2025 Volume 46 Issue 2 Pages 89-95
近年内視鏡が普及したことにより,先天性真珠腫が早期に発見,手術されるようになった.当院で手術を行った先天性真珠腫症例51例について,真珠腫進展度別に手術方法,遺残性再発および聴力成績を検討した.手術時年齢は6歳以下が35例(69%)を占めた.進展度別では鼓室内に限局するStage Iが35症例と多くを占め,低年齢で早期に発見,手術されている傾向が見られた.Stage Iの大半ではTEESが施行されていた.鼓室後半部分に真珠腫が存在するIb,Ic,IIの場合,IV型再建になる率が高かった.一期的手術は22例,段階的手術は29例であった.段階手術のうち8例(29%)で遺残性再発を認めた.純音聴力検査が可能であった31例中28例(90%)で聴力改善成功であった.先天性真珠腫はTEESのよい適応であるが,遺残性再発はあるため,鼓室洞や鼓膜張筋腱など遺残しやすい部分に真珠腫が及んでいる場合注意が必要である.
In recent years, with the widespread use of endoscopes in ENT clinics, congenital cholesteatoma can be detected and operated on at an early stage. We performed a clinical review of 51 cases of congenital cholesteatoma operated on at our hospital. Surgical methods, residual recurrence, and hearing outcomes were evaluated for each stage defined by the Japan Otological Society (JOS) staging system. Thirty-five cases (69%) were operated on at age 6 or younger. Stage I, limited to the tympanic cavity, accounted for the majority of cases (35), indicating a trend toward early detection and surgery at a younger age. Transcanal endoscopic ear surgery (TEES) were performed in the majority of Stage I cases. In cases Ib, Ic, II, where the cholesteatoma invaded in the posterior half of the tympanic cavity, there was a high rate of type IV reconstruction due to the loss of stapes superstructure. There were 23 cases of one-stage surgery and 28 cases of two-stage surgery. Eight patients of two-stage surgery (29%) had residual recurrence. Pure tone audiometry was performed in 31 patients, and hearing improvement was successful in 28 (90%). Congenital cholesteatoma is a good indication for TEES, but residual recurrence may occur. We need to be careful if the cholesteatoma has spread to difficult areas such as tympanic sinus or tensor tympani tendon.
先天性真珠腫は典型的には,鼓膜の内側に位置する角化扁平上皮を伴う拡大する嚢胞性腫瘤であり,出生時に存在すると考えられている1).無症状であることが多く,耳鏡による観察のみではすべての真珠腫を発見するのは困難であるが,近年,耳鼻咽喉科診療所においても内視鏡が普及していることから,小児の先天性真珠腫が早期発見されるようになった.それに伴い,小児先天性真珠腫の手術数が増加している.Kadowakiらは2006年から2022年の調査で年々先天性真珠腫の発生率(ないし検出率)が上昇しており,後半の2014年以降で有意に手術数が増えていることを報告している2).
中耳の手術は長らく顕微鏡下耳科手術(Microscopic Ear Surgery: MES)が主流であった.しかし近年では経外耳道的内視鏡下耳科手術(Transcanal Endoscopic Ear Surgery: TEES)の普及により,従来のMESからTEESへの変遷がみられるようになった.内視鏡を用いると接近して構造の詳細や病変が捉えやすいため,当科でも積極的に使用している.今回,当科でTEESの導入後に小児の先天性真珠腫に対して鼓室形成術を施行した例について,手術成績(真珠腫の遺残性再発,聴力)を検討した.小児真珠腫性中耳炎の治療に関する文献的考察も加え報告する.
対象は,当科でのTEES導入以降の2013年3月から2024年4月までに鼓室内を原発とする先天性真珠腫に対して鼓室形成術を行った小児例(15歳未満)51例である.段階的手術を行った例については,2回目の手術まで終了した例を対象とした.初回手術後からの観察期間は75~3162日(中央値1304日)であった.
2.先天性真珠腫の定義と進展度分類先天性真珠腫は「中耳腔内に先天的に発生する鼓膜・外耳道と連続性のない真珠腫」と定義し,鼓膜の穿孔や陥凹を伴う症例は除外した.
真珠腫の進展度は,日本耳科学会の「中耳真珠腫進展度分類(2015)」3)に則りStage I~IVに分類した.
進展度別に初回手術時の年齢,初回手術に要した時間,手術の内容を分析した.初回手術時の年齢,初回手術に要した時間はWilcoxon検定,手術の内容はFisher検定を用いて有意差検定した.有意水準はp<0.05とした.
3.当科での手術方針と手術方法,手術後の経過観察について真珠腫性中耳炎に対しては,一期的手術を選択する場合と計画的に段階手術にする場合がある.手術前の画像検査や手術中の所見から,遺残の可能性が高い鼓膜張筋腱やアブミ骨とその周囲(鼓室洞や顔面神経窩など)に真珠腫が及ぶ場合に,基本的に段階的手術の方針とした.段階的手術にする場合,2次手術は概ね初回手術の6カ月後に行う方針としている.
手術方法について,経外耳道的内視鏡下耳科手術(TEES),顕微鏡下耳科手術(MES),内視鏡補助併用顕微鏡下手術(Dual MES/TEES)に分類して検討した.外耳道後壁は温存または再建する方針としており,ステージIIでTEESで手術を行う場合は外耳道側壁を軟骨で再建している.
手術後の経過観察について,基本的な方針を以下に示す.ただし,術後経過観察中に再発所見を認めた場合は,この限りではない.
手術後1年間は2,3カ月に1回外来にて鼓膜の観察を行う.手術後1年(段階手術であれば2回目の手術後1年)でCTを撮影し再発の有無を確認する.その後は半年ごとに経過観察とし,状況に応じてCT撮影を行うが,術後5年の時点では必ずCTを撮影し,再発を疑う所見がなければ終了とする.
4.伝音再建日本耳科学会の「伝音再建法の分類と名称について(2010)」に基づいて,I型,III型(III-c, III-i, III-r, IIIo),IV型(IV-c, IV-i, IVo)に分類した.
5.段階手術2次手術における遺残真珠腫の再発については,再形成再発,遺残性再発ともに評価することが理想であるが,今回の検討では手術後の観察期間が短い症例を含んでいるため,段階手術2次手術における遺残再発に絞って検討することとした.段階手術2次手術時の真珠腫遺残の有無を調べ,真珠腫の形態(open type/closed type),真珠腫進展度,手術方法(内視鏡下/顕微鏡下)による違いを検討した.
6.聴力成績標準純音聴力検査が施行できた症例31例について聴力成績を判定した.日本耳科学会の伝音再建後の術後聴力成績判定基準(2010)4)より,気骨導差15 dB以内,聴力改善15 dB以上,聴力レベル30 dB以内のいずれかを満たす症例を成功例とした.500 Hz,1000 Hz,2000 Hzの3分法平均とし,気骨導差は術前骨導を用いたが,2例のみ術後骨導を用いた.幼少で術前には骨導検査が出来なかったが術後検査可能となったためである.伝音再建後,概ね6カ月時点での聴力検査結果を用いた.
男児31例,女児20例であった.手術時年齢は2歳から11歳(中央値5歳)であった.年齢分布を図1に示す.6歳以下が35例(69%)を占めた.右耳27例,左耳24例であった.

