Tetsu-to-Hagane
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Effects on Surface Conditions on Spray Cooling Characteristics
Hiroyuki FukudaNaoki NakataHideo KijimaTakashi KurokiAkio FujibayashiYasuyuki TakataSumitomo Hidaka
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2014 Volume 100 Issue 12 Pages 1514-1522

Details
Synopsis:

The influence of surface conditions such as scale thickness and surface roughness on water spray cooling and air jet cooling characteristics was investigated experimentally. SUS304 stainless steel with the thickness of 20 mm was used as the cooled sample. An artificial scale layer was formed on the sample surface by thermal-spraying using Al2O3 powder. The thickness of the Al2O3 layer was varied from 50 µm to 210 µm. A sample without an artificial scale layer was also studied; in this case, the surface was roughened by shot blasting up to 20 µmRa.

As a result, the artificial scale layer showed a thermal resistance function in both water spray cooling and air jet cooling. In water spray cooling, the characteristics of which depend on surface temperature, the cooling rate during film boiling and the apparent quench point temperature at the interface increased with Al2O3 scale thickness. Surface roughness enhanced the cooling rate during film boiling and resulted in a higher quench point temperature in spray cooling. In air jet cooling, heat flux increases with surface roughness, but this tendency can be seen only with larger flow rates. Surface roughness has a much stronger influence on heat flux in water spray cooling, even though the average heat flux is not as large. In this research, the heat flux during impingement of water droplets was estimated to be much higher than that in air jet cooling. This is thought to explain the difference in the influence of surface roughness on cooling characteristics with the two cooling methods.

1. 緒言

近年の自動車の燃費向上および衝突安全性に対する規制強化から,各自動車メーカーは,車体に使用する鋼板への高張力鋼板の適用拡大を進めている。また,エネルギー資源需要の増大から,パイプラインにおいては,高圧操業化,高深海化に伴う厚板の高強度化が進んでいる。海外鉄鋼メーカーとの競争が激化している中で,国内鉄鋼メーカーは価格競争力を維持するためにTMCP(Thermo mechanical control process)技術を開発,適用している。所望の材質を得るためには,熱延のランアウト冷却や厚板の加速冷却などの製造プロセスにおいて,水冷による温度制御が重要となる。冷却方法としては,熱延ランアウトの上面に使用されるラミナー冷却や下面のスプレー冷却などがある。

熱延後の鋼板を水冷して造り込むミクロ組織は,多くの場合,フェライト−パーライト組織である。近年は,ベイナイト組織や複合的な組織を持つ高張力鋼板を造り込む技術の進歩が著しい。例えばベイナイト組織からなる熱延鋼板では,ランアウトテーブルで450~500°C程度まで水冷して造り込むが,膜沸騰の途中で遷移沸騰に移行する場合がある。

膜沸騰から遷移沸騰に移行すると,鋼材表面から流出する熱量が加速度的に増大するため,冷却水量や水冷時間を調節して鋼材を所定の温度まで高精度で均一に冷却するためには,膜沸騰,遷移沸騰,核沸騰それぞれの冷却能力,すなわち水冷熱伝達率や,膜沸騰から遷移沸騰に移行する温度(以下,クエンチ点温度と呼ぶ)を正確に把握することが重要となる。

こうした背景から,鋼材の水冷において,膜沸騰から遷移沸騰に移行する現象についての研究は,これまで数多くなされてきた1,2,3,4,5,6,7)。Mitsutsukaは,炭素鋼を用いたスプレー冷却実験を行い,冷却能力の指標である水冷熱伝達率を流量密度と鋼板表面温度で整理した式で表せることを明らかにしたが1),スケール厚さや表面粗さの影響は定量的に示してはいなかった。

