2014 Volume 100 Issue 2 Pages 189-197
The temperature in the sintering bed is preferably maintained between 1200°C and 1400°C during sintering to produce high strength and reducibility sintered ore. To achieve this condition, the technology of combined usage of coke breeze and gaseous fuel, which is fed properly from the top surface of the sintering bed, was developed. In this paper, the effect of oxygen enrichment with combined usage of coke breeze and gaseous fuel on the heat pattern in sintering bed and cold strength of sintered ore was investigated. The cold strength of sintered ore was improved by the oxygen enrichment in the pot test. Then, the holding time over 1200°C during sintering was extended and improvement of strength would be attributed to promotion of the sintering reaction. By the simulation model calculations based on chemical kinetics, it is considered that the further extension of the holding time over 1200°C due to oxygen enrichment is caused of an increase in the distance between the combustion points of the coke breeze and gaseous fuel. However, improvement of the cold strength reached saturation over 32vol.% of the oxygen concentration in suction air. It is also considered that the excessive increase of the distance between the combustion points of coke breeze and gaseous fuel decreases overlap of respective heat transfer and doesn’t contribute to the expansion of holding time over 1200°C.
近年,地球環境,特に温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の排出削減が重要な課題となっている。この課題への対応策として,製銑工程では,コークス等炭材の使用量を低減し,CO2の排出量を削減することが求められている。
製銑工程でのCO2排出量の削減方法の一つとして,焼結工程における凝結材の低減が有効である。焼結工程での凝結材比の低減には焼結歩留の改善が有効であり,そのためには焼結鉱の冷間強度を改善する必要がある。
焼結鉱の強度向上には,鉱石同士の結合に寄与する融液量を増すことが望ましい1)。焼結の昇温過程における初期融液は1200°C付近で生成を開始する。液相焼結が開始するため,この温度以上に焼結原料を長時間保持することで,焼結原料を十分に反応溶融させることができる。一方,焼結鉱の被還元性改善の観点からは,FeOの生成を抑制する目的で,ヘマタイトの熱解離温度2)である1400°C以下に焼結温度を抑えることも必要とされている。したがって,焼結ベッド内の温度を1200°C~1400°Cに長時間保持し,液相焼結を進行させつつ,FeOの生成を抑制することにより,被還元性と冷間強度の両立が可能となると考えられる。
著者らは前報3)において,焼結ベッド上方より,気体燃料を添加し,1200°C~1400°Cの保持時間の延長を可能とする粉コークスと気体燃料を併用した焼結技術を報告した。これは,粉コークスの燃焼帯よりも上方で気体燃料が燃焼することにより,コークス燃焼終了後の1200°C以上の冷却帯におけるベッド内温度の冷却速度を緩和するものである。
粉コークスと気体燃料を併用する焼結技術のさらなる進歩のため,ここで酸素富化について,本論文では検討を行った。焼結における酸素富化に関しては,Sugawaraら4),Cappel and Weisel5),Nodaら6),Kangら7)により検討が行われている。固体炭材の燃焼速度増加の影響が論じられているが,固体炭材と気体燃料を併用した焼結条件において,酸素富化にともなうヒートパターンの変化に関しては十分な理解が得られていない。気体燃料の燃焼挙動は固体燃料の燃焼挙動と異なるため重要である。そこで本報告では,ラボスケールでの基礎研究を実施し,粉コークスと気体燃料を併用する焼成条件でのヒートパターンに及ぼす酸素富化の影響について評価を行った。
粉コークスと気体燃料を併用した焼結において酸素富化に伴うヒートパターンの変化を調査するために,焼結鍋試験装置により,焼結ベッド内の温度測定実験を行った。試験装置の概略図をFig.1に示す。本実験では,石英ガラス鍋(300mmφ×400mm高さ)を使用し,焼結中の燃焼挙動についてビデオカメラ撮影による直接観察を行った。また,赤外線サーモグラフィを用いてベッド内の温度分布を測定した。さらに,鍋上端から高さ方向に100mm間隔で3本のR型熱電対(1.6mmφ×200mm長さ)を水平に原料層内に150mm挿入し,ベッド内部の温度を測定した。熱電対によるベッド内温度の測定結果から,各測定点における1200°C以上の高温保持時間を求めた。

