2018 Volume 5 Issue 1 Pages 1
デザインというと,何を思い浮かべるだろうか.製品? Webページ? メディアコンテンツ? サービス? ビジネスモデル? 経済のサービス化によってデザインの対象は広がり,デザインの基本概念や手法・プロセス・対象範囲が変化した.以下では2000年以降を振り返り, デザイン研究の変容とこれからの展望を示す*1.
デザインの対象は,製品から製品サービスシステム,サービスイノベーションまで広がり,共感・エスノグラフィー等のサービスデザイン手法が開発されている.さらに,公共サービスやサステナブルなシステムのデザインなど組織の境界を超えたコミュニティのデザインが研究されている.
経営学においては,企業の戦略や構造,業界・顧客・従業員の相互作用だけではなく,ビジネスモデルなど企業システムのデザイン研究が行われている.特に起業やイノベーション研究では,オープンイノベーションやソーシャルイノベーションに関する研究が盛んだ.情報技術の進展は企業の境界を曖昧にし,企業に焦点を当てた競争理論から価値共創のエコシステムにまで研究領域を広げた.
サービスに焦点を当てた領域では,伝統的なサービスオペレーションや組織のデザイン,情報技術の活用に関する研究が行われていた.近年,顧客・企業・社会との価値共創をサービスシステムとして捉えるサービスデザインや,サービスイノベーションにおける顧客・企業・サプライヤーの相互作用から経営戦略まで議論されている.
経営学では,企業に焦点をあてた半閉システムから,顧客やパートナーを含むサービスシステムへ対象領域が拡張された.そこでは経済的価値が重視されてきた.
一方,デザイン学では,製品のデザインからサービスや,社会的価値を重視する公共サービスへとデザインの対象が広がった.近年,コミュニティの組織化や経営的視点が焦点となり,エンジニアリング主体のデザイン手法の限界が言及されている.
サービス学は,企業と顧客の相互作用であったサービスを,多様なアクターからなるサービスシステムとして捉え,Service-Dominant Logic*2による顧客との価値共創を起点として既存システムを再構築する.サービス学は,これら経営学およびデザイン学の両方向の動きを推し進めるための基礎となる.今後一層の実務者や経営・デザイン・サービス研究者の協業が望まれる.
これらの領域が融合することによって創られるサービスデザインは,人間中心視点から技術や既存システムを捉え直す.そして,新しいサービスシステムを創出し,経済的価値だけではなく社会的価値をもたらす既存の枠組みを超えたサービスシステムを創造する.新たなデザインの役割であるサービスデザインのこれからの発展に期待する.
名古屋商科大学大学院ビジネススクール教授