2014 Volume 100 Issue 10 Pages 1246-1252
Deformation twinning behavior in Fe-17Mn-0.6C, Fe-17Mn-0.8C, and Fe-18Mn-1.2C (wt.%) twinning-induced plasticity (TWIP) steels was investigated by atomic force microscopy (AFM) and electron backscatter diffraction pattern (EBSD) analyses. The AFM-based surface relief analysis combined with the EBSD measurements was employed to determine active twinning direction as well as deformation twin fraction in specific crystallographic orientations. A carbon addition is known to increase the stacking fault energy; however the deformation twin fraction in the <144> tensile orientation did not change against carbon concentration. On one hand, the <111> tensile orientation grains showed suppression of deformation twinning with increasing carbon concentration. These results imply that another factor in addition to the stacking fault energy-based criteria is required to interpret the deformation twinning behavior of carbon-added TWIP steels.
早期破断が起こらない材料では,加工硬化能が高くなるほど局部変形が抑制され,均一伸びが大きくなる。均一伸びの向上は加工性を良くするのみでなく,衝撃吸収能の改善にも寄与するため,加工硬化挙動に影響する因子解明は自動車用鋼板などの構造材料の開発において最重要課題の一つである。微細組織の観点では,転位密度の増加および転位下部組織の発達が第一に重要である。これに加えて,マルテンサイト変態や双晶変形などの変形中に発現する現象が加工硬化率を著しく増加させることがある。前者は変態誘起塑性(TRIP:Transformation-Induced Plasticity)効果1),後者は双晶誘起塑性(TWIP:Twinning-induced Plasticity)効果2)と呼ばれる。従来の材料とは一線を画する加工硬化能を有する材料の開発には,TRIP効果およびTWIP効果の制御が不可欠である。特にTWIP効果は優れた延性−強度バランスを与えるとして近年注目されており,実用化に向けた研究が進んでいる。しかし,TWIP効果には未だ不明な点が多く,TWIP効果制御のため,本質的に重要である双晶変形挙動の詳細な研究が求められている。
オーステナイト鋼などの面心立法構造(FCC)金属では,積層欠陥エネルギーが低い場合に変形双晶が観察される。a/6〈112〉のバーガースベクトルを有するハイデンライク・ショックレーの先行部分転位が{111}すべり面を毎層掃き,イントリンシックな積層欠陥の集合体を形成することによって,双晶面{111}の双晶構造が形成される。双晶変形はCu3,4),Cu-Al合金5),Ag-Au合金6),Co合金7),そして高Mn鋼8,9,10)などで報告されている。FCC双晶変形で最も重要な因子は,その臨界応力および臨界ひずみである。双晶変形開始の臨界ひずみは,加工硬化によって臨界応力を満たすために必要なひずみ,または双晶核を形成するために必要なひずみに対応している11)。多くのFCC金属では,双晶変形開始の臨界ひずみは10%引張ひずみ相当以上である。例えば,78 Kにおける純銅の双晶変形開始の臨界ひずみは,一般的なFCC合金における双晶変形の最優先方位である〈111〉引張方位に対して,22.8%と報告されている4)。しかし,TWIP鋼やHadfield鋼などのFe-Mn-Cオーステナイト鋼における双晶変形は,比較的小さいひずみで開始する12,13,14)。炭素量1.0 wt.%以上を含むHadfield鋼では,1~3%程度の引張ひずみで,変形双晶が観察される12,13,14)。このように,双晶変形開始の臨界ひずみが小さいことが炭素添加型高Mnオーステナイト鋼の特徴の一つである。
