Symposium on the Chemistry of Natural Products, symposium papers
Online ISSN : 2433-1856
56
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The First Total Synthesis of Lundurines
Atsushi NishidaNakajima MasayaHoshi MasakiArai Shigeru
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コプシアアルカロイド、ランドリン類の全合成

1.序

 南アジア及び東南アジアに生育しているキョウチクトウ(夾竹桃)科のKopsia属植物は凡そ30種からなる顕花植物であり、本属植物からは現在までに多数のアルカロイドが単離されている。Lundurine(ランドリン)類は、Kamらによってマレーシア領のボルネオ島北部に自生するKopsia tenuis Leenh. & Steenis (コプシア・テヌイス)の葉及び茎より1995年に単離構造決定された6環性インドリンアルカロイドである1。本基原植物からは、主塩基であるlundurine B (1)をはじめ、lundurine A (2)、C (3)、D (4)等、Kopsia lapidilectaアルカロイドに類似した環構造を有するアルカロイド(以後Kopsia tenuisアルカロイドと総称する)が単離構造決定された(Figure 1)。

Figure 1 Lundurine Alkaloids

 Lundurine 類の構造決定には質量分析、紫外分光、1次元及び2次元NMRが用いられた。lundurine A (2)を例にとると、質量分析ではm/z 366 (C21H22N2O4)の分子イオンピークが観測され、紫外分光ではインドリンに特徴的な209、250、298 nmの吸収が観測された。COSY、HMQC、HMBCの解析により、γ―ラクタムとアザシクロオクタンを含有し、16位炭素はインドリン2,7位と結合してシクロプロパンを形成していると決定された。

また、lundurine B (1)及びD (4)はB16 melanoma細胞に対して強力な殺細胞作用を示した(Table 1)。1b,1d

さらに抗悪性腫瘍薬vincristineに抵抗性を示すヒト口腔類表皮癌細胞(KB細胞)に対し、lundurine類は耐性克服作用を示した。一方Lundurine B (1)のマウスに対する毒性は、抗腫瘍薬として用いられるvinctistine・vindesine・vinblastineに比べて低く(Table 2)、lundurine類は高活性・低毒性の新規抗腫瘍薬のシード化合物として有用性が期待される。しかしながら、lundurine類の自然界からの供給量が極めて微量(主塩基lundurine B(1)の単離量は基原植物重量の0.0037%)であることから、これ以上の活性評価は行われておらず、in vivoでの有効性の確認並びに他の生物活性に関する評価を行うためには化学合成による供給が必要であった。

 一方、シクロプロパン融合型インドリン骨格はそのひずみのために容易に骨格転位反応を起こすことが古くから知られてきた(Ciamician-Dennstedt転位、Scheme 1)2。近年ではその骨格転移を利用する全合成研究も展開されている。我々は上記のような不安定性を考慮し、多置換シクロプロパン融合型インドリン骨格構築法の確立とその反応性調査を行った後、lundurine類の全合成研究に着手した。

Scheme 1

2.モデル合成

 当初、我々は以下に示す多置換シクロプロパン誘導体の分子内芳香族アミノ化反応にてシクロプロパン融合型インドリン骨格の構築をモデル系にて検討した(Scheme 2)。

Scheme 2

Scheme 3

マロン酸誘導体5に対しToke等により報告された反応条件3にて分子内シクロプロパン化反応を行うと、目的とする立体配置を有する閉環体6が収率65%、ジアステレオマー比13:1で得られた。続いて、エステルの加水分解、Curtius反応により得られたカルバメート7、8を、ヨウ化銅存

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1.序

 南アジア及び東南アジアに生育しているキョウチクトウ(夾竹桃)科のKopsia属植物は凡そ30種からなる顕花植物であり、本属植物からは現在までに多数のアルカロイドが単離されている。Lundurine(ランドリン)類は、Kamらによってマレーシア領のボルネオ島北部に自生するKopsia tenuis Leenh. & Steenis (コプシア・テヌイス)の葉及び茎より1995年に単離構造決定された6環性インドリンアルカロイドである1。本基原植物からは、主塩基であるlundurine B (1)をはじめ、lundurine A (2)、C (3)、D (4)等、Kopsia lapidilectaアルカロイドに類似した環構造を有するアルカロイド(以後Kopsia tenuisアルカロイドと総称する)が単離構造決定された(Figure 1)。

