2014 Volume 100 Issue 12 Pages 1490-1498
Operational scheme and flatness control algorithm with related mathematical models are developed for OPL (Oita Plate Leveler) which is a large scale embodiment of the NSSMC Intelligent Mill (NIM); NIM is a new concept rolling mill which can estimate and control roll force distribution across the width acting between the work roll (WR) and the rolled material. For zero adjustment procedure of individual position control system of divided back-up rolls (BURs), force distribution of the BURs minimizing the WR horizontal deflection is calculated by means of Lagrange’s method of undetermined multipliers, and systematic way of realizing the target BUR force distribution is developed. Considering plan view inclination and temperature distribution of inlet material, flatness control algorithm is developed and practiced to obtain desired flatness as well as residual stress of the rolled material after cooling.
従来の板圧延における形状制御すなわち平坦度制御は,要求される板厚分布の制御精度が極めて厳しい1)こともあって,計算機による設定機能のみでは十分な制御精度が得られず,圧延機後面の形状検出装置によって形状の乱れを実測して圧延機の形状制御装置にフィードバックすることが必要となっている。このような仕組みのシステムの場合,圧延機から形状検出装置までの材料の移送時間が制御上の無駄時間となるので,外乱が発生して形状が乱れてからこれを修正するまでに圧延された材料には形状不良が残る上,無駄時間の存在が応答の早い制御を阻むため十分な形状制御が実現できない場合が多く,歩留低下や形状矯正のための工程の増加による生産性の低下が避けられない。
以上のような従来型の圧延機システムの問題を根本的に解決すべく,圧延機自身が形状検出機能を有する新しいコンセプトの新型式知能圧延機が提案され2),実機薄板ミル規模のプロトタイプミルを用いて,圧延荷重分布推定機能に基づく形状検出・制御システムが構築され実証されている3)。さらに厚板精整ラインにおける形状矯正工程の生産性向上および機能向上を狙って,最大圧延幅5500 mmの厚板矯正機OPL(Oita Plate Leveler)として知能圧延機を適用するミルハード検討が実施され実機化されている4)。
知能圧延機は従来の圧延機とは全く異なるコンセプトの圧延機であり,従来の圧延機の設定・制御技術を適用することができない。そこでここでは知能圧延機専用の操業ソフトウェアおよび設定・制御技術を新たに開発し,OPLに実装したので報告する。
OPLの圧延条件をTable 1に示す。矯正対象となる厚鋼板は,板厚10~65 mm,板幅1400~5500 mm,板長6.0~63.5 mである。OPLは大分製鐵所厚板工場剪断ラインの最上流に設置され,冷却床から払い出された剪断前の大板を0.2%の極軽圧下率で圧延して形状を矯正する。OPLのロール寸法をTable 2に,その基本構造をFig.1に示す。OPLとして採用した知能圧延機は圧延材~ワークロール(WR)間に作用する圧延荷重分布をリアルタイムに推定して制御する機能を有する圧延機であり,圧延荷重分布は板形状を強く反映しているので時間遅れのない形状検出および制御が可能なことが従来の圧延機にない特徴である。
Item | Specification | |
---|---|---|
Plate Size | Thickness | 10 ~ 65 mm |
Width | 1400 ~ 5500 mm | |
Length | 6 ~ 63.5 m | |
Plate Temperature | R.T. ~ 250 ºC | |
Reduction | 0.2% | |
Rolling Speed | 10 ~ 120 m/min | |
Control Interval (NIM Functions) | 30 ms |
WR | BUR (×19) | |
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Diameter (mm) | 330 | 550 |
Barrel Length (mm) | 6010 | 320 |
Chock Span (mm) | 6690 | – |
Schematic View of OPL.
