Tetsu-to-Hagane
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Review
Physical Phenomenon on Roll/Workpiece Interface during Rolling: Lubrication and Surface Oxide Scale
Akira AzushimaHiroshi Utsunomiya
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JOURNALS OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2014 Volume 100 Issue 12 Pages 1456-1466

Details
Synopsis:

In rolling processes, friction on the interface between the roll and workpiece is the most critical factor. It strongly affects not only deformation and load but also surface quality of the rolled material. Prediction and control of the friction are highly demanded. However, physical phenomenon on the interface has not been fully understood. Lubricant as well as surface oxide scale locates at the interface during rolling so that the two play important roles in frictional shear stress, surface deformation and heat transfer, especially in hot rolling. As flow stress of steels increases and better surface quality is demanded, tribological studies on rolling are required to develop new lubrication and scale technologies. In this article, past key studies on lubrication and oxide scale are reviewed and outlook for future tribology in rolling is given.

1. はじめに

日本鉄鋼業の板材圧延技術は1970年代から1980年代にかけ急激に発展を遂げ,アメリカを越え世界のトップとなった。その技術の発展に対して基盤技術であるトライボロジー技術によるサポートは大きく,日本鉄鋼協会を中心にトライボロジー研究が盛んに行われた。しかし,1990年代に入るとその研究も一段落し,21世紀に入ると研究発表の数が非常に少なくなった。それとは反対に,21世紀に入ると欧米において圧延トライボロジーの研究が盛んに行われるようになり,新しい展開を迎えている。

そこで,本稿では「圧延潤滑界面での摩擦法則」と「スケール」について,それぞれの分野で研究を行ってきた2名の著者がこれまでの研究のレビューを行うとともに,今後のそれぞれの分野における将来の展望を行った。

2. 圧延潤滑界面での摩擦法則

2・1 冷間圧延

2・1・1 冷間圧延の摩擦係数

冷間圧延の摩擦係数は圧延中に計測した圧延荷重を用いて冷間圧延理論式から逆算して求める方法が用いられてきた。例えば,Karman1)は冷間圧延の際の応力と力の平衡から次式の冷間圧延理論式を導出している。   

d(hq2)=(ptanθ+τ)dx(1)

ここで,境界潤滑状況にあるロールと材料界面で作用する摩擦せん断応力τは,   

τ=μp(2)

で与えている。ここで,μは境界摩擦係数である。このことから境界潤滑状況にある圧延潤滑界面においては,アモントン・クーロンの摩擦法則が成り立つことが導かれる。

この冷間圧延理論式から逆算した摩擦係数は1950年から1960年代にかけてアメリカにおいて多くの報告2,3,4,5)がある。日本においても同様な報告6,7,8)が1960年代に報告されている。しかし,1970年代に入ると日本の冷間タンデムミルの圧延速度が2000 m/minを超えるようになり,そのような高速における摩擦係数の値の特定が急務となり,日本鉄鋼協会の圧延理論部会の「冷間圧延における潤滑」研究グループにおいて鉄鋼メーカと大学との共同研究が行われ,Bland & Fordの冷間圧延理論式から逆算した摩擦係数と圧延速度の関係を調査した9)。その結果をFig.1に示す。これらの結果から摩擦係数は,1200 m/minの圧延速度を超えると0.05以下の低い値になり,それ以上では圧延速度の増加とともにわずかに低下するという情報を得ることができた。

Fig. 1.

 Relation between coefficient of friction and rolling speed9).

この結果は,今から考えると圧延潤滑界面の摩擦法則の観点から大きな問題提起を与えていた。摩擦法則として式(2)を用いることは,圧延荷重を支える圧延潤滑界面全域が境界潤滑領域であることを仮定していたことになる。それにもかかわらず逆算した摩擦係数が圧延速度に大きく依存しており,境界潤滑における摩擦係数が粘度,速度および荷重には依存しないという定義に違反していたことになる。そのことは冷間圧延における圧延潤滑界面の摩擦法則を式(2)ではなく,摩擦係数が圧延速度に依存することを許容する摩擦法則を用いる必要のあることを意味していた。

そこで1980年代に入り,式(2)に代わって,動圧流体潤滑と境界潤滑を重ね合わせた混合潤滑モデルによる摩擦せん断応力を圧延潤滑界面に用いる報告10,11,12)が行われるようになった。

