Pediatric Otorhinolaryngology Japan
Online ISSN : 2186-5957
Print ISSN : 0919-5858
ISSN-L : 0919-5858
Symposium 1: Diagnosis and management of cough and wheezing in children
Primary ciliary dyskinesia suspected by chronic productive cough
Shunta Deguchi
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2025 Volume 46 Issue 1 Pages 5-9

Details
Abstract

小児の咳嗽の原因疾患は多岐にわたる.主な原因疾患はウイルス性気道感染をはじめとした急性咳嗽で,多くは自然軽快する.小児において遷延性・慢性咳嗽の頻度は少ないものの,治療に抵抗を示す症例のなかには,線毛機能不全症候群(primary ciliary dyskinesia: PCD)をはじめとした基礎疾患を有する場合がある.PCDは線毛に関連する遺伝子のバリアントにより生じる遺伝性疾患である.線毛の機能不全により,慢性上下気道感染症をはじめとした多彩な臨床症状を呈する.PCDに対する根本的治療は確立されていないが,早期診断は生命予後に影響する気管支拡張症の進行抑制につながり意義がある.また,慢性咳嗽をはじめとしたPCDに類似した臨床症状を呈し,PCDとの鑑別を要する疾患も多数存在する.長引く咳嗽を呈する小児の診療にあたっては,幅広く鑑別診断を考え,小児科と連携して原因疾患を明らかにし,原因に対する治療を行うことが重要である.

はじめに

小児の咳嗽の原因疾患は多岐にわたるが,主な原因疾患はウイルス性気道感染をはじめとした急性咳嗽で,多くは自然軽快する.小児において遷延性・慢性咳嗽の頻度は少ないものの,主な耳鼻咽喉科的原因疾患としては慢性鼻副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎が挙げられ,これらは適切な治療を行うことで症状の改善が期待できるが,治療に抵抗を示す症例のなかには,線毛機能不全症候群(primary ciliary dyskinesia: PCD)をはじめとした基礎疾患を有する場合がある.本稿では,PCDの概要および鑑別疾患について述べた後,up-to-dateとして最新のtopicsを提供する.

PCD

PCDは線毛に関連する遺伝子のバリアントによって生じる遺伝性疾患である.遺伝形式の多くは常染色体潜性遺伝で,発症頻度はおよそ2万人に1人とされている1).線毛機能の低下により,慢性上下気道感染症,内臓逆位,先天性心疾患,不妊症など多彩な臨床症状を呈する.現在,PCDの原因遺伝子としておよそ50の遺伝子2,3)が知られており,原因遺伝子と線毛の形態や運動性には関連がみられる2).線毛運動に関する遺伝子は多く,遺伝子変異も多様なため,症例により病変の重症度も様々である.

PCDの臨床像

気道や生殖器,脳室に分布する運動線毛に関する遺伝子のバリアントにより多彩な臨床症状を呈する.肺病変としては,中葉や舌区の無気肺および気管支拡張像が挙げられる.気管支拡張症は小児期からみられることがあるが,年齢とともに進行し,成人で気管支拡張症がなければPCDは否定できるとされる4).鼻副鼻腔病変としては,両鼻内に粘膿性鼻汁を認めるが,鼻茸の合併は少ないことが特徴である5).様々な程度の鼻副鼻腔炎を両側に認め,前頭洞および蝶形骨洞の発育不良を認めることが多い6).蝶形骨洞の無形成は健常者においては極めて稀であり,10歳を超えても蝶形骨洞が無形成であればPCDの可能性が高いとされている7).中耳病変は多様だが,基本的には滲出性中耳炎である8).小児期ではほぼ全例に滲出性中耳炎が認められ,遷延する.急性中耳炎を反復することも多い.難聴の程度は軽度で,成長とともに改善することが多いが,成人期になっても鼓膜の石灰化などの異常所見が残存することが特徴である8)

