Pediatric Otorhinolaryngology Japan
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Case Report
A case of tympanic membrane perforation with erosion of the malleus by superabsorbent polymer bead
Jun ShigejiTakeshi FujitaGo InokuchiRie Yasui
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2024 Volume 45 Issue 2 Pages 155-158

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Abstract

吸水性合成樹脂製玩具(水で膨らむボール)は直径数ミリから10数ミリと小さいが,水分に曝されると数倍から数10倍に膨らむ.

症例は5歳の女児.右耳痛を主訴に近医耳鼻咽喉科を受診.中耳炎として加療をされるも改善せず,当科を紹介受診した.右外耳道入口部に肉芽,その奥には褐色の球形のものが充満していた.母の話から約4か月前に挿入された水で膨らむボールを疑った.1週間後,全身麻酔下に異物を摘出,鼓膜は鼓室側に強く圧排されており後下象限に穿孔を認めた.1年経過後も穿孔は残存,標準純音聴力検査では20.0 dB(3分法)で約10 dBの気骨導差があり聴力改善目的に鼓室形成術を施行した.耳小骨は肉芽で一体化しており,一部は欠損していた.術後,聴力の左右差は消失した.

水で膨らむボールは外耳道に数か月放置されると,鼓膜穿孔や耳小骨破壊を生じる危険性があることを周知しておく必要があると考えられた.

Translated Abstract

Super-absorbent polymer (SAP) beads are small, ranging from a few millimeters to more than 10 millimeters in diameter, but they expand as much as 10 times after exposing to fluid.

We report the case of 5-year-old girl with SAP bead as a foreign body in her right ear. Her chief complaint was right ear pain. She was referred to out department from otolaryngology clinic under the tentative diagnosis of refractory acute otitis media. The right external auditory canal was filled with granulation and brown hard material. We obtained the careful history about small toys from her mother and suspected SAP beads which was probably inserted about 4 months ago. The foreign body was removed under general anesthesia one week after the first visit. Tympanic membrane was highly compressed toward the promontory and was accompanied with a perforation in the posterior inferior quadrant.

Tympanoplasty was planned one year after the first surgery for the purpose of closing the perforation of tympanic membrane and improving her hearing as 20.0 dB with 10 dB air-bone gap. During the second surgery, the ossicles was united by scarring and part of them was not observed. Postoperatively her hearing recovered as much as the opposite side.

SAP beads should be informed to be the risk of causing tympanic membrane perforation and ossicular defects when they are left to be in the external auditory canal for months.

はじめに

吸水性合成樹脂製玩具(水で膨らむボール)は直径数ミリから10数ミリと小さいが,水を吸うと数倍から数10倍に膨らむ.カラフルで見て触って楽しむおもちゃで,一般的にはぷよぷよボール,ジェリーボール,water beadsなどと呼ばれて,雑貨店などで販売されていた(図1).2023年に店頭での販売が禁止された後も,引き続きインターネット上では販売されている.

図1 吸水性合成樹脂製玩具(水で膨らむボール)

類似品.水に浸すと約6倍に膨らんだ.

今回われわれは,外耳道内に水で膨らむボールが入り,長期間放置されたために徐々に膨らみ,鼓膜穿孔および耳小骨破壊を生じた本邦初の症例を経験したので報告する.

症例

症例:5歳女児

主訴:右耳痛

既往歴・生育歴:特記なし

現病歴:数日前からの右耳痛を主訴に近医耳鼻咽喉科を受診した.発熱はなかったが鼓膜が中耳炎のために膨隆していると診断され,抗生剤内服加療および膨隆部を切開されたが右耳痛および膨隆が改善しなかったため,当科紹介受診となった.

