Tetsu-to-Hagane
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Quantitative Analysis of Free-lime in Slag by X-ray Diffraction Method
Kei TanakaMasanao NaritaKazunori Watanabe
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2014 Volume 100 Issue 11 Pages 1386-1390

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Synopsis:

Quantitative analysis of free-lime (CaO) in the slag by X-ray diffraction (XRD) method was considered experimentally. CaO included in the slag was not pure CaO because X-ray diffraction peaks of CaO in the slag shifted from that of reagent CaO. The standard addition method was applied for quantitative analysis by XRD. In order to evaluate suitability, quantitative values obtained from XRD were compared with chemical analysis values obtained from ethylene glycol extraction method. Both values showed good relation. It was proved that a linear relation between XRD values and chemical analysis values by Pearson product-moment correlation coefficient.

1. 諸言

道路骨材に用いる鉄鋼スラグではCa化合物中の遊離CaO(フリーCaO)が酸化,吸湿することにより膨張が生じ道路面の膨れとなる。このため蒸気エージングにより形態変化を促しており,正確なCaOの定量がエージング時間決定の決め手となることから,近年,Ca形態別分析の要望が高まっている。現在,Ca化合物の形態別定量はエチレングリコール抽出法による化学分析で実施しているが,分析工程は複雑かつ所要工数が大きく,また,信頼性が不透明であることから別方法での定量が望まれている。そこで,形態別分析が可能なX線回折(XRD)法によるフリーCaOの定量を試みた。

XRDを用いた定量分析法としては事前に検量線の作成を必要とする直接法や内標準法1,2,3),検量線を必要とせず測定対象試料に直接標準試料を添加する標準添加法4),標準試料すら必要とせずに回折プロファイルに対して精密な計算による解析を行うことによって定量値が得られるリートベルト法5)がある。今回の測定試料であるスラグの場合,定量対象であるCaO以外にも多数の化合物が混合しており,また,それら多数の化合物の混合比がロット毎に異なっている。したがって,検量線を必要とする直接法や内標準法は,事前に測定対象に含まれるすべての化合物の標準試料を用意しなければならないことに加えて,ロット毎に混合比が異なるために測定毎に検量線を作成しなければならない。さらにスラグ中の化合物には市販されていない試薬もあり,現実的には直接法や内標準法の実施はほぼ不可能と考えられる。また,リートベルト法による定量においても標準試料は不要ながら,化合物が多いとそれだけ計算時のパラメーターが増えることや,スラグ中に含まれる物質にはいまだ結晶構造が解明されていない化合物も存在するために最適解を得るのは困難なことが予想される。したがって,今回のスラグ中のCaOの定量には測定毎に標準試料を添加することによって,毎回変化するマトリクスにおいても定量可能な標準添加法が最適と判断される。しかしながら,標準添加法は定量測定毎に添加濃度の異なる試料を10試料程度作製しなければならず,検量線法よりも測定に多くの時間を要する欠点を持つ。

今回の研究ではスラグ中のフリーライムの定量分析に対して,XRDによる標準添加法の適用可能性を実験的に検討した。

2. 実験

高炉メーカーから提供されたA~Eの5種類の転炉スラグを使用して定量分析の検討を行った。XRD法から得られた定量値の妥当性を評価するために化学分析値との比較を行った。一般にスラグ中のフリーCaOの化学分析はエチレングリコール抽出法によって行われるが,抽出の際にフリーCaOのCa分だけでなくCa(OH)2のCa分も抽出されると言われており,化学分析では本来の値よりもCaの定量値が高めに出る可能性が示唆されている。したがって,今回の一連の測定においては脱水処理を行いCa(OH)2を除去した各スラグに対して化学分析およびXRDによる定量を行い,それぞれの値同士を比較した。

