Tetsu-to-Hagane
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Analysis of Cleavage Crack Propagation in Steels Having Anisotropy by Means of Three-Dimensional Polycrystalline Cleavage Fracture Simulation Model
Kei SugimotoItsuki KawataShuji AiharaHiroyuki Shirahata
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2014 Volume 100 Issue 10 Pages 1274-1280

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Synopsis:

The authors proposed a three dimensional model to explain microscopic behavior of cleavage crack propagation in steel, which was validated by experimental results, in the previous paper. Purpose of this paper is to explore further into microscopic cleavage crack propagation behavior in steels having anisotropy using the proposed model. Charpy impact testing and small size crack arrest testing were conducted for observing anisotropy of cleavage fracture toughness and it was confirmed that R direction has lower toughness than LT and TL directions. And simulation was also conducted using the data of crystal orientation, which was derived from Electron Back Scattering Diffraction analysis. The comparison between the experiment and the simulation showed good agreement and the lowest toughness in the R direction was explained by a concentration of {100} planes in that direction.

1. 序論

船舶をはじめとする大型構造物において,十分な安全率をとった場合でも,潜在的に内在するか,あるいは運転中に発生した疲労き裂が起点となって破壊に至ることがある。特にへき開脆性破壊は前触れもなく発生し,大きな物的人的被害をもたらす可能性が高い。このような構造物の脆性破壊を防止するためには,材料のミクロ組織制御による靭性の向上が必要である。例えば,制御圧延・制御冷却プロセスを適用することにより鋼の結晶粒微細化を図り,靭性を向上させることが従来から適用されている1)。しかし,このようなプロセスは鋼の強度や靭性に異方性をもたらすことがあり,考慮が必要である。

制御圧延・制御冷却鋼の靭性異方性は主に集合組織に起因するものと考えられている1,2)。特に,オーステナイト・フェライト二相域あるいはフェライト域の圧延により{100}〈011〉集合組織が発達して圧延方向から45°の方向の靭性が相対的に低下することが知られているが,このような問題に対する解析は限られている。Inagakiら3)は,{100}集合組織強度とその面に作用する垂直応力(衝撃試験片の軸方向と{100}面方位に依存する)の積を積分することにより,衝撃試験の遷移温度の試験片方向依存性を求め,集合組織との靭性異方性の関係を議論している。一方,靭性は結晶粒径に依存することは広く知られているが,制御圧延・制御冷却鋼では隣接粒の結晶方位差が小さい頻度が高くなってへき開破壊に寄与する有効な結晶粒が大きくなるために,光学顕微鏡組織の粒径で予測されるほどには靭性が向上しない場合があることが指摘されている4)。ただし,その研究では有効結晶粒と靭性異方性の関係は明確ではない。靭性異方性はへき開き裂伝播挙動にも影響を与える。Katsutaらは破壊靭性値の板内靭性異方性によってき裂伝播経路が鋸歯状になる現象を破壊力学的に説明している5)。Yoshinari and Aiharaは二次元き裂伝播モデルを用いてEBSD計測で求めた集合組織からへき開き裂伝播経路のミクロ挙動を解析し,衝撃試験片の採取方向によって破面形態が変化する実験結果を再現している6)。さらに,Handaらは,脆性き裂伝播停止靭性Kcaとシャルピー衝撃試験破面遷移温度の関係について検討し,板面{211},{100}集合組織が発達した鋼では同じ遷移温度でもアレスト靭性Kcaが高くなる傾向があることを示している7)。へき開き裂が主き裂面に対して傾斜することがその理由であると説明している。

上記のとおり,鋼の靭性異方性,および,その集合組織との関係について研究がなされているものの,それらの多くは定性的であり,より詳細な解析が必要である。著者らは,へき開破壊のミクロ挙動を解明するために,結晶粒レベルの3次元へき開き裂伝播モデルを提案し,結晶粒レベルにおけるへき開き裂伝播挙動を再現し,結晶粒微細化に伴う靭性の上昇や結晶粒間に生じるテアリッジのき裂伝播抑制効果などについて微視的機構から定量的に評価した8)。本研究では,このモデルを実験室制御圧延・制御冷却鋼に適用し,へき開き裂伝播挙動に及ぼす集合組織の影響について検討する。

