Tetsu-to-Hagane
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Ductile-to-brittle Transition in a Quenched and Tempered Low Carbon High Strength Steel with Intermediate Stage Transformation Microstructures
Yuta IzumiyamaRinzo KayanoKotobu Nagai
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2014 Volume 100 Issue 5 Pages 704-712

Details
Synopsis:

Toughness, especially ductile-to-brittle transition temperature (DBTT) such as fracture appearance transition temperature (FATT) obtained from Charpy impact test, is one of the most important properties of steels to assure material reliability. One of determining factors of DBTT in ferrite-pearlitic and martensitic steels is well known as the effective grain size (dEFF) on cleavage fracture surfaces. However, in the steels with intermediate stage transformation microstructures (Zw), relationship between DBTT and dEFF has not been clarified because of the complicated microstructures. Meanwhile, absorbed energies of Charpy impact test has been standardised for steel applications. The present study aims to determine the relationship between DBTT and dEFF, and the relationship between upper shelf energy (USE) and plastic properties in a quenched and tempered low carbon high strength steel which has a Zw microstructure consisting of granular bainitic ferrite and quasi-polygonal ferrite. Size distribution of dEFF was measured on the cleavage fracture surfaces revealed by Charpy impact testing at 77 K, and correlation between dEFF and the microstructure was examined. It was found that FATT is inversely proportional to ln (dEFF−1/2) with a slope close to that approximated for ferrite-pearlitic steels. Investigation of the correspondence between cracks and EBSD grain boundaries revealed that dEFF apparently agrees with the grain size of bainitic ferrite enclosed by large angle grain boundaries with misorientation over 15 degrees. Moreover, USE has been proportional to total plastic works until fracture of tensile test. These results indicated that the absorbed energies at any temperatures could be computable.

1. はじめに

靱性,特にシャルピー衝撃試験の破面遷移温度(FATT)などにより評価される延性脆性遷移挙動は,鋼の信頼性を確保するために最も重要な性質の一つである。延性脆性遷移は材料の温度低下により,熱活性過程である塑性変形の降伏応力(YS)が著しく上昇して,劈開破壊の破壊応力よりも大きくなることで起こる。換言すると,FATTのような延性脆性遷移温度(DBTT)はある応力状態における破壊応力とYSの釣り合いで決まり,YSが大きくなるほどわずかな温度低下でYSと破壊応力が釣り合うようになる。そのため,結晶粒微細化1)や,Niのような低温で固溶軟化を起こす元素2)の添加による強化を除いて,YSの増加はDBTTの上昇に結びつく。

DBTTに及ぼす結晶粒径の影響については,古くから,フェライト鋼においてフェライト粒径dを用いて,(1)式の関係が成り立つことが知られてきた1)。   

DBTTd1/2orDBTTlnd1/2(1)

この関係は結晶粒径をGriffith理論3)における先在き裂長さに対応づけることで説明される。一方,Hall-Petchの関係4,5)はフェライト鋼においてはYSが結晶粒径の−1/2乗に比例することを示しているから,結晶粒微細化はフェライト鋼のDBTTを下げると同時にYSを高める手段となる。

このように,フェライト鋼ではDBTTを決定づけるミクロ組織因子は明確であるものの,他の変態組織においては必ずしもそうではない。そのため,脆性破面の劈開破面単位を仮想的にフェライト粒とみなして,それを有効結晶粒(effective grain)と定義する考え方が用いられてきた6, 7)

マルテンサイト鋼においては,有効結晶粒径(dEFF)は旧オーステナイト(γ)粒或いはパケットの大きさに対応することが知られている7,8)。しかし,ベイナイトに代表される中間段階変態組織(独:Zwischenstufen Umwandlungsprodukt,Zw)は,良好な強度と靱性を持つにも拘らず,その組織の複雑さやターミノロジーの混乱9,10,11)も相まって,特に低炭素鋼においては少数の検討8)があるに過ぎず,有効結晶粒に対応するミクロ組織因子が明確にされてこなかった。