WR直径は330 mm,胴長は6010 mmである。上BURは圧延荷重分布推定のため個別ロードセルを配した直径550 mmの分割BURとなっており,BUR~WR共通法線方向と鉛直方向とのなす角度で定義されるクラスター角41°で,入側9個,出側10個,合計19個を千鳥配置している。さらに上分割BURは形状制御のため油圧サーボで個別偏心軸の角度調整を行う方式の個別圧下制御機構を有している。なお各分割BURの胴長は320 mmであるが,入側と出側のBURを合わせて分割BURは幅方向に295 mmピッチで配置されている。各分割BURの最大荷重は2.74 MNであり圧延機全体としての鉛直方向の最大圧延荷重は37.2 MNである。
下BURは上BURと幾何学的に上下対称に配置されている。形状検出・制御機能は上BUR系で実現するため,下BURにはロードセルおよび個別圧下機能はないが,入側および出側それぞれ共通の偏心軸による下WRたわみ補償機能を有する。
Sendzimir圧延機のような従来のクラスター型圧延機の場合,幅方向に並んだ分割BURには共通軸があり5),この軸がBUR位置の基準となるため分割BUR位置の零点調整は不要である。しかしながらOPLの場合,上BUR系は,各分割BURに作用する荷重を正確に測定する必要があるため共通軸を配することは許されない。もちろん幅方向に並んだ各分割BURはWRに対する相対位置が同じになるように設計・製作されるが,個別の偏心軸とこれを支持するチョック,そしてロードセルもすべて個別に配備されるため,これらの寸法誤差の蓄積によって各分割BURの位置に誤差を生ずることになる。
そこで通常の4Hiミルや6Hiミルの圧下位置零点調整にならってOPLでもキスロール締め込みによる分割BUR位置の零点調整を実施することにした。このとき4Hiミル等の場合は作業側(WS)・駆動側(DS)の圧下装置を均等荷重で締め込むので,知能圧延機の場合も各分割BUR均等荷重が基本と考えた。しかしながらOPLの場合は,分割BURが入側9個・出側10個に千鳥配置となっているので,全ての分割BURに同じ荷重を負荷すると,WRに作用する水平方向荷重のバランスがとれなくなるため,そのような負荷を与えることは不可能である。そこでBUR荷重合計を2等分し,入側・出側それぞれの分割BURに均等荷重を負荷することを考える。OPLの場合,例えば,入側BURに各980 kN,出側BURに各882 kN負荷することにすれば分割BUR荷重合計17.64 MNでWRに作用する水平荷重はバランスがとれる。このような入側,出側それぞれ均等荷重という考え方はWRに作用する水平方向荷重バランスのみに配慮して直感的に決めたものであるが,OPLのWRのように直径に比べて胴長が著しく長いロールを使用するにあたってはWRの水平方向たわみが過大になる懸念が残る。そこで上記負荷に対してWRの水平方向たわみを計算した。出側方向へのたわみを正として結果をFig.2に示すが,WR水平たわみが中央部で15 mm程度と非常に大きくなることがわかる。なおFig.2の横軸はWRの支点間距離の1/2で規格化した各分割BUR中心位置を示している。この15 mmの水平たわみはロールギャップ誤差としては約0.34 mmとなるので形状制御の観点からは見過ごすことのできない大きな誤差である。
WR horizontal deflection for OPL with total BUR force 17.64MN.
そこで,分割BUR荷重分布を調整して,OPLの分割BUR位置零点調整時のWR水平たわみを小さくすることを考える。Fig.2に見たように入側・出側BUR均等荷重とした場合に大きなWR水平たわみが発生するのは,入側分割BUR荷重980 kN,出側分割BUR荷重882 kNとなっており,WR胴部中央の任意の領域を切り出して考えた場合,入側の水平方向力が常に大きくなるためと考えられる。そこで,入側9個の分割BUR荷重は980 kNのままで,出側10個の分割BURのうち中央部8個の分割BUR荷重を980 kN,両端に位置する分割BURの荷重をその1/2の490 kNとする荷重分布を考える。この荷重分布であれば入側・出側の荷重合計は平衡条件を満足し,WR中央部の任意の領域を切り出しても水平方向力に大きな不平衡を生じることはないのでWR水平たわみが小さくなると推測される。計算結果をFig.2に併せて示すが,予想通り当該荷重分布によってWR水平たわみは2 mm程度にまで小さくなっている。しかしながら,OPLは製品の形状矯正を目的とし,圧延材の先端部から良好な形状制御を行うことが求められるので,零調時のWR水平たわみはさらに小さくすることが望まれる。
