Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
Regular Article
Improvement of Formability in Cold Rolling of Hot Band for Over 980 MPa Grade High Tensile Strength Steel Sheet
Masanori KobayashiKodai DoiTomofumi KimuraShigeto KoizumiKazuya KimijimaKenichi SanoHiroshi AkamizuYoshio MorimotoTakashi Ishikawa
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2014 Volume 100 Issue 5 Pages 616-624

Details
Synopsis:

To produce high tensile strength steel sheets in cold rolling with good thickness accuracy, it is important to supply material hot bands without harmful fluctuations in their deformation resistance. For the purpose, it is effective to set a high coiling temperature in the hot rolling stage.

On the other hand, it is well known that the surfaces of steel sheets easily form oxide at a high temperature in the case of steel grade which contains Si and Mn in its chemical composition. To avoid the formation of oxide, it is necessary to set a low coiling temperature in the hot rolling stage.

By the conventional hot rolling conditions, it is difficult to satisfy conditions both to get uniform formability in cold rolling and to prevent the surface of hot strips from forming internal oxidation zone.

This report describes the improvement on the mechanical property without harmful internal oxidation zone of hot strips by the proper heat histories in manufacturing the hot rolled 0.17C-1.3Si-2.0Mn high tensile steel sheet.

1. 緒言

自動車分野では,地球温暖化対策に伴う自動車の燃費向上の必要性からボディの軽量化が急務であり,また乗員の安全確保のための部品の衝突エネルギ吸収能向上・キャビンの高剛性化が重要な課題となっている。これらの要望に対応するため,鉄鋼業界では各社とも自動車用鋼板の高強度化に取り組んでおり,現在では抗張力980 MPaを越える高強度鋼板が多数実用化されている1,2,3)。部材の軽量化と高剛性化を両立させるため,素材の鋼板には,高強度化,薄肉化,および高剛性形状への加工を容易とする加工性の向上が求められ,高加工性を実現するためにフェライト+マルテンサイトのミクロ組織からなるデュアルフェイズ(DP)鋼,フェライト,ベイナイトに残留オーステナイトを分散させたTRIP鋼,ベイニティックフェライトを母相とし,微細残留オーステナイトを分散させたTBF鋼等が開発されてきた4)

これらの高強度鋼板については,熱処理方法や強度,加工性等,多数報告されているが,中間素材である熱延鋼板の特性についての報告例は少ない。しかし高強度化に伴う冷間圧延負荷の上昇抑制や,冷圧後の板厚精度改善の観点からは,その特性の把握および適正化は重要な課題であると考えられる。

今回,980-1180級冷延鋼板相当の成分例5)として,0.17C-1.3Si-2.0Mn(mass%)鋼を用い,中間素材である熱延鋼板の特性を調査し,巻取温度および巻取後の熱履歴が熱延鋼板の特性に及ぼす影響について検討し,冷間圧延特性の改善を試みた。

2. 0.17C-1.3Si-2.0Mn鋼の従来の製造方法による熱延鋼板の特性

本報告の対象プロセスとなる熱延工場の設備配置をFig.1に,設備仕様をTable 1に示す。連続鋳造によって製造された厚み230 mmスラブは,加熱炉において約1200 °Cに加熱され,粗圧延工程を経て厚み約30 mmのシートバーとして仕上圧延に供される。仕上圧延では,7スタンドの連続圧延機により製品厚みまで圧延され,その際,通常は仕上圧延出側温度(FDT)がAr3点以上となるよう圧延を完了する。仕上圧延後の鋼板は,製品冷却装置内を搬送されながら制御冷却され,求められる製品特性に応じて,適切な巻取温度(CT)の範囲でコイル状に巻き取られ,通常はその後コイル置場にて空冷されている。

Fig. 1.

 General ray-out of hot strip mill.

