Tetsu-to-Hagane
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Review
Progress and Foresight of the Rolling Control Technology
Akira KitamuraSatoshi Nishino
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2014 Volume 100 Issue 12 Pages 1448-1455

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Synopsis:

This report discusses the development of promising system control technologies which have been mainly applied to thickness control after late 70 mainly. In the late 1970 s, modern control theory and optimization technique were introduced into the field of thickness control in earnest and they greatly contributed to the quantitative expansion of the domestic steel industry. As the examples, the AGC gain by optimum regulator theory and thickness and inter stands tension control system by multivariable control technique are shown.

After the 90 s, the high added value and function improvements of the control system become more and more important for steel industry including the thickness control and they were indispensable for manufacturing of the high-strength steel. Here, the mill balance control for the tandem cold mill and the highly precise rolling load model by Genetic Programming are explained.

As future problems, it is mentioned that practical use of the operation know-how is important and the development of the operation support system using them is significant.

1. はじめに

我が国の鉄鋼業における制御技術の導入は1960年代後半の厚板圧延機の制御に始まり,その歴史は半世紀を越える。当初は古典制御によるフィードバック制御が主体であったが,1970年代後半になると計算機能力や計測技術が大幅に向上したことから板厚制御の分野には,現代制御理論や最適化手法などのシステム制御技術が本格的に導入され,国内鉄鋼業の量的拡大に大きく貢献した。また90年代以降は,さらなる高付加価値化に向けた,機能向上や適用範囲拡大が検討され,高強度鋼などの製造にはなくてはならない技術となっている。本稿では,主に70年後半以降に開発されたシステム制御技術と板厚制御を中心とする圧延制御技術の展開を鳥瞰するとともに,残された課題と今後の展望について論じる。

2. システム制御理論の進展

1960年代に開花した現代制御理論は,動特性の構造を内部の状態変数で構成された状態空間モデルで表現することを特徴としている。その形式の美しさと多変数制御系への展開の期待から,80年代になると計算機能力の向上とともに多くの適用事例を生むことになった。また,状態変数を確定的に推定するオブザーバの手法も多方面で応用された。同時期には,モデルのパラメ一夕の変化を推定しつつ制御器のゲインを調整する適応制御法も登場した。その後に,ポスト現代制御として,ロバスト制御やモデル予測制御などが登場した。ロバスト制御はモデルの不確かさに着目し,ロバスト安定を確保することで現代制御理論の欠点を克服する手法として登場した。なかでも,H制御は,ロバスト制御の象徴的な方法として注目された。モデル予測制御は内部モデルによって制御量を予測し,それを目標値に追従させる操作量を決めるという直感的な方法として広く実用化された。また,事象の切り替えを考慮して非線形系を制御するハイブリッド制御とモデル予測制御を組み合わせたハイブリッドモデル予測制御も提案されている。

制御対象の動特性のモデリングについては,非線形性を含む物理モデルを線形化して用いる手法や,ステップ応答法などのシステム同定による方法が基本となる。また,線形時系列モデルに基づく逐次型のパラメータ推定法も,オンラインモデリングの手法として活用されてきた。近年はデータを安価・簡単に蓄積できることから,多量なデータが簡便に蓄積される。そこで,数式を用いず,データによるモデリングやデータサイエンスによる知識の獲得が盛んとなった。なかでも,後述するJust-In-Timeモデリングは数式を必要としないモデリング手法として注目されている。データサイエンスは,従来より,統計分析として主成分分析や因子分析がよく知られている。最近では,非階層型のクラスター分析法として知られるk-Means法1)やモデリングや予測技術として注目されているサポートベクターマシン(SVM)2)がパッケージソフトとして提供されており,製造プロセスのデータ解析やモデリング手法として有効である。

プロセス制御では,非線形要素と動的要素を有するシステムのモデリングが重要となる。動的要素を含む非線形システムの同定手法として,例えば,ニューラルネットワークによる非線形要素のモデルとARXシステムに代表される線形の時系列モデルを組み合わせたハマースタインシステム3)があり,両モデルのパラメータは,出力信号を教師データとして学習される。また,ニューラルネットワークの代わりに遺伝的プログラミング(GP)を組み合わせる方法もある4)。ファジィ推論とニューラルネットワークの組み合わせによる非線形系のモデリング手法もあり,すでに応用例が示されている5)。ファジィ推論では人間の知識の導入も可能であり,ニューラルネットワークの重み係数とともに,メンバーシップ関数のパラメータの学習も可能となる。

