Tetsu-to-Hagane
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Segregation of Cu by Unidirectional Solidification in Molten Fe-C-Cu Alloy
Masashi NakamotoYasumitsu OkumuraToshihiro TanakaTakaiku Yamamoto
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2014 Volume 100 Issue 6 Pages 761-768

Details
Synopsis:

To realize the removal of Cu from iron scraps by a segregation during solidification, we demonstrated the Cu segregation in Fe-C-Cu alloy by unidirectional solidification of utilizing a temperature gradient. The effect of cooling rate and initial Cu content of Fe-C-Cu alloy on the segregation behavior of Cu was investigated in the present work. The segregation ratio of Cu between solid and liquid was determined based on the experimental data. We found out that the unidirectional solidification of Fe-C-Cu melts results in the Cu segregation in solidified alloy. The segregation coefficient of Cu was 1.2 for the unidirectional solidification of molten Fe–4.2 mass%C–0.5~3.7 mass%Cu alloy.

1. 緒言

Feスクラップ利用製鉄は,高炉法によるFe鉱石からの製鉄と比較して還元熱が不要であり,そのエネルギーは1/3程度と報告されている1)。しかしながら,スクラップを新しく鋼材に利用するにあたり,スクラップ鋼材に含有されるCuやSnなどの“トランプエレメント”が鋼の成形性や製品の品質に悪影響を及ぼすことが問題となっている2,3)。とりわけCuに関しては,スクラップ利用による将来的な鋼材中のCu濃度が詳細に予測されているなど,スクラップ中に含有されるCuの影響に対する認識は非常に高い4,5)。この問題を解決するためにFe,炭素飽和Fe,鋼からの脱Cuに関する研究がこれまで数多くなされている6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40,41,42,43,44,45,46,47,48,49,50,51,52,53,54,55,56,57,58,59,60,61,62,63,64)。中間処理とも位置付けられる物理選別6)はもちろん,後述する乾式精錬プロセス7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,35,36,39,40,41,42,43,44,45,46,47,48,49,50,51,52,53,54,55,56,57,58,59,60,61,62,63,64)や,アンモニアチーリングなどの湿式プロセス33,34,37,38)が提案されている。

乾式プロセスでは,精錬剤としてスラグ等を利用し,スラグ中にCuを分配して除去するフラックス精錬が最も多く研究されてきた7,8,9,10,11,12,14,15,16,18,21,22,24,25,26,27,28,29,30,32,35,41,45,50,58,63)。主に精錬剤として硫化物系のスラグを用いた研究が行われており,それらは最大のCu除去能を実現する最適な精錬条件を見出すことを目指して,スラグ系,スラグ組成,温度,Fe中の添加元素などを変化させ,スラグとFe間におけるCuの分配比が測定されている。他にも精錬剤としてFeと不混和の金属であるPbやAgの利用も検討されている。Feよりも高い蒸気圧をもつCuを蒸気として分離する揮発除去法は,フラックス精錬同様に数多くの報告がなされている研究である13,17,19,20,23,36,39,40,42,43,47,49,51,52,53,54,55,61)。揮発除去に関する研究は蒸発速度の促進を狙い,減圧雰囲気下で行うものが主であり,その多くは温度,雰囲気圧,Fe中の添加元素の蒸発速度への影響が調査されるとともに付加的にプラズマを使用した方法などが考えられ,蒸発速度の向上が図られている。これらフラックス精錬や揮発除去法の他にも様々な原理に基づく脱Cu法が多々考案されている。例えば,銅とセラミックスの界面物性(Cuとセラミックスの濡れ性がFeよりも良いこと,Feよりも高いCuの付着性),Cuの表面偏析などを利用したセラミックスへのCuの優先吸着による脱Cu法がある31,44,60)。また,Fe,Cuを含む3元系や4元系における2液相分離現象はFeとCuの粗分離が可能であり,Cuを多く含有するFeスクラップへの適用が検討されている46,48,50,56,57)。最近ではAgを介することによりFeよりも貴な金属であるCuを酸化除去する脱Cu法も見出されているとともに,Agを介して硫化フラックスに吸収させる研究も進められている59,62,64)

