Tetsu-to-Hagane
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Evaluation of Coal Thermoplastic and Dilatation Behavior with Coke Pore Structure Analysis
Yusuke HayashiSadayoshi AizawaKazuya UeboSeiji NomuraTakashi Arima
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2014 Volume 100 Issue 2 Pages 118-126

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Synopsis:

Coke strength is depends on coal thermoplastic and dilatation behavior, so it is very important to understand the behaviors for making high strength coke. In this study, change of coke pore structure were investigated with image analysis of coke cross section when coal combination of blended coal changed and ASP was added to blended coal.

(1) When thermoplastic temperature between low rank coal and high rank coal widely differed, low circularity pore increased in the both texture derived from low rank coal and high rank coal. It was concluded that when low rank coal particle dilated, high rank coal particle didn’t dilate, so low rank coal particle reached free expansion. Meanwhile, dilatation of high rank coal neighboring low rank coal decreased. As a result, high rank coal not neighboring low rank coal reached free expansion, and low circularity pore area increased in the texture derived from high rank coal.

(2) When ASP was added to blended coal, low circularity pore decreased in the texture derived from high rank coal. It was thought that ASP lowered softening temperature of high rank coal, so high rank coal could fill void between coal particles before low rank coal solidified.

As above, investigation of coke pore structure is effective to understand coal thermoplastic and dilatation behavior.

1. 緒言

高炉において高出銑比,低還元材比操業を行うためには,高炉内通気性確保のため高強度なコークスを使用する必要がある。高強度コークスを製造するためには,良質な粘結炭を多量に使用すれば良いが,近年の原料炭価格の高騰や粘結炭資源の枯渇などの問題があることから,劣質な非微粘結炭を多量に配合した条件下において高強度なコークスを製造する技術開発が求められている。

コークス強度は様々な要因で変動するが,その多くは軟化溶融時の石炭粒子膨張挙動の変化によるものと考えられる。Arimaは石炭膨張挙動が強度に及ぼす影響として,膨張率と粒子間空隙率の関係性に基づいた考察を以下のように行っている1)。石炭の膨張率が粒子間空隙を充分に埋めるぐらい高い場合には,粒子表面が強固に接着し粒子の膨張が拘束される。その結果,粒子が自由膨張することがなく健全な気孔構造を有した高強度コークスが得られる。一方,膨張率が低く粒子同士が充分に接着しない場合,粒子は自由膨張状態となる。そのため,粒子内で気泡が破裂・連結してしまい,連結気孔や粒子間空隙のような歪な形状を有する欠陥が多数存在する低強度コークスとなる。

このように石炭膨張挙動は強度影響因子と考えられるため,軟化溶融膨張挙動を把握・制御することは高強度コークスを製造するためには必要不可欠である。

石炭の軟化溶融膨張挙動は最終的にコークス気孔構造に反映されるため,気孔構造と強度の間には密接な関係性が存在する2)。つまり気孔構造を詳細に解析すれば,強度影響因子である軟化溶融膨張挙動をある程度把握できると考えられるが,そのような調査報告例は少ない。単純にコークス強度と気孔構造の関係性に関する議論のみではなく,どのような軟化溶融膨張挙動を経て,その気孔構造が形成されたのかを考察することが,今後の高強度コークス製造技術の開発には重要と考えられる。

単味炭からコークスを作製する場合は,使用石炭の流動性測定や膨張率測定等から軟化溶融膨張挙動を把握できるが,実際には複数の性状の異なる石炭を配合して乾留を行っている。古くは配合炭の平均性状と強度の関係性から石炭配合設計が提案されてきたが3,4),炭種によって軟化溶融膨張する温度域は大きく異なる5)。そのため,配合炭の軟化溶融膨張挙動は極めて複雑であり,単純に流動性測定や膨張率測定を行っただけでは,その挙動を詳細に把握できるとは言い難い。また,現在,コークス強度を向上させる手段の一つとして粘結材の添加が挙げられ,例えば実機においてアスファルトピッチ(ASP)が使用されている。ASPは石油精製時に得られる減圧蒸留残渣を熱分解することによって得られ,相溶性の向上やコークス組織の光学的異方性の発達などの効果も発現し,コークス強度や反応性などの品質向上に繋がると考えられている6)。また,ASPの特徴として,流動性が極めて高いことや,原料炭に比べ低温から軟化溶融状態を呈することなどが挙げられ,その軟化溶融特性は原料炭と大きく異なる。そのため,ASPの添加により配合炭の軟化溶融膨張挙動も大きく変化し,気孔構造形成に影響を及ぼしていることが十分予想される。

