Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
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ISSN-L : 0021-1575
Review
History of Utilization of Alloying Elements in Steels and Its Future Perspectives
Kohsaku UshiodaMasahide YoshimuraHiroshi KaidohKen Kimura
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2014 Volume 100 Issue 6 Pages 716-727

Details
Synopsis:

Steels have made remarkable progress in order to meet the strict requirements of today’s society. Such progress is based on scientific elucidation of the functions of alloying elements, their effective utilization, and the innovative production processes.

Since natural resources are limited, it is important to increase their productivity for the continuous development of our society. Therefore, proper management taking into account the element strategy is becoming extremely important.

Steel industries are highly dependent on rare metals. Therefore, they are easily influenced by the hazards of rare metals, avoidance of which is extremely crucial.

This paper focuses on steels such as flat-rolled product, plate, pipe & tube and stainless steel, and historically reviews them from the aspect of changes in the surrounding market together with the technological developments such as new steel products and exploitation of rare metals for them. The functions of rare metals are classified into three types, i.e. the control of a) microstructures, b) mechanical properties and c) anti-corrosion properties, and the present understanding of them is discussed from a scientific perspective. Furthermore, the concrete future scientific and technological problems are surveyed. It is revealed that there are still many issues that need to be addressed. Exploitation of the advanced analytical techniques together with computational science is expected to contribute to solving the long standing problems and to stimulate a breakthrough in this field.

1. 緒言

鉄鋼業は成熟した産業であり,鉄鋼商品も従来の商品と比較して余り変化がないと思われがちである。しかし,実態はそうではない。自動車や船舶等の最終製品に対する社会からの厳しい要請に対して,鉄鋼材料は著しく高機能化を果たし,燃費や安全性の向上に貢献している。我が国の鉄鋼メーカーは新商品開発やプロセス革新に積極的に取り組み,高度な鉄鋼製造技術を構築している。しかし,将来にわたり世界をリードするためには飽くなき挑戦が必要である。鋼材組成に関しては,高純化や高清浄度化に加え,合金元素の緻密な活用を図ってきた長い歴史がある。その成果は,1966年に学術振興会第19委員会から刊行された「鉄鋼と合金元素」1)に膨大なデータとして収録されている。旧版は,新知見を取り入れた改訂作業が現在行われており,日本鉄鋼協会100周年事業の一つとして,2015年に「鉄鋼材料と合金元素」として発刊予定である。

一方では,資源は有限であり,人類の持続的発展のためには資源生産性を高めることが肝要である。このような中,2004年の科学技術将来戦略ワークショップにおいて「元素戦略」のコンセプトを我が国が世界で初めて提唱した点は特筆される2)。玉尾は2007年2月の元素戦略・希少金属代替材料開発に関する府省連携シンポジウムにおいて「元素戦略」のコンセプトとして減量(Reduce),代替(Replace),循環(Recycle)および規制(Regulate)の4つの資源戦略と,1)豊富で無害な元素による代替,2)戦略元素の有効機能の活用,および3)元素有効利用のための実用材料設計技術,の3つの切り口の取り組みを提案し,元素戦略研究がスタートした3)。現在,鉄鋼材料分野においてもCREST(研究代表者:東北大学 古原忠教授)や研究拠点型(拠点長:京都大学 田中功教授)などの元素戦略と関わる国家プロジェクトが推進されている。

鉄鋼業においては,Table 1に示すように希少金属が多用されている4,5)。例えば,Cr,NbやVは国内全使用量の内80%以上を鉄鋼業が占めている。Mnも約60%を占める。このように鉄鋼業は希少金属に大きく依存した産業と言える。希少金属の使用量の急激な増加や資源ナショナリズムは,Fig.1に示すように合金用金属価格の異常な高騰や変動を招き5),産業に大きな影響を及ぼす。鉄鋼業は資源リスクの影響を受けやすい産業であり,その回避は極めて重要である。

Table 1.  Consumption amounts of rare metals in Japan. The data by Komatsubara4) were corrected using the updated data of JOGMEC5). (1,000 tons/Y)
Elements Mn Cr Ni Ti Mo Nb V W Zn Co Cu
A: amounts of consumption by steel industries in Japan 298 378 91 4.6 3.4 4.9 4.4 1 262 0.7* < 0.1
B: total domestic amounts of consumption 515 408 151 123 6 5.1 4.7 6.4 427 12 1344
Ratio (A/B, %) 58 93 60 4 57 96 94 16 61 6 < 0.01

*: mostly for special steels

Fig. 1.

 Change in relative price of rare metals with year5). Relative price is calculated by assuming the price in 2000 equals 1. The price of raw materials is converted into that of metals considering the content percentage of metals.