Table 1. Specification of hot strip mill.
FurnaceWalking Beam Type Furnace × 4
Rougher1st → 2 High × 1std,
2nd → 4 High reverse × 1 std,
3rd-4th → 4High × 2 std, close coupled.
Finisher4High × 7 std, tandem.
CoilerDown Coiler × 5
PyrometerFDTTemperature ranges: 500-1050 ºC
Detector: Si
Spectral ranges: 0.8-1.1 μm
CTTemperature ranges: 200-800 ºC
Detector: PbSe
Spectral ranges: 3-4 μm

自動車用高強度鋼板は,組織強化と固溶強化を併用し強度を高めるため,SiやMnを添加する場合がある5)。Si,Mnを添加した熱延鋼板を高温で保持すると,表面近傍の結晶粒界にSi,Mnが濃化して酸化される6)。Siが焼鈍前の板表面に残留した場合,焼鈍後の化成処理性に影響を及ぼすことは良く知られている7)。板表面近傍の結晶粒界へのSiの濃化および酸化を抑止するためには,熱延での巻取温度低減が有効であるものの8),この場合熱延鋼板が高強度化し9),冷間圧延時の圧延負荷を高める。これらの点を考慮し,0.17C-1.3Si-2.0Mn鋼の熱延製造条件は,FDTを880 °C以上,CTを500-550 °C8)に設定されている。

0.17C-1.3Si-2.0Mn鋼のCCT線図をFig.2に示す。Fig.2中に熱延巻取温度範囲を示しているが,巻取時にはフェライト変態は進んでおらず,巻取後徐冷されればフェライト変態が促進され比較的軟質な組織となり,巻取後の冷却速度が大きい場合には低温生成物が現れて硬質化すると推察される。巻取温度を500 °Cとして製造した熱延鋼板(厚み2.5 mm,幅1000 mm,長さ620 m)の,先尾端部分(先端または尾端から10 m,50 m),定常部(先端から250 m)の板幅方向中央部および端部(最エッジより10 mm位置)のL方向引張試験結果をFig.3に示す。熱延コイルの尾端側(10 m,50 m)・幅方向端部の引張強度が特に高くなっており,長さ方向同一部位の板幅方向中央部のそれと比較して200 MPa程度高い。また熱延コイルの先端部分および定常部の板幅方向端部の引張強度は,長さ方向同一部位の板幅方向中央部のそれと比較して100 MPa程度高い。また,板幅方向中央部の強度は先端10 m,尾端10 m,50 m部分が,先端50 mおよび定常部に比して30-40 MPa高くなっている。焼入れ性の高い高炭素鋼では熱延コイル板幅方向端部や,内周(先端)/外周(尾端)の硬度が高くなる現象が以前より知られているが10),高強度化のため焼鈍時の焼入れ性を考慮して合金元素を高成分化した本鋼種においても,500 °Cで巻き取った場合に同様の現象が生じている。熱延鋼板にコイル内で強度に差異が見られる原因としては,巻取温度差異の影響9)や,巻取後の熱延コイル冷却速度の影響10)等が考えられる。冷間圧延において,圧延負荷の高い材料で熱延コイル内に強度の差異が存在すると,熱延コイル先尾端に相当する部分の冷間圧延後の板厚が変動する現象を惹き起こすことが知られている11,12)。この0.17C-1.3Si-2.0Mn鋼の冷間圧延においても同様の現象が見られ,熱延鋼板先尾端の冷間圧延性を改善することが課題となっている。

Fig. 2.

 CCT diagram of 0.17C-1.3Si-2.0Mn steel,austenitized for 5 min at 950 ºC.

Fig. 3.

 Tensile strength of hot rolled 0.17C-1.3Si-2.0Mn steel sheet coiled at 500 ºC, sized 2.5 mm in thickness, 1000 mm in width, 800m in length.

巻取温度については,ホットランテーブル(HRT)上での冷却不安定現象がある。HRT上を搬送中に巻取張力が付与されない先端部分では,フライングやウェービングといった走行不安定現象が発生しやすいことが知られており13,14),また,HRT上において圧延材先尾端の平坦度が波形状として顕在化し,冷却不安定を惹き起こす結果,巻取温度が不安定となる現象が著者らによって報告されている15)

上記現象の結果として,熱延材の先尾端部分は巻取温度にばらつきが生じやすく,これが冷間圧延前の熱延鋼板の強度に影響している可能性がある。Fig.4に巻取温度の長さ方向のばらつきを調査した結果を示す。巻取温度は,巻取機の上流側20 mの位置に設置された放射温度計により,サンプリング周期0.05 secで板幅方向中央部を対象に測定した巻取温度のうち,熱延鋼板の最先端/最尾端から10 m~30 mの板長さの範囲において平均値と標準偏差を算出し,図中に示した。また,Fig.5に熱延鋼板硬度の長さ方向ばらつきを調査した結果を示す。上記温度測定範囲に該当する熱延鋼板のビッカース硬度を,幅方向中央付近の5点平均値を当該長さ方向位置の硬度として板長さ250 mmピッチで測定し,その平均値と標準偏差を求めた。

Fig. 4.

