Tetsu-to-Hagane
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Effect of Nitrogen Content on Hot-ductility of Nb and B-added Extra Low-carbon Steel
Masaki TadaKatsumi KojimaYutaka AwajiyaMasayasu NagoshiHiroki Nakamaru
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2014 Volume 100 Issue 12 Pages 1530-1534

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Synopsis:

The effect of nitrogen(N) content on the hot-ductility of niobium(Nb) and boron(B) combined added extra low-carbon steel was investigated by using commercial steels. With containing N of 0.0048 mass%, Nb and B added extra low-carbon steel showed the bottom of ductility around 950ºC, which was slightly higher than the Ar3 transformation temperature. Reducing N content down to 0.0032 mass% or less improved the hot-ductility around the temperature of 950ºC.

Both grain boundary ductile fracture and transgranular brittle fracture were observed in the fractured surface of the tested specimen. MnS,BN and AlN precipitates were observed at the grain boundaries, and the Nb(C, N) precipitates were observed in the ferrite matrix.

These results suggest that the hot-ductility of Nb and B combined added extra low-carbon steel is deteriorated by both the grain boundary ductile fracture dominatied by the MnS, BN, AlN precipitates and the transgranular brittle fracture by the Nb(C, N) precipitates.

1.緒言

Nb-B複合添加極低炭素鋼は,大型溶接缶用鋼板に必要な鋼板強度に加えて,エキスパンド加工後の周方向缶高さ変化が小さい,非時効性である,溶接強度が高いなどの特性を有しており,ペール缶などに用いられている1)。しかし,この鋼はN量が増加すると熱間延性が著しく低下するため1),実製造面では,この鋼を連続鋳造する際,スラブ矯正帯における曲げ曲げ戻し変形時の割れが大きな問題となる。

とくに矯正帯温度がγ→α変態温度直上である950°C近傍となる場合は,析出物の種類と析出場所によって熱間延性の低下挙動が大きく変化すると考えられる。

従来,Nb を添加した低炭素鋼2,3,4,5)では,熱間変形温度が900°Cより低い温度域で検討がなされている。また,Nb-B複合添加鋼の熱間延性については低炭素鋼6,7)で調べられているが,γ→α変態点が900°Cより低く7),α+γの2相域を含む700~900°Cでの熱間延性を対象としている。

それに対して,極低炭素鋼のγ→α変態点は900°Cより高く,低炭素鋼と比べて,Nb(C, N)やBNなどの析出挙動が熱間延性に及ぼす影響は異なると考えられる。しかし,これまでにNb-B複合添加極低炭素鋼の熱間延性について,詳細に検討した例は見当たらない。

本報告では,Nb-B複合添加極低炭素鋼の熱間延性に対する窒素の影響を調べ,この鋼における熱間延性の支配機構について検討した。

2. 実験方法

2・1 供試材

供試材は実機製造の連続鋳造材で,その化学成分をTable 1に示す。

Table 1. Chemical composition of steels used (mass%).
No.CMnSsol AlNbBN
10.00160.310.0140.0470.0270.00120.0048
20.00220.280.0130.0480.0260.00110.0032
30.00100.370.0130.0440.0010.00130.0027

N量:0.0048 mass%のNo.1は,スラブ割れが発生した鋼である。N量:0.0032 mass%のNo.2は,スラブ割れが発生しなかった鋼である。No.3はB単独添加の極低炭素鋼である。

2・2 熱間延性の評価

熱間延性を評価するため,高温引張試験を行った。試験片は鋳片の下面側から上面側に向かって厚さ方向1/4の位置から採取した。試験片の引張り方向は鋳造方向(凝固方向に対して直角)とした。平行部の直径8 mm,平行部の長さ15 mmの丸棒試験片に加工して試験に用いた。高温引張は高周波誘導加熱方式の熱間加工再現試験機を用い,真空中で実施した。実験に用いた熱履歴をFig.1に示す。1420°Cで1分均熱後,試験温度まで急冷して,試験温度で1分保持したのちに引張試験を行った。ひずみ速度は,連続鋳造機の矯正帯のひずみ速度に相当する2×10−3s−1で実施した。熱間延性の評価指標には,引張破断後の破断面の絞り値(断面減少率)を用いた。

Fig. 1.

 Schematic diagram of thermo-mechanical testing condition.

