Pediatric Otorhinolaryngology Japan
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Original Article
Clinical study of 41 cases of unilateral hearing loss in children
Masako KitanoNari OharaSatoko UsuiKazuhiko Takeuchi
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2024 Volume 45 Issue 1 Pages 33-37

Details
Abstract

小児の一側性難聴は,旧来は健診などで初めて難聴の指摘を受けるケースも多かったが,新生児聴覚スクリーニング(NHS)により早期診断が可能となり,またNHSは難聴が先天性かどうかの診断にも寄与する.

当科における一側性難聴児41例を対象とし,初診の時期・理由,難聴の程度・原因,NHSとの関係について検討した.3/4は生後3ヵ月以内で初診し,そのほとんどの理由がNHSであった.NHSは全体の83%が受検していた.

難聴原因の73%は内耳,中耳,外耳の先天性形態異常で,全体の85%は先天性難聴であった.この差12%はNHSによって先天性難聴と診断ができたと考えられた.先天性形態異常の中でも蝸牛神経管狭窄が最多であった.また一側性重度難聴は過半数を超えており,これらの原因検索には先天性サイトメガロウイルス感染症(CCMVI)の確認と内耳の先天性形態異常の精査が有用と考えられた.

Translated Abstract

Unilateral hearing loss in children used to be diagnosed for the first time in many cases during medical examinations, but newborn hearing screening (NHS) has made it possible to diagnose hearing loss at an early stage. NHS also contributes to the diagnosis of congenital hearing loss.

In this study, 41 children with unilateral hearing loss were surveyed regarding age at first visit, reason for hearing loss, degree and cause of hearing loss, and the involvement of NHS in diagnose. Three-quarters of all the children were first diagnosed within 3 months of birth, and most of them were diagnosed by NHS. 83% of all the children were diagnosed by NHS.

Congenital malformations of the inner, middle or external ear were the cause of hearing loss in 73% of all, and 85% of all cases were congenital hearing loss. This 12% of this difference was thought to be due to the ability of the NHS to diagnose congenital hearing loss. Cochlear canal stenosis was the most common congenital malformation. More than half of the children have unilateral severe hearing loss, and it was thought that confirmation of congenital cytomegalovirus infection (CCMVI) and precise examination of inner ear malformations would be useful in searching for the cause of unilateral sever hearing loss.

はじめに

小児の一側性難聴は,日常生活や言語発達から障害を疑うことが難しいことから旧来は就学前健診や学校健診などで初めて難聴の指摘を受けるケースも多かった.しかし新生児聴覚スクリーニング(NHS)により一側性難聴は早期診断が可能となった.そして新生児期に検査を行うNHSは,難聴が先天性かどうかの診断にも寄与する.当科における近年の一側性難聴児の傾向とNHSとの関係について報告する.

対象と方法

2011年1月~2021年12月に当科を初診し,小児難聴外来にて1年間以上経過をみた一側性難聴児41例(男児19例,女児22例)を対象とし,カルテ記録から後方視的に検討した.初診の時期・理由,難聴の程度・原因,またNHSとの関係について検討した.

低年齢時には,聴性脳幹反応(ABR)と聴性定常反応(ASSR),歪成分耳音響反射(DPOAE)での評価を実施しているが,最終的な一側性難聴の診断は,純音聴力検査・Barr法による左右別の遊戯聴力検査の4分法平均を基本とし,それらが行えない場合には,ASSR・DPOAE・聴性行動反応(BOA)・条件詮索反応(COR)・peep showによる遊戯聴力検査を加味しながら,ABRV波閾値で判定した.なお,一側性難聴の基準は,良聴耳を30 dB以下とし,難聴耳の難聴程度は31 dB以上40 dB未満を軽度難聴,40 dB以上70 dB未満を中等度難聴,70 dB以上90 dB未満を高度難聴,90 dB以上を重度難聴とした.

41例中CT評価例は38例,CT未評価例3例である.蝸牛神経管径1.5 mm以下を「蝸牛神経管狭窄」,内耳道3 mm以下を「内耳道狭窄」とした.