化学分析およびXRDに使用した各スラグはまず始めに100メッシュ以下に鉄鉢粉砕し,その後,磁気選別を行い,さらに200メッシュ以下にメノウ乳鉢で粉砕した後,N2ガス雰囲気中で600 °C,30分の脱水処理を行った。脱水後のそれぞれの転炉スラグ試料に対して,0.5 gを三角フラスコに入れ,エチレングリコール(和光純薬,特級)25 mlとともに80 °Cにおいて30分間撹拌した。その後,上澄み液をマイクロチップにて吸引し,フィルターでろ過した抽出液中のCa量をICP(島津製作所製,ICPV-1017)により測定した。化学分析によって定量された各スラグ中のフリーCaOの値をTable 1に示す。CとDの分析値が5.8 mass%と5.3 mass%とと値が近かかったため,Cの試料を除外した4試料をXRDによる定量対象とした。これら化学分析によって定量された粉末スラグに標準試料を1, 2, 4, 6, 8, 10 mass%添加し,粉末XRD装置(リガク製RINT-TTRIII,Co Kα,40 kV-200 mA)を用いて測定を行い,(200)面の積分強度と添加量の関係からCaO含有量の算出を行った。

Table 1. Quantitative values of free-lime in the slag by chemical analysis (mass%).
Slag sampleABCDE
Amount of free lime in slag (mass%)2.511.75.85.37.7

3. 結果および考察

3・1 標準試薬の検討

XRDによる定量分析における誤差要因の一つに,試料ホルダー内に粉末試料を詰めた際に発生する試料の配向性による回折強度のばらつきがある。そこで,まず,標準添加法に使用する標準試薬のX線回折強度のばらつきを確認した。CaO標準試薬(三津和化学製,99.99%)を3ケずつ試料ホルダーに詰め,粉末の配向性の有無を確認するために試料面内回転させた場合と面内回転させない場合の測定を行い,それぞれの回折プロファイルに対してLottgering配向度6)の評価を行った。

Lottgering配向度Fは次式で表わされる。   

F=PP01P0(1)

ここで,Pは   

P=I00lIhkl(2)

で表わされ,Pは対象試料から計算された値,P0は無配向試料から計算された値を示す。今回の計算において無配向試料の強度比はICDD,PDF(00-037-1497)の値を用いた。配向度Fの評価として,F=1の場合は完全配向であることを示し,F=0の場合は完全無配向であることを示す。Table 2に各測定結果から得られた配向度Fの一覧を示す。すべての値がほぼゼロで特に顕著な配向性は認められない。試料間および面内回転あり,なしの違いによるばらつきは同一試料の連続三回測定のばらつきと同程度であり,標準試料として使用した場合に試料の詰め方等の試料調製によるばらつきは測定結果に影響を及ぼさないものと思われる。

Table 2. Crystal orientation of reagent CaO.
Sample 1Sample 2Sample 3Sample 1 (With Roation)
With RoationWihtout RoationWith RoationWihtout RoationWith RoationWihtout RoationFirstSecoundThird
F(111)(222)–0.001–0.006–0.007–0.006–0.005–0.001–0.002–0.004–0.002
F(200)(400)–0.0030.0120.0090.0120.0150.0120.0160.0180.009
F(220)–0.006–0.006–0.007–0.006–0.010–0.006–0.007–0.009–0.002
F(311)–0.005–0.008–0.008–0.008–0.007–0.008–0.008–0.007–0.008
F(331)0.0000.0000.0000.0000.0010.0000.0000.0010.000
F(420)0.0120.0100.0140.0100.0100.0050.0050.0060.005

3・2 標準添加法による定量分析の検討

標準試料が添加されていないスラグの代表的なX線回折プロファイルをFig.1に示す。Fig.1はスラグB(CaO化学分析値11.7 mass%)から得られたプロファイルである。PDFカードで同定を行ったところ,CaO以外にCa14.92(PO4)2.35(SiO4)5.65,Ca2Fe2O5,FeO,Fe3O4がマトリクスとして同定された。注目物質であるCaOに対してもCaOと格子定数が近く,結晶構造が同じであるCaFeO2がICDD,PDF(00-021-917)として存在しており,プロファイル中のピークが純粋なCaOかCaFeO2かの判断が難しい。定量分析を行うために使用するCaOの回折面を決定するにあたって,ピークの重なり,強度等を考慮した結果CaOの(200)面が最適と判断した。64°付近にもCaOの(220)面が他の物質のピークと重なりがなく単独で存在しているが,スラグが吸湿した際には,64°付近にCa(OH)2の(111)面が出るので除外した。

Fig. 1.

 Typical X-ray diffraction pattern for slag.