その後,スケール厚さの影響を調査するために,Tamari and Yoshidaらは炭素鋼の加熱時間を,またKatoらは炭素鋼のNi含有率を変えてスケール厚さを変化させ,スプレー冷却実験を行った。いずれの実験でも,スケールが厚いほどクエンチ点温度が高くなるという結果になった6,7)。しかし,これらの実験では,スケール厚さが異なるとそれにともなって表面粗さも変化してしまった可能性があり,スケール厚さや表面粗さなどの影響が複合的に現れた結果を示したものと考えられる。

一方,表面粗さを変化させた実験としては,大久保らが表面に人工的に凹凸をつけたSUS303鋼のミスト冷却実験を行い,凹凸が多いほど膜沸騰時の冷却速度が低下し,クエンチ点温度が高くなるという結果を示した2)

本研究では,スケール厚さと表面粗さをそれぞれ単独に変化するパラメータとした冷却実験を行い,膜沸騰,遷移沸騰および核沸騰での熱伝達率やクエンチ点温度などの冷却特性に及ぼす影響を個別に評価した。

SUS304鋼を母材として,金属酸化物を表面に溶射して厚さの異なる擬似的なスケール層を形成させた試料と表面にショットを施して粗さを変化させた試料を用いて,スプレー冷却を行った。

また,水の沸騰現象を伴わない衝風冷却を行い,スプレー冷却での結果と比較することで,スケール厚さと表面粗さがスプレー冷却特性に及ぼすメカニズムについて検討を行った。その中で,スプレー液滴が鋼板に衝突する際の冷却能力を試算した。

2. 実験方法および実験条件

2・1 冷却実験試料

Table 1に,実験に使用した試料の一覧を示す。母材は,実験時の変態やスケール生成・剥離による不安定要素を排除するためにSUS304鋼とした。寸法は板厚20 mm,板幅140 mm,長さ130 mmとした。

Table 1. Surface condition of specimen.
Coating layerThickness (μm)Roughness (μmRa)
Al2O3501.6
1001.5
1701.3
2101.4
Non-coating3.0
10.2
20.1

Base material: SUS304 20t×140W×130L mm

スケール厚さの影響を調査するため,SUS304鋼の母材表面にAl2O3の粉末を溶射して,厚さの異なる擬似スケールが付着した試料を作製した。擬似スケール厚さは,溶射時間を変更することで50~210 µmの範囲で変化させた。溶射後,表面粗さが1.5 µmRa程度にそろうように研磨を施した。

これとは別に,表面粗さの影響を調査するため,母材表面に溶射ではなくショットブラスト加工を施し,平均粗さ3~20 µmRaの試料を作製した。また,キーエンス製レーザーマイクロスコープ(VK-X105,対物レンズ倍率50倍)を用いて,試料中央の幅2.4 mmで2270スキャン,長さ1.7 mmで1640スキャンして高さ情報を取り込み,各測定点で形成される斜面の面積の総和として,凹凸も考慮した実質的な表面積を求めた。Table 2に,表面積比率(実質的な表面積を領域面積で除した値)を示す。表面積比率は,表面が粗いほど大きく,1.96~2.81の範囲で変化した。

Table 2. Surface area ratio observed by a laser microscope.
Roughness (μmRa)3.010.220.1
Surface area ratio1.961.982.81

どちらの試料も,加熱温度や冷却時の温度変化を測定するために,冷却面中央の表層から2 mmの深さにφ0.5のK熱電対を埋め込んだ。

2・2 スプレー冷却実験

Fig.1にスプレー冷却実験装置を,Table 3に実験条件を示す。水温を30°Cに保った貯水槽から冷却水をポンプで供給し,試料上方に取り付けた広がり角50°で噴射領域がほぼ正方形となるスプレーノズルから,所定の流量密度で冷却面全面に噴射した。冷却水温はスプレーノズル出口で30°Cであったが,試料表面に衝突する時点では28~29°Cに低下していた。スプレー液滴の大きさおよび噴射速度を同じ条件とするため,ノズル流量は0.0004 m3/sで一定とし,噴射距離を200~530 mmの範囲で変化させ,流量密度を0.00167~0.0117 m3/m2sに調整した。流量密度は,ノズル流量を広がり角度50°で計算される正方形の噴射面積で除した値として算出した。なお,このノズルの流量密度分布は,噴射距離265 mmの条件で,20 mm角の正方形の受水口をもつ桝を幅方向に並べて測定し,幅175 mm,長さ175 mmの領域(広がり角37°に相当)で均一であることを確認している。位相ドップラー法によりノズルから200 mm離れた位置で測定したスプレー冷却水のザウター平均粒子径は330 µm,平均流速は10 m/sであった。

Fig. 1.

