Medical Journal of Shimane Prefectural Central Hospital
Online ISSN : 2435-0710
Print ISSN : 0289-5455
Review Article
Management of Intraoperative Hemorrhage in Thoracic Surgery
Jin Sakamoto
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RESEARCH REPORT / TECHNICAL REPORT FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2025 Volume 49 Pages 3-8

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概要

呼吸器外科手術における出血対応について総論として,術前の準備,一時止血,開胸手術へのコンバージョン,血管のテーピングについて解説した.また,各論として,肺循環,体循環の各血管における出血時の対応について,さらに,危機的出血時の対応と人工心肺などの血圧低下や低酸素血症に対する生命維持管理装置について解説した.本論文を当科のマニュアルとして使用し,今後もアップデートを行っていきたい.

【はじめに】

従来の開胸手術,胸腔鏡手術に加えて,ロボット支援手術や単孔式手術といった様々なアプローチが近年導入され,当科も2024年8月よりロボット支援縦隔腫瘍手術を導入した.それらは呼吸器外科医が成し遂げていた華々しい成果であり誇るべきことである.一方,手術における合併症としての出血は患者の命に関わるのみならず,外科医生命に関わる悲劇をおこす可能性があるため,できる限り回避すべきであることを肝に命じる必要がある.

初代ドイツ帝国宰相であるオットー・フォン・ビスマルクは,愚者は「経験」に学び,賢者は「歴史」に学ぶという格言を遺した.私が得られた少ない「経験」と比較して,論文や学会,セミナーで学んだ膨大な知識は先人たちの「歴史」と言える.さらに,言語化し,当科のマニュアルとして,誰が術者,助手であっても対応できる業務の標準化のため,本稿を作成した.

【総論】

術前の準備

物品(血管鉗子,血管テープ,ターニケット).止血のための医療材料(フィブリン糊,タコシール™,ハイドロフィットTM,サージセルニューニットTM,セクレアTM)の確認・購入,輸血の準備を行う.手術室チーム(外科医・麻酔科医・看護師)で症例の情報を事前に共有する.手術室チームで点滴のルートの確保(本数,場所),出血時の手順について事前に話し合っておく.術前カンファレンスの記録を必ずカルテに記載しておく.出血時に緊急で使用する器具(胸骨切開のための胸骨鋸(スターナルソー),開胸器,血管クランプ,追加の吸引チューブなど)は,手術室内に常備しておく.

一時止血

動脈であろうが静脈であろうが,まず,ツッペル,綿棒,ガーゼ,指での出血点の圧迫を行う.また,鉗子などで把持し,圧迫しやすい医療材料として,セクレアTMもある.また,肺動脈や静脈といった低圧系の血管の剥離中の出血であれば,鑷子で把持し剥離している血管鞘を戻して軽く押し付けることも可能である(図1).血管損傷が軽度であればこれで止血が完了することもある.肺動脈については血管壁が脆弱であるため,押さえすぎると損傷部を広げてしまう可能性があるので,血管の形を保つ程度に押さえると良いとされる1).圧迫止血の際に使用する外用止血薬としては,フィブリン糊やタコシールTMが一般的である.また,大動脈出血に対してハイドロフィットTMを塗布したサージセルニューニットTMでの圧迫止血が極めて有効であると報告されており,肺動脈からの出血に対しても応用できる2).出血量が少ない場合は綿球にゼリーを塗布したものに上記の外用止血薬を付けて直接貼布する2).出血量が多い場合はタコシールを損傷部位に近づけガーゼの圧迫を解除して貼付した後に再度ガーゼで圧迫する2)

肺動脈を直接圧迫しても止血が得られないときに行う圧迫止血方法として宮本らはLobe folding 法を報告している3).これは出血部位を肺で押さえるのではなく,肺門部肺動脈の場合は縦隔と肺葉の間に,葉間肺動脈の場合は二つの肺葉の間に挟み込む方法である3)図2).さらに,肺門部からの出血の場合は,心嚢を肺門から2㎝以上離して大きく切開し,心膜を複数個所で把持し,強く引き上げることで損傷部は心膜と背側の主気管支の間に挟み込まれ安定した一時止血が得られる3).その安定した状態で心嚢内での肺動脈本幹の確保が可能となる.