2・3 析出物形態の観察

引張破断後の破断面と析出物について走査電子顕微鏡(SEM)観察,透過電子顕微鏡(TEM)観察およびエネルギー分散型X線分光(EDX)による元素分析を行った。TEM観察では,破断後の試験片の引張方向と平行な断面を鏡面研磨した後,破断面を含むように薄膜レプリカを採取した。レプリカはCuメッシュで支持固定して,TEM観察に供した。

破断面近傍のNbの存在状態については,X線吸収端微細構造解析(XAFS)法により分析した。XAFSスペクトルの測定は,高エネルギー加速器研究機構放射光研究施設(Photon Factory)のビームラインBL27Bにて実施した。Si(111)二結晶モノクロメーターを用いて単色化したX線および7素子半導体検出器を用いて蛍光X線収量法でNb-K吸収端のXAFSスペクトル測定を行った。測定は,破断後の高温引張試験片から引張方向と垂直な方向に破断面から1 mm追い込んで鏡面研磨した断面で行った。析出物の参照スペクトルを得るために,市販のNbC試薬をBNと混合したペレットを作製し,透過法でXAFSスペクトを測定した。さらに,拡張X線吸収端微細構造解析(EXAFS)から破断面近傍のNbの析出割合を求めた8,9)

析出B量,析出Al量の分析は,高温引張試験片の破面よりサンプルを切子で採取しBrメタノール抽出後に抽出残渣を分析して,析出しているBとAlを定量した。

3. 結果

3・1 Nb-B複合添加極低炭素鋼の熱間延性

Fig.2にNo.1~No.3の3鋼種における熱間変形温度と絞り値の関係を示す。

Fig. 2.

 Effect of nitrogen content on the hot-ductility (Strain rate 2×10–3 s–1).

No.1の鋼では,1000°C以下の温度領域で熱間延性の低下が観察される。No.1の鋼に対してN量の少ないNo.2の鋼では950°C以下の温度領域で,B単独添加のNo.3の鋼では900°C以下の温度領域で延性の低下が認められる。

3・2 Nb-B複合添加極低炭素鋼の高温引張サンプルの解析

Fig.3Fig.4に,No.1の鋼を950°Cで破断させた破面観察結果と,破面内に観察された析出物の形態およびそのEDX分析結果をそれぞれ示す。破断面には,ディンプル形態を有する粒界延性破面と脆性破面からなり,粒界延性破面内に5 μm程度の析出物が観察された。析出物を分析した結果,Mn,S,B,Alが検出された。

Fig. 3.

 SEM image of fracture surface of steel -No.1 (Deformation temp. 950ºC).

Fig. 4.

 SEM image and the EDX spectrum of the precipitates observed in fracture surface of steel-No.1 (Deformation temp. 950ºC).

Fig.5Fig.6にNo.3の鋼を950°Cで破断させた破面観察結果と,この破面内に観察された析出物の形態およびその分析結果をそれぞれ示す。破断面は,ディンプル形態を有する粒界延性破面からなり,破面内に5 μm程度の析出物が観察された。析出物をEDX分析した結果,No.1鋼と同様にMn,S,B,Alが検出された。

Fig. 5.

 SEM image of fracture surface of steel-No.3:Nb free (Deformation temp. 950ºC).

Fig. 6.

 SEM image and the EDX spectrum of the precipitates observed in fracture surface of steel- No.3 (Deformation temp. 950ºC).

Nb析出物に関しては,薄膜レプリカによるTEM観察を行った。その結果,Fig.7に示す大きさが約14 nmのNb(C, N)が結晶粒内に観察された。

Fig. 7.

 TEM image and the EDX spectrum of the precipitates observed by the extraction reprica in the steel-No.1 (Deformation temp. 950ºC).

Nb析出量は,微細なNb(C, N)が抽出残渣法では捕集漏れの可能性がある10)ため,XAFSによる定量評価を行った。

Fig.8にNb-K吸収端のXAFSスペクトを示す。(a)はNbC試薬の参照スペクトル,(d)はNbが鉄中に全て固溶している試料のスペクトルである。(b),(c)はそれぞれ,No.1の鋼の熱間変形温度900°Cの高温引張試験片,No.2の鋼の熱間変形温度950°Cの高温引張試験片のスペクトルである。

Fig. 8.

