Journal of Intercultural Communication
Online ISSN : 2436-6609
Print ISSN : 1342-7466
Research Notes
An Exploration of Factors Influencing Interpersonal Relationships During Cross-Cultural Adaptation
A Questionnaire Survey of Chinese Residents in Japan
Bingying Zhang
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2025 Volume 28 Pages 41-54

Details
Abstract

本研究は、対人関係に係る異文化適応1に影響する要因を明らかにすることを目的に、162人の在日中国人を対象に質問紙調査を行った。対人関係の適応と関連する質問項目を因子分析にかけたところ、プライベートな人間関係、対日本人感情、パブリックな人間関係という3つの因子が抽出された。次に、パス解析によって各因子にどのような要因が関与しているかを考察した結果、日本語力、ソーシャル・サポートがプライベートな人間関係の適応に正の影響、滞日期間がパブリックな人間関係の適応に正の影響を与えていることが分かった。また、差別経験が対日本人感情とパブリックな人間関係の適応に負の影響を与えていることと、ソーシャル・スキルの下位尺度である外向型スキルがすべての因子に正の影響があることも明らかになった。

Translated Abstract

This study aimed to evaluate factors influencing interpersonal relationships during cross-cultural adaptation by conducting a questionnaire survey of 162 Chinese residents in Japan. Factor analysis identified three dimensions associated with interpersonal relationships: “private relationships”, “attitudes toward Japanese people”, and “public relationships”. Path analysis indicated that Japanese language proficiency, frequency of contact with Japanese people, and social support had positive effects on adaptation in private relationships, while the length of stay in Japan had a positive effect on adaptation in public relationships. However, attitudes toward Japanese people and adaptation in public relationships were negatively impacted by experiences of discrimination. Furthermore, social skills, specifically “extroverted communication skills,” were found to have positive effects on all three dimensions of interpersonal relationships in cross-cultural adaptation.

1.  はじめに

慣れ親しんだ環境から離れて新しい文化環境に移ることは、カルチャー・ショックを引き起こすことが多い(Oberg, 1960)。しかし、カルチャー・ショックは持続するものではなく、人は異文化での生活を通じてそれを乗り越え、適応していく。この過程は、Lysgaard(1995)のU型カーブ説やKim(1988)のらせんモデルで説明されている。しかし、研究の発展につれ、完全にこれらの説に従う事例は少なく、日本への適応では「留学3~4年の時点でも適応の回復がみられない場合がある」(高井, 1989, p.145)。そのような長い適応過程に影響を及ぼす要因としてこれまでに指摘されてきたのは、日本語力(上原, 1988)のほかに、ソーシャル・スキル(畠中・田中, 2015)やソーシャル・サポート(譚ら, 2013)などの要因であるが、各研究が扱う適応の指標が異なるため、研究結果にばらつきが見られる。例えば、滞日期間は適応と直接結びつかないとする研究(田中, 2000)もあれば、学習などの領域の適応と関連を持つが、対人関係領域とは無関係と報告した研究(上原, 1988; 佐々木・水野, 2000)もある。ソーシャル・サポートに関しても、ストレス緩和効果と全体的健康を向上させる直接効果がある(Cohen & Wills, 1985)とされるが、日本への適応ではその効果が検証できたとは言えない。研究、人間関係、情緒、環境・文化の4領域を含めた適応尺度を用いたJou & Fukuda(1995)では、指導教官以外の人からのサポートと適応との関連は見られなかった。一方で、譚ら(2013)は心身の健康、学生生活の2領域を含めた適応尺度を用いて、サポートと適応との正の関連を見出した。考察される領域が異なれば、要因の影響の度合いも異なるため、複数の領域を同時に扱うより、領域ごとに分けて考察したほうが望ましいと考えられる。

本研究は、中でも対人関係という領域に着目する。上原(1988)は、留学生の多くが対人関係に困難を抱えているとし、高井(1989)も、対人関係と関わる側面ほどアジア系留学生が不適応になりやすいと指摘している。また、留学後に日本で就職したとしても、人間関係上の葛藤が元留学生の適応を阻害しうるという指摘もある(鈴木, 2022)。しかし、異文化適応を総合的に見る研究が多く、不適応の要因を対人関係に限定して掘り下げた研究は少ない。そこで本研究は、対人関係に焦点を絞り、「他国の外国人と比べて対人関係により大きな問題を抱えている」(葛, 2019, p.35)とされる在日中国人を対象に、各影響要因が適応にどのように関わっているのかを見出すことを目的とする。