双晶変形の臨界ひずみは変形温度の上昇とともに増大する8,15,16,17)。この双晶変形挙動の温度依存性は積層欠陥エネルギー変化によって説明される8)。つまり,双晶変形開始の臨界応力および臨界ひずみは積層欠陥エネルギーの上昇とともに増大するので11,15,18),変形温度上昇とともに増大する積層欠陥エネルギーに依存して,臨界ひずみが大きくなる18)。例えば,Remy and Pineau8)は,高Mnオーステナイト鋼において積層欠陥エネルギーが15 mJ/m2から42 mJ/m2のときに双晶変形が発現し,積層欠陥エネルギー増大により同一塑性ひずみにおける変形双晶量も減少すると報告している。また,Allainら19)は12 mJ/m2から35 mJ/m2の積層欠陥エネルギー範囲で双晶変形が起こるとしている。オーステナイト鋼においては双晶変形挙動の化学組成依存性についても積層欠陥エネルギーで説明され20,21),臨界ひずみ,変形温度依存性を含めた種々の双晶変形挙動が積層欠陥エネルギー変化で整理できる。
例外的に,高Mnオーステナイト鋼の双晶変形挙動における炭素の影響は,単純な積層欠陥エネルギーの整理に従わない。Hadfield鋼などの炭素添加型オーステナイト鋼の特徴として,双晶変形開始の臨界ひずみが著しく小さいことは上述した。これに加えて炭素添加は,双晶変形が起こる変形温度および積層欠陥エネルギーの範囲を拡大する特徴がある8)。積層欠陥エネルギー変化の視点で理解すると,炭素添加は積層欠陥エネルギーを上昇させ20,21,22,23,24,25),双晶変形抑制に働くはずなので,この特異な炭素添加の効果が注目されている。例えば,Fe-29Mn二元合金で変形双晶が発生する温度域が323 Kから423 Kであるのに対し,Fe-26Mn-0.2C鋼では323 Kから600 Kの温度範囲で双晶変形が起こる8)。Fe-28Mn-7.5Al-0.75C鋼においては298 Kから923 Kまで双晶変形の発現が観察されている26)。他の種々Fe-Mn-C基オーステナイト鋼においても,Remy and Pineau8)やAllain19)が報告している双晶変形発現の積層欠陥エネルギー範囲を有意に超える60 mJ/m2で,変形双晶が観察されている27,28)。Bouaziz29,30)も二元系Fe-Mn合金とFe-Mn-Cオーステナイト鋼の双晶変形挙動を積層欠陥エネルギーの観点から比較し,炭素は双晶変形を促進すると主張している。炭素はTWIP鋼における基本元素の一つであるので,この炭素の特殊性を理解することは,今後の材料設計上,必要不可欠である。
電子線後方散乱回折(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)法と原子間力顕微鏡観察法(AFM:Atomic Force Microscopy)の組み合わせによる表面起伏解析は,高Mnオーステナイト鋼の変形誘起マルテンサイトや変形双晶のような変形組織解析に有用である31,32,33)。EBSD法により各結晶粒の方位が既知の場合,AFM解析は,双晶面だけでなく,双晶方向も決定することができる。さらに,変形双晶量も,AFM解析によって定量的に決定することができる。すなわちEBSD/AFM解析は,同一の結晶方位粒を選択することによって,異なる化学組成を持つ多結晶体の双晶変形挙動の定量的かつ詳細な比較研究を可能とする。本論文では,Fe-Mn-C TWIP鋼の双晶変形挙動解析におけるEBSD/AFM観察法の有用性を示すとともに,双晶変形挙動の炭素量依存性における新知見を報告する。
Fe-17Mn-0.6C鋼,Fe-17Mn-0.8C鋼,Fe-18Mn-1.2C鋼を真空誘導溶解により作製した。インゴットを1273 Kで鍛造,圧延後に,溶体化処理を1273 K,3.6 ks,Ar中で施した。熱処理後はセメンタイトなどの析出物形成を防ぐため,水焼入れで冷却した。各鋼の化学組成詳細をTable 1に示す。以下,化学組成の表記はすべてwt.%である。これら鋼は,TWIP効果により室温で優れた均一伸び/引張強度バランスを示す16,17,34)。熱処理後,以下実験に必要な形状に試料を放電加工で切り出した。結晶粒径はいずれの鋼においても焼鈍双晶界面を含んで,約35 μmであった。
