Pediatric Otorhinolaryngology Japan
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Panel Discussion
Hearing impaired children who appear to be developmentally disabled, and developmentally disabled children who appear to be hearing impaired
Manabu Tanaka
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2024 Volume 45 Issue 2 Pages 74-75

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難聴も,神経発達症(以前は,発達障害と言われた)も,早期発見・早期療育が望ましいとされる.難聴児は新生児聴覚スクリーニング検査の普及,そして補聴器の高性能化や人工内耳の普及により,上記の理念が実現されることが多くなった.

神経発達症児の場合は,どうであろうか.聴力のような数値化された特性ではなく,単一感覚器の問題でもなく,行動・認知の土台をなすモジュールや神経ネットワークの問題とされる.1~2歳代という比較的早期に発見された神経発達症児の大部分は,知的発達症(以前は,知的障害と言われた)と自閉スペクトラム症(ASD)で占められる1).ASDは発達の遅れの有無にかかわらず,声や音を含む周囲の刺激に対する反応に乏しく,対人コミュニケーションが成立しない場面が少なからず認められる.未診断の難聴児においても同様のことが多く,ASDと判断された児の中に,少数ながら難聴が潜んでいた例もいる.

M-CHATという1歳6か月健診あるいは2歳児を対象にした代表的な自閉症チェックリストがある.2009年に発表された改訂版2)では,全部で20個ある質問の2番目に「お子さんの耳が聞こえないのではないかと心配したことがありますか」があり,該当者には聴力検査を受けたことがあるかと聞くことになっている.聴覚に問題がなくても,ASDが聞こえていないように振る舞う主な理由は,注意の転換がうまくいかないことである.注意は,外的・内的環境における感覚信号の中から必要な情報を取捨選択する機能とされる.注意や感覚処理の問題の区別は非常に困難で,この点の理解があってようやく難聴とASDが区別できるようになり,個々の問題点に対して適切なアプローチが可能となる.初期段階で必要なことは,難聴が疑われる児に対して精密聴力検査につなげる見立てを持てるかである.

本シンポジウムでは,小児耳鼻咽喉科医と小児神経科医それぞれの立場からの見立てと背景について述べていただく.

補足

発達障害に関連する診断名がいつの間にか変化したり,それぞれ複数使用されたり,かなり難解な状況になっていることに気づいた読者が少なからずいると考える.大雑把には,医学側での診断概念および用語の見直しが進んでいること,法律や教育における用語が長きにわたり医学的概念や用語とのすり合わせがないままであること,この2つの事情が大きい.現在本邦で診断・分類に使用されているDSM-5-TRおよびICD-11では,従来はdisordersが「障害」と訳されていたものを「症」とすることが,基本方針として示されている3).その背景として,(1)患者中心の医療が行われる中で,病名と用語は患者の理解と納得が得られやすいものであること,(2)差別意識や不快感を生まない名称であること,(3)国民の病気への認知度を高めやすいものであること,とされる4).さらに,カテゴリーの見直しが行われる中で,かつての知的障害がASDやADHDと同じ神経発達の問題として「神経発達症群」の中に組み込まれた.その流れで,Disorders of intellectual development(知的発達症)の名称に至った.

利益相反に該当する事項:なし

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