そこで,WR水平たわみを極小化する分割BUR荷重分布を理論的に求めることを考える。i番目の分割BURの荷重をqiとすると,既に述べてきたようにWRの水平方向の力およびモーメントの平衡条件が成立するのでqiは次式を満足しなければならない。
(1) |
ここで,Tix=cosθiでθiはi番目の分割BURとWRとの共通法線の方向を圧延方向で定義したx軸から反時計回りに見た角度,ziはi番目の分割BUR中心の幅方向位置を示すz座標(原点はミルセンター)である。本論文では重複添字に対する総和規約を採用するが,()付きの添字は総和規約を無視する。また前記した直感的に求めた分割BUR荷重を基準分割BUR荷重qiとして,これをベースとしてWRたわみを極小化する分割BUR荷重を求めることを考える場合,鉛直方向の力およびモーメントは変化しないようにすべきであり,求めるべき分割BUR荷重qiはTiy=sinθiとして次式を満足しなければならない。
(2) |
その上でWRの水平たわみ極小条件を導入する。分割BUR荷重qiによる上WRの水平たわみxiWTは,梁曲げ理論から与えられるWRの変形マトリクス6,7)をKijWTとするとき次式で与えられる。
(3) |
WRたわみ評価の基準としてNo.1分割BURのx方向位置とNo.N分割BUR(N=19)のx方向位置を結ぶ直線を採用し,この基準線からのWR水平たわみの相対値,すなわち次式の絶対値を最小化することを考える。
(4) |
ここで,KijH=KijWT Tx(j),ai=(zN−zi)/(zN−z1),bi=(zi−z1)/(zN−z1)である。
式(1),(2)で与えられる拘束条件のもと,式(4)で与えられるWRたわみの相対値と,基準分割BUR荷重との差異を極小化することは,次の関数Fの停留問題となる。
(5) |
ここで,KijHqjは式(4),Timqi=Qm(m=1, 2, 3, 4)は式(1),(2)の,それぞれ簡略表現であり,式(5)の右辺第2項のwiは基準分割BUR荷重にどれほど忠実な分割BUR荷重分布とするかを調節する重み係数である。またλm(m=1, 2, 3, 4)は,式(1),(2)の拘束条件を導入するためのLagrangeの未定乗数である。式(5)の関数Fのqiおよびλmに関する停留条件から得られる連立一次方程式を解くことで,基準分割BUR荷重をベースとしつつもWR水平たわみを抑制できる分割BUR荷重分布が求められる。
以上述べた手法を用い,前記した中央部均等荷重分布を基準分割BUR荷重分布とし,この基準値に対する重み係数をwi=1.0(i=2,…,18),wi=w19=0.03としてWR水平たわみを極小化する分割BUR荷重を求めた。Fig.2に結果として得られたWR水平たわみ,Fig.3には分割BUR荷重分布を示す。Fig.3に見られるようにWR水平たわみを極小化する分割BUR荷重分布は基準とした中央部均等分布より不規則な分布形態を示しているが,Fig.2に見られるWR水平たわみは大幅に小さくなっており,最大でも約0.13 mmに抑えることができている。0.13 mmの水平たわみはロールギャップ誤差に換算すると約0.03 μmとなり,形状制御の観点からも無視できるレベルである。
Optimized BUR forces for zero adjustment procedure.
次にこの荷重分布を分割BUR位置零点調整時の目標分割BUR荷重qi0として,これをOPLで実現する作業方法について考える。
まず全ての分割BUR位置を機械的中立位置に設定し,上下WRキスロール状態で予め設定した全体荷重(BUR荷重の合計値で上記の例では17.64 MN)までWS・DS一対の主圧下装置を用いて締め込み,分割BUR荷重の現在値qi(i=1,…,19)を得る。なお主圧下装置とはFig.1に示すように上BURキャリッジを支える上フレーム全体の位置を制御する油圧圧下装置である。次に分割BURの個別圧下位置を調整して零調荷重分布qi0を実現するのであるが,特定の分割BURの圧下位置を操作してもWRたわみ変化および分割BURを支持しているキャリッジ・フレームの変形を通じて他の分割BURの荷重も変化するので,19個の分割BURの圧下位置を1個ずつ手動で調整して正確に目標荷重分布qi0を実現するのは著しく効率の悪い作業となる。そこで,ここではOPLのロール変形等を考慮して全ての分割BUR位置を一気に操作して目標荷重分布を実現するアルゴリズムを開発した。なお以下のOPL変形のモデル化は後述する形状制御ロジックと共通する部分が多いのでやや詳しく述べておく。