2.  研究目的と仮説

本研究は、留学生と元留学生の在日中国人を対象に、属性的要因(滞日期間)、能力的要因(日本語力、ソーシャル・スキル)、ソーシャル・ネットワーク要因(ソーシャル・サポート、差別経験)という3側面から、上述の課題に取り組む。各要因と対人関係の適応との間には、次のような関係を想定している。

まず、滞日期間について、先行研究では「対人関係の適応は滞在期間とは無関係」(上原, 1988など)という指摘が多かったが、中には留学生だけに焦点を当てた研究が多く、滞日3年の留学生は既に「滞在期間が長い」とされている。本研究は、留学生に加え、日本で就職した元留学生も対象にしているため、滞在期間と適応度合いとの間に関連が見られる可能性がある。よって属性的要因については、以下の仮説をとる。

仮説1. 日本への滞在期間が対人関係の適応に正の影響を与える。

能力的要因については、日本語力と適応との正の関連が既に多くの研究によって検証されている(上原, 1988; 田中, 2000など)。ソーシャル・スキルは、「対人場面において適切かつ効果的に反応するために用いられる」(相川・藤田, 2005, p87)スキルであり、古くから適応に正の影響を与えると指摘されてきた(早矢仕, 1996; 湯, 2004)。一方で、ソーシャル・スキルの中でも、個々の下位区分の役割に注目したものもある。例えば、畠中・田中(2015)では、「積極的関わり」は外国人に「有意義感」をもたらすが、「相手への心遣い」「行動意図推察」は精神的不健康をもたらすと報告されている。また、異文化間ではないが、関係開始スキルと記号化スキルは友人関係満足度を高められる(酒井・谷口・相川, 2016)、浅い関係においても関係開始スキルからの説明力が最も高い(田中・宮前, 2016)などとする研究もある。こうした知見を踏まえつつ、本研究は、以下の仮説を立てる。

仮説2. 日本語力が対人関係の適応に正の影響を与える。

仮説3. ソーシャル・スキルのうち、日本人と積極的に関わろうとするスキルが対人関係の適応に正の影響を与える。

ネットワーク要因に関しては、ソーシャル・サポートと差別経験を考察する。ソーシャル・ネットワークとは対人関係網そのものであり、ネットワーク要因は周囲との具体的な関りを指す。接触仮説(Allport, 1954)をもとにKlineberg & Hull(1979)は、11ヵ国・地域の留学生に調査し、ホストメンバーとの社会的相互作用が多いほど適応が良くなると示した。様々な相互作用の中でも、ソーシャル・サポート(周囲からの援助)からの正の影響は多くの研究(Sykes & Eden, 1985など)で確かめられている。しかし日本への適応では、日本人一般からのサポートは研究面の適応とは負の相関だが、指導教官からのサポートは対人関係の適応とは正の相関をなす(山本ら, 1986)、日本人一般からのサポートと適応とは無相関(Jou & Fukuda, 1995)、サポートと適応とは正の相関(譚ら, 2013)などの結論があり、研究間のばらつきが大きい。先行研究を見る限り、サポートの効果は適応の領域によって異なることが分かる。本研究では対人関係という一領域に視座を絞るため、サポートと適応との間には関連が見出されることが、自然に予想される。また、在日外国人への質的調査では、差別経験が適応を阻害する要因としてまとめられてきたが(葛, 2019; 張, 2023)、それに関する数量的検証が少ない。張(2024)は、差別を多く経験する外国人ほど日本人との付き合いで不安を感じやすいことを示したが、不安を感じることは必ずしも「不適応」とは言えず、さらに検証が必要である。よって、ネットワーク要因については以下の仮説をとる。

