Pediatric Otorhinolaryngology Japan
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Case Reports
A difficult-to-diagnose pediatric case of lymphoepithelial sialadenitis of the parotid gland
Naoko ImaiNodoka AdachiSatoshi Asanuma
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2025 Volume 46 Issue 1 Pages 30-36

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Abstract

リンパ上皮性唾液腺炎は主に成人にみられ,小児では非常に稀な慢性の耳下腺腫脹をきたす疾患である.今回我々は原因不明の膿瘍形成,耳下腺腫脹の反復を繰り返し,抗菌薬の単独投与が無効であったが,副腎皮質ステロイド投与が効果的であったことから好酸球性耳下腺炎を疑ったものの,組織学的検査の結果,リンパ上皮性唾液腺炎と診断された9歳男児を経験した.当科初診時には右側耳下腺の腫脹を認めたが,ステノン管からの細胞診では好酸球は陰性であり,確定診断のため耳下腺生検を施行したところ,リンパ上皮性唾液腺炎の診断となった.リンパ上皮性唾液腺炎は良性疾患と考えられているが,悪性転化を起こすという報告もあり,非典型的な耳下腺腫脹や耳下腺炎においてはためらわずに組織診断を行うことが望ましいと考えられた.

Translated Abstract

Lymphoepithelial sialadenitis is a rare disease characterized by chronic swelling of the parotid gland. Herein, we describe a case of a 9-year-old boy with recurrent parotiditis that was diagnosed as lymphoepithelial sialadenitis via tissue biopsy.

Antibiotics were ineffective, but steroid treatment successfully alleviated glandular inflammation. We considered eosinophilic parotiditis as a differential diagnosis; however, secretion analysis of the parotid gland revealed no eosinophils. A definitive diagnosis of lymphoepithelial sialadenitis was achieved through tissue biopsy that revealed lymphoid cell infiltration of the parotid gland, glandular parenchymal atrophy, and epimyoepithelial island formation in the gland duct. Following the biopsy, the patient remained free of parotiditis and glandular swelling for 8 months.

Lymphoepithelial sialadenitis is exceedingly rare in children and presents diagnostic challenges, as clinical course, imaging studies, and blood tests often prove inconclusive. While lymphoepithelial sialadenitis is generally considered benign, malignant transformation has been reported. Therefore, when encountering cases of atypical parotiditis or swelling of the parotid glands, prompt tissue biopsy is important for accurate diagnosis and appropriate management.

はじめに

小児における耳下腺炎は流行性耳下腺炎(ムンプス)または細菌性耳下腺炎,反復性耳下腺炎が主であり,その場合は血液検査や反復の経過などから比較的容易に診断がつくことも多い.今回我々は耳下腺腫脹・膿瘍形成を繰り返し,腫脹時の副腎皮質ステロイド投与が有効であり,非特異的IgEが高値であったことから好酸球性耳下腺炎を第一に疑ったものの,組織学的検査の結果,最終的にリンパ上皮性唾液腺炎と判明した一例を経験したので報告する.