そこで本報では,配合炭を構成する炭種間の軟化溶融温度域の違いや,軟化溶融特性が原料炭と大きく異なるASPの添加による気孔構造変化を解析し,コークス強度変化との関係性について調査した。特に,気孔構造解析を詳細に行い,どのような軟化溶融膨張挙動の変化を通じて気孔構造の変化をもたらしているのかを考察した。

2. 実験方法

2・1 炭種間溶融温度域の影響評価方法

Table 1に示す性状を有する配合炭(Case1~3)を石炭性状が揮発分(VM):17.8~30.4,平均最大反射率(Ro):0.84~1.50,最高流動度(MF):39~3550,最大膨張率(TD):19.0~136.8の範囲内である高石炭化度炭を8炭種用いて作製した。なお記載の性状値は配合炭を構成する各単味銘柄の加重平均値である。Case1,3はRoは同程度でMFが異なり,Case1,2はMFは同程度だがRoが異なる配合となっている。各Caseの配合炭にRoが0.69の低石炭化度炭である石炭Aを配合率が0, 20, 50, 100%となるように添加し,乾留を行った。なお石炭Aの配合率は内数である。以降,高石炭化度炭はRoが0.8以上の石炭,低石炭化度炭はRoが0.8未満の石炭とする。各Caseの配合炭および石炭Aは,ギーセラープラストメーターとジラトメーターを用いて軟化溶融膨張挙動を調査した。

Table 1. Properties of each blended coals and coal A.
VM [mass%, d.b.]Ro [%]MF [DDPM]TD [%]
Case124.51.1546852
Case223.41.2149050
Case324.41.1589272
CoalA36.70.69 6319

乾留は225mmW×600mmL×600mmHの鉄製乾留容器に石炭を充填し,充填層上部から80kgの錘を乗せ,炭化室幅290mmの両面加熱炉7)に装入して行った。石炭粉砕粒度を−3mm=80%,水分を6.5%とし,装炭嵩密度は760dry-kg/m3とした。乾留温度は炭中部の温度が実炉の炭中ヒートパターンに合うように調整した。乾留時間は18時間とした。乾留終了後,コークスをN2雰囲気下にて常温まで冷却した。冷却後のコークスの加熱面中央部付近からコークス塊を採取し,加熱面から50mmの位置が顕微鏡観察面となるようにコークス片を切り出した。コークス片のサイズは30~50mm角であり,1つのコークス塊から3~5個切り出した。各コークス片を樹脂埋めおよび研磨し,研磨面のほぼ全領域を実体顕微鏡にて撮影し,画像解析により気孔構造の定量評価を行った。撮影した画像の総面積は6700~7200mm2であり,撮影倍率は40倍とした。残りのコークスはドラム試験に供した。

2・2 ASP添加の影響評価方法

乾留試験にはTable 2に示す性状を有する配合炭を用いた。また配合炭を構成する石炭を,高石炭化度炭と低石炭化度炭に分け,それぞれの加重平均値も併せて示す。Table 3に使用したASPの主性状を示す。なお本検討においてはASP添加影響を明確化するために,添加率を10, 20%と高くした。なおASP添加率は内数である。ASP添加による軟化溶融膨張挙動の変化は,ギーセラープラストメーターとジラトメーターを用いて調査した。乾留は400mmW×400mmL×225mmHの乾留容器に充填し,上面加熱炉8)を用いて行った。乾留温度は1150°C,乾留時間は18時間,石炭粉砕粒度は−3mm=80%(ASPは−1mm=100%),石炭水分は6.5%,装炭嵩密度は740dry-kg/m3とした。乾留終了後,コークスをN2雰囲気下にて常温まで冷却した。

Table 2 . Properties of blended coal for ASP blending experiment.
VM[mass%, d.b.]Ro[%]MF[DDPM]TD[%]Blendingratio [%]
High rank coal23.81.181387467.9
Low rank coal36.30.69422632.1
Total (Blended coal)27.81.0210758.6100
Table 3 . Properties of ASP.
Proximate analysis[mass%, d.b.]Ultimate analysis[mass%, d.a.f.]
VMAshCHNSO
ASP41.70.286.25.61.05.71.5

