Tetsu-to-Hagane
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Influence of Intergranular Bainite and Intragranular Bainite on Hardness of High Chromium Cast Steel
Kazuki FujioAtsushi YamamotoSusumu Nishikawa
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2014 Volume 100 Issue 11 Pages 1408-1412

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Synopsis:

Effects of quenching rate from austenite temperature on microstructures in the high chromium cast steel containing 1.6%C, 0.6%Si, 0.7%Mn, 0.5%Ni, 12%Cr and 1.5%Mo were investigated. The specimens were destabilized at 1000 ºC for 7.2 ks and then cooled to room temperature at quenching rates ranging from 50 to 0.05 ºC/s. Detailed analysis of temperature-dilatation diagrams with referring to microstructural observations on the specimens etched using LePera etchant lead to define a very narrow bainite region in a CCT diagram. Bainite was formed along grain boundaries when the specimen was quenched at 0.2 to 1.0 ºC/s. The temperature range for bainite transformation was about from 230 ºC to 260 ºC. Grain boundary bainite showed little effect on hardness of the specimen.

Hardness and microstructures were also investigated on the specimens quenched at 0.2 ºC/s to 400 ºC followed by quenching at various cooling rates to room temperature and tempering at 550 ºC for 1.8 ks, in order to optimize heat treatment conditions for large practical products. Hardness of the specimen quenched at 0.006 ºC/s in the second stage quenching was increased with tempering. The increase in hardness was interpreted as a result of enrichment of carbon content in austenite due to formation of grain boundary bainite, that is, retained austenite containing high carbon content transformed into martensite with tempering.

1. 緒言

高クロム鋳鋼は基地中のCr濃度が高いために焼入れ性が良く,熱処理によって基地の大部分をマルテンサイト変態させることが可能である。さらに,鋳放しで高硬度のCr炭化物を多量に晶出し,再加熱して高温に保持することで微細な二次炭化物が析出する。このため,耐摩耗性に優れ,鉄鋼の圧延用ロールなどに多用されている1)。近年,これらの製品の需要は,大型化,厚肉化の傾向にあり,焼入れ時に急冷をすると焼き割れが起こる可能性があるため,冷却速度が制限される。冷却速度が遅いとパーライト変態,ベイナイト変態が進行し,必要な硬さ,耐摩耗性が得られない。

これまでに,高クロム鋳鋼および高クロム鋳鉄の機械的性質に及ぼす金属組織の影響についていくつかの報告はあるが2,3),結晶粒界などに存在する微量な組織には触れられていなかった。そこで,本研究ではまず,高クロム鋳鋼について連続冷却曲線を測定し,マルテンサイト変態の上部臨界冷却速度近辺で形成される微細組織に注目することとした。

また,実生産においては,一定の冷却速度での焼き入れは困難であることを重視し,400 °C以下の冷却速度を変化させた焼入れを行って,硬さと微細組織の関係を明らかにすることも目的とした。

2. 実験方法

電気炉を用いて溶製した高クロム鋳鋼の化学組成をTable 1に示す。1000 °Cで36 ks保持した後,0.01 °C/s以下で炉冷する拡散焼なましを施し,供試材とした。供試材をφ3×10 mmの試料に切り出し,富士電波工機製Formasutor-Fを用い変態点測定を行った。試料を1000 °Cまで高周波加熱し,7.2 ks保持後,50,5.0,1.0,0.5,0.2,0.1,0.05,0.02 °C/s,で冷却した。冷却時の試料長さの変化を接触法にて測定し,試料が収縮から膨張へ移る開始温度または膨張から収縮に移る終了温度を変態点の温度とした。

Table 1. Chemical composition of the specimen.
CSiMnPSNiCrMo
1.590.740.670.0130.0240.5311.761.45

変態点測定後の試料はそれぞれ,樹脂埋めし,#1500までエメリー研磨,ダイヤモンドバフ研磨を施し,光学顕微鏡(OM)と電子顕微鏡(SEM)で組織観察を行った。OM観察の腐食液にはレペラ試薬を用い4),SEM観察の腐食液には3 wt%硝酸エタノールを用いた。