本報告では,鉄鋼材料における合金元素の活用の意義について概説する。その後,薄板,厚板,鋼管およびステンレス鋼の市場を例にとり,それらを取り巻く環境変化と鉄鋼商品および合金元素の活用に関する歴史的変遷についてプロセス技術の進歩とともに紹介し考察する。機械構造用鋼には,Cr,Mo,Ni,VやWなどの希少金属が多用されている6)が,本報告では紙数の都合で省略する。我が国鉄鋼業が将来にわたり国際競争力を維持・強化するには元素戦略的な取り組みは極めて重要であり,本報告では,元素の役割と今後の解決すべき科学技術課題について議論し,将来を展望する。

2.合金元素活用の意義,および各市場における鉄鋼商品と合金元素利用の歴史的変遷

2・1 合金元素活用の意義

鉄鋼材料には種々の希少金属元素が添加されており,高機能化を達成している。Fig.2に希少金属が有する元素機能を整理して示す。例えばMnは,オーステナイト(γ)からフェライト(α)への相変態を抑制し微細な低温変態生成物を形成し強度を増加させる。また,靭性も向上させる。Crは上記したMnと同様な効果に加え,Oと反応し緻密な酸化膜および水酸化膜を表層に形成し,耐食性や耐酸化性を向上させる。NiやMoは相変態抑制効果に加えFeの溶解挙動や腐食生成物に影響を与え,耐食性を向上させる電気化学的な効果も持つ。また,NbやMoはγの再結晶を抑制し,また高温強度を向上させる効果も持つ。このような希少金属元素の機能は,1)金属組織,2)機械的特性,および3)耐食性,の制御機能に分類できる(Fig.2)。一方,高価な希少金属を軽量なユビキタス元素(C, N, B, Si, P, S, Al, O)で代替しようとするといくつかの課題が生じる。例えば,Cは最もポピュラーなユビキタス元素であり強度を著しく向上する魅力ある元素である。しかし,過多になると延性や靭性,および溶接性を劣化させる。Bは希少金属に分類されるが,ppmオーダーの添加でγ/α変態を著しく抑制する元素であり,本報告ではユビキタスな軽元素に分類した。しかし,Βは制御が難しい課題がある。Siも大きな固溶体強化能や電気抵抗増加能を持ち,自動車用鋼板や電磁鋼板に多用されるユビキタス元素である。しかし,過多になると,脆性破壊を惹起する。また,高温でSiを含む鋼材を酸化させるとファイアライト(Fe2SiO4)に起因した表面特性の劣化を招く課題もある。いずれにしても,元素が持つ機能を科学的に解明し,潜在能力を引き出し使い込むための技術開発に取り組むことが最も重要である。

Fig. 2.

 Three representative functions of rare metals in steels.

2・2 各市場における鋼材開発と合金元素の活用に関する歴史的変遷

2・2・1 薄鋼板

自動車用薄鋼板に焦点を当て述べる。自動車を取り巻く環境変化に応じて,自動車用薄鋼板も大きく進歩した。我が国における自動車用薄鋼板の歴史的変遷と合金元素の変化について,Fig.3にまとめた7)。1960年代はモータリゼーションがスタートした時期であり,生産性向上に寄与する軟質鋼板が開発された。当時は冷間圧延−バッチ焼鈍が基本プロセスであり,低Cアルミキルド鋼を用いた加工用鋼板が実用化された。1970年代には2回のオイルショックが起こり車体の軽量化が要請され,各種高強度鋼板の実用化が進んだ。また,世界に先駆けて実用化した連続焼鈍プロセスと相まって,各種鋼板が開発された。TiやNbを添加した加工性に優れる300MPa級の極低炭素鋼板(0.004C-0.05Ti/Nb; mass%),それにPやMnを添加した340MPa級の固溶強化型高強度鋼板(0.002C-0.4Mn-0.04P),590MPa級のTi/Nb析出強化型高強度鋼板(0.1C-0.05Ti or 0.05Nb)および組織強化を活用したDP(Dual Phase)鋼板(0.07C-1Si-1.2Mn),などがある。その後,地球環境保全規制や衝突安全規制が強化される中,更なる高強度化が加速された。低合金TRIP(TRansformation Induced Plasticity)鋼板(0.15C-1.5Si-1.2Mn),nmオーダーの超微細析出物を強化に利用した高強度鋼板(0.04C-1.5Mn-0.1Ti-0.2Mo)および焼き戻しマルテンサイトを活用した1180~1470MPa級の超高強度鋼板(0.15C-2.5Mn)の開発は特筆される。連続焼鈍ではミストや水などを冷媒に使用し急速冷却が可能となるので低温変態生成物を合理的な合金成分(例えば,比較的低いMn添加量)で得ることが可能であり8),高強度鋼板を省合金で製造することに大きく貢献している。

Fig. 3.

 History of steel sheets for automotives in Japan focusing on their usages of alloying elements7).