2・1・2 摩擦せん断応力の定式化

(1)マクロ塑性流体潤滑

流体膜で工具と材料間が完全に隔てられるような状況では,その界面に働くせん断応力がアモントン・クーロンの法則に従わないことが理解でき,せん断応力を流体潤滑理論によって導出して,加工力の解析を行う方向が必要となる。このような潤滑状況をplasto-hydrodynamic lubricationと名づけ,冷間圧延の場合に解析を行ったのがCheng13)である。

ChengはFig.2のロール間の圧延形状に示すように,ロールを剛体,材料のみが塑性体であると考え,流体潤滑理論に支配される流体膜の中で剛塑性体の材料が圧延されるものとして解析を行っている。ロールと材料間の入口部に導入される油膜厚みは弾性流体潤滑理論によって独立に求め,流体の運動方程式および連続の式に加え,圧力および温度と粘度との関係式,ロール間の材料の平衡方程式,降伏条件式,連続の式およびエネルギー式によって接触弧での圧力分布およびせん断応力分布を計算している。

Fig. 2.

 Geometry of rolling process.

マクロ塑性流体潤滑における摩擦せん断応力τƒはニュートン流体の仮定から   

τf=ηuy(3)

で示される。ここで,ηは圧延油の粘度である。運動方程式から求めた次式の流体のx方向の速度u   

u=U1+(UrU1)hyhy(hy)2η(px)(4)

を代入すると,摩擦せん断応力は   

τf=ηU1Urh+2yh2(px)(5)

で与えられる。ここで,yは油膜の厚み方向,hは油膜厚み,U1は材料の入口速度およびUrはロール速度である。

圧延圧力分布は,式(1)に,τ=τƒを代入し,材料の降伏条件式を用いて求まる。この際の潤滑油の粘度式は圧力と温度の影響を考慮した式を用い,潤滑油内の温度は,エネルギー式から求められ,その境界条件としての材料表面の温度は材料の加工エネルギーのすべてが熱に変換されるものとして考える。

Fig.3は得られた圧延圧力分布の一例であって,アモントン・クーロンの法則に従う固着摩擦の場合との比較が示されている。マクロ塑性流体潤滑の場合,圧延圧力分布はなだらかになり,固着摩擦の場合に生じる中立点での尖点はなくなり,圧力ピークはかみ込み側に移動している。

Fig. 3.

 Pressure distribution in macro-hydrodynamic lubrication.

(2)境界潤滑

冷間圧延の圧延潤滑界面における境界潤滑モデルをFig.4に示す。塑性加工において境界潤滑モデルの模式図を示す場合,Bowden and Tabor14)が示した境界潤滑モデルとは異なり,バルクが塑性変形を生じている場合には,Fig.4に示すように接触界面全域に一様な平均圧延圧力paが作用しているとした方が良い。

Fig. 4.

 Boundary lubrication model in rolling process. (Online version in color.)

このときの垂直荷重Pおよびせん断力Tは   

P=paAT=τbA(6)

で示される。ここで,Aは塑性接触面積,paは塑性接触部に作用する平均圧延圧力およびτbは圧延塑性接触部に作用する境界摩擦せん断応力である。そこで,圧延塑性接触部での摩擦係数μaは   

μa=TP=τbApaA=τbpa=μb(7)

で与えられる。境界潤滑における摩擦せん断応力は   

τb=μbpa(8)

で与えられる。マクロ塑性流体潤滑の場合と同様,式(1)に式(8)を代入して圧延圧力分布が求められる。

(3)動圧流体潤滑と境界潤滑の混合潤滑

最初に,動圧流体潤滑と境界潤滑を重ね合わせたNakajimaら12)の混合潤滑モデルを説明する。この混合潤滑モデルは圧延潤滑界面での境界潤滑領域の面積比をαとすると,境界潤滑領域での摩擦せん断応力τbと動圧流体潤滑領域での摩擦せん断応力τfとを重ね合わせて,混合潤滑における摩擦せん断応力τmixは   

τmix=τbα+τf(1α)(9)

で与えている。圧延圧力分布は式(1)に式(9)を代入して求めることができる。Fig.5に冷間圧延における摩擦せん断応力が式(9)で与えられる混合潤滑状況での圧延圧力分布に及ぼす影響を示す。

Fig. 5.

