Symposium on the Chemistry of Natural Products, symposium papers
Online ISSN : 2433-1856
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Total Synthesis of Altemicidine
Genta TadanoKeiji Tanino
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アルテミシジンの全合成

 アルテミシジン(1)は放線菌Streptomyces sioyaensisSA-1758から単離されたモノテルペンアルカロイドであり、抗腫瘍活性を示すことが知られている1)。1はヘキサヒドロ–6–アザインデン骨格上にβ–ヒドロキシ–α,α–二置換アミノ酸およびスルホンアミド側鎖を含む複雑かつユニークな構造を有し、多くの合成化学者の興味を集めてきたが2)、その全合成例は1995年のKendeらによる報告のみである3)。今回我々は、分子内溝呂木−Heck反応による含窒素四置換炭素構築と、置換ピリジン誘導体の立体選択的部分還元を鍵反応として用い、斬新かつ効率的なアルテミシジンの全合成を達成したので報告する。

1. 合成計画

 アルテミシジン(1)の鍵中間体としてヘキサヒドロアザインデン骨格を有するエナミン2を設定し、このものをN−メチルピリジニウム塩3の立体選択的部分還元により合成することとした。3の前駆体となる置換ピリジン4は、ハロピリジン5の分子内溝呂木−Heck反応により誘導することとし、5は3−ブロモ−5−ヨード−4−メチルピリジン(7)から調製したアニオンを文献既知のα,β–不飽和アルデヒド64)に作用させれば合成可能と考えた。

2. ジヒドロ−6−アザインデン骨格と含窒素四置換炭素の構築

 市販のジブロモピコリン8をブロモヨードピコリン7に変換後、LDAを作用させてアニオンを調製し、不飽和アルデヒド6との1,2−付加反応を行った。生じた二級アルコール9をシリルエーテル10とした後、分子内溝呂木−Heck反応による5員環形成を詳細に検討した結果、以下の最適条件を見出した。すなわち、パラジウムの配位子としてP(2-furyl)3を使用し、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)共存下、マイクロウェーブ反応装置を用いることで反応は円滑に進行し、83%の高収率で目的物の合成に成功した。環化体は、互いに分離困難な立体異性体11αと11βの混合物(3:1)として得られ、両者の立体化学はNOE測定により決定した。

環化体のTES基を除去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製を行い、アルコール12および13を単離した。5員環上の窒素原子と水酸基に注目すると、主生成物12は天然物1と逆の相対立体配置を有するが、この問題については以下の解決法を見出した。すなわち、12をトリフラート化の条件に付すとBoc基の隣接基関与を経て立体反転が起こり、カルバマート14を与えた。一方、12のジアステレオマー13は、単に塩基処理を行うことで同一のカルバマート14に変換可能である。このように、分子内溝呂木−Heck反応における立体制御は困難なものの、環化体においてアルコールの立体配置を整える手法を確立することができた。そこで次に、臭化物14をニトリル15へ変換するべく、様々な触媒とシアノ化剤を組み合わせてカップリング反応を試みたが、目的物は全く得られなかった。この結果から、シアノ基の導入を合成の初期段階で行う新たな戦略を立案した。

ジブロモピコリン8を2工程でニトリル17に誘導後、先と同様な変換を経て

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 アルテミシジン(1)は放線菌Streptomyces sioyaensisSA-1758から単離されたモノテルペンアルカロイドであり、抗腫瘍活性を示すことが知られている1)1はヘキサヒドロ–6–アザインデン骨格上にβ–ヒドロキシ–α,α–二置換アミノ酸およびスルホンアミド側鎖を含む複雑かつユニークな構造を有し、多くの合成化学者の興味を集めてきたが2)、その全合成例は1995年のKendeらによる報告のみである3)。今回我々は、分子内溝呂木−Heck反応による含窒素四置換炭素構築と、置換ピリジン誘導体の立体選択的部分還元を鍵反応として用い、斬新かつ効率的なアルテミシジンの全合成を達成したので報告する。

1. 合成計画

 アルテミシジン(1)の鍵中間体としてヘキサヒドロアザインデン骨格を有するエナミン2を設定し、このものをN−メチルピリジニウム塩3の立体選択的部分還元により合成することとした。3の前駆体となる置換ピリジン4は、ハロピリジン5の分子内溝呂木−Heck反応により誘導することとし、5は3−ブロモ−5−ヨード−4−メチルピリジン(7)から調製したアニオンを文献既知のα,β–不飽和アルデヒド64)に作用させれば合成可能と考えた。

2. ジヒドロ−6−アザインデン骨格と含窒素四置換炭素の構築

 市販のジブロモピコリン8をブロモヨードピコリン7に変換後、LDAを作用させてアニオンを調製し、不飽和アルデヒド6との1,2−付加反応を行った。生じた二級アルコール9をシリルエーテル10とした後、分子内溝呂木−Heck反応による5員環形成を詳細に検討した結果、以下の最適条件を見出した。すなわち、パラジウムの配位子としてP(2-furyl)3を使用し、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)共存下、マイクロウェーブ反応装置を用いることで反応は円滑に進行し、83%の高収率で目的物の合成に成功した。環化体は、互いに分離困難な立体異性体11α11βの混合物(3:1)として得られ、両者の立体化学はNOE測定により決定した。

