Tetsu-to-Hagane
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Effect of Oil Film Thickness on Lubrication Property in Hot Rolling
Yukihiro MatsubaraToshiki HirutaYukio Kimura
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2014 Volume 100 Issue 3 Pages 346-351

Details
Synopsis:

In hot rolling, lubrication between the work roll and hot strip plays an important role in reducing rolling force and protecting the work roll surface. However, the tribological behavior in hot rolling has not been clarified sufficiently. In this work, the effects of oil amount on the coefficient of friction in hot rolling were investigated in comparison with the case of cold rolling. The oil amount in hot rolling was measured by the amount of oil remaining on the work roll surface after rolling. The results of rolling tests clarified the following points: The coefficient of friction is reduced adequately with a small amount of oil. If the oil amount is increased, a few small oil-pits will form, but no further decrease in the coefficient of friction will be achieved. It is suggested that boundary lubrication is controlling in hot rolling, which is different from the case of cold rolling.

1. 緒言

薄鋼板の熱間圧延においては,圧延荷重の低減による電力原単位の向上,ロール面荒れの防止,および,鋼板表面品質の改善を目的に,ロールバイトに潤滑油を供給しながら圧延することが一般的である1)。一方,地球環境負荷軽減への関心の高まり,大圧下圧延による超微細粒鋼板の創製2,3)など,熱間圧延における潤滑の役割はますます重要になりつつある。

しかしながら,熱間圧延では,圧延材が高温であるなどの理由のため,ロールバイトでの潤滑油の挙動に関する報告は少なく4,5,6),冷間圧延の場合に比べ,圧延特性に及ぼす潤滑油条件の影響や潤滑機構など,十分に明らかにされているとは言い難い。Azushimaらは,熱間すべり圧延実験において,エマルション濃度が摩擦係数に及ぼす影響を調査し,エマルション濃度が1%までは,濃度の増加とともに摩擦係数は低下するが,濃度が1%を越えると,濃度を増加しても摩擦係数は一定になると報告5)している。また,圧延後の鋼板表面に残存する,潤滑油成分であるCa量を測定することにより,ロールバイトに導入された油膜厚みを半定量的に同定し,ある油膜厚みを超えると,摩擦係数は一定になると報告7)している。

本研究では,熱延潤滑特性に及ぼす油膜厚みの影響を,冷延潤滑特性の場合と比較しながら,基礎的に調査した。従来,冷間圧延では,ロール径や潤滑油粘度などの圧延条件から油膜厚みを推定8,9,10)している。例えば,Azushimaらは,ロールバイトに導入される油膜厚みは,圧延後鋼板のオイルピット量,すなわち,表面光沢度と関係があるとし,レイノルズ方程式から理論的に導かれる油膜厚みと表面光沢度はほぼ相関することを示している10)。しかしながら,熱間圧延では,スケールの破壊などを伴うため,冷間圧延と同様の手法で油膜厚みを推定することは困難であり,Azushimaらの研究7)においても,Ca量の測定により,油膜厚みを半定量的に推定しているのみである。また,熱間圧延後の鋼板表面のオイルピットを観察した報告はない。そこで,本研究では,熱間圧延後のワークロールに残存した潤滑油の重量を測定することにより,ロールバイトの油膜厚みを推定した。さらに,鏡面に研磨されたワークロールで鏡面に研磨された供試材を圧延することにより,圧延時に発生するオイルピットの観察を試み,熱間圧延の潤滑機構について考察した。

2. 実験方法

圧延条件をTable 1に示す。ワークロールは,直径340 mmのハイスロールであり,Crめっき後研磨することにより0.02 μmRa以下の鏡面に仕上げた。供試材には,SUS316耐熱鋼を用い,寸法を2 mm厚×100 mm幅,表面を0.02 μmRa以下まで研磨した。熱間圧延時にスケールが発生し難いこと,また,熱間から冷間圧延の温度範囲においてγ単相であることから,SUS316耐熱鋼を用いた。

Table 1. Experimental conditions.
hot rollingcold rolling
mill2Hi φ340 mm (<0.02 μmRa)
work piece size2 mmt × 100 mmw (<0.02 μmRa)
rolling velocity50 mpm
reduction6.2~6.9%5.4~6.1%
lubricant110 mm2/s38 mm2/s
rolling temp.973 KR.T.
initial oil amount0~52900 mg/m2