症例

症例:9歳男児

主訴:反復する耳下腺腫脹,膿瘍形成

家族歴:父親:20年来の多発口内炎,多発性軟骨炎→マジック症候群の診断で治療中

現病歴

8歳1ヶ月時(体重33 kg)に右耳下部の腫脹・疼痛があり,近医を受診した.抗菌薬(アモキシシリン750 mg/day 7日間)の内服にて症状が軽快しないため,前医を紹介されて受診した.前医初診時,右耳下部の皮膚の発赤を伴う直径1.5 cm程度の腫脹を認め(図1),アモキシシリン750 mg/day 7日間の追加内服に加えて副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン30 mg/day 4日間→15 mg/day 2日間→5 mg/day 2日間)の内服が開始された.Computed Tomography(CT)(図2)では右耳下腺内にガス像を含む腫脹を認めた.血液検査で非特異的IgE 5970 IU/mLと著明なアレルギー体質を認めたため,好酸球性耳下腺炎が疑われた.初診後7日目の再診時,十分な腫脹の改善がなく,再度アモキシシリン750 mg/day 8日間と副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン15 mg/day 4日間→プレドニゾロン15 mg/day 4日間)の内服が開始され,その後はクラリスロマイシン300 mg/dayの内服を21日間継続された.経過中に複数回穿刺排膿も施行されて腫脹は軽快したが,右耳下部の硬結は残存していた.初診後9日目の排膿液の一般細菌培養検査,初診後21日目の抗酸菌培養検査は共に陰性であった.8歳5ヶ月時に左耳下腺の疼痛が出現したが腫脹はなく,アモキシシリン750 mg/day 7日間の内服にて疼痛は軽快した.その2週間後に右耳下腺の腫脹があり,アモキシシリン750 mg/day 7日間の内服では改善しなかったため,クラリスロマイシン30 mg/day 7日間と副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン30 mg 4日間→15 mg 4日間)の内服と穿刺排膿が行われた.症状は軽快傾向であったが,専門機関の受診を勧められて当院を紹介され,8歳7ヶ月時に当院初診となった.

図1  前医初診時の所見
図2  前医初診時CT

初診時現症

右耳下部は青黒く皮膚変色があり,1 cm大程度の硬結を触れた.皮膚は一部自壊して白色膿の自然排膿を少量認めた.(図3

図3  当院初診時の所見

【超音波検査】

右耳下腺内部は低輝度を示す結節が散在し,瘻孔とみられる陰影も体表側に認める.無エコーに見える低輝度域もある(図4).

図4  当院初診時超音波所見

【MRI所見】

右耳下腺に一致してT1強調画像で正常耳下腺よりやや低輝度,T2強調画像で高輝度を認める.一部結節状になった軟部陰影の増生も認める(図5).

図5  当院初診時MRI所見

【血液検査所見】

非特異的IgE 3824 IU/mL,抗SS-A抗体(−),抗SS-B抗体(−),P-ANCA(−),C-ANCA(−),ムンプスIgG(+−),ムンプスIgM(−),IgG4 45.9 mg/dL,HIV1/2抗体(−)

初診後経過

細菌性耳下腺炎または好酸球性耳下腺炎のいずれかの可能性を考え,抗菌薬(アモキシシリン1500 mg/day 7日間)と副腎皮質ステロイドの内服(プレドニゾロン30 mg/day 3日間→20 mg 2日間→10 mg 2日間)を行ったが,内服開始1週間後の診察で腫脹の改善に乏しく,同用量でのアモキシシリンとプレドニゾロンの内服を再度行った.初診日から2週間後には圧痛を伴う腫脹はやや改善していたものの残存し,圧迫すると自壊部から膿の流出を認めた.体表の自壊部からの一般細菌培養検査では陰性であり,膿と口腔内の耳下腺管開口部からの分泌物の細胞診ではそれぞれ好酸球は陰性であった.プレドニゾロン(5 mg/day)7日間の内服を追加したところ,腫脹はほぼ軽快し,膿の流出も停止した.

8歳9ヶ月時に再び右耳下部の疼痛・腫脹があり,副腎皮質ステロイドの内服(プレドニゾロン5 mg/day)としたが,28日後の時点で腫脹の残存を認めた.プレドニゾロンの内服量を増量し,30 mg/day 5日間→15 mg/day 3日間→10 mg/day 3日間→5 mg/dayとしたところ,腫脹は軽快した.

確定診断のため,9歳0ヶ月時に全身麻酔下右耳下腺生検を施行した(図6).生検時は右耳下部の圧痛は残るものの腫脹は軽快しており,耳下腺の左右差はほとんどない状態であった.術中所見でも耳下腺組織の所見は正常耳下腺と明らかな差異は認めなかった.念のため,顔面神経刺激装置を使用しながら耳下腺被膜直下の耳下腺組織を一部摘出して検体として提出した.

図6  術中所見

【病理所見】

腺房の萎縮を伴う小葉への著しいリンパ球浸潤(a),上皮筋上皮島の形成(b),非乾酪性類上皮細胞性肉芽腫(c)(図7)などの所見からリンパ上皮性唾液腺炎の診断となった.好酸球浸潤はほとんど認められなかった.