 Experimental apparatus of spray cooling.

Table 3. Experimental conditions in spray cooling tests.
Reheating temperature620ºC
Cooling start temperature560ºC
Water temperature30ºC
Water flow rate0.00167, 0.00667, 0.0117 m3/m2 s
Injection distance530, 265, 200 mm
Mean droplet diameter330 μm
Mean droplet velocity10 m/s

電気炉内をN2でパージしながら試料を620°Cまで加熱した後に,炉から取り出して架台に固定した。この後,シャッターを閉じた状態でスプレーノズルから所定の流量密度で冷却水を噴射し,熱電対が示す試料温度が560°Cになった時点でシャッターを開放し,ほぼ常温になるまで冷却した。

2・3 衝風冷却実験

Fig.2に衝風冷却実験装置を示す。コンプレッサにて加圧したエアをヘッダに供給し,幅150 mm,長さ250 mmのヘッダ噴射面に幅方向20 mm,長手方向17 mmピッチ,直径φ2.5の噴射孔から20°Cのエアを放出した。エアの噴射距離は15 mmとし,流量密度はバルブの開度を調整することで1.67~6.17 Nm3/m2sの範囲で変化させた。噴射孔出口でのエアの平均噴射速度は106~339 m/sである。実験中は,冷却の強弱が平滑化されるようにヘッダの噴射範囲内で試料を長手方向にオシレーションした。

Fig. 2.

 Experimental apparatus of air jet cooling.

Table 4に実験条件を示す。加熱は2・2節で示した条件と同じとした。試料は,炉から取り出して搬送台車に固定した後,速度0.05 m/s,ストローク120 mm,周期4.8秒でヘッダの噴射範囲内をオシレーションさせ,熱電対温度が560°Cになった時点でバルブを開放してエアを噴射し,ほぼ常温になるまで冷却した。

Table 4. Experimental conditions in air jet cooing tests.
Cooling area150 mm×250 mm
Injector holeφ 2.5 20×17 mm pitch
Reheating temperature620ºC
Cooling start temperature560ºC
Air temperature20ºC
Air flow rate1.67, 2.83, 3.83, 6.17 Nm3/m2 s
Injection distance15 mm
Transferring speed0.05 m/s

2・4 母材表面での温度履歴の解析

表面性状が冷却特性に及ぼす影響を定量的に把握するため,熱電対で測定したデータをもとに温度解析を行い,母材表面での温度履歴を求めた。

試料の搬送方向および幅方向ではある程度均一な冷却が行われていると考え,板厚方向の一次元の伝熱問題として解析した。母材内部の温度Tは,板厚中心からの距離をY(m)として,熱伝導方程式(1)で表せる。   

Tt=λcρ2TY2(1)

ここで,tは時間(s),λは熱伝導率(W/m K),cは比熱(J/kg K),ρは密度(kg/m3)である。熱伝導率,比熱および密度には,母材であるSUS304鋼について報告されている値8)を用いた。

板厚h(mm)の母材表裏面(Y=±h/2)での熱流束q(W/m2)は(2)式で表せる。   

q=λTY(2)

放冷,水冷および衝風冷却でのqは(3)~(5)式で与えた。   

q=qrad+q1(3)
  
qrad=σε(Ts4Ta4)(4)
  
q1=α(TsTa)(5)