鉄鋼製造では,圧延制御をはじめとして,これらの制御理論を中心としたシステム制御技術が積極的に応用される伝統があり,今後とも多くの実用化事例が生まれることを期待する。

それとは別に,80年代には,人工知能を応用した制御システムが登場した。なかでもファジィ推論やニューラルネットを用いた学習型の人工知能技術が登場すると,制御分野における応用が多く見られるようになった。これらは知的制御とも呼ばれる。一方,最適化技術については,従来,大規模非線形系の最適化を目的とした非線形最適化技術が活用されてきたが,計算機能力の向上にともないプロセス制御の分野にも適用されるようになった。

鉄鋼製造では,圧延制御をはじめとして,これらのシステム制御技術が積極的に応用され多くの実用化事例が生まれた。

3. システム制御理論の圧延制御への応用

3・1 1970~1980年代の主な取り組み

国内鉄鋼業の量的な拡大を支える安定生産が大きな経営課題となっており,いかに高い歩留でトラブルのない圧延を実現するかという観点で,板厚制御分野においても様々な技術が開発され,実用化されてきた。

板圧延の板厚制御には,パススケジュールに基づいて圧延前に圧延速度とロール間隙を設定するセットアップ制御と板内の板厚変動を時々刻々制御するリアルタイム制御がある。その特徴は,圧延の塑性加工特性が非線形の数式モデルで表現され,油圧系をはじめとした機械系の動特性や張力発生機構の動特性が微分方程式や伝達関数で記述されることにある。これらのモデルにさまざまなシステム制御技術を適用して板厚制御システムを構築し,実機化した事例が数多くみられる。

セットアップ制御では,世界に先駆けて,塑性加工理論に基づく圧延モデルを駆使したタンデム圧延機のパススケジュール最適化技術6,7,8,9)が開発された。また,それにともないモデルパラメータのオンライン学習技術10)が開発された。

近年では,材質変動を考慮したパススケジュールの設計11)も進んでいる。

本稿では,板厚のリアルタイム制御には板厚変動に影響する張力の制御や板幅方向の板厚分布を制御する板クラウンの制御を含むものとする。板厚のリアルタイム制御では,制御ゲインの最適化12,13)やゲインスケジュール14)に関する検討が進み,ゲージメータAGCや絶対値AGCの最適化,ロール偏心制御15)などのオンライン板厚制御技術が実用化された。また,形状計を活用した板クラウン制御が開発された。さらに80年代から90年代にかけては,さらなる品質・歩留の向上が求められ,主にタンデム圧延機の能力を最大化することを目的として,多変数最適制御16,17)や非干渉制御18)が実用化された。また,他の産業界に先駆けて,モデル化誤差を考慮したロバスト制御19)や未知外乱を推定してその影響を抑制する外乱推定オブザーバ20)が実用化された。

熱延ルーパにおける制御理論の適用事例をレビューすると,制御理論の発展と実応用の関係をよく理解できる。圧延制御に制御理論を導入する理由の一つは,多変数制御系における動特性の干渉の考慮である。熱延ルーパは,入力をルーパートルクと前段スタンドの圧延速度とし,出力をルーパー高さとスタンド間張力とする2入力2出力の多変数制御系となり,ルーパー高さ制御とスタンド間張力制御系には,それぞれを単独で制御するとその間に干渉が生じる。この干渉は,相互の制御精度に悪影響を及ぼす。そこで1970年代には,非干渉制御21)や干渉を考慮できる最適制御の適用が試みられてきた。しかし,これらの方法では,プロセスの特性変化などに起因したモデル化誤差によってロバスト安定性を損なう。そこで,ロバスト制御の適用が提案された。しかし,制御系のロバスト安定は確保されるものの,ゲイン不足のために「効きが甘い」という問題が生じた。その結果,補間制御手法22)や適応型ロバスト制御を用いたルーパ高さ系の制御23)が提案された。さらには,ハイブリッドモデル予測制御を用いた通板時のルーパー立ち上げ制御24)の提案に至った。ここでは,圧延材とルーパーの接触の有無にともなう事象の変化を考慮している。このように,板厚制御を中心とする圧延制御は,制御理論の進展と大きく連動している。