圧延条件は,ワークロール回転速度を50 mpm,圧下率を6%前後で一定とし,熱間,および,冷間圧延を行い,両者を比較した。熱間圧延では,合成エステルを主成分とする,313Kで動粘度が110 mm2/secの潤滑油を用いて,1173Kで20 min.間加熱した後,973K程度で圧延を行った。冷間圧延では,合成エステルを主成分とする,313Kで動粘度が38 mm2/secの潤滑油を用いて,室温で圧延を行った。圧下率を低く設定したのは,無潤滑(塗油量0 g/m2)の場合においても,鋼板表面に焼き付きが発生しないようにするためである。

Fig.1に圧延方法,ワークロール残存油量の測定方法を模式的に示す。本実験では,ロールバイトの油膜厚みを変化させるため,ワークロールへの塗油量を,0 mg/m2から最大52900 mg/m2の間で7~8水準変化させて塗油した。実生産ラインでは,所定濃度のエマルションをワークロールに供給する方式が一般的であるが,本実験では,塗油量を大きく変化させ,均一に塗油するため,所定量の潤滑油原液をワークロールに直接滴下して塗油した。

Fig. 1.

 Schematic illustration of experimental procedure.

圧延後のワークロールに残存した潤滑油量を測定した4)。残存油量は,ワークロールに塗油された油量のうち,ロールバイトに引き込まれ,かつ,燃焼することなく,ワークロールに残存した油量であるので,少なくとも,圧延時にロールバイトに存在し,潤滑に寄与した潤滑油の量と言える。残存油量の測定は,圧延後のワークロールで,圧延材と接触した部分のうち,80 mm幅×250 mm長さの面積部分をn-ヘキサンで十分に脱脂し,ソックスレー抽出により,油量を秤量して求めた。また,ワークロールへの初期塗油量は圧延材と接触しなかった部分から,板残存油量は圧延後の鋼板表面から,それぞれ,同様に測定した。

各圧延条件での摩擦係数を逆算した。変形抵抗を温度,ひずみ,ひずみ速度で定式化することは可能であるが,板厚方向での温度分布,ひずみ速度分布が大きいため,逆に計算精度に問題があると考えられる。そこで,熱間圧延では,無潤滑時の摩擦係数が0.35になるように,平均変形抵抗を333MPaに,冷間圧延では,無潤滑時の摩擦係数が0.20になるように,平均変形抵抗を545MPaに仮定し,潤滑油量を変更した各条件では,上記の平均変形抵抗と圧延実績から摩擦係数を逆算した。

得られた鋼板表面について,レーザ顕微鏡を用いてオイルピット発生状況を観察した。

3. 実験結果

3・1 圧延荷重に及ぼす潤滑油塗油量の影響

Fig.2にワークロールへの塗油量を変化させた場合の圧延荷重の変化を冷間と熱間圧延とで比較して示す。冷間,熱間圧延のいずれの場合も,塗油量とともに圧延荷重は低下し,ある一定の塗油量を超えると,圧延荷重は一定になる傾向にある。

Fig. 2.

 Effect of initial oil amount on rolling load.

3・2 残存油量の測定

Fig.3にワークロールへの塗油量を変化させた場合の,ロール残存油量の変化を示す。冷間圧延では,塗油量の増加とともに残存油量も増加し,塗油量が1000 mg/m2を超えると,残存油量は一定になる。冷間圧延では,ロールバイトに引き込まれる油量は,ロール径,圧延速度などの圧延条件から推定でき,塗油量が多くなると,ロールバイトに引き込まれる油量が飽和することが知られており11,12),本実験結果もその傾向を示している。一方,熱間圧延においては,本実験の範囲においては,塗油量の増加とともに残存油量も増加する傾向が確認された。このことから,熱間圧延と冷間圧延では,ロールバイトへの潤滑油の導入機構が異なっている可能性が考えられる。

Fig. 3.

 Relationship between initial and remained oil amount.

3・3 摩擦係数と残存油量の関係

Fig.4に残存油量と逆算摩擦係数の関係を示す。冷間圧延では,残存油量が600 mg/m2までの範囲において,油量の増加とともに摩擦係数が単調に低下する傾向が確認され,流体潤滑領域の拡大による摩擦係数の低下と考えられる。一方,熱間圧延では,150 mg/m2程度までは摩擦係数が低下するものの,それ以上に油量が増加しても摩擦係数は一定のままである。

Fig. 4.

 Relationship between remained oil amount and calculated coefficient of friction.