Steel (wt.%) | Mn | Si | C | Fe |
---|---|---|---|---|
Fe-17Mn-0.6C | 16.4 | 0.003 | 0.57 | bal. |
Fe-17Mn-0.8C | 16.5 | 0.002 | 0.81 | bal. |
Fe-18Mn-1.2C | 18.0 | 0.003 | 1.15 | bal. |
変形組織解析は,X線回折法,EBSD法,AFM観察により行った。X線回折実験用試料は,放電加工および熱処理の影響を受けた表面層を除去するために,機械研磨後,酸(H2O2:HF=10:1)で化学研磨処理をした。X線回折実験はターゲットにCuを用い,35 kV,300 mA,スキャンレート0.02º s−1で行った。EBSD測定用試料は,研磨誘起組織の抑制および平滑性の保持のため,低荷重でコロイダルシリカとともに3.6 ks機械研磨をした。EBSD測定は20 kV,ビームステップサイズ300 nmで行った。AFM観察用試料は機械研磨後,277 Kで電解研磨を施した。AFM観察では,粒界の影響を小さくするために比較的大きな結晶粒を選択し,約10 μm以上粒界から離れた結晶粒中心部を観察部位とした。
2・3 表面起伏解析AFM観察で得た表面起伏情報より,変形双晶の解析を行った。測定した表面傾斜角は変形双晶の同定,双晶方向の決定,変形双晶量の定量に利用できる。双晶変形に起因する理論表面傾斜角θは以下の式で表現される35)。
(1) |
ここで,βは試料表面と{111}面との面間角度,γはバーガースベクトルと{111}表面トレースのなす角をそれぞれ表している。(1)式を説明する表面起伏の模式図をFig.1に示す。この計算に必要な試料表面方位(ND)はEBSD法により測定した。双晶方向は,4種の{111}双晶面に対してそれぞれ3つ,全部で12種存在する。双晶面は表面トレースから決定できるので,双晶方向はこの段階で3つに絞られる。計算値と測定値を比較することで,観察された変形双晶の双晶方向を決定することができる。
A schematic illustration of the geometry of the surface relief arising from twinning deformation.
本研究では表面起伏解析により変形双晶量も定量評価する。表面起伏から変形双晶量を見積もる場合には,平滑表面で観察される像よりも変形双晶の幅が過大に見積もられるので注意が必要となる。Fig.1において,表面起伏像から測定される変形双晶の幅はw,平滑表面から測定される幅はzであり,真の変形双晶量を見積もるためにはzを用いる必要がある。表面観察から得られる変形双晶の面積率が体積率と等しいと仮定すると,変形双晶量Vは以下の式で得られる。
(2) |
(3) |
ここで,L=測定対象線の長さ,F=表面起伏像で得られる変形双晶の面積率(w)を平滑表面における面積率(z)に変換するための補正値(Fig.1参照),である。
2・4 積層欠陥エネルギーの決定多くの研究者がFe-Mn-Cオーステナイト鋼の積層欠陥エネルギーを測定18,22,23)または計算10,19,20,36,37)している。0.3 wt.%を超える高濃度炭素を含む高Mn鋼では,積層欠陥エネルギーは炭素量の増加に比例して増大することが測定値から示されている22,23)。Leeら21)も積層欠陥エネルギーは侵入型原子の濃度の合計(C+N)に対して線形に増加すると報告している。Nakano and Jacquesの積層欠陥エネルギーの計算37)は測定値から確認されている絶対値および炭素量との線形関係をよく表現しているので,本研究ではこれを用いて積層欠陥エネルギーを求めた。積層欠陥エネルギーの計算は以下の式に基づく38)。
(4) |
ここで,ΔGγ→εはFCC(γ)からHCP(ε)への相変態による自由エネルギー変化,ρは{111}面上の表面モル密度,σγ/εはγ/ε界面の界面エネルギーである。自由エネルギー変化および表面モル密度はNakanoの論文37)で引用されている他文献19,39,40,41,42,43,44,45)と同じ値を用いた。界面エネルギーは16 mJ/m237)と仮定した。
