Tetsu-to-Hagane
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Effect of Annealing on the Structure and Hardness of Electrodeposited Ni-W Alloys
Shinichiro HayataSatoshi OueHiroaki NakanoTakehiro Takahashi
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2014 Volume 100 Issue 11 Pages 1391-1397

Details
Synopsis:

Electrodeposition of Ni-W alloys was conducted from an unagitated sulfate solution containing citric acid at pH 5 and 60 ºC under coulostatic (3.44×105–6.22×105 C/m2) and galvanostatic (30-5000 A/m2) conditions. Before annealing, the lattice constant of Ni increased linearly with an increase in the W content up to 40.7 mass% in accordance with Vegard’s law, showing the W supersaturated solid solution into Ni. At W contents of < 37.1 mass%, the deposits showed a morphology of field oriented texture, which a preferred orientation of specific plane occurs toward the electric field in deposition, and the edges of platelet crystals were exposed at surface. At W contents of > 40.7 mass% of solid solubility limit, the cross section of deposits showed a layered morphology, while the surface became smooth with small granular crystals. After annealing, Ni4W precipitated in deposits of W contents of 32.6 and 37.1 mass%, while both Ni4W and NiW precipitated entire surface finely in deposits of W contents of 40.7 to 45.3 mass%. Before annealing, the hardness of deposits increased with W content, and the increase was particularly large at W content of 40.7 mass%. The hardness was almost constant regardless of current density at W contents of > 40.7 mass%. The alloy composition to change the hardness of deposits significantly corresponded with that to change the structure of deposits. The hardness of deposits increased at all W contents by annealing, and the degree of increase was particularly large at W contents of > 40.7 mass%.

1. 緒言

電池のケース材などに使用されるNiめっき鋼板は,プレス加工の際,めっき層が摺動により金型に焼き付き易い。金型にめっき層が焼き付くと,安定した品質の製品を製造することができないため,凝着し難い硬いめっき膜が求められている。硬度が高く耐摩耗性に優れる合金電析膜をNiめっき鋼板の上に付与すれば,焼き付き難く,連続プレス性に優れた鋼板が開発できると考えられる。この合金電析膜として,本研究ではNi-W合金を検討した。Ni-W合金電析膜は,耐食性,耐酸性1,2),耐摩耗性2,3)等に優れているため,古くから数多くの研究が行われている。特に近年,電解により本合金が容易に非晶質化し,均質で強固な不働態膜を形成することにより耐食性が著しく向上することが見出され4,5),現在でも活発な研究が続いている6,7,8,9)。WはMo同様,水溶液から金属として単独では電析せず,鉄族金属との合金としてのみ共析可能である誘導型共析10,11,12,13,14,15,16,17)の挙動を示す。

一方,Ni-W合金電析膜は熱処理を施すことで皮膜が硬化するが,その硬化機構については不明な点が多い18,19,20,21,22,23)。そこで本研究では,Ni-W合金電析膜の熱処理前後において硬度と組織の関係を調査することにより硬度に及ぼす熱処理の影響を調べた。なお,本研究では,第一ステップとして系を単純化するため,下層のNiめっきは行わず,鋼板上に直接Ni-W合金電析を行い,その硬度と組織を調査した。

2. 実験方法

電解液組成および電解条件をTable 1に示す。電解液は市販の特級試薬を用い,Na2WO4・2H2O 0.2 mol/L,NiSO4・6H2O 0.2 mol/L,C6H8O7・2NH3 0.45 mol/L,HCOONa 0.2 mol/Lを純水に溶解させて作製した。pHは硫酸により5に調整した。電析は,定電流電解法により電流密度30~5000 A/m2,浴温60 °Cにおいて無撹拌下で行なった。通電量は,電析挙動を調べる際は3.44×105 C/m2,皮膜構造を解析するためのサンプルを作製する際は6.22×105 C/m2とした。陰極にはFe板(3 cm×3 cm),陽極にはステンレス板(SUS304,15 cm×3 cm)を用いた。得られた電析物はHNO3/HF=1/1の混酸で溶解し,ICP発光分光分析法によりNi,Wを定量し,電析合金組成,Ni,W電析の電流効率を求めた。Ni,Wの部分電流密度は,全電流密度にそれぞれの電流効率(%)/100を乗じて算出した。分極曲線を測定する際,参照電極としてAg/AgCl電極(飽和KCl,0.199 V vs. NHE,25 °C)を使用したが,電位は標準水素電極基準に換算して表示した。

