2014 Volume 100 Issue 12 Pages 1535-1541
If surface defects on hot rolled wire rod subsequently remained, it might become the origin of cracks in the forging process. Therefore, the surface quality for hot rolled wire rod is strongly required. In order to avoid surface defects, it is important to establish methods for predicting the positions and the criteria of the defects as a function of rolling conditions.
In the previous paper, we assumed a defect to be a kind of plastic buckling and we introduced a new parameter indicative thereof. We also indicated that a hard surface layer promoted the occurrence of surface defects.
For this paper, we rolled a lead alloy with copper plating and a lead alloy without plating and compared their surface shapes after rolling. As a result, it was verified that “surface defects are caused by plastic buckling and defects are promoted by hardening the surface.” In addition, we quantified the effects of various rolling conditions on the occurrence of surface defects using the parameter above.
The friction coefficient affects the depth and position of surface defects. The larger the friction coefficient, the greater the depth of the defect and the further to the side the position of the defect moves.
Rolling tension also affects surface defects. Back tension has a greater affect than front tension. With compression tension, the depth of defects increases and the position moves to the free face.
熱間圧延された線材は,熱処理,酸洗,引抜きの後,種々の形状に鍛造される。線材の表面に疵があると,その箇所が鍛造工程での割れの起点となる1)。近年,鍛造加工の多様化や高精度化,工程省略の促進に伴って要求される表面品質もますます厳しくなってきており,よりいっそうの表面疵の低減が求められている。
表面疵の低減に対する取組みは従来から様々な検討がなされてきたが2,3,4,5,6,7),鋼片段階に存在していた疵の変形挙動を調査した例が主流であり,圧延変形独自で発生する疵に関して研究された例は少ない8,9,10)。
前報では線材圧延の代表的な孔型系列である角−オーバルパスを例として,変形前後の表層メタルフローを幾何学形状と解析での速度ベクトルで数式化した。次に,その数式が周方向に局所値を持つときに塑性座屈が生じると仮定し,その局所値と熱間での基礎実験結果と比較することで表面疵の発生過程を以下①~③のように考察した11)。
①接触初期の段階で,ロールと素材との接触境界部の自由面側で,素材外周に対して局所的に速度勾配が変化する。
②その結果,上記部位において局部的な塑性座屈が生じて凹みを形成する。
③ロールと素材とが幅方向中心部まで接触後は比較的均一に圧延が進行するが,②で形成された凹みは圧延最終時まで残り,表面疵として残存する。
更に,スケールを模擬して極表層の変形抵抗を母材に対して大きくすることで上記表面疵発生挙動が助長されること12),および表面疵を数値解析で可視化できることを示した。
本報では,極表層の変形抵抗が表面疵に及ぼす影響を基礎実験で検証した結果,および圧延諸条件が表面疵の発生に及ぼす影響を数値解析で検討した結果について報告する。
前報で数値解析により表層硬質層が表面疵に影響を及ぼすことを示した。しかしながら,この現象を検証するための熱間圧延実験では,温度分布やスケールに起因する極表層の変形抵抗を制御することは困難である。そこで,鉛合金(Pb+0.3Sb)を母材13)とし,極表層に銅めっき(電気めっき)施すことで母材と極表面の変形抵抗を変化させた素材を作成し,これを冷間圧延することにより表層硬質層を有する熱間圧延の模擬を行った。また,この素材と鉛合金単体の両者の冷間圧延後の変形を比較することにより,極表層と母材の変形抵抗比が変形挙動と表面疵に及ぼす影響を調整した。
2・1 供試材の加工□25 mmの冷間加工鉛合金を無めっき材として□20.26 mmまで機械加工し,めっき材としてめっき代0.2 mmを考慮して□20.06 mmまで機械加工した素材を作成した。次に後者については,切削加工面に約0.2 mmの銅めっきを施した後,所定の寸法までバフ研磨した。
銅めっきした素材の断面写真をFig.1に,供試材の鉛と銅めっきのマイクロビッカースによる硬さ測定結果をTable 1に示す。写真において表層の白い部分が銅めっきであり,1面あたり2箇所測定しためっき厚さは,0.21 mm~0.23 mm(平均0.22 mm)であり,ほぼ所定の厚さに加工できていることを確認した。
Photograph of the cross section of the test material (A) (Copper plating).