近年の環境に対する意識の高まりから各種材料精製・製造プロセスにおいて環境に優しいことが求められており,脱Cuプロセスにおいても例外ではない。例えば,廃棄物を出さないプロセスとしてはフラックス等を用いない揮発除去法がその一つとして挙げられるが,高除去能を実現しているもののその処理温度は非常に高いものとなっている。一方で,フラックス等を用いない乾式プロセスを利用した精錬法の一つとして固相と液相の不純物の分配を利用し,凝固偏析により不純物を除去する凝固精製はSi,Geの精錬において古くから知られている65,66,67)。Feスクラップ中のトランプエレメント除去においても凝固精製の適用性が検討されているものの,FeスクラップやFeの価格と処理コストの関係から適当ではないとの判断がなされており68),凝固偏析を利用してFe中のトランプエレメントの除去が試みられた報告はない。処理コストを下げるには種々の方法が考えられるが,高温融体を扱うプロセスにおいては処理温度の低下がその1つとして挙げられる。Feの融点は高く1811 Kであるが,Cを添加しFe-C系にすることでその溶融温度を最大で1423 K程度まで下げることが可能である69)。そこで本研究ではFe-C-トランプエレメント系を利用した低温におけるスクラップの凝固精製実現を目指し,温度勾配下での一方向凝固によりFe-C-Cu系合金融体におけるCuの凝固偏析挙動を調査した。Cuの偏析に対する凝固速度,初期Cu濃度の影響を明確にするとともに,これらの一方向凝固実験の結果から偏析係数を算出した。

2. 原理

Fig.1に1445 K直上,1445 K直下,1428 KにおけるFe-C-Cu系のFe側の状態図を示す70)。Feは1428~1445 Kの温度域において,低C濃度,低Cu濃度領域でγ-Feとして存在する。そして,状態図上にはγ-Fe相,C,液相(L1)が平衡する3相共存領域がある。この3相共存領域中の平衡相に注目すると,γ-Fe相中のCu濃度は液相中のCu濃度よりも高くなっている。つまり,この3相平衡中のγ-Fe相と液相との関係を上手く利用し,冷却・凝固を行うことでCuは液相から晶出したγ-Feに濃化することになり,結果として液相中のCu濃度は減少する。本研究ではこの3相平衡を形成する液相(L1),つまり,L1+L2⇆γ-Fe+Cの4相平衡が成り立つ点とFe-C系の共晶点を結ぶ境界線上の液相に注目する。3相平衡を形成する液相(L1)が現れる温度範囲に関しては,1445 Kより上では液相(L1)と銅を主成分とする液相(L2)が平衡するため上限が1445 K,また,この液相(L1)は温度が低下した場合,最終的にはFe-C系の共晶点に至ることから下限は1426 Kである。このFe-C-Cu系のL1+L2⇄γ-Fe+Cの4相平衡が成り立つ点とFe-C系の共晶点を結ぶ境界線上の液相を一方向凝固した際の模式図をFig.1に示している。例えば,温度勾配を利用して一方向凝固させた場合,液相よりも高いCu濃度のγ-FeがCとともに温度勾配中の低温領域において晶出し始め,高温領域に存在するFe-C-Cu系融体中のCu濃度は初期のCu濃度よりも低下する。この現象に従って一方向凝固を進めると残留するFe-C-Cu系融体中のCu濃度は減少することとなる。それゆえ,凝固した後のCu濃度分布は温度勾配中の低温領域でCu濃度が高く,高温領域に向けてCu濃度が低い傾向を示すことが予測される。

Fig. 1.

 Phase diagrams in Fe-Cu-C system just above 1445 K, just below 1445 K and 1428 K, and concept of Cu-removal from Fe scrap by solidification segregation of γ-Fe under unidirectional solidification.

3. 実験

実験試料として炭素飽和鉄,電解鉄,銅を使用した。炭素飽和鉄は電解鉄(東邦亜鉛(株):C 36 ppm,P<10 ppm,12 ppm,Si<5 ppm,Mn 1 ppm,Cu 1 ppm,N 10 ppm,O 200 ppm)100 gとC粉(Sigma-Aldrich Co. LLC)4 gを黒鉛坩堝(φ35×28×75 mm)に入れ,1573 K,Ar流通下で10 h以上保持して作製した。炭素飽和鉄中のC濃度は(1)式71)から算出すると4.65 mass%である。   

logNC=12.728/T+0.727logT3.049(1)