仮説4.サポートの経験頻度が対人関係の適応に正の影響を与える。

仮説5.差別の経験頻度が対人関係の適応に負の影響を与える。

次に、各要因間の因果関係を仮定する。まず、長期滞在は日本語力の向上に繋がることが多くの研究で確認されている(田中, 2000; 張, 2024)。また、日本語力がソーシャル・スキルを媒介して適応に正の影響を与えるとの報告(湯, 2004)から、日本語力はソーシャル・スキルの向上に寄与すると予想される。さらに、ソーシャル・スキルがサポートの充実を媒介しながら適応に正の影響を与える(田中, 2000)といった知見から、スキルの高さによって受けられるサポートの量が異なると予想がつく。最後に、サポートや差別の有無は、日本人との接触頻度といった周囲の環境に関り、その環境の形成に滞日期間と個人の能力も関与すると考えられる。以上のロジックで生成した仮説モデルを図1に示す。

図1

本研究における仮説モデル

3.  方法

3.1  調査の概要

本研究は、中国大陸出身の留学生・元留学生を対象に2023年1月上旬か5月下旬にかけて質問紙調査を行った。中国の各SNSで協力者を募集し、応募者の基本情報を確認したうえ、該当者にGoogle Formで作成した質問紙を送付した。本研究は、東京大学「ヒトを対象とした実験研究における倫理委員会」の承認(承認番号: 956-2)を得て実施された。実施時には、著者によって翻訳された中国語版を配布した。配布前には教育歴20年以上の日中バイリンガル日本語教師2名(中国人、日本人各1名)と相談の上、翻訳の訂正をした。

調査の結果、162の有効回答(男性84名, 女性78名; 留学生100名, 元留学生62名; 年齢20~39歳, M=26.28, SD=3.64)が得られた。滞日期間は、1年未満が41名、1~3年が40名、4~6年が50名、7~9年が20名、10年以上が11名であった。日本語力に関しては、「初級(簡単なやりとりしかできない)」が12名、「中級(普通にやり取りできるが苦労する時もある)」が70名、「上級(難しい表現を理解でき、流暢かつ正確に自己表現することができる)」が67名、「超級(母語話者並みの日本語力を持つ)」が13名であった。日本人との接触頻度については、「ほとんど接触していない」が9名、「わずかにある」が33名、「時々ある」が39名、「しばしばある」が81名であった。

3.2  質問紙構成と尺度の選定

質問紙は性別などを尋ねるフェースシートと、以下の尺度より構成した。①②は「まったくあてはまらない」「あまりあてはまらない」「だいたいあてはまる」「よくあてはまる」の4件法であり、③④は「経験したことがない」「1、2回経験した」「数回経験した」「何度も経験した」の4件法である。

①対人関係適応尺度18項目

日本人との関係性と対人関係への心理的適応の2側面を設定し、上原(1988)の適応尺度の対人関係領域から13項目、早矢仕(1996)から3項目、葛(2019)から1項目を選定して改変し、さらに1項目を追加して用いた。上原の尺度は日本における適応尺度として使用頻度が高いが(佐々木・水野, 2000など)、日本人との交際の広さ・深さを測る項目が多く、逆に日本人との心理的距離を示す項目は少なかった。そこで、後者に係る項目を早矢仕(1996)と葛(2019)からも選定した。さらに、外国人にとっては実際に差別があるかとは別に、差別的な雰囲気を感じるという主観的・心理的次元も不安をもたらす(張, 2024)ことを踏まえ、「私は、日本では差別的な雰囲気を感じている」を心理的適応として追加した。

②ソーシャル・スキル尺度19項目

コミュニケーション・スキルに関わる解読と記号化、対人スキルに関わる関係開始と関係維持という4側面を設定し、相川・藤田(2005)から8項目、早矢仕(1996)から11項目を選定・改変して用いた。ソーシャル・スキル尺度として広く知られているのはRiggio(1986)と菊池(1998)であったが、Riggioは言葉の理解・産出に関わるコミュニケーション・スキルしか想定していなかったのに対し、菊池は人との付き合いに関わる対人スキルしか想定していなかった。これらの尺度を批判的に捉えて作成した相川・藤田の尺度は、コミュニケーション・スキルと対人スキルを同時に測定できる点で優れている。また早矢仕の尺度は、日本特有のコミュニケーション様式を考慮しているため、参考価値も高いと考えられる。