以下では,古典制御では得られない事例として,最適制御理論を用いた板厚制御ゲインの理論式と多変数系の干渉を考慮した板厚・張力制御について説明する。

まず,制御理論を用いた自動板厚制御(AGC:Automatic Gauge Control)について紹介する13)。鋼板や帯鋼の圧延機では,一般に油圧圧下によるAGCによって板厚がオンライン制御される。特に,ゲージメータAGCでは,内部モデルとしてゲージメータ式と呼ばれる板厚モデルによってミル出側直下の板厚を予測し,その偏差がゼロになるようにフィードバック制御を行う。そこでは,板厚精度を維持・向上させるために,AGC系の動特性や材料硬度(塑性係数)によらず,つねに制御ゲインを適正化する必要がある。ここでは,圧延モデルとして線形化した荷重式とゲージメータ板厚式を用いており,動特性として油圧圧下機構のサーボ系を含む圧延機の位置制御系を2次遅れ系で近似している。これらの系に現代制御理論(最適レギュレータ)を適用して板厚変動を最小にする最適制御ゲインを求めると下式となり,圧延パラメータ(MQ)と油圧サーボ系の動特性を表すパラメータ(ωn,ζ)で表すことができる。   

Ko=ωn4ςM+QM+(1k)Qς=22(1)

ここで,Qは塑性係数,Mはミル定数を表す。また,ωnは位置制御系の固有振動数,ςは減衰係数であり,kは安定性を確保するためのチューニング率である。最適制御ゲインが制御対象のパラメータで表現できることは,古典制御では得られない知見である。さらには,この式からは,板厚変動の原因となる圧延材の塑性係数の変動を時々刻々推定できれば,制御ゲインをつねに最適に保つことができる25)。これは逐次型のパラメータ推定に基づく適応制御として実現できる。しかし,最適レギュレータは線形制御の範疇にあり,そのために圧延特性モデルは高速圧延時の定常状態を基準として線形化している。そのため,加減速時には適用できない。

次に干渉を考慮した事例として,タンデム圧延機の板厚・張力制御を紹介する17)。タンデム圧延機では,張力制御と板厚制御の間には相互干渉がある。タンデム圧延機の2スタンド分の圧延機とスタンド間張力の発生機構と分散型の張力・板厚制御系をFig.1に示す。ここで,板厚については,当該スタンドの圧下(ロール間隙)を操作してゲージメータAGCで制御する。また,張力については,後方スタンドのロール速度を操作することで目標値に制御しつつ,その目標値を修正することで板厚をも制御するシステムとする。出側板厚変動とスタンド間張力を制御量とし,圧下量と後方張力制御系の目標値修正量を操作量とする。

Fig. 1.

 Outline of Thickness & Tension Control.

Fig.1をもとに,圧延特性と張力発生機構を線形化したモデルで表現し,張力・板厚制御系を構築する。多変数張力・板厚制御系をFig.2のブロック線図で示す。ブロック線図からも,板厚制御と張力制御の間に干渉があることが分かる。圧下系,すなわちゲージメータAGCの制御入力を変更すると張力変動が生じる。張力制御系が働くことによって,過渡的な張力変動が残る。それが圧下系に対して外乱となることから,見かけ上,圧下系の応答性が劣化し,板厚変動の原因となる。また,張力制御系についても同様である。現代制御以降の制御理論では,多変数板厚・張力制御(Multivariable Thickness & Tension Controller)の構築が可能となる。以下では,その概要を説明する。

Fig. 2.

 Block Diagram of Thickness & Tension Control.

圧延特性と張力発生系が多変数系あることから,多変数板厚・張力制御系は,その構造が2行2列の行列形式とすることが自然である。制御アルゴリズムは,線形制御の範囲では最適制御や非干渉制御が考えられる。また,操作量や状態変数の制約を考慮するなら,非線形最適化計算を用いる方法やハイブリッド制御の範疇にあるMPTの手法を用いることもできる26)。しかしながら,圧延特性モデルとして線形式を用いていることから,加減速時や通板時には適用できない27)

3・2 1990年代以降の主な取り組み

1990年代以降,国内鉄鋼業は質的な拡大期に入り,さらなる高付加価値化に向けた,適用範囲拡大や機能向上を進めた。板厚制御の分野では,例えば,歩留を極限まで向上させる(非定常部での精度向上),保全コストのさらなる削減(メンテナンスフリー),材質特性を引き出す(強い非線形を有する対象の制御),設備能力を極限まで引き出して操業する(設備間の絶妙なバランス),明細毎の能力最大化する(きめ細かい対応),などが課題となった。