ここで,NCは炭素飽和鉄中のCのモル分率,Tは絶対温度である。炭素飽和鉄,電解鉄,Cu(三津和化学(株):>99.99 mass%,C 0.001 mass%,S 0.001 mass%)を全体で14 g,冷却速度の影響を調べる実験では組成をFe−4.2 mass%C−2 mass%Cu,初期濃度の影響を調べる実験では組成をFe−4.2 mass%C−0.5,2 or 3.7 mass%Cuとなるように秤量し,アルミナボート(Al2O3 95 mass%,SiO2 3 mass%,11×7×90 mm)に充填した。Fe-C-Cu系のL1+L2⇆γ-Fe+Cの4相平衡が成り立つ点とFe-C系の共晶点を結ぶ境界線上の液相のC濃度は実際には変化するが,単純化のためにFe-C系の共晶組成を目安にC濃度4.2 mass%としている。横型電気抵抗炉を用い,アルミナボートを所定の位置に配置する。均熱帯における均一凝固実験(soaking zone solidification:SZS)では均熱帯位置,一方向凝固実験(unidirectional solidification:US)では温度勾配下に配置した。予備実験で測定した炉内の温度分布をFig.2に示す。ここで示した温度分布は炉内に疑似試料を配置しておらず,空間の温度分布を意味している。一方向凝固実験,均熱帯における均一凝固実験での試料の位置はそれぞれFig.2における5−10,15−20 cmに対応する。一方向凝固実験時に設定温度1673 Kの状態において温度分布の低温側でアルミナボート端の温度を熱電対により測定したところ1523 Kであった。温度を測定した位置はアルミナボートの厚み,熱電対の保護間の厚みを勘案するとおおよそ4.5 cmの位置に対応する。4,5 cmの位置ではそれぞれ1220,1286 Kであることから考えると,ほぼその中間の位置である4.5 cmの位置では1526 Kと実験時に測定した温度とほぼ同様の値であり,予備実験で測定した温度分布が実験時にもほぼ維持されていると推察される。室温で炉内を真空排気,Arガス置換を3回繰り返し,その後炉内雰囲気を100 ml/min(s.t.p.)のAr流通下とした。炉の温度を200 K/hの昇温速度で均熱帯部分の温度が1673 Kなるまで昇温した。均熱帯部分温度が1673 Kの時,試料の最も温度の低い箇所,すなわち5 cmの位置においても試料が溶融していることを確認している。1673 Kで5 h保持した後,冷却速度を調査する実験では−600,−200,−60,−20 K/hの4つの冷却速度,初期濃度の影響を調査する実験では−60 K/hの冷却速度で一方向凝固実験を実施した。一方,均熱帯における均一凝固実験では−60 K/hで冷却した。すべての実験において凝固後1273 Kからは−200 K/hの冷却速度で試料を室温まで冷却した。冷却後の試料を凝固方向に対して6分割し,ICP-AES,赤外線吸収法により分割した試料のCu濃度,C濃度を分析した。また,凝固方向に沿って試料を切断し,光学顕微鏡により試料断面の組織観察を行った。

Fig. 2.

 Temperature distribution of furnace.

4. 結果と考察

4・1 冷却速度の影響

実験後の試料の外観の一例をFig.3に示す。試料は一方向凝固実験において冷却速度−60 K/hで実施して得たものである。Fig.3より試料全体が溶融していることがわかる。他の実験で得られた試料に関しても同様の外観を示していた。均熱帯において−60 K/hの冷却速度で実施した凝固実験後の試料の断面観察結果をFig.4に示す。Fig.4における(a),(b),(c)はそれぞれ試料の左部,中央部,右部に対応する。全体的にフレーク状の黒鉛,小片の黒鉛,わずかにデンドライトが存在しており,観察した3箇所で大きな組織の違いは見られなかった。これは期待通りに均熱帯で試料が均一に冷却されて凝固されていることを表している。Fig.5は冷却速度−60 K/hで一方向凝固実験を行った後の試料の断面である。Fig.5における観察像は温度勾配下での3つの位置に対応する。それぞれ,(a)低温領域,(b)中温領域,(c)高温領域である。凝固が始まる低温領域では組織中に多くのデンドライトが存在している。一方,温度勾配範囲の低温領域から高温領域に向かうに従い低温部で多く見られたデンドライトの数が減少している。Fig.1に示すFe-C-Cu系の状態図からγ-Feが初期凝固相として晶出すると考えられることから,Fig.5で観察されたデンドライトはγ-Feであると推測される。ここで,デンドライトとバックグラウンド領域のCu濃度をエネルギー分散型X線により分析した。その結果,デンドライトにおいて2.2 mass%,バックグラウンド領域においては1.7 mass%であり,デンドライトのCu濃度はバックグラウンド部分と比較して高くなっている。これは,状態図から予測される液相よりも高いCu濃度のγ-Feが温度勾配中の低温領域において晶出し始め,高温領域に存在するFe-C-Cu系融体中のCu濃度は初期のCu濃度よりも低下するという傾向と一致する。つまり,Fig.5で観察されたデンドライトはγ-Feで,バックグラウンド領域は後で凝固した液相部であると言える。Fig.6は冷却速度−200 K/hで一方向凝固実験を行った後の試料の低温領域における断面図である。試料の位置は冷却速度−60 K/hの試料のFig.5(a)に対応する位置である。冷却速度−60 K/hの試料と比較すると,デンドライトは細く,また,デンドライトの占める割合は低くなっている。これは冷却速度が大きいことからデンドライトが十分に成長できなかったためと考えられる。

