Tetsu-to-Hagane
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Mechanism for Improvements of Sulfur Removal from Hot Metal by Aluminum Additions
Masakatsu HasegawaYoshitaka KatahiraHiroshi NiitaniTomohiro KakinumaMasanori IwaseMasaki Iwasaki
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2014 Volume 100 Issue 4 Pages 516-521

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Synopsis:

It has been reported that aluminum in liquid iron increase the rate of desulfurization by lowering oxygen potential and producing liquid calcium aluminate. In this study, the variations of the oxygen partial pressures during sulfur removal from hot metal were determined by employing an electrochemical technique involving stabilized zirconia electrolyte. The present experimental results demonstrated that aluminum could decrease the oxygen potentials in carbon-saturated liquid iron and thereby could decrease the equilibrium sulfur contents. The addition of nepheline as a substitute for fluorspar improved the rate of desulfurization due to the formation of liquid phase.

1. 緒言

溶鉄からの脱硫反応はスラグ−メタル間で進行し,CaO系スラグを用いた場合には次式で表される。   

(CaO)slag+[S]Fe=(CaS)slag+[O]Fe(1)

反応(1)を効率よく進行させるための熱化学的条件は,Le Chatelierの法則から,①高CaO活量,②低酸素ポテンシャル,③高温である。また固体CaOを脱硫剤として用いた場合,その表面に固体CaSが生成すると反応界面へのSの拡散が阻害され,固体CaOが持つ脱硫能は低下する。したがって速度論的条件は,④反応界面における液体スラグの生成であると言える。Tanakaらは固体CaOを用いた溶銑脱硫において,CaO中の微細孔を利用した毛細管現象によって固体CaOを効率よく用いる方法(Capillary Refining)を提案し,SをCaO内部へ浸透させるためには溶融スラグの浸透と脱硫反応が同時に生じることが望ましいこと,固体CaOと平衡共存する組成の溶融スラグを利用する必要があることを明らかにしている1)。また著者らはこれまでにスラグの溶融剤CaF2の代替としてNaAlSiO4とKAlSiO4の固溶体であるNephelineを提案した2)

さてNiedringhaus and Fruehanは,炭素で飽和した溶鉄中へAlを添加すると固体CaOによる脱硫反応が促進されることを実験的に見出した3)。Al添加の効果は上記の条件のうち,②溶鉄中の酸素ポテンシャルの低下,④脱酸生成物であるAl2O3と固体CaOによる液体スラグの生成,であると考えられる。Fig.1に示したCaO-Al2O3系二元系状態図4)によれば,液相が生成する可能性がある最低温度は1663 Kである。Niedringhaus and Fruehanが示した実験結果は次の通りである。CaO-Al2O3系液体スラグが生じる1723 KではAl添加によって脱硫反応は促進されたが,液相を生じない1623 Kにおいて促進効果はほとんど認められなかった。Alに加え,スラグの溶融剤としてCaF2を添加すると1623 Kにおいても脱硫反応が促進された。また,その酸化物がCaOと液体スラグを生成しないが酸素との親和力は大きいZrを添加しても脱硫反応は促進されなかった。これらの結果から,Al添加による反応促進メカニズムは,固体CaOと溶鉄の間の反応界面にCaO-Al2O3系液体スラグが生成するためであると結論付けられている3)。しかし,スラグサンプリングによる液相生成の確認は行われていない。また,炭素で飽和した溶鉄中の酸素ポテンシャルも測定されておらず,酸素ポテンシャルの低下が及ぼす脱硫反応への影響は明らかにされていない。

Fig. 1.

 Phase diagram of the binary system CaO-Al2O3.