2. 3次元へき開き裂伝播モデル

既報の研究において3次元のへき開破壊き裂伝播モデルを構築した8)。本モデルは応力論を基本としており,多結晶体を念頭においたき裂伝播・停止モデルである。

まず,Fig.1に示すようにき裂先端に存在するひとつの結晶粒を仮定する。この結晶粒内には3つの{100}面が存在し,そのうちのひとつがへき開面として選択されると考える。そして,この結晶粒内をき裂が伝播する際,それぞれの面に作用する垂直応力σnのうち,最も大きな垂直応力σnmaxを有する面がへき開し,き裂伝播経路として選択されるものと仮定する。そして,結晶粒界からの微小な距離rc(結晶粒よりも充分に小さい)においてσnmaxが局所限界応力σc以上である場合にその結晶粒内でへき開き裂が伝播するものと仮定している。すなわち,   

σ n max σ c (1)

Fig. 1.

 Cleavage fracture model, schematic.

がき裂伝播の限界条件となる。このモデルは,(i)結晶粒内の{100}面の一つが割れてへき開き裂になること,および,(ii)その条件は局所応力によって決まることが基本原理となる。

また,これらの局所応力を評価するために,局所的な応力拡大係数Kαtip(α=1, 2, 3)を考える必要がある。Kαtipはき裂前縁の非直線性9),き裂面の不規則さ10),へき開面間の段差11)などの要因で値が変化する。有限要素法でこれらの値を計算することも可能ではあるが,き裂伝播の段階ごとに数値計算を実行するのは現実的でないので,本モデルでは近似解を組み合わせることで算出している。(1)式を応力拡大係数の次元にすると(2)式のように表すことができ,Kαtipとの関係は(3)式のようになる。   

K eq-normal K c-local (2)

ここで   

K eq-normal = σ n max 2 π r c = n i m K α t i p f i j α ( θ ) n j m ( i , j = 1 , 2 , 3 ) (3)
  
K c-local = σ c 2 π r c (4)

njmは結晶粒の中で最大応力を有する{100}面の法線ベクトル,fijα(θ)はモードαに対応するθの関数である12)Kc-localはフェライト粒のへき開き裂伝播に対する抵抗を応力拡大係数の次元で表したものである。

また,モデルは多数の結晶からなり,き裂は連続的に伝播してひとつの破面を形成するものとした。き裂先端に位置するひとつの結晶粒に対して複数の方向からき裂が突入する場合は,最も大きな垂直応力を有する方向からき裂が伝播するものとした。さらに,ひとつのへき開面が複数の結晶粒に隣接する場合,これらすべての結晶粒に対してき裂伝播有無を評価することとした。これらの条件をもとに,き裂が結晶粒単位で伝播するごとに計算を繰り返すことによって,次々とき裂伝播経路が定まり,結果としてマクロ的なへき開き裂面が形成される。

本研究では,集合組織材に対してEBSD解析で得られた結晶方位のデータをこのモデルに適用することにより,へき開き裂伝播挙動の異方性を再現することを試みた。

3. 実験

3・1 供試鋼

本研究のモデルによるシミュレーションと比較し,その妥当性について考察するために実験室溶解鋼を用いて実験を行った。Table 1に供試鋼の化学成分を示す。50 kgの鋼塊を1000 °Cで1 h加熱後,920 °Cで粗圧延を行った。制御圧延の開始温度は700 °C,開始板厚は40 mmであり,終了時の板厚は20 mmである。圧延後,水冷によって室温まで冷却し,550 °Cで焼き戻しを施した。

Table 1.  Chemical Composition of the Tested Steel (mass%).
C Si Mn P S Al N
0.07 0.20 1.49 < 0.002 < 0.001 0.029 0.001

Fig.2に,TD断面の光学顕微鏡組織を示す。圧延方向に延伸したフェライト・パーライト組織である。TD,および,ND方向に直角断面の光学顕微鏡組織写真から,切断法によりRD,TD,および,ND方向の結晶粒径を求めた。また,引張り試験片はL(圧延方向),T(圧延直角方向),R(圧延方向から45°)の各方向から採取した。Table 2に,フェライト結晶粒径と引張り特性を示す。結晶粒の圧延方向延伸が明確である。また,降伏応力,引張り強さともに大きな異方性はなかった。

Fig. 2.

 Optical microstructure, TD cross section.

Table 2.  Grain size and mechanical properties.
Steel Grain size (μm) Yield stress (MPa) Tensile strength (MPa)
RD TD ND
G 40.7 21.4 10.7 L: 405 L: 498
T: 420 T: 499
R: 399 R: 495

Fig.3に,EBSD解析により求めた{100}正極点図を示す。制御圧延鋼で典型的な集合組織を示している13)

Fig. 3.

