Tetsu-to-Hagane
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Hydrogen Embrittlement in Al-Added Twinning-Induced Plasticity Steels Evaluated by Tensile Tests during Hydrogen Charging
Motomichi KoyamaEiji AkiyamaKaneaki Tsuzaki
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2014 Volume 100 Issue 5 Pages 662-667

Details
Synopsis:

Hydrogen embrittlement of a Fe-18Mn-0.6C-1.5Al steel was observed in tensile deformation during cathodic hydrogen charging. The fracture mode was quasi-cleavage fracture. The relationship between diffusible hydrogen content and fracture stress was arranged by the power law like that for ferritic and Al-free TWIP steels. The Al addition did not affect the magnitude of the degradation of hydrogen embrittlement property at the same current density in TWIP steels. However, the Al-added steel showed a suppression of hydrogen entry and a larger total elongation in comparison to those of the Al-free TWIP steel in the same environment, although the Al addition decreased fracture stress. The larger elongation is one of the reasons for why the Al addition improves the hydrogen embrittlement property of cup specimens.

1. 諸言

Twinning-induced plasticity(TWIP)鋼は次世代自動車用高強度鋼板として期待されるオーステナイト鋼の一種である1,2)。種々あるTWIP鋼は,いずれも双晶変形に起因して優れた伸び-延性バランスを示す。引張特性の観点では実用上の要求特性を十分以上に満たしているTWIP鋼であるが,水素脆化の発現が報告されており,水素脆化特性の評価および改善が求められている。これまでに水素脆化が観察されている鋼種はFe-15Mn-0.6C1,3),Fe-16Mn-0.6C1,3),Fe-17Mn-0.6C1,3),Fe-18Mn-0.6C4,5),Fe-22Mn-0.6C1,3,6,7),Fe-17Mn-1.2C8,9)などで,そのほとんどがFe-Mn-C三元系のTWIP鋼である。対して,Alを含有するFe-15~18Mn-0.6C-1.5Al TWIP鋼はAl無添加鋼よりも水素脆化感受性が低い1,3)。この事実から,Al添加はFe-Mn-C基TWIP鋼の水素脆化特性を改善する働きがあるとされる。

Al添加が,なぜTWIP鋼の水素脆化特性を改善するかについて考える。Al添加は流動応力を低下させるため,製品の残留応力を低下させる6)。金属組織に大きな変化がない限り,TWIP鋼の水素脆化感受性は応力と水素量によってよく整理されるので4),この残留応力の低下が水素脆化感受性を低下させる一因である。加えて,Al2O3表面皮膜の形成による水素侵入抑制10),ひずみ時効の抑制7,11),積層欠陥エネルギー増大による双晶変形抑制8,9)も重要な要素である。しかし,実際に各要素がどの程度水素脆化抑制に寄与しているのか依然不明確であるので,それぞれの要素に対して定量的な評価が必要である。定量的評価の観点では,破断応力および水素量が機械的試験と昇温脱離分析装置によって測定可能である。本論文では,水素影響下の流動応力および破断応力に着目し,破断応力と水素量の定量的な関係に及ぼすAl添加の影響に議論の主眼をおく。

機械的試験で水素脆化特性を評価する場合,どの段階で水素チャージをするかは重要である。オーステナイト鋼では一般に,水素の室温拡散が遅いため,水素を試料全体に与えることが難しい。このため,常温常圧下で水素チャージを予め施し,大気中で引張試験をした場合,水素脆化が明瞭な形で観察されない。一方,我々の既報論文4,5,8)で,水素チャージ下の引張試験によってFe-Mn-C三元系TWIP鋼の水素脆化特性を評価することに成功している。水素チャージ下引張試験では,転位運動が水素を運ぶことに加えて,試験中に表面から形成したクラック先端に連続的に水素が侵入できるため,水素脆化を明瞭に観察することができる。また,水素チャージ下引張試験法により測定されたFe-Mn-C TWIP鋼の破断応力と水素量の関係はべき乗則で整理される5)。Fe-Mn-Al-C TWIP鋼で同様の実験をし,破断応力−水素量の関係を整理し,比較することで,Al添加による水素脆化発現条件の変化について議論できる。

本論文ではAl無添加型TWIP鋼との比較検討のため,Al添加型TWIP鋼においても明瞭な水素脆化が起こる条件を見出し,評価することを第一の目的とする。そして,破断応力および伸びを水素チャージ条件または水素量で整理することで,Al添加が水素脆化割れの臨界応力または臨界水素量にどのように影響を与えるかを議論する。

