2014 Volume 100 Issue 11 Pages 1380-1385
Concave and convex defects on steel sheets cause problems in the steel production line. These defects are usually invisible since their height or depth is as small as the normal surface roughness of steel sheets. Therefore, they can only be detected by human inspection after grinding the steel surface with a grindstone.
We found that Magnetic Flux Leakage Testing (MFLT) is effective for detecting these kinds of defects. The MFLT method can detect not only magnetic flux caused by the shape of defects, but also that caused by the strain of defects. This paper describes the results of experiments to verify the principle of the detection method and in-line experiments. As a result of the in-line experiments, it was found that some defects cause MFLT signals which are too small to detect automatically. To solve this problem, we proposed a new periodical method to improve detectability. Based on these results, we developed an in-line concave and convex defect inspection technique.
製鉄ラインにおける薄鋼板の製造プロセスにおいては,ロール疵などの凹凸性の疵(以下,砥石がけレベル欠陥と呼称する)が発生する場合がある。これは,製造ライン中にある圧延用ロールないしは搬送用ロールに付着した異物,あるいはその異物がロールに噛み混んだことによってロール自体に生じた凹凸が鋼板に転写されて発生するものである。これらの疵の大きさは数mm~数十mm程度であるが,凹凸は数μm程度と非常に小さいものである。この凹凸は鋼板の表面粗さと同じ程度であるため,そのままの状態で観察しても発見することができない。ところが塗装され表面粗さが塗料に埋められ表面が滑らかになると明瞭に見えるようになり,外観上大きな問題となる。またこの砥石がけレベル欠陥はロ−ルから転写されて生じるため,一度発生すると異物を除去する,または傷付いたロ−ルを交換する等を行わないと欠陥が周期的に発生し続けるという特徴がある。
このような疵を見つけるために,各検査ラインにおいてはFig.1のように操業中に鋼板の走行を一度停止し,検査員が砥石がけを行った後に目視検査をしている。砥石がけを行うと凹部に比べて凸部がより砥石にあたり,反射率が高くなるので凹凸部の差が明確になり,目視で確認可能となる。これを砥石がけ検査と呼称している。
Human inspection after grinding steel surface using grindstone.
しかし,このような方法は検査ラインを停止して行わなければならず,かつ,かなりの時間を要するので作業能率を低下させるという問題があり,古くからこの砥石掛け欠陥の自動検出技術のニーズは強かった。
このように,砥石がけ検査の自動化は鉄鋼各社に共通する大きな課題となっており,社団法人日本鉄鋼連盟のワーキンググループ活動において,シーズ技術に関する調査研究などが行なわれている1)。
上記のシーズ技術に関する調査研究をまとめると,光学式手法35件,X線方式2件,サーモグラフィ利用などその他手法7件となっている。この調査の結論としては,各技術それぞれ実現の可能性はあるが,検出能向上,応答速度向上等が実機化への課題としてあげられている。
前述したように,鉄鋼連盟における調査では表面欠陥の検出方式として一般的な光学方式以外にも,X線,サーモグラフィなどの各種方法が検討されているにもかかわらず漏洩磁束探傷法(MFLT:Magnetic Flux Leakage Testing)は検討外であった。
これは,従来は漏洩磁束探傷法では,砥石がけレベル欠陥の検出は困難と考えられてきたことのよるものと思われる。以下,理由を説明する。
従来,漏洩磁束探傷法を薄鋼板に使用する場合は主として内部介在物探傷に用いられてきた2,3,4,5)。缶用鋼板を対象とした厚さ0.2 mm~0.4 mmの鋼板中に存在する10~50 μmの厚さの内部介在物を検出する例や,厚さ1~2 mm程度の熱延鋼板を対象に180 μm程度の内部介在物を検出する例が報告されている。板厚が薄いものでは10 μmオーダーの内部介在物を検出した事例があるが,板厚が厚くなると対象とする欠陥サイズは100 μm以上の大きなものとなることが一般的であった。
しかし,砥石がけ検査は,缶用鋼板のみならず板厚1 mm程度に及ぶことのある各種冷延鋼板,表面処理鋼板も対象としている。板厚1 mmの鋼板における凹凸数μm程度の砥石がけ欠陥の検出に用いるには,従来の常識から検出能が足りないと考えられていたと思われる。
しかし,砥石がけ欠陥の発生過程は前述したように,ロールの凹凸が鋼板に転写されて生じるものである。凹凸が鋼板に転写される際に鋼板内部に残留応力による歪みが残ると考えた。歪みが生じている箇所では,健全部に対して金属結晶の格子間距離が変化する。この格子間距離が変化することで,スピン相互作用が変化するため,欠陥部では健全部に対して透磁率が変化するといったことが予想される。
漏洩磁束探傷方法により,欠陥部の凹凸量に起因する漏洩磁束信号に加えて歪みに起因する漏洩磁束信号をあわせて検出することで,砥石掛けレベル欠陥を検出可能と考えた。そこで,まず歪みと漏洩磁束の関係について調査を行った。
連続焼鈍ライン(CAL)で発生した凹凸量が約4 μmとほぼ同じ大きさの砥石がけレベル欠陥のサンプルを用意した。はじめに,これらの欠陥にX線を照射しその回折パターンから残留応力を算出した。
次に,漏洩磁束探傷で欠陥の探傷を行った。装置構成をFig.2に示す。磁化器の磁極間隔120 mm,鋼板と磁化器の距離を6 mm,起磁力15000 AT,磁極間中心のセンサ側鋼板サンプル表面上0.5 mmの磁束密度の水平方向成分は60 mTの条件とした。センサはホール素子を用い,センサと鋼板サンプルの距離は1 mmとし,鋼板サンプルと垂直方向の磁場成分を測定した。
Schematic of MFLT.