 Distribution of rolling pressure in mixed lubrication when changes ratio of boundary lubrication region.

境界潤滑領域の面積比の変化によって圧延圧力の大きさは大きく異なり,面積が増加すると圧延圧力は大きくなり,圧力ピークの位置が入口側に移動することがわかる。

次に,動圧流体潤滑と境界潤滑とを重ね合わせた混合潤滑における摩擦係数をFig.6に示す混合潤滑モデルより求める。真実接触部の境界潤滑領域Arは境界潤滑領域の面積比をαとすると   

Ar=αA(10)

Fig. 6.

 Mixed lubrication combined with hydrodynamic and boundary lubrication regions.

となる。塑性接触領域Aに作用する垂直荷重Pは次式で与えられる。   

P=prαA+pf(1α)A(11)

式(11)においてprは境界潤滑領域の真実接触部に作用している垂直圧力およびpfは流体力学作用により生じる垂直圧力である。塑性接触領域に作用する摩擦せん断力Fは   

F=τbαA+τfα(1α)(12)

で与えられる。式(12)においてτbは境界潤滑領域の真実接触部に作用している摩擦せん断応力およびτfは流体力学作用により生じる摩擦せん断応力である。ここで,τbおよびτfは次式で与えられる。   

τb=μbprτf=ηuy(13)

混合潤滑領域における摩擦係数μmixは,   

μmix=FP=τbα+τf(1α)prα+pf(1α)(14)

で与えられる。

冷間圧延の圧延潤滑界面においては一様な平均圧延圧力paが作用しており,境界潤滑領域はさほど小さくはないので,次式が   

pr=pf=paτb>>τf(15)

成り立つので,摩擦せん断応力と摩擦係数は   

τmix=ατbμmix=αμb(16)

で与えられる。

(4)静圧流体潤滑と境界潤滑の混合潤滑

鋼板の冷間圧延後の材料の表面性状を観察すると多数のオイルピットが観察される。このような表面観察から圧延潤滑界面において圧延油内の動圧効果により垂直圧力が発生する動圧流体潤滑が生じているとは考えにくい。どちらかというとオイルピットの圧延油内に静水圧が発生し,その静水圧により垂直圧力を支えていると考える方が妥当だと思われる。

そこで,静圧流体潤滑と境界潤滑とを重ね合わせた混合潤滑における摩擦係数をFig.7に示す混合潤滑モデルより求める。

Fig. 7.

 Mixed lubrication combined with hydrostatic and boundary lubrication regions.

塑性接触領域Aに作用する垂直荷重Pは次式   

P=prαA+q(1α)A(17)

で与えられる。

式(17)においてprは境界潤滑領域に作用している垂直圧力およびqは静水圧により生じる垂直圧力である。塑性接触領域に作用する摩擦せん断力Fは   

F=τbαA=μbprαA(18)

で与えられる。ここで,静水圧を生じているオイルピットで作用する摩擦せん断応力は無視できるので,混合潤滑領域における摩擦係数μmixは   

μmix=FP=τbαprα+q(1α)(19)

で与えられる。

冷間圧延の圧延潤滑界面においては一様な平均圧延圧力paが作用しており,境界潤滑領域はさほど小さくは無いので,次式   

pr=q=pa(20)

が成り立つので,摩擦せん断応力と摩擦係数は   

τmix=ατbμmix=αμb(21)

で与えられる。

(5)実際の混合潤滑

実際の冷間圧延の圧延潤滑界面は動圧流体潤滑,静圧流体潤滑および境界潤滑からなる混合潤滑であると考えられる。このような混合潤滑においても圧延潤滑界面における境界潤滑の面積比αが明らかになれば,実際の混合潤滑モデルにおける摩擦せん断応力や摩擦係数は   

τmix=ατbμmix=αμb(22)

で与えられることが(4)と(5)の説明から理解できる。

2・2 熱間圧延

2・2・1 熱間圧延の摩擦係数

熱間圧延において1970年前に欧米において圧延油が用いられ始められた。日本においても1970年代に入って圧延油の使用のための研究が行われ,1975年前後の実機に使用され圧延荷重を低減し,摩擦係数の減少に大きな成果を挙げた15)。熱間圧延の実機において圧延油を使用して圧延荷重が減少したとの最も象徴的な報告は,Kamii and Terakado16)によりなされている。それらの結果をFig.8に示す。圧延油を使用したスタンドにおいて圧延荷重が大きく減少していることがわかる。これらの報告の後,日本の鉄鋼業の製鉄所の熱間圧延ラインでは圧延油が使用されることになった。

Fig. 8.