冷却後のコークスの加熱面中央部付近のコークス塊を採取し,加熱面から70mmの位置が顕微鏡観察面となるようにコークス片を切り出した。コークス片サイズは20~50mm角であり,1つのコークス塊から5~6個切り出した。各コークス片を樹脂埋めおよび研磨し,研磨面のほぼ全領域を実体顕微鏡にて撮影し,画像解析により気孔構造の定量評価を行った。撮影した画像の総面積は約5600~6200mm2であり,撮影倍率は40倍とした。残りのコークスはドラム試験に供した。

3. 実験結果および考察

3・1 炭種間軟化溶融温度域の違いが低円形度気孔率に及ぼす影響

Fig.1に各Caseの配合炭および石炭Aのギーセラープラストメーターによる流動性測定結果と,ジラトメーターによる膨張率測定結果を示す。Fig.1(b)に記載している矢印は,各Caseの配合炭および石炭Aの最大収縮温度から最大膨張温度までの範囲を表しており,石炭の膨張温度域に相当する。Case.1,3は溶融・膨張温度域は同程度だが,最高流動度および膨張率が異なる。一方,Case.2はCase1,3に比べ10°C程度高温側で軟化溶融・膨張する。つまり,Case2は石炭Aとの溶融温度域のズレが,Case1,3に比べ大きい配合炭となっている。Fig.2に各Caseの配合炭に石炭Aを加えた際のDI15015変化を示す。いずれも石炭A配合率の増加に伴いDI15015は低下しているが,その低下幅はCase2が最も大きくなっている。その結果,石炭A配合率0%ではCase2が最も高DI15015であるにも関わらず,50%ではCase2が最も低DI15015となっている。Case2は石炭Aとの溶融温度域のズレがCase1,3に比べ大きいことから,低石炭化度炭と高石炭化度炭の溶融温度域のズレが大きくなると,低石炭化度炭添加時のDI15015低下傾向が大きくなることが示された。

Fig. 1.

 Difference of (a) coal thermoplastic temperature range and (b) coal dilatation temperature range.

Fig. 2.

 Relationship between blending ratio of coal A and DI15015.

低石炭化度炭である石炭A添加時の気孔構造変化として,気孔率を算出した。Fig.3に石炭Aの配合率と画像解析より算出した気孔率の関係性を示す。いずれのCaseにおいても石炭Aの添加に伴い気孔率は増加しているものの,各Case間でその増加幅に大きな違いは見られない。よって,気孔率の変化のみでは,DI増加幅の違いを説明することはできない。

Fig. 3.

 Relationship between blending ratio of coal A and pore area.

そこで気孔形状についても調査を行った。気孔形状を表すパラメータとして,式(1)に示す円形度を用いた2)。   

C=4πS/L2(1)

ここで,Cは気孔円形度[-],Sは気孔面積[mm2],Lは気孔周囲長[mm]である。気孔円形度は気孔形状が真円であれば1となり,形状が複雑になるほど値は小さくなる。膨張性不足によって生じる連結気孔や残存する粒子間空隙は気孔形状が歪であるため,円形度は低くなる。そこで,特に円形度が0.1以下の気孔(以後,低円形度気孔と記載)割合に着目して検討を行うこととした。

Fig.4に石炭A配合率と低円形度気孔率の関係を示す。なお,低円形度気孔率は,解析画像面積に対する低円形度気孔の面積率とした。石炭Aを配合することにより低円形度気孔率は増加しており,DI15015の変化と同様に,Case2において特に増加幅が大きいことが分かる。この低円形度気孔率とDI15015の挙動は大変良く一致していることから,これまでの報告通り2),低円形度気孔の存在がDI15015低下を引き起こしているものと考えられる。

Fig. 4.

 Relationship between blending ratio of coal A and low circularity pore area.

3・2 ASP添加が低円形度気孔率に及ぼす影響

Fig.5にASP添加率とドラム強度指数DI15015の関係を示す。10%添加時にはDI15015が大きく向上するものの,20%添加時にはその効果は飽和する傾向が見られた。

Fig. 5.

 Relationship between blending ratio of ASP and DI15015.