Table 1. Electrolysis conditions.
Bath compositionNa2WO4·2H2O (mol/L) 0.2
NiSO4·6H2O (mol/L) 0.2
C6H8O7·2NH3 (mol/L) 0.45
HCOONa (mol/L) 0.2
pH 5
Operating conditionsCurrent density (A/m2) 30~5000
Amount of charge (C/m2) 3.44×105, 6.22×105
Temperature (ºC) 60
Cathode Fe (3×3 cm2)
Anode SUS304 (15×3 cm2)
Quiescent bath

Ni-W電析合金の熱処理の際は,N2雰囲気下で700±5 °Cに15分間保持し,その後200 °Cまで放冷後,大気中に取り出した。Ni-W電析合金の構造解析をXRD(Cu-Kα,管電圧40 kV,管電流30 mA)により行った。電析合金におけるNiの結晶子のサイズは,X線の111反射の半値幅からScherrerの式24)を用いて算出した。また,TEMを用いてより微細な領域の構造を,電析合金の断面方向から解析した。薄膜試料の作製にはウルトラミクロトームを使用した。使用した透過型電子顕微鏡はFEI製TECNAI-20である。電析合金の表面および断面をSEMにより観察した。次にウルトラミクロトームで電析合金の断面を出し,それをArイオンスパッタリングにて,ダメージ層を除去した後,電子後方散乱回折像(Electron Back Scatter Diffraction Pattern,EBSD)法により結晶方位を測定した。EBSDでは,電析合金表面の法線方向と一致するReference direction(RD)の結晶方位を電析合金断面から測定した。熱処理によるNi,W,Feの拡散を調べるため,電析合金断面の元素分布をEDXにより調べた。またNi-W電析合金の硬度を表面からナノインデンテーション法により,荷重10 mN,分割数500回,ステップインターバル20 msの条件にて測定した。

3. 結果および考察

3・1 Ni-W合金の電析挙動

Fig.1に電析Ni-W合金合金電析における全分極曲線およびNi,Wの部分分極曲線を示す。全分極曲線において,電流密度は−0.5 V前後で立ち上がり,電流密度が600 A/m2以上になると,電位が卑な方に移行した。電位が約−0.85 Vにおいて,再度電流密度の立ち上がりが見られた。Ni,W析出の部分分極曲線は共に全分極曲線と同様の傾向を示した。

Fig. 1.

 Polarization curves for Ni-W alloy deposition.

Fig.2にNi-W合金電析におけるW含有率,析出金属全体の電流効率に及ぼす電流密度の影響を示す。W含有率は電流密度の上昇に伴い増加し,600 A/m2で約42%と最大となり,電流密度を更に高くすると徐々に低下した。一方,Ni-W合金電析の電流効率は,電流密度が高くなると最初は増加し,600 A/m2で約49%と最大となり,電流密度を更に高くすると徐々に低下した。このようにW含有率と電流効率の電流密度依存性はほぼ同様の傾向を示した。Fig.1に示す分極曲線との関係を見ると,W含有率,電流効率が最大となる電流密度を超えたところで,全分極曲線,Ni,Wの部分分極曲線において,電流密度の再度の立ち上がりが認められた。

Fig. 2.

 Effect of current density on the W content in deposit and current efficiency for Ni-W alloy deposition.

3・2 電析Ni-W合金の構造に及ぼす熱処理の影響

Fig.3に電流密度を変化させることにより得られた種々の組成のNi-W合金のX線回折図を示す。低電流密度で得られた低W含有率の合金は,Ni単体の回折パターンを示し,Ni中にWが固溶していることが分かる。電流密度を上昇させ,合金のW含有率を増加させると,回折ピークは次第にブロードになり結晶粒が微細化することを示している。特に電流密度1000 A/m2以上で得られたW含有率45.2%以上の合金では,回折ピークはブロードとなりX線的にはアモルファスの状態であることが分かる。

Fig. 3.

 X-ray diffraction patterns before annealing of the Ni-W alloys deposited at various current densities. [(a) 100 A/m2 (W32.6 mass%), (b) 200 (37.1), (c) 500 (40.7), (d) 1000 (45.2), (e) 2000 (45.3), (f) 3000 (44.9)] (Online version in color.)

