Tetsu-to-Hagane
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Mechanism of Bleed Defect at Slab Surface with Pulsative Electromagnetic Casting
Masahiro TaniTooru MatsumiyaMasafumi ZezeTakehiko TohKazuhisa TanakaShinich Fukunaga
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2014 Volume 100 Issue 4 Pages 556-562

Details
Synopsis:

In order to improve the surface qualities of continuously-cast slabs, the pulsative electromagnetic casting (EMC) technique was developed. However, when the plant test was carried out, bleeds occurred at the slab surface. In this work, the mechanism of formation of the bleeds was investigated experimentally, and the numerical simulation of the flow of molten steel and mold flux was also conducted. The thickness of molten mold flux above steel decreased due to the increase in flux consumption when applying the electromagnetic force and the interface between the molten steel and flux fluctuated locally due to the interference of molten steel flows. The bleeds were considered to be caused by insufficient lubrication with mold flux. As countermeasures, the local fluctuation of interface between the molten steel and flux was stabilized by applying a suitable coil current, and the thickness of the molten mold flux was increased by using a flux with a higher melting rate. Finally the bleeds were diminished and a smooth cast surface without defects was obtained at the plant test of the pulsative EMC technique by applying these countermeasures.

1. 緒言

鋼の連続鋳造における初期凝固部,すなわち,鋳型の溶鋼湯面近傍に電磁ピンチ力を印加する電磁鋳造(Electromagnetic Casting:EMC)技術を用いると,初期凝固現象と溶鋼流動を制御することができて,鋳片の表面品質の改善が期待できる。鋼の電磁鋳造技術は,1990年頃から日本を中心に研究開発され,数値シミュレーションや低融点合金の鋳造試験による基礎検討1,2),ビレット鋳片を対象にした鋼の鋳造試験3,4)が実施された。さらに,その後,a)電磁ピンチ力を間欠的に印加するパルス電磁鋳造(パルスEMC)技術5,6,7),b)100 kHzの交流磁場を印加する超高周波電磁鋳造技術8),c)電磁ピンチ力を2つのコイルから鋳型振動と同期させて印加する電磁オシレーション技術9),d)交流磁場に直流磁場を重畳させて印加する技術10)が提案された。上記a)~d)の電磁鋳造技術は,一般財団法人 金属系材料研究開発センター(JRCM)が実施した「エネルギー使用合理化金属製造プロセス開発」11)において,ビレット等の比較的小さな断面を有する鋳片を対象にした連続鋳造への適用に関して検討され,鋼の160 mm角ビレット鋳片6),155 mm角ビレット鋳片8)を対象にしたプラント鋳造試験が行われた。

また,韓国では,電磁鋳造技術に関して,鋼のパイロット鋳造試験12),163 mm角ビレット鋳片を対象にしたプラント鋳造試験13)が実施され,さらに,マグネシウム合金のビレット鋳片を対象にした連続鋳造への応用も報告されている14)

さらに近年,中国においても,電磁鋳造技術に関して,数値シミュレーションによる検討15,16),ビレット鋳片を対象にした低融点合金の鋳造試験17),鋼のパイロット鋳造試験18)等による研究開発が精力的に行われている。

しかし,上記の研究開発はいずれも,比較的小さな断面を有する鋳片を対象にした連続鋳造への電磁鋳造技術の適用に関する検討である。プラントサイズの大断面スラブ鋳造の場合,鋳型の断面積はビレット鋳造の数倍から10倍以上となり,電磁鋳造時の溶鋼湯面の不安定化が懸念される。また,溶鋼に適切な電磁ピンチ力を印加しつつ,連続鋳造に必要な機械的強度を確保できる鋳型構造の検討も必要である。

著者らは,パルス電磁鋳造技術を用いて,幅1200 mm,厚み250 mm,および幅1600 mm,厚み250 mmといった大断面スラブ鋳片を対象にしたプラント鋳造試験を行い,注湯量制御等,操業性に関して電磁ピンチ力を印加しない通常の鋳造と同様であり,長時間の安定鋳造ができることを示した19)

しかしながら,パルス電磁鋳造技術を用いた大断面スラブ鋳片のプラント鋳造試験の当初,鋳片表面にブリード欠陥が発生した。ブリード欠陥は通常の操業では発生せず,電磁ピンチ力を間欠印加した鋳片のみで発生した。ブリード欠陥が発生すると,パルス電磁鋳造による鋳片表面品質の改善効果を享受することができず,その抑制が大きな課題であった。