PCDの診断基準

臨床症状からPCDを疑った場合,PICADARスコアを算出しPCDである可能性を推定することができる9).PICADARスコアは慢性湿性咳嗽を前提として7つの質問の代数和でPCDの可能性を予測するためのスコアである(表1).6点以上あればPCDである可能性が高く,PCDを疑って精査を行う価値があるとされており,罹患の確率は5点で11%,6点で24%,7点で44%,8点で66%と増加する.一方で,PICADAスコアは欧州で考案されたものであり,全年齢を対象としている点に留意が必要である.PICADARスコアが低くてもPCDの可能性は否定できないため,臨床所見や検査所見からPCDが疑われる場合は精査すべきである.PCDを疑った場合,診断確定のための諸検査を行って診断を進める.日本鼻科学会発行の線毛機能不全症候群の診療の手引きの診断基準をフローチャートとして示す10)図1).Definite,Probableの場合,PCDと診断する.

表1 PICADARスコア9)

PICADAR(PrImary CiliAry DyskinesiA Rule)
幼少期から毎日のように湿性咳嗽がありますか? はい―次の質問へ
いいえ―ここで終わり
スコア
1.早産でしたか,満期産でしたか? 満期産 2
2.新生児期に多呼吸,咳嗽,肺炎などがありましたか? はい 2
3.NICUにはいりましたか? はい 2
4.内臓逆位か臓器の位置異常がありますか? はい 4
5.先天性心疾患がありますか? はい 2
6.1年を通して持続する鼻炎がありますか? はい 1
7.滲出性中耳炎,難聴,鼓膜穿孔のどれかがありますか? はい 1

慢性湿性咳嗽を前提として7つの質問の代数和でPCDの可能性を予測するためのスコア.6点以上あればPCDである可能性が高い.

図1 PCDの診断基準10)

線毛機能不全症候群の診療の手引きより引用.転載許諾を得た.Definite,Probableの場合,PCDと診断する.

PCDの管理

遺伝子治療などの根本的治療はなく,対症療法が中心となる.肺病変に関しては,生命予後に影響する気管支拡張症の進行抑制,呼吸機能低下の予防が重要になる.体位ドレナージや胸部タッピングなどの理学療法,呼吸器感染予防としてワクチン接種を行う.慢性鼻副鼻腔炎に関しては,症状の緩和を目的とした鼻洗浄に加えて,薬物療法および手術療法を組み合わせて行う.薬物療法としては,慢性鼻副鼻腔炎に対して広く用いられているマクロライド療法を行い,鼻洗浄や薬物療法で症状が改善しない場合,また,鼻茸を伴う症例では,内視鏡下鼻副鼻腔手術が考慮される場合もある.滲出性中耳炎に関しては,難治性で長期管理を要する場合が多く,難聴が持続している場合や鼓膜の病的変化が強い場合は,鼓膜換気チューブ留置が検討される.しかし,PCD患者ではチューブ留置後に耳漏を反復したり,複数回の留置,鼓膜穿孔をきたす例が多く,チューブを留置しても聴力予後は変わらないとして推奨しない報告もある11).聴力および鼓膜所見を正確に評価した上で,ベネフィットとリスクを踏まえ,適応を判断する必要がある.

PCDの鑑別疾患

PCDと類似した臨床症状を呈する疾患は多数存在するが,PCDと鑑別を要する疾患は年齢に応じて異なる10)表2).嚢胞性線維症はCFTR遺伝子の病的バリアントによって生じる遺伝性疾患である.欧米では3000人に1人の割合と頻度が高い一方で,本邦では60万人に1人の割合と稀な疾患である12).CFTRは全身の上皮細胞の管腔膜に発現する陰イオンチャネルで,機能低下により管腔が粘稠な分泌液で閉塞し多彩な臨床症状を呈する.ほぼ全例に慢性的な呼吸器感染症と鼻副鼻腔炎を呈するなどPCDに類似した臨床症状を呈するため,鑑別として考える必要がある.これら鑑別疾患では長引く咳嗽を呈することが多いが,原因疾患を明らかにするためには咳嗽の特徴や咳嗽に合併する診断の手掛かりとなる所見を得ることが重要であり13),小児科医と耳鼻咽喉科医が連携して検索することが重要である.