Fig.4に電流密度を変化させることにより得られた種々の組成のNi-W合金を熱処理した後のX線回折図を示す。熱処理前に回折ピークがブロードとなった合金を含め何れの供試材においても熱処理後は,Niのピークがシャープになった。電流密度100,200 A/m2で得られたW含有率が32.6,37.1%の合金には,Ni4Wに相当するピークが検出された。一方,電流密度500~3000 A/m2で得られたW含有率が40.7~45.3%の合金には,Ni4Wに加えてNiW相当するピークが検出された。Ni-Wの二元系平衡状態図25)によるとW含有率が40.7~42.7 mass%でNi4W,75.3~75.8 mass%でNiWがそれぞれ安定相となる。よって,本研究の熱処理後に析出した金属間化合物はNi-Wの二元系平衡状態図から予想される安定相と一致している。

Fig. 4.

 X-ray diffraction patterns after annealing of the Ni-W alloys deposited at various current densities. [(a) 100 A/m2 (W32.6 mass%), (b) 200 (37.1), (c) 500 (40.7), (d) 1000 (45.2), (e) 2000 (45.3), (f) 3000 (44.9)] (Online version in color.)

Fig.5に100 A/m2で得られたW含有率が32.6%の合金のTEMによる制限視野回折図形を示す。熱処理後の供試材(b)にはNiの111反射の内側にNi4Wに相当するスポットが認められ,Fig.4に示すX線回折図形の結果を裏付けるものとなっている。

Fig. 5.

 Electron diffraction patterns before and after annealing of Ni-32.6 mass%W alloy deposited at 100 A/m2.

Fig.6に3000 A/m2で得られたNi-W合金のTEMによる制限視野回折図形を示す。3000 A/m2で得られたNi-W合金の熱処理後(b)にはNiの111反射のリングの内側にNi4WとNiWに相当するスポットが認められた。これらはFig.4に示すX線回折図形の結果を裏付けるものとなった。一方,熱処理前のNi-W合金(a)は,不明瞭な幅のあるリングから成っており,リングの半径から,Wの存在は認められず,本合金はWを含有したNi固溶体であると考えられる。この合金は,X線の回折ピークがブロードでありX線的にはアモルファスの状態を示していたが(Fig.3),アモルファスであれば,電子線回折図形には一つの弱いリングが現われるはずであり,本合金はNi固溶体の微結晶であると考えられる。

Fig. 6.

 Electron diffraction patterns before and after annealing of Ni-44.9 mass%W alloy deposited at 3000 A/m2.

Fig.3のX線回折図において,合金中のW含有率の増加と共に各回折ピークも低角度側にシフトする傾向が認められた。そこでメインピークであるNi111の回折線の低角度側へのずれからNiの格子定数を計算し,W含有率との関係をFig.7に示す。熱処理前においては,合金のW含有率が40.7%までは,Vegardの法則26)にしたがって,Wの固溶量の増加とともにNiの格子定数は直線的に増加した。平衡状態図では,50 °CにおけるWの固溶量は29%前後であり,電析によりWの固溶量が多くなっていることが分かる。熱処理後は,Ni4W,NiWの析出によりNiへのWの固溶量が不規則に低下し,格子定数とW 含有率の間に直線関係は成立しなかった。

Fig. 7.

 Relationship between W content in deposit and lattice constant of Ni. (●without annealing, ▲with annealing)

Fig.8に熱処理前後の電析合金におけるNiの結晶子径と電流密度の関係を示す。熱処理前においては,電流密度が高くなるとNiの結晶子径は小さくなった。電流密度が高くなるとW含有率が増加しており(Fig.2),Niの結晶子径の低下は,W含有率および電流密度の両者の増加に起因していると考えられる。それに対して,熱処理後は,熱処理前に比べて何れの電流密度においてもNiの結晶子径は大きくなった。熱処理後は,Niの結晶子径に及ぼす電流密度の影響はほとんど認められなかった。

Fig. 8.

 Effect of annealing on the crystallite size of Ni in Ni-W alloys deposited at various current densities. (●without annealing, ▲with annealing)

Fig.9に100,200,500 A/m2で得られたNi-W合金の熱処理前後における表面二次電子像および反射電子像を示す。熱処理前においては,100 A/m2で得られた電析物(a)では板状結晶のエッジが露出しており,板状結晶と板状結晶の間に微細な粒状の結晶が存在した。電流密度200 A/m2にすると(c),板状結晶が少なくなり粒状の結晶が増加した。電流密度を500 A/m2に増加させると(e),板状結晶はなくなり,微細な粒状結晶のみとなり,表面は平滑になった。熱処理前の反射電子像を見ると,100,200 A/m2で得られた電析物(b, d)に表面の凹凸に起因する若干のコントラストが見られるがそれ以外は500 A/m2で得られたもの(f)も含めてほぼ一様であり,Wは均一に存在していると考えられる。一方,熱処理後は,100,200 A/m2で得られた電析物(g, i)では板状結晶が分解して粒状の結晶に変化した。反射電子像(h, j)を見るとW化合物と考えられる白い組織がまばらに認められた。電流密度を500 A/m2に増加させると(l),W化合物と考えられる白い組織が線状に存在した。

Fig. 9.

