Symposium on the Chemistry of Natural Products, symposium papers
Online ISSN : 2433-1856
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Total Synthesis of Omaezallene and Determination of its Absolute Stereochemistries
Taiki UmezawaShohei YamazakiYuko OguriHiroshi MatsuuraMasahiro SuzukiTatsufumi OkinoFuyuhiko Matsuda
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オマエザレンの全合成と絶対立体化学の決定

Omaezallene (1)は、2007年に静岡県御前崎で採取されたソゾ属から単離された天然有機化合物であり、タテジマフジツボのキプリス幼生の付着を低濃度(EC50 = 0.22 mg / mL)で阻害することが明らかにされている。船底などにフジツボなどが付着すると航行速度の低下を引き起こし、燃費が劇的に悪くなる。付着阻害物質として、これまでは有機スズ化合物が世界中で広く使用されてきたが、貝類の成長阻害を引き起こしたり、メスの巻貝をオス化させるなど、その毒性のため2008年に国際海事機関 (IMO)によってその使用が禁止された。そのため、毒性の少ない天然有機化合物由来の付着阻害物質の創製が求められており、1はそのリード化合物として期待される。1の立体化学は以下のように推定した。ブロモアレンを除く部分の相対立体配置は天然の1をアセトニド化し2環性化合物2に導いた後にNOE測定し、その相関から図のように推定したが、C9位の相対立体化学については、NOEだけでは確定できなかった。ブロモアレンの絶対立体化学は、1の比旋光度が-127で負の値であったことから、Lowe則1)によりRであると推定した。しかしながら、アレンに対するTHF環部の相対立体化学およびアレン以外の絶対立体化学は類似化合物であるAplysiallene2)との比較による推定にとどまった。今回、Omaezalleneの全合成を達成するとともに、その絶対立体化学を確定することができた。本発表ではその詳細について発表する。

合成計画

構造決定を行うためには、1つの中間体から、予想される2種の立体異性体(Rのブロモアレンに対する、THF環部の両エナンチオマー)に柔軟にアプローチできるルートが理想である。このことを念頭に置いて、Scheme 1に示すOmaezalleneの合成計画を立案した。D-glucoseから誘導できる既知のアルデヒド3を出発化合物に用いて、Wittig反応でE-オレフィンを構築後、アセタールを脱保護して得られるヘミアセタールに対して、アセチリドを付加してトリオール4を合成する。4にNBSなどを作用させるブロモエーテル化によって2連続不斉中心を一挙に構築し、テトラヒドロフラン 5とする。次に、Aplysialleneをはじめとしたブロモアレン類の合成の際にも用いられた既知の方法を適用して、立体特異的に進行するブロモアレン化、続く保護基の変換を経てアルデヒド6へと導く。最後に、アルデヒドを足掛かりとしたC9位水酸基の導入を経て、ブロモジエンを構築後、脱保護によって1を合成することにした。また、THF環部のもう一方のエナンチオマーの合成には3の隠れた対称性を利用することにした。すなわち、3にアセチリドを付加して7とし、アセトニドの脱保護により得られるアセタールにWittig試薬を作用させると、ent-4が合成できると考えた。

Scheme 1. Synthetic Plan toward Omaezallene

アルデヒド6の合成

D-glucoseから5段階で合成した3を用いて、E-選択的Wittig反応を試みた。トリフェニルホスフィン由来の試薬ではEZ選択性は最高で2:1にとどまったが、Martinらが報告したトリブチルホスフィンから合成したWittig試薬3では10:1にまで選択性が向上した。エステルを還元し、生じた水酸基を保護し

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Omaezallene (1)は、2007年に静岡県御前崎で採取されたソゾ属から単離された天然有機化合物であり、タテジマフジツボのキプリス幼生の付着を低濃度(EC50 = 0.22 mg / mL)で阻害することが明らかにされている。船底などにフジツボなどが付着すると航行速度の低下を引き起こし、燃費が劇的に悪くなる。付着阻害物質として、これまでは有機スズ化合物が世界中で広く使用されてきたが、貝類の成長阻害を引き起こしたり、メスの巻貝をオス化させるなど、その毒性のため2008年に国際海事機関 (IMO)によってその使用が禁止された。そのため、毒性の少ない天然有機化合物由来の付着阻害物質の創製が求められており、1はそのリード化合物として期待される。1の立体化学は以下のように推定した。ブロモアレンを除く部分の相対立体配置は天然の1をアセトニド化し2環性化合物2に導いた後にNOE測定し、その相関から図のように推定したが、C9位の相対立体化学については、NOEだけでは確定できなかった。ブロモアレンの絶対立体化学は、1の比旋光度が-127で負の値であったことから、Lowe則1)によりRであると推定した。しかしながら、アレンに対するTHF環部の相対立体化学およびアレン以外の絶対立体化学は類似化合物であるAplysiallene2)との比較による推定にとどまった。今回、Omaezalleneの全合成を達成するとともに、その絶対立体化学を確定することができた。本発表ではその詳細について発表する。