本報では,パルス電磁鋳造時における鋳片のブリード欠陥の発生状況,数値シミュレーションによる溶鋼流動と湯面挙動の検討,ラボ実験と数値シミュレーションによる抑制方法の検討,鋳造試験による改善効果の検証,パルス電磁鋳造時におけるブリード欠陥の発生と抑制機構に関して報告する。

なお,本報告内容は,独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と新日本製鐵(株)(現:新日鐵住金(株))との共同研究「省エネルギーと高品質化のための高効率スラブ鋳片電磁鋳造技術の研究開発」において得られた成果の一部である。

2. ブリード欠陥発生状況

新日本製鐵(株)(現:新日鐵住金(株))の八幡製鐵所製鋼工場の垂直曲げ連続鋳造機において,幅1200 mm,厚み250 mm,および幅1600 mm,厚み250 mmの低炭素アルミキルド鋼のスラブ鋳片を対象にしたプラント鋳造試験を行った。そして,電磁ピンチ力を間欠印加することにより,鋳片表面のオシレーションマークの深さが,大断面スラブの鋳造において大幅に低減することを示した19)

しかしながら,プラント鋳造試験の開始当初,鋳片表面のブリード欠陥が発生した。この時のコイル電流値は,ビレットの鋳造試験3,6)において鋳片表面品位の改善効果が得られた電磁ピンチ力(鋳型内最大磁束密度:0.1 T)が幅1200 mmのスラブにおいて得られる条件,すなわち4500 Aであり,交流磁場の周波数は60 Hz,電磁ピンチ力の間欠印加における印加時間と非印加時間の比(Duty)は50%である。また,2孔下向き35度の浸漬ノズルを用いて,鋳造速度は1.2 m/minとした。なお,電磁鋳造用のコイルの高さは400 mmであり,コイル上端を電磁ピンチ力の非印加時の溶鋼湯面高さに合わせて設置した。

Fig.1に,幅1200 mmの鋳片のショットブラスト後の写真,Fig.2にブリード欠陥部の鋳片表層の凝固組織写真を示す。ブリード欠陥は,電磁ピンチ力の間欠印加時において鋳片の長辺表面上,短辺から150~300 mmの位置に発生している。また,凝固殻が一旦破断し,漏れ出た溶鋼が破断部近傍で再凝固した形態をしていることが分かる。

Fig. 1.

 Surface appearance of cast slab with bleeds (Width: 1200 mm, Thickness: 250 mm).

Fig. 2.

 Bleed defect. (a) Surface appearance of bleed. (b) Solidification structure in the vicinity of bleed (Cross section: A-A’).

Fig.3に鋳造試験における連鋳フラックスの消費量を,電磁ピンチ力を印加しない場合の値で規格化して示す。電磁ピンチ力の間欠印加によりフラックスの消費量が36%増加しており,凝固殻と鋳型との間隔が拡大していると考える。また,Fig.4に鋳造中の溶融フラックス層厚みを示す。電磁ピンチ力の間欠印加により,溶融フラックス層厚みは減少し,特に短辺近傍では3~4 mmであることが分かる。

Fig. 3.

 Comparison of mold flux consumption between with and without EMC.

Fig. 4.

 Comparison of thickness of molten flux above steel between with and without EMC. S1/4: 1/4 of slab width from narrow face. S-50: 50 mm from narrow face.

以上のことから,電磁ピンチ力の間欠印加により溶融フラックス層厚みが減少し,何らかの要因で特に短辺近傍において溶融フラックス層厚み減少の影響が大きく,フラックスによる潤滑が不十分となり,ブリード欠陥が発生していることが推測できる。文献20)にオイル鋳造における溶鋼湯面変動起因の潤滑不良によるブリード発生機構に関する報告があるが,パルス電磁鋳造時におけるブリード欠陥も同様の事象が関与していると考える。

すなわち,短辺近傍においてフラックスによる潤滑が不十分になる現象の把握と改善,さらに,溶融フラックス層厚みを増加させることにより,ブリード欠陥が抑制できると考える。