図1 血管鞘を戻して軽く押し付けることによる一時止血
図2 Lobe folding 法

コンバージョン

上記の一時止血ができれば,落ち着いて血管の修復方法と層を広げること(胸腔鏡下から開胸への移行)について検討する.血管のテーピングが必要な場合,縫合止血で胸腔鏡下での縫合処置が難しい場合は創部を広げ開胸手術へ移行する.いわゆるクールコンバージョンを行う2)

一時止血ができない場合は,緊急開胸,いわゆるパニックコンバージョンとなる.その場合は,第4または第5肋間開胸を迅速に行い,用手的圧迫止血を行う.血液の吸引のため,吸引は2系統以上必要である.危機的出血への対応ガイドライン4)に基づいて,麻酔科とも連携してショックを回避するため補液や輸血を行い,マンパワーを集めることが重要である.危機的出血への対応については後述する.

基本はクールコンバージョンであり,パニックコンバージョンはできるだけ避けることが重要と考える.当科では上記のロボット支援手術導入の際に,コンバージョンが必要な場合を次のように設定した.①手術時間が6時間以上見込まれる場合,②500ml以上の出血を認めた場合,③血管などの剥離が困難な場合,④横隔膜・大動脈への強固な癒着がある場合,⑤主気管支・大血管への腫瘍浸潤が疑われる場合であり,ロボット支援手術のみならず通常の胸腔鏡下手術にも適応される.

テーピング

コンバージョンを行い,用手的圧迫で一時止血が得られた後に検討されるのが,血管の中枢側の確保であり,テーピングを行う.太めの絹糸や布テープを用いることがあるが滑りが悪いので抜き取るのが難しくなり,結果的に二次損傷につながることがあるため,シリコン製(ベッセルループTM)がよいと考える.ただし,摩擦が少ないので牽引した方向に滑る可能性がある.テーピングの後のクランプについてはダブルループで行う方法,ターニケットで行う方法がある.前者を絹糸で行う場合,テーピング解除のためにループに絹糸を通しておく必要がある2)

【各論】

肺動脈

肺動脈は体循環の動脈と異なり,血管壁の中膜における弾性線維が希薄で脆弱であるにもかかわらず,体内のすべての血液が肺循環に入るため,血流量が多い5).また,出血の際には中枢側のみならず末梢側からのバックフローも問題となる.そのため,バックフローのコントロールを念頭に置いた手術手順が必要である.また,バックフローの制御のため,肺動脈出血部位の末梢側の確保以外に,肺静脈を確保することも検討する.

右肺動脈中枢(主肺動脈,肺門の上葉枝(上幹肺動脈(A1+3),中間肺動脈幹(A3)))

左との違いとして右肺動脈中枢には裏に気管支があるため,気管支に押し付けて圧迫止血ができる.一方で,上大静脈が右肺動脈中枢の前にあるため,右肺動脈中枢を確保するためには上大静脈を剥離,牽引・開排する必要がある.具体的に①心嚢外で肺動脈本幹へ到達する方法,②上肺静脈腹側と横隔神経の間で心膜を切開し上大静脈の外側で肺動脈本幹へ到達する方法,③上大静脈と大動脈の間から肺動脈本幹へ到達する方法5,6) (図3),④心膜横洞を介して上行大動脈と肺動脈幹をテーピングし(図4A),テープ右側を上行大動脈をくぐらせて大動脈の左側とし(同B),さらにテープ左側を左肺動脈をくぐらせる(同C)ことにより右肺動脈本幹最中枢で確保する方法がある7)

図3 右肺動脈本幹への到達方法
図4 心嚢内の解剖と右肺動脈本幹への到達方法

右肺動脈下流(葉間の上葉枝(A2),中葉枝(A4,A5),下葉枝(A6,A7-10))

これらの分岐からの出血において上下肺静脈の間から気管分岐下に抜けるルートを確保しクランプすることで下肺静脈以外の肺門構造の一括遮断が可能である7) (図5).下葉肺動脈からのバックフローはあるが,ある程度の止血を得られることで,落ち着いて次の対応(肺動脈中枢や下肺静脈の確保)ができる.胸腔内癒着がある症例において右下葉切除のみを行う場合,肺門部の癒着剥離は必要ないが,上記のような処置を想定して肺門部の癒着剥離を行っておくことが重要である.

図5 右下肺静脈以外の右肺門構造の一括遮断

左肺動脈中枢(主肺動脈,肺門の左上葉枝(A3,A1+2a,b))

左上葉切除は肺動脈の分岐が多い.末梢側の分岐から処理をしておき,中枢側の分岐を損傷した場合に,それらのバックフローをなくすことや末梢側の確保が行えるような手術手順を計画することが重要である.

右との違いとして左肺動脈中枢には裏に気管支がないため,気管支に押し付けて圧迫止血ができない.一方で,上大静脈がない点で,肺動脈中枢を確保しやすい.ただし,心嚢外で中枢を確保しても,第1枝(A3)からの出血の場合は距離が短いため不十分であり,心嚢内の確保は必要となることが多い.また,左肺動脈中枢を長く確保する方法としてボタロー靭帯を切離するelongation法(図6)がある.