400 °C以下の冷却速度の影響を調べる際には,15×15×30 mmに切り出した試料を用いた。焼入れ焼戻し熱処理を行い,それぞれの試料の組織観察と硬さ測定,X回折測定による残留オーステナイトの定量を行った。焼入れ条件は,焼入れ中の温度が下がるほど冷却速度が緩慢になる肉厚鋳鋼での焼入れを考慮し,次のような熱処理パターンで行った。1000 °Cで7.2 ks保持後,0.2 °C/sで400 °Cまで冷却し,400 °C以下を0.1 °C/s(360 °C/h),0.006 °C/s(20 °C/h),0.0015 °C/s(5 °C/h)で常温まで冷却した。比較材として水冷した試料も作製した。焼き戻しは550 °Cで1.8 ks行った。組織観察は,#1500までエメリー研磨,ダイヤモンドバフ研磨を施し,SEMで組織観察を行った。腐食液には塩酸ピクリン酸を用いた。硬さはロックウェルCスケールで測定した。X線回折測定には,株式会社リガク製のRINT-2200Xを使用し,ターゲットにはCuを用い管電圧40 kV,管電流30 mAで測定した。測定したX線回折のピークのうち,α(200), α(211),γ(200),γ(220),γ(311)の積分強度比から5ピーク法5)によりオーステナイトの定量を行った。

3. 実験結果および考察

3・1 連続冷却曲線

変態点測定を行った冷却曲線をFig.1に示し,検出された変曲点およびそれに基づいて作成したCCT図をFig.2に示す。それら曲線上に示した変曲点の詳細は下記のとおりである。冷却速度が0.02 °C/s(Fig.1(a))では,700 °Cで収縮から膨張へと変わり,630 °Cで膨張から収縮へと変わった。その後,変曲点は現れなかった。0.05 °C/s(Fig.1(b))と0.1 °C/s(Fig.1(c))では,0.02 °C/sの冷却と同様に700 °Cから600 °Cの間に2ケ所変曲点があり,0.05 °C/sでは360 °C,0.1 °C/sでは315 °Cで収縮から膨張への変曲点が検出された。上記より速い冷却速度では,収縮から膨張への変曲点が1カ所のみ検出された。0.2 °C/s(Fig.1(d))の冷却速度では,280 °C,0.5 °C/s(Fig.1(e))と1.0 °C/s(Fig.1(f))では,いずれも260 °C,5.0 °C/s(Fig.1(g))と50 °C/s(Fig.1(h))ではともに230 °Cであった。

Fig. 1.

 Thermal expansion curves of the specimens cooled with different cooling rate. (a) 0.02 ºC/s (b) 0.05 ºC/s (c) 0.1 ºC/s (d) 0.2 ºC/s (e) 0.5 ºC/s (f) 1.0 ºC/s (g) 5.0 ºC/s (h) 50.0 ºC/s

Fig. 2.

 CCT diagram for the alloy.

パーライト変態のノーズは650 °C付近にあり,0.1 °C/sより遅い冷却で現れる。ベイナイト変態のノーズは230 °Cから260 °Cの間にあると思われるが,今回用いた供試材ではベイナイト変態とマルテンサイト変態が連続的に起こるため,熱膨張曲線のみでは両者の区別が難しい。しかし,0.5 °C/s,1 °C/sの変曲点は,5 °C/sおよび50 °C/sで検出された変曲点よりも明らかに高い結果となった。Fig.2のベイナイト変態点とマルテンサイト変態点の識別は後述する組織観察の結果を考慮して行ったものである。