2. 実験方法

Fe-17.6Mn-0.61C-1.5Al(wt.%)鋼を真空誘導溶解で作製した。1073 Kで厚さ60 mmから2.6 mmまで熱間圧延をした後,1.4 mm厚さまで冷間圧延を施した。圧延後に1073 Kで溶体化処理を行った。使用したすべての試料は放電加工によって切り出した。本鋼の結晶粒径は焼鈍双晶界面を含んで,4.9 μmである。

本実験は,既報のFe-18Mn-0.6C鋼で行った実験5)と同条件で行った。試料は両端につかみ部を有する幅4.0 mm,厚さ0.3 mm,長さ10 mmの形状を採用した。厚さは1.4 mmから0.3 mmまで機械研磨によって減厚した。引張試験はインストロン型の試験機を用い,ひずみ速度5.1×10−5 s−1,室温で水素チャージ下にて行った。本実験の詳細なセットアップは前報5)を参照されたい。水素チャージ用電解液は3% NaClに3 g/L NH4SCNを加えた水溶液を用いた。水素チャージは対極に白金を用い,引張試験の開始から終了までの間行った。常にゲージ部全体が電解液で覆われるように,電解液は引張試験の進行に伴い追加した。試験中は電流一定とし,初期試料極電流密度1, 3, 5, 7, 10 A/m2の5条件を採用した。全伸びは引張試験前後のゲージ部長さ変化から決定した。侵入水素量は質量分析器を用いた水素昇温脱離分析(TDA)法で測定した。TDA用試料には破断試料を用い,各引張試験終了後20分以内に測定を開始した。TDAは室温から550 Kの温度範囲で加熱速度100 K/hで行った。拡散性水素は室温で有意に拡散可能である試料内水素と定義する。本実験では室温から473 Kの間に脱離した水素の総量を拡散性水素量とし,473 Kまでの水素脱離速度を時間に対して積分することで決定した。水素脆化を支配する水素量は全量ではなく拡散性水素量であることが知られている12)

3. 結果および考察

Fig.1に異なる電流密度における水素チャージ下引張試験の結果を示す。破断応力は電流密度増加に伴い低下するが,加工硬化率は電流密度に対して有意に変化しない。これら破断応力および加工硬化率の電流密度依存性はAlを含まないFe-18Mn-0.6C鋼と同様の傾向である5)。以下Fe-18Mn-0.6C鋼をAl無添加鋼,Fe-18Mn-0.6C-1.5Al鋼をAl添加鋼と呼称する。マルテンサイト変態および双晶変形の挙動の変化は加工硬化率に大きな影響を与えることで知られる13,14,15,16)。つまり,加工硬化率が変化しなかった事実は,本実験条件における水素チャージがマルテンサイト変態および双晶変形の挙動に有意な影響を与えていないことを示す。

Fig. 1.

 True stress-strain curves obtained at various current densities in the Fe-18Mn-0.6C-1.5Al steel.

Fig.2にTDAで測定された拡散性水素量を電流密度に対してプロットした結果を示す。本結果より,拡散性水素量は電流密度の増大に伴い増加し,Alの添加によって水素侵入が抑制されることがわかる。Al添加による拡散性水素量の低下には二つの原因が考えられる。一つはAl2O3表面層の形成10),もう一つは拡散性水素をトラップする格子欠陥密度の低下である。Chunら17)は,Al添加は拡散性水素トラップサイトの一つである転位の量(転位密度)を低下させるので,これが原因で拡散性水素量が減少すると言及している。

Fig. 2.

 Diffusible hydrogen content plotted against current density.