初診時現症:右外耳道入口部に肉芽があり(図2 a),肉芽を超えた奥には褐色の球形のものが充満していた(図2 b).側頭骨CT所見では球形の軟部陰影が鼓膜,耳小骨と連続し鼓室側に張り出していたが明らかな耳小骨破壊はなかった(図2 c,d).異物かどうかの判断は難しかったが母への問診で約4か月前に水で膨らむボールを使って兄と遊んでいたことが分かり異物を疑った.外来での処置は困難で,1週間後に全身麻酔下に異物を摘出した.

図2 初診時の右耳内所見(a,b)と側頭骨CT所見(c:水平断 d:冠状断)

a:外耳道入口部に肉芽があった.

b:肉芽を超えた奥には褐色球形のものが充満していた.

c,d:球形の軟部陰影が鼓膜,耳小骨を巻き込み鼓室側に張り出していたが明らかな耳小骨破壊はなかった.

治療経過:顕微鏡下に耳内を観察すると,異物は外耳道に隙間なく充満していた.鼓膜や外耳道との癒着はなかったものの,ゼリー状でもろいため耳用鉗子では少量ずつしか摘出できず,鉗除して吸引除去した.異物除去後鼓膜を観察すると,鼓膜は発赤を伴い浮腫状に肥厚し鼓室側へ圧排され,後下象限に穿孔を認めた.ツチ骨柄は鼓室側に大きく偏位し,またキヌタ・アブミ関節が露出されたが明らかな耳小骨破壊は認めなかった(図3).異物摘出から1年経過後も穿孔は残存,聴力は健側に比べ全音域で約10 dBの気導閾値上昇があり(図4),鼓膜穿孔の閉鎖および聴力改善目的に,経外耳道的内視鏡下に鼓室形成術を施行した.

図3 異物摘出直後の右耳内所見

鼓膜は全体的に鼓室側に強く圧排され,発赤を伴い浮腫状に肥厚しており,後下象限に穿孔を認めた.ツチ骨柄も鼓室側に大きく偏位していた.

図4 異物摘出1年後の右耳内所見と標準純音聴力検査

鼓膜後下象限に穿孔が残存.健側に比べて全音域で約10 dBの閾値上昇を認めた.

手術所見:外耳道内からtympanomeatal flapを挙上した.鼓膜は内陥して岬角と癒着しており,ツチ骨柄先端は欠損していた.キヌタ骨長脚からキヌタ・アブミ関節は肉芽で覆われていたが全体の可動性は良好であったため,round window reflexを確認して耳小骨再建は行わなかった(図5).穿孔周囲の新鮮化の後,耳後部から採取した側頭筋膜を用いてunder layで鼓膜形成術を行った.術後6か月時点で再穿孔はなく聴力検査でも左右差は消失していた(図6).

図5 鼓室形成術 手術所見

ツチ骨柄先端は欠損しており(点線で囲んだ部分),キヌタ骨長脚からキヌタ・アブミ関節は肉芽で覆われていた(*).

図6 鼓室形成術半年後の右耳内所見と標準純音聴力検査

再穿孔はなく聴力検査でも左右差は消失していた.

考察

外耳道異物は日常診療においてよく遭遇する疾患である.外耳道異物のうち小児の割合は40~60%と多く1),小児の場合は,本人が違和感を訴えないことも多いため長期間放置されることがあり,本症例でも診断までに4か月を要した.異物の色調や硬さが炎症を起こした鼓膜に似ており誤認しやすかったとはいえ,急性中耳炎とするには発熱を伴っておらず疑問を持つべきだったと考える.また,小児で難治性の肉芽を伴う外耳炎というのも一般的ではなく2),そのような場合は異物も念頭におき,保護者への問診で,自宅に異物になりそうなものがないかをもう少し早い段階で確認すべきだったと考える.

