Serviceology
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Tamio Arai
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2018 Volume 5 Issue 2 Pages 46-47

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1. はじめに

日本学術会議経営学委員会・総合工学委員会に属するサービス学分科会(第24期委員長 新井民夫)は,2015年秋よりサービス学を大学教育に導入するには,参照基準を制定することが望ましいとの認識に立ち,参照基準策定小委員会(委員長 西尾チヅル)を設置して,策定作業を進めてきた.長期に亘る討議と文章作成の努力の末,2017年9月8日に「報告 大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準 サービス学分野」(以下,サービス学の参照基準と略記)が公表された(日本学術会議 2017).

この参照基準は,サービス学を学ぶことで得られる知を中心に,学士課程においてサービス学科の意義を明らかにしており,今後のサービス関連の学科設置,学科経営の柱となる.詳細は既報(戸谷2018)を参照されたい.

そこで本OSにおいては,参照基準制定の経緯,その内容と意図の説明を行い,サービス学関連の教育を実施している大学教員からの報告を受け,今後のサービス学教育の姿を探った.

2. オーガナイズドセッションの構成

オーガナイズドセッション『「サービス学の参照基準」制定報告とその活用』はサービス学会国内大会の第2日,2018年3月11日15:10から90分間の構成で,5つの講演を実施した.参照基準報告という聞きなれない用語のOSのため,参加者が少ないのではないかと心配したが,今大会からはOSの事前説明(サービス学会 2018)を学会ホームページ上に流してくれるなどの効果もあり,多数の聴講者が会場に詰め掛け,オーガナイザとしては一安心であった.

以下,それぞれの講演内容を簡単に紹介する.

  • (1)サービス学の参照基準制定報告

    新井民夫 東京大学名誉教授,サービス学分科会前委員長

オーガナイザである新井が司会を担当しつつ,サービス学の参照基準が制定されたことと,このOSの目的を簡単に紹介した.

  • (2)「サービス学の参照基準」の目的と内容

    西尾チヅル 筑波大学教授,サービス学の参照基準策定小委員会委員長

日本学術会議による参照基準制定の経緯から始まり,委員会ならびに小委員会のメンバー紹介,サービス学参照基準作成の意図,分野別質保証の考え方を説明した後,参照基準の目次に従い,構成を説明した.経済のサービス化に伴い,従来の製造業を中心に組み立てられてきた経営学や工学等との接続性を重視しながら,サービスに関する総合的な学問体系であるサービス学のあり方について紹介した.

  • (3)千葉商科大学サービス創造学部における教育体系

    吉田優治 千葉商科大学教授,前学部長

吉田教授は千葉商科大学にサービス創造学部を設置した時以来,学部長としてサービス企業との連携を深めながら,「企業から学ぶ,学問から学ぶ,活動から学ぶ」という「3つの学び」のスパイラルを回して,高い倫理観と専門的な知識・技能を身につけた卒業生を社会に送り出してきた.その苦労話はサービス関連企業との相互理解のための努力から,学内での教育課程構築にまで及び,新しい概念で教育を進めていくことの難しさと楽しさとを感じさせた.

サービスを学部教育の中心に据えている学部はまだ殆どなく,千葉商科大学サービス創造学部の活動は今後の良き事例になると思われる.

  • (4)京都大学におけるサービス学教育のカリキュラム構成:大学院教育の事例とその発展の歴史

    原良憲 京都大学教授

大学院教育におけるサービス学の一例として,文理融合型サービス価値創造カリキュラム開発と,その教育プログラム実施について紹介した.本プログラムは,サービスに関する高度な知識と専門性を有すると共に,サービス生産性の向上やイノベーションの創出に寄与しうる資質をもった人材の育成を目指すものである.今後は,海外大学との国際連携を含め,ホスピタリティに造詣の深いグローバル人材育成へと展開する.

  • (5)経営学系大学院教育におけるサービス学のカリキュラム.加えて,サービス学会の役割

    山本昭二 関西学院大学教授,サービス学会会長

サービス学が確立してその成果が必要とされるためには,学部教育と大学院教育において教育指針の確立と教材の整備が必要となる.学部においては研究分野を横断するような内容のものが必要であり,特定の産業に拘らない一般的な内容が必要である.

大学院においては,現在は経営大学院等でカリキュラムが展開されているが,学習内容に応じた各分野向けのカリキュラムが必要となる.組織の経営や市場との連携に関する知識は,どのような分野においても必要であるが,それだけではなく,各分野の提供するサービスの設計,オペレーションの管理といった具体的な問題への貢献が望まれる.

3. おわりに

サービス業に従事する人の割合が70%を越えた現在,サービスに関する諸現象を陽に教育することが求められている.そのために,サービス学の参照基準が制定されたが,実際の教育現場にて議論してもらうには周知活動ならびに事例を集めた具体化が求められる.

この種の活動はトップダウンに情報を流すことも必要と考え,文部科学省高等教育局専門教育課を尋ね,報告した.その結果が,専門教育課長 松永賢誕氏による国内大会での講演である.本基準を紹介していただくと共に,サービス学会の活動を理解してもらえたことと思う.

すぐにサービス学を謳う学科設置は少ないかもしれないが,学部における共通科目,あるいは大学院における副専攻の検討が急速に増加するであろう.その場合に,このサービス学の参照基準が利用されることを強く希望する.

 謝辞

本OSは「サービス学の参照基準」策定の日本学術会議サービス学分科会ならびに参照基準策定小委員会で開催を担当した.西尾チヅル(筑波大学),山本昭二(関西学院大学),戸谷圭子(明治大学),鈴木久敏(情報・システム研究機構)の諸氏が協力した.素晴らしい講演を頂いた吉田優治氏(千葉商科大学),原良憲氏(京都大学)にはこの場を借りて深く感謝する.

著者紹介

  • 新井 民夫

東京大学名誉教授,国際廃炉研究開発機構 副理事長.1977年東京大学工学部教授,2012年名誉教授.ロボット工学,生産システム,ならびにサービス工学の研究者.2008~10年精密工学会会長.2012年サービス学会を設立,初代会長.

参考文献
 
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