合成計画

構造決定を行うためには、1つの中間体から、予想される2種の立体異性体(Rのブロモアレンに対する、THF環部の両エナンチオマー)に柔軟にアプローチできるルートが理想である。このことを念頭に置いて、Scheme 1に示すOmaezalleneの合成計画を立案した。D-glucoseから誘導できる既知のアルデヒド3を出発化合物に用いて、Wittig反応でE-オレフィンを構築後、アセタールを脱保護して得られるヘミアセタールに対して、アセチリドを付加してトリオール4を合成する。4にNBSなどを作用させるブロモエーテル化によって2連続不斉中心を一挙に構築し、テトラヒドロフラン 5とする。次に、Aplysialleneをはじめとしたブロモアレン類の合成の際にも用いられた既知の方法を適用して、立体特異的に進行するブロモアレン化、続く保護基の変換を経てアルデヒド6へと導く。最後に、アルデヒドを足掛かりとしたC9位水酸基の導入を経て、ブロモジエンを構築後、脱保護によって1を合成することにした。また、THF環部のもう一方のエナンチオマーの合成には3の隠れた対称性を利用することにした。すなわち、3にアセチリドを付加して7とし、アセトニドの脱保護により得られるアセタールにWittig試薬を作用させると、ent-4が合成できると考えた。

Scheme 1. Synthetic Plan toward Omaezallene

アルデヒド6の合成

D-glucoseから5段階で合成した3を用いて、E-選択的Wittig反応を試みた。トリフェニルホスフィン由来の試薬ではEZ選択性は最高で2:1にとどまったが、Martinらが報告したトリブチルホスフィンから合成したWittig試薬3では10:1にまで選択性が向上した。エステルを還元し、生じた水酸基を保護してピバロエート9とした。9のアセトニド基の脱保護でヘミアセタール10とし、ヘミアセタールに過剰のGrignard試薬を作用させると、トリオール4が5:1のジアステレオ選択性で得られた。Scheme 3で後述するように、主生成物が新たに生じた水酸基について目的の立体化学を有していた。このことは、10と平衡状態にあるa-ヒドロキシアルデヒドのキレーションコントロールによるものであると推定している。次に、ブロモエーテル化を試みた。Moriwakeの報告4をもとに、アセトニトリル中でNBSを加えると、速やかに反応が進行した。いくつかの副生成物がごく少量得られてきたが、主生成物はテトラヒドロフラン 11であり、後述するように、目的のジアステレオマーを優先して与えた。プロパルギルアルコール部分のみを選択的にスルホネート化して12とし、残る水酸基をシリル化して5を得た。SN 2’型反応により立体特異的にブロモアレン13を合成した。この際、異性体などの副生成物は生じなかった。最後に、DIBALによる水酸基の脱保護により、アルコール14を合成し、Dess-Martin酸化でアルデヒド6へと導いた。

Scheme 2. Synthesis of aldehyde 6

立体化学の確認

前述の合成の際に生じた新たな立体化学は、Scheme 3に示すように決定した。4をアセトニド化したところ、1,2-や1,4-保護体は得られず、1,3-ジオールのみが保護され、アセトニド15を与えた。残った水酸基に(S)-および(R)-MTPAエステルをそれぞれ導入し、新Mosher法を適用して、4の新たに生じた水酸基の立体化学が目的のRであると決定した。一方、12の2連続不斉中心ついては、2環性ラクトンへと導くことで相対配置を決定した。すなわち、12のピバロイル基を除去して、ジオール17とした後に、TEMPO酸化するとラクトン18が得られた。18のNOE測定の結果、図に示す3連続シスプロトンの相関をそれぞれ観測したことから、目的の立体化学であると確認した。