Fig.6にASP添加率と画像解析より算出した気孔率の関係性を示す。ASPを添加することにより若干気孔率は増加した。気孔率が増加するほどコークス強度は低下する傾向があるものと考えられるが,本結果ではASPを添加することにより,DIが大幅に向上している。よって本試験においては,気孔率はASP添加時のDIの変化を説明できる因子ではないものと考えられる。Fig.7に低円形度気孔率算出結果を示す。ASPの添加に伴い,低円形度気孔の割合が大きく減少し,気孔形状が改善されていることが分かる。また,10~20%間においては特に大きな改善効果は見られず,DI15015と低円形度気孔率の間には相関が見られる。

Fig. 6.

 Relationship between blending ratio of ASP and pore area.

Fig. 7.

 Relationship between blending ratio of ASP and low circularity pore area.

ここで,Fig.8に低円形度気孔の例を示す。図中濃灰色で着色されている気孔が低円形度気孔である。低円形度気孔は,Fig.8(a)のような粒子間空隙が残存したと考えられる気孔や,(b)のように石炭粒子の膨張が拘束されず自由膨張となり,気泡が破裂して生成したと考えられるような連結気孔で構成されていた。ASPの添加によりこのような気孔が減少していることから,ASPが軟化溶融膨張挙動に変化をもたらし,低円形度気孔の減少に寄与しているものと推察される。

Fig. 8.

 Images of low circularity pore.

3・3 低石炭化度炭および高石炭化度炭由来組織における低円形度気孔率の変化

3・3・1 炭種間軟化溶融温度域の違いが各組織の低円形度気孔率に及ぼす影響

3・1,3・2節にて,炭種間溶融温度域の違いやASP添加により低円形度気孔率が変化し,コークス強度に影響を及ぼすことが示された。そこで,そのような低円形度気孔率の変化がもたらされた原因について,より詳細に気孔構造解析を行って調査した。

Fig.9,10にCase1およびCase2の配合炭に石炭Aを50%配合時のコークス断面解析画像を示す。ここで,コークス基質は低石炭化度炭由来部分と高石炭化度炭由来部分において光学的異方性の発達度合いが異なるため,顕微鏡画像で観察すると基質部分の輝度に違いが生じる(本検討で用いた実体顕微鏡で観察を行うと,低石炭化度炭由来部分は明るく,高石炭化度炭由来部分は暗く見える)。そこで目視にて基質部分の輝度の違いを確認し,低石炭化度炭由来領域(つまり石炭A由来領域)と高石炭化度炭由来領域に手動で分けた。なお高石炭化度炭由来領域においては,粒度の細かい低石炭化度炭由来と思われる部分も存在していたが,画像解析において切り分けることが困難であった。そのため,数mmオーダーのサイズを有した低石炭化度炭由来領域以外は,全て高石炭化度炭由来領域として解析を行った(以後,低石炭化度炭由来領域:Texture derived from Low Rank Coal, TLRC,高石炭化度炭由来領域:Texture derived from High Rank Coal, THRC,と称する)。

Fig. 9.

 Cross section image of case1 + coal A coke.

Fig. 10.

 Cross section image of case2 + coal A coke.

ここで,軟化溶融膨張時には,低石炭化度炭と高石炭化度炭が互いに相溶性を示し,TLRC,THRCの識別に影響を及ぼしている可能性が考えられる。そこで,Case間において低石炭化度炭と高石炭化度炭の相溶性に違いが存在するか検討を行うために,各Caseの配合炭に石炭Aを50%配合時のTLRC,THRCの気孔部分を除いた基質部分の面積割合を算出した。その結果をFig.11に示す。いずれのCaseにおいてもTLRCとTHRCの基質部分の面積割合は50%とならず,TLRC<THRCとなっている。これは先述のように,画像解析において1mm以下のTLRCをTHRCとして解析を行っていることが一因と考えられる。また,固化後にセミコークスは収縮するが,低石炭化度炭の収縮率が高石炭化度炭の収縮率よりも高いために,TLRCの基質部分の面積がTHRCよりも低下したことも原因と考えられる。但し,Case1~3においてTLRC,THRCの基質部分の面積割合に大きな差は見られないので,各Case間において低石炭化度炭と高石炭化度炭の相溶性に大きな違いはないものと考えて議論を進める。

Fig. 11.

 Comparison of coke matrix area of coal 50% blended coke.

