Pediatric Otorhinolaryngology Japan
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Diversity Promotion Committee Seminar: Work style reform: Answering everyone's questions
Physician’s work style reforms and work-life balance from the perspective of a lawyer
Yuko Araki
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2024 Volume 45 Issue 2 Pages 97-100

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Abstract

2024年4月から医師の働き方改革がスタートしたが,長時間労働を是正し医師の健康を確保しつつ持続可能な医療を提供するという医師の働き方改革の目的の実現及び男女問わずワークライフバランスの取れた働き方を実現するためには,宿日直許可の取得等による数字上の労働時間の削減にとどまらず,実質的に業務の負荷を軽減し,誰もが働きやすい職場環境を作ることが重要である.

その実現のためには,組織と個人の意識改革及び業務改革が必要となる.意識改革においては,医師の健康や生活を犠牲にしても患者の診療を優先するという意識を改めること,性別問わず医師も育児休業等のライフイベントに応じた必要な休暇を取得することに理解を示すということが重要である.また業務改革においては,トップダウン型及びボトムアップ型の取組みの双方が重要であり,医療機関及び診療科の特性に応じた取組みを継続していくことが重要である.

1.はじめに

私は,第19回日本小児耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会において開催されたダイバーシティ推進委員会企画セミナー「働き方改革,みんなの疑問にお答えします」に登壇し,弁護士の立場から医師の働き方改革について講演する貴重な機会を頂いた.

2024年4月から始まった医師の働き方改革について,その現状と,課題について弁護士としての視点から考察したい.

2.医師の働き方改革の背景

(1)病院勤務医の他職種とは一線を画する長時間労働

病院勤務医の労働時間は,他の職種とは一線を画する労働時間である.令和元年医師の勤務実態調査によれば,病院・常勤勤務医の週当たりの勤務時間は,全診療科平均で56時間22分という結果である.更に,平均勤務時間が長い診療科は,外科61時間54分,脳神経外科61時間52分,救急科60時間57分であり,平均勤務時間が相対的に短い診療科は,精神科47時間50分,リハビリテーション科50時間,眼科50時間28分であった.

耳鼻咽喉科の週当たりの勤務時間は,55時間02分であり,全診療科の平均に近い勤務時間であるが,耳鼻鼻咽喉科の病院・常勤勤務医のうち週当たり勤務時間が60時間以上の医師の割合は35.9%であり,医師3人に1人以上の割合で週当たりの勤務時間が60時間を超える実態がある1)

週当たりの労働時間の上限(法定労働時間)は,原則40時間(労働基準法第32条第1項)であり,診療科の中で相対的に労働時間が短い科でも,その平均において法定労働時間は優に超えているのが実情である.

時間外労働年1860時間換算という月に換算すると月155時間相当の時間外労働となる医師の割合は,外科16.7%,脳神経外科16.2%,救急科18.1%と外科系の診療科の長時間労働が顕著であるが,耳鼻咽喉科においても8.1%という少なくない割合の医師が時間外労働年1860時間換算となる状況である1)

このように,特に病院・常勤勤務医の労働時間は,平均で法定労働時間を優に超え,更に,過労死基準の1.5倍から約2倍の極度の長時間労働を行う医師の割合も一定割合存在するという点において他の業界とは一線を画する長時間労働であり,耳鼻咽喉科においても例外ではない.

(2)勤務医の労働環境の特殊性

大学の附属病院に勤務する医師を始め,多くの勤務医が常勤先とは別の医療機関でも勤務をしている.医師個人に対する時間外・休日労働時間の上限規制の適用においては,兼業・副業先の医療機関における労働時間も通算されて計算される(労働基準法38条1項).そのため常勤先での勤務時間と外勤先・アルバイト先での勤務時間の合計が労働の上限の範囲内に収まる必要がある2)

特にいわゆる当直バイトは,拘束時間が長いため,当直勤務が時間外・休日労働の上限の規制の対象となる労働時間に算入されるか否かの影響は非常に大きい.

当直勤務について,労働基準監督署長の宿日直許可(労働基準法第41条3号,労働基準法施行規則第23条)を取得した場合には,宿直勤務となり原則として当直中の全時間が時間外・休日労働の上限規制の対象となる労働時間にはカウントされない.他方で,当直勤務について,宿日直許可を取得していない場合には,当直中の全時間がいわゆる夜勤となり,時間外・休日労働の上限の規制の対象となる労働時間にカウントされる.