実際のサンプルを探傷する際は,サンプルの位置を水平方向にスキャンして,磁化器,センサとの相対位置を変えながら実験を行っている。
Fig.3にCAL自然欠陥の1例として凹凸量をレーザ距離計により計測した結果を示す。Fig.4はFig.3に凹凸を示した欠陥と同じラインで計測した漏洩磁束探傷結果である。なお,漏洩磁束探傷では,漏洩した磁束が欠陥のサイズより広がるためFig.4に示す欠陥により発生した信号の範囲は,Fig.3に示す欠陥凹凸の範囲よりも広くなっている。これは,以下の例でも同様である。
Example of cross-sectional shape.
Example of MFLT Signal.
Fig.4に示す欠陥部の信号をS,健全部の信号をノイズNとし,SをNで除したものをS/Nと定義した。
Fig.5は,凹凸量約4 μmのCAL自然欠陥の歪み量と漏洩磁束探傷による探傷結果(S/Nで表示)をグラフで表したものである。実際に,歪み量と漏洩磁束信号に高い相関があることがわかる。
Relation between strain and S/N of MFLT.
この歪みは,アニールなどの熱処理により低減すると考えられる。そこで,冷間圧延(TCM)ラインで欠陥が発生したコイルをCALラインでアニールした。この欠陥サンプルをTCMライン通過後,CALライン通過後で採取して形状計測,漏洩磁束探傷を行い比較した。
Fig.6はTCMで採取したサンプルの計測結果で,凹凸量は2 μm,漏洩磁束探傷のS/N=7.4であった。Fig.7はCALで採取したサンプルで凹凸量は同じく2 μm,S/N=5.9であった。
Example of TCM sample measurement.
Example of CAL sample measurement.
Fig.6, 7のそれぞれのサンプルに対して欠陥部,健全部の応力を測定したところ,TCMサンプルで326 MPa/299 MPa(欠陥部/健全部),CALサンプルで185 MPa/165 MPaであった。CALにおけるアニーリングにより欠陥部の応力が減少するため信号レベルが1.25 Vから0.65 Vへ低下しているが,健全部も同様に応力が減少するためノイズレベルが0.17 Vから0.11 Vへと減少していることが見て取れる。なお,アニーリング後のCALサンプルで漏洩磁束信号が零にならないのは,その凹凸形状に起因する信号が存在することに加えてCALにおける調質圧延による応力の負荷が原因と考えられる。
以上の実験により欠陥発生時に生じた歪み(残留応力)に起因する漏洩磁束信号が存在し,検知可能であることを確認した。
次に,工場で発生した自然欠陥サンプルを用意し,漏洩磁束探傷を行った。また,鋼板サンプルを適当な力で打突することで人工欠陥を作成し,ラボの加熱炉でアニーリング処理(850°C 10分)して歪を除去したものを用意し,同様に漏洩磁束探傷を行い通常のサンプルと比較した。
Fig.8は,集めた自然欠陥24サンプルとアニール後の人工欠陥に対して漏洩磁束信号のS/Nと凹凸量に対して整理比較したものである。
Relation between defect height and S/N of MFLT.