Figure 1 Lundurine Alkaloids

 Lundurine 類の構造決定には質量分析、紫外分光、1次元及び2次元NMRが用いられた。lundurine A (2)を例にとると、質量分析ではm/z 366 (C21H22N2O4)の分子イオンピークが観測され、紫外分光ではインドリンに特徴的な209、250、298 nmの吸収が観測された。COSY、HMQC、HMBCの解析により、γ―ラクタムとアザシクロオクタンを含有し、16位炭素はインドリン2,7位と結合してシクロプロパンを形成していると決定された。

また、lundurine B (1)及びD (4)はB16 melanoma細胞に対して強力な殺細胞作用を示した(Table 1)。1b,1d

さらに抗悪性腫瘍薬vincristineに抵抗性を示すヒト口腔類表皮癌細胞(KB細胞)に対し、lundurine類は耐性克服作用を示した。一方Lundurine B (1)のマウスに対する毒性は、抗腫瘍薬として用いられるvinctistine・vindesine・vinblastineに比べて低く(Table 2)、lundurine類は高活性・低毒性の新規抗腫瘍薬のシード化合物として有用性が期待される。しかしながら、lundurine類の自然界からの供給量が極めて微量(主塩基lundurine B(1)の単離量は基原植物重量の0.0037%)であることから、これ以上の活性評価は行われておらず、in vivoでの有効性の確認並びに他の生物活性に関する評価を行うためには化学合成による供給が必要であった。

 一方、シクロプロパン融合型インドリン骨格はそのひずみのために容易に骨格転位反応を起こすことが古くから知られてきた(Ciamician-Dennstedt転位、Scheme 1)2。近年ではその骨格転移を利用する全合成研究も展開されている。我々は上記のような不安定性を考慮し、多置換シクロプロパン融合型インドリン骨格構築法の確立とその反応性調査を行った後、lundurine類の全合成研究に着手した。

Scheme 1

2.モデル合成

 当初、我々は以下に示す多置換シクロプロパン誘導体の分子内芳香族アミノ化反応にてシクロプロパン融合型インドリン骨格の構築をモデル系にて検討した(Scheme 2)。

Scheme 2

Scheme 3

マロン酸誘導体5に対しToke等により報告された反応条件3にて分子内シクロプロパン化反応を行うと、目的とする立体配置を有する閉環体6が収率65%、ジアステレオマー比13:1で得られた。続いて、エステルの加水分解、Curtius反応により得られたカルバメート78を、ヨウ化銅存在下で加熱すると、シクロプロパン融合型インドリン910が得られた(Scheme 3)。シクロプロパン融合型インドリンの構造は、9を加メタノール分解して得られた11のX線結晶構造解析により証明された。一方、得られたシクロプロパン融合型インドリン9は脱Boc条件にて容易に環拡大反応を起こし、キノリン体12を与えた。

Scheme 4

3.Lundurine Bの全合成;第一世代合成4

以上の予備実験を経て5置換シクロプロパン合成と続く芳香族アミノ化反応を基盤とするlundurine Bの全合成を以下の様に計画した。重要中間体15からはシロキシジエン14を基質とする分子内RCM,分子内アセタール化、更にRCMを用いるF環合成にて全合成を達成する計画である。

Scheme 5

 既知物質であるアルキニルエステル18より導かれるマロネート誘導体17にモデル系同様、シクロプロパン化反応に付したことろ目的とする5置換シクロプロパン誘導体(20a, 20b)を高ジアステレオ選択に合成することができた(Scheme 6)。エステルを加水分解、Curtius反応にてBocアミドに変換後、NBSにて臭素化し,高選択的に閉環前駆体22を得た。更に分子内芳香族アミノ化により、モデル系同様にシクロプロパン融合型インドリン骨格15を合成した。ラクトンを開環し段階的な官能基変換を経てシロキシアルケンを有するRCM前駆体14へ変換した。シロキシジエン14のRCMは2サイクルの反応にて原料が消失し脱シリル化の後、目的とするシクロヘキサノン誘導体25に変換できた。その後、樹林法にてD環を構築し(27)5、さらにRCMにてF環を合成しN-Boc lundurine B(30)の合成に成功した。しかし、Boc基を脱保護すると環拡大反応が進行するため、脱保護せずにBoc基をメトキシカルバメートに変換する必要に迫られた。種々検討の結果、大船等6によって開発されたtranscarbamation反応を用いることによりラセミ体ではあるがlundurine B(1)の初合成に成功した。

