Pediatric Otorhinolaryngology Japan
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Case Reports
A case of an external ear foreign body removed at 3 years after injury
Kosuke TochigiSaaya HattoriAya MoriYasuhiro Tanaka
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2025 Volume 46 Issue 1 Pages 37-41

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Abstract

外耳道異物は受診後速やかに摘出され治療が終了することが多く,長期間放置されることは稀である.今回,受傷から3年経過し耳痛と耳漏が出現したことにより発見され治療した稀な外耳道異物症例を経験した.

症例は4歳女児.右耳痛と耳漏を主訴に外来を受診し右外耳道に黒色の異物が認められた.3年前に箸が右外耳道に刺入し救急外来を受診したが異物は確認されなかったとのことであった.全身麻酔下に手術を行い,異物直上の皮膚に切開を加え周囲組織と剥離したのちに異物を摘出した.鼓膜穿孔は認めず抗菌薬軟膏付きガーゼを1枚挿入し手術終了とした.術後13日目にガーゼを抜去し術後2ヶ月目には創部の良好な上皮化を認めた.

外耳道異物症例を診察する際には異物の破損や体内への遺残について確認することが重要である.さらに,異物を摘出する際には処置によって生じる合併症を予測し説明したうえで処置を開始する必要がある.

Translated Abstract

In most cases, external ear canal foreign bodies are removed and treated promptly; they are rarely left untreated for a long time. Here, we report a rare case of an external ear canal foreign body discovered three years after the injury.

A 4-year-old girl visited a local otolaryngology clinic with right ear pain and discharge, and a black foreign body was found in the right external ear canal. She had been stabbed in the right ear canal with a chopstick and visited the emergency department three years previously; however, no foreign body was found. In observing the external ear canal, the foreign body was partially buried under the skin and difficult to remove in an outpatient setting; then surgery was planned under general anesthesia. A skin incision was made above the foreign body, removed after peeling from the surrounding tissue. No tympanic membrane perforation was observed, a piece of gauze with antibiotic ointment was inserted, and the surgery was completed. The gauze was removed 13 days postoperatively and wound epithelialization was well two months postoperatively.

はじめに

外耳道異物は耳鼻咽喉科医にとって診療する機会が比較的多い疾患である1).多くの症例では異物は外耳道内のみに認められるため,受傷後すぐに外来を受診し摘出されることがほとんどであるが,外耳道皮膚や鼓膜を貫通し深部組織にまで到達することは稀である2)

異物が外耳道の深部にまで到達している可能性がある場合には,外耳道異物の性状や深達度を事前に評価し処置によって生じうる合併症を予測する必要がある.さらに,処置を行った後にも異物が体内に遺残していないか注意を払うことが大切である3)

今回,受傷直後に受診した救急外来では確認されず,受傷から3年経過した時点で異物が発見され治療を行った稀な外耳道異物症例を経験したため文献的考察を加えて報告する.なお,本論文執筆に関しては患者家族から承認を得ている.

症例

4歳の女児.右耳痛および耳漏を認め近医耳鼻咽喉科外来を受診したところ右外耳道に黒色の病変が認められた.体動が激しいこともあり除去できず,精査加療目的に当院を紹介受診した.

当院初診時には右耳漏を認めたが体動が激しく耳処置さえも困難な状態であった.点耳薬を使用し治療を行ったところ耳漏は停止し耳内の観察が可能となった.右外耳道の1時方向から刺入した棒状の病変を認め,先端は鼓膜の手前に留まっており確認できる範囲に鼓膜穿孔は認めなかった(図1 A).純音聴力検査では右4000 Hzで25 dBの気骨導差を認めていた(図1 B).側頭骨CTでは棒状の病変を認め,鼓膜よりも外側に位置しており中耳腔に陰影は認めなかった(図1 C,D).外耳道異物の可能性を考慮し改めて問診を行うと,約3年前に母親が箸を持っていたところに患児が走っていき右耳前に箸が刺入したとのことであった.耳痛と耳出血があったため受傷直後に他の医療機関の救急外来を受診したが視診による観察のみが行われ,外耳道内に異物は認められず症状が改善傾向にあったことから終診となった.箸の先端が破損していたことは確認されておらず,箸の一部が体内に遺残している可能性について説明はなかったとのことであった.中耳炎の既往や耳掃除の習慣がなく,受傷後から3年の間に耳鼻咽喉科外来を受診することはなかった.