表2 PCDの鑑別疾患10)

新生児期

新生児一過性多呼吸,胎便吸引症候群,新生児呼吸窮迫症候群

乳幼児期

遷延性細菌性気管支炎,胃食道逆流症,誤嚥,扁桃・アデノイド肥大,気管支軟化症,気管支喘息,気道異物,免疫不全,慢性鼻副鼻腔炎,びまん性汎細気管支炎,嚢胞性線維症

乳幼児期・学童期以降

気管支喘息,慢性鼻副鼻腔炎,びまん性汎細気管支炎,嚢胞性線維症

線毛機能不全症候群の診療の手引きより引用.転載許諾を得た.

PCDに関するup-to-date

もともと小児慢性特定疾病に認定されていたが,2024年4月から指定難病(指定難病340)に認定された.小児慢性特定疾病と指定難病の診断基準14,15)をそれぞれ示す(表34).指定難病の診断基準は,日本鼻科学会発行の線毛機能不全症候群の診療の手引きの診断基準とは若干異なるが,主要項目を1つ以上満たし,PCDに関連する遺伝子に病的バリアントを満たすものをDefinite,主要項目と線毛の機能的,構造的異常を認めるものをProbableとし,いずれも指定難病の対象となる.

表3 小児慢性特定疾病の診断基準14)

〈診断方法〉
A.主要臨床症状
1.難治性の慢性湿性咳嗽
2.難治性の副鼻腔炎
3.完全内臓逆位(50%)
B.他の重要な臨床所見
1.肺聴診でcrackles & rhonchi
2.肺機能検査では,閉塞性換気障害を認めることが多い
3.胸部単純X線で無気肺や,“tram track”,“ring sign”などの気管支壁肥厚像を認める
C.検査所見(1,2はスクリーニング,3で診断確定)

1.サッカリンテスト:年長児では,下鼻甲介にサッカリンの粒を置いて咽頭で甘味を感じるまでの時間を計測する

2.鼻腔内NO濃度の低下:本症では鼻腔内NO濃度を測定すると異常低値を認める

3.鼻粘膜または気管支粘膜の生検で上皮細胞を採取して高速ビデオ顕微鏡で線毛の動きを観察し,電子顕微鏡で微細構造の異常を検討する.

炎症による後天的異常を除外するため,採取した細胞を培養して,その線毛運動を確認するのが最も確実である.

表4 指定難病の診断基準15)

〈診断基準〉
A 主要項目
1.新生児では多呼吸,咳嗽などの呼吸器症状,肺炎,無気肺のいずれか
成人では気管支拡張症,あるいは細気管支炎
2.慢性鼻副鼻腔炎
3.滲出性中耳炎あるいはその後遺症
4.内臓逆位あるいは内臓錯位
5.男性不妊症
6.同胞に線毛機能不全症候群を疑う家族歴
7.線毛機能異常
B.遺伝学的検査
線毛機能不全症候群に関連する遺伝子に病的バリアントを認める
C.鑑別診断
嚢胞性線維症,原発性免疫不全症候群を鑑別する
〈診断のカテゴリー〉
Definite:Aの1–6のうち少なくとも1つを満たし,かつBを満たし,かつCの鑑別すべき疾患を除外したもの
Probable:Aの1–6のうち少なくとも1つ及びAの7を満たし,かつCの鑑別すべき疾患を除外したもの

また,2024年6月から主要16遺伝子の遺伝学的検査が保険収載された.対象遺伝子は,DRC1DNAH5DNAH11CCDC39CCDC40ODAD2DNAI1DNAH9GAS2L2DNAAF1DNAL1DNAAF6FOXJ1RSPH4ANME5CCDC65である.これら16遺伝子でこれまでに報告された本邦のPCD患者の原因遺伝子の95%以上を占めている16)

まとめ

長引く咳嗽を呈する小児の診療にあたっては,背景にPCDをはじめとした稀な基礎疾患を有する場合があり,幅広く鑑別疾患を考えることが重要である.また,遷延性・慢性咳嗽であっても,原因疾患に対する適切な治療を行うことで多くは症状の改善が期待できるので,それら原因疾患を明らかにするために,小児科と耳鼻咽喉科の連携は重要と考える.

利益相反に該当する事項:なし

文献
 
© 2025 Pediatric Otorhinolaryngology Japan
feedback
Top