水で膨らむボールは高吸水性樹脂でできており,直径数ミリから10数ミリと小さいが,水を吸うと数倍から数10倍に膨らむ.本症例では水で膨らむボールが約4か月前に外耳道に入り汗や入浴などで徐々に膨らみ鼓膜は鼓室側へ圧排され,一部阻血に陥り穿孔が生じ,耳小骨は遅発性に破壊されたと考えられる.耳小骨は異物摘出時に明らかな骨破壊は認めなかったが,長期に直接圧迫されておりmicro-traumaが生じていたと考えられる.圧迫解除で耳小骨への血流は再開されたものの,創傷治癒の過程でこのmicro-traumaが骨細胞のアポトーシスを誘発し,骨吸収を引き起こしたと推測される3).我々が渉猟し得た限りでは,水で膨らむボールにより中耳が破壊された本邦での報告はなく,この症例報告が本邦初となる.海外では,耳小骨の破壊に加えて骨迷路の破壊を伴い感音難聴が残存した症例など数例の報告がある4,5).S. Ramgopalらは,水で膨らむボールの外耳道異物症例に特徴的な点として1)水分と接触すると膨張し周囲を破壊する性質がある,2)半透明の外観により鼓膜と区別することが困難な場合がある.3)もろい性質のために摘出が容易ではない,ことを挙げている6).本症例では,すべてが当てはまっているといえる.特に1)は水で膨らむボールの最大の特徴といえる.本症例のように遅発性に耳小骨を破壊する可能性もあり摘出後にも経過観察は必要と考えられる.鼓膜穿孔や耳小骨破壊をきたす異物は他にもボタン型電池,昆虫などの有生異物,膨化する豆類などが挙げられる.しかし過去の報告で小児において鼓膜穿孔を引き起こした例は少ない7,8).小児は外耳道が狭いため異物は入りづらく,異物が外耳道に入ったとしても奥まで入らないからと考える.水で膨らむボールは,これらのものよりはるかに小さく,小児の耳であっても容易に外耳道奥まで入るため鼓膜や耳小骨を損傷するリスクは高いと考えられる.またS. Ramgopalら,柳内らは外耳道異物症例では,早期に異物の素材の特性を把握すべきだと述べている6,9).異物によってはポリビニルアルコール(アクアビーズ®)のように水に触れると周囲に接着して取れにくくなるものもあり9),安易に点耳薬などを使用しないことが重要である.水で膨らむボールによる異物が疑われる症例では点耳薬や耳垢水の使用,耳洗浄は禁忌であり,また何もしなくても時間とともに汗などの体液で膨らむため,早期診断,早期摘出が非常に重要である.

水で膨らむボールは,誤飲により腸閉塞を生じ開腹手術で摘出する症例が数多く報告され,2023年5月に経済産業省より,50%以上膨らむボールの販売が禁止され,店頭で販売されることはなくなった10).しかし,インターネット上では今でも様々な倍率の水で膨らむボールが販売されており,今後も危険性を周知しておく必要があると考えられる.今回は保護者が水で膨らむボールのパッケージングを破棄しており,商品の特定ができず,消費者庁・国民生活センターへの報告はできなかったが,今後は事故があればパッケージングを残しておくことが望ましいと考えられる.保護者は水で膨らむボールを適切に管理し,もし子供が遊んだ後に耳痛を訴えた場合には外耳道異物を疑い早急な耳鼻咽喉科受診が重要である.水で膨らむボールは汗等で膨張するため経時的に鼓膜を圧排し鼓膜穿孔や耳小骨破壊などの中耳損傷をきたす可能性がある.耳痛で受診した小児において鼓膜の同定が困難な症例では外耳道異物を念頭におき,保護者への問診が早期診断に不可欠であると思われた.

まとめ

4歳女児の外耳道内に水で膨らむボールが入り,長期間放置されたために徐々に膨らみ鼓膜穿孔および耳小骨破壊を生じた症例を報告した.水で膨らむボールは水分と接触すると時間経過で周囲を破壊する性質があるため早期診断,早期摘出が非常に重要であると考えられた.

本論文の要旨は,第18回日本小児耳鼻科学会総会・学術講演会にて発表した.

利益相反に該当する事項:なし

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