図1  手術前所見

右外耳道に異物を認め,異物の先端は鼓膜の外側にとどまっており確認できる範囲では鼓膜穿孔を認めなかった(A).純音聴力検査では右4000 Hzに25 dBの気骨導差を認めた(B).CTにて異物は外耳道内に確認され中耳には陰影を認めなかった(C:冠状断,D:水平断).白矢頭:異物の先端.

従って,3年前の受傷により箸の一部が右外耳道内に遺残していた可能性が考えられた.外来での処置が困難であったため全身麻酔下に外耳道異物の摘出を行うこととした.なお,手術内容の説明では観察できていない範囲に鼓膜穿孔がある場合や術中操作によって鼓膜穿孔が生じる可能性を説明し,鼓膜穿孔を認めた際には鼓膜形成術や鼓室形成術を並施する旨を伝えた.

手術は耳鏡を用いて外耳道からのアプローチで実施された(図2 A).箸の先端と思われる異物は外耳道の皮下に迷入しており把持しただけでは除去は不可能であった.異物直上の外耳道皮膚1時方向を尖刃メスで切開し(図2 B),異物と皮下組織を剥離したのちに異物を鋭匙鉗子で把持し摘出した(図2 C,D).鼓膜穿孔がないことを確認し(図2 E),切開した外耳道皮膚は整復し元の位置に固定することにより生着することが予想された.患児は耳処置に対する恐怖感が強く手術後の処置が困難になることが予測されたため,外耳道皮膚の圧迫固定および外耳道狭窄の予防を目的に長めに作製した抗菌薬軟膏付きガーゼを右外耳道に1枚挿入し手術終了とした(図2 F,G).摘出された異物の長さは1.5 cmであり,問診の内容を踏まえ箸の先端と考えられた(図2 H).

図2  手術所見

耳鏡を用いて右外耳道からのアプローチで手術を開始した(A).異物直上の外耳道皮膚1時方向に切開を加え(B),周囲の結合組織と剥離したのちに(C)鋭匙鉗子で異物を把持し摘出した(D).鼓膜穿孔がないことを確認し外耳道皮膚を整復した(E).長く作製された抗菌薬軟膏付きガーゼを1枚挿入することで,外耳道皮膚を固定し(F)手術を終了した(G).摘出された異物は3年前に受傷した際に刺入した箸の先端と考えられ長さは1.5 cmであった(H).

手術後13日目に抗菌薬軟膏付きガーゼを抜去した.手術後2ヶ月の時点で切開した外耳道皮膚は生着し上皮化が良好であったため手術後5ヶ月目に終診となった(図3 A).なお,右4000 Hzに認めていた気骨導差は手術後2ヶ月の時点で10 dBにまで改善しており患児に難聴の訴えは認めなかった(図3 B).

図3  手術後2ヶ月目における所見

切開を加えた外耳道皮膚の上皮化は良好であり鼓膜穿孔は認めなかった(A).純音聴力検査において右気骨導差は10 dBまで改善していた(B).

考察

外耳道異物は耳鼻咽喉科の外来を受診する患者のうち約1%を占め,救急外来においては耳鼻咽喉科疾患の約3%を占める耳鼻咽喉科医にとって比較的遭遇しやすい疾患である3,4).小児で生じる頻度が多く,玩具や紙,消しゴム,小石など外耳道内にとどまり容易に除去することが可能な異物の頻度が多い2,5).しかし,箸や綿棒といった硬く棒状の異物は強い外力が加わった場合,外耳道皮膚や鼓膜を貫通し深部組織まで到達する場合がある6,7).異物が深部組織まで及んでいる場合や異物の確認が難しい場合には,異物の深達度や遺残の有無について確認し必要な対応を決定する必要がある1,3,6)

本症例は,受傷直後に救急外来を受診したにもかかわらず,箸の先端が破損していたことや体内に遺残している可能性を考慮せず,視診のみだけで診察が終了していた.受傷後に認められた耳痛や耳出血などの症状は改善しその後も症状がなかったため,3年もの間異物が放置されていた.過去にも外耳道異物が放置され感染や腫瘤を形成したことで発見された外耳道異物の症例が報告されており8,9),外耳道異物症例を診察する際には病歴の詳細な聴取や画像検査が重要であると報告されている6,9).本症例のような外耳道異物の見逃しを防ぐためには,異物の原因となった物を来院時に持参してもらい破損について確認を行うことや,破損した異物が確認できない場合には外耳道深部に遺残している可能性を考え画像検査を行うことが必要と考えられる.