 Decrease of rolling force in hot rolling.

熱間圧延における摩擦係数は,冷間圧延のように計測した圧延荷重を用いて圧延理論式から逆算する方法は用いられず,熱間すべり型評価試験機,SRV摩擦試験機,熱間転動試験機,熱間チムケン試験機などの試験機によって測定されてきた17,18,19,20,21)。すなわち,熱間圧延機を用いず,垂直荷重と摩擦せん断荷重を独立に測定できる試験機が用いられている。その理由は,熱間圧延の圧延潤滑界面での現象がほとんど理解されていない状況においてどのような摩擦法則が適用できるかが判断できないためであると考えられる。そのため,まずは評価試験機を用いて垂直荷重と摩擦せん断荷重が独立に測定し,摩擦せん断荷重と垂直荷重の比を摩擦係数とみなして,熱間圧延における摩擦挙動の調査を行っている。

筆者らは2007年頃に開発した熱間すべり圧延型潤滑性評価試験機を用いて,独立に測定した垂直荷重と摩擦せん断荷重から摩擦係数を求め,熱間圧延における摩擦挙動を調べている22,23,24)Fig.9に熱間すべり圧延型評価試験機の写真を示す。熱間すべり圧延型潤滑性評価試験機は主スタンド,サブスタンド,加熱炉および出口側張力付加装置より構成されている。試験機による摩擦係数の測定は,Fig.10に示すように試験片をセットし加熱後,送りロールにより試験片を移動し,試験片均熱部がメインスタンドに到達したら主ロールを圧下し,圧延荷重と上部ロールの圧延トルクを測定し,摩擦係数を求めることができる。

Fig. 9.

 Photograph of sliding rolling simulator at elevated temperature. (Online version in color.)

Fig. 10.

 Schematic representation of experimental method for coefficient of fiction.

この試験機になたね油70%とカルシウムスルフォネート30%の圧延油を0.1,0.3,0.5,1.0,3.0%のエマルションとして用いて一定の圧延条件においてすべり圧延を行い摩擦係数を求め,同時に圧延後の試験片表面上に残留するカルシウム量をX線により測定し,各エマルション濃度の導入油量を求めた。Fig.11に実験結果を示す。Fig.11より熱間潤滑圧延においてX線強度の積分値とエマルション濃度の関係からエマルション濃度の増加とともにロールと材料界面に導入される油膜量が比例的に増加していることがわかる。しかしながら,摩擦係数はエマルション濃度1.0%までは濃度の増加とともに大きく減少し,1.0%以上ではエマルション濃度が増加,言い換えれば導入油量が増加しても摩擦係数はほぼ一定の値を示した。このエマルション濃度が1.0%以上になると摩擦係数が一定になるという,現在のところ冷間圧延潤滑理論では考えられない現象として理解できる。

Fig. 11.

 Relationships between coefficient of friction, integral intensity and emulsion concentration. (Online version in color.)

これらのことを考慮して,熱間潤滑圧延における新しい摩擦モデルを提案した。Fig.12に摩擦モデルの模式図を示す。この摩擦モデルにおいては,エマルション濃度が1.0%以上の場合,ロールと材料の接触界面全域を油膜が覆い,摩擦係数は冷間圧延における境界的潤滑状態と同じように圧延油の物理特性に影響を受けずほぼ一定である。しかし,エマルション濃度が1.0%以下の場合,接触界面に油膜が覆われた領域と油膜で覆われないで水潤滑の領域が混在する摩擦モデルとに分けることができるとして考えられる。

Fig. 12.

 Friction model in hot rolling. (Online version in color.)