一方,シャルピー衝撃試験の吸収エネルギーは,構造用鋼などにおいてある温度における値(例えば15 ft-lb(=20.6 J)など)を規格に盛り込む形で用いられてきた。しかしながら,規格値の物理的な根拠は曖昧であり,任意温度における吸収エネルギーは上部棚エネルギー(USE)と下部棚エネルギー(LSE),若しくは延性破面率との関係が明確でなければ意味を持たない。

そこで,本研究においては従来ほとんど研究例のないZwのうち,Arakiらの分類9,10,11)によるところのグラニュラーベイニティックフェライト(αB)および擬ポリゴナルフェライト(αq)の混合組織を有する調質型低炭素高張力鋼を対象に,主にDBTTを決定づけるミクロ組織因子について,さらにはUSEと塑性仕事の関係について調べたので報告する。

2. 実験方法

供試材として,Table 1に示す化学成分を有する,低C-Mn系の高張力鋼の圧延鋼板heat AおよびB,Cを,1228 Kにて水焼入れ,853 Kにて焼戻しを施したものを用いた。供試材はほぼ同等の化学成分および熱処理を施しており,ミクロ組織の種類も同じである。これらのheatは後述するように,旧γ粒径を変えて,ミクロ組織の大きさを変えることを狙っている。

Table 1. Chemical composition (mass%).
heatCSiMnPSNiMoNbVAlTiN
A0.060.161.480.009< 0.0010.260.140.030.030.030.010.004
B0.050.171.460.0090.0010.260.140.020.030.030.020.006
C0.070.141.540.0060.0010.290.150.030.030.020.010.005

機械試験として,引張試験およびシャルピー衝撃試験を実施した。引張試験はゲージ直径6.0 mm,ゲージ長さ30.0 mmの平滑丸棒引張試験片を鋼板の板幅方向から採取し,インストロン式引張試験機(Shimadzu Autograph AG-B)を用いて,室温で一定のクロスヘッド変位速度0.54 mm/min(公称ひずみ速度約3×10−4 s−1)で行った。接触式伸び計を試験片に取り付けて均一伸びと局部伸びを測定するとともに,破断後の試験片を突き合わせて全伸びを求めた。

シャルピー衝撃試験は10×10×55 mm(2 mm Vノッチ)のフルサイズシャルピー衝撃試験片を板幅方向から採取し,173 Kから273 Kの間で破断させて,延性破面率と吸収エネルギーから,FATTおよびエネルギー遷移温度(ETT)を求めた。

ミクロ組織観察は3%硝酸アルコールにてエッチングを施し,光学顕微鏡および熱電子銃型の走査型電子顕微鏡(SEM,JEOL JSM-6060A)により組織観察を行った。旧γ粒径は,界面活性剤を加えた飽和ピクリン酸水溶液と,5%ピクリン酸アルコールとピロ亜硫酸ナトリウム水溶液の混合液に浸漬してエッチングした焼入れままの材料のミクロ組織を画像解析して測定した。

有効結晶粒径の測定は,77 Kにて破断させたシャルピー衝撃試験片の破面をSEMにて観察し,それぞれの劈開破面の大きさを画像解析して求めた。また,有効結晶粒と破面の関係を直接的に評価するため,シャルピー衝撃試験片の破面を垂直に切断して,樹脂埋めと研磨を行い,3%硝酸アルコールでエッチング後に樹脂から取り出し,断面と破面の境界をSEMにて観察した。

有効結晶粒径を支配するミクロ組織を推定するために,コールド型の電界放射型SEM(FE-SEM,JEOL JSM-6335F)に取り付けた電子線散乱分光(EBSD)装置(TSL MSC-2200)を用いて,Fe(BCC)の結晶方位差15°以上の大角粒界に囲まれた結晶粒径を求めた。また,各種結晶粒の平均粒径は全て面積率で重み付けした加重平均値を用いた。

3. 実験結果

3・1 機械的性質

Fig.1にheat Cの引張試験より得た公称応力−公称ひずみ線図を示す。公称応力−公称ひずみ線図には明確な降伏点が認められ,約0.01のリューダース伸びを示すなど,内部ひずみを持たないフェライト鋼に近い挙動を示している。線図においては,均一伸び約0.08で引張強さ(TS)の約560 MPaに達した後に緩やかに下がり続け,公称ひずみ約0.24で破断した。局所伸びは約0.15とやや大きく,破断した試験片から求めた全伸び(El)は約0.27,そして絞り(RA)は約82%にも達し,強度に対して延性に優れていることがわかる。

Fig. 1.