Fig.1およびFig.2の結果から,破断応力と拡散性水素量の定量的な関係を議論する。水素脆化特性を同電流密度の全伸びで評価した場合(Fig.3(a)),Al添加は水素脆化特性改善の働きがあるといえる。一方,Fig.3(b)に示すように拡散性水素量に対して全伸びをプロットした場合は,Alは水素脆化感受性を高めているように見える。ここで,測定された拡散性水素量は,脆化に寄与する水素以外も含んでいることに留意されたい。例えば,Fe-Mn-Cオーステナイト鋼の水素脆化では粒界破壊が報告される4)。粒界き裂発生が粒界強度の低下に起因し,この粒界き裂の発生が試料破断の挙動を支配していると仮定すると,き裂発生時に粒界ではなく転位や空孔などに存在している水素は,この粒界破壊に寄与しないと考える*1。つまり,脆化に寄与しない拡散性水素のトラップサイトの量が異なる試料を比較する場合,本質的に重要な水素量は同じだとしても,一方の試料がより多くの拡散性水素を含むため,見かけ上,トラップ密度の高い試料の水素脆化感受性が低く見積もられる。このため,拡散性水素量に対して特性値をプロットすることは,一定の傾向を表現するのに便利であるが,トラップ密度の異なる二種の鋼の水素脆化感受性を比較する場合は,正しい評価を与えない。金属組織と拡散性水素量の相関については,破断応力に関する記述において改めて詳細に議論する。一定環境下の水素脆化特性の優劣を正しく示すのは,ある実験環境の水素のフガシティーに対応する電流密度を横軸にとった場合の変化傾向である。すなわち,本結果もAl添加が水素脆化特性改善に働いていることを支持している。カップ状試験片で水素脆化感受性を評価した場合,Al添加鋼はAl無添加鋼よりも水素脆化感受性が低いことが報告されている1,3,6)。カップ状試験片は同一変形プロセスで加工されるので,カップ状試験片における水素脆化特性は同程度のひずみ水準で評価されていることになる。本研究では,同一電流密度で評価した場合,Al添加鋼がAl無添加鋼よりも,水素チャージ下でより大きな伸びを示すことが示された。この伸びの差が,カップ状試料における低水素脆化感受性に寄与していると考える。

*1 拡散性水素は室温で拡散できるので,定荷重試験などの長時間試験の場合,き裂発生時に粒界にトラップされていない水素も,粒界への拡散によってき裂の伝播に寄与しうる。このため,実験方法では水素脆化を支配する水素量は拡散性水素であると言及した。しかし,本試験では連続的に変形を与えていること,試験時間が長くても3時間程度であること,水素の拡散速度が遅いオーステナイト鋼であること,を考慮すると,水素の拡散に比べてき裂の伝播速度は速いと考えられる。このため,水素による粒界強度の低下をき裂発生の主因と仮定した場合には,き裂発生時に粒界にトラップされている水素が最も強く脆化に影響すると考える。

Fig. 3.

 Total elongation plotted against (a) current density and (b) diffusible hydrogen content.

Fig.4(a)およびFig.4(b)に水素脆化感受性を破断応力で評価したものを示す。電流密度および拡散性水素量のいずれに対してプロットした場合においても,Al添加鋼の破断応力はAl無添加鋼の破断応力に較べて低い値を示す。Fig.4(a)において,Al添加鋼が全体にわたってAl無添加鋼よりも低い破断応力を示している事実は,もともと水素の影響なしでも,Al添加鋼がAl無添加鋼よりも低い流動応力および破断応力を示すことに起因する。既報論文5)でAl無添加鋼における拡散性水素量と破断応力の定量的な関係はべき乗則で整理されることを報告した。Fig.5に示すように,Al添加鋼も同じくべき乗則で整理される。しかし,その定量的な関係はAl添加によって変化している。Alの有無に起因する破断応力と拡散性水素量の定量的な関係の差異は水素をトラップする欠陥密度および分布の差が一因である。転位密度17)および双晶密度18,19,20)はAl量の増大に伴い減少するので,粒界や双晶界面などの,水素誘起破壊が起こる界面4,8,9)における水素分布がAl添加によって変化すると考える。破壊に関与する部分以外に存在する水素は脆化に寄与しないと考えるので,拡散性水素量と破断応力の定量的な関係も水素分布および欠陥密度の変化に伴って変わると考える。例えば,粒界破壊が起こる場合は,粒界に存在する水素が最重要であると考えるので,他のサイトに捕らわれている水素が増えるほど,ある破断応力に対応する必要な拡散性水素量は見かけ上大きくなる。また,水素分布以外にも,破壊挙動の変化も拡散性水素と破断応力の定量的な関係を変え得る重要な因子である。破壊挙動の影響については破面観察結果とともに後述する。

Fig. 4.

 Fracture stress plotted against (a) current density and (b) diffusible hydrogen content.

Fig. 5.

 Double logarithmic plot of diffusible hydrogen content and fracture stress.