 {100} Pole figure.

Fig.4に,シャルピー衝撃試験の吸収エネルギー遷移挙動を示す。試験片採取方向はLT(試験片長さ方向が圧延方向,き裂伝播方向が圧延直角方向),TL(試験片長さ方向が圧延直角方向,き裂伝播方向が圧延方向),および,R(試験片長さ方向,き裂伝播方向ともに圧延方向から45°)とした。R,TL,LTの順に遷移温度が低下した。

Fig. 4.

 Charpy impact absorbed energy transition curves.

3・2 小型アレスト試験

本研究はへき開き裂伝播挙動の異方性を調査するのが目的であり,そのために簡易な小型アレスト試験を実施した。Fig.5に試験片形状を示す。試験片の寸法は40 mm×40 mm×20 mmで,機械切欠きの深さは12.4 mm,先端半径は0.25 mmである。試験片の方向はシャルピー衝撃試験と同様,LT,TL,および,Rとした。室温において切欠き先端に塑性変形が認められる程度まで,切欠きを閉じる方向に圧縮荷重を作用させ,へき開破壊発生を容易にすることを試みた。その後,試験片を液体窒素温度で20分間保持して冷却し,Fig.5に示す楔を切欠きに押し込んでへき開破壊を発生させた。へき開破壊が発生した時点でただちに除荷した。破壊発生荷重の試験片方向依存性は明確でなく,1.37~1.42 tonの範囲であった。Fig.6に,アレストき裂長さの試験片方向依存性を示す。LT,および,TL方向のアレストき裂長さは2 mmでへき開破壊が発生直後にき裂は停止したが,R方向ではき裂は試験片をほぼ貫通した。き裂伝播挙動に対して明瞭な異方性が観察された。

Fig. 5.

 Crack arrest specimen.

Fig. 6.

 Arrest crack lengths in the arrest test.

アレスト試験後,破面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。Fig.7に結果を示す。全体的にき裂伝播方向に対してへき開破面単位が延伸しているが,その傾向はTL,および,R方向で顕著であった。また,LT方向の試験片では破面単位間のテアリッジが顕著である傾向が認められた。破面の特徴をより明確とするために,Fig.8に模式的に示すように,それぞれの破面のリバーパターンを観察し,破面単位ごとにき裂の伝播方向を決定した。さらに,ある破面単位から隣接する破面単位にき裂が連続的に伝播しているならば,その破面単位間はき裂が連続的なものであるとした。一方,隣接する破面単位間でき裂が異なる方向から伝播している場合は,き裂が不連続であるとし,その破面単位間に境界線を引いた。Fig.9に,破面SEM像にき裂伝播方向と不連続境界線を記入した結果を示す。LT,TL,Rの順にき裂伝播方向が連続的になり,不連続境界線内の領域が大きくなる傾向が明確になった。シャルピー衝撃試験による破面も同様な傾向であった。

Fig. 7.

 Cleavage fracture surfaces, tested at –196 ºC.

Fig. 8.

 Schematic diagram of crack propagation directions and discontinuous boundaries on a cleavage fracture surface.

Fig. 9.

 Cleavage crack propagation directions and discontinuous boundaries.

4. き裂伝播シミュレーション

Fig.3に示した結晶方位データをモデルに用いることにより,へき開き裂伝播挙動の異方性の解析を行った。

縦弾性係数を206 GPa,ポアソン比を0.3,降伏応力σYをひずみ速度依存性を考慮して1000 MPaとした。また,解析においては解析領域に負荷される一様応力の各垂直成分,TxxTyyTzzが必要となる。本研究では,切欠き材の剛塑性応力解析14)に基づき,それぞれ1.3σY,2.5σY,0.95σYとした。テアリッジの限界ひずみを2.1とした8)。フェライト粒の形状は試験片方向によらず20 μmの等軸とし,試験片の方向に応じてき裂面に対する結晶方位の分布を変化させることにした。試験片厚さ方向に25個の結晶粒を配置した。き裂伝播のシミュレーションにおいて,(a)解析上,巨視的なき裂伝播方向に対してKc-localに正の勾配を持たせてき裂伝播をさせ,アレストき裂長さを決定する方法,および,(b)Kc-localを一定として複数回のシミュレーションを行い,アレストき裂長さが仮定したKc-localの値で変化させる方法の2種類の方法によってき裂伝播抵抗の方向依存性を解析した。ここで,Kc-localはフェライト粒のへき開き裂伝播に対する抵抗を表す指標であり,試験片方向によって変化させることはしない。各結晶粒の方位はEBSDデータからランダムにサンプリングすることにより与えた。