そこで本研究では,CaO,Al,CaF2,Nephelineの混合粉体を用いた脱硫反応において,炭素飽和の溶銑中の酸素ポテンシャルを測定し,酸素ポテンシャルの低下および液相の生成が脱硫反応に与える影響を明らかにすることを目的とした。

2. 実験方法

2・1 実験試料および装置

本研究で用いた脱硫剤をTable 1に示す。CaCO3,Al,CaF2,K2CO3,Na2CO3,Al2O3,SiO2はナカライテスク(株)製の試薬を用いた。CaCO3を1273 Kで加熱分解してCaOを得た。またAl片(厚さ1 mm,純度99.99%)は2 mm角に裁断した。Fig.2に示したようにNephelineはNaAlSiO4とKAlSiO4の固溶体であり5),本研究で用いたNepheline中のKAlSiO4濃度は27.1 wt%(NaとKのモル比3:1に相当)とした。所定量のK2CO3,Na2CO3,Al2O3,SiO2を秤量,混合し,ペレット状に圧縮成型後1273 Kで24時間保持した。一度冷却して粉砕,混合した後,再度ペレット状に成型し,1473 Kで48時間保持した。得られた混合物をX線回折に供し,Nephelineが合成されたことを確認した。

Table 1. Experimental conditions for sulfur removal conducted in this study.
No.T/KReagentReagent usage/g
(initial)(injected)
CaOAlCaOAlCaF2Nepheline
111623CaO30-30---
261693CaO30-30---
81723CaO30-30---
91623CaO, Al30-305--
181673CaO, Al30-305--
241693CaO, Al30-305--
61723CaO, Al30-305--
361623CaO, Al30530---
391623CaO, CaF230-30-6-
381623CaO, Al, CaF230530-6-
131623CaO, Al, Nepheline30530--10
Fig. 2.

 Phase diagram of the pseudo-binary system NaAlSiO4-KAlSiO4. Cg=carnegieite; Neh=high-temperature nepheline; O1=orthorhombic KAlSiO4; Ks=kalsilite; H4=tetrakalsilite.

実験装置の概略図をFig.3に示す。水冷したチャンバー内に高周波コイルを設置し,その内側に保護るつぼを置いた。保護るつぼ内に黒鉛るつぼ(穴織カーボン(株)製,外径104 mm,内径84 mm,高さ181 mm,底の厚み15 mm)を納め,チャンバー上部を水冷フランジで封じた。アルゴンガスのバブリングパイプには,Al2O3管((株)ニッカトー製,外径5 mm,内径3 mm,長さ500 mm)に黒鉛パイプ(穴織カーボン(株)製,外径16.5 mm,内径6.5 mm,長さ200 mm)を被せ,カーボンセメント(穴織カーボン(株)製,V58a)で固定したものを用いた。また脱硫剤のインジェクションパイプには,黒鉛パイプ(穴織カーボン(株)製,外径21 mm,内径15 mm,長さ260 mm)を被せたAl2O3管((株)ニッカトー製,外径31.5 mm,内径21.5 mm,長さ300 mm)を用いた。Al2O3製熱電対保護管((株)ニッカトー製,外径8 mm,内径5 mm,長さ600 mm)は,その外側に黒鉛パイプ(穴織カーボン(株)製,外径18.5 mm,内径8.5 mm,長さ200 mm)をカーボンセメントで固定し,下端部をカーボンセメントで覆った。

Fig. 3.

 Schematic diagram of the experimental apparatus. (A) Glass tube, (B) Reagent for sulfur removal, (C) Push rod, (D) Pt-PtRh13 thermocouple, (E) Robber stopper, (F) Water-cooled brass flange, (G) Water-cooled chamber, (H) Injection pipe, (I) Bubbling pipe, (J) Alumina sheath covered with carbon, (K) Oxygen probe, (L) Molybdenum rod, (M) Graphite crucible, (N) Induction coil, (O) Hot metal, (P) Protection crucible, (Q) Alumina pedestal, (R) Gas inlet, (S) Gas outlet.

酸素センサーは一端閉じジルコニア管(8%MgO安定化ZrO2,外径3.5 mm,内径2.1 mm,長さ40 mm)とMo+MoO2参照極から構成されている。Mo+MoO2の混合比は4:1(重量比)であり,直径1.6 mmのMo棒を参照極のリードとした。Mo棒と溶銑が接触するのを防ぐため,Mo棒に石英管を被せた。また,センサーは溶銑へ浸漬する際にスラグ中を通過するため,ジルコニア管表面にスラグが付着して測定の妨げとなる場合がある。スラグ付着を防ぐため,Agペーストをジルコニア管に被覆し,焼き付けた。Agの融点は1235 Kであり,センサーを溶銑に浸漬させたときAgは溶け落ち,表面に付着したスラグを除去できる。黒鉛るつぼにMo棒をカーボンセメントで固定し,測定極側のリードとした。