一般的に,高強度化すると成形性が低下する。このような中,両者を両立した新しい高強度鋼板が提案された。その例が,DP鋼,およびTRIP鋼であり,これらは連続焼鈍プロセスで合理的に製造できる。ここでは,低合金TRIP鋼板について合金元素の観点からその特徴を述べる。TRIP効果は,従来から高合金鋼(代表的組成:Fe-9Cr-8Ni-4Mo-2Si-2Mn-0.3C)において加工硬化を増大させ,強度−延性バランスを向上させる手段として知られていた9)。これに対し,0.15C-1.5Si-1.2Mnのような単純な成分でTRIP効果を可能にした低合金TRIP鋼は特筆される10)。連続焼鈍プロセスにおいて,二相域で焼鈍しその後の急冷とオーステンパー処理によりγをベイナイト(B)変態させる。ベイナイト変態の進行にともないCは未変態γに濃化し,常温でも安定な残留γを得ることができる。しかし,このγは常温での加工に対して不安定であり塑性変形を加えるとマルテンサイト(α’)に変態する。その結果,TRIP鋼では変形の局在化が抑制され一様伸びに優れた特性を示す。最近では,高Mn鋼(15~25%)をベースにAlやSiを2~4%添加し,変形時に多量の変形双晶を形成させ加工硬化を高めた強度延性バランスに優れたγ単相のTWIP鋼(TWinning induced plasticity)が開発されている11)

自動車用鋼板に対する耐食性のニーズは高く,現在では合金化溶融亜鉛めっき(GA:Galva-annealed)鋼板が多用されている12)。耐食性の厳しい国では,自動車ボディの約70%がGA鋼板である。めっき層は主にZn-10%Feの金属間化合物(δ1)で構成される。Znの資源枯渇問題を背景に,最近では新Alめっき鋼板の研究が行われた13)

2・2・2 厚鋼板

厚鋼板が使用される船舶,海洋構造物,建築や橋梁等においても,時代の要請を受けて鋼材の組成や製造方法に大きな変化があった。Fig.4に厚鋼板における変遷をまとめた。強度と靭性を両立する組織微細化は最も基本となる原理である。1970年代頃から,NbやTi等を添加し組織微細化を図る制御圧延(CR:Controlled Rolling)プロセスが発達した14)。さらに,1980年台頃にはCRに加え制御冷却も可能とする加工熱処理プロセス(TMCP:Thermo-Mechanical Control Process)が発達した14)。CRの基本原理は,0.03%程度のNbやTiを添加し熱間圧延時の未再結晶γ域を拡大し,未再結晶γからのα変態を通してα組織を微細化する点にある。TMCPはCRに加え,MnやNi等の合金元素の添加と冷却の制御によりγからαへの変態温度を低温にシフトし低温変態生成物の制御を行うものであり,強度と靭性の更なる向上に寄与する。また,従来においては焼き入れ性を確保するためにMn,Cr,NiやMo等の希少金属を添加していたが,高精度のTMCP技術とBの併用などにより合金元素の合理的な利用が可能となっている。

Fig. 4.

 History of steel plates for ship building, marine construction, construction and bridge focusing on their usages of alloying elements.

溶接構造体から成る厚鋼板の利用技術においては,Heat Affected Zone(HAZ)における靭性向上策は最も重要である。有効結晶粒径の微細化はその一例であり,多くの取り組みがなされてきた15)。その中でもオキサイドメタラジーは1980年代に誕生したHAZ組織を微細化する新しいコンセプトである。すなわち,Ti2O3等のμmオーダーのオキサイドを核に結晶粒内にαが核生成し,HAZ組織の微細化が可能となる。その後,MgやCaを含有する酸化物あるいは硫化物などの熱的に安定なnmオーダーの超微細粒子によるピニング効果を活用する技術が提案され,HAZ組織の更なる微細化が可能となった15)。一方では,低温変態溶材(10%Cr-10%Ni)によるHAZ部への圧縮残留応力の導入も,本分野における合金元素の活用例として挙げられる16)

ここでは,希少金属フリー化への挑戦として既に15年ほど前から取り組まれた超鉄鋼プロジェクトについて紹介する。強度2倍かつ寿命2倍を,NbやTi等を使用せず単純なC-Si-Mn鋼の組織微細化で達成する取り組みは挑戦的である17)。一般の0.16C-0.4Si-1.4Mn鋼は通常のプロセスではα粒径が6μm程度となるが,γ域の低温での大圧下圧延(80%/パス)とその直後の急冷により2 μm以下の超細粒鋼となる。その結果,強度は通常の2倍程度の800 MPaになり,顕著な遷移温度の低下も認められた。上記のようなプロセス条件は実機設備では実現が困難であるが,希少金属のフリー化あるいは削減に向けた今後の方向性を示唆する重要な結果と思われる。

最近,LNGタンク用に7%Ni鋼が世界で初めて実用化された。1960年代から半世紀にわたり9%Ni鋼が主流であったが,TMCPを有効活用した作り込み技術により微細組織が得られ,Ni添加を削減しても破壊に対する安全性を確保できている18)