3. パルス電磁鋳造時の溶鋼流動と湯面挙動

電磁ピンチ力の間欠印加時における溶鋼流動状態と,溶鋼湯面挙動を把握するため,電磁場解析と流体解析を連成させた数値シミュレーションを行った。具体的には,コイル,溶鋼,鋳型を考慮した電磁場解析21)を行い,さらに,電磁場によって発生する電磁ピンチ力を外力とし,Volume of Fluid(VOF)法22)を用いて溶鋼と溶融フラックスの二相流の非定常流動計算を行った。密度,粘度に関しては加成性を仮定し,乱流モデルとしてはLarge Eddy Simulation(LES)モデル23)を用いた。ここで,溶鋼湯面近傍では電磁ピンチ力の印加に伴う流動が支配的であり,浸漬ノズルからの溶鋼吐出流は,溶鋼湯面近傍の流動への影響が少ないと仮定して,考慮しなかった。

以下に数値シミュレーションに用いた基礎式を示す。

電磁場による誘導電流分布式,   

J0=×(1μe)×A+σ(At+φ)(1)

電磁ピンチ力の式,   

F=σ(At+φ)×(×A)(2)

質量保存式(溶鋼,溶融フラックス),   

αst+Uαs=0(3)
  
αft+Uαf=0(4)

運動量保存式(溶鋼,溶融フラックス),   

t(ρU)+(ρUU)=P+μU+ρg+αsF(5)
  
ρ=αsρs+(1αs)ρf(6)
  
μ=αsμs+(1αs)μf(7)

ここで,J0:電流密度(A/m2),μe:透磁率(H/m),A:磁束密度に対するベクトルポテンシャル(Wb/m),σ:導電率(S/m),t:時間(s),φ:電位のスカラーポテンシャル(V),F:電磁ピンチ力(N/m3),αs:溶鋼の体積分率(−),αf:溶融フラックスの体積分率(−),U:流速(m/s),P:圧力(Pa),g:重力加速度(m/s2),ρ:密度(kg/m3),ρs:溶鋼の密度(kg/m3),ρf:溶融フラックスの密度(kg/m3),μ:粘性係数(Pa s),μs:溶鋼の粘性係数(Pa s),μf:溶融フラックスの粘性係数(Pa s)である。なお,流体解析には,数値流体解析用ソフトウェアであるFLUENTを使用した。

鋳造試験においてブリード欠陥が発生したコイル電流値が4500 A,電磁ピンチ力の間欠印加における印加時間と非印加時間の比(Duty)が50%の条件でのシミュレーション結果として,Fig.5に溶鋼湯面近傍の溶鋼流動の流速ベクトル図,Fig.6に溶鋼湯面形状の非定常変化を示す。ここで,Fig.5Fig.6共に,鋳型内における溶鋼湯面近傍の1/4領域(鋳型幅の1/2領域,鋳型厚の1/2領域)の斜視図である。Fig.6から溶鋼湯面近傍,短辺から150~200 mmの長辺近傍において溶鋼湯面が高さ方向に約20 mm変動していることが分かる。

Fig. 5.

 Estimated flow pattern of molten steel when applying coil current of 4500 A. (Perspective view of 1/4 region close to interface between molten steel and flux).

Fig. 6.

 Estimated interface shape between molten steel and flux when applying coil current of 4500 A. (Perspective view of 1/4 region of interface between molten steel and flux).

Fig.7に電磁鋳造時において電磁ピンチ力により鋳型内に誘起される溶鋼流動の模式図を示す。電磁ピンチ力は鋳造方向に垂直な断面内では常に鋳型から鋳型の中心へ向かう方向に作用し,その大きさは鋳造方向に対してコイルの高さ中心近傍で最大となる。そのため,鋳型内のコイル近傍において,コイル高さ中心近傍では鋳型から鋳型の中心へ向かう方向の溶鋼流動,溶鋼湯面近傍では鋳型の中心から鋳型に向かい,かつ鋳型近傍の初期凝固部では鋳造方向に向かう溶鋼流動が誘起される。

Fig. 7.

 Schematic view of induced flow due to electromagnetic field.

Fig.5において,短辺から150~200 mmの長辺近傍は,電磁ピンチ力による誘起溶鋼流動(Fig.5中[a])と短辺から鋳型幅中心に向かう溶鋼流動(Fig.5中[c])が干渉している領域であり,鋳造試験においてブリード欠陥が発生した位置にあたる。ここで,短辺から鋳型幅中心に向かう溶鋼流動(Fig.5中[c])は,電磁ピンチ力による誘起溶鋼流動(Fig.5中[b])が短辺に衝突し,一部が反転して発生していると考える。この溶鋼流動の干渉により,溶鋼湯面が局所的かつ非定常に変動して,フラックスによる潤滑が不十分となっていると考える20)