ここで,qradは輻射熱流束(W/m2),q1は放冷,水冷および衝風冷却の熱流束(W/m2),σはステファン・ボルツマン定数(5.67×10−8 W/m2K4),εは輻射率,αは放冷,水冷および衝風冷却での熱伝達係数(W/m2K),Tsは母材表面温度(K),Taは冷却媒体(エアまたは水)の温度(K)である。

上記のモデルを用いて,冷却面表層2 mmの温度履歴が熱電対で測定した値と一致するように,門出らの非定常熱伝導逆問題解析法9)を用いた伝熱計算を行った。スケール層が極めて薄く,その熱伝導率も明らかになっていないため,Katoらが行ったのと同じように,スケール層を無視して計算を行い7),冷却面での熱伝達率を求めた。

3. 実験結果

3・1 スプレー冷却実験結果

3・1・1 スケール厚さの影響

Fig.3に,流量密度0.00167 m3/m2sにおけるAl2O3の擬似スケールの厚さを変化させた場合の結果を示す。Fig.3(a)に,解析で求めた母材表面の温度履歴を示す。本図はFukudaら18)のデータを含む。例えば,スケール厚さが50 µmの場合,冷却開始後36 sの間は膜沸騰が発生し,365°Cまでは緩やかな温度降下となった。その後,遷移沸騰へ移行して急激な温度降下となり,130°C程度で再び緩やかな温度降下へと変化した。膜沸騰から遷移沸騰へ移行する温度,すなわち母材表面での見かけのクエンチ点温度はスケールが厚いほど高くなり,その値は365~485°Cの範囲で変化した。Fig.3(b)に,クエンチ点温度の比較を示す。クエンチ点は,スケール厚さに対して線形的に表され,Katoらが行った実験の結果7)と同じ傾向を示した。Fig.3(c)に,膜沸騰初期の530°Cから490°Cまで冷却される間での母材表面の冷却速度の比較を示す。膜沸騰初期の冷却速度は,ほぼ一定か,スケール厚さとともにごくわずかに上昇した。この結果は,Tamari and Yoshidaが行った実験の結果6)と同じ傾向を示した。

Fig. 3.

 Effects of scale thickness on spray cooling characteristics. (Scale type Al2O3, Water flow rate 0.00167 m3/m2s)

3・1・2 表面粗さの影響

Fig.4に,母材表面粗さが冷却特性に及ぼす影響を示す。Fig.4(a)に,クエンチ点温度への影響を示す。本図はFukudaら19)のデータを一部含んでいる。クエンチ点温度は,流量密度が高い方が,また表面粗さ3 µmRaと比較して,10 µmRaおよび20 µmRaに増大すると,高くなった。Fig.4(b)に,膜沸騰時の530°Cから400°Cまで冷却される間での冷却速度の比較を示す。膜沸騰時の冷却速度は,表面粗さが増大するとともに上昇し,その影響は流量密度が高い条件で顕著であった。

Fig. 4.

 Effects of surface roughness on spray cooling characteristics. (Non-coating)

3・2 衝風冷却実験結果

3・2・1 スケール厚さの影響

Fig.5にAl2O3の擬似スケールの厚さが50 µmと210 µmの場合で,母材表面温度の履歴(a)とその熱流束(b)を比較した結果を示す。母材表面温度は,Fig.5(a)に示すように緩やかに降下したが,冷却速度は,スケールが厚い210 µmの条件の方が若干低かった。伝熱解析で求めた熱流束は,Fig.5(b)に示すように,冷却開始後が最も高く,その後は冷却が進むとともに減少した。また,熱流束は母材表面温度が高いほど,ほぼ線形的に増加していたことから,熱伝達率は表面温度によらずほぼ一定であったといえる。

Fig. 5.

