Pediatric Otorhinolaryngology Japan
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Original Article
The adverse event of using sedation for ABR and ASSR
Tomoko Esaki
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2024 Volume 45 Issue 2 Pages 145-148

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Abstract

低月齢における聴力レベルの測定には聴性脳幹反応(ABR)/聴性定常反応(ASSR)を用いるが,安定した検査を行うためには鎮静剤を使用した入眠が必要である.しかし,副作用のない薬剤もリスクのない鎮静もなく,呼吸抑制や徐脈に注意が必要である.トリクロホスナトリウムの内服で鎮静を行い,外来で検査を施行した0歳児251例を検討した.42例(16.7%)に呼吸抑制をきたし,発生時間は半数以上が入眠直後から15分以内であり,上気道開通性が影響していると考えられた.30分以上経過後の発生を1割程度認め,検査終了まで深鎮静へ移行する危険性を考えて対応する必要がある.リスクのない鎮静はないという意識のもとに呼吸抑制が起こる背景を考えた対応と情報共有を行うことが有効である.

Translated Abstract

The auditory brainstem response (ABR)/auditory steady-state response (ASSR) is used to measure hearing levels in infants. However, to perform stable tests, the infant should be put to sleep using a sedation. There are no drugs without side effects or sedation without risks; hence, care must be provided to avoid respiratory depression and cardiac arrest. We studied 251 cases of infants who were sedated using oral triclofos sodium and underwent outpatient examinations. Respiratory depression occurred in 42 patients (16.7%), of which >50% occurred within 15 min of falling asleep, suggesting that upper airway patency was affected,and approximately 10% occurred after ≥30 min. Therefore, measures must be conducted considering the risk of transitioning to deep sedation until the end of the examination. Information should be shared,considering the background of respiratory depression, with the awareness that there is no risk-free sedation.

はじめに

低月齢における聴力レベルの測定には聴性脳幹反応(ABR)/聴性定常反応(ASSR)を用いるが,安定した検査を行うためには睡眠導入剤を使用した入眠が必要である.鎮静は自然睡眠と異なるため,呼吸抑制,徐脈など有害事象をきたす可能性を忘れてはならない1).医療安全に役立てる目的で,ABR/ASSR検査時に鎮静剤を使用し有害事象をきたした症例についてカルテを後方視的に調査し,検討した.

対象及び方法

対象は2021年1月から2022年12月に当センター外来で鎮静剤を用いてABR/ASSRを行った336例のうち0歳児251例を対象とした.鎮静剤はトリクロホスナトリウム(0.6~0.8 ml/kg)を使用した.なお,3ヶ月齢未満,呼吸器装着例の鎮静は入院下で検査を施行するため今回の検討から除外した.心疾患を有する児は血中酸素飽和度(SpO2)に問題がなく,当院循環器医師が通常通りの鎮静対応で可能と判断した症例を対象とした.

経口摂取は鎮静剤内服2時間前まで,途中で寝かせないため大人2人の付き添いで来院するよう説明を行った.当日は診察,体重・SpO2・心拍数の測定,鎮静剤の使用量を決定・内服,寝かしつけの順序で行った.検査終了後は覚醒を確認し,看護師の立ち合いのもとで授乳・飲水を行い,院内で1時間の経過観察,基準(表1)を満たせば帰宅とした.呼吸抑制は①呼吸回数②酸素飽和度③動脈血二酸化炭素分圧のいずれかを指標とすることが多いが文献によって異なる.パラメーターには最も一般的に利用可能なモニターであるパルスオキシメトリを用い,SpO2 95%,心拍数70以下をコールラインとし,数値を下回る状態が発生し,対応を行なったことで改善した例を有害事象例とした.

表1 帰宅基準(1歳未満の場面)

1.バイタルサインに異常を認めない(検査前に値に戻っている)

2.意識状態が鎮静を行う前の状態に戻っている

3.努力呼吸や異常呼吸音を認めず,呼吸状態が安定している

4.酸素投与や吸引などの処置を必要としない

5.飲水ができ,嘔吐しない

6.自宅に監視を続けられる保護者が確保できている

7.保護者に帰宅時の説明,指導を行うことができている

8.帰宅後,児に異常が発生した際の連絡方法が確認できている

統計学的検討は,基礎疾患と呼吸抑制の関係はχ二乗検定,検査終了から帰宅までの時間の関係にはMann-Whitney U検定で評価し,p<0.05を有意水準とした.

結果

検査時の月齢は3~11ヶ月(平均5.4ヶ月),基礎疾患を有する児は41例(16.3%)認め,内訳はダウン症候群20例,顔面低形成6例,超低出生体重児5例,染色体異常8例,CHARGE症候群1例,コルネリア症候群1例であった.①内服から検査開始までの時間は15分~1時間35分(平均34分)②検査実施時間は20分~1時間45分(平均45分)③検査終了から帰宅基準を満たした時間は1時間~2時間34分(平均1時間26分)であった.有害事象は呼吸抑制を42例(16.7%)に認め(図1),徐脈による対応は認めなかった.

図1 検査時月齢

呼吸抑制群のうち基礎疾患を有した児は21例(50.0%)であり,呼吸非抑制群と比べて有意に高かった(表2).発生時間は入眠直後が最も多く19例(45.2%),次に15分以内10例(23.8%),16分以上30分以内8例(19.0%),31分以上5例(11.9%)であった(図2).対応は肩枕,頭位ポジショニングなど体位変換16例(38.1%),酸素投与12例(28.6%),体位変換と酸素投与14例(33.3%)を行った(図3).全例で速やかに改善を認め,検査の中止は生じなかった.検査終了から帰宅基準を満たした時間は呼吸抑制群が1時間~2時間25分(平均1時間21分),呼吸非抑制群が1時間~2時間34分(平均1時間31分),呼吸非抑制群が有意に長かった.なお,多剤併用,追加投与はリスクが高まる2)ため,内服後30分経過しても必要な鎮静が得られない場合には,保護者へ説明の上,普段の1/3~1/2程度のミルク・授乳をすることで入眠を図って対応した.