本研究は当施設の倫理審査委員会で承認を受けている(承認番号:H2020-153).

結果

初診時の月齢は0ヵ月~82ヵ月(平均8.4ヵ月,中央値2ヵ月)であった.初診時月齢と,各月齢でのNHSが初診理由であった症例の分布を図1に示す.全体の3/4は生後3ヵ月以内に初診し,そのほとんどの初診理由はNHSであった.NHSが受診契機であった症例は,全例生後3ヵ月までに初診していた.最終受診時の年齢は1歳~11歳(平均5.9歳,中央値6歳)であった.患側は右29例,左12例であった.

図1 初診時月齢とNHS

全体の3/4は生後3ヵ月以内に初診し,そのほとんどの初診理由はNHSであった.生後4ヵ月以降ではNHSを契機とした受診はなかった.

初診の理由は,NHS 28例,小耳症5例,合併疾患のため3例,先天性サイトメガロウイルス感染症(CCMVI)2例,健診2例,自身の訴え1例であった(表1).初診の理由ではないもののNHSを受検していた6例と合わせると,全体の83%(34例)がNHSを受検しており,受検について未確認あるいは不明が5例,未受検が2例であった.またNHSでの使用機器は,自動ABR27例,OAE2例,不明5例であった.NHSを受検した34例のrefer側と最終的に診断された難聴側について検証すると,NHS refer側が患側と一致していたのが29例(85%),両側passが3例,両側referが2例であった.両側passであった理由は,1例は悪性症候群罹患による後天性難聴の発症,1例はCCMVIによる遅発性難聴,1例は2000 Hz中心にdipがある軽度難聴であるためNHSをpassしたか,あるいは後天性難聴と考えられた.両側referであった理由は,1例は外耳道狭窄の改善,1例は髄鞘化遅延による一側の難聴が改善したと考えられた.

表1 初診の理由

NHS 一側refer 26例
NHS 両側refer 2例
小耳症 5例
合併疾患のため 3例
CCMVI* 2例
健診 2例
自身の訴え 1例

* CCMVI(Congenital cytomegalovirus infection)

難聴の程度は,重度23例,高度7例,中等度6例,軽度5例であった(図2).難聴の診断方法は,純音聴力検査24例,遊戯聴力検査(Barr法)5例,ABR12例であった.

図2 難聴の程度

過半数は重度難聴であった.

CT評価を行った38例の撮影時期は,初診から数ヵ月以内が37例,10歳時が1例であった.CT評価時点での異常所見の内訳は(重複含む),蝸牛神経管狭窄19例,内耳道狭窄8例,蝸牛奇形2例,嚢状外側半規管2例(患側1例,健側1例),両側外側半規管形成不全1例,外耳道骨性閉鎖5例,外耳道軟性閉鎖あるいは狭窄3例,中耳奇形6例,中耳軟部陰影(患側8例・健側7例),異常所見なし10例であった.患側に中耳軟部陰影を認めた8例について,2例は外耳道の閉鎖・狭窄のため最終的な中耳軟部陰影の治癒の有無は不明,5例は鼓膜所見より中耳炎の治癒を確認,1例はDPOAEをpassする中枢性の重度難聴であることから中耳軟部陰影は難聴の原因ではないと考えられた.健側に中耳軟部陰影を認めた7例について,6例は鼓膜所見より中耳炎の治癒と難聴がないこと・あるいは難聴の治癒を確認し,1例はABR・ASSR・DPOAEで異常を認めないことから難聴の原因ではないと考えられた.

