Tetsu-to-Hagane
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Development of Heated Ore Addition Technology Using Burner in Chromium Ore Smelting Reduction Converter
Goro OkuyamaFutoshi OgasawaraYuichi UchidaYuji MikiYasuo KishimotoHisashi OgawaYohei Kaneko
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2014 Volume 100 Issue 4 Pages 530-538

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Synopsis:

In order to increase the heat efficiency of the chromium ore smelting reduction furnace, a heated ore addition technology using a burner in the converter was developed. 5 ton scale pilot converter tests were conducted. Based on the results of the pilot converter tests, this technology has been applied to the actual process.

The results are summarized as follows:

1)Compared with the conventional process (without burner), the amount of effective heat transfer increased by 18% with addition of heated ore using the burner in 5 ton converter.

2)A decrease in the off-gas temperature and reduction of the thermal load on the refractory were also confirmed in 5 ton converter.

3)The heat transfer ratio of burner combustion with addition of heated ore increased up to about 90%, depending on the increase of the ore feeding rate in 5 ton converter.

4)From the results of a numerical simulation, it was revealed that the total sensible heat of all particles increases as the ore feeding rate increases. As a result, the ore particles heated by the flame function as a medium of heat transfer from the flame to the molten metal and slag.

5)This technology was applied to an actual smelting reduction furnace at JFE Steel East Japan Works (Chiba). As in the tests with 5 ton converter, the heat transfer ratio of burner combustion with addition of heated ore was about 90%. The supplied energy per unit of chromium ore added to the furnace decreased by 17%.

1. 緒言

JFEスチールではステンレス鋼の溶製プロセスとして,クロム鉱石の溶融還元法1,2,3)を採用している。本プロセスはフェロクロム合金の代替としてクロム鉱石をクロム源としている。そのため,クロム源の選択自由度を向上するためにはクロム鉱石原単位の増加が重要である。クロム鉱石の溶融還元プロセスは炉内に添加される炭材を還元剤として,クロム鉱石中の酸化クロムを還元している。この反応は大きな吸熱をともなうため,クロム鉱石の還元量を増大させるためには炉内への熱供給量の増加が必須である4)。転炉の熱供給増加策としては酸素供給速度の増大や高二次燃焼技術の開発が行われている。しかしながら,酸素供給速度の増大は炉内からのダスト発生量が増加するため5),鉄やクロムの歩留まりが低下するといった問題がある。また,高二次燃焼技術として,ランス高さの上昇や酸素ジェットをソフトブロー化するランスノズルの開発や様々な操業条件の提案6,7,8,9,10,11)がおこなわれている。しかしながら,高二次燃焼操業では炉内での熱発生量は増加するものの,二次燃焼熱は溶鋼やスラグへの着熱効率が低いといった課題がある。

筆者らは一次燃焼や二次燃焼に替わる熱源として,バーナー燃焼熱を新たな熱源として利用する技術を検討した。しかしながら,単にバーナーの火炎で溶銑を加熱した場合,二次燃焼と同様にバーナー燃焼熱の溶銑への着熱効率は低いと考えられる。そこで,バーナー火炎を介して粉粒状原料であるクロム鉱石を炉内に加熱添加することにより,バーナーの燃焼熱を溶銑へ効率的に着熱させるための方法について検討した。

前報12)では4 ton低周波誘導炉で,バーナー火炎を介してクロム鉱石を加熱添加することで,加熱されたクロム鉱石粒子がバーナー燃焼熱を溶銑へ着熱させる伝熱媒体として機能し,バーナー燃焼熱を溶銑へ効率的に着熱させることが原理的に可能であることを示した。

本研究では5 ton上底吹き試験転炉においてバーナー火炎を介してクロム鉱石を添加するランス(以下,「クロム鉱石加熱添加バーナーランス」と称す)を用いた溶融還元吹錬実験を実施し,熱収支の解析結果を基にクロム鉱石加熱添加法によるバーナー燃焼熱の溶湯への着熱促進効果を定量的に確認した。また,その結果を基に,実機溶融還元炉へクロム鉱石加熱添加バーナーランスを導入したので,その操業結果について述べる。