橋梁などに使用される鋼材は使用中に腐食するため,防食を目的に塗装などの補修作業が定期的に行われる。しかし,補修費は膨大となる課題があるため,合金元素を活用し特殊な保護性錆層を表層に形成することによる防食対策がとられる場合がある19)。その例が耐候性鋼である。1933年にUS Steelで開発されたコルテン鋼は,0.4%Cu-0.15%Pを含有する。しかし塩分が飛来する環境で使用されると腐食が進行する課題があるため,塩分が飛来しても防食効果を有する3%Ni海浜耐候性鋼が2000年頃に実用化された。一方,タンカーのメンテナンス負荷低減と安全性に寄与する高耐食鋼材が最近開発されており,我が国の関連諸機関から成る船舶研究協会で実船適用試験が行われ,国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)で認定されたことは画期的である20)

2・2・3 鋼管

鋼管は,エネルギー分野,輸送分野,土木・建築分野などに広く用いられている。ここでは,エネルギー分野に使用される鋼管に焦点を絞って述べる。

石油や天然ガスの掘削および輸送に用いられる油井管やラインパイプ用鋼管の歴史と利用される合金元素の変遷をFig.5に示す。油井管には主にシームレス鋼管が使用されるが,環境により使用される鋼管は大きく異なる。普通鋼,Cr系ステンレス鋼,および二相ステンレス鋼が主となるが,腐食の厳しいサワー環境ではNi基合金も用いられる。普通鋼においては,通常のC-1.4Mn鋼から始まり,CrやMoを活用し耐食性を高めた汎用の油井管(1Cr-0.3Mo)が開発された。さらなる強度上昇と耐水素割れ性を向上させる観点から1Cr-0.7Mo-0.1V鋼が開発された。本鋼管では,焼き戻し温度を上昇させ耐水素割れ性を向上させるとともに強度低下を合金(Mo, V)炭化物の二次硬化で補っている。また,1Crを0.5Crに低減し,さらにセメンタイトの球状化促進と粗大炭化物(M23C6)の低減を図った最適化も行われた21)。交叉穿孔ミルは,合金を多用した変形抵抗の高い鋼材の形状精度向上に大きく寄与しており,製造技術的に特筆される22)。ラインパイプも油井管と同様の傾向を示す(Fig.5)。大径のUO鋼管は,輸送効率の向上と安全性および現地溶接敷設性の向上を目的に,低C化と強靭化が進められた。X65から始まり,最近では高靭性・高変形能なX80,さらにはX100およびX120までの高強度化が進展している。特に,X120は本分野においてBを初めて有効活用した鋼であり,元素活用の点で特徴がある23)。すなわち,溶接性向上の観点からむしろ低C化し,一方では極微量のBがγ粒界へ偏析し焼き入れ性を向上させる効果を活用した。TMCP技術を併用して安定的に低Cベイナイト組織を得ることにより,強靭化と溶接性の両立を達成している。また,耐サワー用途のX70ではCa添加による硫化物/酸化物の形態制御を行っている。

Fig. 5.

 History of steel pipe and tube for oil well, line pipe and boiler focusing on their usages of alloying elements.

発電用ボイラー鋼管は,高温の水蒸気環境や燃焼ガス環境等で使用され,高温クリープと高温耐酸化性が重要な要求特性となる。Fig.5に示すように,発電効率を高めCO2排出削減に寄与する高強度高耐食耐熱鋼の開発・実用化が継続して進展している。また,その背後には,長時間クリープ強度評価技術の進歩がある。例えば,火力発電分野においては,従来の上限温度620 °Cを650 °Cに向上させた超々臨界圧ボイラー用α系耐熱鋼24),および700 °Cまで可能とするγ系耐熱鋼25)は特筆される。そのためには,α系耐熱鋼では,Crを最適化しMo,WやVなどの元素機能を徹底的に有効活用している。γ系耐熱鋼においても,高Cr高Ni化とMoやW等の元素の活用が基本である。

2・2・4 ステンレス鋼

ステンレス鋼も取り巻く環境変化に対応して,Fig.6に示すような新商品が開発され,社会を基盤から支えている。元素機能を有効活用する観点で言えば,α系ステンレス鋼においては,耐食機能の向上を目的にSnの活用は注目される26)。最近では,Snを添加しCr添加量を削減した高耐食性α系ステンレス鋼板の実用化が進展している27)。また,γ形成機能を有するMnやN,および耐食性向上機能を有するNを有効活用した省Niの二相ステンレス鋼板28,29)は化学反応容器等に実用化されている。γ系ステンレス鋼板においてもMnやNの活用が推進されてきた。これらは資源枯渇問題に対応した新商品と言える。一方では,羽田沖D滑走路に用いられたスーパーステンレス鋼(SUS312L:0.01C-25Cr-18Ni-6Mo-N)は,CrやMoが有する優れた耐食機能を最大限に引き出した鋼材であり,飛沫帯の厳しい腐食環境下でも長寿命が期待できる30)

Fig. 6.