 Actual coiling temperature of hot coil.

Fig. 5.

 Actual Vickers hardness of hot coil.

Fig.4を見ると,熱延鋼板の先端(コイル内周側)と尾端(コイル外周側)では,巻取温度の平均値はほぼ等しくなっており,また先端側の方が尾端側より巻取温度の変動が大きくなっている。一方,Fig.5を見ると,熱延鋼板先端より尾端の方が硬度の平均が大きくかつばらつきが大きくなっており,上記巻取温度の調査結果の傾向とは一致しない。したがって,熱延鋼板外周部の硬度が高いのは,HRTにおける冷却不安定現象による巻取温度の変動のみでは説明できず,巻き取られた後の熱履歴の影響をより大きく受けたものである可能性がある。

一方,この鋼種を高温で巻き取ると,熱延鋼板の強度は低減するが,黒皮スケール下の鋼板表面近傍に粒界酸化層が生成する。これは,従来知られているようにSi,Mn添加熱延鋼板を長時間550 °Cより高い温度,例えば720 °Cで均熱処理すると結晶粒界にSi,Mnが濃化して酸化され粒界酸化層が生じるが6),このことから容易に推察されるように,Si,Mn添加熱延鋼板を高温で巻き取った場合において,コイル内部で徐冷され長時間高温保持される部位にも同様の粒界酸化現象が生ずるためと考えられる。Fig.6に通常の製造条件より高い温度である630 °Cで巻き取り試作した熱延鋼板の長さ方向中間部,幅方向中心部の断面を示す。酸化スケール層の下に20 μm程度の粒界酸化層が生じている。このように粒界酸化層が生じると,通常の酸洗・冷圧処理では生成した酸化物層が冷延鋼板表層付近に残存する場合がある16)。よく知られているように冷延鋼板表面にSi酸化物が存在すると化成処理性に影響を及ぼすため7),このSi酸化物が有害となる場合には鋼板表面から除去する必要がある。酸洗工程においてはスケールの溶解が先行し,その後地鉄が溶解するため17,18),地鉄表面の粒界酸化層を除去するためには酸洗時間を長くする等の対応が必要となる。そのため,巻取温度は粒界酸化を抑制するよう,500-550 °Cに設定されている8)

Fig. 6.

 Internal oxidation zone of hot rolled 0.17C-1.3Si-2.0Mn steel coiled at 630 ºC.

0.17C-1.3Si-2.0Mn鋼の熱延巻取温度を変化させたときの熱延コイル中心(=板幅方向中央部かつコイル巻厚中心部),およびコイル内外周部の板幅方向中央部の粒界酸化層の調査結果をFig.7に示す。コイル毎に熱延板全長に渡って同一の巻取温度を狙い,全コイルとも狙い温度±20 °Cの範囲に巻取温度が制御されたものである。粒界酸化層の厚みは,板断面を撮影し,得られた写真より読み取った。Fig.7を見ると,コイル中心部では巻取温度550 °C以上で粒界酸化層の厚さが増し,700 °C付近ではではおよそ30 μmもの厚みの粒界酸化層を生ずる。一方で,コイル尾端では600 °C以上にならないと粒界酸化層は生じず,またコイル中心部に比べて粒界酸化層の厚みも薄くなっている。

Fig. 7.

 Relation between coiling temperature and thickness of internal oxidation zone.

従来の製造方法による0.17C-1.3Si-2.0Mn鋼の特性は,鋼板強度は熱延コイルの板幅方向端部の引張強度が特に高く,また幅方向中央部で比較すると,コイル中心よりも内外周の引張強度が高くなっている。また粒界酸化層は,巻取温度を550 °Cより高くした場合に生じ始め,その厚みは熱延コイルの外周側で薄く,熱延コイル中心で厚くなっている。熱延鋼板の強度分布と粒界酸化層厚みのコイル内分布はいずれも,巻取温度と,巻取以降のコイル冷却速度の影響を受けたものと考えられる。