難聴原因精査については,CT評価は38例(3例は未評価),CCMVIの確認は10例(31例は未確認)であり,難聴遺伝子の精査は行っていなかった.そのため,今回の検討での難聴原因については上記の未評価を含んだ上での結果である.難聴原因の最多は蝸牛神経管狭窄19例で,このうち7例に内耳道狭窄を合併していた.蝸牛神経管狭窄を伴わない内耳道狭窄例はなかった.蝸牛神経管狭窄に続いて多い原因は順に外耳奇形8例(うち5例に中耳奇形合併),CCMVI 3例,蝸牛奇形2例,中耳奇形単独1例,中枢性1例で,原因不明は7例(5例はCT異常なし,2例はCT未評価)であった.先天性形態異常(蝸牛神経管狭窄,外耳奇形,蝸牛奇形,中耳奇形)は30例あり,難聴の原因の73%を占めていた.先天性形態異常の30例の難聴は先天性であり,これにNHS referであった5例(CCMVIによる先天性難聴1例と原因不明の先天性難聴4例)を加えた35例(85%)が先天性の一側性難聴と考えられた.後天性難聴と考えられるのは,NHSを両側passしていた2例(悪性症候群1例,CCMVI 1例)である.その他4例はNHS未受検あるいは未確認のため,先天性か後天性かは不明であった.

難聴の程度と原因の関係をみてみると(図3),蝸牛神経管狭窄,CCMVI,蝸牛奇形,中枢性では難聴が高度・重度であった.外耳奇形例の難聴の程度は軽度から高度まで様々であった.外耳・中耳奇形の高度難聴例が感音難聴を合併しているかどうかはまだ確認できていない.

図3 難聴の原因と程度

蝸牛神経管狭窄,CCMVI,蝸牛奇形,中枢性では難聴が高度・重度であった.

考察

三重県では1999年より産科医による私的なNHSが始まり1),その後市町村によるNHSへの公費補助も徐々に拡大してはいるが,三重県でのNHSの公費負担を行っている市町村の割合は,2021年度は58.6%であり全国平均(73.1%)に比べて低い状況ではある.それでも2022年度以降も公費負担実施市町村は増加している.2007年増田ら1)は,一側性難聴児の受診契機は,健診が最多で31.7%,NHSは26.7%であったと報告している.本検討ではNHSが受診契機であったのは68%で,2007年時よりさらにNHSの普及が拡大したことを反映した結果と考える.生後3ヵ月以内の初診例のうち,NHSが契機であったのは90%を占めていた.逆に生後4ヵ月以降の初診例には,NHSを契機とした症例はなく,NHS後は早期に受診している背景が窺われた.

NHSの受検については,全体の83%(34例)が受検しており,5例が未確認あるいは不明,2例が未受検であった.未受検の2例は,難聴のリスクのある疾患(CCVVI 1例と先天性横隔膜ヘルニア1例)を合併しており,NHSを受検せずに難聴の評価目的に受診した症例であった.一般的にはNHSでの難聴スクリーニングが望ましいが,難聴リスクのある併存疾患がある場合,NHSの結果や受検・未受検に関わらず当科ではABR・ASSRを含めた聴覚評価やその後の聴覚管理に努めている.上記のNHS未受検の先天性横隔膜ヘルニア例は,初回ABR・ASSRでは難聴を認めなかったものの,経過観察中に後天性に左低音部の伝音難聴を来した.先天性横隔膜ヘルニアの難聴は,感音難聴で高音域でより顕著であるといわれており2),本検討の一側性の後天性低音部伝音難聴は,先天性横隔膜ヘルニアが原因ではない可能性はある.

また,初診時年齢が6歳であった3症例は(図1),1例は自身で右難聴を訴えて受診した右重度感音難聴例(内耳道および蝸牛神経管狭窄による先天性難聴),2例は健診で難聴を疑われて受診した右軽度感音難聴(2000 Hz中心にdipあり)と左高音漸傾型の中等度感音難聴例で,2例ともにCTでの異常はなく難聴の原因は不明であった.右軽度感音難聴例の右DPOAEは全体評価ではpassであったが,DPOAEでの1500 Hz・2000 Hzでは信号レベルは弱く,同部の軽度難聴を反映していると考えられた.左高音漸傾型中等度感音難聴例は,他覚的検査での精査がなされていなかったため,機能性難聴を完全に否定することはできない.他覚的検査がなされていたなかったことは大きな反省点である.成人例でも機能性難聴の鑑別には他覚的検査が必要であるが,小児ではなお一層機能性難聴に対しての留意は必要であり,比較的容易に実施できるDPOAEは施行すべきであった.