Fig. 3.

 Appearance of sample after experiment.

Fig. 4.

 Cross-sectional view of sample by soaking zone solidification: (a) left part, (b) middle part and (c) right part of sample.

Fig. 5.

 Cross-sectional view of sample by unidirectional solidification: (a) low temperature area, (b) middle temperature area and (c) high temperature area.

Fig. 6.

 Cross-sectional view of sample by unidirectional solidification under – 200 K/h cooling rate at low temperature area.

Fig.7は試料を凝固方向に対して6分割し,Cuの濃度を測定した結果である。均熱帯において−60 K/hの冷却速度で均一凝固をさせた試料中のCu濃度は位置によらず一定であり,初期の2.0 wt%をほぼ維持している。温度勾配下で一方向凝固させた試料中のCuの濃度分布は冷却速度によって変化している。−600 K/hの冷却速度で一方向凝固させた試料中のCuの濃度分布は,均熱帯で均一凝固させた試料中のCuの濃度分布と同じで一定となっている。冷却速度−200 K/hで一方向凝固させた試料では凝固の始まる低温領域で初期濃度の2 mass%よりも高いCu濃度,凝固が終了する高温領域で初期濃度の2 mass%よりも低いCu濃度となっており,試料中に低温領域から高温領域に向けてCu濃度が減少するという傾向があった。この傾向は冷却速度−60,−20 K/hでの一方向凝固後の両試料でも見られたが,そのCuの濃度勾配は−200 K/hの時と比較して急であった。一方で,冷却速度−60,−20 K/hでの一方向凝固後の両試料のCuの濃度勾配にはほとんど違いがなかった。この両試料の類似した濃度勾配は本実験条件において−60 K/hが平衡凝固に十分な小さい冷却速度を与えていることを示している。

Fig. 7.

 Distribution of Cu content in sample by unidirectional solidification (US) and by soaking zone solidification (SZS).