環化体のTES基を除去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製を行い、アルコール12および13を単離した。5員環上の窒素原子と水酸基に注目すると、主生成物12は天然物1と逆の相対立体配置を有するが、この問題については以下の解決法を見出した。すなわち、12をトリフラート化の条件に付すとBoc基の隣接基関与を経て立体反転が起こり、カルバマート14を与えた。一方、12のジアステレオマー13は、単に塩基処理を行うことで同一のカルバマート14に変換可能である。このように、分子内溝呂木−Heck反応における立体制御は困難なものの、環化体においてアルコールの立体配置を整える手法を確立することができた。そこで次に、臭化物14をニトリル15へ変換するべく、様々な触媒とシアノ化剤を組み合わせてカップリング反応を試みたが、目的物は全く得られなかった。この結果から、シアノ基の導入を合成の初期段階で行う新たな戦略を立案した。

ジブロモピコリン8を2工程でニトリル17に誘導後、先と同様な変換を経てエナミド19を合成した。このものを分子内溝呂木−Heck反応に付した結果、環化体20が単一の立体異性体として63%の収率で得られてきた。先の環化反応で得た主生成物11αと同様に、20も5員環上において置換基の相対配置は天然物1と逆であった。

ここで我々は、以前の隣接基関与を用いる方法より効率的な立体反転法を開発した。すなわち、20のビニル基を酸化的に切断してエステル21に変換後、TBAFを作用させたところ、シリル基の除去に続いて異性化反応が進行し、望みの立体配置を有する22が得られることを見出した。

3. 置換ピリジン誘導体の立体選択的部分還元

 次に、全合成の鍵反応となるピリジンの立体選択的部分還元を検討した。まず、ピリジン誘導体22にMeOTfを作用させて得たN-メチルピリジニウム塩23をNaBH4でジヒドロピリジン24に部分還元した。さらに、24をPd/C触媒存在下で1気圧の水素と反応させたところ、四置換オレフィン部が選択的に還元されたが、主生成物は天然物1とは逆の立体化学を有する26であることが判明した。

そこで、二級水酸基を嵩高いシリル基で保護することにより、四置換オレフィンの反応面選択性を逆転させることを試みた。すなわち、ジヒドロピリジン24をトリエチルシリルエーテル27に変換後、先と同様の条件で水素添加に付したところ、望みの相対配置を有する28の立体選択的な合成に成功した。

4. アルテミシジンの全合成

 中間体28をギ酸処理してTES基とBoc基を同時に除去した後、WSCD存在下でアミノスルホニル酢酸と縮合させてアミド30を合成した。続いて、Kendeの報告に従い、HMPA溶媒中リチウムプロパンチオラートを作用させてメチルエステル部をカルボン酸に変換しようとしたが、全くの原料回収に終わった。そこで、塩基性条件下での加水分解反応を精査した結果、水酸化バリウム水溶液を用いることで目的のカルボン酸31に変換できることがわかった。最後にParkins触媒5)を用いてシアノ基をアミド基に変換することで、アルテミシジンの全合成を達成した(市販のピリジン誘導体8から17工程、通算収率1.8%)。

 以上、我々はハロピリジンの分子内溝呂木−Heck反応による含窒素四置換炭素とジヒドロ–6–アザインデン骨格の一挙構築、および置換ピリジン誘導体の立体選択的部分還元を鍵工程とするアルテミシジンの短段階全合成を達成した。これらの鍵反応は、他の多環式アルカロイド全合成への応用が期待される。

参考文献

(1) (a) A. Takahashi, S. Kurasawa, D. Ikeda, Y. Okami, T. Takeuchi, J. Antibiot. 1989, 42, 1556. (b) A. Takahashi, D. Ikeda, H. Nakamura, H. Naganawa, S. Kurasawa, Y. Okami, T. Takeuchi, Y. Iitaka, J. Antibiot. 1989, 42, 1562. (c) A. Takahashi, H. Naganawa, D. Ikeda, Y. Okami, Tetrahedron. 1991, 47, 3621.

(2) (a) Y. Ohfune, T. Shinada, Eur. J. Org. Chem. 2005, 5127. (b) T. Kan, Y. Kawamoto, T. Asakawa, T. Furuta, T. Fukuyama, Org. Lett. 2008, 10, 169.

(3) A. S. Kende, K, Liu, K. M. Jos Brands, J. Am. Chem. Soc. 1995, 117, 10597.

(4) M. J. Burk, N. B. Johnson, J. R. Lee, Tetrahedron Lett. 1999, 40, 6685.

(5) Ghaffar. T, Parkins. A .W, J. Mol. Catal. A: Chem. 2000, 160, 249.

 
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