2. 5 ton 試験転炉でのクロム鉱石加熱添加バーナーランスを用いた溶融還元吹錬実験

2・1 実験方法

Fig.1に5 ton上底吹き試験転炉とクロム鉱石加熱添加バーナーランスの概要を示す。底吹き羽口は二重管構造であり,内管から酸素,外管から冷却ガスとしてプロパンガスを供給した。上吹きメインランスは4孔ストレートランスを用い,本実験ではランス先端から溶銑までのランス高さを1.5 mとした。また,クロム鉱石加熱添加バーナーランスは中心孔からクロム鉱石を供給し,その外周ノズルから燃料としてプロパンガス,および助燃剤として酸素を供給できる構造となっている。また,クロム鉱石加熱添加バーナーランスのランス高さは上吹きメインランスと同じ1.5 mとした。実験で用いたクロム鉱石は実機で使用されているクロム鉱石と同じものを用い,平均粒径は約200 μmである。

Fig. 1.

 Schematic diagram of experimental apparatus using 5 ton converter.

実験条件をTable 1に示す。上底吹き酸素およびバーナー助燃剤酸素の総送酸速度を20~26 Nm3/minとし,バーナー使用時の燃料プロパン流量を0.5 Nm3/min,助燃剤酸素流量を3 Nm3/minとした。また,本実験では底吹き酸素流量を一定の条件とし,酸素流量の変更は上吹きメインランスからの酸素量を調整して行った。

Table 1. Experimental conditions.
No.Total O2 gasTop and bottom O2Burner C3H8Burner O2Total Cr OreHeated Cr Ore
Nm3/minNm3/minNm3/minNm3/minkg/minkg/min
1232300200Without burner
2202000160Without burner
323200.53150With burner No heated ore
423200.53167With burner
523200.531515With burner
623200.531515With burner
723200.532323With burner
820170.531616With burner
926230.532525With burner

実験ではクロム鉱石の添加方法によるバーナー燃焼熱の溶銑への着熱挙動の差異を調査するために,1)クロム鉱石加熱添加バーナーランスのバーナーは燃焼させず(プロパン流量0 Nm3/min,助燃酸素流量0 Nm3/min),クロム鉱石を添加する「従来法」,2)クロム鉱石加熱添加バーナーランスからバーナー火炎を介してクロム鉱石を添加する,「クロム鉱石加熱添加法」および3)クロム鉱石加熱添加バーナーランスはバーナー点火させ,クロム鉱石はクロム鉱石加熱添加バーナーランスを介さず,火炎外からを添加する「クロム鉱石非加熱添加法」の3条件で実験をおこなった。また,クロム鉱石添加速度は15~25 kg/minとした。

2・2 実験結果および考察

2・2・1 鉱石加熱添加法の着熱効率

Fig.2に実験での吹錬形態の一例を示す。実験では溶銑を転炉装入後,上底吹き酸素のみで所定の溶銑温度(1550~1580 °C)まで昇熱する昇熱吹錬,および所定の温度に到達した後にクロム鉱石を溶融還元する溶融還元吹錬を実施した。クロム鉱石加熱添加バーナーランスは溶融還元吹錬のみに使用した。昇熱吹錬では昇熱に必要なコークスと造滓剤を添加し,溶融還元吹錬ではクロム鉱石およびクロム鉱石の還元と熱源として必要なコークスを添加した。また,吹錬中に適宜溶銑温度を測定し,上記所定温度になるようクロム鉱石の添加速度を調整した。

Fig. 2.

 Example of experimental process pattern.

Fig.3に溶融還元吹錬における炉内発熱量と有効着熱量の関係を示す。炉内発熱量は上底吹き酸素による一次燃焼(C+1/2O2→CO),二次燃焼(CO+1/2O2→CO2)の発熱量とバーナー燃焼熱との総和とした。また,有効着熱量は溶銑およびスラグの顕熱変化量とクロム鉱石の還元熱との総和とした。ここで,二次燃焼は予め同一送酸条件の下で溶銑の脱炭吹錬を実施し,その際の脱炭酸素効率から,脱炭反応に使用されない上吹き酸素量分を求め,これより二次燃焼の発熱量を推算した。また,図中には炉内発熱量に対する有効着熱量の着熱効率を併記した。

Fig. 3.