そのため,医師の常勤先となる医療機関だけでなく外勤先となる医療機関においても外勤医師の勤務の継続のために宿日直許可の取得が重要となったのである.

3.医師の働き方改革

(1)制度改革の内容

勤務医個人に対する時間外・休日労働の上限となる労働時間は原則年960時間とされ(労働基準法施行規則69条の4・同条の5)(A水準),特例水準(B水準,C水準)の場合でも最長年1860時間に制限が設けられた(読替え省令第1条第1号・第2号,同省令第2条)3)

更に,医師の健康確保のための枠組みとして追加的健康確保措置が定められた.追加的健康確保措置は,①面接指導の実施②就業上の措置③勤務間インターバル・代償休息を内容としている.①面接指導と②就業上の措置については,A水準,B水準及びC水準の全ての水準において法的な義務となる.また,③勤務間インターバル・代償休息については,A水準は努力義務,B・C水準は法的義務と位置付けられている3,4)

(2)意識改革の必要性

ア 従前の意識

医師の世界では,医学部生の頃から,例え夜間や休日であっても,自分の患者は責任をもってその診療全般を受け持つのが当然であると教えられてきたのではないか.また,長時間働ける人が偉いという価値観の下,日勤・当直・日勤という連続36時間を超える長時間労働や夜間休日のオンコールも当然のこととして長年行われてきたと考えられる.

また,医療業界特有の事情として,医師については外勤・アルバイト勤務の方が常勤の病院よりも時間単価が高い傾向にあるという事情があるため,常勤先の病院で厳密に時間外労働を申告して外勤・アルバイト勤務に行く時間が減ると収入面で困るという事情もあり,常勤先での勤務に外勤先の勤務が加わるという形での長時間労働を助長してきた.更に,育児休業取得については,とりわけ男性医師が育児休業を取得することは,有り得ないという認識も根強いと思われる.

イ 目指す意識

一般社団法人日本救急医学会が「医師の働き方改革」に対するステートメントとして「人を救うには,まず自分が健康でなければならない.」ということを掲げている5)

根強く残っている医師の健康を犠牲にしても休日・夜間問わず患者のために働くことが当然という意識を改める必要がある.更に,文部科学省の調査によれば,令和5年度の医学部入学者における女性の割合が40.2%となり初めて40%を超えたとのことである6).研修医や専攻医における女性医師の割合が4割を超えるのも時間の問題であり,妊娠出産及び育児等のライフイベントに伴う離職を減らすためにも産前産後休暇及び男女問わず育児休業の取得ができる環境整備は勿論のこと,医師の産前産後休業や育児休業を当然のこととして受け入れる職場の意識改革も求められる.

(3)業務改革の必要性

ア 医師の働き方改革の現状と課題

2024年4月に医師の働き方改革が始まり,本原稿執筆時点で約半年となるが,勤務医の方々からは労働時間が削減された,勤怠管理がされるようになり時間外手当が支払われるようになったという改革の声を聞く一方で,宿日直許可の取得や自己研鑽扱いにより数字上の労働時間は減ったが実態の忙しさは変わらないという声も多い.

実際に働き方改革に合わせて宿日直許可の取得件数が急増しており,2020年は144件であったのが,2022年は1369件,2023年は5173件と2023年においては2020年の約36倍にまで増えている7)図1).

図1 医師の宿日直許可件数(年別)(全国)

厚生労働省:医療機関の宿日直許可に関するFAQ(2024年8月6日ver.)https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001292653.pdf(2024年9月15日閲覧)参考資料「労働基準監督署における医師の宿日直許可の許可件数の推移(全国)」をもとに作成

医師の働き方改革は,医師の過重労働を防止してその健康を確保することも重要な目的の一つである.宿日直許可は,常態としてほとんど労働をする必要のないことが必要であり,医師・看護師の場合は特殊の措置を必要としない短時間の業務に限られ,宿直の場合は夜間に十分睡眠がとり得ることを要する8,9)

もちろん,宿日直許可を得た当直の実態がその取得後も宿日直許可の基準を満たしていれば問題無いが,当直の実態が忙しい当直であれば,過重労働を防止するという医師の働き方改革の目的が達成されない.働き方改革の制度を遵守することはもちろん,働き方改革の目的を達成するために実態を伴った改革が必要である.