 Effect of scale thickness on air jet cooling. (Scale type Al2O3, Air flow rate 3.83 Nm3/m2s)

3・2・2 母材表面粗さの影響

Fig.6(a)に,表面粗さが3 µmRaと20 µmRaの場合で表面温度の履歴を比較した結果を示す。表面温度は,Fig.5(a)と同様に緩やかに降下したが,その冷却速度は,母材表面粗さが3 µmRaのほうが若干低かった。Fig.6(b)に,冷却開始の560°Cから150°Cまでの冷却中,一定であると見なして求めた熱伝達率の比較を示す。熱伝達率は,流量密度が高いほど高くなった。また,流量密度が高い場合にのみ,表面粗さの増大にともなってわずかに高くなったが,Fig.4(b)に示したスプレーの膜沸騰冷却中のような大きな違いは見られなかった。

Fig. 6.

 Effect of surface roughness on air jet cooling. (Non-coating)

4. 考察

4・1 スケール厚さがスプレー冷却特性に及ぼす影響

スケール厚さがスプレー冷却特性に及ぼすメカニズムを衝風冷却特性と比較して考察する。

Fig.3(b)に示したように,母材−スケール界面(以下,単に界面と呼ぶ)での見かけのクエンチ点温度はスケールの厚さによって変化した。Nishio and Serizawaは銅の表面に低熱伝導率材料を表面付加層として接着し,液体窒素プール中で浸漬冷却する非定常実験を行い,付加層が薄い条件では,その厚さの増大に伴って付加層表面でのクエンチ点温度が増大するが,ある厚さ以上でクエンチ点温度が一定の値となることを示した10)。そこで本実験においても,スケール層がある程度厚いため,スケール表面でのクエンチ点温度はスケール厚さに関わらず一定と仮定した。すなわちクエンチ開始時の厚さ方向温度分布の模式図としてFig.7(b)に示すように,スケールが熱抵抗層として作用することで,スケール厚さの増大とともに界面での見かけのクエンチ点温度が上昇したと考えた。このため,スケール表面や界面の温度を各条件で比較することが重要であり,スケールも含めた伝熱計算を新たに行った。Fig.5に示した衝風冷却実験結果をもとに,Al2O3の擬似スケールの熱伝導率を同定した。冷却中の熱伝達率を1100 W/m2Kと仮定し,Al2O3の熱伝導率は温度およびスケール厚さによらず一定とし,スケール厚さ50 µm,210 µmの条件で,冷却面表層2 mmの温度履歴が実験結果と一致するように熱伝導率を合わせ込んだ。その結果,Al2O3の熱伝導率は1.4 W/mKであった。文献値にある焼結材についての値11)の32 W/mKより非常に小さいが,溶射皮膜についての値12)(3 W/mK)にはいくらか近い。これは,Takeuchiが述べたように,溶射皮膜中のAl2O3粒子の結合率が焼結材よりも低いためであり,また同じ溶射皮膜でも溶射条件によって皮膜形成の状況が異なることも考えられる。本実験の溶射皮膜の熱伝導率がTakeuchiらの溶射皮膜の値より低いのは,皮膜中のポーラスの比率が異なるためであると推定される。

Fig. 7.

 Schematic illustration of temperature distribution at quench point.

Al2O3の擬似スケールについて同定した熱伝導率1.4 W/mKを用いて,スプレー冷却におけるスケール厚さが界面での見かけのクエンチ点温度に及ぼす影響を解析した。Fig.8に解析で使用した熱流束の条件を示す。まず,スケール厚さを50 µmとした時の温度測定値をもとに,スケールがないものとして逆問題解析を行った結果(以下,実験結果と呼ぶ)における界面温度と熱流束の関係を太線で表した。熱流束は,膜沸騰の間,微小な変動を繰り返しながら徐々に増大するが,界面温度が365°Cになった時点で急激に上昇し,192°Cの時に最大となった。これをFig.8に示す細線のように,スケール表面と熱流束の関係を折線近似でモデル化し,新たに厚さ50 µmのスケール層も考慮して解析を行った。このとき,界面の温度が,前述の逆問題解析の結果,すなわちFig.3(a)に示す界面温度の履歴と概ね一致するようにした。

Fig. 8.