表2 基礎疾患と呼吸抑制

基礎疾患
呼吸抑制 21 21 42
20 189 209
41 210 251

p<0.05

図2 呼吸抑制が発生した時間
図3 呼吸抑制に対する対応

考察

呼吸抑制とは動脈血炭酸ガス分圧(PaCO2)の上昇や動脈血酸素分圧PaO2の低下に対して十分な換気が行われていない状態をいう.鎮静下は呼吸中枢もしくは,呼吸筋・気道など末梢による呼吸抑制が起きやすい状態であり,「酸素化」と「換気」が適切に行われているかモニタリングする必要がある.カプノモニターが換気の状態を検出する機器であるが,手術室以外での普及は限定的である.最も一般的に用いられるモニタリング機器はパルスオキシメーターであるが,「酸素化」のモニタリングであり「換気」のモニタリングではない3).換気不十分の結果生じる低酸素をパルスオキシメーターでモニターしていたのでは対応が遅れる危険がある.したがって当院ではコールラインを下回った時点で医師もしくは看護師が児の呼吸状態を確認し,対応の必要性を判断する体制を取っている.鎮静中は意識の低下により神経反射の働きが弱まり上気道の形態的因子に依存するようになる.検査中は仰臥位をとるが,舌と咽頭部軟組織が背側へ偏位するため,上気道閉塞を悪化させる.特に乳児では大きな舌が口腔内の容積を占めており上気道狭窄をきたしやすい.さらに胸郭を保持する呼吸筋の発達が未熟であるため,上気道狭窄による陰圧がかかると容易に陥没呼吸になる4).発生時間は入眠直後から15分以内が半数以上を占めており,上気道開通性が安定しないためと考えられる.

鎮静は最小鎮静(気道,自発呼吸,心血管機能に影響せず,呼びかけに正常に反応するレベル)から中等度鎮静(呼びかけ,触刺激で合目的的に反応し,気道確保の介入が不要で自発呼吸,心血管機能が通常は維持されるレベル)以内で行うことが理想的だが,鎮静レベルの境界は曖昧で,その深さは“一連のもの”であり,深鎮静(意識消失と生体防御反射の抑制を伴うレベル)へ移行する危険性がある5)表3).内服から30分以上経過後の呼吸抑制例を1割程度認め,深鎮静へ移行した可能性がある.経口投与は静脈内投与と比べ血中濃度がピークに達するまでの時間,ピークアウトする時間がはるかに長く6),検査終了後も帰宅基準を達するまで監視が必要である.呼吸抑制群は上気道開通性による例が多かったため,非抑制群と比べ帰宅までの時間が長くなることがなかったと考えられる.

表3 鎮静と全身麻酔の分類と定義(安全な鎮静のためのプラクティカルガイドより抜粋)

最小鎮静 中等度鎮静 深鎮静 全身麻酔
反応性 呼びかけに正常に反応する 呼びかけ,接触刺激で合目的的に反応 繰り返し,有痛性刺激後合目的的に反応 有痛刺激で未覚醒
気道 影響されない 介入不要 介入必要なことがある しばしば介入必要
自発呼吸(換気) 影響されない 適切 不十分なことがある 頻繁に不十分
心血管機能 影響されない 通常は維持 通常は維持 障害されることがある

Valenzuelaら7)はトリクロホスナトリウム(平均0.52 g/kg)による鎮静でABR検査を行なった697例のうち,重大な事象(無呼吸・徐脈)が3.4%,軽度な事象(嘔吐・低酸素血症・覚醒遅延・頻呼吸)が6.2%発生したと報告している.本邦では,MRI検査時鎮静に対し日本小児科学会研修施設を対象に行われたアンケート調査8)があり,有害事象を経験した施設は25%,低酸素血症22%,呼吸停止7%,徐脈2%,心停止0.6%との報告がある.より安全な鎮静を行うため,日本小児科学会,日本小児麻酔学会,日本小児放射線学会により共同で公表された「MRI検査時の鎮静に関する共同提言」(2013年に作成,2020年に改訂9))には,患者の評価,監視体制,有害事象発生時のバックアップ体制の必要性が示されている.事前に普段の睡眠状態,鎮静下検査歴の問診の他,顔面形態,咽頭所見,基礎疾患,泣いた時の気道狭窄音などから関係者全員で危険度を共有するが,呼吸抑制をきたした半数は基礎疾患がなかった.今回の検討で呼吸抑制は入眠早期におきる上気道開通の関与が大きいと考えられ,あらかじめ頸部を軽度伸展,頭部を後屈させたスニッフィングポジションを取ること10),「リスクのない鎮静はない」という意識の元に早期に介入できる体制を作ることが望ましいと考えられた.

なお,対象期間では低血糖・脱水を避けるため,離乳食を含めた経口摂取を鎮静剤内服2時間前までとしていたが,現在は安全性を高めるため清涼水2時間,母乳4時間,人工乳6時間,軽食8時間前までとしている.

まとめ

トリクロホスナトリウムを用いてABR/ASSRを行った0歳児251例中,有害事象(呼吸抑制)を認めた42例(16.7%)について検討した.発生時間は入眠直後から15分以内が半数以上を占めており,上気道開通性が影響していると考えられた.あらかじめスニッフィングポジションを取り,「どの鎮静剤も危険である」という意識の元に事前の評価,監視体制,有害事象発生時のバックアップ体制を構築することが必要である.

利益相反に該当する事項:なし

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