0.2 °C/sから1.0 °C/sの冷却速度ではベイナイト変態温度の範囲は非常に小さいのに対し,0.1 °C/sより遅い冷却速度ではその範囲は高温側に大きく広がっている。オーステナイト化された基地にはCr,Moの固溶量が多いため,Cの拡散は遅延する。その結果オーステナイト中のC濃度が高くなり,フェライト析出が必要なベイナイト変態は抑制される。一方,冷却速度が遅く,二次炭化物の析出および成長が起こればオーステナイト中のC濃度が下がり6),ベイナイト変態が促進される。このとき基地の一部にパーライトが形成されていると,パーライトに含まれるセメンタイトの成長もオーステナイト中のC濃度の低下を助長し,このような現象が生じたと考えられる。

3・2 基地組織

作成したCCT曲線と基地の変態挙動との対応を正確にするために,変態点測定後の試料の組織観察を行った結果をFig.3に示す。(c)(f)(i)(l)(o)はSEMの二次電子像でそれ以外は光学顕微鏡の写真である。OM観察に用いたレペラ試薬はフェライト着色作用があるため,パーライトおよびベイナイトが着色されて見える。冷却速度が0.02 °C/sの試料(Fig.3(a))では基地全体がレペラ試薬により着色されており,SEM観察からも基地全体がパーライトであることがわかる。冷却速度0.05 °C/sの試料(Fig.3(d))では,基地の約半分がパーライトおよびベイナイトであり,それ以外の基地はマルテンサイトと残留オーステナイトである。0.1 °C/sの試料(Fig.3(g))ではパーライトおよびベイナイトは極一部である。この3種の冷却速度で試験をした試料の組織は,熱膨張曲線の結果とよく一致する。

Fig. 3.

 Microstructures in the specimens cooled with various cooling rates from austenitizing temperature of 1000 ºC. (a,b,c) 0.02 ºC/s (d,e,f) 0.05 ºC/s (g,h,i) 0.1 ºC/s (j,k,l) 0.2 ºC/s (m,n,o) 0.5 ºC/s (p,q) 1.0 ºC/s (r,s) 5.0 ºC/s (t,u) 50.0 ºC/s

冷却速度0.2 °C/sの試料についてのOM像(Fig.3(j),(k))では,粒界近傍に着色された領域が見られるが,SEM像(Fig.3(l))ではパーライトは観察されていない。したがって,この着色域はベイナイトである。0.5 °C/s(Fig.3(m),(n)),および1.0 °C/s(Fig.3(p),(q))においても同様にベイナイトが形成されている。一方,冷却速度がこれらよりも速い5.0 °C/s(Fig.3(r),(s))および50 °C/s(Fig.3(t),(u))では,着色された領域は観察されていない。

すなわち,冷却速度0.2~1 °C/sの試料では,ベイナイト変態が生じているのに対し,5 °C/s以上ではマルテンサイト変態のみである。

前述のように,熱膨張曲線の解析のみからでは,ベイナイト変態とマルテンサイト変態を識別することは困難である。これまで報告されている高クロム鋳鉄および鋳鋼に関する研究3,7,8)においても,おそらく同じ状況下にあったと推測される。それら文献に示されているCCT曲線には,Ms点直上に,ベイナイト領域は記載されていない。本研究で用いたレペラ試薬は,本来,粗大なベイナイトの光学顕微鏡観察を目的として開発されたものである。Fig.3(n),(q)に示すような,非常に微細なベイナイトもレペラ試薬で着色することは,これまで注目されず,CCT曲線に反映されることはなかったと考えられる。

ベイナイトのノーズ付近での温度範囲はすでに述べたようにおよそ30 °Cである。非常に狭いため,これまで報告されたCCT曲線では見逃されていた可能性がある。しかし,このベイナイト領域は試料の特性向上に有効に利用できる。

一方,粒界ベイナイトは熱間工具鋼などで観測されており,熱処理後の靭性を劣化させることが報告されているが9),本高クロム鋳鋼組成では,共晶炭化物の量や形状が靭性に大きく影響しており,粒界ベイナイトが靭性に与える影響は少ないと考えられる。

3・3 焼入れ,焼戻し

厚肉鋳物においては,温度が下がるほど冷却速度が速くできないことを考慮し,1000 °Cで7.2 ks保持後,0.2 °C/sで400 °Cまで冷却し,400 °C以下の温度の冷却速度を変えた試験を行った。それら試料のミクロ組織をFig.4に示す。また,それぞれの試料の焼入れ後と,550 °Cで1.8 ks焼戻した後の硬さおよび残留オーステナイト量をTable 2に示す。

Fig. 4.