 Modeling of relationship between surface or interface temperature and heat flux. (Scale type Al2O3, Water flow rate 0.00167 m3/m2s, Scale thickness 50 µm)

Fig.9に,スケール厚さ50 µm,210 µmの条件で界面温度履歴を求めた結果を実験結果と比較して示す。実験結果では,スケール厚さ50 µm,210 µmでのクエンチ点が開始した時の界面温度はそれぞれ365°C,485°Cであった。これに対し,熱流束をモデル化して解析を行った結果では,クエンチ開始時の界面温度はそれぞれ365°C,410°Cとなった。この時のスケール表面温度が同等であると仮定すれば,熱抵抗層として作用するスケール層が厚いほど,クエンチ開始時の界面温度が高くなるという前述の傾向を説明できる。ただし,スケール厚さ210 µmの場合には,実験結果と解析結果の間に大きな差があった。この誤差は,計算の仮定として,スケール厚さ50 µmの条件での平均的な熱流束を用いているためであると考えられる。スプレー冷却は液滴群による断続的な冷却であるから,液滴が衝突する間の局所的な熱流束は,Fig.8で示した値よりもはるかに高い。したがって,クエンチ開始の温度は,そうした微視的な見方で議論する必要がある。

Fig. 9.

 Comparison of thermal histories at interface between simulations and experiments.

また,スケール厚さ210 µmの解析結果での冷却速度は,界面温度が380°Cとなった時点でピークに達して,低下に転じた。その後の冷却曲線は,スケール厚さ50 µmの条件での冷却曲線と交差している。実験では,Fig.3(a)に示したように,スケール厚さ50~210 µmの全ての条件で,界面が130°C以下となった後の冷却曲線が重なっている。実際の現象としては,スケールに空隙が存在し,その一部あるいは途中まで冷却水が侵入して,スケールの熱抵抗層としての作用が小さくなったと考えられる。これはスプレー冷却の途中で見かけ上熱伝導率が大きくなった現象に相当する。Fig.10に示すように,スケールの温度がある値を下回るとその熱伝導率が増大すると仮定して解析した結果は実験結果とほぼ一致する。

Fig. 10.

 Simulated results of temperature histories at the interface considering varying conductivity of scale layer.

4・2 表面粗さがスプレー冷却特性に及ぼす影響

Fig.6(b)に示した通り,衝風冷却において流量密度が高い場合に,表面粗さが大きくなるほど熱伝達率が高くなったメカニズムについて考察する。Fig.11に,冷却中における母材内部および冷却媒体の温度分布の模式図を示す。冷却面と母材断面内の熱通過量K(W)は,冷却面の温度Ts(K)および冷媒温度Ta(K)を用いて以下の式で表せる。   

K=λhA0(TbTs)=αAs(TsTa)(6)

Fig. 11.

 Schematic illustration of thermal conduction and thermal resistances.

ここでA0は母材内部の断面積(m2),Asは母材の表面積(m2),Tbは非冷却面の温度(K),hは母材厚さ(m)であり,Tsを消去すると,式(7)が得られる。   

K=1(hλA0+1αAs)(TbTa)(7)

したがって,系全体の熱抵抗R(K/W)は式(8)となる。   

R=hλA0+1αAs(8)

式(8)右辺の第1項が熱伝導抵抗を,第2項が熱伝達抵抗を表し,両者の比は,式(9)に示すビオ数Biに面積比率を乗じたものとして,式(10)で表せる。   

Bi=αhλ(9)
  
h/(λA0)1/(αAs)=αhλAsA0=BiAsA0(10)

Fig.12に,表面粗さが3 µmRaの場合で衝風冷却を行った時の流量密度とビオ数の関係を示す。流量密度が大きいほど,ビオ数は大きく,熱伝導抵抗が熱伝達抵抗に比べて大きくなる。この熱伝導律速状態では,被冷却材表面温度が冷媒温度に極めて近くなるとともに,表面下の温度勾配が大きく,熱を奪える領域が薄くなり,等温線が表面形状に沿って平行分布になる。この時,表面が粗く実質的な表面積が広いほど大きなフィン効果を持つので,熱を逃がしやすくなり,冷却の効率が上がる。これに対して,ビオ数が小さい場合は,熱伝導律速にはならないので,熱を奪える領域が比較的厚く,表面粗度の大小による冷却効率の違いは小さくなると考えられる。

Fig. 12.