③日本人からのサポート経験頻度尺度14 項目

道具的サポートと心理的サポートの2側面を設定し、周(1993)から13項目を選定して改変し、さらに1項目を追加して用いた。ソーシャル・サポートに関する研究では、資源提供や直接的支援に関わる道具的サポートと、情緒に働きかける心理的サポートの2タイプがまとめられている(Vaux, 1988)。周の尺度には、物質的、指導的、情報的、心理的の4タイプが含まれており、在日中国人への適用妥当性および信頼性も確認されている(Jou & Fukuda, 1995)。また、日本人から中国・中国文化への理解や尊重が、在日中国人の肯定的な感情を引き起こす(張, 2023)という指摘もあったため、「私の国の文化を認め、肯定的に評価してくれた」を心理的サポートとして追加した。

④日本人からの差別経験頻度尺度12項目

集団への攻撃、マジョリティからの排除、不平等な扱いの3側面を設定し、調査票「在留外国人に関する調査, 2020(寄託者: サーベイリサーチセンター)」の問 68「過去 5 年間に次の経験をしたことがあるか」の選択肢から8項目を選定して改変し、さらに4項目を追加して用いた。社会学では、集団に向けた攻撃、マジョリティからの排除、間接差別(形式上は平等でも結果的に一定の属性の人たちが不利益を被る)などの現象が差別として捉えられてきた(内藤, 2019)。当調査票の問68は外国人が経験した嫌がらせ・いじめについて尋ねているが、間接差別に関する項目は含まれていなかった。そこで本研究は選定した8項目に加え、従来の質的調査(葛, 2019; 張, 2023など)に見られた中国人被差別者の語りを参考に、学校や職場の内と外、それぞれの不平等について2項目ずつ追加した。

4.  結果

4.1  因子分析による尺度の検討

本研究では、データを用いて尺度ごとに最尤法(プロマックス回転)による因子分析を行い、単一因子への負荷量が.35以上、他の因子への負荷量が.30以下の項目を採用した。

対人関係適応尺度(表1)には 3 因子解を採用し、低い負荷量を示す項目を1つ2除外した。第1因子は、友人関係に関わる7 項目を「プライベートな人間関係」とした。第2因子は、日本人との心理的な距離を示す6項目を「対日本人感情」とした。第3因子は、学校・職場の人間関係を示す4 項目を「パブリックな人間関係」とした。

表1

対人関係適応尺度因子分析結果


2のソーシャル・スキルに関しては、2因子が抽出され、因子負荷が低い2項目3が除外された。第1因子は、日本の社会ルールに合わせた行動に関する12項目からなり、「調和型スキル」とした。第2因子は積極的に他者とのつながりを深めようとする6項目からなり、「外向型スキル」とした。

表2

ソーシャル・スキル尺度因子分析の結果


サポート経験頻度(表3)と差別経験頻度(表4)に関しては、いずれも1因子解を採用した。すべての項目が因子に対して高い負荷量を示したため、項目削除は行わなかった。

表3

日本人からのサポート経験尺度因子分析の結果


表4

日本人からの差別経験尺度因子分析の結果


以下では、逆転項目を処理した後、各尺度の項目平均点を尺度得点として分析を行った。各尺度の信頼性を検討するためにCronbachのα係数を計算した結果、α係数は.73~.93であるため(表5)、いずれの尺度も、相対的に高い内的整合性が認められた。

表5

各尺度の基本統計量


4.2  各要因と対人関係の適応との関連

滞日期間を1年未満、1~3年、4~6年、7年以上の4グループに分けて分散分析を行った結果、プライベートな人間関係(F(3,158)=5.12, p=.002, η2=.09)とパブリックな人間関係(F(3,158)=6.20, p=.001, η2=.11)で有意差が認められた。Tukey法による多重比較の結果、プライベートな人間関係では7年以上の滞在者は他のグループより適応が良く、パブリックな人間関係では4~6年と7年以上の滞在者は1年未満の滞在者より適応が良かった。