 Nominal stress-strain curve of heat C.

Fig.2にheat Cのシャルピー衝撃試験より得た遷移曲線を示す。延性破面率には延性から脆性破面への顕著な破面遷移が認められ,吸収エネルギーにおいても同様に上部棚から下部棚へのエネルギー遷移が認められた。FATTは184 Kと非常に低く,遷移域幅も20 K以内と極めて狭いことから,供試材は低温靱性に優れた材料であることがわかる。また,ETTはFATTとほぼ同じ温度であった。USEは熱活性過程である塑性変形で決まるから,厳密には温度の影響を受けるが,遷移域のみに限って考えると,吸収エネルギーはUSE(最大)・LSE(最小)と延性破面率の混合則に近似的に則っており,本研究においてはFATTとETTは等価であるとみなせる。そこで,以降の検討ではFATTとETTの両者をまとめてDBTTとして評価した。

Fig. 2.

 Absorbed energy and fracture transition curves obtained from Charpy impact test of heat C.

Table 2に各heatの機械的性質の一覧を示す。いずれのheatも下降伏応力(LYS)およびTS,El,絞り(RA)がほぼ同じである。一方,それにも拘らず,FATTおよびUSEにあたる273 Kにおける吸収エネルギー(vE273 K)はheatの間で大きく異なっている。

Table 2. Mechanical properties of the heats.
heatLYS (MPa)TS (MPa)El (-)RA (%)FATT (K)vE273 K (J)
A478.2567.30.25382.2207440
B465.7550.70.28882.2202395
C471.2561.10.26982.2184365

3・2 ミクロ組織

Fig.3にheat Cのミクロ組織の光学顕微鏡像とSEM像の一例を示す。以降の結果はいずれもheat Cで代表して示しているが,供試材においてはいずれも同等の化学成分および熱処理を施していることから,heat Aおよびheat Bにおいても本質的には変わらない。ミクロ組織は複雑だがZwに属する。また,調質後ミクロ組織では旧γ粒界は部分的にしか判別できなかった。Arakiらの分類9,10,11)に従えば,このミクロ組織はαBとαqの混合組織であると判断される。供試材が低炭素鋼であるため,調質後のαBはシーフ状の傾向が小さく,αqとほとんど区別できなかった。後述する有効結晶粒とミクロ組織の対応から,αBとαqを区別する必要性は低いと思われる。Arakiらの分類9,10,11)におけるポリゴナルフェライト(αp)とαqの違いが形状の相違に過ぎないことと,低炭素鋼の中間段階変態においては各種の変態組織が連続的に生じる11)ことから,著者らは供試材のZwがαpと本質的に同じ組織であるとして本研究では扱う。

Fig. 3.

 Optical and SEM microstructures etched with Nital of heat C. (a) Optical microstructure; (b) SEM microstructure.

Fig.4にheat Cのシャルピー衝撃試験片の破面に平行な方向におけるEBSD IPFマップを示す。結晶方位はランダムな方向を向いており,特定の方向に配向している様子は認められなかった。

Fig. 4.

 EBSD IPF map and grain boundaries map of heat C. (a) EBSD IPF map; (b) EBSD boundaries map (manifested with misorientation above 15 degrees).

heat Cにおける,EBSDより得た結晶方位差15°以上の大角粒界に囲まれた結晶粒径の分布を旧γ粒径の分布と比較した結果をFig.5に示す。EBSDはαBとαqを明確に区別しないため,大角粒界に囲まれた結晶粒はαBとαqの両方を含めたベイニティックフェライト粒となる。Fig.5においては,いずれの粒径も狭い分布を示しているものの,旧γ粒径はベイニティックフェライト粒径の約2.7倍と大きい。この関係はTable 3に示すように,他のheatにおいても同様であることがわかる。Table 3およびTable 2から,旧γ粒径とベイニティックフェライト粒径が細かいほど,FATTが低くなることがわかるものの,いずれのミクロ組織因子がDBTTの有効結晶粒に対応するか明確にする必要がある。

Fig. 5.