真珠腫進展度別の症例数は,Ia:12例,Ib:14例,Ic:9例,II:15例,III:1例,IV:0例であった.(図2)また,真珠腫の形態としてはIa:open 2例,closed 10例,Ib:open 5例,closed 9例,Ic:open 5例,closed 4例,II:open 5例,closed 10例,III:closed 1例であった.(図3)


進展度別の初回手術時の年齢を図4に示す.進展度が進むほど年齢が高い傾向であり,IaとII,IaとIb,IcとII間でそれぞれ手術時年齢に有意差があった.有意差検定はステージIa,Ib,Ic,IIの4つについて各ペアごとにWilcoxon順位和検定し,Bonferroni補正を行いp<0.0083を有意差ありとした.

グラフ中の数字は中央値
IaからIIの各ペアごとにWilcoxon検定を行い,Bonferroni補正した.
*が有意差あり.
進展度別の手術方法を表1に示す.Ia:12例全てが一期的手術,Ib:14例中8例が一期的手術・6例が段階的手術,Ic:9例中3例が一期的手術・6例が段階的手術,II:15例全てが段階的手術,III:1例は段階的手術であった.全体では一期的手術が23例,段階的手術が28例であった.真珠腫の進展度が進むに従って段階的手術の割合が多くなっていた.手術方針の通りに一期的手術,段階手術は決定したが,例外的にStage IIIの症例は内耳瘻孔があったために段階手術とした.
| stage | 一期的 | 段階 |
|---|---|---|
| Ia | 12(100%) | 0(0%) |
| Ib | 8(57%) | 6(43%) |
| Ic | 3(33%) | 6(67%) |
| II | 0(0%) | 15(100%) |
| III | 0(0%) | 1(100%) |
進展度別の手術法(TEES,MES,Dual MES/TEES)を図5に示す.Ia:12例全てTEES,Ib:14例中11例がTEES,2例がMES・1例がDual MES/TEES,Ic:9例中7例がTEES,1例がMES,1例がDual MES/TEES,II:15例中6例がTEES,1例がMES,8例がDual MES/TEES,III:1例がMESであった.