日本語力を初・中級、上・超級の2グループに分けてt検定を行った結果、プライベートな人間関係(初・中級M=1.92, SD=0.59; 上・超級M=2.41, SD=0.57; t(160)=5.44, p<.001, d=.85)、対日本人感情(初・中級M=2.47, SD=0.52; 上・超級M=2.67, SD=0.63; t(160)=2.18, p=.031, d=.34)、パブリックな人間関係(初・中級M=2.73, SD=0.60; 上・超級M=3.06, SD=0.59; t(160)=3.57, p<.001, d=.56)の全ての適応では、上・超級者のほうが適応が良かった。

適応尺度の3因子と、他の要因との相関係数を求めたところ、プライベートな人間関係は、調和型スキル(r=.35, p<.001)、外向型スキル(r=.53, p<.001)、日本人接触頻度(r=.42, p<.001)、サポート経験頻度(r=.53, p<.001)、差別経験頻度(r=.26, p=.001)と正の相関を示した。対日本人感情は、外向型スキルとは正の相関(r=.19, p=.018)、差別経験頻度とは負の相関(r=-.33, p<.001)が認められた。パブリックな人間関係は、調和型スキル(r=.28, p<.001)、外向型スキル(r=.27, p<.001)、日本人接触頻度(r=.20, p=.012)とは正の相関、差別経験頻度(r=-.24, p=.002)とは負の相関が確認された。

4.3  パス解析の結果

各要因から適応に影響するプロセスを検討するため、仮説モデルと4.2節の結果に基づき、各要因と、対人関係の適応の3因子との関連モデルを共分散構造分析により検討した。その上で、各要因から適応への間接効果を検討するために、リサンプリング数を5000回に設定したバイアス修正ブートストラップ法により、95%ブートストラップ信頼区間(CI)を推定した。適合度指標が最も高くなるようにパスを調整し、最終に得られたパス図を図2に示す。適合度指標はX2=30.01, df=22, P=.12, GFI=.97, AGFI=.92, CFI=.98, RMSEA=.048であり、高い適合度が示された。パス係数は標準化されたものを示してある。

図2

各要因と対人関係の適応との関連モデル

属性的要因に関しては、滞日期間からパブリックな人間関係には正のパス、ライベートな人間関係には日本語力(β=.09, 95% CI [0.002, 0.16])と日本人接触頻度(β=.05, 95% CI [0.01, 0.12])を経由した間接パスが認められたため、仮説1は部分的に支持された。

能力的要因に関しては、日本語力がプライベートな人間関係には正の影響、パブリックな人間関係には外向型スキルを媒介した間接的な影響 (β=.07, 95% CI [0.03, 0.16])を与えたため、仮説2も部分的に検証できた。一方、外向型スキルからプライベートな人間関係、対日本人感情、パブリックな人間関係に正のパスが認められたため、仮説3は支持された。調和型スキルは、適応とは直接の関りをもたないが、サポート経験頻度を通じてプライベートな人間関係に間接的な影響を及ぼした(β=.13, 95% CI [0.06, 0.22])。

ネットワーク要因に関しては、サポート経験頻度はプライベートな人間関係に正の影響を与えたことが示唆され、仮説4が部分的に支持された。差別経験頻度は対日本人感情とパブリックな人間関係に負の影響を及ぼした点において仮説5は部分的に支持されたが、プライベートな人間関係に直接な正の影響と、サポート経験頻度を媒介した間接的な正の影響(β=.12, 95% CI [0.06, 0.19])を与えた点において仮説とは異なった。

5.  考察と今後の課題

滞日期間については、4年以上の滞在者の方が1年未満の滞在者よりパブリックな人間関係の適応が良いことが4.2節で示され、滞日期間からパブリックな人間関係への正のパスも4.3節で確認された。パブリックな人間関係の場合は集団内メンバー間の協力関係や上下関係など、複雑な関係性が関わり、よって長期滞在に伴う経験の蓄積が重要である。先行研究では滞日期間が対人関係領域とは無関係とする報告(上原, 1988など)が多く、中でも滞日4年未満の留学生に着目したものが多かったが、本研究は滞日期間の長い元留学生を対象に含めることで、滞日期間と対人関係の適応の間の因果関係を見出すことができた。