Measurement method for the temperature in the sintering bed.
Table 1に実験に用いた焼結原料の配合割合を示す。Table 2に鉱石Aと鉱石Bの化学組成を示す。南米産の緻密質鉱石(鉱石A)と豪州産の多孔質鉱石(鉱石B)を使用した。
| Blending ore | 66.1 |
|---|---|
| Silica sand | 1.4 |
| Limestone | 12.5 |
| Return fine | 20.0 |
| Material | T.Fe | FeO | SiO2 | Al2O3 | CaO | MgO | L.O.I. |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Ore A | 66.14 | 0.07 | 1.26 | 1.31 | 0.03 | 0.06 | 1.41 |
| Ore B | 58.15 | 0.36 | 5.39 | 1.43 | 0.33 | 0.13 | 10.40 |
石灰石,硅砂,返鉱,および粉コークスは,実機で使用しているものを採取して用いた。原料の配合比は,返鉱を20mass%で一定とし,焼結鉱中のSiO2が4.8mass%,塩基度(CaO/SiO2)が1.9となるように,鉱石と石灰石・硅砂の配合比を調整した。全ての原料をコンクリミキサーに装入し,20rpmで180s間混合した後,1mφドラムミキサーにて,12rpmで360s間造粒を行った。床敷鉱の層厚は20mmで一定とし,準備した擬似粒子を試験鍋に装入した(約42kg/charge)。全水準において,点火後の吸引圧力は6.9kPaで一定とした。
気体燃料として,気化した液化天然ガスを(以下NG:CH4/C2H6/C3H8=89/5/6vol.%)を使用した。フード内において焼結ベッド表面より400mm上方にノズルを設置し,点火後60sから360s経過するまで,NGを吹き込んだ。吸引空気中のNG濃度を所定の濃度に制御した。酸素富化に関しても,NGと同様に,フード内の別のノズルより純酸素を吹き込み,吸引空気中の酸素濃度を所定の濃度に制御した。
Table 3に焼結鍋試験の粉コークスと気体燃料,および酸素富化条件を示す。この試験において,試験鍋上部からの吸引空気流量はノズルから100mm離れた位置のフード上方配管内に設置されたオリフィス流量計を用いて測定し,指定したNG濃度となるようにNG流量を調整した。前報の結果から,NG濃度が可燃限界(4.8vol.%)8)以上では,焼結ベッドに吸引される前に引火することが分かっており,可燃限界よりも低く設定した。さらに,可燃限界の10%以上に設定した場合,NG添加による改善効果が飽和するため,NGの濃度は吸引空気に対し,0.4vol.%に設定した。粉コークスの配合比は,全原料に対して,5.0mass%を基準とした。NG吹き込み条件では,吹き込むNGと同等の熱量に相当する粉コークスを削減した。ここで,粉コークスの燃焼熱は,反応による水蒸気の発生は無いものとして,高位発熱量の27.1MJ/kg9)を使用し,NGの燃焼熱は,反応による水蒸気の発生を伴い,かつ100°C以上で水蒸気の凝縮は無いものとして,低位発熱量の41.6MJ/Nm3を使用した10)。酸素富化する場合に関しては,酸素は単独での燃焼潜熱を有していないことから,粉コークスの削減は行わなかった。大気中の酸素濃度21vol.%を基準条件として設定し,酸素富化条件では吸引ガスの酸素濃度を28vol.%として設定し,オリフィス流量計が示す流量に併せて指定濃度となるように酸素流量を制御した。
| Case A | Case B | Case C | Case D | |
|---|---|---|---|---|
| Coke (mass%) | 5.0 | 4.6 | 5.0 | 4.6 |
| NG (vol%) | 0.0 | 0.4 | 0.0 | 0.4 |
| O2 (vol.%) | 21 | 21 | 28 | 28 |
焼結鍋試験後の試料は,2mの高さから1回落下させ,10mm以上の焼結鉱を成品として定義した。ここで,焼結歩留は成品焼結鉱の正味重量を,焼結ケーキの重量で除して求めた。焼結時間は,点火から排ガス温度が最高到達温度に達するまでの時間と定義した。焼結生産率は,成品焼結鉱重量と焼結時間から算出した。また,JIS-M8711(1993)に基づき,落下強度指数(SI)を測定した。
Fig.2にビデオカメラとサーモグラフィによるベッド内燃焼挙動の観察結果を示す。ビデオカメラでの観察結果によれば,酸素富化を行わず粉コークスとNGを併用した条件Bでは,粉コークスのみを用いた条件Aと比較し,赤熱帯の厚みが拡大した。一方,粉コークスのみを用い,酸素富化した条件Cでは,条件Aと比較して赤熱帯の厚みは拡大しなかった。さらに粉コークスとNGを併用して,酸素富化した条件Dでは,条件AおよびB以上に赤熱帯の厚みが拡大した。