本実験に用いた銑鉄は,溶質濃度が[%C]=4.109,[%S]=0.109,[%Mn]=0.235,[%P]=0.087,[%Si]=0.096の粒銑である。

2・2 実験操作

粒銑2 kgを黒鉛るつぼに入れ,高周波コイルで誘導加熱して溶解した。炉内の温度は熱電対と温度コントローラ((株)チノー製DB1000)により±10 Kに制御した。チャンバー下部のガス導入孔よりアルゴンガス(大和熔材(株))を流量10 L/min.で流通させ,チャンバー内部を不活性ガス雰囲気とした。バブリングパイプより流量0.2 L/min.でアルゴンガスを流し,溶銑を撹拌した。また,脱硫剤はインジェクションパイプよりアルゴンガス(流量0.5 L/min.)を用いて溶銑内に吹き込んだ。使用したアルゴンガスはシリカゲル,P2O5粉末を通して脱水し,823 Kに保持したMgチップによって酸素を除去した。

Table 1に実験温度,脱硫剤の種類と量を示す。粒銑の溶解を確認後,初期の脱硫剤(initial)を全量添加し,その時刻を実験開始とした。インジェクションパイプから吹き込む脱硫剤(injected)はTable 1に示した量を4分割し,実験開始後20分毎に計4回吹き込んだ。脱硫剤の添加前後または添加の中間で溶銑のサンプリング,酸素センサーの起電力測定を行った。また,添加終了後のサンプリング,起電力測定は10分毎とした。

溶銑のサンプリングでは,不透明石英管(外径5 mm,内径4 mm,長さ500 mm)を用いて溶銑を吸い上げ,水中へ急冷した。誘導結合プラズマ発光分析装置((株)島津製作所製ICPS-7500)を用いて,サンプル中の硫黄濃度[%S]を求めた。硫黄濃度の定量分析においてICPは一般的ではないが,迅速に測定するため本方法を用いた。なおJSS242-7硫黄分析専用鋼([%S]=0.030),JSS245-4硫黄定量専用鋼([%S]=0.062),粒銑([%S]=0.109)を用いて検量線を作成し,充分な分析精度であることを確認した。また,酸素センサーの起電力値はデータロガー(横河電機(株)製,サンプリング周波数10 Hz,読み取り精度0.1 mV)とチャートレコーダー(横河電機(株)製,入力抵抗2 MΩ)で記録した。溶銑に酸素センサーを浸漬した後,起電力値の変化が5 mV以内となって安定した2秒間の起電力値を読み取った。

3. 実験結果および考察

本研究で用いた酸素センサーの起電力Eは次式で与えられる6)。   

E=(RT/F)ln[(PO2(ref.)1/4+Pe1/4)/(PO21/4+Pe1/4)]+Et(2)

ここでR;ガス定数,T;温度,F;Faraday定数,Et;Mo(+)と黒鉛るつぼに接続したMo(−)間の熱起電力である。また,PeはMgO安定化ZrO2の電子伝導パラメータであり,次の文献値を用いた。   

log(Pe/atm)=20.406.45×104/(T/K)(3)7)

参照極Mo+MoO2の平衡酸素分圧PO2(ref.)は著者らの既報値を用いた。   

log(PO2(ref.)/atm)=8.843.01×104/(T/K)(4)8)

熱起電力Etは,溶銑中に浸漬したMo棒と黒鉛るつぼに接続したMo棒の間の起電力を実測した。

Fig.4にCaOのみを脱硫剤に用いた結果(No.11, 26, 8)を示す。Fig.4(a)の縦軸には硫黄濃度[%S]と初期の硫黄濃度[%S]initialの比[%S]/[%S]initialを対数目盛で,横軸に経過時間をとった。CaO粉体の吹き込みにより脱硫反応が進行したが,温度上昇に伴う反応速度の優位な上昇は見られなかった。1693 KにおいてCaOのみを脱硫剤に用いたときの溶銑中の酸素分圧と経過時間との関係をFig.4(b)に示す。実験開始前の溶銑中の酸素分圧は3.5×10−15 atmであったが,式(5)で表される脱硫反応の進行に伴って,8.1×10−15 atmへわずかに上昇したことが観察された。   

(CaO)slag+[S]Fe=(CaS)slag+(1/2)(O2)(5)

Fig. 4.

