Symposium on the Chemistry of Natural Products, symposium papers
Online ISSN : 2433-1856
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Study of cyclization mechanism of microbial diterpene using 13C isotope
Kazuya NakagawaYoshinori SugaiYasutaka ChibaWtaru MitsuhashiMasahiro NatsumeTomonobu ToyomasuHiroshi Kawaide
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13C同位体を用いた微生物由来ジテルぺノイド環化機構の解明

【研究背景・目的】

 テルペノイドは天然に広く存在し、多様な生理活性物質を持つ化合物群として知られている。植物、動物、昆虫のホルモンに加え、細胞分化誘導や細胞構成成分など、生命に必須な化合物が多く含まれる。また、植物や微生物が生産するテルぺノイドには、抗がん活性や抗マラリア活性などを有する薬剤開発において重要な化合物が多く存在する。近年、テルペンの生合成を担う酵素の同定例は増えつつあるが、その詳細な反応メカニズムを明らかにした例は多くない。酵素が生合成の際に行っている反応メカニズムを理解することができれば、有用テルペンを人工的に合成する手がかりが得られると共に、酵素が行う複雑で精密な生命現象の解明に繋がる。

今回我々は、微生物由来のジテルペン環化酵素に着目し、その環化反応メカニズムの解明を行った。当研究室では酵素カクテルと呼ぶテルペノイドの酵素合成系を確立している1,2)。この技術を応用し、一部のイソプレンユニットのみを13Cで標識したisoprene unit isotopomers(IUI)を作成した。得られたプロダクトの13C NMRのスペクトル、カップリングパターンを比較し、基質の各イソプレンユニットがプロダクトのどこに位置するのかを追跡した。今回は麹カビ(Aspergillus oryzae)、及び青カビ(Penicillium chrysogenum)由来のジテルペン環化酵素について報告する。

【麹カビ由来ジテルペン環化酵素(AoDSL1)】

 fussicoccinsの基本骨格となるfusicocca-2,10(14)-dieneの生合成遺伝子であるPaFSは、N末端側にジテルペン環化(TC)ドメイン、C末端側にプレニルトランスフェラーゼ(PT)ドメインを持つユニークなキメラ型ジテルペン合成酵素(DS)をコードしている3)

 我々はA. oryzaeのゲノム上にキメラ型DSのホモログ(AoDSL1)を新たに発見したため、その機能解析について以前報告した4)。AoDSL1プロダクトが5-5-9員環構造を有するジテルペンであることを明らかにしkojidieneと命名したが、その後Emericella variecolorが生産するジテルペン(variediene)と同一の化合物であることが判明したため5)、以降はkojidiene/variedieneと表記する。

 今回我々は、AoDSL1の詳細な環化機構を解明するため、kojidiene/variedieneのIUIを作成した。IUIの13C NMRのスペクトル、カップリングパターンを比較したところ13C15体はC-11が標識されていないことが示され、5-5員環を形成するイソプレンユニットが開裂していることが明らかになった(Figure 3)。これは環化反応の過程で2回の炭素組み換え反応が起こっているためと考えられる(Figure 4)。

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【研究背景・目的】

 テルペノイドは天然に広く存在し、多様な生理活性物質を持つ化合物群として知られている。植物、動物、昆虫のホルモンに加え、細胞分化誘導や細胞構成成分など、生命に必須な化合物が多く含まれる。また、植物や微生物が生産するテルぺノイドには、抗がん活性や抗マラリア活性などを有する薬剤開発において重要な化合物が多く存在する。近年、テルペンの生合成を担う酵素の同定例は増えつつあるが、その詳細な反応メカニズムを明らかにした例は多くない。酵素が生合成の際に行っている反応メカニズムを理解することができれば、有用テルペンを人工的に合成する手がかりが得られると共に、酵素が行う複雑で精密な生命現象の解明に繋がる。

今回我々は、微生物由来のジテルペン環化酵素に着目し、その環化反応メカニズムの解明を行った。当研究室では酵素カクテルと呼ぶテルペノイドの酵素合成系を確立している1,2)。この技術を応用し、一部のイソプレンユニットのみを13Cで標識したisoprene unit isotopomers(IUI)を作成した。得られたプロダクトの13C NMRのスペクトル、カップリングパターンを比較し、基質の各イソプレンユニットがプロダクトのどこに位置するのかを追跡した。今回は麹カビ(Aspergillus oryzae)、及び青カビ(Penicillium chrysogenum)由来のジテルペン環化酵素について報告する。