Fig.8の図中の直線はアニール後の人工欠陥のプロットの直線近似である。この直線は,応力が除去された人工欠陥から漏洩する磁束を元にしているため凹凸に起因する信号の寄与分と考えられる。自然欠陥のプロットはいずれもこの直線より図中で上にあり,凹凸量起因の信号より大きな信号が検出されている。欠陥発生時に生じる歪み起因の信号分が加わっているためと考えられる。
上記の結果を受けて,薄板製造工程における検査ラインにオンライン試験装置を設置した。
Fig.9にオンライン試験装置の概要を示す。
Schematic of inline testing equipment.
装置は以下の構成からなる。センサBOXの前後下部に接材用のロールを設け,鋼板からセンサまでの距離を1 mmに保ちつつ鋼板を60 mpmの速度で走行させながら探傷した。なお,走行速度を2倍程度まで変化させたが検出性能に影響はなかった。センサBOXは検査ラインに設けられた架台に沿ってトラバースさせることで鋼板の幅方向に位置を変えることができるようになっている。センサBOX内には鋼板を幅方向に磁化することができる磁化器と,磁化器の磁極間に1 mmピッチでホールセンサを100個並べ鋼板の幅方向約100 mm幅を探傷可能な構成とした。
本装置を用いて,検査ラインで検出した板厚約1 mmの鋼板上の欠陥の漏洩磁束信号の1例をFig.10に示す。
Example of MFLT result.
Fig.10(a)は,漏洩磁束信号を信号強度が高いものを白,低いものを黒として2次元表示したものである。Fig.10(b)は,Fig.10(a)の幅方向に点線の矢印の位置における信号のプロファイルを示したものである。
Fig.10(a)に見られるように,ロール周期で漏洩磁束信号が検出されている。この信号が検出された箇所を特定し,検査台でサンプルを切り出して確認したところ凹凸量約2 μmの砥石がけレベル欠陥が確認された。Fig.10(b)の信号のプロファイルデータからこの欠陥はS/N=約9で検出されていることがわかる。この欠陥を切り出し,2章で実験をおこなったラボ試験装置で測定したところS/Nはオンライン試験装置と同程度であった。Fig.8では凹凸量2 μmの欠陥における凹凸起因の信号成分はS/Nは1より小さい。オンラインにおいても凹凸起因の信号に歪起因の信号が加わって検出されたものと考えられる。欠陥部以外には大きな信号は検出されなかったことから,ノイズとして検出されている信号が鋼板製造過程で生じる歪と考えられる。また,筆者らの経験では,オンラインで欠陥を自動検知するにはS/N>3を必要とすると考えられるが,本欠陥は十分自動検知可能なレベルであった。
Fig.11は板厚約1 mmの鋼板上に存在した別の欠陥の探傷例である。Fig.11(a)で見られるようにロールピッチで漏洩磁束信号が検出された箇所を検査台で切り出して調べたところ,凹凸量1 μmの砥石がけレベル欠陥が確認された。
The other result of MFLT.
Fig.11(b)から漏洩磁束信号のS/Nは1.8であった。先に述べたようにオンラインで自動検出するには,S/Nが不足している。次章でこの問題に対する対策について述べる。
前章では,S/Nが3以下の自動検出が困難な欠陥が見られた。砥石がけレベル欠陥はロールについた凹凸が転写されて生じるため,ロールピッチの周期で繰り返される特徴を持つ。そこで,この周期性を利用してS/Nの向上を図ることとした。
周期性を利用して検出能の向上を図る手段としては,自己相関演算や計測した信号に閾値演算を行い欠陥の候補部を抽出する。欠陥候補部の間隔を評価して,同一の間隔を持つ欠陥候補部を周期性欠陥と判断する手法6)が知られている。
今回の砥石がけレベル欠陥の周期性は,長くても数10 mm程度の大きさの欠陥からの信号がロールピッチの1mを越える長い周期で繰り返されるもので,信号の大部分は周期性を持っていない。そのため,自己相関演算を行っても周期性を持つ信号領域が狭いため周期を特定できないという問題がある。
後者のようにはじめに閾値演算を適用する手法をとっても,欠陥部からの信号のS/Nが低いため膨大な数の欠陥候補部が抽出されてしまい,その後の処理が膨大になってしまい現実的ではないという問題がある。
Fig.10(a),Fig11(a)では,同タイミングで発生した砥石がけレベル欠陥からの漏洩磁束信号が1周期分の距離離れた2つの箇所から観測されている。これらの漏洩磁束信号の2次元分布は欠陥毎に類似のパターンを持つことがわかった。この特徴に着目して,漏洩磁束信号の2次元分布の相関演算を用いる方式を考案した。
以下,Fig.12を用いて説明する。
Periodical algorithm.