上分割BURの個別圧下位置がui,上分割BUR荷重がqiのときの上分割BURのWR~BUR共通法線方向の変位を反映した上分割BUR位置uiBTは次式で表現される3)。
(6) |
ここで,KijBTは上分割BURの変形マトリクス,Ui0は零調条件(ui=0,qi=qi0)時の分割BURの絶対位置を表している。なおKijBTおよびUi0の同定方法については後述する。WR~BUR共通法線方向の上WRたわみuiWTは式(3)で表される水平方向たわみxiWTと鉛直方向たわみyiWTを合成して次式で与えられる。
(7) |
ここでWRの鉛直方向たわみyiWTは上下WR間に作用する荷重分布をpiとするとき次式で計算される。
(8) |
ここでcy,dyは鉛直方向の剛体変位を表すパラメータである。上下WR間に作用する荷重分布は下ロール系と上ロール系との適合条件によって決定されるが,下ロール系から上WRまでを等価2Hiミル6)表現して当該ロール変形マトリクスをKijWと表現すると式(8)は次式のように表現することができる。
(9) |
なお式(9)を得る過程については次節において説明を補足する。
上分割BURと上WRとの変位の適合条件は次式で与えられる。
(10) |
ここで,KijfTはロール偏平変形マトリクス8),CiWTは上WRプロフィルを表す。
以上の方程式系より,分割BUR個別圧下位置変化Δuiを与えたときの分割BUR荷重変化Δqiを次のようにして求める。
まず式(6)の分割BURの変位計算式よりΔuiおよびΔqiの変化量を前提とした分割BUR位置変化ΔuiBTは次式で計算される。
(11) |
式(7)に式(3)および式(9)を代入し相対変化のみ抽出するとWRのたわみ変化量ΔuiWTは次式で計算される。
(12) |
また式(10)の上WR~BUR変位適合条件の相対値表現は次式のように表現される。
(13) |
式(13)に式(11),(12)を代入すると,次のΔuiとΔqiとの関係式を得る。
(14) |
したがって,分割BUR荷重の現在値qiから目標零調荷重qi0を実現するための分割BUR変位Δuiは,式(14)にΔqi=qi0−qiを代入することで求められる。このようにして求められたΔuiを出力すると,式(14)の()内のマトリクスすなわち式(14)右辺のΔqiの係数マトリクスが正確であれば目標零調荷重qi0が1回の分割BUR位置修正で実現されることになるが,現実的には()内のマトリクスにも誤差がありミル変形特性にも若干の非線形性があるので1回の修正でqi0が正確に実現される可能性は低い。しかしながら,Δqiの係数マトリクスに多少誤差があっても式(14)で計算されるΔuiを出力することで分割BUR荷重は着実にqi0に近づいて行くので,これを数回繰り返すことで目標零調荷重qi0が実現できる。
なお分割BUR位置零調は後述するミル変形特性同定を実施する前,例えば,圧延機を新しく設置した直後にも実施しなければならず,その場合は式(14)中のKijBTは未知である。このような場合でも,式(14)におけるΔqiの係数マトリクスの要因の中ではWR1本のみのたわみ変形特性を表すTx(i)KijWT Tx(j)が最も大きな要因であり,これはWR寸法だけで計算できる。そして残りの項は,下ロール系に上WRを合わせた等価2Hiたわみ特性,上分割BUR変形特性,ロール間偏平変形特性を表すマトリクスであり,何れもWR1本のたわみ剛性に比べればはるかに剛性の高いものばかりであるので式(14)中のΔqiの係数マトリクス全体に占める割合は小さい。したがって,これらについては,例えば全体圧下で締め込んだ時の剛性から対角項のみを近似的に求めて代入することでもΔqiの係数マトリクスとしてはかなり良い近似値が得られる。実際,このような係数マトリクスの近似値を用いても実績としては5回程度のΔuiの修正値出力で目標零調荷重qi0がほぼ正確に実現でき,WR水平たわみは0.1 mm程度に抑えることができている。OPLの場合,分割BUR位置制御の制御周期は30 msであるので,5回の修正は150 msで完了する。すなわち以上のような手法を用いることにより,手動調整では1時間かかっても実現できないような高い精度の目標零調荷重設定が極めて短時間で実現できている。