 Relationship between calorific value in furnace and amount of effective heat transfer.

上底吹き酸素のみで吹錬した「従来法」と比較して,クロム鉱石加熱添加バーナーランスによりクロム鉱石を加熱しながら添加する「クロム鉱石加熱添加法」では有効着熱量が高位になり,炉内発熱量の着熱効率が増加した。しかしながら,クロム鉱石を火炎外から添加する「クロム鉱石非加熱添加法」では有効着熱量は「従来法」より小さくなった。

Fig.4に総送酸速度23 Nm3/minの条件での加熱鉱石添加速度と有効着熱量の関係を示す。同一総送酸速度の条件において,「クロム鉱石加熱添加法」では加熱鉱石添加速度の増加にともない有効着熱量が増加した。また,加熱鉱石添加速度22 kg/minの条件で,「従来法」と比較すると,「クロム鉱石加熱添加法」の有効着熱量は18%増加した。また,バーナー外からクロム鉱石を添加した「クロム鉱石非加熱鉱石添加法」(バーナー有りで加熱鉱石添加速度が0 kg/minの条件)は「従来法」よりも有効着熱量が若干低下した。

Fig. 4.

 Relationship between feeding rate of heated ore and amount of effective heat.

Fig.5にバーナー無しの「従来法」と「クロム鉱石加熱添加法」の溶融還元吹錬時の熱バランスを示す。熱バランスの出熱として,上述した溶銑およびスラグの顕熱変化量とクロム鉱石の還元熱の総和である有効着熱と排ガス顕熱量(溶銑温度)を考慮し,両者の和と入熱との熱バランスから求められる不明熱量を排ガスのスーパーヒートと定義とした5)

Fig. 5.

 Comparison of heat balance with and without burner.

「クロム鉱石加熱添加法」では,「従来法」と比較して,上吹き酸素を減少させている分,一次燃焼および二次燃焼熱は低下しているものの,バーナー燃焼によるトータルの発熱量は18 MJ/min増加する。また,「クロム鉱石加熱添加法」での出熱は有効着熱量が26 MJ/min増加し,溶銑温度での排ガス顕熱が1 MJ/min低下しているため,スーパーヒートは「従来法」より7 MJ/min低下する結果となった。この結果から,「クロム鉱石加熱添加法」は入熱増加分18 MJ/min以上に有効着熱量が増加していることがわかる。

Fig.6に加熱鉱石添加速度と(1)式で定義した着熱効率の関係を示す。(1)式の右辺の分母は,Matsuoら6)が提案している式では二次燃焼熱のみが考慮されているが,本実験においてバーナーを使用した場合は二次燃焼熱とバーナー燃焼熱の和とした。Fig.6から「クロム鉱石加熱添加法」では加熱鉱石添加速度を大きくすることで「従来法」よりも着熱効率が大きくなることがわかる。以上の結果から,上底吹き転炉における「クロム鉱石加熱添加法」は従来の上底吹き酸素による一次燃焼および二次燃焼のみを熱源にする場合よりも着熱効率が高いプロセスであると考えられる。   

Heattransferratio(%)=(1SuperheatPostcombustion+Burnercombustionheat)×100(1)

Fig. 6.

 Relationship between feeding rate of heated ore and heat transfer ratio.

2・2・2 バーナー使用時の排ガスのスーパーヒート

以上までは着熱量に視点を置いた解析を行ったが,次にバーナー使用時のスーパーヒートについて着目し,考察を行った。

Fig.7に総送酸速度23 Nm3/minにおける加熱鉱石添加速度とスーパーヒートの関係を示す。「クロム鉱石加熱添加法」では加熱鉱石添加速度が大きくなるとスーパーヒートが低下するものの,加熱鉱石添加速度が20 kg/min以下ではバーナー無しの「従来法」よりもスーパーヒートが大きくなる。これは加熱鉱石添加速度が20 kg/min以下の場合では,従来法よりも実際の排ガス温度が高く,耐火物への熱負荷が大きいことを示している。

Fig. 7.

 Relationship between feeding rate of heated ore and super heat.