試料中のCの濃度分布をFig.8に示す。均熱帯において−60 K/hの冷却速度で均一凝固をさせた試料中のC濃度は位置によらず4 mass%強で一定である。また,−600 K/hの冷却速度で一方向凝固させた試料中のCの濃度分布も同様に4 mass%強で一定となっている。一方,冷却速度−200 K/hで一方向凝固させた試料では凝固の始まる低温領域で3.5 mass%程度と低いC濃度となっており中温領域に向かいその濃度は増加しているが,4 mass%を少し超えたところで停滞し,高温領域では一定となっている。冷却速度の小さい−60,−20 K/hでの一方向凝固後の試料ではこの傾向がさらに強くなり,冷却速度−60 K/hでは低温領域で2 mass%強,−20 K/hでは2.5 mass%程度と−200 K/hの低温領域よりもさらに低いC濃度を示している。また,−200 K/hと同様に高温領域に向かいそのC濃度は増加を示すが,4 mass%程度に達し,その後一定を示す位置はより高温領域側にシフトしている。Fig.1のFe-C-Cu系の状態図に基づくと,液相,Cと平衡するγ-Fe相のC濃度は2 mass%強であり,このため低温領域で低いC濃度を示していると考えられる。また,冷却速度が小さくなるに従い平衡凝固に近づくことから,冷却速度が小さい試料でγ-Fe相に近いC濃度を示したと思われる。しかしながら,詳細に見てみると冷却速度の最も小さい−20 K/hでC濃度は2.5 mass%程度,−60 K/hで2 mass%強と冷却速度の大きい−60 K/hの方が低いC濃度を示すという逆転現象が生じている。この原因について拡散の観点から検討する。Fig.9はFe中のC,Cuの拡散係数を示したものである72,73,74,75,76,77,78)。図からFe中のCの拡散係数はCuの拡散係数と比較して桁違いに大きく,Fe中のCの拡散は速いことが推察され,Cは凝固後も容易にFe中を拡散することが可能である予想される。実験において1273 K以下はすべての実験で同じ冷却速度で降温するが,1273 Kまでは実験ごとに異なる冷却速度で降温するため,凝固から1273 Kに温度が低下するまでの時間は実験する冷却速度に依存することになる。つまり,凝固させる冷却速度が大きければ凝固後1273 Kまで時間が短く,凝固させる冷却速度が小さければ凝固後から1273 Kになるまでの時間は長くなる。これらのことから考えると−60 K/hと比較して冷却速度の小さい−20 K/hは凝固してから1273 Kに到達するまでの時間,つまり,Cの拡散する時間が長いため,試料中のC濃度が均一になる方向により進行し,冷却速度の小さい−20 K/hのほうが−60 K/hよりもC濃度が高くなったのではないかと考えられる。一方でγ-Feと同時に晶出するCが凝固物質中のC濃度の分布に影響する可能性もある。本研究においてFe-C-Cu系のL1+L2⇆γ-Fe+Cの4相平衡が成り立つ点とFe-C系の共晶点を結ぶ境界線上の液相を一方向凝固した際のCの晶出割合をγ-Fe相,C,液相(L1)が平衡する3相共存領域中で“てこの法則”により考えると,Cの位置はFig.1からわかるようにγ-Fe相と比較してかなり離れていることからCの晶出量はγ-Fe相よりも無視できるほど小さいと推察される。つまり,C晶出はCの濃度分布にほとんど影響しないものと思われる。

Fig. 8.

 Distribution of C content in sample by unidirectional solidification (US) and by soaking zone solidification (SZS).

Fig. 9.

 Diffusion coefficients of C and Cu in Fe.

次に液相・完全混合−固相無拡散モデル79)を用いてCuの偏析係数(k=CS/CL)の算出を試みた。液相・完全混合−固相無拡散モデルとは,凝固相である固相中の拡散を無視し,液相中で組成が完全に均一であると仮定しているモデルである。モデルの概略図をFig.10に示す。ここではCS:固相中溶質濃度,CL:液相中溶質濃度であり,溶質とはCuのことである。上述のように,Cについては凝固後の固相内拡散の影響が大きく同モデルの適用は困難であるが,Cuに関してはCよりも拡散が桁違いに遅いため固相中の拡散を無視できるとし本解析を行っている。液相・完全混合−固相無拡散モデルでは,固相中元素濃度CSは以下のScheilの式79)で与えられる。   

CS=kC0(1g)k1(2)

Fig. 10.

 Illustration of the solute redistribution for non-equilibrium solidification where there is no diffusion of solute in the solid and complete mixing of solute in the liquid.

ここで,C0は初期元素濃度,gは固相の割合である。(2)式を用いて,各冷却速度に対してCuの濃度分布に合う分配係数kを算出し,冷却速度−600,−200,−60,−20 K/hに対して偏析係数k=1.0,1.1,1.2,1.2という値を得た。冷却速度で偏析係数が変化する理由は,冷却速度によりデンドライトの成長が異なるためと考えられ,例えば,冷却速度が大きい場合は上述したようにデンドライトが十分に成長せず液相が多く残るため偏析係数が小さくなったと考えられる。ここで,−60 K/h以下の冷却速度で偏析係数が同じになっており,同冷却速度以下ではCuの偏析挙動は同じであることがわかる。このことから,Fe−4.2 mass%C−2 mass%Cuを一方向凝固させた際のCuの凝固偏析係数は1.2であることが明らかとなった。

4・2 初期Cu濃度の影響

試料中のCuの初期濃度を変えて実験した際の試料中のCu濃度分布をFig.11に示す。初期濃度3.7,0.5 mass%いずれの場合においても2 mass%と同様に温度勾配下で初期に試料が凝固する低温領域で初期Cu濃度よりも高くなり,高温領域に向かいCu濃度が減少する傾向を示している。ここでも上記と同様にCuの濃度分布から液相・完全混合−固相無拡散モデルによりCuの偏析係数を算出した。その結果,初期濃度が3.7,0.5 mass%のいずれにおいても偏析係数は1.2であった。この偏析係数は2.0 mass%の時と同じであり,本研究で調査した初期Cu濃度の範囲0.5-3.7 mass%において一方向凝固におけるCuの偏析係数は一定で1.2であることわかった。

Fig. 11.