さて以上のようにして,キスロール締め込み状態で目標零調荷重を実現した後,分割BUR個別圧下位置uiを零リセットし,分割BUR荷重設定の僅かな誤差も解消するため零調荷重qi0を分割BUR荷重qiの現在値で更新する。その結果,式(6)よりuiBT=−Ui0となり,式(10)よりUi0の値を計算することができ,分割BUR位置の零点調整手続きが完了する。
3・2 上分割BUR変形特性の同定手法ここでは式(6)で定義される上分割BUR変形マトリクスKijBTの同定方法について考える。これは通常の圧延機のミル剛性に相当するものであり,個別ロードセルと個別圧下位置制御機構を有する分割BUR構成によってマトリクス表現されたミル変形特性と解釈することができる。この変形マトリクスは,通常のミル剛性の場合と同様に,分割BUR変形はもちろんのこと,軸受,ロードセル,キャリッジ,フレーム,ハウジング等の荷重を受ける部材の変形の総体として決まるものであり,個々の部材の個性を反映しているため,設計データから理論的かつ高精度に求めることは不可能であり,基本的にキスロール締め込みテストを通じて同定すべきものである。知能圧延機プロトタイプミルの場合,キスロール締め込み状態で各分割BUR圧下位置を個別に操作して分割BUR位置と分割BUR荷重を測定し,下BURと上下WRを等価2Hiミル化することで,上WRと接している上分割BURの負荷状態の絶対位置を求めて変形マトリクスKijBTを同定している3)。このようにプロトタイプミルの場合は,下BURが両端支持梁でモデル化できる一体ロールであったため,下BURを基準として上分割BURの変形特性を同定することができたが,OPLの場合は,下BUR系も上BUR系と同様に分割ロール形式を採用しており,その変形特性が不明であるため,これを基準として上分割BURの変形マトリクスを同定することは不可能である。
そこで次のように考えた。下分割BURの変形特性は未知であるが,上分割BUR変形特性同定のためには上WRのたわみが計算できればよい。上WRの水平方向たわみは式(3),鉛直方向たわみは式(8)で計算できるが,式(8)右辺における上下WR間荷重分布piが未知である。piの値は次式で与えられる下WRとの適合条件から決められる。
(15) |
ここでKijfは上下WR間ロール偏平変形マトリクス,CiWBは下WRプロフィル,yiWBは下WRたわみであり,下WR~下分割BUR間に作用する荷重分布をriとするとき次式で計算される。
(16) |
下WRは下分割BURに接しているので,本来,式(16)においては下分割BURの変形に対応する剛体変位成分が含まれているが,ここでは下分割BUR変形起因の剛体変位成分も上分割BUR変形特性に含めると約束することで式(16)において剛体変位成分を省略することにする。この約束は上分割BURのみで形状制御のみならず板厚制御も実施するOPL制御形態を考慮すると,むしろ必然であることが理解される。
ここで,式(16)においてriが既知であれば式(16)は通常の4HiミルのBURのたわみ計算式と全く同じ形になっていることがわかる。そこで,上分割BUR変形特性同定時の特別措置として,上分割BURと同様の個別ロードセルを有する分割BURを下分割BURとして組み込み,キスロール締め込みテストを実施することにすればriを実測することができる。この作業形態を前提とすれば,式(8),式(16)のたわみ計算式と式(15)の適合条件式とからpiを消去し,式(9)で表される等価2Hiミルの計算式を導くことができ,プロトタイプミルと同様の上分割BUR変形特性同定手法を採用することが可能となる。
3・3 形状制御システム 3・3・1 OPL形状制御の基本アルゴリズムOPL形状制御システムの主要アルゴリズムをFig.4に示す。まず上分割BURの個別圧下位置uiおよび荷重の測定値qiから予め同定しておいた分割BUR変形特性を用いて分割BUR変位量を演算し分割BURの絶対位置uiBTを式(6)によって算出する。次に式(10)で表されるWRと分割BURとの適合条件より上WRたわみuiWTを計算する。そして上WRたわみ計算値uiWTと分割BUR荷重測定値qiとから圧延荷重分布の現在値piを演算する。具体的には,式(7)に式(3)および式(8)を代入すると,piおよびcy,dyに関する連立方程式が得られる。これを次式で表される上WRの鉛直方向の力およびモーメントの平衡条件式を合わせて解くことで圧延荷重分布piが求められる。
(17) |
(18) |
Flatness control algorithm for OPL.