スラグBに4 mass%の標準試料を添加した試料から得られたCaO(200)面近傍の回折プロファイルをFig.2に示す。添加した標準試料は43.6°付近にピークを持ち,標準的なCaOのICDD,PDF(00-037-1497)とほぼ同じ2θ角(43.7°)であるのに対し,もともとスラグ中に含まれていたCaOは44.1°付近とピークシフトが認められ,ピーク位置だけから判断するとスラグ中に含まれているCaOは標準的なCaOよりもCaFeO2に近い格子定数を持っているものと考えられる。今回のスラグ中のCaOがFeとの化合物を形成しているとするならば,Nishinoharaら7)によってCaOに対するFeOの固溶度による格子定数の変化が調べられており,今回の試料から格子定数を算出すると0.477 nmとなり,組成比はCa0.9Fe0.1Oに近いものが生成されていると思われる。標準試料の添加量を1~10 mass%に変えて作製した試料から得られた回折プロファイルをFig.3に示す。標準試料の添加量増加とともに43.7°に現れるCaO(200)面のピーク強度が増加しているのが分かる。

Fig. 2.

 Enlarged X-ray diffraction pattern. (reagent CaO 4 mass%)

Fig. 3.

 X-ray diffraction pattern obtained by the slag changed the adding quantity of reagent CaO from 1 to 10 mass%.

このようにスラグ中に存在するCaOは標準的なCaOとは格子定数が若干異なるが,43.6°のピークと44.1°のピークを一つのピークとして捉え,その積分強度からスラグBに対して定量した結果をFig.4に示す。同一試料を2回連続測定した結果,1回目(実線)は10.2 mass%,2回目(破線)は11.7 mass%と化学分析値(11.7 mass%)と近い値であった。

Fig. 4.

 The result of quantity by XRD for slag B.

XRDによる定量は基本的に2回の測定を行ったが,XRDによる定量は測定に時間がかかるために,スラグによっては測定中に経時変化を起こし,1回目と2回目の定量値が大幅に異なることがあった。測定中に経時変化を起こした例を示す。Fig.5はスラグE(化学分析値7.7 mass%)に対して定量を行った結果である。1回目の測定結果から算出された定量値は9.3 mass%であったのに対し,2回目の測定では17.1 mass%と1回目の定量値と2回目の定量値が大幅に異なっている。これは上記のスラグBの測定が4月10日であったのに対し,スラグEの測定日は6月22日であり時期的に大気中の湿度が高く,スラグ中のCaOと大気中の水分が反応してCa(OH)2に変化したためと考えられた。そこでスラグBとスラグEのそれぞれの回折プロファイル中に見られたCa(OH)2の(011)面に注目して測定時間に対して回折ピークの積分強度をプロットしたものをFig.6に示す。4月30日測定のスラグBでは強度変化が測定時間に対してほとんど見られないのに対し,6月22日測定のスラグEでは100分を過ぎたあたりから急激な強度増加が認められ,測定中にCa(OH)2に変化していく様子が確認された。さらに詳細な解析を行うためにスラグEの中に,もともと含まれていたCaO(2θ角:44.1°)と定量用に添加されたCaO(2θ角:43.6°)のピークに対してピーク分離を行い,それぞれのピークの積分強度を用いて解析を行った結果をFig.7,8に示す。Fig.7で示された1回目の測定ではスラグ中にもともと存在していたCaOも添加したCaOも添加量に対して良い直線性を示すのに加えて,添加CaOの直線回帰式の切片はほぼゼロを示すのに対し,Fig.8で示された2回目の測定においては添加CaOの直線回帰式の切片はゼロにならず,直線性も非常に悪いことが分かる。しかしながら,2回目の測定においてもスラグ中にもともと存在していたCaOは1回目の測定と同様に添加量の増加とともに若干の減少が認められるが,直線性はそれほど悪くはなく,一回目の測定と同程度の直線性を示している。したがって,大気中の水分と反応して経時変化を起こすのは主に定量用に添加した標準試料のCaOであることが分かる。上述したように,このスラグ中にもともと存在していたCaOは格子定数も若干異なることから純粋なCaOではないと考えられ,水分との反応性も異なっているものと推察される。このようにXRD定量値は大気中の湿度に応じたCaOの経時変化により影響を及ぼされることから,XRD測定には迅速性を必要とすることが明らかにされた。

Fig. 5.