4. 考察

4・1 オイルピットの観察

以上のように,熱間圧延と冷間圧延では,潤滑挙動が異なる傾向が確認された。この挙動の相違を考察するため,圧延された鋼板表面のオイルピットの観察を試みた。

Fig.5に各条件で圧延された鋼板表面を3次元的に観察した結果を示す。冷間,熱間圧延いずれの場合も,塗油量0 mg/m2の場合,鋼板表面はほぼ平滑である。これに対し,冷間圧延では,塗油量が多くなるとともに表面の凹みが顕著に観察され,オイルピットが形成されていることが分かる。一方,熱間圧延においても,冷間圧延ほど明瞭ではないが,わずかにオイルピットが形成されている。

Fig. 5.

 Comparison of sheet surface by 3D observation between hot and cold rolling.

オイルピット体積を定量的に比較した。Fig.6に鋼板の2次元断面プロフィールを示すように,基準線以上の面積がほぼ一定になるように基準線を設定し,278 μm×208 μmの測定面積において,基準線以下の体積を求め,オイルピット体積とした。Fig.7にワークロールへの塗油量を変化させた場合のオイルピット体積の変化を示す。冷間圧延では,塗油量の増加とともにオイルピット体積は増加し,1000 mg/m2を超えると一定になる。一方,熱間圧延では,塗油量を増加してもオイルピットはほとんど増加しないことが分かる。Fig.8にオイルピット体積と逆算摩擦係数の関係を示す。Fig.4に,熱間圧延では,残存油量が増加してもオイルピット体積が増加しないことを示したが,オイルピット体積が増加しないため,摩擦係数が低下しないことが示唆される。

Fig. 6.

 Comparison of sectional profile between hot and cold rolling.

Fig. 7.

 Effect of initial oil amount on volume of oil-pits.

Fig. 8.

 Relationship between volume of oil-pits and calculated coefficient of friction.

ワークロール,鋼板表面ともに鏡面に研磨し,スケールが生成し難い供試材を用いて圧延することにより,熱間圧延においても,オイルピットが発生することを確認した。しかしながら,冷間圧延では,残存油量490 mg/m2の条件で,直径50 μm前後,深さ0.5 μm以上の明瞭なオイルピットが多数観察されるのに対し,熱間圧延では,残存油量1060 mg/m2と,冷間圧延の2倍以上の油量がワークロールに残存する条件においても,直径20 μm前後,深さ0.2 μm程度の微小なオイルピットがごく少数観察される程度である。

このように,熱間圧延では,明瞭なオイルピットは形成されず,ロールバイトに導入された潤滑油は,冷間圧延のように,鋼板を凹ませてオイルピットを形成するのではなく,高温のロールバイトで粘度が著しく低下するため,鋼板を凹ませることができず,ロールと鋼板の境界に均一な,油膜として存在している可能性が推定される。

4・2 熱延潤滑と冷延潤滑の潤滑機構の比較

熱延潤滑と冷延潤滑の潤滑機構の相違を比較しながら,熱延潤滑機構について考察する。熱延潤滑機構につては,小豆島らが,導入油量が少ない範囲では潤滑膜領域と水潤滑領域の混合潤滑であり,導入油量とともに摩擦係数が低下すること,および,ある導入油量を超えると,摩擦係数はそれ以上低下せず一定となり,境界潤滑的であるとの潤滑モデルを提唱している5,7)。これに対し,本研究は,ロールバイトで圧延材とワークロール間に存在したであろう油量を測定し,さらに,圧延材とワークロール表面を鏡面に研磨して圧延実験を行うことにより,ロールバイトでの圧延材とワークロール界面での潤滑油の挙動を推定し,考察を加えた。

Fig.9にロールバイト油膜厚みと摩擦係数の関係を整理した結果を示す。ロールバイト油膜厚みは,圧延後の鋼板表面とワークロール表面に残存した油量の和が,平均的な厚みの油膜として存在していたと仮定して算出したものである。なお,冷間圧延では,鋼板に残存した油量とワークロールに残存した油量は同程度であった。一方,熱間圧延後の鋼板には50 mg/m2程度の油量しか残存しておらず,鋼板に残存すべき油量は,ロールバイト出側で燃焼してしまった可能性も推定される。

Fig. 9.

 Relationship between oil film thickness and calculated coefficient of friction.