 Relationship between air flow rate and Biot number. (Non-coating, Surface roughness 3 µmRa)

Fig.4および6に示したように,衝風冷却とスプレー冷却とで母材表面粗さの影響が大きく異なった。Fig.13に,スプレー冷却中の膜沸騰と衝風冷却の冷却速度が同程度の条件について温度履歴を比較した結果を示す。衝風冷却では,表面粗さが3 µmRaと20 µmRaの場合で温度履歴が大きく異ならないのに対し,スプレー冷却の膜沸騰では,表面粗さによって温度履歴が大きく異なり,20 µmRaの膜沸騰時の冷却速度は,3 µmRaの時の3倍程度となった。Fig.6に示したように,衝風冷却では流量密度が増大するほど,表面粗さの影響を受けた。スプレー冷却では,液滴が衝突し接触する間の局所的な熱伝達率はFig.6に示した値よりもさらに大きいために,母材表面粗さの影響がより大きく現れたと考えられる。

Fig. 13.

 Effect of surface roughness on thermal histories. (Spray cooling: 0.00667 m3/m2s, Air jet cooling: 6.17 Nm3/m2s)

4・3 スプレー液滴が鋼板に接触する際の局所的な熱流束の推定

4・1節および4・2節で論じたように,スプレー冷却における膜沸騰の状態では局所的な冷却能力が非常に高いために,スケール厚さと表面粗さの影響が計算や衝風冷却より大きくなったと考えられる。そこで,スプレー液滴が鋼板に衝突し接触する際の熱流束を試算した。

高温表面へ衝突する液滴の挙動についての研究は,これまで数多くなされてきた13,14,15,16,17)。Hattaらは加熱したアロイ625の表面へ液滴を衝突させ,その挙動を調査し,ウェーバー数が50以上で衝突後の液滴が分裂することを示した14)。また,Negeedらは表面粗さ0.04~10 µmRaまで変化させたSUS304を用いて,100~600°Cまで加熱し,ウェーバー数を4.2~156まで変化させた単一液滴を衝突させた挙動を高速度カメラにて観察し,液滴の接触半径および,接触時間について実験式を提案している17)

Table 3に示した実験条件,水温30°C,液滴平均粒径330 µm,平均速度10 m/sでは,ウェーバー数は460程度であり,鋼板に衝突した後の液滴は分裂すると考えられ,実際の液滴の挙動を考慮し,その熱流束を算出することは困難である。そこで,スプレー液滴が鋼板に衝突し接触する際の最小熱流束qmin(W/m2)について以下の式にて試算した。   

qmin=QdAmaxτ(11)

ここでQdは液滴が接触している間の冷却量(J),Amaxは液滴と鋼板が接触している間の最大接触面積(m2),τは液滴の接触時間(s)である。ここで,Amaxおよびτについては,本実験と同じSUS304で,表面粗さを変化させた試料に液滴を衝突させ,液滴が鋼板衝突後に崩壊した結果も含めた条件で提案されているNegeedらの式17)を用いた。   

dmax=1.834d0Re0.130We0.318(12)
  
Amax=π4dmax2(13)
  
τ=7.121(Vdd0)Re0.262We0.369(14)

ここで,dmaxは液滴の衝突時の最大直径(m),d0は衝突前の液滴直径(m),Reはレイノルズ数であり,Weはウェーバー数であり,Vdは液滴の衝突速度(m/s)である。Table 3に示した実験条件,水温30°C,液滴平均粒径330 µm,平均速度10 m/sで計算すると,液滴の衝突時の最大直径dmaxは1.5 mm,最大接触面積Amaxは1.7 mm2,液滴の接触時間τは0.262 msとなる。