以上のような0.17C-1.3Si-2.0Mn鋼の熱延板の特性を考慮し,熱延コイル巻取り後の熱履歴を考慮した上で,粒界酸化層厚みの増大を避けつつ冷間圧延時の変形抵抗を低減することで,冷間圧延性の改善を図った。

3. 先尾端の冷間圧延特性が良好な熱延鋼板の試作方法と試作結果

3・1 冷間圧延特性が良好な熱延鋼板の試作方法

熱延鋼板の先尾端は,巻取り後コイル状態での冷却速度が比較的大きく,これに対しコイル中心はコイル状態で長時間高温保持される10)。熱延鋼板を粒界酸化が生成しない低温で巻き取ると熱延鋼板の先尾端の硬度が高まる。一方,熱延鋼板の軟質化を図るべく高温で巻き取ると,熱延鋼板中央部に粒界酸化層が生ずる。熱延鋼板を全長軟質化するには,熱延鋼板の先尾端をフェライト変態を促す温度で巻き取る必要があり,また粒界酸化層の生成を抑制するためには,軟質化後,熱延コイル中央部を速やかに粒界酸化層の成長する温度より低い温度にする必要がある。これを実現できるよう,以下の方法を実機にて試行し,効果を確認した。

①熱延コイルを高温で巻取った後,一定時間空冷してフェライト変態を促進させ,その後浸漬水冷する。

②熱延コイル内外周(先尾端)を高温で巻取り,一方長さ方向中間部を粒界酸化が生じない温度で巻取る。

以下に具体的な試作結果を示す。

3・2 高温巻取後の浸漬水冷による熱延鋼板試作条件と試作結果(I)

試作条件を他の試作条件と共にTable 2, 3に示す。熱延巻取後,コイル状態でフェライト変態を促すよう,Fig.2より巻取温度を630 °Cとし,熱延後浸漬水冷までの保持時間は(1)30 min,(2)60 minの2水準とした。試作した熱延鋼板について板幅中央,および最エッジより10 mm位置のL方向引張試験を実施し,また熱延鋼板板幅方向中央付近の表面のスケール層と地鉄表面の粒界酸化の発生状況を観察した。

Table 2. Material used in this study.
Size of hot strip in this study2.5mm (thickness)
1000 mm (width)
600-610m (length)
Chemical composition0.17C-1.3Si-2.0Mn (mass%)
Table 3. Heat pattern in controlled cooling process.
CT patternFDT/ºCCT/ºCCoil cooling*
Conventional pattern920500A.C.
Test pattern (I)(0)630A.C.
(1)A.C.: 30 min then
I.C.: 30 min
(2)A.C.: 60 min then
I.C.: 30 min
Test Pattern (II)Head: 560
Middle: 500
Tail: 600
A.C.

*A.C.: Air Cooling I.C.: Immersion Cooling

試作した熱延鋼板の引張強度測定結果をFig.8に示す。(1)(2)ともに熱延コイルの内周側,定常部,外周側とも均一に軟質化された。幅方向の強度差は0-60 MPa程度となり,500 °Cで巻き取った熱延鋼板の強度差200 MPaと比較し低減された。

Fig. 8.

 Tensile strength of hot rolled 0.17C-1.3Mn-2.0Mn steel coiled at 630 ºC with immersion cooling after air cooling (I). (a) Air cooling time: 30 min/immersion cooling time: 30 min (1). (b) Air cooling time: 60 min/immersion cooling time: 30 min (2).

Table 4に粒界酸化の発生状況を,他の試作条件による結果と共に示す。コイル中心では,630 °Cで巻き取って水冷しない場合の粒界酸化深さ20 μmと比較し,(1)の条件では粒界酸化層の深さは9 μm,(2)の条件では13 μmとなりいずれも低減されたが,粒界酸化の発生を完全に抑止することは出来なかった。

Table 4. Measured thickness of internal oxidation zone of hot strip.
Longitudinal positionin hot strip
CT pattern
Head endMiddleTail end
Conventional pattern0 μm0 μm0 μm
Test pattern (I)(0)20 μm5 μm
(1)9 μm0 μm
(2)13 μm0 μm
Test pattern (II)0 μm0 μm0 μm

3・3 先尾端部高温巻取,中間部低温巻取による熱延鋼板試作(II)

実験条件をTable 2, 3に示す。熱延コイル内外周部分のフェライト変態を促すよう,ストリップ先尾端の温度を高めた条件とした。熱延鋼板がより硬質な尾端(コイル外周)部分の巻取温度を中間部より100 °C高く,また先端(コイル内周)部分の巻取温度を同様に60 °C高めた。