Fig.8に加熱鉱石添加速度が排ガス温度と溶銑温度との差に及ぼす影響を示す。また,Fig.9に加熱鉱石添加速度が耐火物温度上昇速度に及ぼす影響を示す。排ガス温度は炉口より−1 mの位置でサブランス先端を停止し,炉内雰囲気温度として測定した。また,耐火物温度はクロム鉱石加熱添加バーナーランスの先端と同じ高さでかつ最も隣接する炉壁周方向位置の耐火物稼動面から100 mmと150 mmの位置に熱電対を設置し測定した。

Fig. 8.

 Influence of feeding rate of heated ore on temperature of off gas.

Fig. 9.

 Relationship between feeding rate of heated ore and temperature increasing rate of refractory.

Fig.8より測定点での排ガス温度は溶銑温度よりも低くなるが,これは実験で用いた5 ton試験転炉は試験炉であるためバッチ操業しており,実験時の耐火物の含熱量は実炉と比較すると小さい。そのため,実炉と比較すると,試験炉では耐火物への抜熱量は大きくなるためと考えられる。

Fig.8およびFig.9から,バーナーを利用した場合,加熱鉱石添加速度が小さい条件では,バーナーを利用しない「従来法」よりも,排ガス温度および耐火物温度上昇速度が増加しており,耐火物への熱負荷が大きくなっていることがわかる。

以上のことからバーナーによるクロム鉱石加熱添加の場合,耐火物への熱負荷を抑制するためには十分な加熱鉱石量が必要であることがわかる。

Fig.10に加熱鉱石添加速度と二次燃焼熱およびバーナー燃焼熱の関係を示す。ここで,着熱量はFig.3および4で示した有効着熱量Qとし,一次燃焼熱の着熱量Q1は(2)式で定義し,二次燃焼熱の着熱量Q2は(3)式およびバーナー二次燃焼熱の着熱量Q3は(4)式とした。また,式中の排ガス顕熱はガス温度を溶銑温度とし,Q1中のCOガス量は一次燃焼で生成したCOガス量から二次燃焼で消費されたCOガス量の差とし,Q2およびQ3中のガス量はそれぞれの燃焼で生成するガス成分の量とした。

Fig. 10.

 Heat transfer ratio of post combustion and burner combustion heat against feeding rate of heated ore.

ηPCRおよびηBurnerはそれぞれ二次燃焼熱およびバーナー燃焼熱の着熱効率を示す。バーナー有無による脱炭挙動への影響がないことを確認しており,バーナーによる上吹き酸素の脱炭酸素効率および二次燃焼への影響は無いものと考えられる。そこで,上吹き酸素による二次燃焼熱の着熱効率ηPCRはバーナー有無に関わらず一定とした。   

Q1=-(CO)(2)
  
Q2={-(CO2)}×ηPCR(3)
  
Q3={-(CO2,H2O)}×ηBurner(4)

バーナーを利用していない場合,着熱量バランスは   

Q=Q1+Q2(5)

となり,二次燃焼熱の着熱効率ηPCRは,(5)式に(2)式,(3)式を代入して算出できる。

また,バーナーを利用している場合の着熱量バランスは,   

Q=Q1+Q2+Q3(6)

となり,(5)式で算出した二次燃焼熱の着熱効率ηPCRを利用することで,バーナー燃焼熱の着熱効率ηBurnerを算出した。

Fig.10より5 ton試験転炉の二次燃焼熱の着熱効率ηPCRは20%前後である。一方,バーナー燃焼熱の着熱効率ηBurnerは加熱鉱石添加速度の0 kg/minの場合(バーナー火炎のみ)では10%と低いが,加熱鉱石添加速度の増加にともない着熱効率が増加し,本実験条件では最大94%となった。

Fig.7で示したように,バーナーを利用した場合,本実験条件では加熱鉱石添加速度が20 kg/min以上ではスーパーヒートはバーナー無しの「従来法」よりも低位になる。Fig.10よりバーナー燃焼熱の着熱効率ηBurnerが73%以上であれば,スーパーヒートが「従来法」よりも低位になることがわかる。また,バーナー燃焼熱の着熱効率ηBurnerが100%になる時の加熱鉱石添加速度は26.5 kg/minと推定できる。この時のバーナー燃焼ガスの温度は熱バランス上,溶銑温度と同じになる。

以上の結果から,Fig.5で示した有効着熱量の一次燃焼熱,二次燃焼熱およびバーナー燃焼熱の各着熱量の内訳をFig.11に示す。

Fig. 11.