 History of stainless steels focusing on their usages of alloying elements.

3. 元素機能の解明と今後の展望

鉄鋼材料における資源生産性をさらに向上させるためには,元素機能の本質的解明が最重要である。ここでは,組織制御,機械的特性制御,および耐食性制御の観点から添加される元素の機能について,代表的な基礎的現象に焦点を絞り議論する。特に,元素機能をさらに引き出すために重要となる解決すべき基礎的研究課題について私見を述べたい。

3・1 組織の制御に関して

鋼材の製造プロセスは,精錬プロセスに引き続き,凝固,熱間圧延,必要に応じて冷間圧延および焼鈍のプロセスからなる。Fig.7に示すように,それぞれのプロセスにおいては,凝固,粒成長,再結晶,変態および固溶・析出などの冶金現象が生じる。よく知られているように,これらの現象は共通して核生成と成長のプロセスを経て進行する。

Fig. 7.

 Schematic illustration of controlling microstructures of steels utilizing functions of alloying elements through optimum thermo-mechanical control process (TMCP).

核生成はほとんどの場合には不均一に生じる。古典的核生成理論によればその頻度Iは(1)式で表される。   

I = Z N f exp ( Δ G * / R T ) (1)

ここで,Z:Zeldovich係数,N:核生成サイトの密度,f:臨界核に原子が到達する頻度,ΔG*:活性化エネルギー,R:ガス定数,T:温度である。また,ΔG*は16π(σ)3/(3ΔGv2)と表現され,ここでΔGv:核生成の駆動力,σ:単位面積当たりの界面エネルギー,である。したがって,核生成を論じるには,核生成のサイト,駆動力に加えて,母相/新相間の界面エネルギーが重要な因子となる。

一方,核生成した新相の成長速度Vは(2)式で表される。   

V = M Δ G (2)

ここで,M:易動度,ΔG:成長の駆動力である。界面への偏析元素によるソリュートドラッグ効果はMに影響する。界面に偏析がある場合にはM=Dx/(λRT)・1/((K1)2x)のようにMを修正する必要がある。ここで,Dx:X元素の拡散係数,λ:界面が移動するときの原子が動くべき距離(~b),K:X元素の界面への偏析係数,x:濃度,である。また,析出物によるピニング効果はΔGに影響し,ΔGをΔG−ΔGpinのように修正する必要がある。ここで,粒子が均一に分散しているときには,ΔGpin=3σVmf/2rであり,σ:粒界エネルギー,Vm:モル体積,f:析出物の体積率,r:粒子の半径,である。

凝固は過冷度(ΔT)を駆動力に進行するが,その制御には核生成サイトが重要な役割を演じる。一般的に晶出物が不均一核生成サイトとして働くが,晶出物/新相の格子整合性が良くなると界面エネルギーが低下し(1)式のΔG*が小さくなるため,核生成の頻度が増加すると考えられる31)。今後は,計算科学も援用し実験では測定が困難な界面エネルギーを体系化し活用することが重要であろう。

相変態は化学的自由エネルギーを駆動力に進行する。相変態にはFe原子の拡散を伴う拡散型変態と拡散を伴わないせん断型変態がある。相変態におよぼす合金元素の影響に関しては膨大な研究があるが,ここでは極微量の添加でγ→α拡散型変態に大きな影響をおよぼすBについて論じる。Bは旧γ粒界に偏析しγの粒界エネルギーを低下させることを通してγ→α変態を著しく抑制すると考えられている。しかし,従来の研究においては,偏析に関する実証的なデータは十分ではなく,また定量的な議論もほとんど行われていなかった。このような中,収差補正(CS)-STEMによりγ粒界へBが約1000倍程度偏析することを示した最近の研究は注目される(Fig.8 a))32)。また,BとNbやMoとの共存による変態抑制の相乗効果に関する実験的,および熱力学的な検討も特筆される33,34)。B含有低合金鋼における結晶粒界からのγ→α相変態に関する速度論モデルが最近報告されている35)。Yoshidaら35)は,Shigesatoら32)のBの定量的な粒界偏析データを解析し,0.002 mass%Bの添加により粒界エネルギーが0.12 Jm−2低下することを見積もり速度論モデルに活用した。一方では,最近の計算科学の進歩は著しい。Sawada36)はγ-Feにおいて一般粒界に近いΣ9粒界へのBの偏析を,結晶粒界構造緩和,磁性の効果や格子定数の温度依存性を考慮した第一原理計算により検討した。その結果,実験で報告されている偏析エネルギー(−0.5~−1.0eV)に近い値(−0.70eV)を得ている。すなわち,Fig.8 b)に示すように,BはΣ9粒界の格子間位置に存在し,実際に観察されたCuのΣ9粒界における構造ユニットに類似した構造ユニットがγ-Feにおいても予測されている。Bはこのようにppmオーダーの極微量の添加で変態を著しく抑制する特徴がある。しかし,Bは制御が難しく,安定的に効果を引き出すための技術課題を有する。

Fig. 8.

 a) STEM image of the prior γ grain boundary of steel with Fe-0.05C-1.5Mn-3Ni-0.0011B (mass%) annealed at 950 ºC for 60s, then cooled to 650 ºC with a cooling rate of 30 ºC/s followed by He quenching32) and boron concentration around the grain boundary measured by CS-STEM with several tilt angles of the specimen, where probe size is < 0.2 nm, and b) schematic view of B segregation into Σ9 grain boundary of γ-Fe after first principle calculation36). (Online version in color.)