 EBSD grain (manifested by the boundaries with misorientation above 15 degrees) and prior-austenite grain area-fraction distributions of heat C.

Table 3. Grain sizes of each microstructures (μm).
heatEBSD grainPrior-austenite graindEFF
A11.728.114.9
B10.326.112.9
C9.124.610.5

3・3 破面観察および有効結晶粒

Fig.6に77 Kにて破断させたheat Cのシャルピー衝撃試験片のシャルピー衝撃試験片の起点近傍の破面のSEM像を示す。破面はいずれもリバーパターンを持つ劈開破面となっていた。起点部には結晶粒内破壊と思われる劈開破面があるのみで,粗大なセメンタイトなどの異物やそれらの破壊面は認められなかった。これより,供試材の脆性破壊形態は結晶粒界や介在物に応力集中して起こる,粒内劈開破壊であると判断された。

Fig. 6.

 SEM fractgraph of Charpy impact specimen broken at 77 K of heat C.

体心立方格子(BCC)金属においては,{100}が劈開面であることが知られている。dEFFは仮想的なフェライト粒の劈開面の大きさであり,その境界は一定角度以上の結晶方位差を持つ大角粒界に対応すると考えられる6,7,8,12,13,14,15)

heat Cにおけるそれぞれの劈開破面の大きさから求めたdEFFの分布をEBSDから得たベイニティックフェライト粒径分布と比較した結果をFig.7に示す。dEFFおよびベイニティックフェライト粒径の分布とも狭いピークを示しており,Table 3に示すように平均粒径も一致した。これより,供試材のdEFFは結晶方位差15°以上の大角粒界に囲まれた結晶粒に対応していることが判別される。

Fig. 7.

 Effective grain area-fraction and EBSD grain (manifested by the boundaries with misorientation above 15 degrees) area-fraction distributions of heat C.

3・4 上部棚エネルギーと塑性仕事の関係

本研究の供試材では,ベイニティックフェライト粒径が変化しても,YSはほとんど変化しないが,上部棚エネルギーは変化するという興味深い結果を示している。

シャルピー衝撃試験のUSEは延性破面率100%のときの吸収エネルギーであり,その大きさは降伏から延性破壊するまでの塑性仕事を反映したものと考えられる。延性破壊はマイクロボイドの合体によって生じるが,その発生条件は静水圧応力および応力三軸度の影響を強く受けるために16),さまざまな応力状態に広く対応した延性破壊条件式は知られていない。ここでは一つのアプローチとして,USEと応力状態が異なる引張試験の塑性仕事との対応関係を調べた。

Fig.8にheat Cにおける真応力(σ)−塑性ひずみ(ε)線図を示す。平滑丸棒引張試験においては,荷重と標点間距離を基準とする限りは局所くびれ以降の真応力−真ひずみの関係を決定できない。Enami and Nagaiは円周切欠引張試験片を用いて,試験片くびれ部の曲率半径と断面半径のくびれ比から真応力−塑性ひずみの関係を求め,円周切欠引張試験の真応力−塑性ひずみ線図が平滑丸棒引張試験のそれと一致することと,平滑丸棒引張試験の真応力−塑性ひずみの関係を最大荷重点以降に外挿できることを報告している17,18)

Fig. 8.

 True stress-true plastic strain curve and its fitting curve by Hollomon equation of heat C.

そこで本研究では,Fig.8に示すように,引張試験から得た降伏からTSまでのσ−ε線図を,(2)式に示すHollomonの式19)で近似し,破断後の引張試験片の断面から求めた破断ひずみεfまで外挿した。   

σ=Fεn(2)

ここでFは塑性係数,nは加工硬化指数である。Fig.9Fig.8の関係をεfまで外挿したものを示す。(2)式をεfまで積分して,延性破壊するまでの塑性仕事(∫0εfσdε)を求めた。

Fig. 9.