試作した熱延鋼板について板幅方向中央部,および最エッジより10 mmの位置のL方向引張試験を実施し,また熱延鋼板表面の粒界酸化の発生状況を観察した。

試作した熱延鋼板の引張強度測定結果をFig.9に示す。コイル外周部の板幅端部の引張強度が880 MPaと他の部位に比較して高くなっているものの,CT=500 °Cの場合(Fig.3)と比較し,熱延コイル内外周とも,板幅中央および端部の強度が低下し,軟質化した。またTable 4に粒界酸化の発生状況を示す。粒界酸化層は生成しなかった。

Fig. 9.

 Tensile strength of hot rolled 0.17C-1.3Si-2.0Mn steel, coiled at 560 ºC/500 ºC/600 ºC in its head/middle/tail of strip length respectively (II).

3・4 試作材の冷間圧延結果

これら試作した熱延コイルを5スタンド冷間タンデム圧延機で圧延した。冷間圧延時の平均変形抵抗と圧下歪との関係をFig.10に示す。平均変形抵抗は,タンデム圧延機各スタンドの圧延荷重,ロール周速,また各スタンド間の圧延材速度,板厚,張力を実測し,この実測値を元にHillの圧延荷重式19),Hitchcockのロール扁平式20),Bland and Fordの先進率式21)を用いて連立計算により摩擦係数とともに推定した。また圧下歪は,熱延板厚(H)から冷間圧延機各スタンド出側実測板厚(h)までの圧下量を,対数歪(ln(H/h))として表した。図中にはタンデム第1~第4スタンドの1 sec周期の推算データをプロットしているが,タンデム圧延機最終である第5スタンドの値については,先進率が小さい値となって摩擦係数の推定が困難なため,図中には示していない。

Fig. 10.

 Deformation resistance in cold rolling.

また,各試作コイルの冷延鋼板板厚の長さ方向ばらつきを,従来熱延条件として製造した冷延鋼板のそれとの比較でFig.11に示す。冷延鋼板板厚は,冷間タンデム圧延機出側でX線厚み計により0.05 sec周期で測定した板厚実測値のうち,熱延コイルの最外周から10-30 mに相当する部位において標準偏差を算出した。得られた標準偏差を従来熱延条件によるものの標準偏差を1として規格化し,図中に示した。なお,試作コイル,比較対象材ともに熱延鋼板の厚みは2.5 mm,板幅は1000 mmで,同一製品厚まで冷間圧延されたものである。

Fig. 11.

 Standard deviation of cold strip thickness at hot coil tail part.

Fig.10を見ると,粒界酸化が発生しない条件である500 °C巻取りでは,熱延コイル外周部(b)の変形抵抗がコイル中間部(a)に比べ大きい。冷間圧延時の変形抵抗は,熱延鋼板の引張強度と同様の傾向を示した。

これに対し630 °C巻取り後30 min空冷しその後水冷した条件(c)では,先端部,中間部の変形抵抗が均一に低下し,CT=500 °Cとした場合の中間部よりもコイル全長で変形抵抗が小さくなり,熱延コイル外周部に相当する部位の冷間圧延における板厚精度は,Fig.11に示す通り,従来熱延条件より改善された。

また,先尾端部のみ高温巻取りした条件(d)では,尾端の変形抵抗が(a)よりは高いものの(b)よりは低下して冷間圧延性は改善されており,引張試験結果はコイル外周部の板幅端部の強度が880 MPaと高かったものの,冷間圧延における板厚ばらつきはFig.11に示すように,従来熱延条件の場合より改善された。

4. 考察

3・1に示した(I)(II)の方法によって得られた熱延コイルの強度と粒界酸化層の生成状況について,簡易な非定常熱伝導計算によって熱延コイル各部位の巻取後の冷却履歴を推定し,従来条件との比較で熱延コイルの強度,粒界酸化層生成状況と熱延コイル冷却履歴の間の関係を考察した。