再結晶は,熱間加工あるいはその後の冷間圧延・焼鈍のプロセスにおいて,加工により導入された歪エネルギーを駆動力に生じる。再結晶の核生成は,結晶粒界近傍やせん断帯などの蓄積歪エネルギーが局所的に高い領域で一般的に生じる。このような領域では転位の再配列によるサブグレインの形成とその成長が容易なためと考えられる。一方,合金元素が転位の上昇運動や再配列に大きな影響をおよぼすことは良く知られている。すなわちNbやTiはこのような影響を有するが,存在状態により影響が大きく変化することが予想される。その中でも,原子オーダーのI(Interstitial)-S(Substitutional)複合体やナノクラスターは回復を著しく抑制すると推察される37,38)

I-S相互作用は最近のInternational Symposium on Steel Science(ISSS 2012)のメインテーマでもあった。熱力学的な実験データをベースに西澤はC-X相互作用をFig.9 a)のように整理している39)。しかし,N-X系と異なり,C-X系は内部摩擦のスネークピーク形状に相互作用を示唆する明確な変化は現れず40,41),α-FeにおけるC-X相互作用は実験的に未解明である。一方では,第一原理計算を用いたC-X相互作用の評価も試みられているが,Fig.9 b)に示すように計算結果と実験結果の一致は必ずしも得られていない42)。最近,Sluiterは両者の一致を示しているが43),用いた電子核の近似ポテンシャル(擬ポテンシャル)の扱いや過剰体積(excess volume)理論におけるI-S相互作用の評価手法に未だ問題も残るように思われる。信頼できる相互作用データの構築と体系化は今後の課題と考える。

Fig. 9.

 Interaction energy (ΔΕMC) between carbon and substitutional elements a) experimentally obtained39) and b) calculated by first principle42). (Online version in color.)

相変態や再結晶における新相/母相の界面の成長速度(V)は,(2)式で表現したように易動度(M)と駆動力(ΔG)の積で表される。Fig.10 a)は,Togashi and Nishizawaが実測したγ/α界面の易動度Mの合金元素による変化である44)Fig.10 b)には,Abrahamson and Blakeney45)による再結晶温度におよぼす合金元素の影響を示す。両者に共通して,NbやMoの影響は大きく,CoやNiの影響は小さい。NbやMoはFeとの原子半径の差が大きく界面に偏析しやすい傾向にあり,ソリュートドラッグ効果が増加することが原因の一つと考えられている46)。一方ではこれらの元素は点欠陥やCとの相互作用も強く,転位の上昇運動や再配列への大きな影響も予想される。今後は,原子間相互作用を考慮した総合的な解析が必要であろう。

Fig. 10.

 a) Influence of alloying elements on α/γ interface mobility (M/λ)44), where λ is the thickness of interface, and b) influence of alloying elements on recrystallization temperature45).

粒成長は,(2)式において粒界エネルギーが駆動力になり進行する。この場合,粒子自身も界面エネルギーを駆動力にOstwald成長するので粒成長の駆動力は時間とともに変化する。したがって粒子/母相の界面エネルギーは重要なパラメータとなる。最近,NbC/α-Feの界面エネルギーが第一原理計算で求められている47)。高精度化のために多くの原子を取り扱う必要があり,Order(N)法が用いられた。結果をFig.11に示す。整合および部分整合な異相界面におけるエネルギーが計算できておりFig.11 a)に示すように,最も低い界面エネルギーは母相Feの上にNbCのCが配置する整合界面であり,0.6 J/m2となる。また,部分整合界面エネルギーは1.2 J/m2と増加する。その時の原子配置をFig.11 b)に示す。異相界面エネルギーは,Ostwald成長以外にも,相変態の不均一核生成や水素のトラップ挙動等にも大きく影響するので,界面エネルギーに関する系統的な研究は重要となろう。また,界面エネルギーは実験的に求めるのも困難が伴う場合が多いので,計算科学への期待は大きい48)

Fig. 11.

 a) Calculated interface energies of the coherent and semi-coherent interfaces between α-Fe and NbC as a function of the length of c047), b) atomic configuration of the semi-coherent interface in the (110) plane47). The region of the dislocation core is positioned in the center of interface. (Online version in color.)