本鋼では,マルテンサイト変態および双晶変形が起こりうる。マルテンサイトおよび変形双晶の存在の有無はX線回折法およびEBSD法で確認した。Fig.2に室温,ひずみ速度1.7×10−4 s−1で10%塑性ひずみまで引張変形させたFe-17Mn-0.6C鋼,Fe-17Mn-0.8C鋼,Fe-18Mn-1.2C鋼のX線回折測定結果を示す。室温での引張ひずみ10%までは,いずれの鋼においてもマルテンサイトが形成していないことが確認された。Figs.3(a)-(c)に熱間圧延方向(引張方向に対応)の逆極点図(RD-IPF)マップを示す。これらRD-IPFマップは室温,ひずみ速度1.7×10−4 s−1で10%引張変形後に得た。以下,すべての金属組織写真の水平方向は引張方向に対応する。これらRD-IPFマップ中に黒矢印で示すように,全ての鋼で変形双晶が観察される。より詳細な変形双晶分布を示すため,Figs.3(d)-(f)に各RD-IPFマップに対応するImage Quality(IQ)マップを示す。IQ値は複数の菊池パターンが重なったとき,大きく低下する。双晶界面近傍では双晶と母晶の二つの菊池パターンが同時に検出されるため,IQ値が低下する13,46)。このため,マルテンサイトなどの板状生成物が存在しないことが確認されている限り,IQマップはIPFマップよりも明瞭に変形双晶を示すことができる13,46)。Fig.3の像を得た条件では第二相が存在しないので(Fig.2),Figs.3(d)-(f)のIQマップに現れている板状コントラストは変形双晶と特定される。この観察結果から,変形双晶の総数は炭素量の増加とともに減少することがわかる。
XRD patterns in the three Fe-Mn-C steel after 10% tensile deformation at ambient temperature with an initial strain rate of 1.7×10–4 s–1.
RD-IPF maps after 10% tensile deformation in the (a) Fe-17Mn-0.6C, (b) Fe-17Mn-0.8C, (c) Fe-18Mn-1.2C steels. (d), (e), and (f) are the corresponding IQ maps to (a), (b), and (C), respectively. The deformations were provided at ambient temperature and at 1.7×10–4 s–1. (Online version in color.)
上記IQマップから,室温変形における初期変形生成物は変形双晶であることが特定されたので,Fig.1および(1)式で示した変形双晶の幾何学関係を用いて,変形誘起された表面起伏を解析することができる。Fig.4は,Fe-17Mn-0.6C鋼,Fe-17Mn-0.8C鋼,Fe-18Mn-1.2C鋼を室温,ひずみ速度1.7×10−4 s−1で15%引張変形した後のAFM像である。コントラストは表面傾斜角を表している。Figs.4(a)-(c)に示す結晶粒の初期結晶方位は,最優先双晶方向のシュミット因子が0.50(最大値)である〈144〉引張方位近傍を選択している。各像に対応する初期結晶方位,積層欠陥エネルギー,シュミット因子,ならびに表面傾斜角解析に必要な情報をTable 2にまとめて示す。積層欠陥エネルギーは(4)式に基づいて計算されたものである。計算された積層欠陥エネルギーは,類似の鋼の室温での実測例 から,妥当な値であると言える。Table 3にFigs.4(a)-(c)中A~Hと表記されている各板状表面起伏の実測表面傾斜角を示す。計算値と実測値を比較することで,Figs.4(a)-(c)に示す板状表面起伏の全ては最優先双晶シアーに対応する変形双晶であると特定された。この結果は,今回用いたすべての鋼の〈144〉引張方位において,最優先双晶方向の双晶変形が初期塑性変形の主役であることを示している。また,Table 2に示すように,炭素量の増加は積層欠陥エネルギーを増加させるにもかかわらず,〈144〉引張方位では,変形双晶量に有意な炭素量依存性が観察されなかった。
AFM images observed in a grain which has a high Schmid factor in the (a) Fe-17Mn-0.6C, (b) Fe-17Mn-0.8C, and (c) Fe-18Mn-1.2C steels. The tensile direction is approximately parallel to <144>. The 15% tensile deformations were provided at ambient temperature and at 1.7×10–4 s–1. (Online version in color.)
