Tetsu-to-Hagane
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Introduction to Selected Papers
Introduction to “Computer Control of Hot Strip Mills, Tetsu-to-Hagane, 57(1971), No.10, pp.1721-1730 by Toyohiko Okamoto”
Masaru Miyake
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2014 Volume 100 Issue 12 Pages R32-R33

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【選定理由】

本技術報告が発表された時期は,日本の第2次高度成長期に鉄鋼業を含む製造業全体が自動化を推進していた時期であり,現代の自動制御の礎となった先達の足跡が垣間見える報告である。筆者の岡本氏は,当時,圧延理論分科会の第5代主査としてご活躍され,現在の圧延技術者のバイブルとも言える「板圧延の理論と実際」の前身である「圧延理論とその応用」の編集委員長を務められた。その中で,ご自身も圧延理論の章の執筆をご担当され,圧延理論の基礎と実践への応用について,歴史的な発展の経緯を交えてわかりやすく解説されている。

さて,本技術資料では,ホットストリップミルにてスラブを加熱炉に装入する時点から巻き取るまでの当時の計算機制御の状況が解説されている。Fig.1は報告内に示されているシステム概略図であるが,その根幹は現在にも受け継がれていることがわかる。Table 1に示されているように,当時,日本の鉄鋼業の技術はその多くを欧米,特に米国から学んできたが,欧米での計算機制御の発展に遅れることなく,各社でほぼ一斉に計算機制御が導入されている。そのような時代背景により,計算機自体の性能も飛躍的に発展してきたわけであるが,当時はスラブを加熱炉に装入する際,あるいは在炉中に当該スラブに関するデータおよび製品仕様に関するデータをテープ・カードにて計算機に読み込ませ,オペレーターが実スラブとの一致を確認してマッチングをとっていたことが解説されており,現在の現役世代には想像もできない状況であったことがわかる。しかしながら,上位計算機よりダイレクトにプロセス制御計算機に情報が伝送され,スラブの抽出作業にも自動制御の導入が進み始めた時期であり,本技術資料が発表された1970年代の前半に日本の粗鋼生産量が年間1億トンを突破していることを考えると,自動制御の進展とともに日本の鉄鋼業が大いに飛躍したことがわかる。

Fig. 1.

 Schematic of process control system.

Table 1. Installation examples of computer control system for hot strip mills.
会社名設置年機種
National Steel Corp.Great Lakes1961Daystrom
McLouthDetroit1962GE-312
B.S.C.Spencer1964GE-412
Inland Steel Co.East Chicago1964PRODAC-580
Wheeling Steel Co.Wheeling1964PRODAC-580
F. Krupp AGBochum1966GE-412
J & L Steel Corp.Cleveland1966GEPAC 4000
U. S. Steel Corp.Gary1966GEPAC 4000
Bethlehem Steel Corp.Burns Harbor1966PRODAC-580
Republic Steel Corp.Gadsden1966PRODAC-550
Youngstown S. & T. Co.East Chicago1966PRODAC-550
B. S. C.Abbey1966GE-412
新日鉄1966GEPAC-4040
Armco Steel Corp.Middletown1967PRODAC-550
Granite City Steel Co.Granite City1967GEPAC-4000
Kaiser Steel Co.Fontana1967GEPAC-4000
川 鉄千 葉1968TOSBAC-7000
住 金和歌山1968HITAC-7250
新日鉄君 津1968TOSBAC-7000
住 金鹿 島1969HITAC-7250
日本鋼管福 山1969TOSBAC-7000

圧延機の制御に関しては,当時,既に基本的な考え方は完成されていた(Fig.2)。ドラフトスケジュール決定の基礎となる圧延荷重計算は,実績荷重値から作成した動力曲線,荷重曲線や実験式を用いていた時代から,圧延理論をベースとした方式に移行し始めた時代である。熱間圧延では,初等理論を近似して比較的簡易な形としたSimsの式がよく使われているが,材料物性値である変形抵抗の算出手法が課題であった。そこで,圧延条件から平均変形抵抗を求める一般式として,現在でも有名な美坂・吉本の式が提案された。また,Simsの式をより簡易化した志田の式や扁平ロール径の簡易計算式,そして理論を補完するための実績データを用いた修正方式(z項)など,本技術報告から当時の計算機能力にて高生産性,高品質を実現するための諸先輩たちのご苦労が偲ばれる。

Fig. 2.

 Setup flow of hot strip mills.

本報告は,約40年前のホットストリップミル計算制御の状況を解説したものであるが,そのあとがきには“単に従来の概念の設備に計算機を導入するのではなく,計算機操業を前提とした圧延設備の改良・検出器の改良が進められますます高い生産性の工場・高品質の工場の実現を願ってやまない。”と結ばれている。現在は,諸先輩方のご尽力により圧延理論・制御理論の応用が高度に進み,かつ計算機能力,各種計測・制御機器が飛躍的に進歩しており,各種制約条件を考慮した繰り返し計算によって得られた収束解をセットアップの設定値とし,かつオンラインでの計測データに基づいた修正計算によるダイナミックな設定値変更やフィードバック制御が行われている。しかしながら,特に高付加価値製品を低コストで製造するためにはまだまだ改良・応用の余地は残されており,欧米に追いつき,追い越せを目標に不自由な状況を打破してきた先輩達の努力を思い起し,新興国を含めた新たな競争に勝ち抜くために更なる進化を築き上げていく努力が必要であると思わせてくれる一編である。

 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

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