2・2・2 熱間圧延の摩擦法則

熱間圧延のエマルション濃度が1.0%以上で摩擦係数が一定の圧延潤滑界面に作用する摩擦せん断応力をどのように定義するかについては,式(2)で与えられるアモントン・クーロンの摩擦法則か,次式で与えられる摩擦せん断法則,   

τ=mk(23)

のどちらが成り立つのかについて熱間すべり圧延型潤滑性評価試験機を用いて実験を行い,熱間圧延における摩擦法則について検討を行った。

この評価試験機を用いたすべり圧延においてFig.13に示すように前方張力を変化させることにより垂直荷重(圧延圧力)を変化させてトルクを測定し摩擦係数を求めた。この実験は同じ圧下量,すべり速度で前方張力により圧延圧力を変化させてトルクを測定し,そのトルクが圧延圧力の変化と同じような変化をするかまたは変化しないで一定であるかを調べることである。トルクが同じように変化をすればアモントン・クーロンの摩擦法則が正しく,トルクが一定であれば摩擦せん断法則が正しいことが確認できる。

Fig. 13.

 Schematic representation of sliding rolling when changes front tension. (Online version in color.)

実験は前方張力を0.7,2.0と3.0 kNに変化させ,2種類の圧下量0.3と0.5 mmでエマルション濃度3%のなたね油を用いたすべり圧延を行った。Fig.14に前方張力を変化させたときの圧延圧力およびFig.15に単位長さ当りのトルクを示す。

Fig. 14.

 Relationship between rolling pressure and front tension. (Online version in color.)

Fig. 15.

 Relationship between torque per unit length and front tension. (Online version in color.)

Fig.14Fig.15から2種類の圧下量ともに圧延圧力と単位長さ当りのトルクは前方張力の増加とともに減少する結果が得られ,摩擦係数と前方張力の関係をFig.16に示す。Fig.16より2種類の圧下量ともに摩擦係数は前方張力を変化させても0.1の一定の値を示し,アモントン・クーロンの摩擦法則が成り立つことを示している。このことから熱間圧延の圧延潤滑界面にアモントン・クーロンの摩擦法則を適用することが適切であることが理解できた。

Fig. 16.

 Relationship between coefficient of friction and front tension. (Online version in color.)

3. 酸化皮膜(スケール)の挙動と圧延特性への影響

3・1 熱間圧延プロセスで生成されるスケール

3・1・1 熱間プロセスにおけるスケールの影響

熱間圧延では,鋼材表面に一般に「スケール(scale)」と呼ばれる高温酸化皮膜が形成され,種々の影響を及ぼす。第一に,酸化によって製錬された鋼が数パーセントといった単位で失われ歩留まりが低下する(スケールロス,焼減り)。スケールは表面上に不均一に形成されたり,部分的に剥離したり,圧延によって地鉄に埋め込まれることで表面欠陥の原因となる。そのために,生成するスケールの量や構成する酸化物に関する研究が,高温酸化の研究者を中心に多数なされてきた25,26,27)。一方で,潤滑剤と同様にスケールは圧延中に被加工材とロールの界面に位置するため摩擦特性を変化させる。その影響は単純なものではなく,酸化あるいは圧延条件に依存し,摩擦を低減する場合(潤滑効果)と増大させる場合(増摩擦効果)がある。そして,摩擦を介して間接的に圧延中の変形,負荷,先進特性にも影響を与える。同時に,ロールバイト中では,高温の被加工材が低温のロールに接触することになるので,界面を介した熱移動が発生する。スケールの熱伝導率は地鉄に比べて小さいため,スケールはロールによる抜熱を防ぎ,被加工材を高温に保つ働きがある(保温効果)。したがって,圧延材の組織や特性にも間接的に影響を与える。また,スケールの一部は磨耗粉となって潤滑剤中に混入するほか,ロールに移着して,いわゆるロールコーティングを形成する。このようにスケールの及ぼす影響は熱間圧延プロセスに限定しても多岐にわたる。最近多用されるようになった高強度鋼などでは合金元素を多く含有しており,生成する酸化物も単純な組成のものではないことが多く,問題を複雑にする。さらなる品質や歩留まりの向上の手段として,スケールの制御技術の確立が期待され,スケールの挙動や影響に対する関心が世界的に高まっている28,29,30)。本稿では,スケールに関する基礎的事項を整理するとともに,熱間圧延プロセスにおけるスケールのトライボロジーを概説する。

3・1・2 生成するスケールの構造

鉄鋼材料に大気中で生成するスケールの厚さは,一般に酸化時間の(1/2)乗に比例して増加する,すなわち放物線則に従う。これは酸化現象が表面反応ではなく,スケール中のFe2+イオンの拡散で律速されていることを意味する。すなわち,スケールが厚くなるほど拡散すべき距離が長くなり酸化速度は遅くなる。逆に,酸化の初期や酸素分圧が低い条件では,拡散よりも表面反応が律速となるため直線則に従う。