 SE and BEI images before and after annealing of Ni-W alloys deposited at 100, 200 and 500 A/m2.

Fig.10に1000,2000,3000 A/m2で得られたNi-W合金の熱処理前後における表面二次電子像および反射電子像を示す。熱処理前においては,何れの電流密度で得られた電析物(a, c, e)とも微細な粒状結晶のみとなり,表面は平滑になった。反射電子像を見ると,何れの電流密度で得られた電析物(b, d, f)ともコントラストに変化は見られず,Wは均一に存在していると考えられる。一方,熱処理後は,粒状結晶が更に微細となり平滑な状態となった。(g, i, k) 反射電子像を見ると,何れの電流密度で得られた電析物(h, j, l)ともW化合物と考えられる白い組織がほぼ全面に多数認められた。W化合物は,1000,2000 A/m2で得られた電析物(h, j)では塊状となって偏在していたが,3000 A/m2では(l)小さくなり分散していた。

Fig. 10.

 SE and BEI images before and after annealing of Ni-W alloys deposited at 1000, 2000 and 3000 A/m2.

Fig.11に2000,3000 A/m2で得られたNi-W合金の熱処理前における高倍率での表面SEM像を示す。高電流密度で得られた電析物は,粒状結晶から形成されており,粒状結晶が集合した塊の界面の一部に小さなピンホール,クラックが認められた。

Fig. 11.

 SEM images before annealing of Ni-W alloys deposited at 2000 and 3000 A/m2.

Fig.12に100,200 A/m2で得られたNi-W合金の熱処理前後における断面のSEM-AsB像およびEBSD方位マッピング像を示す。熱処理前においては,EBSD像より,電析Ni-W合金は何れの電流密度においても電場方向に特定な面が配向する電場配向繊維組織型となることが分かった。一方,熱処理後は,AsB像から分かるように何れの電流密度においても全面に粒状の析出物が生じていた。Fig.4に示すX線回折図の結果からこの析出物はNi4Wと考えられる。また,熱処理後は析出物の存在によりEBSDによるNiの方位解析ができない箇所が多くなった。

Fig. 12.

 SEM-AsB and EBSD images before and after annealing of Ni-W alloys deposited at 100 and 200 A/m2.

Fig.13に500,3000 A/m2で得られたNi-W合金の熱処理前後における断面のSEM-AsB像およびEBSD方位マッピング像を示す。熱処理前においては,AsB像から500,3000 A/m2で得られた電析物はともに層状の組織となることが分かった。この層状の組織は,電析中の陰極界面近傍の溶液成分の揺らぎに起因している可能性もある。また,電析物が層状となる箇所ではその結晶が微細となるためかEBSDによるNiの方位解析ができなかった。500 A/m2での電析ではAsB像およびEBSD像より,初期は柱状に成長したが途中から層状となることが分かった。Fig.9, 10に示す電析物の表面形態との関係をみると,電析物が層状となる500 A/m2以上で表面は微細な粒状結晶のみとなり平滑になった。500 A/m2では電析物のW含有率が固溶限の40.7%となっており,電析物が途中から層状に変化したことも考慮すると,この組成近傍で電析物の組織が大きく変化することが予想される。一方,熱処理後は,AsB像から分かるように何れの電流密度においても粒状の析出物が生じた。特に素地近傍で微細な析出物が多数発生した。熱処理前は,電析物が層状となる箇所ではEBSDによるNiの方位解析ができなかったが,熱処理後はNiの結晶子径が増加するため(Fig.8)方位解析が可能となった。電場方向に特定な面が配向する電場配向繊維組織とは異なる粒状あるいは塊状の結晶方位を示した。

Fig. 13.

 SEM-AsB and EBSD images before and after annealing of Ni-W alloys deposited at 500 and 3000 A/m2.