熱延コイル巻取後の温度計算手法には差分法(陽解法)を用い,伝熱計算には含熱量変換温度法を用いた22)。座標系は2次元円筒座標系とし,中心部は断熱条件として軸(板幅)方向対称とした。非定常熱伝導シミュレーションに用いたコイル諸元,および空冷時と浸漬水冷時の境界条件をTable 5に示す。熱物性値は,文献23)に示されたものより最も成分が近いと思われる低合金鋼(0.23C-0.12Si-1.51Mn鋼)の熱伝導率,含熱量,密度を計算に使用した。このうち含熱量については,巻取完了時に変態が開始していないとの前提で,次のように修正して用いた。オーステナイト域に相当する含熱量を低温側に直線で外挿し,想定される変態温度域の上限をオーステナイト域の含熱量,下限をフェライト域の含熱量とし,その間を線形補間した。放射伝熱の計算においては,コイル外周部,内周部,端部各々の形態係数を考慮した。また浸漬冷却の境界条件としては三塚らの熱伝達率の実験式24)を用いた。巻取温度を550 °Cとし,500-400 °Cの間に変態による発熱量に相当する含熱量を設定した場合の冷却履歴の計算結果例をFig.12に示す。巻取直後から熱延コイルの特に端面が冷却され,コイル外周端面(C),次いでコイル内周端面(E)の冷却速度が大きく,コイル中心(A)の冷却速度が最も小さくなっており,幅方向端部の硬質化が示唆される計算結果となっている。

Table 5. Calculating conditions in coil temperature simulation.
Dimension of hot coilInner/Outer Diameter/mm760/1580
Width/mm1000
Boundary conditionsRadiational coolingRoom temperature/ºC10
Emissivity0.7
Immersion coolingWater temperature/ºC10
Heat transfer coefficientExperimental equation of α24)
Fig. 12.

 Calculated hot coil temperature in air cooling after hot rolling.

コイルの初期温度分布として,狙いとして与えた長さ方向の巻取温度パターンをコイル巻厚方向に設定し,非定常熱伝導シミュレーションを実施した。得られたコイル中心(熱延鋼板先端から250 m付近に相当する位置の板幅中央),外周部(熱延鋼板尾端から10 m付近に相当する位置の板幅中央,板幅端部)の冷却履歴をFig.2のCCT上にプロットしFig.13(1)(2)(3)に示す。また,温度計算図中に示した各部位の熱延鋼板の実測引張強度をFig.14に示す。

Fig. 13.

 Thermal history of hot coil after coiling. (1) CT=500 ºC, air cooling (Conventional). (2) CT=630 ºC, 30 min immersion cooling after 30 min air cooling (I)(1). (3) CT=560 ºC/500 ºC/600 ºC in the head/middle/end of strip respectively, air cooling (II).

Fig. 14.

 Tensile strength of each part of hot coil.

巻取温度500 °Cとして放冷したコイルの冷却履歴(Fig.13(1))を見ると,コイル幅方向中央部(A1, B1)より外周・幅方向端部(C1)の冷却速度が大きいため,フェライト・パーライト変態温度域の滞在時間にはさほど大きな差は無いものの,ベイナイト変態温度域での温度低下が早くなっており,低温生成物がより多く生じる結果,幅方向中央と比して硬質な組織になったと推定される。

次に,巻取温度630 °Cとして巻取から30 min後に浸漬水冷したコイルの冷却履歴(Fig.13(2))では,コイル内部(A2)より外周部(B2, C2)の冷却速度が大きくなっているが,いずれの部位もFig.14(1)で示した各部位(A1, B1, C1)より高温で長時間保持されており,フェライト・パーライト変態が十分に進んだ結果,コイル内のいずれの部位(A2, B2, C2)も軟質な組織となり,かつ各部位間で大きな硬度差も生じず,その結果コイル全長に渡って冷間圧延時の変形抵抗が低減されたと考えられる。

また,熱延鋼板長さ方向中央部,尾端部の巻取温度をそれぞれ500 °C,600 °Cとした冷却履歴(Fig.13(3))では,外周部(B3, C3)の初期温度が高く,従来条件による同一部位 (Fig.13(1)B1, C1)よりフェライト・パーライト変態温度域の滞在時間を長く出来た結果,各部位の強度(B3, C3)は巻取温度500 °Cの熱延コイルのそれら(B1, C1)より軟質化され,冷間圧延時のコイル外周部の変形抵抗も小さくなった。また,外周部の板幅端部(C3)の引張強度は幅方向中央部(A3, B3)より高くなっているが,これは,コイル外周部(B3, C3)の温度がコイル内部(A3)より低くなった後のベイナイト変態温度域でのコイル冷却過程において従来条件による同一部位(B1, C1)と同様の熱履歴となり,冷却速度の大きい板幅端部(C3)において低温生成物が板幅中央部(B3)より多く生じた結果であると推察される。