グラフ中の数字は症例数
Fisher検定 p<0.001
進展度別の初回手術の手術時間を図6に示す.中央値はIa:65.5分,Ib:68分,Ic:120分,II:166分であり,進展度が進むほど有意に手術時間が長くなっていた.有意差検定はステージIa,Ib,Ic,IIの4つについて各ペアごとにWilcoxon順位和検定し,Bonferroni補正を行いp<0.0083を有意差ありとした.

グラフ中の数字は中央値
IaからIIの各ペアごとにWilcoxon検定を行い,Bonferroni補正した.
*が有意差あり.
耳小骨連鎖再建法を図7に示す.Ia:12例全てI型,Ib:14例中5例がI型,2例がIIIi型,7例がIVi型,Ic:9例中2例がI型,2例がIIIi型,1例がIIIr型,4例がIVi型,II:15例中1例がIIIi型,6例がIVc型,8例がIVi型,III:1例がIIIi型であった.鼓室後半部分に真珠腫が存在するIb,Ic,IIの場合,アブミ骨上部構造がなくIV型再建を要する率が高かった.(Fisher検定 p<0.001)

グラフ中の数字は症例数
Fisher検定 p<0.001
コルメラ材料は皮質骨8例,軟骨11例,TORP 3例,耳小骨9例であった.1例はリポジション(IIIr)であった.聴力改善が十分ではなく,3回目の手術を行って皮質骨からTORPに変更した例が1例,耳小骨からTORPに変更した例が1例あった.
5.段階手術2次手術における遺残段階手術を行った28例で検討した.段階的手術の場合の初回手術から2次手術までの期間は,中央値203日(153~393日)であった.
進展度別並びに手術方法別の遺残性再発の症例数を表2に示す.遺残性再発を認めたのは8例/28例であった.真珠腫のtype別の遺残率はopen type 5例/10例(50.0%),closed type 3例/18例(16.7%)であった.2例は段階的手術2次手術で遺残を認めたため,再度伝音再建は行わず,3回目の手術となっていた.4例は2次手術で遺残真珠腫を摘出し,伝音再建も行っている.その後の経過観察で再発を認めていない.手術方法別の遺残は,TEESが6例/16例(38%),MESが1例/3例(33%),Dual MES/TEESが1例/9例(11%)であった.真珠腫遺残部を図8に示す.前鼓室1例,鼓膜張筋腱2例,鼓室洞4例,乳突洞1例であった.
| 表2-1 真珠腫進展度別の遺残性再発症例数 | 表2-2 手術方法別の遺残性再発症例数 | ||
|---|---|---|---|
| stage | 段階手術 | 手術方法 | 再発 |
| Ia | 0/0 | TEES | 6/16 |
| Ib | 0/6 | MES | 1/3 |
| Ic | 2/6 | Dual MES/TEES | 1/9 |
| II | 6/15 | ||
| III | 0/1 | ||