 Normalized Nb-K edge XAFS spectra obtained from (a) NbC reagent, (b) the sample in which 0.012 mass% of 0.027 mass% in Nb content was precipitated as NbC, (c) the sample in which 0.002 mass% of 0.026 mass% in Nb content was precipitated as NbC, and (d) the sample with total Nb in solution.

高温引張試験片のスペクトル(b)と(c)では明らかにスペクトルの形状が異なっており,(b)はNbC単独のスペクトル(a)に近く,(c)はNbが固溶状態のスペクトル(d)に近い。

Fig.9に,加工温度とEXAFS9)により得られたNb濃度から計算したNbの析出率の関係を示す。N量0.0048 mass%のNo.1の鋼では,加工温度が950°C以下で40~70%のNbが析出するのに対し,N量0.0032 mass%のNo.2の鋼では,950°C以上ではNbの析出率はわずかであるが,900°CでほぼNbの全量が析出する。

Fig. 9.

 Effect of the deformation temperature on the fraction of Nb precipitated as NbC in the steels No.1 and No.2 determined by the XAFS analyses.

一方,B析出物およびAl析出物に関しては5 μm程度で粗大であるため,従来の湿式法で定量分析を行った。

Fig.10に加工温度とBの析出率の関係を示す。Nb-B複合添加鋼とB単独添加鋼ともに900から1000°CでのBの析出率は変化していない。Fig.11に加工温度とAlの析出率の関係を示す。Nb-B複合添加鋼とB単独添加鋼のいずれも900°Cから1000°CでのAlNの析出量はわずかで,その析出率は10%以下でほぼ一定である。

Fig. 10.

 Effect of the deformation temperature on the fraction of B precipitated as BN in the steels No.1,2 and 3 determined by chemical analyses.

Fig. 11.

 Effect of the deformation temperature on the fraction of Al on the fraction of Al precipitated as AlN in the steels No.1,2 and 3 determined by chemical analyses.

4. 考察

4・1 熱間延性に及ぼすN添加の影響

Fig.2よりNが0.0032 mass%から0.0048 mass%に増加すると,γ→α変態直上の950°C近傍で延性の低下が認められた。

従来の研究でも,低炭素鋼にNを添加することによる熱間延性の低下が析出物に起因することが報告されている3,5)

Nb,B,Alが添加されていない低炭素鋼にNを添加した鋼では,熱間延性はわずかに低下する3)。これは,Nb,B,Alが添加されていないため,熱間延性を著しく低下させるNb(C, N),BN,AlNが生成しないためと考えられる。

B,Alが添加されておらずNbが添加されている低炭素鋼にNを添加した鋼では,熱間延性はわずかに低下する5)。これは,Nb(C, N)のみの析出では熱間延性に及ぼす影響が小さいためと考えられる。

一方,Nbが添加されておらずB,Alが添加されている低炭素鋼にNを添加した鋼では,熱間延性が低下し,MnSとBNが粒界に観察されている11)

Nb-B複合添加鋼で観察される析出物としてはNb(C, N),BN,AlNがあげられている5,7)。熱間延性に及ぼす析出物の影響を明らかにするために,添加元素の窒化物や炭窒化物の変化について述べる。

Nb析出物は,Fig.7で観察されたNb(C, N)であると考えられる。Fig.9では950°CにおいてN量が0.0032 mass%から0.0048 mass%に増えるとNb析出率が増加している。Nb(C, N)の析出量の増加は,N量がふえることで,γ粒内でのNb(C, N)の微細析出が促進される12)ことが考えられる。

Fig.12に絞り値とNb析出量の関係を示す。Nb析出量はFig.9のNb析出率に試料のNb濃度を乗ずることにより算出した。析出Nb量が多い試料で絞り値が減少する。

Fig. 12.

 Effect of Nb content which precipitated as Nb(C,N) on the reduction of area after hot deformation.