Steel (wt.%) | Fe-17Mn-0.6C | Fe-17Mn-0.8C | Fe-18Mn-1.2C |
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Stacking fault energy | 31 mJ/m2 | 35 mJ/m2 | 43 mJ/m2 |
ND orientation | [8 7 9] | [-3 -4 10] | [-7 5 13] |
Tensile direction | [1 4 -4] | [10 -14 -3] | [-4 -3 -1] |
Twinning plane | (1-11) | (-11-1) | (11-1) |
Twinning direction | [21-1] | [1-1-2] | [-1-1-2] |
Trailing partial | [121] | [-1-2-1] | [-21-1] |
β | 65.5º | –55.3º | –56.0º |
γ | 26.8º | –122.5º | –30.9º |
Relief angle for twin | 13.3º | –17.5º | –16.5º |
Schmid factor of leading partials | 0.500 | 0.484 | 0.490 |
Schmid factor of trailing partials | 0.250 | 0.341 | 0.326 |
Correction value | 0.89 | 0.78 | 0.80 |
Deformation twin fraction | 25.5% | 22.2% | 24.5% |
Relief | Fe-17Mn-0.6C | Fe-17Mn-0.8C | Fe-17Mn-1.2C |
---|---|---|---|
A | 12.8º | –16.1º | –15.2º |
B | 12.2º | –15.1º | –16.1º |
C | 13.8º | –15.9º | –15.6º |
D | 12.0º | –15.8º | –15.2º |
E | 12.8º | –15.6º | –15.2º |
F | 13.7º | –16.0º | –16.8º |
G | 12.6º | –15.9º | –17.1º |
H | 12.8º | –15.3º | –16.8º |
*1 Fe-12Mn-0.7C鋼,Fe-12Mn-0.8C鋼,Fe-13Mn-1.4C鋼の積層欠陥エネルギーはそれぞれ,35 mJ/m222),39 mJ/m222),52 mJ/m222)である。また,類似組成における約5 wt.% Mnの添加は積層欠陥エネルギーを5~10 mJ/m2程度低下させる47)。
3・3 〈111〉引張方位における変形双晶の観察Figs.5(a)-(c)は,〈111〉引張方位近傍の結晶粒におけるAFM像を示している。これら表面起伏もFigs.4(a)-(c)と同様に,室温,ひずみ速度1.7×10−4 s−1の15%引張変形により誘起されたものである。対応する変形双晶の理論表面傾斜角とその他表面起伏解析に必要な情報をTable 4にまとめて示す。〈144〉引張方位と対照的に,〈111〉引張方位では全ての鋼において複数すべり面でせん断変形が起こっている。表面起伏の実測表面傾斜角をTable 5に示す。Fe-17Mn-0.6C鋼のAFM像(Fig.5(a))中の起伏A,B,C,Dは最優先双晶面(-111)または第二優先双晶面(1-11)上で形成した変形双晶であると特定される。つまり,Fe-17Mn-0.6C鋼では〈144〉方位と同様に,〈111〉引張方位でも変形双晶が塑性変形を担う主機構であることを示している。一方,Fe-18Mn-1.2C鋼における〈111〉引張方位では,Fe-17Mn-0.6C鋼と異なる傾向がみられる。Fe-18Mn-1.2C鋼のAFM像(Fig.5(c))で,起伏AおよびBは(111)[-1-12]変形双晶と同定されるが,起伏CおよびDは対応する双晶面(-11-1)の双晶変形で形成される理論表面傾斜角よりも,有意に高い値を示している。このような高い表面傾斜角は,同一すべり面で転位増殖を繰り返す転位すべり変形によって形成される48,49)ので,CおよびDは(-11-1)面上の転位すべり変形によって形成したと考える。つまり,〈111〉引張方位においては,〈144〉引張方位と異なり,炭素量の増加により双晶変形が抑制されていることがわかる。
AFM images observed in a grain which has a low Schmid factor in the (a) Fe-17Mn-0.6C, (b) Fe-17Mn-0.8C, and (c) Fe-18Mn-1.2C steels. The tensile direction is approximately parallel to <111>. The 15% tensile deformations were provided at ambient temperature and at 1.7×10–4 s–1. (Online version in color.)