Scheme 3. Determination of stereochemistries of 4 and 12

C9位水酸基の導入とその立体化学の決定

アルデヒド6の合成が完了したので、残る不斉中心であるC9位水酸基の構築を経た炭素鎖伸長を試みた。a-ブロモアルデヒドに対する求核剤を種々検討した結果、シアノ基が有効であることを見出した。すなわち、TMS-CNを触媒量のEt3Nの存在下で作用させると、シアノヒドリンのジアステレオマーの混合物が1.2:1の割合で得られた。6)これらの混合物は、シアノヒドリンから3工程 (シアノ基のアルデヒドへの還元、E選択的HWE反応、エステルの還元)の変換で得られるアリルアルコール20とすることで、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより20a20bに分離することができた。なお、分離したC9位に関する両ジアステレオマーの立体化学は、20a20bそれぞれから3工程でMTPAエステル21a21bとし、新Mosher法を適用することで決定した。

Scheme 4. Synthesis of allylalcohol 20 and determination of stereochemistry at C9

Omaezalleneの全合成と絶対立体化学の決定

C9位の不斉中心が構築できたので、残る課題であるブロモジエン部の合成を経て、Omaezalleneの全合成を行った。20a20bそれぞれのアリルアルコールをDess-Martin酸化して得られるアルデヒドに対し、反応系中で試薬をブロモ化するWittig反応7)を適用すると、E:Z=2:1の混合物として目的物22a22bを得ることができた。最後に、HF-Pyridineを用いてシリル基を除去し、OmaezalleneのC9位に関する両ジアステレオマー1a1b (幾何異性体の混合物)を合成することができた。それぞれの幾何異性体はHPLCで分離可能であった。各化合物の1H-NMRスペクトルを比較したところ、20aから誘導したE-1a1H-NMRが天然物のそれと完全に一致した。E-1aの比旋光度は-88.2 (c 0.91, CHCl3)であり、天然のOmaezalleneが-127 (c 0.41, CHCl3)であったことから、Omaezalleneの絶対立体化学はScheme 5に示した構造を有していると決定した。なお、E-1bの比旋光度は-72.5 (c 0.71, CHCl3)であった。一方、C9位エピマーである20bから誘導したE-1bZ-1bの比旋光度は、それぞれ+108.0 (c 0.23, CHCl3)および+219.4 (c 0.12, CHCl3)であった。E-1bZ-1bのブロモアレンの立体化学はE-1aZ-1aと同じであるが、比旋光度の符号が逆転した。ブロモアレン類は、旋光度の絶対値が大きくLowe則によって絶対立体化学が推定されることが多いが、ブロモアレン以外に大きな旋光度を示すキラルな構造を持つ場合には適用できないことに留意すべきであろう。

Scheme 5. Total synthesis of Omaezallene

まとめ

既知化合物のアルデヒド3から、E-オレフィンのブロモエーテル化反応による臭素原子を含む2連続不斉中心の立体選択的構築を鍵反応に、18段階でOmaezalleneの全合成を達成した。本合成の結果、Omaezalleneの絶対立体化学を(1R, 4R, 6S, 7R, 8S, 9S)であると確定した。今後、開発した合成法をもとにして、各種誘導体を合成し、それらのフジツボの幼生に対する付着阻害活性を検討していく予定である。

謝辞

本研究は住友財団・環境研究助成の援助を受けておこなわれたものであり、ここに感謝申し上げます。また、NOE測定をしていただいた北海道大学大学院理学研究院高分解能核磁気共鳴装置研究室の熊木康裕博士に感謝いたします。

参考文献

1. G. Lowe, J. Chem. Soc. Chem. Commun. 1965, 411-413.

2. J. Wang, B. L. Pagenkopf, Org. Lett. 2007, 9, 3703-3706.

3. C. Harcken, S. F. Martin, Org. Lett. 2001, 3, 3591-3593.

4. S. Saito, T. Harunami, N. Shimamura, M. Asahara, T. Moriwake, Synlett, 1992, 325-326.

5. C.-G. Cho, W.-S. Kim, A. B. Smith III, Org. Lett. 2005, 7, 3569-3572.

6. S. Kobayasi, Y. Tsuchiya, T. Mukaiyama, Chem. Lett. 1991, 20, 537-540.

7. A. B. Smith, III, M. D. Kaufman, T. J. Beauchamp, M. J. LaMarche, H. Arimoto, Org.

 
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