3・2 機械的特性の制御に関して

3・2・1 強度−延性/靭性の両立への飽くなき挑戦に向けて

鉄鋼材料は,種々の強化機構を活用して広い強度スペクトルをカバーできる特徴がある。一方では,高強度化を図ると延性や靭性等の特性が劣化する課題がある。したがって,高強度化とともにこれらの特性を両立させることが求められる。最も基本となる考え方は組織微細化であり,これにより強度と靭性の両立が達成できる。しかし,延性の確保は困難である。両立のためには,硬質第二相を微細分散する対策が提案されている17)。ここでは,単純のためにフェライト単相のFe-X合金を用いて,固溶元素が強度や延性,靭性に及ぼす影響について論じる。これについては,Barrettら49),Takeuchiら50),Leslie51)やGerberichら52,53)等による多くの研究がある。例えば,SiをFeに添加すると常温では固溶強化し,低温になると固溶軟化することが知られている51,52)。また,Siを添加するとα-Feにおけるすべり系が{110}系に限定される傾向があるが,さらに添加量を増すと変形双晶が形成され易くなる49)。また,Siが4 at%以上添加されると破壊靭性が低下する49)。Ni添加はSi添加と同様の降伏強度の温度依存性を示すが,破壊靭性を向上させる(Fig.12)52,53)。しかしながら,この機構については必ずしも明確になっていないように思える。

Fig. 12.

 a) Temperature dependence of yield stress for Fe, Fe-4at.%Si and 4at.%Ni obtained by Chen and Gerberich57). This figure was reconstructed from Table (2) in Ref.52), b) Charpy V-notch impact energy as a function of test temperature for Fe, Fe-Ni and Fe-Si alloys57). Data in this figure are referenced from Figs.1 and 2 in Ref.53). (Online version in color.)

Fe-X合金を使用した基盤研究が最近推進されている。Kimuraら54)はFe-Si単結晶を用いて単純せん断試験を行い,臨界分解せん断応力(CRSS)のすべり系依存性を求めた。その結果,τ{110}{211}であること,特にこの傾向は4 mass%になると顕著になることを報告している(Fig.13)。また,Ti添加IF鋼にSiを添加すると加工硬化が増加する。これは,Siが交差すべりを抑制するためと考えられている55,56)。Ti-IF鋼を平面曲げ疲労試験に供すると,転位下部組織がSi添加によりセル構造からベイン構造に変化する(Fig.14)56)。この場合にもSi添加による交差すべりの抑制効果が示唆される。しかしながら,Siのこのような作用については必ずしも機構が明確でない。究極的には,らせん転位の転位芯構造に及ぼす添加元素の影響を解明することが重要と考える。最先端の高分解能TEMによる実験的アプローチと第一原理計算による計算科学的アプローチを連携させた研究に期待したい。

Fig. 13.

 Critical resolved shear stress (CRSS) for two different slip systems as a function of Si content in Fe-Si alloys determined by a simple shear test54). (Online version in color.)

Fig. 14.

 Three dimensional representation of dislocation structures of specimens tested under cyclic bending test with a high stress amplitude of Ti-IF steel with a) 0%Si, and b) 1%Si56).

Fe-X合金の破壊靭性に及ぼす合金元素の影響についてTanakaら57,58)はFe-X合金を用いて高精度な実験的研究を推進している。例えば,Ni添加は転位の移動の活性化エネルギーを低下させ,転位の移動を容易にすることを初めて定量的に明らかとした。今後の系統的な研究に期待したい。

3・2・2 高温強度について

高温強度は,鉄鋼材料に求められるもう一つの重要な機械的特性である。その際,重要になるのが,高温強度・クリープ特性とその熱的安定性である。すなわち,厳しい条件においても固溶元素や析出物が転位の移動の障害として長期間にわたり働き続けるような安定性が求められる。耐熱合金には,Cr,Mo,Niに加え,Nb,V,CoやW,B等多くの希少元素が添加されている。元素戦略の視点からこれらの元素機能を解明し,元素の潜在能力を十分引き出すための条件を整えることは重要である。その際,最も基本となるのが,クリープ現象の素過程を律速する固溶元素(S)−原子空孔(V)の相互作用であろう。Table 2は,Ohmuraら59)が,α-Fe中のS-V結合エネルギーを第一原理計算で求めた結果であり,合金設計の観点から貴重な指針を提示していると考える。今後は実験データによる計算値の検証,他の元素への展開,あるいは複合体やナノ粒子との比較検討など,体系的な取り組みが期待される。また,粒子の熱的安定性の観点から,母相/粒子間の界面エネルギーの評価と合わせて議論することも興味が持たれる。