【麹カビ由来ジテルペン環化酵素(AoDSL1)】

 fussicoccinsの基本骨格となるfusicocca-2,10(14)-dieneの生合成遺伝子であるPaFSは、N末端側にジテルペン環化(TC)ドメイン、C末端側にプレニルトランスフェラーゼ(PT)ドメインを持つユニークなキメラ型ジテルペン合成酵素(DS)をコードしている3)

 我々はA. oryzaeのゲノム上にキメラ型DSのホモログ(AoDSL1)を新たに発見したため、その機能解析について以前報告した4)。AoDSL1プロダクトが5-5-9員環構造を有するジテルペンであることを明らかにしkojidieneと命名したが、その後Emericella variecolorが生産するジテルペン(variediene)と同一の化合物であることが判明したため5)、以降はkojidiene/variedieneと表記する。

 今回我々は、AoDSL1の詳細な環化機構を解明するため、kojidiene/variedieneのIUIを作成した。IUIの13C NMRのスペクトル、カップリングパターンを比較したところ13C15体はC-11が標識されていないことが示され、5-5員環を形成するイソプレンユニットが開裂していることが明らかになった(Figure 3)。これは環化反応の過程で2回の炭素組み換え反応が起こっているためと考えられる(Figure 4)。

【青カビ由来ジテルペン環化酵素(PchDSL)】

 conidiogenol/conidiogenoneは青カビ(Penicillium cyclopium)の分生子形成誘導物質として単離されたジテルペンアルコールである6)。conidiogenolはキメラ型DSによって生産される5-5-x員環構造ジテルペンと類似した構造を有することから、その生合成にもキメラ型DSの関与が示唆された。そこで全ゲノムの解読が完了しているP. chrysogenumのcDNAデータベースを検索したところ、キメラ型DSのホモログ(PchDSL)を新たに発見したため、大腸菌に異種発現し、in vitro試験を行った。その結果、PchDSLはPT活性とTC活性両方を有するキメラ型DSであることが分かった(Figure 6)。

完全13C標識したPchDSL産物を13C NMRに供した。その結果、一部のピークがブロード化し解析が困難であった。そこでIUI(13C10体)を調製し、一次元、多次元NMRに供した。その結果、ブロード化したピークは5-6員環構造にほとんど集中していることが分かった。また、13C-13C COSYによって得られたクロスピークから一部のブロード化ピークを帰属した。しかし、13C10体から得られたスペクトル情報だけではブロード化ピークの帰属に不十分であったため、酢酸を基質としたGGDPのIUIを調製した。13C10体では帰属できなかった炭素を選択的に13C標識化したところ、予想される位置に13C NMRピークが確認された(Figure 5)。以上の実験により、PchDSLプロダクトがconidiogenol生合成における中間体であることが明らかとなった。

 

PchDSL産物に対してもGGDPのIUIを調製し、13C NMRのスペクトル、カップリングパターンを比較したところ、kojidien/variedieneと同様に生合成の過程で2回の炭素転移反応が起こっていることが示唆された。

【まとめと今後の展望】

 本研究の結果、2回の炭素組み換えを伴う反応メカニズムがAoDSL1とPchDSLに共通していることが示された。この生合成反応は他の5-5-x員環構造を持つ微生物由来のジテルぺン(fussicoccadiene、phomopsene)にも共通して存在すると推測される。

また、IUIを用いた反応メカニズムの解明は多様なテルぺノイド化合物に応用でき、13Cだけでなく重水素も組み合わせて使用することでヒドリドシフトなどを含む複雑な反応メカニズムの解明も可能である。テルぺノイド化合物の多様な反応メカニズムの解明を今後も行っていきたい。

【参考文献】

1)Sugai, Y. et al., Biosci. Biotechnol. Biochem.(2011)75, 128

2)Sugai, Y. et al., J. Biol. Chem.(2011)286, 42840

3)Toyomasu, T. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., (2007)104, 3084

4)嶋根ほか、第54回天然物討論会講演要旨集, 2012, pp. 447

5) Qin, B. et al., Angew. Chem. Int. Ed., (2016)55, 1658

6)Tomas, T. et al., Tetrahedron Lett.(2002)43, 6799

 
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