 Comparison of breakdown of amount of heat transfer with burner and without burner.

「従来法」と比較して「クロム鉱石加熱添加法」は上底吹き送酸速度が低下し,一次燃焼熱および二次燃焼熱からの着熱量は低下するが,バーナー燃焼熱の着熱量が33 MJ/minと一次燃焼熱および二次燃焼熱の低下量よりも大きいため,トータルとして26 MJ/minの有効着熱量が増加している。

2・2・3 燃焼ガスから鉱石粒子への伝熱挙動の数値解析

以上の実験結果を考察するため,前報12)と同様にバーナー燃焼ガスからクロム鉱石粒子への伝熱挙動の数値計算を用いて解析した。

計算は下記について実施し,それぞれを連成し燃焼ガス温度とクロム鉱石粒子温度を算出した。

1)平衡計算による燃焼ガス温度の算出

2)燃焼ガス−クロム鉱石粒子間の伝熱によるクロム鉱石粒子温度の算出

3)クロム鉱石粒子の運動方程式による粒子加熱時間の算出

燃焼ガスの火炎温度は燃料ガスのC3H8がO2と反応して生成する,CO, CO2, O2, H2, H2O, OH, H, Oの8成分の平衡を考慮し,(7)から(11)式の平衡式と(12)式の条件から(13)式のガスのエンタルピーバランスの式を用いて,試行錯誤法により系外とは断熱条件での燃焼ガス温度を算出した13)。   

CO2CO+12O2(K7=PCOPO21/2PCO2)(7)
  
H2OH2+12O2(K8=PH2PO21/2PH2O)(8)
  
H2O12H2+OH(K9=POHPH21/2PH2O)(9)
  
12H2H(K10=PHPH21/2)(10)
  
12O2O(K11=POPO21/2)(11)
  
PCO+PCO2+PO2+PH2+PH2O+POH+PH+PO=1atm(12)
  
(H0H2980)p=(H0H2980)rΔH2980(13)

ここで,Piはi成分の分圧,Knは(n)式の平衡定数,H0はガスのエンタルピー,H0298は298 KでのガスのエンタルピーそしてΔH0298は298 Kでのプロパンの生成エネルギーである。また,添字のrは反応物,pは生成物を示す。ここで,各反応の平衡定数および各ガス種のエンタルピーおよび生成エネルギーはJANAFの熱化学的性質表のデータを用いた14)

高温ガスからクロム鉱石粒子への伝熱は,クロム鉱石粒子を単一粒子と仮定して,ガスからの輻射と対流伝熱を考慮した(14)式の熱バランスから算出した。(14)式の右辺の対流伝熱項および輻射伝熱項は各々(15)式および(16)式で示される。また,クロム鉱石粒子は球状形と仮定し,(15)式で示した対流伝熱項のヌッセルト数Nuは(17)式のRanz-Marshallの式15)を用いて算出した。ここで,クロム鉱石粒子径は小さいため,粒子内の温度は均一とし,また高温ガスの輻射面積と比較して単一粒子の表面積は非常に小さいものと仮定した。計算に用いたクロム鉱石粒子径は200 μmとし,クロム鉱石粒子の密度,比熱,輻射率およびガスの熱伝導率は一定とした。計算に用いた各物性値をTable 2に示す。クロム鉱石の比熱cp,Pと密度ρPはクロム鉱石の各成分の酸化物の比熱16)および密度17)の加重平均とした。ここで,クロム鉱石の各成分の酸化物濃度は成分分析値からCr成分はCr2O3,Fe成分はFeOとし,その他の成分はMgOとAl2O3として算出した。また,クロム鉱石の輻射率εPはCr2O3の輻射率18)を用いた。また,生成ガスの熱伝導率λはCO2とH2Oの熱伝導率19)の加重平均とした。   

mcp,Pd(TP)dt=AS,PqP+AS,PqR(14)
  
qP=Nuλd(TgTP)(15)
  
qR=εPσ(Tg4TP4)(16)
  