 Microstructures in the specimens cooled with a cooling rate of 0.2 ºC/s from 1000 ºC to 400 ºC and then cooled with various cooling rates from 400 ºC to room temperature. (a) Water quench (b) 0.1 ºC/s (c) 0.006 ºC/s (d) 0.0015 ºC/s

Table 2. Hardness in Rockwell C scale and Contents of Austenite on the specimens cooled from 400 ºC with various cooling rates and those on the specimens after tempering at 550 ºC for 1.8 ks.
As-quenchedtempered
Hardness (HRC)Contents of Austenite (%)Hardness (HRC)Contents of Austenite (%)
Water quench60.89.458.01.3
0.1 ºC/s60.113.759.12.2
0.006 ºC/s57.833.958.22.2
0.0015 ºC/s53.528.551.4

焼入れ後の組織と硬さを見ると,冷却速度0.1 °C/sの試料(Fig.4(b))では,粒界にベイナイトが観察されるが,ベイナイトの無い水冷した試料と硬さはほとんど変わらず,オーステナイト量も数%の違いしかない。しかし,冷却速度0.006 °C/sの試料(Fig.4(c))では粒界ベイナイトが成長しており,硬さも水冷試料に比べHRC3低く,オーステナイト量は20%以上多くなっている。さらに冷却速度の遅い0.0015 °C/sの試料(Fig.4(d))では,粒内全体にベイナイト変態が起こり,水冷試料の硬さに比べHRC7以上低くなっているが,残留オーステナイト量は冷却速度0.006 °C/sの試料よりも少ない。

それぞれの試料を焼き戻した結果,水冷ではHRC2.8の硬さ低下,0.1 °C/sではHRC1.0の硬さ低下,0.006 °C/sではHRC0.4の硬さ上昇,0.0015 °C/sではHRC2.1の硬さ低下となった。残留オーステナイトは測定した試料すべてで3%以下であった。これはマルテンサイトの焼戻しによる硬さ低下と同時に,残留オーステナイトのマルテンサイト変態が起こっているためと考えられる。つまり,冷却速度が遅く粒界ベイナイト変態が起こった試料では,ベイナイト変態後の基地は元の基地よりC濃度が高くなりMs点・Mf点が低くなることで,残留オーステナイトが多いため,焼戻し後にマルテンサイトが増え,硬さが上昇したと考えてられる。粒内全体にベイナイト変態が起こった試料については,ベイナイトの焼戻しによる軟化の影響が大きく,硬さが下がっている。

4. 結言

高クロム鋳鋼の連続冷却曲線と組織の関係を評価し,粒界ベイナイトの発生の有無を調べた。また,肉厚鋳鋼製品の焼入れを念頭において,400 °C以下の冷却速度を変化させた焼入れを行い,硬さに及ぼす粒界ベイナイトおよび粒内ベイナイトの影響を調べた。得られた結果をまとめると以下のようになる。

(1)レペラ試薬を用いてエッチングを行った結果,粒界ベイナイトの観察が可能になり,CCT曲線において非常に狭い範囲のベイナイト領域を見出すことができた。

(2)0.2~1.0 °C/sの連続冷却において,粒界でベイナイト変態を起こす温度は230 °C~260 °Cである。

(3)冷却過程で一部がパーライト変態した試料ではベイナイト変態温度域が広がり,粒内にもベイナイトが発生する。

(4)400 °C以下を徐冷した焼入れにおいて,粒界ベイナイトは,ほとんど硬さに影響しないが,粒内にベイナイトが生成すると硬さの低下は顕著である。

(5)400 °C以下を0.006 °C/sの冷却速度で焼入れた試料においては,焼戻しによって硬度が上昇した。

文献
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© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

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