Steel (wt.%) | Fe-17Mn-0.6C | Fe-17Mn-0.8C | Fe-18Mn-1.2C |
---|---|---|---|
Stacking fault energy | 31 mJ/m2 | 35 mJ/m2 | 43 mJ/m2 |
ND orientation | [4 3 6] | [-9 -11 -4] | [-3 13 17] |
Tensile direction | [18 14 -19] | [-5 3 3] | [-8 -11 7] |
Twinning plane 1 | (-111) | (11-1) | (111) |
Twinning direction 1 | [12-1] | [-121] | [-1-12] |
Trailing partial 1 | [-11-2] | [-21-1] | [1-21] |
β 1 | 68.3º | –85.4º | 43.8º |
γ 1 | 13.0º | –163.9º | 40.9º |
Relief angle for twin 1 | 7.4 | –12.1 | 10.2º |
Schmid factor of leading partials 1 | 0.400 | 0.384 | 0.399 |
Schmid factor of trailing partials 1 | 0.209 | 0.274 | 0.254 |
Twinning plane 2 | (1-11) | (1-11) | (-11-1) |
Twinning direction 2 | [21-1] | [-112] | [-2-11] |
Trailing partial 2 | [1-1-2] | [-2-11] | [-1-2-1] |
β 2 | 58.8º | –85.4º | –88.4º |
γ 2 | 17.8º | –163.9º | 169.1º |
Relief angle for twin 2 | 8.2º | -10.9º | 7.6º |
Schmid factor of leading partials 2 | 0.277 | 0.384 | 0.342 |
Schmid factor of trailing partials 2 | 0.169 | 0.242 | 0.232 |
Relief | Fe-17Mn-0.6C | Fe-17Mn-0.8C | Fe-17Mn-1.2C |
---|---|---|---|
A | 7.3º / (-111) | –11.5º / (11-1) | 10.8º / (111) |
B | 8.0º / (-111) | –12.2º / (11-1) | 9.3º / (111) |
C | 7.3º / (1-11) | –13.1º / (1-11) | 13.4º / (-11-1) |
D | 7.5º / (1-11) | –10.8º / (1-11) | 17.9º / (-11-1) |
変形双晶の初期結晶方位依存性は上記結果により示されたが,初期結晶方位の影響は塑性変形量の増大に伴う結晶回転により減少する。変形量が大きくなると,特定の表面傾斜角を示さない転位すべり変形が顕著に起こるため,AFM解析は用いることができない。このため,XRDおよびEBSD測定の解析結果から,以下の変形後期における双晶変形挙動について論じる。Fig.6は,室温,ひずみ速度1.7×10−4 s−1でFe-18Mn-1.2C鋼を60%引張変形を加えた後にX線回折測定を行った結果である。このX線回折測定結果は60%の変形後においても第二相が形成していないことを示している。同塑性ひずみにおけるRD-IPFマップをFig.7に示す。10%引張変形におけるRD-IPFマップ(Fig.3)と較べて,60%変形後は変形双晶の総量および,誘起されている活動すべり系の数が増加している。結晶方位は大部分が〈111〉引張方位(RD-IPFマップ中の青)に配向しており,部分的に〈001〉引張方位(RD-IPFマップ中の赤)を示している。