ここで,FWy,FDyはそれぞれ作業側(WS)と駆動側(DS)の鉛直方向WRベンディング力でインクリース側を正と定義,aはWRの支点間距離,Iiは成分がすべて1のベクトルである。
次に目標とする圧延荷重分布piGを実現するための分割BUR荷重分布目標値qiGの計算方法について詳述する。圧延荷重分布目標値piGは幅方向均一分布が基本であるが,後述するように被矯正材の温度分布による熱ひずみ補償や変形抵抗分布を考慮することで幅方向分布を持った値となる。分割BUR荷重分布目標値qiGは,piGと,これに対応する上WR鉛直たわみ目標値yiGを実現するように決める。すなわち次式の上WR鉛直たわみ計算式が基本方程式となる。
(19) |
上式は,式(8)の上WRたわみ計算式にyiWT=yiG,pj=pjG,qj=qjGを代入して,未知数を含む項を左辺に移したものである。ここで,上WR鉛直たわみ目標値yiGは,圧延荷重分布現在値piの演算過程で計算された上WR鉛直たわみをベースとして,圧延荷重の現在値piから目標値piGへの変化がロール変形におよぼす影響を考慮して決める。分割BUR荷重分布目標値qiGは,式(19)に加えて以下に示す上WRの水平方向および鉛直方向の力およびモーメントの平衡条件式を満足しなければならない。
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(23) |
ここで,FWx,FDxは,それぞれWSとDSの水平方向WRベンディング力で圧延方向の力を正と定義している。式(19)~(23)の方程式系をqiGおよびcy,dyについて解くことにより分割BUR荷重分布目標値qiGを求めることができる。
qiGが得られた後,分割BUR変形特性を用いて分割BUR変位量を計算し,上WR鉛直たわみ目標値yiGを実現する目標分割BUR位置uiGそして分割BUR位置制御量Δui=uiG−uiを演算する。この手続きは,零調作業において式(14)を用いて所望のΔqiを実現するための分割BUR位置制御量Δuiを計算する手続きに類似である。そして最後に制御ゲインを考慮して分割BUR位置制御を実施して形状制御の1ループが完了し,以下この繰り返しとなる。
3・3・2 被矯正材のセンタリング精度の問題と解決策OPLでは冷却床から払い出された圧延板のセンタリング精度が不十分でオフセンター量が先端から尾端にかけて100~200 mm程度変化する斜行状態で板が進入してくることがある。板長さは最大63 mにもなり,これをセンタリングするためのサイドガイドを新たに設置するのはコスト的に現実的でないと判断されたので,ここでは斜行状態のまま矯正するシステムを構築した。すなわちOPL入側において被矯正材の板幅とオフセンター量を常時測定し,これをトラッキングしてOPL圧延位置の板幅およびオフセンター量を推定しつつ形状制御を実施する。具体的には第3・3・1項で説明した形状制御アルゴリズムの中で,板幅およびオフセンター量の実測値をOPLロールバイト位置にトラッキングした後,圧延荷重分布の現在値piおよび目標値piGの計算の際に考慮すればよい。
3・3・3 被矯正材の温度分布補償機能OPLは冷却床出側に設置されており,長時間休止後の立ち上げ時を除いて,被矯正材は室温よりは高い温度でOPLに到達する。しかも冷却床の表面は,様々なサイズと温度の圧延板から熱を受けてきた履歴を有し,不均一な温度分布となっていることが多いため,これに接触してきた冷却床出側の被矯正材は一般に不均一な温度分布となっている。したがってOPLの形状制御システムでは,このような温度分布を有する被矯正材の形状矯正対策が必要となる。
特に幅方向に温度偏差を有する被矯正材を矯正する場合,OPLで完全に形状フラットに矯正したとすると,その後,被矯正材が常温まで冷却されると温度分布が均一になるので,OPL矯正時点の温度分布による熱ひずみが解放される。その結果,矯正時の不均一温度分布が残留応力に変化して内在するか,または座屈して形状不良として顕在化することになる。このような事態を避けるため,OPL入側において被矯正材の温度分布を測定し,その温度分布に対応した熱ひずみをOPLによって予め補償する形状制御システムを開発した。
被矯正材の線膨張係数をα,被矯正材の板幅をb,被矯正材の存在する範囲を各分割BURに対応する幅方向要素に分割した要素幅をΔzi(i=MD,…, MW),被矯正材の温度分布を各要素幅で平均化した温度をTi,とするとき,温度TRを基準とする被矯正材の熱ひずみの分布Δεiは次式で与えられる。
(24) |
被矯正材が室温にまで冷却され,外力零の状態で解放されるひずみは,幅方向の積分平均が零でなければならないので,式(24)においてTRをTiの積分平均,すなわち
