Symposium on the Chemistry of Natural Products, symposium papers
Online ISSN : 2433-1856
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Novel Synthetic Method of C-O Bonded Gallate and Total Synthesis of Cornusiin G
Tsukasa HirokaneYasuaki HirataTakayuki IshimotoKentaro NishiiHidetoshi Yamada
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新規C-O結合型ガラートの構築法とコルヌシインGの全合成

【緒言】エラジタンニンは,加水分解によってエラグ酸と多価アルコールを生じるタンニンの総称である。千種類以上の天然物が知られる程の構造多様性を持つが,基本形はグルコースのガロイル,及びヘキサヒドロキシジフェノイル(HHDP)エステルである(Figure 1)。これらエステル結合の位置,数の違いが構造多様性を生み出すが,それだけで千種類は難しい。エラジタンニンの多様性を担う別の重要な構成要素として炭素―酸素間で結合したジガラート構造(C–Oジガラート)があり,約4割ものエラジタンニンにその構造を観ることができる。C–Oジガラートは,ガロイル基同士,またはガロイル基とHHDP基がAryl–O–Aryl結合した構造であり,デヒドロジガロイル(DHDG)基,バロネオイル基,テルガロイル基等が知られ,多量化エラジタンニンの構成要因になっている。

Figure 1. C–Oジガラート構造を有するエラジタンニン

 C–Oジガラートの化学合成は,Feldmanら1)と阿部ら2)が報告している。しかし,これらの合成法は適用範囲が狭く,エラジタンニンの構造多様性を化学合成で実現できない。今回,その多様性実現に耐えるC–Oジガラートの統一的な合成法の確立と,バロネオイル基を有するコルヌシインG(2)の合成研究を報告する。

【合成戦略】C–Oジガラートを含むエラジタンニンの構成ユニットのカルボン酸部分は,糖の有無(Figure 1, 1)や,構造が異なる糖とエステル化している(2と3)等,非対称であることが多い。本研究では,このような化合物の合成にも対応できる合成経路の確立を目的とした。そのため,C–Oジガラートのカルボン酸部分をアルデヒドとして区別した4(Scheme 1)を鍵合成中間体として設計した。DHDG基とバロネオイル基のAryl–O–Aryl結合はo-三置換構造であり,大きな立体障害のため遷移金属を利用したクロスカップリング法で合成しにくい3)。ましてテルガロイル基はo-四置換である。そのため,この結合は,オルトキノン(oQ)モノケタール6へのヒドロキシ基のoxa-Michael付加によって構築しようと計画した。ここで,6をモノケタ

Scheme 1. C–Oジガラート構造の合成戦略

ール構造としXにハロゲンを導入した設計が,本合成計画が成功した鍵となった。オルトキノンのままだと,自己ヘテロDeals−Alder反応が起き,XがHだと9とC–C結合する4)。モノケタールとすることで化合物の安定性を得,XをハロゲンとすることでC–C結合形成を抑え,同時に,ケトンではなくアルデヒドのβ位で1,4-付加できることを期待した。この方法で生じる5を目的の4とするには,oQモノケタール部位の還元が必要である。5はアルデヒドや「Aryl」と記した部分にエステルを有し,8を用いた場合はベンジリデンアセタールも存在する。これらの中で,oQモノケタールだけを還元することに挑戦した。oQモノケタール 6は,没食子酸から誘導した7を酸化すれば得られるだろう。この合成戦略に従い,まず最も単純なデヒドロジガロイル基合成を目指して各合成段階を確立し,その後より大きなバロネオイル基,テルガロイル基への展開と

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【緒言】エラジタンニンは,加水分解によってエラグ酸と多価アルコールを生じるタンニンの総称である。千種類以上の天然物が知られる程の構造多様性を持つが,基本形はグルコースのガロイル,及びヘキサヒドロキシジフェノイル(HHDP)エステルである(Figure 1)。これらエステル結合の位置,数の違いが構造多様性を生み出すが,それだけで千種類は難しい。エラジタンニンの多様性を担う別の重要な構成要素として炭素―酸素間で結合したジガラート構造(C–Oジガラート)があり,約4割ものエラジタンニンにその構造を観ることができる。C–Oジガラートは,ガロイル基同士,またはガロイル基とHHDP基がAryl–O–Aryl結合した構造であり,デヒドロジガロイル(DHDG)基,バロネオイル基,テルガロイル基等が知られ,多量化エラジタンニンの構成要因になっている。