Material | Hardness (Hv) | |
---|---|---|
A | Lead | 4.6 ± 0.4 |
B | Lead (Copper plating) | 93.4 ± 3.2 |
母材の鉛合金に対して,銅めっきのビッカース硬さは約20倍であった。熱間での鋼材のスケール硬さは,鋼種や温度に依存するが母材に対して1273 Kで7倍程度である14)。今回の模擬実験では,実際のスケール硬さに対して誇張した実験条件を選択することにより,現象を明確にすることを目的とした。
2・2 冷間圧延実験前節の供試材について,テストミルでの冷間基礎実験を実施した。実験に使用した孔型系列は,線材圧延で一般的に用いられる孔型系列の中でも経験的に疵が発生しやすい角−オーバル孔型系列を用いた。オーバル孔型で冷間圧延中に噛み止めし,ロールバイト内の入側から出側までを長手方向に順次研磨し,2 mmごとに横断面形状を観察した。
実験条件をTable 2に,無めっき材(以下 素材A),および鉛合金に銅めっき材(以下 素材B)の圧延中の横断面形状をFig.2に示す。
Test Condition.
Photographs of the cross section during rolling.
変形の一般的なモードを示すために,均一材についての角−オーバル圧延での代表的な変形解析結果(自社開発剛塑性FEM:1/4モデル)をFig.3に示す。素材の変形抵抗を炭素鋼0.45%C,900°C15),摩擦係数をクーロン摩擦で0.4,その他の圧延条件をTable 2の条件として解析した。なお,図中のコンターはロールと材料の面圧分布である。
Calculated surface pressure distribution from a roll by FEM. (Online version in color.)
角−オーバル圧延では,角素材のコーナー部から孔型に接触し,ロールバイト内で素材は孔型側壁からの拘束を受けつつ,幅広がりしながらオーバル形状に圧延される。このため,ロールと素材の接触領域は(図の薄い色の部分:面圧分布),圧延上面から見たときに圧延方向に凹型となり,コーナー部での投射接触長が最も大きくなる。
2・3 極表層の変形抵抗比が変形挙動に及ぼす影響無めっき材の素材Aでは,Fig.3の解析結果と同様に,素材はコーナーからロールと接触し,孔型に沿って幅広がりしながら,自由面に凸となるオーバル形状に圧延される。他方,素材Bの場合は大きく異なる変形挙動をとる。
素材Bでは,ロールバイト入側の変形初期の段階で,ロールと接触していない自由面が内側へ凹む形となる(ロールとの接触開始から14 mmの位置)。また,銅めっき部分は,圧下されている部位も自由面の部位も厚さの変化が無く,ほとんど変形していないことが分かる。
これらのことから,以下に示す2つの変形が同時に進行し,ロールとの接触部近傍の自由面で素材内側方向に緩い凹みを持ったダブルバルジ形状になると推定される。
・素材とロールとの接触初期の段階で,表層の変形抵抗が高く剛性が高いため,素材のコーナー部は元々の形状(90°)を保った形で圧下される。
・表層が変形し難く圧延方向に延ばされ難いため,母材には圧延方向に大きな圧縮応力が作用する。この結果,圧下方向中央部近傍の幅広がりは,無めっき材と比較して大きくなる。
次に変形が進むと,ロールバイト初期の段階で生じた素材内側方向の凹みは,オーバル孔型のために斜め上部から圧下されて座屈し,幅広がりの増大とも合わさって表層の口が狭まった深い凹みを形成する(ロールとの接触開始から26 mmの位置)。
更に変形が進むと,上記自由面の凹みはロールと接触し(ロールとの接触開始から28 mmの位置),鉛直方向の圧下と孔型の拘束効果によって凹みの空間が潰され,最終的に表面疵として残存する(ロールとの接触開始から40 mm:圧延終了)。
以上から,数値解析で考察したメカニズム,すなわち「ロールと素材との接触境界部の自由面側で局部的な塑性座屈が生じて凹みを形成し,それが最終的に表面疵として残存する。また,表層に硬質層を有している場合には,局部的な塑性座屈が助長される」ことが,基礎実験にて検証できた。
前章での基礎実験の結果から,ロールバイト入側近傍での局所変形が凹みを形成し,その後の変形で表面疵として残存することが確認できた。ここでは,ロールバイト内での変形挙動,および前報11)でのψ(円筒座標系での自由表面の半径方向の速度の角度微分:自由表面の曲率の空間・時間変化を表現)により,各種圧延条件が表面疵発生に及ぼす影響を検討した。
ψは圧延中の任意の断面における外形形状の変形前後の形状(極座標r(θ),R(θ)),およびFig.4に示す幾何学形状から下記の式(1)で表現した。
Model for the formulation.