(a)Kc-local勾配型シミュレーション

この方法では,次式のようにき裂伝播開始位置におけるKc-localの値をKc0=13.5 MPa m とし,き裂進展量x[μm]に対して線形的にKc-localを増加させた。   

K c-local = K c 0 + 30 × 10 3 x ( MPa m ) (5)

き裂を伝播させるとKc-localが上昇するので,き裂はアレストする。アレストき裂長さによって異方性を評価した。各条件ごとに10回の繰り返しを行った。Fig.10に,アレストき裂長さの計算結果を示す。アレストき裂長さの平均値はLT,TL,Rの各方向に対して各々,326,398,432 μmであった。Fig.11に,各試験片方向におけるへき開破面の例を示す。LT方向の試験片ではへき開き裂面の凹凸が激しく,き裂は短距離でアレストした。一方,R方向の試験片ではき裂面はより平坦に近く,アレストき裂長さが大きくなった。アレスト長さが大きいということは,Kc-localが大きくなっているにも関わらず,結晶方位の影響だけでき裂が進展していることになり,その方向のマクロ的なき裂伝播抵抗の低さを表すことになる。LT,TL,Rの順にき裂伝播抵抗が低くなっていく様子が確認された。

Fig. 10.

 Calculated arrest crack lengths by the simulation (a), grain size 20 μm.

Fig. 11.

 Constructed cleavage fracture surfaces by the simulation (a), grain size 20 μm.

(b)Kc-local一定型シミュレーション

次に,Kc-localの値を固定して100回の繰り返し計算を行い,それぞれのKc-localの値におけるアレストき裂長さを求めた。Kc-localを10~30 MPa m の範囲で変化させた。

Fig.12に,各試験片方向におけるKc-localとアレストき裂長さの関係を示す。同一のKc-localでも,試行ごとにアレストき裂長さは異なった。また,あるKc-localの値以上になると急激にアレストき裂長さが短くなり,遷移挙動を呈することがわかった。さらに,試行ごとの変動は大きいものの,各方向に対する差異も明確で,LT,TL,Rの順に遷移曲線がKc-localの大きい方に位置した。アレストき裂長さの上下限の平均から求まる遷移Kc-localは,LT,TL,R方向に対して各々19.4 MPa m ,20.2 MPa m ,および,22.0 MPa m であった。遷移Kc-localの値が大きいことは,フェライト粒が有するへき開き裂伝播抵抗が高くてもき裂が伝播しやすいことを意味している。この差は結晶方位の影響のみによって生じたものであり,R方向のへき開き裂伝播抵抗が低いことを意味している。

Fig. 12.

 Calculated crack propagation-arrest transition curve by the simulation (b).

5. 考察

多結晶鉄および合金の圧延集合組織については多くの研究があり,主に二つの系列から構成されている2)。その一つは(100)面が圧延面に平行で[011]方向が圧延方向に平行な方位,および,この面を[011]軸のまわりに回転させた系列,もう一つの系列は(111)面が圧延面に平行で,且つ,これを板面法線のまわりに回転させた方位である。前者は{100}面がR方向に集積しており,これがR方向のへき開き裂伝播抵抗を低下させている大きな要因であることは本研究のシミュレーションを待たずとも容易に想像できることである。しかしながら,へき開き裂伝播はフェライト粒が次々とへき開破壊を生じる現象で,き裂伝播抵抗にはへき開面間の段差,すなわちテアリッジによるエネルギー吸収が大きく寄与するものであり,き裂伝播抵抗の異方性を結晶方位分布だけから議論することは妥当ではない。事実,Fig.11からわかるとおり,き裂は平面を保って伝播することはなく,特に,LT方向やTL方向では局所的に大きく異なる方向にへき開き裂が伝播することによりへき開面間で大きな段差が生じて,これがミクロ的なスケールで応力拡大係数を低下させてき裂伝播を抑制することがき裂伝播抵抗の上昇に寄与しているものと考えることができる。R方向のシミュレーションでは同一のへき開面が形成される頻度が高いために大きな段差が形成される頻度が少なく,マクロ的により平坦な破面を形成することになる。Fig.13は,Kc-local一定型シミュレーションにおいてKc-local=15 MPa m で生成した破面について,へき開面方位を正極点図にプロットしたものである。R方向試験片ではへき開面が最も集中している方向は主き裂のき裂伝播方向(RD方向とTD方向に対して45°)に対して直角である。すなわち,へき開面は主破面に対してtwistの関係にはなるものの,き裂伝播方向を変化させることはない。これに対してLT方向とTL方向の試験片ではへき開面が最も集中している方向は主破面のき裂伝播方向(各々,TD方向とRD方向)と直角ではない。このことはき裂が主破面から逸脱する確率が多くなることを意味している。この結果はFig.11と対応するもので,主破面から逸脱する確率が高くなれば,へき開破面間の段差,すなわちテアリッジが厚くなり,き裂伝播に対する抵抗力が増大してき裂が停止しやすくなると考えることができる。