Scheme 6

反応条件: (a) (3-MeO)C6H4B(OH)2, Pd(OAc)2, dppb, AcOH, CHCl3, 50 °C, 81%. (b) DIBAL, CH2Cl2, –78 °C. (c) MeOCOCH2COCl, Et3N, DMAP, CH2Cl2, rt, 87% (two steps). (d) I2, K2CO3, BnNEt3Cl, THF, 65 °C, 84% (dr = 12:1). (e) 10 NNaOH, 40 °C; 1N HCl–THF (1:1), 30 °C. (f) DPPA, Et3N, t-BuOH, MS4A, 80 °C, 90% (two steps). (g) NBS, CH3CN, rt. (h) CuI, TMEDA, Cs2CO3, DMSO, 100 °C, 88% (two steps). (i) DIBAL, CH2Cl2, –78 °C, 59% (recovery of 7, 12%). (j) Ph3PCHCO2Me, toluene–THF (9:1), 50 °C, 94%. (k) CoCl2•6H2O, NaBH4, THF–MeOH (1:1), rt, 3 cycles, 94%. (l) TPAP, NMO, CH2Cl2, MS4A, rt, then Ph3PCH2, THF, –78 °C to rt, 82%. (m) DIBAL, CH2Cl2, –78 °C, 82%. (n) ZrCl4, MeLi, Et2O, –78 °C, 89%. (o) (COCl)2, DMSO, Et3N, CH2Cl2, –78 °C, 89%. (p) TBSCl, KHMDS, THF, –78 °C, 86%. (q) Grubbs catalyst 2nd generation, CH2Cl2, rt, 2 cycles. (r) TBAF, AcOH, THF, rt, 92% (two steps). (s) (CH2OTMS)2, TMSOTf, CH2Cl2, –78 °C. (t) H2, Pd(OH)2/C, EtOH, rt. (u) (COCl)2, DMSO, Et3N, CH2Cl2, –78 °C, 83% (three steps). (v) H2NCH2CH2OH, MeOH, rt; NaBH4, rt. (w) i) AcOH–THF–H2O (3:1:1), 40 °C, ii) CHCl3, MS4A, 62 °C, 81% (two steps). (x) vinylMgBr, AlCl3, Et2O–CH2Cl2 (20:1), rt, 86%. (y) (COCl)2, DMSO, Et3N, CH2Cl2, –78 °C, 80%. (z) Ph3PCH3Br, n-BuLi, THF, rt, 63%. (aa) Grubbs catalyst 2nd generation, CH2Cl2, rt, 97%. (bb) TBSOTf, TMEDA, CH2Cl2, rt. (cc) MeI, TBAF, THF, MS4A, 0 °C, 31% (two steps).

4.Lundurine類の網羅的合成;第二世代合成7

 Lundurineアルカロイドの網羅的合成を視野に入れより効率の良い合成経路を開発すべく以下に示す合成経路を検討した(Scheme 7)。鍵段階はスピロケトンの還元的シクロプロパン化によるABCE環の構築である(Table 3)。剛直な骨格を経由することにより高い立体選択性の発現が期待された。実際、本反応は効率よく進行し、lundurine A及びBの新たな合成法を開発できた。

Scheme 7

Table 3 Reductive Cyclization of Spiroketone

文献

(1) (a) Kam, T. S.; Yoganathan, K.; Chuah, C. H. Tetrahedron Lett. 1995, 36, 759. (b) Kam, T. S.; Lim, K. H.; Yoganathan, K.; Hayashi, M.; Komiyama, K. Tetrahedron 2004, 60. 10739. (c) Kam, T. S.; Lim, K. H. The Alkaloids 2008, 66, 1. (d) Takahashi, K.; Koyano, T.; Komiyama, H.; Kam, T. S. Jpn. Kokai Tokkyo Koho, JP1998-45760.

(2) Magnanini, G. Ber. 1887, 20, 2608. (b) Ellinger, A. Ber. 1906, 39, 2515. (c) Ellinger, A.; Flamand, C. Ber. 1906, 39, 4388. (d) Parham, W, E.; Davenport, R, W.; Biasotti, J, B. J. Org. Chem. 1970, 35, 3775.

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(5) (a) Yamazaki, N.; Suzuki, H.; Kibayashi, C. J. Org. Chem. 1997, 62, 8280. (b) Suzuki, H.; Yamazaki, N.; Kibayashi, C. Tetrahedron Lett. 2001, 42, 3013.

(6) Sakaitani, M.; Ohfune, Y. J. Org. Chem. 1990, 55, 870.

(7) Arai, S.; Nakajima, M.; Nishida, A. Angew. Chem. Int.Ed. 2014, 53, 5569-5572.

 
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