Fig.12aは,漏洩磁束信号を2次元化したもので図中の縦が鋼板幅方向,横が移動方向に相当する。漏洩磁束の2次元分布の類似性を評価するため,まず,欠陥と同程度の大きさ(l×h)の領域1から5を幅方向の同じ位置に,長手方向に距離dの間隔で配置する。
領域1と領域2の間で相互相関演算
(式1) |
により相関値R12(d)を求める。
同様に,領域1と3,1と4,1と5,で
(式2) |
を計算し,R13(d),R14(d),R15(d)を計算する。
これらを足し合わせた
(式3) |
R(d)を類似性を評価する指標とする。
次に,dをd+Δに変えて,同様にR(d+Δ)を計算する。このようにdの値を,砥石がけレベル欠陥が発生するロールの周長の範囲で変化させてR(d)を求めていく。領域1に砥石がけレベル欠陥がある場合には,dが欠陥周期と一致した際にR(d)が最大となる。
実際に鋼板を測定する際には,鋼板上のどこに欠陥があるかはあらかじめわかっているわけではないため,領域1の幅方向,移動方向位置を少しずつ変えながら上記のR(d)を計算し,R(d)が閾値を越えた場合に,その位置に周期dの欠陥があると判定する。
上記の手法により,Fig.11の欠陥の周期性を評価した結果をFig.13に表す。
Result of periodic method.
Fig.13では,ロールの周長約1700 mmに相当するところで周期性の評価指数Rが最大となっている。実際に欠陥が発生したロール周期と一致しており,本手法により周期性信号が存在し,その周期を特定できた。
以上の手順で検出された周期性信号に対して,領域1から5の領域内での同じ位置に相当する箇所の信号を足し合わせる同期加算演算を行う。同期加算後の信号のS/Nが閾値を越えた場合に欠陥と判定する。
Fig.11の欠陥に対して同期加算演算した結果をFig.14,Fig.15に示す。
Synchronous added 2D image of MFLT.
Synchronous added MFLT signal along the dashed arrow in Fig.14.
Fig.14は同期加算演算前のFig.11(a)と比較してコントラストが高くなっており,実際,Fig.11(b)と同一ラインの漏洩磁束信号をプロットしたFig.15ではS/N=3.7を得,前述した自動検出可能なレベルであることが確認できた。また,Fig.11(c)のS/N=1.8の約2倍となっている。5周期の信号を同期加算することでランダムなノイズ分が1/√5となることが期待される。S/Nでは約2倍の改善となり結果と一致している。
上記の周期性を利用した検出手法を適用したオンライン試験を一定期間実施し,オンライン試験期間中に発生した全13サンプルを検出することに成功した。
オンライン試験において良好な結果を得られたため,実ラインへの適用を検討した。
Fig.16は実機構成の概略と計測方法のイメージである。実機適用に際しては,鋼板の振動の影響を低減するためロールに巻き付いた箇所に装置を設置することとした。
Schematic of inline measurement system.
センサを内蔵したセンサBOXは,オンライン試験装置と同様に幅方向に磁化する磁化器を設け,その磁極間に100 mm幅を探傷するための磁気センサを100 Ch分並べた。このセンサ構成では,一度に100 mmの幅を探傷できる。
実際の計測は,以下の手順で行う。まず鋼板の端から100 mmの範囲を探傷可能な位置にヘッドを配置する。対象となるロール周期の10倍程度の長さの探傷を行う。さらに,ヘッドを幅方向に100 mm移動して探傷を行うことを繰り返す。このように,ヘッドを順に動かしながら鋼板の全幅を探傷する。砥石がけレベル欠陥は一度発生すると周期的に繰り返し発生する欠陥である。そのため1コイル通板する間に全幅を計測すれば十分と考えた。このトラバースする手法をとることで,装置の簡易化を実現した。
以上の装置を薄板製造ラインに導入し,実ラインでの運用を行っている。
薄板の製鉄ラインで発生する,砥石がけなしでは目視でも確認できない砥石がけレベル欠陥に対して,欠陥発生時に生じる歪に着目し漏洩磁束探傷法で検出する方式を提案した。オフラインでの実験により,歪により漏洩磁束信号が生じることを明らかにし,オンライン装置を製作した。
オンライン装置では,漏洩磁束信号のS/Nが低い課題に対して周期性を利用したアルゴリズムを考案し,自動検出が可能なレベルのS/Nを得ることが可能となった。
エンジニアリング上の工夫も加えて実機での実運用を開始した。