日本語力と日本人接触頻度からプライベートな人間関係への正の影響は、「自己開示」で説明できる。言語を用いて自分の情報を伝える「自己開示」は親密さの向上や信頼関係の構築に効果がある(Jourard, 1971)とされている。日本人との接触が少ない、または十分な日本語力がないと、お互いの内面に触れ合うのが難しいため、ゆえに接触頻度と日本語力が高いほど日本人友人ができやすいと考えられる。また、日本語力は、ソーシャル・スキルのいずれの因子にも促進効果がある。日本語力が高い場合、言葉の理解・産出に関わるコミュニケーション・スキルも高まり、その結果ソーシャル・スキルも向上すると解釈される。日本人接触頻度はサポート経験頻度には促進効果があったが、差別経験頻度には関連がなかった。接触回数を重ねると信頼関係が築かれ、相手からの支援ももらえやすいだろう。一方で差別は、誰がするかわからない偶発体験であり、接触頻度の多寡に関わらず、国籍という情報だけで起こりうる(入居差別・接客差別など)と推測される。

外向型スキルが対人関係のどの側面においても重要であることは、田中・宮前(2016)などの報告と一致している。外向型スキルは、日本人と積極的に関わることで心理的距離の縮めと関係の親密化に繋がり、結果として異文化環境で良好な人間関係を築くことができると解釈される。また、調和型スキルからプライベートな人間関係への間接的な影響を明らかにすることで、ソーシャル・スキルの効果はその下位区分によって異なることも示唆できた。さらに、調和型スキルから差別経験頻度への負の影響も見られた。在日中国人が文化規範や日本人との接し方に成熟していないと、負のステレオタイプ的イメージを持たれる場合が多く、その結果差別にさらされやすいという可能性が考えられよう。

サポート経験頻度は、プライベートな人間関係と対日本人感情に正の影響を与えた。下斗米(2000)は友人関係における6種類の役割行動を提唱し、親密化過程のどの段階(顔見知り・友達・親友)においても支援性への期待度が最も高いと指摘したが、本研究では、支援を受けた経験が、異文化間友人関係の構築にも影響を与えることが窺えた。対日本人感情への正の影響は、Cohen & Wills(1985)の理論とAllport(1954)の接触仮説(ポジティブな集団間接触が多いほど集団間の偏見が減る)で解釈できる。日本人からサポートを受けた場合、対人関係に対する不安が軽減されると同時に、日本人に対するステレオタイプ的な認識も是正され、結果として対日本人感情もプラスになりやすいと考えられる。

差別から対日本人感情とパブリックな人間関係への負のパスは、基本質的調査でしか窺えなかかった差別の影響を量的に検証できたといえる。プライベートな人間関係に差別からの負の影響がなかったのは、自分を差別するような人とは、私的に関わることがないからと考えられる。それに対して学校・職場で先生や上司に差別された場合、集団から離れにくく、人間関係が悪化する可能性が高い。ただし、プライベートな人間関係への正の影響は現段階では説明が難しく、今後の検証が必要である。一方、差別からサポートへの正のパスは、直面するストレスフルな出来事が多いほど受けられるサポートの量も多くなる(Barrera, 1986)という理論で解釈可能だが、より具体的な事例に基づく説明が求められる。

本研究では、各要因と対人関係の適応との関連を示したが、仮説と異なった部分や、適応に直接関与しなかった要因については説明が不十分であり、さらに考察が必要である。今後は、要因間の関連を詳しく考察し、身分(留学生か元留学生か)や年齢などの要因も統制したうえ、各要因の影響をより詳細に検討していきたい。

1

異文化適応とは、「ある個人が自分の生まれ育った社会環境から離れて、異なった新たな環境に慣れていく過程という」(高井, 1989, p.139)。

2

「私の研究・勉強(仕事)について充分に話し合える人がいて満足している」を除外した。

3

「何かを頼んだりしたときの日本人の返事がYESなのかNOなのかを理解できる」「(R)日本人のことばが真意なのか真意でないのかを判断できない」を除外した。

References
 
© 2025 Society for Intercultural Education, Training and Research, author
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