Observation results of combustion behavior in the sintering bed by video camera and thermo-graphy.
サーモグラフィのイメージからも同様の傾向を確認することができる。サーモグラフィのイメージは側面近傍の温度状況を表しているに過ぎないが,条件Aでは,1400°C以上の領域が存在するのに対し,条件Bでは,1400°C以上の領域が存在せず,1200°C以上の領域が拡大していた。条件Dでは,1400°C以上の領域は条件Bと同様に存在しないが,1200°C以上の領域が条件Aおよび条件B以上に拡大している様子が観察された。
Fig.3に,ベッド表面から100mm地点の温度の測定結果(ヒートパターン)を示す。ここで横軸は点火からの時間推移を示している。点火後,湿潤帯の形成に伴い100°C未満の範囲で温度が上昇する。炭材燃焼領域の下降に伴い,乾燥帯が測定点を通過する際に急激かつ大幅に温度上昇する。さらに炭材燃焼発熱量と上部からの吸引空気による冷却量とのバランスにより最高到達温度に到達し,その後温度が低下する。

Measurement result of temperature at 100mm from the top surface of sintering bed.
条件Bでは,条件Aとほぼ同時に急激な温度上昇を開始しているが,最高到達温度からの冷却が緩やかで,1200°C以上の保持時間が延長した。一方,条件Cでは,急激な温度上昇の開始時間が条件Aと比較して早く,最高到達温度からの冷却が急であり,1200°C以上の保持時間が大幅に短縮された。これは,酸素富化により粉コークスの燃焼速度が増加することにより,燃焼時間が短縮して赤熱帯の厚みが減少し,ここでの圧損が低下し,吸引差圧一定の条件では,通過風量が増したためと考えられる。
条件Dでは,条件Aや条件Bと比較して急激な温度上昇の開始時間が早く,最高到達温度からの冷却は条件Bとほぼ同様であった。したがって,条件Dでは,条件Aと比較して,急激な温度上昇の開始が早く,最高到達温度からの冷却が緩やかであり,1200°C以上の保持時間が全条件中最も長くなった。
Fig.4にベッド表面より下方100mm,200mm,300mmの位置に挿入した熱電対の1200°C以上の保持時間を示す。条件Aでは,下層ほど1200°C以上の保持時間が長くなっている。条件Cでも条件Aと同様の傾向を示し,1200°C以上の保持時間が,条件Aと比較して短縮している。一方,条件Bでは,上層部における1200°C以上の保持時間が条件Aに対し,35s延長され,下層部の1200°C以上の保持時間が80s短縮している。条件Dでは,傾向は条件Bと類似しているが,ベッド表面から100mm位置における1200°C以上の保持時間が,条件Aと比較して65s,条件Bと比較して,さらに30s延長している。これより,ヒートパターンにおける,条件Dの1200°C以上の保持時間が条件Bと比較して延長していることが確認できた。

Effect of various gas injection on holding time over 1200°C.
Fig.5に各実験条件における焼結時間を示す。条件Aに対し,粉コークスとNGを併用した焼成条件Bでの焼結時間は殆ど差が見られなかった。一方,粉コークスのみを用いて酸素富化した条件Cでは,大幅に焼結時間が短縮した。また,粉コークスとNGを併用して用い,酸素富化した条件Dでは,条件Cよりも焼結時間は長いが,条件Aや条件Bに比べて短かった。