Table 2.  First principle calculation results of total, distortion and electronic binding energy (eV) between substitutional elements and vacancy in α-Fe59). Results are compared with those of experiments65,66), and of other calculated values67). USPP stands for ultra-soft pseudopotential.
Solute Sc Ti V Cr Mn Co Ni Cu Zn Si P S Mo
This work 0.63 0.22 0.04 0.05 0.16 0.10 0.19 0.24 0.33 0.29 0.36 0.53 0.33
Experiment a, b 0.16 < 0.11 < 0.11 0.15 0.14 0.22 0.14 0.23
USPP-const. vol.c 0.12 0.18 0.19 0.24
Distortion binding energy 0.36 0.06 0.00 0.00 0.00 0.00 0.01 0.02 0.06 0.02 0.02 0.03 0.07
Electronic binding energy 0.27 0.16 0.04 0.05 0.16 0.10 0.18 0.22 0.27 0.27 0.34 0.50 0.26

a: Doyama in ref.65, b: Moslang et al. in ref. 66, and c: Vincent et al. in ref. 67

3・3 耐食性の制御に関して

鋼材の最大の欠点は錆びることである。特に,鋼材が長期にわたって使用される橋梁や道路などの社会インフラにおいては耐候性が重要となる。耐候性鋼は補修費用の削減に大きく寄与する。最近では飛来塩分量が多い環境下でも錆の進行が抑制される3%Ni海浜耐候性鋼が実用化されている19)。海浜耐候性鋼を用いると公的資産の将来にわたる維持補修費用の大幅な削減が期待できる。Fig.15は超鉄鋼プロジェクトにおいて検討された結果である60)。現状の鋼材と比較し強度2倍かつ寿命2倍の鋼材を適用すると,インフラ維持補修コストがおおよそ2兆円/年も節減できると試算されている。国土強靭化の重要性がうたわれる現在,新しい鋼材とリスクマネジメント手法19)をうまく融合させることにより,長期間にわたって社会資本を安心して使用できるライフサイクルの視点に立った地道な活動が重要であろう。

Fig. 15.

 Change in the expected amount of money necessary for maintenance of public infrastructures with year. The reduction in the maintenance fee is estimated by exploiting the newly developed steels with double properties in terms of strength and life span60). The assumption is as follows: 1) the growth rate of the total amount of infrastructure is 1.5% from 2001, 2) the maintenance fee can be reduced by half using developed steels, and 3) 50% of the steels for structural usages is replaced by the developed steels.

錆サイエンスも放射光の利用により大きな進歩があった。3%Ni海浜耐候性鋼については,Fig.16に示すような詳しい解析がなされている61,62)。すなわち,普通鋼に形成される腐食生成物は,表面層においてはFe3+からなる水酸化鉄で構成されており表面は+にchargeしているのでClを引き寄せpHが低下し腐食が進行する。一方,3%Ni高耐食鋼の場合には,表面層ではNi2+を含むマグネタイトが形成され−にchargeしておりNa+を引き寄せる。その結果,Clの侵入を防止すると考えられている。

Fig. 16.

Schematic illustration of the reaction taking place in the interface between substrate steel and surrounding liquid61). The structures of surface layers formed during corrosion for conventional steel and 3% Ni anti-weathering steel are represented. (Online version in color.)

このように環境に応じて形成される腐食酸化物の形成機構,およびそれが持つ耐食機能を解明することは今後ますます重要となろう。そのキィとなる反応が金属と液体や気体との界面反応である。しかし,現状では科学的にも未解明なところが多い。一方,元素戦略の視点から見るとこれらの鋼材にはCr,Cu,Ni,Mo等の高価な元素が添加されているのが実態であり,耐候性鋼の拡大を阻害する一つの要因となっている。今後は,元素機能の基礎的解明や防食機能の最大発揮を図り,さらなる長寿命化を達成する必要がある。微量Tiの添加によるNi添加量の削減63)やユビキタス元素の活用64)等,興味ある結果も報告されている。耐食鋼材の開発と実用化には,化学,材料そして安全工学がまさに学際的に連携することが必須である。また,計算科学的なアプローチは,現状では未だ検討例は少ないようである。計算科学と放射光や中性子等の先端解析科学との融合による本分野における更なる飛躍を期待したい。

4. 結言

鉄鋼材料における合金元素の活用の歴史を振り返り,あらためて鉄鋼業が希少金属に強く依存した産業であることを認識した。今後も元素戦略的視点から元素機能の解明と活用に継続的に取り組み,使用する希少金属量の削減,ユビキタス元素による代替,元素機能の最大発揮に貢献する必要があろう。解決すべき科学技術課題は山積しているが,基本は元素機能を基礎的に解明し,その知見を実際に適用することである。最先端の解析技術や計算科学の活用および両者の融合は,長年の根源的な課題の解決や非連続的な飛躍に必須である。また,実用にあたっては,プロセスの革新が重要な役割を演じることも念頭に入れる必要がある。一方では,ライフサイクルアセスメントに基づく長期的な視点に立った判断も重要であろう。人類の持続的発展のためには,使用後の材料を有益な資源として合理的にリサイクルし活用する技術は極めて重要であり,これとセットで将来にわたる持続的発展の礎を構築することを期待したい。

文献
 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

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