Fig. 13.

 Cleavage plane orientations,Kc-local=15 MPa m .

Fig.14は各方向のき裂伝播シミュレーションで得られた破面を直角方向から見たものである。Fig.9に倣って,結晶粒ごとのき裂伝播方向(各結晶粒にき裂が突入した方向)を矢印で,き裂伝播の不連続部を黄色の実線で示してある。LT方向とTL方向の試験片ではき裂伝播方向が頻繁に変化し,不連続線に囲まれた領域が小さいのに対して,R方向試験片ではき裂伝播方向が比較的揃って不連続線に囲まれた領域が大きく,且つ,伝播方向に長くなる傾向が見てとれる。これをFig.9と比較すると,定性的によい一致を示していることがわかる。このことからも本シミュレーション手法が妥当であることが裏付けられる。

Fig. 14.

 Cleavage crack propagation directions and discontinuous boundaries, simulation (b). (Online version in color.)

き裂伝播抵抗の異方性を議論するためには結晶方位分布に加えて上記のようなへき開面間の段差が生じる挙動も考慮することが必要で,それが本モデルによって初めて可能となった。

なお,シャルピー衝撃試験では,LT方向試験片が他の2方向よりも遷移温度が大きく低温側に位置していた。これに対して小型アレスト試験ではLT方向とTL方向に対してR方向の伝播挙動に大きな差が生じた。Fig.12に示したシミュレーション結果も小型アレスト試験の結果と同様な傾向であった。両試験方法で靭性異方性の順序は変わらないものの,傾向に差が生じた理由は明確ではない。一般に,シャルピー衝撃試験は破壊発生靭性と伝播靭性の両者を含むものと解釈されるが,へき開き裂伝播によって吸収されるエネルギーは微々たるもので,吸収エネルギーの大半はへき開き裂発生までに消費され,き裂伝播特性よりも発生特性が支配的と考えるべきである。本研究におけるシャルピー試験においてLT方向が他の方向よりも遷移温度が低温となったことはへき開破壊発生特性がこの方向で特に高かったものと考えることができる。この方向ではき裂が横切る方向の結晶粒は他の方向より小さくなるので,その効果を考慮すべきである。結晶粒の扁平度もき裂伝播に影響を与えることが想像されるので,この因子もモデルに組み込む必要がある。結晶粒径はへき開破壊の発生だけでなく伝播抵抗にも影響する13)。本シミュレーションモデルでは結晶粒径の影響を定量的に評価するに至っていないので,改良が必要である。

6. 結言

へき開き裂伝播モデルによるき裂伝播のシミュレーションとシャルピー衝撃試験・小型アレスト試験片破面観察結果から,以下のような結論を得た。

(1)シャルピー衝撃試験・小型アレスト試験の結果,R方向の靭性が低いことが認められた。

(2)へき開き裂伝播シミュレーションモデルにEBSD計測で得た結晶方位データを適用することにより,き裂伝播抵抗に及ぼす異方性について解析した結果,LT,TL,R方向の順にき裂伝播抵抗が低くなることが2種類のシミュレーション方法で確認された。

(3)試験片破面のへき開き裂伝播方向を観察した結果,LT,TL,R方向の順に,隣接する結晶粒のき裂伝播方向が連続的で,且つ,不連続境界内の領域も大きくなることが確認された。本シミュレーションで再現される破面も同様の傾向が認められ,本手法が妥当であることが確認された。へき開き裂伝播抵抗の異方性を評価するためには,結晶方位だけでなく,へき開破面形成におけるへき開面間の段差も考慮する必要がある。

文献
 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan
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