
  •   戸谷圭子, 持丸 正明 (2015). 人間中心の企業活動を目指す国際標準化―ISO TC159 "Human Centred Organisation". サービソロジー, 2(1), 44-49.
  •   戸谷圭子 (2016). サービス品質の標準化を検討 ~サービス品質検討委員会. サービソロジー, 3(3), 36-37.
 
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