 Changes in sulfur contents and oxygen partial pressures in hot metal over time.

Fig.4(a)にCaO+Al混合粉体を脱硫剤に用いたときの[%S]/[%S]initialと経過時間との関係(No.9, 18, 24, 6)を合わせて示す。CaOのみの場合と比較して,CaO+Al混合粉体を用いた方が脱硫反応は促進される結果となった。またCaO+Al混合粉体を用いた場合,温度が上昇するとともに反応速度が大きく上昇した。1693 KにおいてCaO+Alを用いたときの溶銑中の酸素分圧と経過時間との関係をFig.4(b)に示す。実験開始後40分までのCaO+Al添加では酸素分圧の低下は観察されず2.4×10−15 atm程度であったが,60分以降では酸素分圧は1.4×10−16 atmまで低下した。脱硫反応終了時の溶銑中の[%Al]は0.039であり,Al2O3活量を1と仮定したときのAl-O脱酸平衡における酸素分圧は1.3×10−17 atmと見積もられる。本実験における溶銑中の酸素分圧はAl-O平衡で規定される値までは低下しなかったが,炭素で飽和した溶銑中でもAl添加による脱酸が進行することが確認された。本実験における溶銑中の酸素分圧は脱酸平衡で規定されていないが,酸素センサーを用いて脱硫反応中の酸素分圧の変化を捉えていると言える。以下では,脱硫反応速度について定量的に評価する。

脱硫反応は見掛け上一次反応式(6)で表されるとする。   

d[%S]/dt=k([%S][%S]eq.)(6)

脱硫剤と平衡する溶銑中のS濃度[%S]eq.を0として式(6)を変形すると,   

log([%S]/[%S]initial)=(k/2.303)t(7)

が得られる。式(7)はFig.4(a)に示したS濃度変化の傾きから見掛けの反応速度定数kが求められることを意味している。実験開始から脱硫反応が終了したと考えられる時刻までの全実験点を用いて求めた見掛けの反応速度定数kと温度との関係をFig.5に示す。なお,図中のエラーバーはFig.4(a)に示されるS濃度変化の傾きの標準偏差から見積もった。前述したように,CaOのみを用いた場合には,温度が上昇しても脱硫反応速度はほとんど変化しなかったと考えられる。一方,CaO+Al混合粉体を用いた場合には,液相が生成する1693 K以上の温度において脱硫反応が大幅に促進された。本実験結果はCaO-Al2O3液相生成が脱硫反応促進に大きく寄与していることを示唆しており,これはNiedringhaus and Fruehanによって報告された知見3)と一致していた。そこで次に,スラグ溶融剤の添加効果について検討する。

Fig. 5.

 Relation between apparent rate constant and temperature.

CaO-Al2O3二元系の液相が生成しない温度である1623 Kにおいて,CaO(No.11),CaO+Al(No.36),CaO+CaF2(No.39),CaO+Al+CaF2(No.38)を用いて脱硫を行った結果をFig.6に示す。なおTable 1に示すように,Alは初期の脱硫剤として投入した。Fig.6(b)は溶銑中の酸素分圧と経過時間との関係を示している。Alの初期投入により実験開始直後に酸素分圧が低下し,その後は脱硫反応(5)の進行に伴って,酸素分圧が上昇することが観察された。Fig.6(a)は[%S]/[%S]initialと経過時間との関係を示す。初期に投入するCaO粉体にAlを混合しても,脱硫反応速度はほとんど変化しなかった。またCaOにCaF2を混合すれば液相の生成が期待できるが,脱硫反応の促進効果は極めて小さい結果となった。一方,AlとCaF2を同時に用いた場合には,脱酸と液相生成が同時に起こり,脱硫反応速度が大幅に向上する結果となった。次にこの結果について,ポテンシャル図を用いて考察する。

Fig. 6.

 Changes in sulfur contents and oxygen partial pressures in hot metal over time.