Comparison of sintering time in the pot test.
次にFig.6に各実験条件における,落下強度と焼結歩留を示す。条件Bでは落下強度,焼結歩留ともに条件Aよりも高かった。条件Cでは,落下強度は条件Aよりも若干高いが,焼結歩留は変わらなかった。また,条件Bと比較すると,落下強度,および焼結歩留共に低くなった。条件Dでは,条件BおよびA と比較して,落下強度,および焼結歩留が共に高くなった。

Comparison of cold strength and sinter yield in the pot test.
条件Dにおける酸素濃度の影響を調査するため,NG濃度を0.4vol.%で一定にしたまま,吸引空気中の酸素濃度を変更する実験を行った。Fig.7に粉コークスとNGを併用して酸素富化を行った条件Dにおける酸素濃度と落下強度との関係を示す。28vol.%までは酸素濃度の上昇に伴い,落下強度も向上したが,32vol.%まで酸素濃度を上昇させた水準では,28vol.%と比較して,大きな差は見られなかった。これは酸素富化による落下強度の向上効果が飽和していることを示している。また,Fig.8に吸引空気中の酸素濃度と焼結時間の関係を示す。酸素濃度の増加に伴い焼結時間が短くなった。

Effect of O2 concentration on the sinter strength with Case D.

Effect of O2 concentration on the sintering time with Case D.
3・1節に示したように,ヒートパターンの測定結果より,条件Aと比較し,粉コークスとNGを併用し,酸素富化を行わなかった条件Bでは,最高到達温度からの冷却が緩やかになることで,高温保持時間が延長した。前報3)にも示したように,焼結ベッド表面から吹き込まれたNGが粉コークス燃焼帯の上方で燃焼を開始し,その加熱されたガスが下方の赤熱帯へ吸引されるため,条件Aより冷却が緩やかになると考えられる。ここで,NGの約90%を構成するメタンガスの燃焼温度範囲は,真空条件,2~12vol.%濃度条件において,650~750°Cである11)。
粉コークスのみを用い,酸素富化した条件Cでは,条件Aと同一の粉コークス配合率であるにもかかわらず,急激な温度上昇の開始時間が早かった。最高到達温度からの冷却が急であり,また,最高到達温度も高くなった。これは,酸素濃度の上昇による粉コークスの燃焼速度の上昇によるものと推察される。
一般的な粉コークス中の炭素(C)の燃焼反応(C(s)+O2(g)=CO2(g))の反応速度式は,逆反応の速度を無視すると次式で表される12,13)。
| (1) |
R*C:反応速度(mol/s) kC:反応速度定数(m/s) nC:系中の炭素粒子の総数(-) r:炭素粒子半径(m) [O2]:酸素濃度(mol/m3)
この式において,炭素の燃焼速度は酸素濃度の増加に比例し速くなる。また,反応速度定数は,温度の影響を受け,温度の上昇に伴って大きくなる14)。Hottelらは炭素単球の粒子について燃焼速度の測定を行い,速度定数を報告しており15,16,17),それをMuchi and Higuchi18)の手法に倣って次式のように整理できる。
| (2) |
R:気体定数(cal/K/mol) T:温度(K)
ここで,炭素の燃焼温度は約800°Cとされており,(1),(2)式より求めた800°C付近での温度推移に伴う単位面積あたりの燃焼速度をFig.9に示す。800°Cにおける単位面積あたりの燃焼速度は,酸素濃度21vol.%で約47mol/s/m2,25vol.%で約56mol/s/m2,29vol.%で約65mol/s/m2と増加した。一方,酸素濃度21vol.%,温度800°Cにおける燃焼速度と同等となる燃焼条件は,酸素濃度25vol.%では約790°C,29vol.%では,約780°Cである。