Figure 1. C–Oジガラート構造を有するエラジタンニン

 C–Oジガラートの化学合成は,Feldmanら1)と阿部ら2)が報告している。しかし,これらの合成法は適用範囲が狭く,エラジタンニンの構造多様性を化学合成で実現できない。今回,その多様性実現に耐えるC–Oジガラートの統一的な合成法の確立と,バロネオイル基を有するコルヌシインG(2)の合成研究を報告する。

【合成戦略】C–Oジガラートを含むエラジタンニンの構成ユニットのカルボン酸部分は,糖の有無(Figure 1, 1)や,構造が異なる糖とエステル化している(23)等,非対称であることが多い。本研究では,このような化合物の合成にも対応できる合成経路の確立を目的とした。そのため,C–Oジガラートのカルボン酸部分をアルデヒドとして区別した4(Scheme 1)を鍵合成中間体として設計した。DHDG基とバロネオイル基のAryl–O–Aryl結合はo-三置換構造であり,大きな立体障害のため遷移金属を利用したクロスカップリング法で合成しにくい3)。ましてテルガロイル基はo-四置換である。そのため,この結合は,オルトキノン(oQ)モノケタール6へのヒドロキシ基のoxa-Michael付加によって構築しようと計画した。ここで,6をモノケタ

Scheme 1. C–Oジガラート構造の合成戦略

ール構造としXにハロゲンを導入した設計が,本合成計画が成功した鍵となった。オルトキノンのままだと,自己ヘテロDeals−Alder反応が起き,XがHだと9とC–C結合する4)。モノケタールとすることで化合物の安定性を得,XをハロゲンとすることでC–C結合形成を抑え,同時に,ケトンではなくアルデヒドのβ位で1,4-付加できることを期待した。この方法で生じる5を目的の4とするには,oQモノケタール部位の還元が必要である。5はアルデヒドや「Aryl」と記した部分にエステルを有し,8を用いた場合はベンジリデンアセタールも存在する。これらの中で,oQモノケタールだけを還元することに挑戦した。oQモノケタール 6は,没食子酸から誘導した7を酸化すれば得られるだろう。この合成戦略に従い,まず最も単純なデヒドロジガロイル基合成を目指して各合成段階を確立し,その後より大きなバロネオイル基,テルガロイル基への展開と,全合成への応用を試みた。

【DHDG基構築法の開発】DHDG基構築法の開発に当たり,まず,oxa-Michael付加・脱離を経るカップリング段階を確立した。o-ブロモフェノール12の酸化には,BnOHの共存下でPIFA5)を用いる反応条件が,対称ケタール13を得るために効果的であった(Scheme 2)。oQモノケタール 13へのフェノール8または9oxa-Michael付加・脱

Scheme 2. DHDG基の合成

離は,求核剤を1.3当量用い,塩基と溶媒をそれぞれK2CO3とMeCNとした条件が最適であり,カップリング生成物1415をそれぞれ96%及び60%の収率で得た。この収率の差は,フェノールの反応性が立体障害に影響される事を示している。求核剤が求電子剤13より0.3当量多いのは,本反応が熱による13の分解と競争するためである。溶媒効果も顕著であり,8を用いた検討では,DMSO,DMF,THF,CH2Cl2を用いるとそれぞれ収率が99%,87%,0%,0%であった。Na2CO3,Cs2CO3,K3PO4を塩基とした結果,どれも収率を大きく落とした。

 次にoQモノケタール部分の還元方法を確立した(Table 1)。oQの還元では一般的な

Table 1. oxa-Michael付加・脱離と還元的芳香環化の最適化

NaBH4を用いると,アルデヒド部分も同時に還元された(Entry 1)。アセタールの還元的開裂に使われるEt3SiHとTFAを用いると複雑な混合物となった(Entry 2)。ラジカル条件に付すと(n-Bu3SnHとAIBN; Entry 3),中程度の収率で望む16が得られた。更に検討する中で,この還元は,ケタールとそれに隣接するアルケン部分を太線で示したように「アリルエーテル」に見立て,そこから生じるπ-アリルパラジウム錯体の還元を意図すると効果的であることが明らかになった。すなわち,Pd(PPh3)4を触媒としEt3SiHを還元剤とした時に効果的な還元が起こった。この反応では,溶媒がトルエンのとき,目的の16と同時に16のヒドロキシ基がTES化された化合物も副生し,TBAFによる脱TES化を要した(Entry 4)。最適条件は溶媒をDMFとした時で,16だけが高収率で得られ(Entry 5),DHDG基構築法を確立できた。この還元条件は基質15にも適用でき,対応するDHDG誘導体17を高収率で得た(Entry 6)。