(25) |
としたものになる。したがって式(24)のひずみ(以下では平均値からの差分という意味で伸びひずみ差と呼称する)が解放されて形状フラットとなるためにはOPL矯正時に式(24)と同じ伸びひずみ差を与えておけばよいことがわかる。
式(19)で表現したようにOPLでは所望の圧延荷重分piGを実現することを通じて形状制御を行う。したがって上記のように形状フラットではなく式(24)で表現される伸びひずみ差Δεiを与えることを目的とする場合,その伸びひずみ差に対応する圧延荷重分布を目標値として与えてやればよい。
二次元圧延理論によると,圧延張力の影響を考慮した圧延荷重は圧下率の小さい条件では次式のような簡易式で計算される9)。
(26) |
ここで,QPは圧下力関数,ℓdは投影接触弧長,kiは平均変形抵抗,σfiは出側張力,σbiは入側張力,δは張力影響の配分を決めるパラメータである。また伸びひずみ差は張力のフィードバック効果を通じて次式で張力分布と対応づけられる6)。
(27) |
ここで,Eは圧延材のヤング率であり,平均張力は零としている。式(27)を式(26)に代入し,式(24)を考慮すると次式を得る。
(28) |
式(28)で与えられるpiを式(19)で利用する圧延荷重分布目標値piGとして採用することでOPL矯正以降の冷却で発生する熱ひずみを予め補償することが可能となる。
さて式(28)で被矯正材の温度分布影響を考えるとき,温度が平均変形抵抗kiに与える影響も考慮するべきである。温間圧延であっても温度が変形抵抗に与える影響があることはOPL自身の圧延荷重実績からも確認することができ,OPLの圧延温度範囲では温度影響はほぼ線形関係で近似できることがわかった。すなわち,室温Trに対応する変形抵抗をkrとするとき,任意の温度Tiに対する変形抵抗kiは影響係数をβとして次式で表される。
(29) |
したがって,被矯正材の平均温度TRに対する変形抵抗kRは,
(30) |
で計算され,TRを基準とする温度分布ΔTi=Ti−TRに対応する変形抵抗分布kiは式(29),(30)からkrを消去して次式で計算される。
(31) |
式(31)を式(28)に代入すると次式を得る。
(32) |
ここで,α=α−β/Eであり,これは温度が変形抵抗におよぼす影響も考慮した線膨張係数と見なすことができる。例えば,板厚20 mmで降伏応力350 MPaの厚鋼板の場合,α=1.30×10−5/Kに対して,OPLの圧延荷重実績からβ/E=0.45×10−5/Kであったので,α=0.85×10−5/Kとなる。つまり変形抵抗におよぼす温度の影響が熱ひずみ補償項を緩和させる効果を有することがわかる。
以上のことから,被矯正材の温度分布をOPLの入側で測定し,そのデータを時々刻々OPL位置にトラッキングして圧延中の幅方向温度分布に対して式(32)を用いて目標圧延荷重分布を計算して制御に用いることにより,幅方向の温度分布,そしてその長手方向変化の影響をも補償することが可能となる。
以上説明してきたOPLの設定・制御に関する開発技術を実装した。圧延中は,OPL入側において常時,被矯正材の温度分布そして板幅およびオフセンター量を測定し,ロールバイト位置までトラッキングして制御入力とする。OPLでは,常時,分割BUR位置および分割BUR荷重を測定してFig.4に示した形状制御アルゴリズムにしたがって制御周期30 msで分割BUR位置制御を実行する。
Fig.5には板厚12 mm,板幅5200 mmの厚鋼板を矯正した際の分割BUR荷重分布と圧延荷重分布推定値の実績値をそれぞれ被矯正材の先端から0.5 m,3.0 m,5.4 m,7.6 m,10.0 m,12.4 mの位置で示している。OPLによる圧延矯正は被矯正材の板厚分布に沿ってWRを曲げ,幅方向に原則均等圧下を与えることにより成立するので,分割BUR荷重分布は,WR各位置に必要とされる曲げモーメントを与えるため,Fig.5(a)に示すように一般に不均一な分布となる。一方,圧延荷重分布はFig.5(b)に示すように幅方向にほぼ均一に制御される。このような結果から,例えば,測定値である分割BUR荷重を直接観察しながらオペレータが手動で分割BUR位置を調整するような作業形態をとることは不可能であり,これまで示したような自動制御理論およびロジックがOPLには不可欠であることが理解される。
A result of control of roll force distribution. (t12 mm × w5200 mm)