4. ブリード欠陥抑制方法の検討

4・1 フラックス溶融層厚み増加

まず,連鋳フラックスの溶融速度を大きくして,溶融フラックス層厚みを増加させることを試みた。具体的には,連鋳フラックス中の低融点成分であるNa2O量を1.8 mass%から6.0 mass%に増加させた(Table 1)。Fig.8に溶融速度の評価手法を示す。るつぼに充填させた連鋳フラックス(体積:1×10−6 m3)を1673 Kに保持した大気雰囲気の電気炉中に90秒挿入し,空冷後,連鋳フラックスの溶融速度を(8)式で評価した。   

Melting rate=(WSWn)/WS/t(8)

Table 1. Properties of mold flux.
CaO/SiO2Al2O3 (mass%)Na2O (mass%)Viscosity (Pa s)Melting temperature (K)
Previous flux1.074.61.841433
Improved flux1.079.06.041413
Fig. 8.

 Procedure to estimate melting rate of mold flux.

ここで,Ws:溶融前のフラックス重量(kg),Wn:未溶融のフラックス重量(kg),t:1673 K保持時間(90 s)である。

Fig.9に改善前後のフラックスの溶融速度を示す。ここで,縦軸は,改善前の値で規格化している。低融点成分であるNa2O量を1.8 mass%から6.0 mass%に増加させることにより,溶融速度が約2倍となっていることが分かる。

Fig. 9.

 Melting rates of mold fluxes.

電磁鋳造時においても,鋳型内の溶融フラックス層の厚みを増加させ,ブリード欠陥の発生要因を低減できる可能性があるフラックスの改善ができた。

4・2 局所的な溶鋼湯面変動の抑制

次に,前述の数値シミュレーションを用いて,局所的な溶鋼湯面の変動を抑制できる電磁ピンチ力の印加条件を探索した。具体的には,短辺から鋳型幅中心に向かう溶鋼流動(Fig.5中[c])を低減させるため,コイル電流値を下げた条件を検討した。コイル電流値が3900 A,Dutyが50%の条件でのシミュレーション結果として,Fig.10に溶鋼湯面形状を示す。短辺から150~200 mmの長辺近傍における局所的な溶鋼湯面変動は発生していないことが分かる。なお,この条件における,鋳型内最大磁束密度は0.09 Tである。

Fig. 10.

 Estimated interface shape between molten steel and flux when applying coil current of 3900 A. (Perspective view of 1/4 region of interface between molten steel and flux).

溶鋼湯面形状,溶鋼流動状態の数値シミュレーションの結果,電磁ピンチ力の間欠印加時においても溶鋼湯面挙動を安定化して,ブリード欠陥の流体力学的な発生要因を低減できる見込みを得た。

5. 鋳造試験結果

ブリード発生機構と抑制方法の検討結果を元に,鋳造試験を実施した。具体的には,低炭アルミキルド鋼を,下向き35度の浸漬ノズルを用いて,幅1200 mm,厚み250 mm,鋳造速度1.2 m/minで鋳造した。ブリード欠陥対策としては,以下の2水準を試験した。

水準1:①電磁ピンチ力印加条件の適正化(コイル電流値:3900 A,Duty:50%)

水準2:①電磁ピンチ力印加条件の適正化(コイル電流値:3900 A,Duty:50%)

②溶融速度を増加させた改善フラックス適用

Fig.11に鋳片表面のブリード欠陥数(鋳造長1 m中の個数)を,改善前のデータと共に示す。水準1において電磁ピンチ力印加条件の適正化によりブリード欠陥数は大幅に低減し,さらに,水準2において電磁ピンチ力印加条件の適正化に加えて溶融速度を増加させた改善フラックスを適用することによりブリード欠陥は解消していることが分かる。Fig.12にショットブラスト後の水準2の鋳片写真を示す。短辺近傍を含む全面において鋳片表面のブリード欠陥が解消している。

Fig. 11.

 Comparison of number of bleeds when applying different coil currents and fluxes.

Fig. 12.

 Surface appearance of cast slab that was improved by applying a suitable coil current and the flux with higher melting rate (Width: 1200 mm, Thickness: 250 mm).

Fig.13に水準2における鋳造中の溶融フラックス層厚みを改善前のデータと共に示す。水準2の場合,電磁ピンチ力の間欠印加時においても,溶融フラックス層厚みは20~30 mmを確保できており,電磁ピンチ力を印加しない場合と同等以上であることが分かる。

Fig. 13.