Effect of temperature and O2 concentration on the combustion rate of carbon with Hottel Eq..
したがって,酸素濃度の上昇により,低温から炭材の燃焼が進行し,燃焼速度も増加するため,ヒートパターンにおける急激な温度上昇の開始時間が早くなったものと考えられる。
NGは約90%をメタンガス(CH4)で構成されている。一般的な炭化水素の燃焼反応速度式は,数多くの素反応の組み合わせで表される。例えば,メタンガス燃焼反応(CH4(g)+2O2(g)=CO2(g)+2H2O(g))では,メタンガスはいくつかの途中生成物(CH3,CH2O,HCO,CO,H2等)を経て,CO2やH2Oに変化する19)。ここで,メタンガスの燃焼速度式は次式で表される11)。
| (3) |
R*CH4:反応速度(mol/s/m2) kCH4:反応速度定数(m/s) [ i ]l:要素iの濃度(mol/m3) [O2]:酸素濃度(mol/m3) I, X:反応式における次数(-)
この時,反応速度定数kCH4は,k=A exp(−E/RT)で表されるアレニウスの式に従って整理されており,温度の関数である。また,(3)式において,炭素の燃焼速度と同様に酸素濃度の上昇に伴い燃焼速度が速くなる。
Fig.10において,全ての条件における高さ方向での凝結材(コークス),NGの燃焼位置とヒートパターンの関係を,点火後に同一時間経過した状態を想定した模式図で説明する。条件Aでは,コークスの燃焼は高さ方向の比較的狭い範囲で生じており,図中の(a)に示すようなヒートパターンを形成する。一方,条件Bでは,焼結ベッド表面から添加されたNGがコークスの燃焼位置に対して上方で燃焼することで,コークスの燃焼位置に供給されるガス温度が上昇し,コークス燃焼位置上方の焼結ベッドの冷却が緩和され,図中の(b)に示すようなヒートパターンを形成すると考えられる。また,条件Cでは,酸素濃度の上昇により,コークスの燃焼速度,および熱生成速度が増加するため,上方から流入する通過空気への対流伝熱による着熱効率が向上する。これにより,コークスの燃焼位置は下方に早く進行する。その結果,条件Cでは図中の(c)に示すような,条件Aと比較して下層へずれたヒートパターンを形成する。条件Dでは,条件Cと同様に酸素富化により燃焼位置が下層に進行する。一方,NGも同様に酸素濃度の上昇により,燃焼速度が増加するために,焼結原料表面から吹き込んでいるNGの燃焼は,より上方の低温側で生じる。これにより,条件Dでは条件Bよりも更にコークスおよびNGの燃焼位置間隔がさらに広がることで,図中の(d)に示すように,条件Bよりも1200°C以上の高温領域が拡大したヒートパターンを形成すると考えられる。

Schematic diagram of heat pattern and ignition behavior with Case A, B, D.
ヒートパターンに及ぼす各条件の影響について,メタンガスの燃焼を考慮に入れた数値シミュレーションモデルによる解釈を試みた3,20)。このモデルは,物質量,および熱量,運動量の保存則に基づいた基礎式によって規定されており,粉コークスの燃焼,CaCO3の分解,および水の蒸発と凝縮を焼結中の反応として考慮した。さらに,気体燃料吹き込み法における温度分布を計算するため,メタンガスの燃焼を考慮した。酸素富化とメタンガスの吹き込みは境界でのそれぞれの濃度を設定することで計算した。
まずシミュレーションモデル,およびラボ焼結鍋試験によって得られるヒートパターンを比較した。Table 3に示した粉コークスとNGを併用した焼成条件Bと同様に,粉コークス配合比を4.6mass%,NG濃度を吸引空気に対して0.4vol.%に設定し,点火後6min間のNG添加を計算条件として与えた。また,粉コークスのみを用い酸素富化した条件Cの計算条件における粉コークス配合比は5.0mass%,酸素濃度は吸引空気に対して28vol.%に設定した。Fig.11に原料表面から100mmの位置でのヒートパターンについて,実験結果と計算結果をあわせて示す。条件Bおよび条件C共に,800°C以上の高温領域では,実験結果と計算結果が良く一致しており,本モデルによる1200°C以上の高温領域におけるヒートパターンについては,シミュレーションモデルによる解釈が概ね可能と推察した。