以上より,熱延鋼板の特に尾端・板幅方向端部が硬質化するのは,巻取完了時の初期温度と,巻取り後,コイル状態で空冷される際に冷却速度が他の部位に比して大きいことによって,低温生成物による硬質相がより多く生じるためであり,この部位の巻取温度を従来条件より高めることで,該当部位の熱延鋼板を軟質化し,冷間圧延時の変形抵抗を従来条件より低減することが可能であったと考えられる。

一方,粒界酸化を増加させない観点からは,従来条件である巻取温度500 °Cでは粒界酸化層がほとんど発生しないのと同様,先尾端のみを高温巻取りした条件においても粒界酸化は発生しなかった。これは,コイル外周部の板温が,粒界酸化層生成に要するより短い時間で粒界酸化の生成しない温度まで低下した結果と考えられる。

また熱延鋼板の全長を高温で巻取り,一定時間保持後水冷した条件では,全長にわたって熱延鋼板強度が軟質化されると共に,高温巻取り後放冷した条件と比較して板表面の粒界酸化層厚みが薄くなった。この品種では,高温で巻き取ることで,熱延コイル状態で空冷されて硬質相が析出し始める温度域まで温度が降下する間に,フェライト相が析出する時間を十分確保できる。一方,粒界酸化生成抑止の観点からは,浸漬冷却でコイル全体の冷却速度を大きくしてもコイル中心に一定の粒界酸化層が生ずる。これは,浸漬冷却の場合であっても,コイル中心では冷却速度が外周部より小さいことから,粒界酸化が生ずる温度域での滞留時間が長くなり,一定の厚みの粒界酸化層が生じてしまうものと考えられる。

上記観点から,前述の温度履歴計算結果よりコイル各部位が巻取後,粒界酸化が生ずると考えられる550 °C以上の温度域に滞在したと推定される時間を求め,該当部位の粒界酸化厚み実測結果との関係としてFig.15に示す。図中のA1,B1等の記号はFig.13,14と合わせた。浸漬水冷の有無に関わらず,上記温度域での滞在時間が30分以上となる部位で粒界酸化が生じており,またこの滞在時間が長いほど粒界酸化層が厚く生じていた。

Fig. 15.

 Relation between retention time of hot strip at higher temperature than 550 ºC and thickness of internal oxidation zone.

5. 結言

980-1180 MPa級冷延鋼板0.17C-1.3Si-2.0Mn(mass%)につき,中間製品である熱延鋼板の特性を調査し,次の結論を得た。

1)Si,Mnを含有する本鋼種は,熱延後550 °C以上の高温で巻き取ると,特にコイル中心において粒界酸化が生じ,巻取り後550 °C以上の温度で保持される時間が長いほど,粒界酸化層は厚くなる。

2)粒界酸化が生じない温度で熱延コイルを巻取ると,放冷によるコイルの冷却速度の差異により,冷却速度の大きいコイル外周・板幅方向端部に相当する部位の熱延鋼板硬度が著しく上昇する結果,熱延コイル外周部分の冷間圧延負荷を高め,板厚精度に影響を及ぼす。

さらに,熱延コイル巻取後の温度履歴を考慮して,以下の2つの改善策を考案し,実機試作によって効果を確認した。

3)高温域で巻き取ってフェライト変態を促し,変態完了後速やかに水冷することで,熱延鋼板をコイル全長にわたって軟質化するとともに,スケール−地鉄界面の粒界酸化層厚みを高温巻取後放冷する条件と比較して低減することができる。こうして得られた熱延板は,コイル全長に渡って均一な冷間圧延変形抵抗を有し,熱延コイル外周部を冷間圧延する際の板厚精度も従来条件より改善される。

4)先尾端の巻取り温度を,巻取り後の冷却速度を考慮して定常部より高くすることで,先尾端・板幅方向端部の熱延鋼板強度上昇を低減することができる。コイル先尾端は中間部よりコイル状態での冷却速度が速いことから,コイル先尾端のみ巻取り温度を高めた部位に,有害な粒界酸化を生じない条件が存在し,こうして得られた熱延板は,熱延コイル外周部を冷間圧延する際の板厚精度も従来条件より改善される。