 Calculated true stress-true strain curve until fracture strain of heat C.

Table 4に結果の一覧,Fig.10に∫0εfσdεとUSEの273 Kにおける吸収エネルギー(vE273 K)の関係を示す。一般にUSEは延性破面率が100%になる最低の温度を用いることが多いが,前述したように塑性変形は熱活性過程であるから,温度の影響を避けて比較するために,vE273 Kを用いている。また,USEは加工硬化能の影響も強く受けると考えられるが,Table 4中のnを比較すると,各heatのnは0.10~0.12の間にあり,加工硬化能に大きな違いはないと思われる。Fig.10から,塑性仕事の増加に伴ってvE273 Kが上昇している傾向が認められる。シャルピー衝撃試験と引張試験では応力状態やひずみ速度が大きく異なるものの,USEは総合的な引張試験結果により予測できることが示唆される。

Table 4. Plastic properties and calculated total plastic work until fracture (∫0εfσdε).
heatNominal LYS (MPa)Nominal TS (MPa)El (-)RA (%)Hardening exponent, n (-)Strength coefficient, F (MPa)Fracture strain, εf (-)0εfσdε (MPa)vE273K (J)
A478.3568.20.23283.870.102798.51.8241405440
478.1566.40.27480.580.109811.71.7751383
B469.5552.50.27382.070.118806.51.7651362395
461.9548.80.30482.300.116797.91.8961460
C473.0562.20.26382.210.118822.41.7511376365
469.4560.10.27682.240.120826.61.6531296
Fig. 10.

 Relationship between upper shelf energy of Charpy impact test (at 273 K) and total plastic work until fracture (∫0εfσdε) for the present data.

4. 考察

4・1 有効結晶粒に対応するミクロ組織

以上の結果から,供試鋼の調質により得られたZwのdEFFは結晶方位差15°以上の大角粒界に囲まれた結晶粒であると判断されたが,より具体的にはいかなるミクロ組織因子と対応するのであろうか。Fig.11にheat Cのシャルピー衝撃試験の破面とミクロ組織を同時観察したSEM像を示す。ここから,一つの劈開破面が硝酸アルコールエッチで得られた結晶粒に対応していることがわかる。また,破面の周辺にはサブクラックが存在しており,その一つ一つの破面はやはりミクロ組織エッチの結晶粒と対応している。

Fig. 11.

 Direct correspondence between cleavage fracture surface and microstructure of heat C.

heat Cのミクロ組織とEBSDより得た粒界マッピングを比較した結果をFig.12に示す。ミクロ組織からは破面およびサブクラックにシーフ状のαBと複雑な形状を持つαqの両方の粒が認められる。硝酸アルコールエッチから得られた結晶粒界は概ね15°以上の大角粒界と一致しており,エッチングでは結晶方位差15°以下の小角粒界はほぼ現出されないことがわかる。前述したように,結晶方位差15°以上の大角粒界に囲まれたベイニティックフェライト粒径がdEFFに対応するから,本供試材のDBTTは,従来から観察されてきた硝酸アルコールによるミクロ組織エッチでも評価できると言える。

Fig. 12.

 Direct correspondence between EBSD grain boundaries (manifested with misorientation each degrees) map and optical microstructure etched with Nital of heat C. (a) EBSD boundaries map (red: 2-5 deg., blue: 5-15 deg., black: > 15 deg.); (b) Optical microstructure.

Fig.13Fig.12のサブクラック近傍におけるEBSD-IPFマップおよび粒界マップを示す。サブクラックは似た結晶方位の結晶粒内を伝播しており,15°以下の小角粒界はき裂の伝播の障壁とならないことがわかる。

Fig. 13.

 Relationship between crystal directions, boundaries and subcracks of heat C. (a) EBSD IPF map; (b) EBSD boundaries map (red: 5-15 deg., black: > 15 deg.).