 The result of quantity by XRD for slag E.

Fig. 6.

 Time dependence of integral intensity of XRD peak of (011) plane of Ca(OH)2.

Fig. 7.

 Changing integral intensities of XRD peaks of 44.1 and 43.6º of slag E in first time measurement.

Fig. 8.

 Changing integral intensities of XRD peaks of 44.1 and 43.6º of slag E in second time measurement.

同様にして他のスラグに対しても定量を行い,化学分析値との比較を行ったグラフをFig.9に示す。横軸に化学分析による定量値を,縦軸にXRDからの定量値が示されている。図中の破線は最小二乗法による近似直線を示す。化学分析値およびXRD定量値は基本的に2回測定の平均値がプロットされているが,上述したように試料がXRDによる定量中に経時変化を起こした場合,2回目の測定値は除外して1回目の測定結果のみをプロットしてある。一見してXRDによる定量値と化学分析による定量値の間には良い相関性が見受けられるが,XRD法から得られた定量値の妥当性を評価するために化学分析から得られた定量値との間に直線回帰の相関性があるかどうかの評価を行った。

Fig. 9.

 Comparison between free-lime quantity values by XRD and chemical analysis.

二つの数値からなる一組のデータ列(x, y)={(xi, yi)}(i=1, 2, 3, ….n)が与えられた時,ピアソン相関係数rは次式で表わされる。   

r= Σ i=1 n ( x i x ¯ )( y i y ¯ ) Σ i=1 n ( x i x ¯ ) 2 Σ i=1 n ( y i y ¯ ) 2 (3)

(3)式を用いて算出された|r|は0.967であり,自由度n=4の時のr0.05は相関係数検定表からr0.05=0.950と分かる。したがって,|r|=0.967>0.950=r0.05となり帰無仮説が棄却され,化学分析値とXRD定量値との間には直線回帰の相関性が認められる。また,XRD定量値と化学分析値の間に偏りが存在するかどうかを確認するためにt検定を行ったところ,算出された|t|値は0.501となり,自由度n=4の時のt0.01t分布表から5.841となる。したがって,|t|=0.501<5.841=t0.01となり,有意差がなくXRD定量値と化学分析値の間には偏りがないことが明らかとなったが,今回のXRD定量値に対しては原子散乱因子に起因した本質的な誤差が存在していると考えられる。分析対象であるスラグ中のCaOは上述したように,おそらくFeが固溶しているのに対して,定量用に添加したCaOは純粋なCaOであり,標準添加法によるXRDを行った際には,その原子散乱因子の違いに起因して回折強度が異なってくることから,定量値には誤差が生じていると考えられる。しかしながら,測定結果を見ると今回の濃度範囲ではそれほど大きな誤差になっていないと思われ,XRDを用いた標準添加法によってスラグ中のフリーライムは定量可能であると考えられる。

4. 結言

脱水処理を行ってCa(OH)2を除去した種々の転炉スラグに対して,標準添加法を用いたXRDによるフリーCaOの定量を行い,化学分析値と比較したところ,下記の結果を得た。

(1)スラグ中に含まれるCaOはその回折ピークの位置が標準試料のCaOと異なること,および大気中においてCa(OH)2に経時変化しにくいことから,純粋なCaOではないと推察された。

(2)標準試料として用いたCaO試薬は時間とともにCa(OH)2に経時変化することから,測定は迅速に行わなければならないことが明らかとなった。

(3)XRDの定量値と化学分析値の相関性は良く,ピアソンの相関係数を求めたところ,r=0.967となり,r表のr0.05と比較するとr=0.967>0.950=r0.05となるので帰無仮説を棄却する。したがって,化学分析値とXRDの定量値には直線回帰の相関性があることが証明された。また,t検定を行ったところ,偏差に有意差がなかったことから化学分析値とXRDの定量値の間には偏りがないことが明らかとなり,今回の濃度範囲(2~12 mass%)程度であれば転炉スラグ中のフリーCaOの定量にXRD法は十分適用できることが分かった。

謝辞

XRDの測定には加藤幸行氏,化学分析に関しては窪田進氏,榎坂信也氏にご協力いただいたので,ここに謝意を表します。

文献
 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

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