Fig.14に200 A/m2で得られたNi-W合金の熱処理後における断面のSEM-AsB像およびEDXスペクトルを示す。SEM-AsB像は,コントラストを電析物に合わせたもの(a)と鉄素地側に合わせたもの(b)を示す。電析物[(1),(2),(3)]にはFeが検出され,鉄素地が電析物に拡散していることが分かる。一方,鉄素地[(4),(5)]にはNiが検出されたが,Wはほとんど認められなかった。電析物中のNiが優先的に鉄素地側に拡散していることが分かる。Fig.13に示すように熱処理により鉄素地近傍でNi4W,NiWの析出物が多数発生した要因の一つとして,電析物中のNiの鉄素地側への拡散によるW含有率の増加が考えられる。

Fig. 14.

 SEM-AsB images and EDX spectra after annealing of Ni-W alloy deposited at 200 A/m2.

3・3 電析Ni-W合金の硬度に及ぼす熱処理の影響

Fig.15に電流密度を変化させることにより得られた種々の組成のNi-W合金の熱処理前後における硬度を示す。熱処理前においては,電析物の硬度はW含有率の増加に伴い上昇しており,W含有率40.7%で特に大きく上昇した。しかし,W含有率40.7%以上では電流密度の変化にかかわらず硬度はほぼ一定であった。W含有率が固溶限の40.7%となる合金組成では,電析物の組織が電析途中から層状に変化し,表面は微細な粒状結晶となり平滑になった。このように,硬度が大きく変化する合金組成と電析物の組織が変化する組成は一致した。一方,熱処理後は何れの合金組成においても硬度は増加した。これは,W化合物の析出によるものと考えられる。増加の程度は,W含有率40.7%以上で特に大きくなった。W含有率40.7%以上では,Ni4WおよびNiW化合物が微細な状態で全面に析出しており,硬度の上昇に寄与していると考えられる。

Fig. 15.

 Effect of annealing and W content in deposit on the hardness of deposited Ni-W alloys. (●without annealing, ▲with annealing)

これまでの研究では,W含有率が40および44%の供試材を450~550 °Cで熱処理すると純粋なW,Ni4Wおよび組成が不明な中間相が析出することが報告されているが22),本研究の熱処理条件では,Ni4WおよびNiW化合物が析出していることが分かった。また,電析物の断面構造については,従来の研究18,19,20,21,22,23)では不明な点が多かったが,本研究では,W含有率に応じて電場配向繊維組織型から層状に変化することが新たに分かり,その構造が硬度と関係していることが推察された。先に述べたように,W含有率40.7%以上では,Ni4WおよびNiWが微細な状態で全面に析出していた。一方,W含有率が高いものでは,熱処理によりNiが粒成長していたことはFig.8Fig.13から明らかであり,Niの粒径だけを見ると,硬度は低下するはずである。にもかかわらず,それらで硬度上昇が大きかったことから,熱処理による硬度上昇に,Ni4WおよびNiWの析出が,大きくに寄与していると考えられる。本研究では,鋼板上に直接Ni-W合金電析したため,熱処理によりNi-W合金層へFeが拡散しており,先に述べたとおり,Ni4WおよびNiWの析出にFeが影響している可能性がある。また,緒言で例示したように,Niめっき鋼板の上にNi-W合金電析した場合,熱処理してもNi-W合金層はFeの影響を受けない。今後,Ni-W合金層がFe拡散の影響を受けない場合のNi4WおよびNiWの析出状態,それらが硬度に及ぼす影響を確認する必要がある。

4. 結言

クエン酸を含む酸性水溶液においてNi-W合金電析を行い,熱処理前後における電析物の構造と硬度を調査した結果,以下のことが明らかとなった。熱処理前においては,電析物のW含有率が40.7%までは,Vegardの法則にしたがって,Wの固溶量の増加とともにNiの格子定数は直線的に増加しており,Wは過飽和に固溶した。電析物のW含有率が37.1%以下では,電場方向に特定な面が配向する電場配向繊維組織型となり,表面では板状結晶のエッジが露出した形態となった。電析物のW含有率が固溶限の40.7%以上になると,電析物は厚さ方向において層状となり,表面は微細な粒状結晶から成り平滑になった。一方,熱処理後は,W含有率が32.6,37.1%の電析物では,Ni4Wが析出し,W含有率が40.7~45.3%の電析物では,Ni4Wに加えてNiWが微細な状態で全面に析出した。熱処理前においては,電析物の硬度はW含有率の増加に伴い上昇しており,W含有率40.7%で特に大きく上昇し,W含有率40.7%以上では電流密度の変化にかかわらずほぼ一定であった。硬度が大きく変化する合金組成と電析物の組織が変化する組成は一致した。熱処理後は何れの合金組成においても硬度は増加した。増加の程度は,W含有率40.7%以上で特に大きくなった。

文献
 
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