左肺動脈下流(葉間の上葉枝(A1+2c,A4,A5),下葉枝(A6,A7-10))

出血部位の中枢側肺動脈の確保が必要であるが,バックフローが多く,末梢側の肺動脈または肺静脈を確保する必要がある.右と同様に胸腔内癒着がある症例においても止血処置を想定して肺門部の癒着剥離を行っておくことが重要である.

図6 左肺動脈中枢を長く確保する方法としてボタロー靭帯を切離するelongation法

肺静脈・左房

肺静脈中枢を剥離する際に左房組織の脆弱性2) や肺静脈を自動縫合器で切離する際に自動縫合器のミスファイヤーで出血が起こり得る.左心系であるため,損傷部位を確認しようとすると左房内に空気が入り空気塞栓の危険が生じるため,圧迫止血し可能であれば出血部位の左房側に血管鉗子をかける.この時点で鉗子がかけられなければ人工心肺の装着を行うことが安全とされる2).人工心肺については後述する.鉗子をかけることができれば,両側に牛心膜パッチをあて,3-0のSHプロリン糸TMでの水平マットレス縫合を5対程度行ったうえで鉗子を外して肺静脈を切離後over and over法で連続縫合を追加する.

体静脈

上大静脈,左腕頭静脈

低圧の静脈系でありガーゼによる圧迫止血や頭部を挙上し静脈圧を下げる操作が有用である.ガーゼでの圧迫で軽減することが多いため慌てて止血しない.出血部位の中枢側と末梢側を確保することが可能であれば止血操作は容易ではあるが,難しい場合は指で圧迫しながら損傷部位の両外側にU字縫合を行う.出血が軽減すれば精緻な止血を行う.組織が健常であればプレジェットは不要で,4-0プロリン糸TMでのZ縫合が有用とされる2).側臥位でのアプローチでは左の腕頭静脈を確保することは非常に困難であり2),圧迫止血しながら仰臥位として胸骨正中切開で損傷部の中枢,末梢側を確保,サイドクランプをする決断が重要と考える.上大静脈について完全遮断は問題ないとする論文もあるが,長時間になると脳圧亢進による脳浮腫が起こるため短時間で修復できる場合に限ったが方がよく,左腕頭静脈と右心耳の一時パイパスも検討する.

体動脈

大動脈弓,下行大動脈

可能であれば術前のCTを造影で撮影し,大動脈瘤,Penetrating atherosclerotic ulcerの有無,また,リンパ節や腫瘍が大動脈弓,下行大動脈に浸潤,癒着について注意深く評価することが重要である.それらが予想される場合,術前に心臓血管外科へコンサルトし,大動脈ステントグラフトの適応,手術適応,切除範囲などについて検討をすることさらに,通常大動脈弓,下行大動脈は左胸腔で観察されるが,右胸腔に蛇行した下行大動脈,動脈瘤が見られることがあるので注意する.

術中,偶発的にステープラなどで損傷すること,リンパ節の大動脈浸潤がある場合の郭清で損傷することが考えられる.その場合,心臓血管外科の応援を仰ぎ,中枢側と末梢側のクランプを行って修復を行うことになる.

大動脈分岐(腕頭動脈,左右鎖骨下動脈など)

上縦隔郭清,胸腺摘出術,縦隔鏡検査で起こり得る.屈曲し蛇行している場合があるので術前の画像で確認しておくことが重要である.

損傷してしまった場合は圧迫とタコシールなどの医療材料での止血が可能である場合もあるが,遠隔期に動脈圧により仮性動脈瘤を形成する場合があるため,必ず,術中,修復の必要性について心臓血管外科の助言を得ることが重要と考える.中枢,末梢の確保や直接縫合する場合は,側臥位では難しい場合が多く,仰臥位とし胸骨L字切開やTransmanubrial osteomuscular sparing approach (TMAアプローチ,図7)が必要になると考える.

図7 Transmanubrial osteomuscular sparing approach (TMAアプローチ)

危機的出血

日本麻酔科学会と日本輸血・細胞治療学会により策定された危機的出血への対応ガイドラインが存在する4).術中出血の場合に術者が麻酔科医と密に連携をとること,危機的出血の場合にコマンダーを当日の麻酔科責任者に依頼,輸血の準備やマンパワーの確保,臨床工学科との連携を依頼することになる8)と考える.ただし,日ごろからこのような危機的出血の可能性を念頭に,次に示すような人工心肺について,各科,部門と想定を行っておくことがより重要と考える.