Fig.7は,1623 Kにおいて脱硫剤としてCaO+Al(No.36),CaO+CaF2(No.39),CaO+Al+CaF2(No.38)を用いた結果を,縦軸に溶銑中の酸素分圧の常用対数,横軸に溶銑中の硫黄濃度の常用対数をとったポテンシャル図上にプロットしたものである。図中の破線は,脱硫反応(5)の平衡を表しており,以下のように算出した。反応(5)の標準Gibbsエネルギー変化ΔG°(5)は,次の文献値から求められる。   

2CaO(solid)=2Ca(liquid)+O2(gas)(8)
  
ΔG°(8)/Jmol1=1284,900214.56T(9)9)
  
2CaS(solid)=2Ca(liquid)+S2(gas)(10)
  
ΔG°(10)/Jmol1=1102,700208.70T(11)9)
  
(1/2)S2(gas)=[S]Fe(12)
  
ΔG°(12)/Jmol1=135,100+23.43T(13)10)
  
ΔG°(5)=(1/2)ΔG°(8)(1/2)ΔG°(10)ΔG°(12)=183,400Jmol1at1623K(14)

Fig. 7.

 Variations of sulfur contents and oxygen partial pressures during desulfurization of hot metal.

CaOとCaSの活量を1とすると,式(5)の平衡定数K(5)は次式となる。   

logK(5)=log(PO21/2/hS)=ΔG°(5)/(2.303RT)=5.90at1623K(15)

ここでhSは溶鉄中におけるHenry基準の硫黄の活量であり,相互作用助係数eijを用いて次のように表せる。   

loghS=log[%S]+eSC[%C]+eSS[%S]+eSMn[%Mn]+eSP[%P]+eSSi[%Si](16)

Schenk and Steinmetzによって報告されている相互作用助係数の値11)および本研究で用いた溶銑の溶質濃度を式(16)に代入し,式(15)と合わせると,   

log(PO2/atm)=2log[%S]0.056[%S]11.77(17)

が得られた。Fig.7中の破線は式(17)を図示したものである。Fig.7に示すように,CaO+CaF2を脱硫剤として用いた場合,液相生成によって脱硫反応が促進され,硫黄濃度の減少とともに酸素分圧がわずかに上昇して平衡まで到達していたと考えられる。CaO+Al+CaF2を用いた場合には,まず初期添加したAlによって脱酸が進行し,続いてCaF2によって液相が生成して脱硫反応が促進され,硫黄濃度の減少とともに酸素分圧が上昇して平衡に到達したと言える。この結果から,Al添加は溶銑中の酸素分圧を低下させ,平衡硫黄濃度を低下させる効果があると示唆された。一方,1623 KにおいてCaO+Alを用いると,脱酸は進行するもののCaO-Al2O3二元系液相が生成せず,脱硫反応は平衡まで到達しなかったと解釈できた。

さて,スラグの溶融剤CaF2の代替としてNephelineあるいはNepheline syeniteが注目されている。後者はNephelineを含有する天然鉱石である。CaO-SiO2-Al2O3スラグにNepheline syeniteを添加すると固体CaOの溶解が促進されること12),CaF2を10%添加するよりも5%CaF2+5%Nepheline syenite添加の方がCaO-Al2O3スラグの粘度が低下すること13)が報告されている。またCaO-Nepheline系の状態図は明らかになっていないが,CaOにNephelineを添加すると液体スラグを生成することが確認されている2)Fig.6(a)にはNephelineをCaF2の代替として用いた脱硫の実験結果を示す。NephelineをAlと同時に添加すれば,CaF2には及ばないものの脱硫反応が促進される結果となり,溶融剤としてのNephelineの有用性が示唆された。

4. 結言

本研究では液相の生成および酸素ポテンシャルの低下が溶銑脱硫反応に与える影響を明らかにすることを目的とし,脱硫反応中の硫黄濃度および酸素ポテンシャルを測定して以下の結果を得た。

Alの添加によって炭素飽和の溶銑中の酸素分圧は低下した。酸素分圧を低下させると,CaOによる脱硫反応において平衡する硫黄濃度を低下させることができるが,脱硫反応を促進させるためには,液体スラグを生成させることが有効である。また,スラグの溶融剤CaF2の代替としてNephelineの有用性が示された。

文献
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