【バロネオイル基の構築】前項で述べたDHDG基合成法を,バロネオイル基合成に展開した(Scheme 3)。軸不斉HHDP誘導体10のフェノール部分と13との反応は,13

Scheme 3. バロネオイル基の合成

を1.5当量用いる必要があったが,収率93%で18を得た。oQモノケタールの還元にも前述した最適条件を適用でき,収率75%で19を合成し,バロネオイル基の合成を完成した。19の構造は,既知物20へ誘導して確認した2)

【テルガロイル基の合成】同様の方法で,テルガロイル基を初めて化学合成した(Scheme 4)。求核剤11の合成は,ガロイル基の4位に異なる保護基を導入したジガ

Scheme 4. テルガロイル基の合成

ラート21の分子内フェノールカップリングから始めた。Bn基に替えて用いる保護基はNap基が最適で,93%の収率でテトラオール22を得た。ヒドロキシ基をMOM基で保護し,DDQによりNap基を除去してフェノール11とした6)。これを求核剤としたoxa-Michael付加・脱離反応は,求核剤の立体障害が大きいため先に述べたDHDG基あるいはバロネオイル基合成の場合より進行が遅く,競争する臭化物13の分解が顕著になった。そのため,13を4当量要した。さらに,反応溶媒と温度をDMSO,70 °Cに変更することで24の収率を91%に上げた。oQモノケタール部分の還元には,最適条件をそのまま適用でき,テルガロイル基誘導体25を合成した。

【コルヌシインGの全合成研究】C–Oジガラートの合成法を適用し,コルヌシインG(2)の合成を検討した。2は,奥田らによってCornus officinalisの果実から単離,構造決定されたバロネオイル基を有する二量体エラジタンニンである7)

 コルヌシインG(2)の合成には,4,4’-ジオールを有する新規合成中間体26を用いた(Scheme 5)。26のベンジル化では,Full-Bn体,4’位−モノヒドロキシ体(28),4位−モノヒドロキシ体(27),回収された原料26の4種類を混合物として得たが,カラムクロマトグラフィーにより,全て分離できた。得られた27を用いた13へのoxa-Michael付加により,収率93%でアリールエーテル29を得た。続く還元で得た30のヒドロキシ基をBn化した後,アルデヒドをPinnick酸化し,カルボン酸31へと誘導した。現在,4,6-ジオール32とのエステル化を検討している。

Scheme 5. コルヌシインG(2)の合成研究

【まとめ】私達は13oxa-Michael付加受容体として優れていることを見出し,DHDG基,バロネオイル基,テルガロイル基を含めたC–Oジガラートの統一的な構築法の開発に成功した。その方法は,13へのoxa-Michael付加,脱離,oQモノケタール部分の選択的な還元の3段階で成立する。また,脱保護できるバロネオイル基,及びテルガロイル基誘導体の合成と,非対称な保護基を導入したジガラートの分子内Aryl–Arylカップリングは,本研究によって初めて達成された成果である。これらの方法を組み合わせることで,化学合成できるエラジタンニンの数を革新的に増やすことができると考えている。

【参考文献】(1) Feldman, K. S.; Sahasrabudhe, K. J. Org. Chem. 1999, 64, 209–216. (2) Abe, T.; Sahara, Y.; Matsuzaki, Yuki.; Takeuchi, Y.; Harayama, T. Tetrahedron Lett,. 2008, 49, 605–609. (3) Bestson, S. M.; Clayden, J.; Worrall, P. C.; Peace, S. Angwg. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 5803–5807. (4) Quideau, S.; Feldman, K. S. Chem. Rev. 1996, 96, 475–503. (5)本稿では以下の省略語を用いた。AIBN: 2,2'-azobisisobutyronitrile, Bn: benzyl, Bu: butyl, DDQ: 2,3-dichloro-5,6-dicyano-1,4-benzoquinone, DMF: dimethylformamide, DMSO: dimethyl sulfoxide, equiv: equivalent, Et: ethyl, Me: methyl, MOM: methoxymethyl, Nap: 2-naphthylmethyl, Ph: phenyl, PIFA: [bis(trifluoroacetoxy)iodo]benzene, TBAF: tetrabutylammonium fluoride, TES: triethylsilyl, TFA: trifluoroacetic acid, THF: tetrahydrofuran. (6) Liao, W.; Locke, D. R.; Matta, L. K. Chem. Commun. 2000, 369–370. (7) Hatano, T.; Yasuhara, T.; Abe, R.; Okuda, T. Phytochemistry 1990, 29, 2975–2978.

Novel Method for Synthesis of Digalloyl Structures Connected by C–O

and Synthetic Study of Cornusiin G

 
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