2014年に岡野ら3)はNHS refer例の陽性的中率を79.2%と報告し,高橋ら4)はNHSがOAEメインから自動ABRメインに推移したことで陽性的中率は上昇したと述べており,NHSで自動ABRがどれほど用いられているかも陽性的中率には関与していると思われる.本検討は一側性難聴例からNHS結果を振り返ったものであり,NHS refer例からみた難聴陽性的中率とは主旨が異なるが,本検討でNHS refer側が患側と一致していた陽性的中率は85%であった.本検討でのNHSは,自動ABR27例,OAE2例,不明5例であり,NHSの陽性的中率が高かったのは自動ABRによるNHSが79%と多くを占めていたことに起因しているかもしれない.

本検討では,一側性難聴の73%は先天性形態異常に伴う難聴であり,また85%が先天性難聴であった.内耳,中耳,外耳の先天性形態異常による一側性難聴は,乳幼児期でなくても原因診断は可能であるが,それ以外の先天性一側性難聴はNHSを受けたからこそ精査および診断につながったと考えられ,この差の12%はNHSを受検していなければ,難聴が先天性か後天性かは分からなかった可能性がある.NHSが一側性難聴の病因に及ぼした影響について,Ghogomuら5)は,一側性難聴の原因について,NHS開始前に学童期に判明した難聴は「原因不明の難聴」と診断し,NHS開始後は出生時に判明した難聴は「先天性難聴」と診断した結果,NHS開始前には「原因不明(41%)」が最多であったのに対し,NHS開始後は「先天性(45%)」が最多になったと報告している.NHSの普及は,難聴の早期診断のみならず小児難聴の原因診断にも寄与すると考えられる.つまり,先天性難聴の原因を精査するのか,あるいは後天性難聴も含めてより広く難聴原因を精査するのか,など難聴の診断効率にもHNSは貢献すると考えられる.

小児一側性感音難聴の3/4は先天性難聴で,その2/3に内耳奇形を認め6),小児一側性感音難聴では半数に蝸牛神経管狭窄を認めている7).本検討でも上記の報告とほぼ同様の傾向であり,85%(35例)が先天性難聴で,その60%(21例)に内耳奇形を認めた.内耳奇形のなかでも蝸牛神経管狭窄が最多の原因(46%)であった.また,内耳・中耳・外耳の先天性形態異常が難聴原因の7割を占めており,先天性一側性難聴の原因精査にはCTが有用であると考えられた.

白根ら8)は乳幼児の先天性一側性難聴の難聴程度について,中等度難聴27%,高度難聴30%,重度難聴43%と報告している.本検討で85%を占める先天性一側性難聴35例では,軽度難聴9%,中等度難聴14%,高度難聴20%,重度難聴57%であった.

本検討全体では重度難聴が23例56%を占めており,重度難聴の原因は,内耳奇形,CCMVI,中枢性であった.小児一側性重度難聴では,原因検索としてCCMVIの確認と内耳の先天性形態異常の精査が有用と考えられた.

まとめ

一側性難聴児の受診契機は,28例68%がNHSでこれらの症例はすべて生後3ヵ月以内に初診しており,NHS後は早期に受診している背景が窺われた.また全体では83%がNHSを受検していた.

一側性難聴児の73%は内耳,中耳,外耳の先天性形態異常に伴う難聴で,85%が先天性難聴であった.この差12%はNHSによって先天性難聴と診断ができたと考えられた.NHSの普及は,難聴の早期診断のみならず難聴原因を先天性あるいは後天性難聴にターゲットを絞って精査できるなど,難聴の診断効率にも貢献すると考えられる.

内耳・中耳・外耳の先天性形態異常が小児一側性難聴原因の7割を占めており,中でも蝸牛神経管狭窄が最多である.また一側性難聴の過半数は重度難聴で,これらの原因検索にはCMMVIの確認と内耳の先天性形態異常の精査が有用である.

利益相反に該当する事項:なし

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