Table 5にフェライト−パーライト組織およびマルテンサイト組織,Zwを有する鋼の有効結晶粒に対応するミクロ組織因子と,その境界となる結晶方位差を一覧にしたものを示す6,7,8,12,13,14,15)。有効結晶粒の境界となる結晶方位差については10°から20°の間とする報告が多く,フェライト鋼においては15°が一つの基準となる13,14)。いずれの組織も大角粒界がdEFFの境界になっているが,そのDBTTのdEFF依存性は変態組織によって異なる。

Table 5. Effective grain in each microstructures6,7,8, 12,13,14,15).
MicrostructureEffective grainBoundaries
Ferrite-pearliteFerritic grainMisorientation
> 15 deg.
MartensitePrior-austenite grain or packetMisorientation
> 10-20 deg.
Zw (Granular bainitic ferrite and quasi-polygonal ferrite)Bainitic ferrite grainMisorientation
> 15 deg.

Fig.14にHanamuraら13,14)がまとめた,マルテンサイト或いはマルテンサイト・ベイナイト組織を持つ調質型高張力鋼8)およびフェライト−パーライト鋼12,13,14),超微細フェライト−セメンタイト鋼13,14)におけるdEFFとDBTT(FATT或いはETT)の関係を示す。いずれの鋼においても,dEFFの細粒化に伴ってDBTTが大きく減少する対数比例関係が認められる。Fig.14において,フェライト鋼のグループと,マルテンサイト鋼のグループで直線の傾きが異なるのは,後述するHall-Petch係数と破壊応力に関するPetch係数(破壊の表面エネルギー)が,両変態組織で異なることに起因する。また,同程度のdEFFにおけるDBTTのばらつきは,後述する粒径分布やYSの影響と考えられる。

Fig. 14.

 Relationship between effective grain size and DBTT (FATT or ETT obtained from Charpy impact test) for the present and references8,12,13,14) data.

今回の調質より得たZwのdEFFとDBTTをFig.14にプロットすると,他の鋼と同様に対数比例関係が成り立っており,ベイニティックフェライト粒径を細かくするとDBTTが低下することがわかる。ここで注目すべきは,今回のデータがフェライト鋼のグループの傾きに一致していることであり,ZwのαBとαqのDBTTが,αpと同じdEFF依存性を持ち,両者が本質的に同質のものであることを強く示唆している。

以上の結果から,ベイニティックフェライト粒径を何らかの方法で細かくすることがDBTTを下げるために不可欠だとわかる。本研究の供試材は,旧γ粒径を変えて調質後のミクロ組織単位の大きさを変えることを狙ったものであるが,Zwにおける旧γ粒径とベイニティックフェライト粒径の関係についての報告は少ない。TakadaはZwを持つ中炭素鋼(0.25~0.32 mass%C,1.8~2.8 mass%Mn,0.05~0.30 mass%V, Cr)の旧γ粒径とベイニティックフェライト粒径の間に比例関係が成り立ち,鋼の成分によらず比例定数は一定であると報告している20)Fig.15に今回の結果とTakadaのデータを比較したものを示す。これより,旧γ粒径を細かくすることで,ベイニティックフェライト粒径を細かくできることがわかる。Fig.15は一見すると一つの直線で整理できそうに見えるが,直線で近似すると原点を通らない。おそらく,細粒側では比例関係が成り立たず,Zwを持つ鋼においてもマルテンサイト鋼のように,一つのγ粒から生じる下部組織がγ粒の細粒化に伴って単一ブロック,単一バリアントに変わっていくのであろう。どのような関係が両者にあるのかについては,今後さらに検討すべき興味深い点である。

Fig. 15.

 Relationship between EBSD grain (manifested by the boundaries with misorientation above 15 degrees) size and prior-austenite grain size for the present and reference20) data.