外耳道異物を摘出する際には,異物の深達度や損傷を受けた構造物により術中操作によって生じる合併症が異なる.異物が鼓膜を貫通している場合には異物の摘出により鼓膜穿孔を生じるため,閉鎖のために追加の処置を行う必要がある6).また,中耳や内耳に達している場合には摘出により耳小骨離断や外リンパ瘻を引き起こす可能性があり,伝音再建や瘻孔閉鎖といった処置が必要となる9).本症例においては,内視鏡による観察やCT画像から異物は鼓膜に達しておらず異物の摘出を行っても鼓膜閉鎖の処置は不要であると推測された.しかし,内視鏡で観察できない部分に鼓膜穿孔がある可能性や異物を摘出する際に鼓膜穿孔が生じる可能性もあり,異物の摘出以外にも鼓膜形成術や鼓室形成術を実施する可能性を手術前に説明した.異物摘出によって生じる合併症を事前に予測し,手術前に患児や家族に説明することはリスクマネージメントとして重要と考える.

耳科手術において外耳道皮膚を側頭骨から剥離挙上した場合,挙上した皮膚を外耳道に接着させるためにパッキング材を1~2週間留置することが多い10).我々の施設では鼓室形成術の場合,抗菌薬軟膏付きの吸収性ゼラチンスポンジと1×2 cm大の抗菌薬軟膏付きガーゼで作製されたパッキング用ガーゼを20枚程度耳内に留置し外耳道皮膚を圧迫している.しかし,本症例のように小児においては耳処置に対して恐怖感が強く術後の処置に難渋する場合がある1).耳処置が難渋することが予想される小児症例に対する鼓室形成術において,耳内に留置する資材を変更することによって可能な限り術後の処置を少なくする工夫も報告されている11).本症例においては通常よりも長く作製された軟膏付きガーゼを皮膚の固定に使用することにより,手術後の処置が難渋することなく実施することが可能であった.術後の処置に難渋することが予想される症例においては,耳内に留置するパッキング材を変更することは術後の処置を円滑に行うための重要な工夫になると考えられた.

本症例では初診時から右の2000 Hzに骨導閾値の上昇が認められた.その原因として異物が刺入した際に内耳振盪が生じた,外傷と関連のない急性感音難聴が生じていた,アブミ骨底板が固着した耳小骨奇形があったことなどが考えられた.内耳振盪は4000 Hzを中心とした高音域に骨導閾値の上昇を認めることが特徴であり12),突発性難聴をはじめとする急性感音難聴についても特定の周波数にのみ骨導閾値の上昇が生じることは少ないため13),これらの病態が関連していた可能性は低いと考えられる.耳小骨奇形や耳硬化症で認められるアブミ骨底板の固着は,2000 Hzの骨導閾値上昇が特徴的とされる14).本症例ではアブミ骨底板の固着によって右2000 Hzの骨導閾値が上昇していた可能性がある.しかし,術前に難聴の訴えがなく画像検査で中耳に異常を認めなかったことから外耳道異物の除去のみを行い耳小骨の可動性は確認せずに手術を終了した.今後,難聴が進行した場合には耳小骨の可動性を確認するために試験的鼓室開放術を実施し,難聴の程度によってアブミ骨手術を行う可能性がある.

本症例の経過から原因が明確でない反復する耳漏を認める症例の診療においては外耳道異物の存在を疑うことや,外耳道異物の症例を診療する際には原因となった物の現物を必ず持参させるなど異物の破損や体内への遺残について細心の注意を払うことが重要と考えられた.

まとめ

受傷後3年間放置されていた稀な外耳道異物の症例について治療経過を報告した.外耳道異物症例を診察する際には異物の破損について確認し,必要に応じて画像検査を行い異物が体内に遺残していないことを確認する必要がある.さらに,異物を摘出する際には処置によって生じ得る合併症を予測し説明したうえで処置を開始することが重要と考えられた.

利益相反に該当する事項:なし

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