2014 Volume 100 Issue 12 Pages R37-R38
本論文が書かれた1980年代は様々な製鉄プロセスに対して高度制御手法が適用され始め,プロセスの総合能力(ハードウェア+ソフトウェア)が飛躍的に向上した時代である。熱間圧延機,冷間圧延機などの圧延プロセスは古くから物理モデルに基づいた圧延理論式が整備された結果,もっとも早期に自動制御が導入され,製品寸法精度の向上に大きく貢献した。本論文で制御対象となった熱間仕上げ圧延機では,通常はスタンド間ルーパを用いて張力制御をおこなうが,製造範囲が拡大する状況下で,ルーパを用いた張力制御をすべての製造条件に対して高精度に実施するということが困難になっていた。そこで本論文では,ルーパによる張力制御性を解析することにより,薄物材に対する制御性が改善されるようにルーパ設備を設計し,厚物材はルーパを用いずに,圧延機駆動モータトルクなどのプロセスデータを用いて張力を高精度に推定して制御する新しい製造方法を確立している。
ルーパ設備設計にあたっては,同じルーパを用いて,厚物材(大断面積材)と薄物材(小断面積材)での張力制御性を試算して,Fig.1の結果を得た。このように,大断面積材での制御性を改善するようにルーパを設計すると,小断面積材での制御性が悪くなってしまう。一方で,ルーパレス圧延を実現するためには,スタンド間張力を精度よく推定する必要があるが,圧延理論に基づくと,圧延機駆動モータのトルクに占める張力成分が大きいほど,ノイズの影響が出にくく,張力推定の精度が良い。このように現象をよく理解したうえで,薄物材に対しては制御性が改善されるようにルーパ設備を設計してルーパ張力計として用い,厚物材に対しては,ルーパレスで張力を高精度に推定して,スタンド間張力を制御する方法を実用化したのである。
Comparison of looper control performance between large sectioned material and small sectioned material by the same looper.
またルーパレス圧延でスタンド間張力を推定する方法として,後段に行くほど前段の推定誤差を累積してしまうという従来手法の欠点を解決するため,全スタンドの圧延トルク,圧延荷重の総和を考えることで,本来未知数であるスタンド間張力を巧妙に消去し,任意タイミングのトルクアーム係数をオンライン最小自乗法で解き,次ステップで全スタンド間張力を推定誤差の総和が極小となるように残りの未知数を求めている。Fig.2のcase Aが新手法,他のcase,特にcase Bが従来手法であり,case Bで見られる後段スタンドでの張力推定ノイズの累積がcase Aでは全く見られない。約30年前の計算機性能がそれほど高くない時代に,最小自乗法をオンラインで求解して,制御に用いるこの方式を実用化したことは,当時としては画期的であった。
Results of new tension estimation (case A) applied to 6 stands’ looper controlled finishing mill compared with other methods (case B, C, D) under the same material size.
近年,脚光を浴びている制御手法の一つに,ソフトセンサ(モデルとセンサの組合せにより計測できない量を推定する手法)やdata reconciliation(測定ノイズなどの影響で,物理的には矛盾する各計測値の誤差を,誤差が偏在しないように上手く配分する手法)という概念があるが,1985年3月に俵論文賞を受賞している本論文は,30年も前からその2つの概念を自然に取り込んでいる。また制御技術の開発では,現存する設備をいかにうまく動かすかという視点で開発を進めてしまいがちで,設備本体などの周辺領域の改善ポイントに意識が向かない場合もある。本論文では,制御の視点でどのような設備を導入すべきかを提案したうえで総合的な開発を行っており,技術者がもつ専門領域だけでなく,その周辺領域にも目を向けて技術開発をおこなおうとした意気込みも読み取れる。まさに復刻論文として鉄鋼分野の技術者が再度意識して欲しい論文である。