Fig.9において低円形度気孔の分布状況に着目すると,THRCにおいて低円形度気孔が存在しているものの,TLRCには低円形度気孔はほとんど存在しておらず,気孔形状は比較的円形に近いことが分かる。このことから,低石炭化度炭と高石炭化度炭は軟化溶融膨張挙動が異なるものと考えられ,画像解析においてTLRCとTHRCに分けて解析を行っていくことが,詳細に軟化溶融膨張挙動を把握するためには重要な手法であると考えられる。

また,Fig.10においても,THRCにはCase1と同様に低円形度気孔が存在しているが,TLRCにおいても複数の気孔が連結した低円形度気孔が存在していることが分かる。そこで,石炭Aを0, 50%配合したコークスにおいて,Fig.12(a)にTLRCにおける低円形度気孔率,(b)にTHRCにおける低円形度気孔率を画像解析から算出した結果を示す。

Fig. 12.

 Comparison of low circularity pore area of (a) TLRC and (b) THRC in each cases.

いずれのCaseにおいても,石炭Aを50%配合時の低円形度気孔率はTLRC<THRCとなっている。またFig.10からは,THRCに存在する低円形度気孔は,石炭が自由膨張状態となり,粒子内気泡が破裂して生じた連結気孔と思われる。THRCにおいてこのような低円形度気孔が多数生成した理由として,高石炭化度炭に比べ低温側で固化する低石炭化度炭が,イナートとして作用したことが挙げられる9)。つまり,低石炭化度炭が固化することにより,隣接する高石炭化度炭粒子内からガス抜けが生じやすくなり,膨張率が低下する。その結果,低石炭化度炭に隣接しておらず,膨張率低下影響を受けない高石炭化度炭が代わりに空隙を埋めようと過剰に膨張するため,自由膨張状態となり,結果として気泡破裂に至り,Fig.10のTHRCに見られるような低円形度気孔の生成に至ったものと考えられる。その結果,THRCにおいて低円形度気孔率が高くなったものと推察された。

また,TLRCにおける低円形度気孔率を各Caseで比較すると,Case2の低円形度気孔率がCase1,3に比べ著しく大きい結果となっている。これはFig.9,10の顕微鏡画像の観察から得られた定性的な結果と一致する。またTHRCにおいては,石炭Aを加えていない場合にはCase2が最も低円形度気孔率が低いものの,石炭Aを50%配合することにより,Case2で最も低円形度気孔率が高い結果となっている。以上の結果から,低石炭化度炭と高石炭化度炭の軟化溶融膨張温度域のズレが大きい場合には,TLRC,THRCのどちらにおいても低円形度気孔が増加し,大幅なDI15015低下に繋がるものと考えられた。

ここで,まず溶融温度域のズレが大きい場合にTLRCにおいて低円形度気孔が大幅に増加した理由について考察した。Case1,3においては,Fig.1(b)より,石炭Aが膨張している間に高石炭化度炭が膨張を開始するため,石炭Aの膨張はある程度拘束され自由膨張とはならない。その結果,粒子内で気泡が破裂するようなことはなく,低円形度気孔はほとんど発生しなかったものと考えられる。一方,Case2においては,石炭Aが膨張する間は高石炭化度炭は膨張を開始していない。そのため石炭Aの膨張は拘束されず自由膨張状態となり,粒子内で気泡が破裂し低円形度気孔が生成したものと考えられる。

またTHRCにおいても,Case2において低円形度気孔率が高い理由について考察した。Case2においては,高石炭化度炭が膨張を開始する時点で既に石炭Aは固化していることから,高石炭化度炭が膨張する間は,常にガス抜け作用を及ぼし続けることになる。そのため,低石炭化度炭に隣接する高石炭化度炭の膨張率が大幅に低下し,膨張率低下影響を受けない高炭化度炭が自由膨張状態に達しやすく,かつ,粒子間空隙が残存しやすくなり,低円形度気孔率が増加したものと推察された。また,Sakamoto and Igawaは二炭種の配合において,炭種間の軟化溶融温度域と膨張率の測定結果について述べている10)。その結果から,二炭種間の溶融温度域のズレが大きいほど,配合時の膨張率は各々の単味炭膨張率の加重平均よりも低下することを報告しており,本考察結果と矛盾しない。また,低石炭化度炭は固化直後の一次収縮率が高いため11),その収縮挙動により空隙が生じる。特にCase2においては高石炭化度炭膨張時に常に収縮し続けるため,生じる空隙量も多くなることが考えられる。その結果,固化した低石炭化度炭に隣接していない高石炭化度炭が自由膨張に達しやすくなり,気泡破裂により低円形度気孔が生じたことも原因と推察される。