ところでFig.5(b)に示す0.5 m位置の圧延荷重分布において圧延ライン駆動側(DS)のNo.1分割BURに対応する圧延荷重が零になっているが,これは,第3・3・2項で述べたように,冷却床で払い出された被矯正材が斜行してOPLに進入してきており,先端部ではNo.1分割BURの下になかったものが,3.0 mまでにはNo.1分割BURの下に板端部が入ってきていることを表している。このように被矯正材が斜行して板端部が分割BURの境界を横切るような状況となっても形状制御は正常に動作していることが確認できる。
Fig.6には当該材のオフセンター量の推移と,対応する鉛直方向WRベンディング力と水平方向WRベンディング力の推移を示している。オフセンター量の定義は圧延ライン作業側(WS)を正としており,Fig.6より先端部はWS,尾端部はDSへと約100 mm斜行していることがわかる。またこれに対応して特に鉛直ベンディング力はWSとDSとで逆方向の変化を示しており,分割BURによる形状制御を正常に補完していることがわかる。このようにすべての分割BURの位置に被矯正材が存在する状況となる広幅材の場合はWRベンダーを形状制御に活用することになる。この場合,式(19)の条件式が19個存在し式(20)~(23)の条件式を合わせて23個の条件式が存在するので,分割BUR荷重qiGの他,鉛直方向および水平方向WRベンディング力FWx,FDx,FWy,FDyを未知数として式(19)~(23)の方程式系を解くことができてWRベンダーの制御出力も併せて求めることができる。
Plate off-center and corresponding WR bender behavior. (t12 mm × w5200 mm)
第3・3・3項で示した被矯正材の温度分布補償機能の効果を調査するため,OPL矯正後,常温に冷却された板厚21.5 mm,板幅2550 mm,降伏応力350 MPaの厚鋼板に対して,Fig.7に示すように尾端部近傍を長さ10 mに切断した後,板端部300 mmを除いて,①,③が300 mm幅,②,④が150 mm幅の4条の条切りサンプルを切り出し,それぞれのキャンバーを測定した。ここで300 mm幅と150 mm幅の条を交互に切り出しているのは,OPLの分割BURが295 mmピッチで配備されているため,分割BURピッチに依存しないデータを得る意図に基づくものである。また今回の条切りは幅方向に並んだ複数のガストーチで4条のサンプルを一気に切断する方式であり,切断時に不均一に熱ひずみが入る可能性は極めて小さいことを予め確認している。
Sampling description for residual stress measurement.
条切りキャンバー測定結果をFig.8に示すが,温度分布補償機能を使用しなかったFig.8(a)では10 m長さあたり10 mm前後のキャンバーが測定されたが,温度分布補償機能を使用して形状制御したFig.8(b)では最大で4 mmのキャンバーとなっており,温度分布補償機能が効果を発揮していると判断される。条切りキャンバーの発生原因は切断前の大板状態で存在する長手方向残留応力の幅方向分布と考えられ,条切りキャンバーが大幅に小さくなっていることは,矯正後の大板状態で残留応力が低減していることを意味している。
Cambers measured after slitting samples out.
またFig.9にはOPLによる平坦度改善効果の一例を示している。Fig.9は長手方向に板厚変化のあるLP(Longitudinally Profiled)鋼板をOPL出側に位置する形状計で測定した結果を鳥瞰図で示している。上図がOPL矯正を実施しなかったLP鋼板の形状を示しているが,LP鋼板は板厚変化に起因して冷却床出側の形状が良くないものが多く,また板厚差が存在するため,これをコールドレベラーで矯正することも容易ではない。一方,OPLでは矯正がWRの直下の長手方向1点で実施されるため,ローラレベラーの場合のように加工度が板厚変化によって変動する問題もなく,LP鋼板の板厚変化に沿って形状矯正することができる。その結果,Fig.9下図に示すようにLP鋼板の場合も良好な形状矯正を実施することができている。
Leveling performance for Longitudinally Profiled plate.
圧延機自身による形状検出・制御機能を有する新型式知能圧延機を実機厚板矯正機(OPL)として実用化するための操業ソフトウェアおよび形状制御技術を開発し実装した結果,冷却床から斜行状態で進入してくる厚鋼板,温度分布を有する厚鋼板,さらには長手方向板厚変化のあるLP鋼板をも良好に形状矯正可能な技術を実用化することができた。