具体的には,セットアップ制御では,省人化やメンテ性改善に向け,種々の評価関数と最適化方法が実用化された28,29)。また,スタンド間板厚計を導入したダイナミックセットアップ30)が実用化され,先尾端の切り捨て量が極限まで最小化された。また,多品種化の動向の中で,寸法に加えて板形状をもきめ細かく補償するミルバランス制御31)や材料硬度などのばらつきに対応して,全ての制約条件を満足する解(パススケジュール)を求めるのではなく,各制約条件を指定した確率で満足する解を求める確率計画法を活用したパススケジュール最適化技術が実用化された32)

一方,高度化されるセットアップ技術や動的制御を支える制御モデルの精度を向上させる技術が,塑性加工の分野で盛んに研究されたが,制御工学の分野でも,逐次最小二乗法33)や2次計画法のオンラインでの活用が実用化された。また,対象の入出力データから制御対象を高精度に同定できるARMAXモデル34)などの時系列モデルを用いたブラックボックスモデリングの実用化が進んだ。ブラックボックスモデルは,活用するデータが存在する領域(内挿領域)では,高い予測精度を有するものの,外挿領域での計算精度に問題がある。この問題に対し,物理モデルの知見を活用しつつ,実データオリエンテッドにモデルを構築する,所謂グレーボックスモデルの検討も行われた(Fig.3)。

Fig. 3.

 Application examples of static control.

リアルタイム制御の分野では,マスフローAGCの適用が活発に行われるとともに,品質や歩留を極限まで高めることを目指して各種AGCを高度に使いこなすための検討が進んだ。例えば,圧延材の先尾部用に最適化した制御則と定常部用の制御則を圧延中に切り替えたり,板厚変動を周波数成分に分離し,周波数成分毎に適切な制御を行う35)といった検討がなされた。さらに,制御系の応答性を阻害するむだ時間をスミス法によって補償する板厚制御36)の検討がなされた。

多品種化の流れの中で品種ごとのパラメータ調整を簡便化し,高精度制御の適用範囲を広げることを目指したILQ制御37,38)が実用化された。また,モデル化誤差や板温度などの操業条件が変動する状況下でも制御系の安定性を補償するH制御39,40)の適用が検討され,自動制御の適用範囲を大きく拡大させた(Fig.4)。

Fig. 4.

 Application examples of dynamic control.

以下では,冷延タンデムミルを対象に実用化されたミルバランス制御31)と非線形関数のモデリング手法として遺伝的プログラミングを活用した圧延荷重モデルの高精度化事例41)を説明する。

冷延タンデムミル(TCM)の一例をFig.5に示す。ここでは板厚や材質特性といった顧客からの要求に対応した製品スペック,および生産性や歩留,設備能力といった製造上のスペックを満足するようにパススケジュールが計算される。高強度鋼の圧延では,各圧延機にかかる負荷をできるだけ平準化して,設備能力のリミットに近い動作点で圧延する必要がある。しかし,圧延中の被圧延材の変形抵抗の変動や被圧延材と圧延ロールとの摩擦係数のばらつきが原因で,圧延中に特定の圧延機の負荷が増大し,形状不良の発生や圧下操作などの操作量が飽和するという問題があった。

Fig. 5.

 Outline of Tandem Cold Mill.

ミルバランス制御(MBC)は,圧延中の圧延スタンド間の圧延荷重バランスの変化を検出し,板厚・張力制御系(AGTC)の目標値をオンラインで操作する。言い換えると,MBCとはパススケジュールを修正することで,他スタンドに緩やかに負荷を分配し,圧延機間の荷重バランスを維持する制御方法である(Fig.6)。効果の一例をFig.7に示す。本制御導入前には,No.5圧延機の圧延荷重が増加傾向にあり,形状不良が発生することがあったが,圧延中に負荷をNo.1~4圧延機に適切に分散させ,No.5圧延機の負荷増加を抑制することで形状不良の発生が抑制された。

Fig. 6.

 Block diagram of MBC.

Fig. 7.

 Effect of MBC.