図7  病理所見

術後経過

Sjögren症候群を除外するため,診断基準に照らして以下の検査を施行したが,最終的に診断基準は満たされなかった.術後7ヶ月経過しているが,現在のところ耳下腺腫脹の再発は認めていない.

血清スコア0点:IgG 915 mg/dL,抗核抗体陰性,リウマチ因子0 IU/mL,抗SS-A抗体陰性,抗SS-B抗体陰性

唾液腺スコア1点:唾液腺シンチグラフィーで両側耳下腺,顎下腺取り込み低下(図8)1点,その他検査は施行せず

図8  唾液腺シンチグラフィー

涙腺スコア0点:Shirmerテスト22/22 mm,蛍光色素検査陰性

【超音波検査(術後7ヶ月)】

耳下腺の腫大は認めず,内部輝度も均一に観察される.(図9

図9  術後7ヶ月時超音波所見

考察

1.リンパ上皮性唾液腺炎について

良性リンパ上皮性病変(benign lymphoepithelial lesion: BLEL)は,1952年にGodwin1)によって耳下腺単独の両側または片側の腫脹をきたし,組織学的に腺管・腺房への上皮細胞を含むリンパ組織の浸潤を認める病変として提唱された.その後,Batsakis2)は,BLELの組織学的な特徴として腺管上皮の過形成,腺実質へのリンパ球浸潤,腺房の萎縮をあげ,上皮筋上皮島の形成,間質の不規則な膠原化などを認めるとした.BLELの組織学的特徴を持つ疾患としてはSjögren症候群やMikulicz病,唾液管末端拡張症などがあるとされている3).武田ら4)は唾液腺の腫脹を初発症状として組織学的にBLELの所見を認めるもののSjögren症候群で認められる自己抗体の検出や他の自己免疫疾患の合併,口腔・眼の乾燥症状をきたさない症例が存在していることを指摘した.以前には,唾液腺にBLELの所見を認める病態とMikulicz病を同義と捉える考えもあった4,5)が,現在ではMikulicz病はIgG4関連疾患であり,高IgG4血症及び涙腺・唾液腺組織へのIgG4陽性形質細胞浸潤があるとされている6)

以上のように,BLELの診断においては混乱も見られてきたが,組織学的に上皮筋上皮島の形成,リンパ球浸潤,腺実質の萎縮を特徴とする病変がBLELであり,その中で他の全身症状や特徴的な免疫血清学的異常などを伴わない唾液腺単独の反復性または慢性の腫脹をきたす疾患をリンパ上皮性唾液腺炎として定義することが妥当かと考えられる.

2.診断

リンパ上皮性唾液腺炎は慢性・反復性の唾液腺の腫脹をきたす疾患であり,同様の症状をきたす疾患は多岐にわたるため,表1のような鑑別診断を検討する必要がある.なお,小児期における反復性耳下腺炎のうち,特に造影所見で点状陰影が認められる疾患は唾液管末端拡張症と呼ばれ,前述のように病理学的にBLELの所見を認めるとされる3,19).唾液管末端拡張症では腫脹時の抗菌薬投与が有効であることが多く19),本症例を含むリンパ上皮性唾液腺炎とは別個のものであると考えた.血液学的検査や画像検査ではリンパ上皮性唾液腺炎に特異的な所見はないため,確定診断のためには組織生検を施行し,病理学的診断を行うことが必要となる.