変形前の座標(○):(r(θ)−cos(θ),r(θ)−sin(θ))
変形後の座標(●):(R(θ)−cos(θ),R(θ)−sin(θ))
法線方向ベクトル:n,接線方向ベクトル:S
節点速度ベクトル:V
法線ベクトルと速度ベクトルとのなす角度:β
r座標からR座標に,微小時間Δtで変位すると仮定すると,
R(θ)に対して,Δtに関する2次の微小項を無視し,式を整理すると,
(1) |
初期外形形状r(θ)に対して,変形後の形状R(θ)で凹み(疵)が発生する条件を,η(θ)あるいはψ(θ)がθに対して局所値を持つときと仮定した。
なお後述するθ*は,横断面内位置を示す角度θを材料座標として圧延終了時の座標に変換した値,ψ*は横断面内の任意位置における圧延開始から終了までのψの最小値として定義した。
3・1 解析条件素材の寸法は□20コーナーR=0 mmとし,Table 2に示す孔型で1パスの角→オーバル圧延とした。なお,前報で報告し,本報で実験的に検証したように,極表層の変形抵抗を高くすることにより疵が顕在されやすいことから,内部の変形抵抗を炭素鋼0.45%C,900°C15)とし,角素材全周の表層200 μmの変形抵抗を上記内部の変形抵抗に対して10倍としたモデルを採用した。また,摩擦係数はクーロン摩擦で0.4を基準とした。
3・2 各種圧延条件での数値解析結果 3・2・1 摩擦係数の影響①ロールバイト内横断面の挙動
クーロン摩擦を0.2,0.3,0.4の3水準として変形解析し,摩擦係数がψと表面疵に及ぼす影響を調査した。圧延開始から圧延終了まで,長手方向の代表横断面のψを解析し,初めて局所値を持った1/4断面(圧延直下から入側方向に30 mmの部位:L=30 mm)の形状をFig.5に,その断面における各摩擦係数でのロールと素材との境界面の形状を拡大してFig.6に示す。
Material shape during deformation (L=30 mm).
Material shape during deformation (L=30 mm).
摩擦係数が大きくなるほど,同一断面での幅広がりは大きくなり,ロールと素材との接触点も自由面側に移動する。またロールと接触していない自由面に着目すると,ロールと素材との摩擦による拘束が大きくなるため,自由面の凹みはロールプロファイルの接線方向に対して急峻となる。
圧延が進行すると凹みを保ったまま自由面側がロールと接触して表面疵として残存することになるが,幅広がりが大きく,凹みのプロファイルが急峻になる摩擦係数が大きい条件で,より深く表面疵として残存することが類推できる。
②ロールバイト内圧延方向の挙動
横断面内でψの最小値を取る位置における,ロールバイト内の圧延方向位置とψの関係をFig.7に示す。図の横軸はロールバイト内での位置であり,0%をロール直下,100%を噛み込み位置としている。
Effect of coefficient of friction during rolling to ψ.
圧延中のψの変化は,変形が急峻となるロールバイトの比較的入側で急激に低下し,その後徐々に上昇していく。また摩擦係数が大きいほど,ロールバイト入側でのψの低下は急峻になり,絶対値も大きくなる。このことから,摩擦係数が大きいほど,Fig.6で示した凹みがより急峻(塑性座屈)になり,圧延後に表面疵として残存し易くなることが推定できる。
③ψの極小値と解析上の表面疵との関係
圧延開始から終了までのψの極小値ψ*(Fig.7)と,圧延終了後の疵深さの関係をFig.8に示す。解析上の疵深さは,ロール面から垂直方法の距離として定義した。摩擦係数が大きくなるほどψの絶対値が大きく(凹自由面の勾配接線の変化が大きい)なり,それにともなって表面疵深さが深くなることが分かる。
Relationship between ψ* and depth of surface defects by simulation.
各摩擦係数において,ψが最小値となる横断面位置を,Fig.4で示した各断面でのθから製品形状である圧延終了時点の角度(θ‘)に換算してFig.9に示す。圧延中の形状から考察したように(Fig.6),摩擦係数が大きいほどψの極小値(表面疵発生位置)は自由面側に移行する。
Relationship between coefficient of friction and θ’.