Nu=2+0.6ReP1/2Pr1/3(17)

Table 2. Parameters used for estimation of burner and particle temperatures.
cp,P920J/(kg・°C)
ρP4800kg/m3
εp0.8(–)
λ0.03W/(m・°C)

ここで,mはクロム鉱石粒子質量,dはクロム鉱石粒子径,TPはクロム鉱石粒子温度,Tgは燃焼ガス温度,AS,Pは粒子表面積,cp,Pはクロム鉱石粒子の比熱,εPはクロム鉱石粒子の輻射率,λはガスの熱伝導率,qPは燃焼ガス−粒子間の対流伝熱,qRは燃焼ガス−粒子間の輻射伝熱,Nuはヌッセルト数,Repは粒子レイノルズ数,Prはガスのプラントル数,そしてσはステファン−ボルツマン定数を示す。

以上の数式を4次のルンゲ−クッタ法により計算し,クロム鉱石粒子温度と燃焼ガス温度の経時変化を算出した。ここで,本計算において伝熱は燃焼ガスと粒子間の伝熱のみを考慮し,系外との熱のやりとりは考慮していない。また,粒子と燃焼ガスはノズルから吐出される両者の初速度が同値として粒子レイノルズ数Repは0とした。さらに,バーナー火炎中のクロム鉱石の滞留時間は,前報12)と同様にランス高さ1.5 mと同一条件であるため0.10秒とした。

Fig.12に加熱鉱石添加速度と上記で算出したバーナー火炎温度とクロム鉱石粒子温度との関係を示す。この図から,加熱鉱石添加速度が26 kg/minの条件で,バーナー火炎温度と溶融還元吹錬中の溶銑温度が同一になることがわかる。これはFig.10で示したバーナー燃焼熱の着熱効率が100%になる時の加熱鉱石添加速度26.5 kg/minと概ね一致している。

Fig. 12.

 Calculated temperatures of burner flame and ore particle against feeding rate of heated ore.

Fig.12に示したクロム鉱石粒子温度を基に計算した加熱添加鉱石の全体の顕熱量と実験結果から得られたバーナー燃焼熱の着熱量とをFig.13に示す。ここで,クロム鉱石全体の顕熱量の計算値は,クロム鉱石粒子が全て同一温度であると仮定して算出した。

Fig. 13.

 Calculated sensible heat of chromium ore and the amount of heat transfer by burner against feeding rate of heated ore.

前報でも示したように加熱鉱石添加速度を増加すると,クロム鉱石粒子の温度は低下するものの,クロム鉱石量が増加するため,クロム鉱石粒子全体の顕熱量は増加する。加熱添加しているクロム鉱石量が0 kg/minのときのバーナー燃焼熱の着熱量は,バーナー火炎からの輻射や対流によりスラグおよび溶銑に伝熱していると考えられる。一方で,クロム鉱石を加熱添加した場合では,実験結果から得られたバーナー燃焼熱の着熱量はバーナーで加熱されたクロム鉱石の顕熱量と概ね一致しており,バーナー燃焼熱のスラグおよび溶銑への伝熱機構がクロム鉱石顕熱による伝熱が支配的になっているものと考えられる。Fig.14に鉱石加熱添加法の溶銑への伝熱メカニズムの模式図を示す。

Fig. 14.

 Schematic diagram of heat transfer mechanism by heated ore addition using burner.

以上の結果から,バーナー加熱添加されたクロム鉱石はバーナー燃焼熱を溶銑へ着熱させる伝熱媒体として機能し,通常の上吹き酸素の二次燃焼熱やバーナー火炎のみの場合よりも効率的にバーナー燃焼熱を着熱できると考えられる。また,加熱鉱石量の最適化により耐火物への熱負荷を増加させずに着熱量を大幅に増加することが可能であることがわかった。

3. 185 ton実機クロム鉱石溶融還元炉への鉱石加熱添加バーナーランスの適用

5 ton試験転炉実験の結果を踏まえ,JFEスチール(株)東日本製鉄所の上底吹き転炉型(ヒートサイズ185 ton)のクロム鉱石溶融還元炉において,クロム鉱石投入ランスにバーナー機能を付与したクロム鉱石加熱添加バーナーランスを導入した。