以上のTLRC,THRCにおける気孔構造解析結果から,軟化溶融温度域の違いによる低石炭化度炭,高石炭化度炭の膨張挙動の変化を推察することができた。

3・3・2 ASP添加が各組織の低円形度気孔率に及ぼす影響

TLRCとTHRCにおける気孔構造変化をASP添加時についても同様に調査し,軟化溶融特性が大きく異なる粘結材が低石炭化度炭および高石炭化度炭の膨張挙動に及ぼす影響について考察を行った。なお,ASP20%添加時については,TLRCとTHRCの輝度の明暗が明確ではなく区別できなかったため,本報告ではASP0, 10%のみについて解析を行った結果を述べる。

Fig.13にTLRCとTHRCの基質部分の面積割合を示す。ASPを10%添加することにより,TLRCとTHRCの基質部分の面積割合の差が大きくなっている。これは,ASPは光学的異方性が発達した組織であるため,画像解析を行う際に,ASP由来組織がTHRCと判断されたことが原因と考えられる。また,ASPが隣接する低石炭化度炭に対して作用することにより,低石炭化度炭の光学的異方性が発達し,THRCと認識された可能性も考えられる。Fig.14にASP0%のコークス断面解析画像を示す。THRCにおいては低円形度気孔が多数存在しているものの,TLRCにおいてはほとんど見られない。これはFig.9に示すように,Case1,3の配合炭に石炭Aを50%配合した場合と同じ傾向である。ここでASP添加前の配合炭の構成銘柄を低石炭化度炭と高石炭化度炭に分け,それぞれを構成する単味銘柄のギーセラープラストメーターによる流動性測定結果から,低石炭化度炭および高石炭化度炭の軟化溶融温度域を加重平均値として算出した結果をFig.15に示す。また,低石炭化度炭の再固化温度と高石炭化度炭の軟化開始温度の差(この値が小さければ,低石炭化度炭と高石炭化度炭の軟化溶融温度域のズレが大きいと言える)を,Case1~3の配合炭と石炭A,およびASP添加試験に使用した配合炭に含まれる低石炭化度炭と高石炭化度炭のいずれにおいても算出した。その結果をTable 4に示す。ASP添加試験の配合炭に含まれる低石炭化度炭と高石炭化度炭においては28°Cであり,Case1と石炭Aの29°Cという値に最も近い。そのため,Case1と石炭Aの組み合わせと同様に,特にTHRCにおいてのみ低円形度気孔が多量に生成したものと考えられる。

Fig. 13.

 Change in coke matrix area with ASP blending.

Fig. 14.

 Cross section image of ASP0% coke.

Fig. 15.

 Difference of coal thermoplastic temperature range of high rank coal and low rank coal which construct blended coal for ASP blending experiment.

Table 4 . Difference of resolidification temperature of low rank coal and softening temperature of high rank coal.
①Resolidification temperature of low rank coal [°C]②Softening temperature of high rank coal [°C]①−②[°C]
Case1 & CoalA45442529
Case2 & CoalA45443618
Case3 & CoalA45441836
Blended coal for ASP blending experiment45042228

ASP10%添加時のコークス断面解析画像をFig.16に示すが,TLRCにおいては特に変化はなく,THRCの低円形度気孔が減少していることが分かる。また,Fig.17(a)にTLRCにおける低円形度気孔率,(b)にTHRCにおける低円形度気孔率算出結果を示すが,顕微鏡観察による定性的な結果と一致する結果が得られた。このことから,本検討におけるASP添加によるDI向上効果は,高石炭化度炭膨張時に生成する低円形度気孔の抑制によってもたらされているものと推察された。

Fig. 16.

 Cross section image of ASP10% coke.

Fig. 17.

 Change in low circularity pore area of (a) TLRC and (b) THRC with ASP blending.