4・2 延性脆性遷移

前述したように,延性脆性遷移はYSと破壊応力の釣り合いで決まる。Griffith理論3)によれば,破壊応力σFは先在き裂長さrを用いて,   

σF=4γEπr1/2(3)

の形で表される。ここでγは破壊の表面エネルギー,Eはヤング率である。破壊応力は応力状態によって変わるものの,いずれもrの−1/2乗の関数となる。供試材のような粒内劈開破壊を考え,(3)式のrdEFFに,応力状態および破壊の表面エネルギーの項を破壊応力に関するPetch係数KFに置き換えると,(4)式のように表すことができる。   

σF=KFdEFF1/2(4)

一方,YS(σY)は(5)式に示すHall-Petchの関係で表される4,5)。   

σY=σ0+KYd1/2(5)

ここでσ0は温度の関数,KYはHall-Petch係数である。BCC金属においては,劈開面{100}とすべり面{110}が異なるために,(4)式のdEFFと(5)式のdが必ずしも同じミクロ組織因子を指すとは限らないことに注意されたいが,これらはそれぞれの結晶粒が異なる破壊応力とYSを持つことを示している。

本研究の供試材においては,ベイニティックフェライト粒径が変化しても,YSはほとんど変化せず,DBTTが変化するという挙動を示している。このような挙動について,Fig.16に示す模式図(Yoffee線図)を用いて検討する。図中のσFLおよびσFSσFAはそれぞれ最大および最小,平均粒径を持つ結晶粒の破壊応力,σYはYSである。それぞれの粒径における破壊応力とYSの交点がDBTTであり,それより高温側では延性破壊,低温側では脆性破壊が起こる。

Fig. 16.

 The Yoffee diagram. The ductile-to-brittle transition has occurred when the yield stress (σY) has exceeded the cleavage fracture stress (σF).

Fig.16からは,単純にYSが増加するとDBTTが上昇し,破壊応力が増加するとDBTTが低下することがわかる。フェライト鋼の結晶粒微細化がYSを高めつつDBTTを下げるのは,YS以上に破壊応力が増加する(KF>KY)ために他ならない。それ以外の変態組織では破壊応力とYSの変化の大きさを考慮する必要があるが,供試材のαBとαqからなるZwにおいては,YSがほぼ同じであるため,DBTTの変化は破壊応力の増加によるものと考えられる。

結晶粒径により破壊応力とYSが変わることは,それぞれの結晶粒が異なるDBTTを持つことを意味する。Fig.16の破壊応力のみが変化する場合は,σYσFSの交点が最小粒径の,σYσFLの交点が最大粒径の結晶粒のDBTTになり,その間の温度が遷移域となる。遷移域のある温度,例えばDBTT(Ave.)について考えると,応力がσFLに達したところで粗大な結晶粒から順次脆性破壊が起こり,応力がさらに増加してσY=σFAに達したところで,平均粒径以下の結晶粒が延性破壊し始めることになる。従って,粒径分布は遷移域の温度幅および個々の温度における延性破面率を決定づけると考えられる。Fig.2に示した,heat Cの極めて狭い遷移域はFig.7dEFF分布を反映していると推測される。

前述したように,吸収エネルギーはUSE・LSEと延性破面率の混合則で決まる。ここまでの実験結果並びに考察では,USEが引張試験より得られる塑性仕事と関係があることと,有効結晶粒径とDBTTの関係,個々の温度の延性破面率が粒径分布により決まることを述べてきた。ある材料において,これらに加えて,USEに関係するYSの温度依存性(σ0)とLSEのデータが揃っていれば,総合的な引張試験結果と有効結晶粒径分布から,マクロなDBTTおよび,任意の温度における延性破面率と吸収エネルギーを予測できると考えられる。

5. まとめ

従来ほとんど研究例のないZwのうち,αBおよびαqの混合組織を有する調質型低炭素高張力鋼を対象に延性脆性遷移挙動を評価した。得られた主な結論を以下に示す。

(1)結晶方位差15°以上の大角粒界に囲まれたベイニティックフェライト粒径がDBTTを決定づけるミクロ組織因子である。ベイニティックフェライト粒径を細かくするとDBTTが低下する。

(2)上部棚エネルギーは引張試験の降伏から破断までの塑性仕事と比例関係にある。

(3)粒径分布は遷移域の温度幅および個々の温度における延性破面率と吸収エネルギーを決定づけると考えられる。

文献
 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

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