次に,GPを活用した圧延荷重予測モデル構築事例を紹介する。圧延荷重予測は,パススケジュールやミルセットアップの性能を支配する重要な技術であり,一般的には塑性加工の理論とオフライン実験により求めたモデルパラメータをベースにした数式モデルが使用されるが,歩留改善を追求する中で,さらなる予測精度向上が求められていた。

GPは,入出力データを用いて,その間を関係づける非線形関数を導出する進化型計算であるが,文献41)では,モデル式中の物理メカニズムが明確な部分は保持しつつ,不明確な部分関数(式(2)中のfi)をGPによってモデリングしている。また,データ蓄積の少ない操業条件での計算安定性を確保するための工夫(Fig.8)によって種々の材料を混載する実ラインでの計算安定性を実現し,従来モデルに比べて約17%の予測精度向上を実現している。   

ln(PW)=p0f0+p1f1gr+p2f2gr2+p3f3gr3+p4T+p5(2)

Fig. 8.

 Constraints to ensure the calculated stability in the extrapolation region.

P:圧延荷重,W:板幅,gr:圧下率の関数,pi:被学習係数,fi:GPで探索される板厚とロール半径の関数

4. 圧延制御分野でのシステム制御技術の今後の展望

上述したこれまでの取り組みにより,実用的(精度,計算時間)な制御モデルの構築が可能であり,評価関数や考慮すべき制約条件が明示されており,それらの変化がゆるやかな対象に対する問題は,ほぼ解決したものと思われる。特に生産量の拡大を求める時代には,定常部の改善を中心に大きく力を発揮し,生産性向上に貢献した。また,モデルの高度化や計測技術の進歩とも相まって,製品の高付加価値化にも大きく貢献しており,システム制御技術の役割は多大なものとなった。一方,昨今の事業環境変化への対応や国際競争力の確保という観点では,今後検討すべき課題も多く残されている。本章では,著者らの実経験にもとづいて,これらの課題を明らかにして,今後の圧延制御分野でのシステム制御技術の動向を展望する。

4・1 激動する事業環境変化への対応

生産のグローバル化拡大,原材料の劣質化,燃料高騰,差別化競争の激化などによる事業環境の大きな変化の中で,新製品が次々と生み出される。制御システムもこれらの環境変化に対応して,再調整や更新,あるいは機能追加がなされ,環境に適合させることが求められている。

例えば,自動車軽量化に向けて今後の需要拡大が見込まれる高強度ハイテンでは,製品ごとにその特徴(強度特性や表面特性など)を深く理解した上で,製品毎に製造仕様を整えて,複数の設備を連携させ,各設備の能力を適切にバランスさせた作り込みが必要である。制御システムの面から見れば,制御ロジックの調整やロジックの使い分けを製品ごと(あるいは細分化された製品グループごと)に,よりきめ細かく実施する必要が生じる。また,新製品に対応して,制御モデルを再構築したり,制御パラメータを再設計することも必要になる。

このような設計項目や設計頻度の増大という傾向は,今後も増加していくものと想定されるが,これらの問題を効率的に解決できる普遍性のある方法論は見当たらず,一品一様な対応が必要となる。さらに,制御システムの構成が複雑になるなかで,調整やメンテナンスに時間と手間がかかり,網羅的に対応するには高度な専門知識を持った専門技能者を多く育成する必要があることから,メンテナンスコストの増加が懸念される。

今後も海外拠点での生産が増加することから,多くの熟練した調整員や保全員で対応するのか,制御システムの高機能化を志向するのか,あるいはその両方を備えるのかは熟考すべき課題である。

4・2 国際競争力強化に向けた適用範囲の拡大

圧延工程の操業については,上述のように圧延制御技術の発展に伴って自動化が大きく進展したが,未だに操業者のノウハウに基づく手介入が必要な運転も残っている。例えば,セットアップ制御においても,鋼種やサイズや形状変化量が大きな材料,あるいは圧延頻度の少ない材料の通板時には,ミスロールを防ぐために経験知に基づくセッティングの手介入が行われる。熟練操業者の減少に伴う若手操業者への技能継承も課題となる。また,国際競争において高品質を維持・向上し,さらなる製造コストの低減を志向する上で,システム制御技術の進展と適用範囲の拡大が大きな課題であると考える。