 Comparison of thickness of molten flux between with and without EMC. S1/4: 1/4 of slab width from narrow face. S-50: 50 mm from narrow face.

なお,改善前のフラックスを用いてコイル電流値を3900 Aにした水準1に関しては,スラブの1/4幅位置(S1/4)のみで溶融フラックス層厚みを測定した。コイル電流値が4500 Aの場合に比べて約8%の増加であり,コイル電流値を3900 Aにして改善フラックスを適用した水準2に比べ僅かな増加であった。

さらに,Fig.14に,水準2で得られた鋳片表層のオシレーションマーク下における爪状凝固組織(フック)の深さを当初ブリードが発生した位置も含めて鋳片の全幅で測定した結果を,電磁ピンチ力を印加しない場合の実測値と共に示す。電磁ピンチ力印加条件を適正化し(コイル電流値:3900 A,Duty:50%),溶融速度を増加させた改善フラックスを適用した水準2において,オシレーションマーク下のフックの深さは大幅に低減しており,パルス電磁鋳造における鋳片品位改善効果は担保されていることが分かる。

Fig. 14.

 Comparison of depth of hook in the vicinity of the oscillation mark between with and without EMC.

6. パルス電磁鋳造時のブリード欠陥の発生機構

鋳造試験におけるブリード欠陥部の調査,連鋳フラックス消費量と溶融フラックス層厚みの測定,および溶鋼流動と湯面挙動の数値シミュレーションの結果から,Fig.15に示すブリード欠陥の発生機構を推定した。

Fig. 15.

 Proposed mechanism of bleed formation in the case of improper condition of EMC.

電磁ピンチ力の間欠印加により凝固殻と鋳型との間隔が拡大し,フラックス消費量が増加して溶融フラックス層厚みが減少する(Fig.15(a))。また,溶鋼湯面近傍,短辺から150~200 mmの長辺近傍において電磁ピンチ力による誘起溶鋼流動と短辺から鋳型幅中心に向かう溶鋼流動が干渉しており,このため,溶鋼湯面が局所的かつ非定常に変動する(Fig.15(b)(c))。特に,溶鋼湯面の急激な上昇時に局所的に溶鋼静圧が上昇し,凝固殻と鋳型との間隔が狭まり,フラックスによる潤滑が不十分となる(Fig.15(c))。そのため,鋳型への凝固殻のスティッキング(Fig.15(d)),局所的な凝固殻の破断が生じ(Fig.15(e)),漏れ出た溶鋼が破断部近傍で再凝固して,ブリード欠陥が発生している(Fig.15(f)),と推定できる20)

一方,ブリード欠陥対策として,電磁ピンチ力印加条件の適正化に加えて,溶融速度を増加させた改善フラックスを適用した水準2においては,Fig.16に示すように,短辺近傍における局所的かつ非定常的な溶鋼湯面変動が抑制される。さらに,十分な溶融フラックス層厚みが保持されて,凝固殻と鋳型との間隔が拡大したまま保たれる(Fig.16(a))ので,ブリード欠陥が解消される(Fig.16(b)),と考える。

Fig. 16.

 Proposed mechanism of improvement of slab quality in the case of proper condition of EMC.

7. 結言

本研究では,プラントサイズのスラブ鋳片を対象にしたパルス電磁鋳造において顕在化した鋳片表面のブリード欠陥に関して検討を行い,以下の結論を得た。

(1)電磁ピンチ力により連鋳フラックス消費量が増加して溶融フラックス層厚みが減少すると共に,電磁ピンチ力により誘起された溶鋼流動と短辺から鋳型幅中心に向かう溶鋼流動が干渉して短辺近傍において溶鋼湯面が局所的かつ非定常に変動する。その結果,フラックスによる潤滑が不十分となり,局所的な凝固殻の破断,漏れ出た溶鋼の再凝固が生じ,鋳片表面の短辺近傍においてブリード欠陥が発生すると推定した。

(2)電磁ピンチ力印加条件の適正化に加えて,溶融速度を増加させた改善フラックスを適用することにより,パルス電磁鋳造時の鋳片品位改善効果を担保しつつ,スラブ鋳片表面のブリード欠陥を解消できた。短辺近傍における局所的かつ非定常的な溶鋼湯面変動が抑制され,十分な溶融フラックス層厚みが保持され,凝固殻と鋳型との間隔が拡大したまま保たれるので,ブリード欠陥が解消に至ったと考える。

文献
 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

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