人工心肺,PCPS(Percutaneous Cardiopulmonary Support)/ECMO(Extra-Corporeal Membrane Oxygenation)

仰臥位での人工心肺装着は大腿動静脈を用いることができるが,側臥位でのそれは大きな制限がある2).また手術室に人工心肺装置を持ち込めるスペースがあるかも確認しておく必要がある.

人工心肺とPCPS/ECMOはどちらも血圧低下や低酸素血症に対する生命維持管理装置である.人工心肺はヘパリン化を活性化凝固時間(activated clotting time, ACT)400秒以上とする必要があるため出血を助長する.PCPS/ECMOは必要なACTは200~250秒とされ,抗血栓処理をした材料を使用することによりさらに低いACTで可能である点で優れる9).しかし,肺循環の出血に対して人工心肺が肺循環の血流をほぼすべてバイパスできるのに対して,PCPS/ECMOは一部しかできない.そのため,肺循環の危機的出血の場合は人工心肺が必要と考える.さらに,人工心肺は術野の出血を吸引・回収し,人工心肺回路に戻すことで循環を維持できる.一方,PCPS/ECMOは出血を吸引・回収できないので危機的出血の場合,大量・急速輸血ができなければ,循環を維持できない.そのため,肺循環および体循環からのいずれの危機的出血の場合も,人工心肺で対応することが多い.

報告では右開胸,左側臥位での上下大静脈脱血,上行大動脈送血での人工心肺10)や左開胸,右側臥位での肺動脈脱血,左大腿動脈送血での人工心肺の報告8)がある.ただし,通常は側臥位での人工心肺導入は困難と考えられ,自施設の実情に即して心臓血管外科,臨床工学科と協議しておく必要がある.

現在当科が通常使用している手術室は人工心肺とPCPS/ECMOとも持ち込めるスペースはあるが,人工心肺は大きいため,配置に工夫を要する.また,右側臥位の手術では半側臥位または仰臥位とし,側方開胸を前方まで伸ばし,場合によっては胸骨を横切開または縦切開(正中切開)を加え,術野から上行大動脈送血,右房脱血(中枢送脱血)を行う.左側臥位の手術では仰臥位とし,大腿静脈,大腿動脈からの脱血(末梢送脱血)となり,出血の制御のため,右と同様に側方開胸を前方まで伸ばし,場合によっては胸骨を横切開または縦切開(正中切開)を加える必要がある.

【おわりに】

呼吸器外科手術における出血の対応について述べた.本論文を当科のマニュアルとして使用し,今後もアップデートを行っていきたい.

【文献】
  • 1)    伊藤 宏之: 第Ⅱ部第1章 術中合併症への対応.イラストで理解する呼吸器外科手術のエッセンス (南江堂), 2021;247-261
  • 2)    碓永 章彦,  福本 紘一: 総論第8章 呼吸器外科に必要な心臓外科手術手技.呼吸器外科morbidity and mortality conference (南山堂),2023;60-66
  • 3)    宮本 好博: 胸腔鏡下手術における肺動脈出血の対応.日外会誌, 2017;118(1): 71-73
  • 4)  日本麻酔科学会, 日本輸血・細胞治療学会: (日本麻酔科学会指針・ガイドライン) 危機的出血への対応ガイドライン, https://anesth.or.jp/files/pdf/0129kikitekiGL_poster_data.pdf 【2024-09-30】
  • 5)    淺村 尚生: I-3,2 肺血管に用いる基本手技.淺村・呼吸器外科手術 (金原出版), 2011;52-62
  • 6)    奥村 栄: 基本手技:開胸.がん研スタイル 癌の標準手術肺癌 (メジカルビュー社), 2019;31-41
  • 7)    坪地 宏嘉: 再手術・癒着剥離のコツ.第76回日本胸部外科学会定期学術集会Postgraduate Course呼吸器外科テキスト (日本胸部外科学会), 2023;237-274
  • 8)    城戸 晴規,  駒澤 伸泰,  今城 幸裕, 他: 肺動脈損傷による無脈性心停止後,人工心肺下に修復を行い救命できた1症例.麻酔, 2015;64(12): 1247-1250
  • 9)    百瀬 直樹: 8 補助循環.人工心肺ハンドブック (中外医学社),2004;135-146
  • 10)    宮本 光,  月岡 卓馬,  泉 信博,他: 右胸腔内から送脱血をおこない,人工心肺使用下に左房合併切除を行った右肺下葉肺門部肺癌の一例.肺癌, 2018;58(6): 497
 
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