伝音再建法別の聴力成績を表3に示す.31例中28例(90%)で成功となった.1型の症例数が少ないのは,純音聴力検査がまだ出来ない年齢が多かったためである.
| I型 | III型 | IV型 | |
|---|---|---|---|
| 気骨導差15 dB以内 | 2/4 | 3/4 | 11/23 |
| 聴力改善15 dB以上 | 0/4 | 0/4 | 3/23 |
| 聴力レベル30 dB以内 | 4/4 | 3/4 | 18/23 |
| 上記いずれかに該当 | 4/4 | 4/4 | 20/23 |
先天性真珠腫の多くは無症状で経過し,急性中耳炎や難聴の症状等で受診した際に偶然発見されることが多い.近年,先天性真珠腫の増加,手術時年齢の若年化が指摘されている2,5,6).今回我々が報告した症例の手術時年齢の中央値は5歳で,6歳以下が69%を占めていた.近年の内視鏡の普及に伴い,特に2011年以降で5歳未満の症例が増加しているという報告がある7).今回の検討は2013年以降の症例であり,若年での手術が多くなっているものと考えられる.海外では手術対象となった症例の年齢の中央値は3.5歳という報告もあり8),今後手術時年齢はさらに若年化する傾向にあることが予想される.先天性真珠腫増加の原因として,疾患がより認知されたこと,鼓膜穿孔が生じる前に早期発見・診断されることで,従来後天性真珠腫に分類されていたものが先天性真珠腫として正しく診断されるようになった可能性が挙げられている5,6).
今回の検討では,51例中31例(61%)が男児である.以前より原因は不明とされているが,先天性真珠腫は男児に多いことが複数報告されている7–11).
先天性真珠腫の手術法としては,従来はMESが主流であったが,近年TEESの選択肢が出現し,TEESやDual MES/TEESで施行することが多くなっている.先天性真珠腫はその多くが鼓室内に限局するもので,鼓室内の操作が中心であり,TEESで手術操作が十分可能,かつ有利であるためである12,13).今回の報告では,鼓室内に限局するStage Iの症例が35例(69%)と多く,そのうち33例(Stage I症例の92%)がTEESで手術を行っていた.内視鏡下では拡大して観察することができ,顕微鏡下では死角になる場所も明視下におくことが可能であるため,先天性真珠腫に対しては,TEESはよい適応と考えられる.
しかしながら,内視鏡も万能とは言えない.内視鏡を用いても段階手術にて8例(29%)で遺残性再発を認めているからである.小児の真珠腫性中耳炎に対して段階的手術を行った場合の再発率は30%程度という報告9,13,14)があり,内視鏡を用いてもほぼ同等であった.したがって段階的手術にする意義があると考えている.また,2次手術終了後の経過観察中に再発を認めた例もあることから,術後の経過観察,画像検査も必要と考える.一般的に,鼓膜張筋腱や鼓室洞,顔面神経窩などに及ぶ真珠腫は遺残のリスクが高い.今回の検討でも遺残がみられており,手術時のみならず術後の経過観察の画像検査でも注意を払っておく必要があることを示唆する.
進展度が進むほど手術時年齢は高く,早期発見すればより進展度が低い状態で手術を行うことができると考えられる.1996年の末武らの報告15)では乳突洞まで進展した例が多く,早期に発見されれば摘出も容易であるため,出来るだけ早期の発見に努めるべきだと述べている.今回の検討でも進展度が進むほど長い手術時間を要し,遺残性再発率も高いことが示され,早期発見は治療成績に影響を及ぼす因子であると言える.
術後の聴力成績としては,聴力改善度で成功となる例は少なく,術後気導聴力レベルで成功になる例が多かった.術前から真珠腫塊である程度アブミ骨に音が伝わっていること,小児は骨導聴力がよいことから気導聴力レベル30 dB以内を達成しやすいことが理由として考えられる.
真珠腫性中耳炎の治療成績として,再発に関しては再形成再発と遺残性再発に分けてそれぞれ検討する必要があるが,再形成再発の評価については長期間の経過観察が必要である.遺残性再発についても画像検査だけでは小さな真珠腫は発見出来ないため,一期的手術を行った場合,長期間経過後に明らかになることもある.今回の検討では観察期間が短い例を含んでいるため,再形成再発の評価をするのは適切ではないと考え,はっきり中耳内が確認出来る段階手術2次手術時の遺残に絞って検討している.この点は本検討の限界点である.段階手術2次手術後に画像上遺残が疑われて手術した例もあることから,段階手術後も長期の経過観察が必要であり,長期の観察期間を経た例での再発率の評価も必要であると考えている.
小児の先天性真珠腫症例51例の手術成績を検討した.先天性真珠腫は内視鏡手術のよい適応であるが,内視鏡を用いても遺残性再発は認めており,従来から真珠腫が遺残しやすいとされている鼓膜張筋腱や鼓室洞,などの部位に真珠腫が及んでいる場合は,注意深い手術と経過観察が必要である.よりよい治療成績を得るためには,早期発見,早期手術も重要である.
本論文の要旨は第19回日本小児耳鼻咽喉科学会(2024年6月伊勢)で口演した.
本研究は大阪大学医学部附属病院観察研究倫理審査委員会の承認(承認番号16329)のもとに行われたものである.
利益相反に該当する事項:なし