Fig.6およびFig.7に,水素チャージされた試料の全伸びおよび破断応力をそれぞれ,水素の影響を受けていない状態の全伸びおよび破断応力で割り,規格化した値を示す。各図(a)は電流密度,(b)は拡散性水素量を横軸にして示している。Fig.6(b)およびFig.7(b)に示すように,規格化した伸びおよび破断応力ともに,拡散性水素量に対してプロットする限り,Al無添加鋼の方がAl添加鋼よりも高い値を示す。一方,電流密度に対してプロットした場合,規格化した伸びおよび破断応力ともにほぼ同様の水素脆化傾向を示す(Fig.6(a)およびFig.7(a))。前述のとおり,同一環境下における水素脆化感受性を評価したい場合,伸びや破断応力は電流密度に対してプロットするのが適切である。すなわち,Al添加は相対的な値で評価した場合の水素脆化度には影響を与えないと結論する。

Fig. 6.

 Total elongation divided by the total elongation of the no hydrogen-charged specimen plotted against (a) current density and (b) diffusible hydrogen content.

Fig. 7.

 True fracture stress divided by the true fracture stress of the no hydrogen-charged specimen plotted against (a) current density and (b) diffusible hydrogen content.

破壊様式はFig.5に示した拡散性水素量と破断応力の定量的な関係を決定する重要な要素である。水素チャージをしない場合,破面はディンプルで満たされており,完全に延性的である(Fig.8(a))。Fig.8(b)およびFig.8(c)において矢印で示すように,水素チャージが破壊様式を延性破壊から脆性破壊へと変化させている。脆性破壊部を水素影響部と仮定すると,水素が破壊挙動に影響する領域は電流密度の増加とともに拡大している。Fig.9に示すように,水素によって誘起された脆性破壊は擬へき開破面を示している。Al無添加鋼の水素脆化挙動は粒界破壊支配であったので4,5),今回観察された擬へき開破壊はAl無添加鋼とは異なる破壊様式であることがわかる。この破壊様式の変化は,拡散性水素量と破断応力の定量的な関係を変える要素の一つと考える。破壊様式が変化した理由として,双晶変形挙動の変化が挙げられる。Fe-Mn-C基TWIP鋼において変形双晶先端の応力集中場は粒界破壊を促進する8,9)。Al添加は積層欠陥エネルギーを増大させるため,双晶変形を抑制する18,19,20)。双晶変形抑制により粒界破壊が抑制され,代わりに双晶界面割れや特定すべり面上での局所すべりが水素脆化を支配することで,擬へき開破壊が現れたと考えられる。さらに,試料表面近傍に現れた脆性破壊部は,結晶粒径を大きく超える広範囲にわたって平らな領域が続いていることに注目されたい(Fig.8(c))。平滑な領域が広く存在する理由は以下の二つの要素を考えることで説明される。第一に,高Mn鋼における擬へき開破壊は{111}に沿って生じるということ21,22,23,24)。第二に,Fe-Mn-C基TWIP鋼に室温引張変形を加えた場合,〈111〉方位に強い集合組織が形成すること25,26)である。擬へき開破壊が引張方向に垂直な面に沿って起こる場合,4種の{111}面のうち引張方向に対して垂直に近い面が擬へき開破壊を起こすと考える。引張方向に〈111〉集合組織が形成させている状態で上述のような擬へき開破壊が起こると,たとえ脆性き裂が粒界を挟んだとしても,見かけ上破面は平滑になると考える。

Fig. 8.

 Fractographs of the Fe-18Mn-0.6C-1.5Al steel deformed (a) without hydrogen charging and (b) with hydrogen charging at the current density of 3 A/m2, (c) with hydrogen charging at the current density of 10 A/m2.

Fig. 9.

 Magnified image of a section in Fig.8 (c) outlined by the dotted lines.

4. 結論

水素チャージ下引張試験では,Al添加型TWIP鋼においても水素脆性が明瞭に観察された。Al無添加型TWIP鋼と同じく,破断応力と拡散性水素量の関係はべき乗則で整理される。しかし,破壊様式はAl無添加型TWIP鋼が粒界破壊支配であったのに対し,Al添加鋼では擬へき開破壊が観察された。また本試験法においても,Al添加が侵入水素抑制の効果を有することが確認された。これらAl添加による破壊様式の変化および侵入水素量の低下は,同水素チャージ環境下において伸びを改善する働きがある。一方,Al添加は双晶変形および動的ひずみ時効を抑制するので,水素の影響の有無にかかわらず,流動応力および破断応力を低下させた。上述Al添加による伸びの改善が,カップ状試料などで報告されている水素脆化特性改善の一因であると考える。

謝辞

本研究で用いた試料はPOSCOから提供していただいた。また,本研究はNIMSジュニア研究員(2009~2010)および日本学術振興会特別研究員(2011)の制度の一環として行った。この場を借りて深謝いたします。

文献
 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

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