Comparison of heat patterns between experimental value and calculated one at 100mm from the top surface of sintering bed.
ここでは粉コークスとNGを併用して用い酸素富化した条件Dにおける酸素濃度の影響を検討した。Fig.12にシミュレーションモデルにより,メタンガス濃度を0.4vol.%一定とした場合について,酸素濃度を変更した際の点火後200sでのヒートパターンを示す。ここではベッド表面から100mm下方までの範囲を計算対象とした。本計算におけるNGと酸素の添加は,Fig.11で設定したのと同じタイミングで行った。計算結果では,条件Bと比較して条件Dにおける酸素濃度を21%から28%,36%に増加させることにより,粉コークスの燃焼速度が最大となる位置が5mm程度ずつ下方となり,さらに最大燃焼速度は40mol/Bed-m3/s程度ずつ大きくなった。(以下,燃焼速度が最大となる位置を燃焼位置と記述する。)このことにより,粉コークスの燃焼速度の上昇により,燃焼位置の下方への進行は速くなったと考えられる。

Effect of the O2 concentration on the temperature distribution in the Case D with the simulation model at 200s after ignition.
メタンガスの燃焼位置は,酸素濃度の増加にかかわらず,変化しなかった。Fig.13に本モデルにおける酸素富化に伴うヒートパターンの変化の模式図を示す。図中の(a)に示すように,粉コークスの燃焼位置の下層へのシフトに伴い,ヒートパターン,およびメタンガスの燃焼位置も下層へシフトする。一方,4・1節で述べたように,NGの燃焼においては酸素濃度の上昇に伴い,燃焼速度が同等となる温度は低下するため,図中の(b)のようにメタンガスの燃焼位置は低温側,すなわち上方側にシフトする。したがって,NGと粉コークスの燃焼を合わせたヒートパターンの変化ではその位置での温度が低下するため,燃焼位置が変化していないと考えられる。したがって,粉コークスの燃焼位置のシフトがメタンガスの燃焼位置のシフトを相殺することで,メタンガスの燃焼位置の移動が粉コークスに比べて小さくなったものと考えられる。

Schematic diagram of heat pattern change with O2 enrichment in the simulation model.
以上のことより,粉コークスとメタンガスの燃焼位置の間隔が酸素濃度の上昇に伴い大きくなる。これに伴いヒートパターンがFig.12のように変化する。すなわち,酸素濃度21から28%に上昇すると1200°C以上の領域が25mmから35mmに拡大した。しかし,酸素濃度を36vol.%まで上昇させても,1200°C以上の領域は35mmのまま変化していなかった。これは酸素濃度が36vol.%の条件では,粉コークスとメタンガスの燃焼位置の間隔が過剰に大きくなり,メタンガスの燃焼がコークス燃焼終了後の冷却帯でのベッド内温度の冷却速度を緩和に寄与せず,1200°C以上の領域の拡大効果が飽和したものと推察される。
4・3 焼結特性に及ぼす酸素富化の影響Fig.4に示すように,負圧一定条件下での焼結実験において,粉コークスのみを用い酸素富化した条件Cでは,焼結時間が大幅に短縮し,これは前述したように,酸素富化により燃焼速度が上昇したことに起因していると推察される。一方,粉コークスとNGを併用して用い酸素富化した条件Dでは,条件Cよりも焼結時間が延長され,条件Bよりも焼成時間が短縮する結果となっていた。条件Cよりも条件Dにおいて焼結時間が延長した原因としては,NGと酸素の同時添加により,高温領域が拡大し,圧力損失が増加したためと推察される。Fig.14に層厚を400mm,出口側流速を0.6Nm3/s一定とした条件での点火後250sにおける条件C,および条件Dの層内温度分布と圧力分布の計算値を示す。圧力損失が条件Cでの0.12kPaから条件Dでは0.33kPaと増加するのに伴って,条件Dにおいて1200°C以上の高温領域が15mmから35mmへと拡大した。層全体での圧力損失は条件Cが2.06kPa,条件Dが2.23kPaとなっており,高温領域における圧力損失の差が,焼結層全体での圧力損失の差に表れている。一方,吸引風量一定の条件では,ヒートパターンにおける温度の急上昇位置に大きな差は表れなかった。ここでは,ヒートパターンにおける温度の急上昇位置をFrame Front:FFと呼ぶことにする。添加したNGの濃度は0.4vol.%と非常に小さく,酸素濃度の低下も最大で0.8vol.%程度であった。それゆえ燃焼性に大きな差は表れず,FFに大きな差が表れなかったものと考えられる。したがって,吸引負圧一定条件において条件Cよりも条件Dにおいて焼結時間が長くなったのは,高温領域の拡大による圧力損失の増加が主要因と考えられる。