工業的にはスケールによる悪影響を避けるため,加熱炉内で厚く生成したスケール(一次スケール)をデスケーラで除去した後に熱間圧延が行われている。デスケーラを通過後,直ちにスケールが再生成するが,その際の酸化速度は,およそ1 μm/sであるので,被加工材は数十μm以下の薄いスケールを伴った状態で熱間圧延を受けることになる。

スケールの構造や特性は,当然ながら被加工材の化学組成(鋼種)や酸化条件(雰囲気,温度,時間)に敏感である。ステンレス鋼のようにスケール形成が顕著でない鋼もあれば,ケイ素鋼のように表面性状を著しく損なう有害なスケールを発生する鋼もある。また,化学組成はスケールと地鉄の密着性にも大きな影響を与える。鋼種や酸化条件の影響の説明は優れた専門書31,32,33)に譲り,以下では,議論を大気雰囲気下で普通鋼に形成されるスケールの挙動に限定して説明する。

Fe-O系の平衡状態図をFig.1725)に示す。833 K(560°C)以下のスケールは,マグネタイトFe3O4,ヘマタイトFe2O3の2相構造である。このスケールは,一般には色調が青く低温で生成するため薄く地鉄と密着している。833 K(560°C)以上の高温で形成される酸化物は,酸素の割合の順に,ウスタイトFeO,マグネタイトFe3O4,ヘマタイトFe2O3の3相からなる多層構造をとっており,大気中では,3相の存在比は95:4:1と報告されている25)。すなわち,ウスタイトが大部分を占め,スケール挙動を考える上で最も重要な相である。

Fig. 17.

 Fe-O equilibrium phase diagram25).

1273 K(1000°C)における電解鉄の酸化過程のSEM画像とEBSDによるIPFマップをFig.1834)に示す。なお,この例では方位付けはFeOとFeのみで行い,NDの結晶方位を標準ステレオ三角形の色で表している。スケールはおおむね厚さ方向に1個の結晶粒,いわゆる貫通粒から構成されている。初期は柱状であるが,酸化時間の増加とともに厚さ方向よりも板面内の成長が優勢となり,アスペクト比は1.4に漸近する34)。なお,界面においてFeOとFeの間に明瞭な方位関係は見られない。今後はEBSD解析に基づくスケールの組織制御や密着性の改善などが期待される。

Fig. 18.

 (A) SEM image and (B) IPF map showing ND orientation of oxide scale on pure iron oxidized at 1273 K in air34).

3・1・3 スケールの機械的性質

被加工材の変形抵抗と変形能を知ることは加工プロセスの開発の最重要事項の1つであり,このことはスケールについてもあてはまる。しかしながら,スケールについては材料試験に適した単相バルク試料を得ることは難しく,信頼性の高い実験結果は残念ながら少ない。一例として,Hidakaらにより測定されたウスタイトの高温強度と延性をFig.1935)に示す。ウスタイトは873 K(600°C)では脆性で,その強度は25 MPa程度である。温度上昇に伴う強度低下は著しく,1273 K(1000°C)では5 MPa程度にまで低下する。一方,NaCl構造を有することから延性は比較的高く,また温度の上昇とともに延性はさらに顕著となり,1173 Kでは40%程度の一様伸びを示し1273 Kでは,100%を超える伸びを示している。したがって,熱間圧延では,地鉄に追随した塑性変形も可能であるものと推測される。Fig.2036)は,スケールと地鉄の硬さの温度依存性の測定結果である。低温ではスケールの方が地鉄より硬いが,オーステナイト域では逆にスケールは地鉄よりも軟らかいことは注目に価する。

Fig. 19.

 Stress-strain curve of sintered FeO at elevated temperature35).

Fig. 20.

 Hardnesses of Fe and FeO as a function of tempertature36).