冷間圧延における潤滑機構は,境界潤滑と流体潤滑がある比率で存在する混合潤滑である。ロールバイトの油膜が厚くなるほど流体潤滑領域が増して,それに伴いオイルピットが形成されるとともに,摩擦係数が低下すると理解されている。これまでに述べたように,本実験でも同様の結果が確認され,ロールバイト油膜厚が1.0 μm程度まで単調に摩擦係数が低下した。一方,熱間圧延では,板厚,圧下率,ロール粗さなどの圧延条件は冷間圧延と同じであるが,0.3 μm程度のロールバイト油膜厚みで摩擦係数は十分に低下しており,それ以上油膜を厚くしても,摩擦係数は低下しない。これは,Fig.6などに示した,油量を多くしてもオイルピットがほとんど形成されない観察結果と合致するものである。以上のように,熱間圧延では,ロールバイトに1.0 μm以上の厚みの油膜が存在しても,流体潤滑による摩擦係数の低下が起こらないことが示唆される。

以上のように,冷間圧延と熱間圧延では,潤滑機構が全く異なることが示された。Fig.10に熱間圧延の潤滑機構,ロールバイトで推定される潤滑油状態の模式図を,冷間圧延と比較して示す。

Fig. 10.

 Schematic illustration of lubricant model on hot and cold rolling.

熱間圧延において,導入油量の少ない,図中(a)で示す範囲では,ワークロールと圧延材が直接接触する乾燥摩擦領域と潤滑膜を介して接触する境界潤滑領域が共存する範囲と考えられ,摩擦係数μは,(1)式で表される。ここで,μd;乾燥摩擦領域の摩擦係数,μb;境界潤滑領域の摩擦係数,α;ロールと鋼板が直接接触している面積比率である。   

μ=α μd+ (1a)μb(1)

油膜が厚くなると,直接接触面積比率αが小さくなる。また,境界潤滑領域の摩擦係数μbは乾燥摩擦領域の摩擦係数μdよりも小さい。このため,油膜厚みの増加とともに摩擦係数は低下し,α=0,すなわち,乾燥摩擦領域がなくなった場合に,μ=μbとなる。

一方,導入油量の多い,図中(b)に示す範囲では,乾燥摩擦領域はなくなり,冷間圧延と同様に考えると,境界潤滑領域と流体潤滑領域が共存する範囲と考えられ,摩擦係数μは,(2)式で表される。ここで,μf;流体潤滑領域の摩擦係数,β;流体潤滑領域の面積比率である。   

μ=β μf+ (1β)μb(2)

冷間圧延では,油膜を厚くすると,摩擦係数の小さい流体潤滑領域が拡大するため,摩擦係数は低下する。これに対し,熱間圧延では,油膜を厚くしても,高温下で潤滑油の粘度が著しく低く,潤滑性のない準固体的な油膜として存在すると推定され,流体潤滑は起きないと考えられる。このため,β=0であり,油膜厚みに関係なく,μ=μbとなる。

熱間圧延と冷間圧延の潤滑機構の特徴を以下のように整理する。冷間圧延では,ロールバイトの油膜を厚くすると,流体潤滑の比率が高くなるため,摩擦係数は低下する。また,それに伴い,オイルピットが発生する。これに対し,熱間圧延では,ロールと鋼板の直接接触を防止できれば,薄い油膜でも摩擦係数は十分に低下する一方,それ以上油膜を厚くしても,オイルピットはほとんど形成されず,摩擦係数は低下しない。これは,高温のロールバイトで潤滑油の粘度が極端に低下し,流体的な潤滑挙動を示さないためと推定され,流動性のない油膜がロールと鋼板間に存在し,境界潤滑的な状態にあることが示唆される。

5. 結言

0.02 μmRa以下に研磨したワークロールと鋼板を用いた圧延実験において,圧延後のワークロール表面に残存した油量を秤量し,さらに,鋼板表面のオイルピットを観察することにより,熱間圧延時の潤滑挙動を冷間圧延の場合と比較して,以下の知見を得た。

(1)冷間圧延では,ワークロール残存油量の増加とともに,摩擦係数は低下するのに対し,熱間圧延では,150 mg/m2程度の油量で摩擦係数は十分に低下し,それ以上に油量を増加しても,摩擦係数は低下しない。このように,熱間圧延では,冷間圧延とは異なる潤滑機構が確認された。

(2)冷間圧延では,ワークロール残存油量の増加とともに,明瞭なオイルピットが観察されるのに対し,熱間圧延では,残存油量が1000 mg/m2を超えた場合も,極めて小さいオイルピットが観察されるのみである。

(3)熱間圧延と冷間圧延の潤滑機構の相違の原因として,オイルピット形成機構の相違が考えられる。熱間圧延では,高温のロールバイトで,潤滑油の粘度が著しく低下していることが影響していると推定される。

文献
 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

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