操業者の手介入が必要になる理由は,以下のように考えられる。まず,実際の操業では単一の現象だけでなく,付随する周辺の物理現象や前後工程の生産状況までを考慮した操業が求められるが,官能的な評価に頼らざるを得なくなる部分もあり,適切な評価関数が設定し難い。また,目標精度を達成するために十分な制御モデルの精度が得られないことが多い。さらに,実操業でのばらつき(操業のばらつき,計測値のばらつき,制御量のばらつきなど)を考慮すると,制御システムとしては保守的な制御にならざるを得ず,その結果,熟練者の操業を優先させる場合もある。このように,現状はオペレータのノウハウに頼らざるを得ない操業を,品質を維持向上しながら,如何に効率化と低コスト化を図るかも,今後の国際競争を考える上で重要な問題である。

4・3 今後の展望

これらの問題を凌駕することは容易ではないが,その可能性を秘めた手法やアプローチが検討されている。制御モデルの高精度化による適用範囲の拡大や特性変化への対応,さらにはメンテナンス性の向上に向けて,Just-In-Timeモデリングが応用され,実機適用事例も増えつつある。Just-In-Timeモデルは,大量に蓄積した操業実績データをもとに必要なときにQuery(要求点)を与えて必ずしも数式モデルを必要としない局所モデルを作成し,制御に活用するというものである。複雑で非線形の強い現象に対しても高精度なモデリングが可能なだけでなく,データベースの更新により操業条件変化へ対応できるという特徴を持つ。厚板の板幅や材質のセットアップへの活用事例42,43,44)も報告されており,今後,タンデム圧延機のセットアップやリアルタイム制御への展開が期待される。

また,操業ばらつきの多い環境で保守的な制御になるという問題に対しては,これらのばらつきを理論的に捉え,確率論的な手法や大量データ活用によって制御性能を更に向上させることを目的にして日本鉄鋼協会計測・制御・システム工学部会の研究会「ばらつきのない製造を実現する大量データ活用型モデルベース制御技術研究会」にて検討45,46)され,要素技術の開発が進展している。例えば,文献45)では,モデル内のパラメータを確率変数として取り扱う従来の確率最適制御を時変系にも適用できるよう理論を拡張した上で,被圧延材の強度変動などを確率変数として定式化し,計算機シミュレーションによって,制御系の応答性や板厚変動の改善効果を示した。また,文献46)では,圧延後の冷却工程を対象としているが鋼板温度分布のばらつきを確率密度関数として取り扱い,その平均値と分散を目標値に制御するための制御量(冷却条件)を,粒子モデル予測制御を活用して実時間で求める方法が提案されている。

操業者のノウハウに頼らざるを得ない操業に対しては,モデルの高精度化や制御則の高度化という方法ではなく,操業者に判断を委ねることを前提として,計測された情報を,適切な意思決定を促すように補間し,ビジュアル化して提示する操業支援システムの検討が進んでいる47,48)

一方,圧延工程における材質組織の回復,再結晶,粒成長,また冷却工程での相変態などの変化をモデル化し,材料の機械的特性を予測する技術が進展している。近年では,これらのモデルを用いた予測技術により,加工・冷却後の材料の機械的特性をオフラインでモニターするのみでなく,実時間で目標温度のセットアップ値を修正する材質制御技術も実用化されている49,50,51)。ビックデータ活用技術の進展にともなって,大量に蓄積された操業実績データを活用したモデルの予測精度の向上も期待できることから,オンライン材質制御の実用化がさらに進展するものと思われる。

今後,わが国の鉄鋼業が世界に伍するためには,これらの取り組みの進展を含め,圧延制御技術のさらなるレベルアップが不可欠と考える。また,製品の多品種化が進む中で,開発効率を劇的に向上させる方法論も合わせて検討され,実用化されることを期待する。

5. おわりに

本稿では,システム制御技術の板圧延制御分野への応用として,品質・歩留の向上で量的な拡大を図った1970~1980年代の取り組みと材質の造り込みや設備能力の最大利用によって適用範囲の拡大や機能向上を目指した1990年代以降の取り組みについて述べた。前者では,具体例として最適レギュレータによるAGCの最適制御ゲインと多変数制御によるタンデム圧延機の板厚・張力制御を紹介し,後者では冷延タンデムミルのミルバランス制御とGPを用いた圧延荷重モデルの構築について説明した。さらに,今後の展望として,次々に生み出される新製品製造への対応やオペレータノウハウの活用に関する課題について述べた。

文献
 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

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