3・2 熱間圧延中のスケールの変形と圧延特性への影響

3・2・1 スケールの変形挙動

熱間圧延直後の鋼材は依然として高温状態にあり,直ちに再酸化することから,圧延材のスケールを観察してロールバイト中のスケールの挙動を推測することは困難であった。最近になって,圧延材を不活性ガスで満たされた容器中で冷却する方法28,37)や,酸化物ガラスにより封止して再酸化を防止する方法38,39,40),真空圧延機を用いる方法41)によって,熱間圧延直後のスケールの状態を保持して観察することが可能となり,スケールの熱間圧延中の挙動が詳細に解明されつつある。

一例として,低炭素鋼板の熱間(1273 K)圧延後の縦断面におけるスケールの状態を,ガラス封止法で観察したものをFig.2142)に示した。この例では,アルゴン中で加熱を行った後に,所定の時間t(t=0 s,40 s)大気酸化後に,圧下率r=30%,無潤滑の条件下で熱間圧延を行ったものである。圧延前のスケールの厚さはT=1173 K,t=0 sでは2.4 μm,t=40 sでは32 μm,T=1273 K,t=0 sでは2.7 μm,t=40 sでは33 μmであったが,T=1373 K,t=0 sでは8.1 μm,t=40 sでは43 μmと比較的厚く形成していた。なお,t=0 sでも酸化を生じるのは,実験上炉への試料の出し入れにわずかな時間を要するためである。圧延後のスケールは酸化時間と圧延温度に敏感で,かなり異なった形態を示す。t=0 sの場合の薄いスケールはいずれの温度でも地鉄とともに均一に変形している。t=40 sの場合,T=1173 Kではスケールは分断されて地鉄に埋込まれ,地鉄とスケールの界面に凹凸が見られる。T=1273 Kでは先端が厚く,後端が薄いくさび形に変形したスケールが地鉄に押し込まれていた。また,スケール同士のすき間から,地鉄が表面にまで露出している部分も見られる。こうしたくさび形のスケール形態はOkadaによる報告28)とも一致する。T=1373 Kではスケールにはスケール表層が規則的に分断され鋸刃状になっていた。しかし,亀裂は地鉄までは達しておらず,スケールと地鉄の界面は平坦である。これは,T=1373 Kではスケールの硬さが地鉄より低いためと推察される。これはFig.20の硬さの温度依存性によって説明することができる。

Fig. 21.

 SEM images on longitudinal section (near surface) of rolled steel sheets42).

3・2・2 圧延特性への影響

圧延荷重がスケールの厚さに依存して変化することがこれまでも知られていた。例えば,Lenard43)やAzushima and Nakata44),スケールが比較的厚い場合に,スケールの厚さの増加とともに摩擦係数が減少することを報告している。Fig.21の条件の圧延荷重を接触面積と平均変形抵抗で規格化した圧下力関数(PMF)Qの温度依存性をFig.22に示した。固着摩擦の場合の理論値として,Shidaの近似式45),Saitoの式46)によるQ値を,すべり摩擦の理論値としてHillの式47)によるQ値を合わせて図中に示した。酸化時間0 s,10 sの場合については,Q値はいずれの温度においても計算値に近い値を示している。これらの条件では,スケールが介在していても材料とロールとの間には固着摩擦が仮定できると考えられる。しかし,酸化時間が40 sではT=1273 K,1373 KにおいてQ値は1.3以下と計算値よりも低くなっている。この場合のQ値はHillの式で摩擦係数μ=0.2と仮定した場合にむしろ近い。Fig.21のスケールの断面観察とあわせて考察するとスケールが不均一変形を生じる条件と,圧下力関数Qが低下している条件は一致している。つまりスケールの不均一な変形が潤滑のような働きを担っていると考えられる。そのような場合には内部に導入される摩擦せん断変形も小さくなることが確認されている42)。こうした条件では,スケールと地鉄との間に相対すべりが生じていると推測され,その分だけ地鉄内部に導入されるせん断変形が減少し,荷重が低下するものと推察される。

Fig. 22.

 Pressure multiplication factor Q as a function of oxidation temperature and duration42).