表1 慢性・反復性耳下腺腫脹の鑑別診断

リンパ上皮性唾液腺炎 反復性耳下腺炎 好酸球性耳下腺炎
(繊維素性唾液腺管炎)
木村氏病 IgG4関連涙腺・唾液腺炎
(ミクリッツ病)
MALTリンパ腫
好発年齢 中年以降 10歳未満 幅広い年代の成人
小児はまれ
若年成人 50~60代 中年
性差 女性に多い なし 女性に多い 男性に多い なし 女性に多い
好発部位 耳下腺 耳下腺 耳下腺に多い 耳下腺およびその近傍 耳下腺・顎下腺 耳下腺
症状 唾液腺の慢性的な腫脹 化膿性炎症を伴う耳下腺腫脹の反復 唾液腺の腫大
唾液腺管開口部からの白色繊維素塊排出
他のアレルギーの合併が多い
無痛性のリンパ節腫大
皮下腫瘤の増大
涙腺・耳下腺・顎下腺の左右対称の持続性腫脹 耳下腺,顎下腺の持続性無痛性腫脹
特徴的な検査所見 特になし CD4/CD8比の低下 好酸球・総IgEの上昇
特異的IgEの上昇
末梢血好酸球の著増を伴う軽度~高度の白血球増加
血清IgEの増加
抗カンジダIgE抗体陽性
高IgG4血症
(135 mg/dl以上)
sIL2-Rの上昇の報告があるが特異的な検査所見はない
特徴的な病理所見 上皮筋上皮島の形成
小葉への胚中心を伴うリンパ球浸潤
腺実質の萎縮
びまん性のリンパ性細胞浸潤
導管の拡張
唾液腺管腔内の好酸球を含む
粘液腺管上皮の肥厚
管周囲間質の硝子化や浮腫
好酸球・リンパ球浸潤
結合組織中の好酸球浸潤を伴うリンパ濾胞構造の増大
胚中心にはIgEの沈着を伴う
涙腺・唾液腺組織中に著明なIgG4陽性
形質細胞浸潤を認める
反応性リンパ濾胞の存在
腫瘍細胞のびまん性浸潤
lymphoepithelial lesionの形成
治療法 消炎・ステロイド治療
外科的切除
腫脹・疼痛時の抗生剤投与,口腔衛生,細菌ワクチン投与 唾液腺マッサージ
抗アレルギー剤投与
ステロイド投与
外科的切除,ステロイド投与,放射線療法,カンジダ免疫療法など ステロイド投与 外科的切除,放射線治療,化学療法
参考文献 4)5)7)8)9) 4)10)11) 12)13)14) 15) 16) 17)18)

3.治療

リンパ上皮性唾液腺炎は原因不明の唾液腺腫脹をきたし,腫瘍性病変の可能性が否定できない場合も多く,これまでの報告ではすべて外科的切除(組織生検)によって確定診断がついている.生検後に再腫脹をきたさず追加治療を必要としない場合も多いが,局所炎症を背景とした腺組織混在リンパ節の反応性過形成病変(楠川ら20))と考えられることから副腎皮質ステロイド投与や免疫抑制剤による消炎治療が試みられる.一般的には予後不良とは考えられていないが,BLELを母地として悪性疾患を発症することを示唆する報告もあり2,6),長期的な経過観察は必要であると考えられる.

4.本症例について

本症例では抗菌薬に抵抗性で副腎皮質ステロイドが有効の耳下腺炎の反復を認め,最終的にリンパ上皮性唾液腺炎と診断された.リンパ上皮性唾液腺炎においては緩徐な無痛性の腫脹をきたすことが多く,本症例のように1年という短期間の間に複数回の膿瘍形成や皮膚自壊までを認める経過は非常に稀であった.本症例のような激しい炎症をきたした理由は不明であるが,原因不明で治療に抵抗性の唾液腺炎においては,確定診断のために組織生検も躊躇なく施行することが必要であると考えられた.また,リンパ上皮性唾液腺炎は過去の文献では成人,特に中年女性での報告が多いとされ,小児での発症は極めて稀であり,調べえた範囲では小児での発症の報告は武田らによる7歳男児4),Bernier and Bhaskarの2歳児例21)の2例のみであった.

まとめ

1年間の間に副腎皮質ステロイド投与が有効である耳下腺炎の反復を認め,最終的に病理学的検査により,リンパ上皮性唾液腺炎と診断された9歳男児について報告した.小児において本疾患は非常に稀ではあるが,確定診断には生検が必須であり,非特異的な経過をたどる耳下腺の腫脹や炎症の反復を認める場合には組織生検をためらわず施行することが必要であると考えられた.

謝辞

本論文の作成に当たり,病理画像と共に適切な御助言を賜りました埼玉県立小児医療センター病理診断科中野夏子先生,市村香代子先生,臨床研究部中澤温子先生に厚く御礼申し上げます.

なお,本論文の要旨は第18回小児耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会(2023年,大分)にて発表した.

利益相反に該当する事項:なし

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