Temperature distribution and pressure drop in the bed for Case C and D with simulation model.
条件Bよりも条件Dにおいて,1200°C以上の高温領域がより大きいにもかかわらず,焼結時間が短縮していた原因としては,高温領域の拡大による圧力損失増加の効果よりも,前述した酸素富化による粉コークスの燃焼性向上による効果が大きいことが推察される。Fig.15にFig.14で示した条件での条件B,および条件Dの層内温度分布と圧力分布の計算値を示す。条件Bと比較して条件Dにおいて1200°C以上の高温領域が25mmから35mmへと拡大しており,高温領域における圧力損失が条件Cでは0.23kPa,条件Dでは0.33kPaと増加した。また,条件Dでは,酸素富化による燃焼性の向上に伴う,ヒートパターンにおける温度の急上昇位置降下速度(Frame Front Speed:FFS)の増加が顕著に表れており,FFは条件Bと比較して,条件Dが15mm下方に進行していた。したがって,吸引負圧一定の計算条件において,条件Bよりも条件DのFFSが大きく,焼結時間が短いことから,圧力損失の影響を加味しても,酸素富化による粉コークスの燃焼性向上に伴うFFSの増加効果が大きいと考えられる。

Temperature distribution and pressure drop in the bed for Case B and D with simulation model.
Fig.6に示すように,落下強度・焼結歩留に関しては両値とも,条件Aと比較し,条件Bが高く,さらに条件Bと比較して条件Dが高かった。これは,Fig.4に示すように,上層部での高温保持時間が条件Aでは160s,条件Bでは195s,条件Dでは225sと,延長したためと推察される。焼結反応では,約1200°Cで融液が生成を開始するため,1200°C以上での高温保持時間が実質的な焼結反応時間となっており21),条件Dでは,条件Bよりも焼結反応が進行したために落下強度・焼結歩留が向上したものと推察される。一方,Fig.6にも示したように条件Cでは,条件Bよりも強度が低下していた。これは表層から100mm,200mmの熱電対における高温保持時間がそれぞれ110s,175s低下いることからも,焼結反応時間が短くなったためであると考えられる。条件Cでは条件Aと比較して,高温保持時間が短くなったにもかかわらず,Ishimitsuらの実験結果22)と同様に,落下強度,焼結歩留に変化は無かった。
Fig.16に各実験条件における,生産率と落下強度の関係を示す。ここで,生産率は焼結鉱の正味重量を試験鍋の断面積,および焼結時間で除して計算した。条件Dと条件Bを比較した場合,条件Dでは高温保持時間が延長し,焼結時間が短縮されたために,生産率,および冷間強度が向上した。一方,条件Dと条件Cを比較した場合,高温保持時間は大幅に延長されたために,冷間強度は大幅に向上し,若干の焼結時間の延長が見られるが,冷間強度の向上に伴う歩留の向上により,生産率も向上している。条件B,および条件Cにおける生産率と冷間強度の向上効果を,単純に合算した場合と比べて,条件Dでは落下強度と生産率が向上しており,これはNGと酸素を同時に使用することによる,いわゆる相乗効果によるものである。

Relationship between productivity and cold strength in pot test.
(1)気体燃料と酸素を併用して添加することによって,焼結鉱の冷間強度が大幅に向上した。これは,焼結時の1200°C以上の保持時間が延長しており,焼結反応が促進されたためと考えられる。
(2)保持時間の延長は,酸素濃度の上昇に伴い,粉コークスと気体燃料の燃焼位置の間隔が大きくなることによるものと考えられる。
(3)粉コークスとNG0.4vol%を併用し,酸素富化した焼成条件において,酸素濃度が32vol.%まで上昇させた条件では,落下強度の向上効果が飽和した。これは,凝結材とNGの燃焼位置間隔が拡大しすぎることによって,NGの燃焼が1200°C以上の領域の拡大に寄与しなくなったためと考えられる。
(4)粉コークスとNGを併用し,酸素富化した焼成条件では,NG添加の効果,酸素富化の効果を単純に合算したものよりもNGと酸素を同時使用することによる相乗効果によって,落下強度と生産率がより向上している。