液滴単体の冷却量Qdは,スプレー冷却で噴射した冷却水が全て蒸発するのに必要な熱量に対する実際に冷却に寄与する熱量の効率を用いて算出した。流量密度W(m3/m2s)で噴射された冷却水が全て蒸発するため必要な熱流束qe(W/m2)は式(15)となる。   

qe=WρwL+WρwCpΔT(15)

ここで,ρwは冷却水の密度(kg/m3),Lは冷却水の蒸発潜熱(J/kg),Cpは冷却水の比熱(kJ/kgK),ΔTは冷却水温と飽和温度との温度差(K)である。流量密度0.00667 m3/m2sの場合,噴射された冷却水が全て蒸発すると仮定した時の熱流束は17 MW/m2である。Fig.14に,流量密度0.00667 m3/m2sにおいて表面粗さが3 µmRaの条件で得られた表面温度と熱流束の関係を示す。表面温度が330~550°Cでの膜沸騰時の熱流束は平均0.32 MW/m2であった。これは,冷却水が全て蒸発するとした時の熱流束の1.9%に相当する。

Fig. 14.

 Relationship between surface temperature and heat flux. (Spray cooling 0.00667 m3/m2s, Non-coating, Surface roughness 3 µmRa)

一方,液滴単体が全て蒸発する熱量Qdmax(J)は式(16)で表される。   

Qdmax=424πd03ρw(L+CpΔT)(16)

直径330 µmの液滴単体のQdmaxは48 mJとなる。液滴が鋼板に衝突する時のみ冷却に寄与し,リバウンドした以降の液滴の冷却は無視できると仮定し,スプレー冷却実験の効率を用いると液滴単体の冷却量Qdは0.92 mJとなる。

これらの値を式(11)に代入すると,スプレー液滴が鋼板に衝突し接触する際の最小熱流束は2.1 MW/m2となり,Fig.14に示した膜沸騰時の平均的な熱流束0.32 MW/m2の6.4倍となる。この値はFig.14に示した最大熱流束1.6 MW/m2と同程度であることから,液滴が鋼板と接触している間のみ急激に冷却されていることが裏付けられる。表面温度440°Cでの熱伝達率は,式(5)より5095 W/m2Kとなる。

衝風冷却での熱伝達率は,流量密度が6.17 Nm3/m2sの条件で1500 W/m2K程度となり,初めて表面粗さの影響が現れた。前述のスプレー液滴衝突時の熱伝達率はこの3.4倍程度あり,ビオ数が大きいので,母材表面粗さが熱伝達率に及ぼす影響がより顕著になったと考えられる。

5. 結言

鋼板の表面性状として挙げられるスケール厚さと表面粗さがスプレー冷却特性に及ぼす影響を検討するため,スプレー冷却実験と衝風冷却実験を実施した。

板厚20 mmのSUS304鋼を試料母材として用い,擬似スケールを溶射することでスケール厚さを変更し,ショットブラストにて表面粗さを変更して,得られた冷却特性を比較することで,以下の知見を得た。

(1)スプレー冷却および衝風冷却とも,スケールは熱抵抗層として作用する。熱伝達率が表面温度によらずほぼ一定である衝風冷却では,スケールが厚いほど鋼板の冷却速度が低下する。しかし,熱伝達率に表面温度の依存性があるスプレー冷却では,膜沸騰時の界面での冷却速度はスケール厚さによらずほぼ一定,もしくはごくわずかに増加する傾向を示し,クエンチ開始時の界面温度も高い。

(2)衝風冷却で流量密度が高い場合,表面が粗いほど熱伝達率が高くなる。スプレー冷却でも同じ傾向を示すが,熱伝達率の変化率はより高くなる。

(3)膜沸騰時の液滴単体の瞬間的な熱流束を試算すると,平均的な熱流束の6.4倍程度の値となる。

スプレー冷却の特性を理解するためには,液滴単体の衝突挙動および冷却量を詳細に調査する必要がある。

文献
 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

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