Fig.10より,Nb-B複合添加鋼およびB単独添加鋼のいずれもB析出量はN量に依存しないこと,また,Fig.11より,Al析出率もN量に依存しないことから,Nb(C, N)の増加が熱間延性低下の主因と考えられる。また,B単独添加鋼ではFig.2のように950°C付近の熱間延性の低下は観察されていない。以上のようにN量が0.0032 mass%から0.0048 mass%に増加することによるγ→α変態点直上の950°C近傍での熱間延性の低下は,Nb(C, N)の析出量が増加したためと考えられる。

一方,900°Cでは,No.1と比べてNo.2の鋼のNb析出率が高くなっている。絞り値が低い900°Cでは,伸びも小さく,引張方向における試験片平行部の破断位置が中央部で一定にはならない。このXAFS観察位置である破断部の位置がばらつくことで,例えばひずみ量や温度などがばらつくとすれば,N量が多いにもかかわらずNb析出率が低くなっているように見える可能性も考えられる。但しNb析出量で0.012 mass%の十分なNbが析出しており,900°CではNo.1とNo.2の両方の熱間延性が低下している。

また,Fig.9より,No.1の鋼は900°Cと比べて950°CでのNb析出量が多い。これは高温引張試験時間の影響が考えられる。高温引張試験の試験時間が増えると,Nb析出量は増加する13)が,No.1の鋼の破断後の試験片の長さの違いから,各温度での保持時間終了から破断までの試験時間を計算すると900°Cでは185秒であるのに対し,950°Cでは592秒と異なっている。950°Cでは,試験時間が長いために,析出Nb量が多くなっていると考えられる。

また,Fig.2において,No.1の鋼のみ800°C以下の温度域で延性の回復が見られない。両者には何らかの関連があると考えられるが,本研究では,800°C以下の低温域での延性低下の詳細な検討は行っていないため,これについては今後の検討課題とする。

さらに,Fig.4およびFig.6で示されたようにMnSも析出しているが,供試材のMn量とS量の重量比(Mn/S)が22~28でほぼ同じであり,MnS量に違いは生じないと考えられる。

4・2 Nb-B複合添加極低炭素鋼の熱間延性の支配機構

破面のSEM観察結果および粒内のTEM観察結果より,1000°Cから900°Cまでの温度範囲で析出する析出物は,MnS,AlN,BN,Nb(C, N)であった。また,熱間延性の低下は,Nb(C, N)析出量の増加が考えられる。以上の結果より,熱間延性に影響を及ぼす支配因子をFig.13に模式的に示す。

Fig. 13.

 Schematic diagram showing the mechanism dominating the hot-ductility of Nb and B-added extra low-carbon steel.

スラブの表面割れは,おもに鋼の組織がγからαに変態する温度(約900°C~1000°C)で発生すると考えられる。950°Cまで温度が低下する過程で,Fig.4に示されるMnS+BN+AlNが析出すると考えられる。

Nb-B複合添加極低炭素鋼では熱間延性が低下しており,粒界に析出したMnS+BN+AlNが粒界延性破壊の起点になっていると考えられる。

また,Fig.7のTEM観察でもNb(C, N)が観察された。このNb(C, N)が粒内に析出し,粒内が硬化することにより12),粒内脆性破壊が発生すると考えられる。Fig.6に示したようにB単独添加鋼でも破面にMnS+BN+AlN析出物が観察されるが,950°Cにおける熱間延性の低下は認められなかった。これは,B単独添加鋼ではNb(C, N)が粒内に析出しないため,粒界延性破壊のみが発生するためと考えられる。

従って,Nb-B複合添加極低炭素鋼では,MnS+BN+AlN析出による粒界延性破壊と,Nb(C, N)の粒内析出によりフェライト母相の延性低下に伴う粒内脆性破壊の複合効果で,熱間延性が低下するものと考えられる。

5. 結言

1.Nb-B複合添加極低炭素鋼の900°C以上のγ→α域の熱間延性低下の主因は,N量が増えることでNb(C, N)析出量が増加するためと考えられる。

2.Nb-B複合添加極低炭素鋼の950°Cの高温引張試験後の破面には,MnS+BN+AlNの析出物が観察され,粒内には,Nb(C, N)が観察された。これより,MnS+BN+AlN析出による粒界延性破壊と,粒内に析出するNb(C, N)によるフェライト母相の延性低下に起因する粒内脆性破壊の複合効果によってγ→α域の熱間延性が低下するものと考えられる。

謝辞

本研究のXAFSスペクトル測定は,高エネルギー加速器研究機構との共同研究で実施されたものであり,同機構ならびに小林克己名誉教授,宇佐美徳子博士に感謝の意を表します。

文献
 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

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