今後は,980 MPaを超える高強度の鋼板製造技術についてさらに検討を進めていく予定である。

文献
  • 1)   S.  Miyawaki: Kobe Steel Eng. Rep., 61 (2011), No.2, 1.
  • 2)   M.  Takahashi,  M.  Suehiro,  T.  Ochi and  Y.  Miyazaki: Shinnittetsu Giho, 391 (2011), 27.
  • 3)   S.  Matsuoka,  K.  Hasegawa and  Y.  Tanaka: JFE Giho, 16 (2007), 16.
  • 4)   K.  Kasuya and  Y.  Mukai: Kobe Steel Eng. Rep., 57 (2007), No.2, 27.
  • 5)   H.  Shirasawa,  Y.  Tanaka,  M.  Miyahara and  Y.  Baba: Trans. Iron Steel Inst. Jpn., 26 (1986), 310.
  • 6)   Y.  Suzuki,  K.  Kyono and  C.  Kato: CAMP-ISIJ, 15 (2002), 500.
  • 7)   M.  Nomura,  I.  Hashimoto,  S.  Kouzuma,  M.  Kamura and  Y.  Omiya: Tetsu-to-Hagané, 92 (2006), 378.
  • 8)   H.  Shirasawa,  F.  Tanaka,  T.  Ebine and  H.  Makino: JP, 02-050908, A (1990), 55.
  • 9)  第3版鉄鋼便覧III(1),日本鉄鋼協会編,丸善,東京,(1980), 45.
  • 10)   K.  Nakamoto,  C.  Matsumoto and  K.  Shinoda: Tetsu-to-Hagané, 64 (1978), No.4, S-370.
  • 11)   E.I.  Poliak,  N.S.  Pottore,  R.M.  Skolly,  W.P.  Umlauf and  J.C.  Brannbacka: La Metallurgia Italiana, (2009) 2, 59.
  • 12)   N.  Katsura,  Y.  Itazuri,  H.  Doi and  N.  Hishinuma: JP, 3796196, B (2006), 5.
  • 13)   S.  Aoe,  H.  Hayashi and  K.  Kawashima: JFE Giho, 11 (2006), 15.
  • 14)   S.  Ogawa,  S.  Uchida,  Y.  Miura,  K.  Yamada, T.  Shiraishi,  Y.  Serizawa,  T.  Inoue,  Y.  Kondo,  T.  Akashi,  S.  Hayashi,  Y.  Nakamura and  T.  Saito: Shinnittetsu Giho, 391 (2011), 94.
  • 15)   S.  Yanagi,  A.  Yaguchi,  T.  Okuno and  M.  Kobayashi: Kobe Steel Eng. Rep., 61 (2011), No.2, 69.
  • 16)   Y.  Suzuki and  K.  Kyono: The Journal of the Surface Finishing Society of Japan, 55(2004), No.1, 48.
  • 17)   K.  Kitagawa,  S.  Ono,  O.  Mikuni and  C.  Saito: Tetsu-to-Hagané, 50 (1964), No.12, 2074.
  • 18)   T.  Saito and  T.  Yoshida: Tetsu-to-Hagané, 72 (1986), No.5, S550.
  • 19)   R.  Hill著,鷲津久一郎,山田嘉昭,工藤秀明訳:塑性学,培風館,東京,(1954), 186.
  • 20)   J.H.  Hitchcock: 1935 A.S.M.E.Report of Special Reserch Committee on Roll Neck Bearings, (1935), 33.
  • 21)   D.R.  Bland and  H.  Ford: Proc. Inst. Mech. Eng., 159 (1948), 144.
  • 22)  連続鋼片加熱炉における伝熱実験と計算方法,熱経済技術部会加熱炉小委員会編,日本鉄鋼協会,東京,(1971), 68.
  • 23)  BISRA Metallurgy Division Thermal Treatment Sub-Committee: Physical Constants of Some Commercial Steels at Elevated Temperatures, Butterworths Scientific Publications, London, (1953), 2.
  • 24)   M.  Mitsutsuka and  K.  Fukuda: Tetsu-to-Hagané, 63 (1977), No.6, 1008.
 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

This article is licensed under a Creative Commons [Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International] license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top