これら結晶回転の傾向は,典型的なFe-Mn-C基TWIP鋼の集合組織形成挙動13,50,51)に対応している。既存論文50,52)でよく知られているように,〈001〉引張方位近傍では変形双晶はほとんど観察されず,〈111〉で多量の変形双晶が現れている。60%塑性ひずみで複数双晶系の活動が観察された粒のほとんどは〈111〉引張方位近傍である。今回用いた三種類の鋼の中で積層欠陥エネルギーが最も低いFe-18Mn-1.2C鋼でさえ,塑性ひずみが40%を超えるとEBSDでは定量的な測定が不可能なほど多量の双晶変形が観察される16,17)。〈144〉引張方位など〈110〉引張方位に比較的近い結晶粒は〈111〉引張方位に回転する50,51)。つまり,双晶変形挙動の結晶依存性は引張方位〈001〉と〈111〉に2極化するので,変形後期では,前節までに議論した初期結晶方位依存性は小さくなる。
An XRD pattern in the Fe-18Mn-1.2C steel after a 60% tensile deformation. The deformations were provided at ambient temperature and at 1.7×10–4 s–1.
A RD-IPF map in the Fe-18Mn-1.2C steel after a 60% tensile deformation. The deformations were provided at ambient temperature and at 1.7×10–4 s–1. (Online version in color.)
Figs.3(a)-(f)に示すように,変形双晶の総数は,炭素量の増加とともに減少した。また,〈111〉引張方位近傍の結晶粒における双晶変形も炭素量の増加により抑制された(Figs.5 (a)-(c))。これら実験結果は,炭素量の増加および変形温度の上昇に伴う積層欠陥エネルギーの増大により説明される。つまり,双晶変形開始の臨界応力は積層欠陥エネルギーの増大にともない上昇する6,12,15,53)ので,積層欠陥エネルギーの上昇は双晶変形を抑制する。今回用いた鋼の中では比較的積層欠陥エネルギーが高いFe-18Mn-1.2鋼で観察されたように(Fig.5(c)),双晶変形が抑制された場合には代わりに転位すべり変形が導入される。
しかし,初期引張方位〈144〉においては,上述した積層欠陥エネルギーの増大にも関わらず,15%引張変形段階の変形双晶量が炭素量の依存性を示さなかった(Figs.4(a)-(c)およびTable 2)。この〈144〉引張方位領域で観察された変形双晶量の炭素量依存性は,従来の積層欠陥エネルギーと双晶変形発現の関係に対応していない。この特殊な炭素濃度依存性については,機構の提案とともに詳細を続報論文にて示す。
EBSD測定とAFM解析により,高炭素添加型Fe-Mn-C TWIP鋼の双晶変形挙動の特徴を明らかにした。微細組織観察は種々炭素量および結晶方位で行った。これら微細組織観察は以下の事実を明らかとした。
1)変形双晶の総量は室温において,炭素量の増加とともに減少した。また,〈111〉引張方位の結晶粒における双晶変形も炭素量増加によって抑制された。これら炭素量依存性は積層欠陥エネルギーの増大が原因である。
2)室温において〈144〉引張方位近傍の結晶粒に着目すると,変形双晶量は炭素量の増加に対して,有意な変化を示さなかった。この事実は,従来の積層欠陥エネルギーに基づく整理に従わないので,炭素特有の双晶変形への影響を考慮する必要がある。双晶変形における炭素の効果の詳細については次報で示す。
本研究で用いた試料は物質・材料研究機構の材料創製・加工ステーションで作製され,材料分析ステーションにて化学分析をしていただいた。また,本研究はNIMSジュニア研究員(2009-2010)および学術振興会特別研究員(2011- 2013)の制度の一環として行った。この成果は,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業未来開拓プログラムの結果得られたものである。この場を借りて深謝いたします。