以上から,摩擦係数は表面疵深さと発生位置に影響を及ぼし,摩擦係数が大きくなるほど疵深さは深くなり,その発生位置は自由面側に移行することが分かった。
3・3 張力の影響①ロールバイト内横断面の挙動
基準条件に対して,前方・後方張力を式(2)のσ0に対して11.7%負荷し,張力がψと表面疵に及ぼす影響を調査した。前方張力(Tf),後方張力(Tb)を変化させたときの,ψが局所値を持つ代表横断面(圧延直下から入側方向に30 mmの部位:L=30 mm)の形状をそれぞれFig.10,Fig.11に示す。
Material shape during deformation (L=30 mm: Front tension).
Material shape during deformation (L=30 mm: Back tension).
今回の条件で最大となる投射接触長34 mm程度に対して,ψが初めて局所値を持つ部位は圧延直下から30 mmの部位であり,噛み込み端(後方)近傍となる。このため前方張力については,この部位での形状に及ぼす影響は小さくなる(Fig.10)。
それに対して後方張力が同部位での変形に及ぼす影響は大きく,後方張力が圧縮方向の場合,ロールと接触していない自由面の幅広がりが局部的に大きくなる(Fig.11)。前節の摩擦係数のときのようにロールプロファイルに対する自由面の急峻度に大きな変化は無いが,上記幅広がりの違いにより,圧延が進行すると凹みを保ったまま,自由面側がロールと接触することになり,凹みは孔型内に残存して表面疵を形成しやすくなる。
②ロールバイト内圧延方向の挙動
横断面内でψの最小値を取る位置における,ロールバイト内圧延方向のψの変化を前方張力,後方張力について,それぞれFig.12,Fig.13に示す。
Effect of coefficient of friction during rolling to ψ (Front tension).
Effect of coefficient of friction during rolling to ψ (Back tension).
ロールバイト内のマクロ的なψの挙動は摩擦係数を変化させた場合(Fig.7)と同様に,ロールバイト入側で極小値を取る。張力の影響については,上述した形状変化の場合と同様,前方張力よりも後方張力の方がψに及ぼす影響は大きくなる。ψの極小値を比較すると,前方張力では引張方向,後方張力では圧縮方向となる条件,すなわちロール入側での変形が優先される条件でψの極小値は小さくなる。
③ψの極小値と解析上の表面疵との関係
前方・後方張力が圧延中のψの最小値ψ*に及ぼす影響,および解析上の疵深さに及ぼす影響をまとめてFig.14に示す。また,前方・後方張力とψが最小値となる横断面位置(θ‘)との関係をFig.15に示す。
Relationship between tension and ψ* & depth of surface defects by simulation.
Relationship between tension and θ’.
前述の通り,ψと表面疵に及ぼす影響は後方張力の方が大きく,前方張力は引張り側,後方張力は圧縮側で表面疵に対して不利な方向となる(Fig.14)。これは表面疵の元となる孔型接触面近傍自由面での凹みの形成が,圧延初期の段階(ロールバイト入側近く)で発生するためと考えられる。また,表面疵発生位置についても後方張力の影響が大きく,圧縮側で自由面側に移行することが分かった(Fig.15)。
3・4 ψと解析上の疵深さの関係前節まで検討した各圧延条件でのψと表面疵深さの関係をまとめて,Fig.16に示す。ψと解析上の疵深さは良好な関係にあり,幾何学上の関係と素材の速度ベクトルから塑性座屈を仮定する本手法の妥当性を数値解析で検証できた。
Relationship between ψ* and depth of surface defects by simulation.
線材の圧延を対象に,極表層と母材の変形抵抗比を大きくした素材で基礎実験を実施し,表面疵発生メカニズム「ロールと素材との接触境界部の自由面側で局部的な塑性座屈が生じて凹みを形成し,それが最終的に表面疵として残存して表面疵となる」ことを検証した。
また,数値解析で圧延諸条件が表面疵発生に及ぼす影響を検討し,以下の結果を得た。
・摩擦係数は表面疵深さと発生位置に影響を及ぼし,摩擦係数が大きくなるほど疵深さは深くなり,その発生位置は自由面側に移行する。
・圧延での前方・後方張力も表面疵に影響を及ぼし,その影響は後方張力の方が大きく,圧縮側で表面疵に対して不利な方向となる。また,発生位置についても後方張力の影響が大きく,圧縮側で自由面側に移行する。
・表面疵発生指標として採用したψと数値解析上の疵深さは良好な関係にあり,幾何学上の関係と速度ベクトルから塑性座屈(表面疵)を表現した本手法の妥当性が数値解析で検証できた。
・局所変形を生じさせない入側素材形状/孔型形状の選択やスタンド間張力の適正化など,実機において表面疵を低減する指針を得た。