5 ton試験転炉と同様にバーナーはクロム鉱石が添加される溶融還元期で使用した。底吹き酸素量は従来と同一とし,上吹き酸素量はバーナーの助燃剤としての酸素量分を低減し,上底吹き酸素量およびバーナー助燃酸素量の総量は従来の上底吹き酸素量と同一とした。また,バーナー使用時は上吹き酸素量の低減に応じて,炭材の添加量を低下させた。クロム鉱石加熱添加バーナーランスのランス高さは上吹き送酸ランス高さと同一の条件とした。バーナーの燃料は,5 ton試験転炉と同様にプロパンガスを用いた。また,クロム鉱石は全量クロム鉱石加熱添加バーナーランスから炉内に供給した。

Fig.15に5 ton試験転炉および実機におけるクロム鉱石加熱添加速度/バーナー発熱量比とバーナー燃焼熱の着熱効率の関係を示す。実機では5 ton試験転炉の知見から,耐火物への熱負荷を増加させないために,Fig.10で示したようにバーナー燃焼熱の着熱効率が75%以上となるよう,クロム鉱石加熱添加速度/バーナー発熱量比を0.5 kg/MJ以上とした。その結果,実機での操業においても,5 ton試験転炉と同様にバーナー燃焼熱の着熱効率は80~90%と高位になることが確認された。

Fig. 15.

 Relationship between feeding rate of heated ore/burner calorific power and heat efficiency of burner calorific power.

Fig.16にクロム鉱石加熱添加バーナーランス導入前後のクロム鉱石原単位と供給熱量原単位の関係を示す。供給熱量は上底吹き酸素による一次燃焼熱,二次燃焼熱およびバーナー利用時はバーナー燃焼熱の総和である。供給酸素量一定の条件でクロム鉱石加熱添加バーナーランス使用時では同一のクロム鉱石原単位において供給熱量が導入前と比較して17%低減し,効率的に熱供給できていることを確認した。

Fig. 16.

 Relationship between amount of chromium ore and supplied energy into furnace.

4. 結言

クロム鉱石溶融還元炉における熱余裕度拡大・エネルギー効率向上を目的とする熱付与・高着熱化技術として,クロム鉱石加熱添加バーナーランスを開発した。

1)5 ton試験転炉において,同一送酸速度での上底吹き酸素(バーナー無し)と比較して,クロム鉱石バーナー加熱添加により有効着熱量(スラグ・溶銑顕熱およびクロム鉱石還元熱)は18%増加した。

2)加熱鉱石添加速度が増加するとスーパーヒート(不明熱量)が低下し,本実験条件では加熱鉱石添加速度が20 kg/min以上でスーパーヒートは上底吹き酸素のみ(バーナー無し)の条件よりも低下した。

3)加熱鉱石添加速度が増加することで,排ガス温度の低下および耐火物への熱負荷が低減することを確認した。

4)加熱鉱石添加速度の増加によりバーナー燃焼熱のスラグおよび溶銑への着熱効率は増大し,本実験条件では最大94%になった。

5)バーナー燃焼熱の着熱量は加熱されたクロム鉱石の顕熱量の計算値と概ね一致しており,バーナー燃焼熱のスラグおよび溶銑への伝熱機構がクロム鉱石顕熱による伝熱が支配的になっているものと考えられる。

6)以上の5 ton試験転炉実験の結果を踏まえ,クロム鉱石加熱添加バーナーランスを実機設備に導入した結果,5 ton試験転炉と同様にバーナー燃焼熱の着熱効率は約90%と高位であり,同一送酸量条件においてクロム鉱石単位重量当たりの供給エネルギー量が17%低減できることを確認した。

文献
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  • 10)   K.  Takahashi,  Y.  Tanabe,  K.  Iwasaki,  M.  Muroya,  I.  Kikuchi and  M.  Kawakami: Tetsu-to-Hagané, 76(1990), 1887.
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  • 12)   G.  Okuyama,  F.  Ogasawara,  Y.  Uchida,  Y.  Kishimoto and  Y.  Miki: Tetsu-to-Hagané, 98(2012), 627.
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© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

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