ASPの添加によりこのような変化が生じた理由として,低石炭化度炭と高石炭化度炭の軟化溶融膨張挙動が変化したことが挙げられる。特にASPは約180°Cと低温から軟化溶融状態を開始するため,ASPの添加により低石炭化度炭や高石炭化度炭の軟化溶融膨張挙動も低温側から開始していることが予想される。Fig.18(a)に配合炭にASP0, 10%添加時のギーセラープラストメータによる流動性測定結果を,(b)にジラトメーター測定結果を示すが,ASP添加により,配合炭が10°Cほど低温側で軟化溶融・膨張挙動を開始していることが分かる。この結果から,配合炭を構成する低石炭化度炭と高石炭化度炭も低温側から軟化溶融膨張挙動を開始しているものと推察される。そのため,低石炭化度炭が固化し高石炭化度炭の膨張率を低下させる前に粒子間空隙がより充填されることとなり,高石炭化度炭が自由膨張状態に至る前に空隙が充填され,低円形度気孔率も減少したと考えられる。またASPは高流動性であるため,固化した低石炭化度炭と膨張している高石炭化度炭の間に入りこみ,ガス抜けによる高石炭化度炭の膨張率低下を抑制していることも可能性として考えられる。今回は配合炭にASPを添加した際の軟化溶融膨張挙動の変化のみを測定して考察を行ったが,今後は低石炭化度炭,高石炭化度炭それぞれへのASP添加による軟化溶融膨張挙動の変化などを詳細に検討する必要がある。

Fig. 18.

 Change in (a) coal thermoplastic behavior and (b) coal dilatation behavior with ASP blending.

以上のTLRC,THRCにおける気孔構造解析結果から,ASPの添加により,特に高石炭化度炭が軟化溶融膨張時に生成する低円形度気孔の抑制効果が大きいことが明らかとなった。

4. 結言

炭種間軟化溶融温度域の違い,ならびにASP添加がコークス気孔構造に及ぼす影響を調査した。以下に得られた知見を記す。

1)TLRCとTHRCにおける低円形度気孔率を画像解析から算出した結果,低円形度気孔率はTLRC<THRCであった。

2)低石炭化度炭と高石炭化度炭の軟化溶融温度域のズレが大きい場合は,低石炭化度炭添加時にTLRC,THRCのいずれにおいても低円形度気孔が増加する傾向が見られた。

3)配合炭にASPを添加することにより,石炭がより低温側から軟化溶融膨張挙動を開始し,その結果THRCにおいて低円形度気孔が減少することが示唆された。

また,気孔構造解析結果から考察を行うことにより,炭種間溶融温度域の違いやASP添加が軟化溶融膨張挙動に及ぼす影響について把握できることが示唆された。現在,様々なコークス製造プロセスが採用されているために,石炭軟化溶融膨張挙動はますます複雑化しているが,今後は本報に記したような手法や,さらなるコークス気孔構造観察技術の発展により,それらを間接的に把握し,最適な石炭事前処理方法や配合条件改善へ繋げていくことが期待される。

文献
  • 1)   T.  Arima: Tetsu-to-Hagané, 87(2001), 274.
  • 2)   Y.  Kubota,  S.  Nomura,  T.  Arima and  K.  Kato: Tetsu-to-Hagané, 96(2010), 328.
  • 3)   T.  Miyazu,  Y.  Okuyama,  Y.  Suzuki,  T.  Fukuyama and  T.  Mori: NKK Tech. Rep., 67(1975), 125.
  • 4)   K.  Matsubara,  T.  Miyazu and  R.  Takahashi: Proc. Symposium on Gondwana Coals, Lisbon, (1983), 161.
  • 5)   T.  Arima: Tetsu-to-Hagané, 92(2006), 106.
  • 6)   Y.  Sunami,  K.  Nishioka,  M.  Ogawa and  T.  Kiritani: J. Fuel Soc. Jpn., 58(1979), 860.
  • 7)   S.  Aizawa,  K.  Uebo and  S.  Yoshida: Tetsu-to-Hagané, 96(2010), 337.
  • 8)   K.  Miura,  K.  Inoue,  K.  Takatani and  K.  Nishioka: Tetsu-to-Hagané, 77(1991), 1243.
  • 9)   T.  Arima,  S.  Nomura and  K.  Fukuda: Tetsu-to-Hagané, 82(1996), 409.
  • 10)   S.  Sakamoto and  K.  Igawa: Tetsu-to-Hagané, 87(2001), 238.
  • 11)   R.  Loison,  P.  Foch and  A.  Boyer: COKE Quality and Production, Butterworths, London, (1989), 138.
 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

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