3・3 スケールの割れ発生条件の考察

Fig.21のスケール変形の厚さ依存性は,圧延時のスケール内の温度分布を考慮することで説明することが可能である。かみ止め材の表面観察によると,スケールはロールとの接触時に,すなわちロールバイト入口付近で割れが発生していた。そこで,ロール接触点近傍の温度分布を,半無限体の高温の鋼が室温のロールとに接触した場合に置き換えて,温度分布の簡易解析を行う。ロールの表面温度Tr=300 K,ロール表面とスケール表面との熱伝達率hr-s=30000(W・m−2・K−1),スケールの熱伝導率λscale=4(W・m−1・K−1)48)とした。一次元定常熱伝導を仮定すると地鉄からロールへの熱流束qについて次の式が成り立つ。   

q=(TiTR)/(1hrs+dλscale)=hrs(TrTs)(24)

したがって,スケール最表面の温度Tsをスケール厚さdの関数として求めることができる。スケールの最下面の温度Tiは加熱温度と同じと仮定し,Ti=1173 K,1273 K,1373 Kの3種類で計算を行いTsの計算値をFig.2350)に示した。例えばTi=1273 Kでは,d=45 μmでTs=1020 K程度と予測される。定常熱伝導を仮定しているため,TsTiを結ぶ直線がスケール内の温度分布となる。Fig.23中の(○△×)はFig.21の圧延実験で判定したスケール割れの有無である。また,スケールの主成分であるFeOの応力ひずみ曲線(Fig.1935))を参考に,スケールの延性脆性遷移温度(Ductile-Brittle Transition Temperature,DBTT)を有限の一様伸びを呈する下限温度である1120 Kと仮定し,図中に点線で示した。(a)Ti=1173 Kの場合,圧延中にスケールの大部分がDBTT以下となる。そのためスケールは塑性変形することなく(Fig.21T=1173 K,t=40 s)のように破砕されたものと考えられる。(c)Ti=1373 Kの場合,スケールの大部分がDBTT以上である。そのため(Fig.21T=1373 K,t=40 s)のように表層のみが破断したと推察される。この場合,d=40 μm以下ではスケールが均一変形すると予想される。予測されたスケールの形態と実験結果の間にはよい一致が見られる。

Fig. 23.

 Experimental scale morphologies on estimated scale temperatureTs vs scale thickness d map50).

この方法を応用すると,スケールに割れが発生しない最大のスケール厚さを求めることに応用することができる。スケール全域の温度がスケールのDBTT以上となるスケール厚さを,「スケールの割れ発生限界厚さdcriticalと定義して求め,Fig.2450)に示した。スケールの厚さがdcritical以下となる条件で圧延を行えば,割れが発生しないことになる。さらに,スケールの厚さがdcriticalとなるまでの酸化時間tcritical(s)を求め,同時に表記した。ここで,スケール厚さd(μm)の見積もりには次の実験式49を用いた。   

d=1.1×106exp(128000RT)t0.5(25)

Fig. 24.

 Estimated critical scale thicknessdcritical and critical oxidation duration tcritical as a function of rolling temperature Ti50).

デスケーリングを行ってからtcritical以内での時間で圧延を行えば,割れが発生しないはずである。Ts=1373 Kではdcritical=40 μm程度と厚いが,スケールの成長が速いため,tcritical=6 sと短い。一方,Ts=1173 Kでは,dcritical=7 μm程度と薄いが,成長が遅いためtcritical=15 sと長く,デスケーラと第1スタンドとの間により時間的余裕ができる。さらに応用を進めると表面欠陥が発生しない条件の下で,スケールロスを最小化するようなデスケーリングのタイミングを求めたり,デスケーラの配置や能力を最適化することも可能である。

4. おわりに

本稿では,「圧延界面での現象」して,「圧延界面の摩擦法則」と「酸化皮膜」にフォーカスを当てて,過去の研究をレビューするとともに将来展望を行った。被圧延材の高強度化にともなって,摩擦低減に対する要求は今後ますます厳しくなるものと思われる。また,合金元素の添加は圧荷荷重を増加させるとともに生成する高温酸化皮膜を変化させ,圧延制御を困難なものにすると予測される。しかしながら,現時点ではロールバイト中の物理現象が十分に理解されているとは言い難い。これまでの多くの研究者の研究報告を良く理解するとともに,トライボロジーの基礎を良く勉強することにより,これからの困難が克服されるものと思われる。

わが国の現状では,こうした分野に貢献してきた大学研究者の退職や他分野の台頭によって圧延研究者数は減少傾向にある。企業においても,トライボロジーの研究者数が減少の傾向にある。しかしながら,鉄鋼における圧延プロセスのトライボロジー研究が重要であることには何ら変わりはない。若い研究者の方々に圧延トライボロジー分野の再活性化とブレークスルーとなる技術開発をお願いしたい。

文献
 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

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