そのためには,業務改革を進める必要がある.

イ 業務改革

医師の業務は専門性が高く,患者の治療方針の決定等,その業務の裁量が大きいため,業務改革も現場に一任されがちである.

しかしながら,働き方改革は,経営陣による取組み(トップダウン型による取組み)と各診療科及び勤務医個人の取組み(ボトムアップ型による取組み)が相互に作用することが重要である(図2).

図2 業務改革におけるトップダウン型及びボトムアップ型の取組みのイメージ

まず,経営陣にとって何より重要なのは法令遵守である.労働基準法違反に違反した場合,行為者や法人が刑事罰を問われることもある(労働基準法117条ないし121条).

更に,長時間労働を防止するためには勤務医の労働時間を客観的に把握することが必要であり,勤怠管理システムの整備は経営陣が行う必要がある.更に,人員の確保やタスクシフトについても今後の採用計画,職務分担含めて病院全体の運営に関わることであるから経営陣が主導しなければ実現できない.

加えて,各診療科及び各医師個人における働き方改革への取り組みも重要である.各診療科においては,診療科のトップが率先して,何の業務にどの程度の時間を要しているのか業務の洗い出しが有効である.

業務改革の事例として,長崎大学病院の麻酔科及び救命センターで実施された業務改革の事例を紹介する.

麻酔科については,麻酔科の特性として手術の状況により予定が変わるため麻酔科の裁量で動かせる時間が少ないという制約があったが,麻酔準備のヘルプの有無をウェブで可視化することにより,手術担当でなくても手が空いている人が手伝うように仕組化したところ,1時間以上かかることもあった麻酔準備を30分ほどに短縮できたとのことである10)

また,救命センターでは,救急車やドクターヘリ等の対応件数が年々増え業務負担が増加していたが,業務を分析したところ,患者の容体や治療方法等に関する情報を引き継ぐ「申し送り時間」が本質的な治療等の時間を圧迫していた.申し送りを述べた後にまとめて質疑応答を実施する形に変更し,更に教授自ら患者あたりの申し送り時間を計測したところ,患者受け入れ初日の「申し送り時間」が25%短縮,初日以外の「申し送り時間」は15%減少し,申し送りにかかわる総時間は約30%減少したとのことである10)

4.まとめ

2024年4月から医師の働き方改革が始まったが,長時間労働を是正し医師の健康を確保しつつ持続可能な医療を提供するという医師の働き方改革の目的の実現のためには,組織及び個人の意識改革と業務改革は必須であり,これからの取組みが重要である.特に,業務改革については医療機関や診療科毎に課題や解決策が異なるため,各職場における取組みが重要である.取組みにあたっては,先駆けて働き方改革を実施した医療機関の例も参考になると考える.

利益相反に該当する事項:なし

文献
  • 1)  厚生労働省:「医師の勤務実態について」第9回医師の働き方改革の推進に関する検討会.令和2年9月30日 参考資料3
  • 2)  令和2年9月1日付け基発0901第3号「副業・兼業の場合における労働時間管理に係る労働基準法第38条第1項の解釈等について」
  • 3)  令和4年12月26日付け基発1226第7号「労働基準法施行規則の一部を改正する省令等の施行について」
  • 4)  医療法第百二十八条の規定により読み替えて適用する労働基準法第百四十一条第二項の厚生労働省令で定める時間等を定める省令(読替え省令)
  • 5)  日本救急医学会:日本救急医学会「医師の働き方改革」に対するステートメント:https://www.jaam.jp/info/2019/info-20190722.html(2024.9.11閲覧)
  • 6)  文部科学省:学校基本調査/令和5年度 高等教育機関 学校調査 学校調査票(大学・大学院)15 関係学科別 大学入学状況(3-1)
  • 7)  厚生労働省:医療機関の宿日直許可に関するFAQ(2024年8月6日ver.)https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001292653.pdf(2024年9月11日閲覧)
  • 8)  昭和22年9月13日付発基第17号.
  • 9)  令和元年7月1日基発0701第8号.
  • 10)  株式会社ワークライフバランス:2021年度病院の働き方改革シンポジウム―長崎大学病院の先進的な取り組み事例―.https://medical.work-life-b.co.jp/symposium/event-nagasaki2022/(2024年9月15日閲覧)
 
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