 Effect of initial Cu content on distribution of C content in sample by unidirectional solidification.

Morita and Tanaka80)によりFe-C-Cu系におけるCuの固液間平衡分配係数が測定されている。本研究と温度領域が異なるが1523~1673 Kの範囲でCuの固液間平衡分配係数ke=CS/CLは1.1~1.4の値をとっている。また,その値はC濃度に依存しており高C濃度により増加すると報告している。つまり,彼らの研究によるとC濃度が2 mass%の場合,keの値は1.1を示し,C濃度とともにkeの値は増加し3.5 mass%程度で1.4に達している。本研究で得られた一方向凝固におけるCuの偏析係数は1.2で1.1~1.4の範囲にある。しかしながら,本研究で対象としている液相はFe-C-Cu系のL1+L2⇆γ-Fe+Cの4相平衡が成り立つ点とFe-C系の共晶点を結ぶ境界線上の液相であり,そのC濃度が4 mass%程度であることを考慮すると1.2という値はMorita and Tanakaの研究から予測される4 mass%での平衡分配係数よりも小さい。本研究のCuの偏析係数が小さくなる理由としてはミクロ偏析によるものと考えられる。本研究のように分配係数が1より大きい場合では凝固した結晶中の溶質濃度は液相濃度より高く,凝固部分近傍の液相中の溶質濃度は低くなる。つまり,デンドライト樹間の溶質濃度が低くなることとなる。Fig.5(a)に低温領域の初期凝固を示しているがデンドライト間に液相の存在が確認されている。この液相はミクロ偏析によりCu濃度が薄くなった液相であると考えられ,本研究で算出した偏析係数はマクロ偏析での値に相当することからこの液相の存在により平衡分配係数よりも小さくなったものと思われる。

4・3 Cuの凝固偏析を利用した鋼材の活用

Fig.12はここで提案しているFe-C-Cu系融体から一方向凝固によりCuを凝固偏析させる技術を用いて,鉄スクラップリサイクルにおいて部分的にグレードの高い鋼材への利用を提案するものである。鋼材の種類によりCuの許容限界濃度が決まっており棒鋼では0.4 mass%,形鋼では0.3 mass%,熱間圧延鋼板・厚板,冷間圧延鋼板・厚板では0.1 mass%,薄板高級鋼,表面処理鋼板では0.01 mass%となっている。例えば,Cu濃度が0.11 mass%の場合,棒鋼もしくは形鋼のいずれにしか利用できない。また,Cu濃度0.31 mass%の場合は,棒鋼のみにしか利用できないことになる。Fig.12には偏析係数を1.2とし,Cu濃度0.11 mass%もしくは0.31 mass%の鉄スクラップを一方向凝固により処理した際の予想Cu濃度分布の計算結果を示している。Cu濃度0.11 mass%のものに関しては鋼材の20%が0.1 mass%よりも低いCu濃度を示しており,20%程度が熱・冷間圧延鋼板への利用が可能になると考えられる。また,Cu濃度が0.31 mass%のものに関しても同様に考えると30%程度が形鋼への利用が可能となると言える。このように本研究で提案するCuの凝固偏析によりCuの濃度勾配をつけることで,部分的にではあるがより高いグレードの鋼材へ活用が実現する可能性がある。

Fig. 12.

 Relationship between distribution of Cu content and upper specified limit of Cu content of steel.

5. 結言

凝固偏析を利用した鉄スクラップからの銅の除去技術の開発を目指し,本研究ではFe-C-Cu系合金融体に対し温度勾配を利用した一方向凝固実験を実施し,Cuの凝固偏析挙動への冷却速度の影響および初期Cu濃度の影響を調査した。

1.本研究で取り扱ったFe−4.2 mass%C−0.5~3.7 mass%Cu系合金融体に関して,初期凝固相であるγ-FeにCuが濃化しCuが凝固偏析することが分かった。

2.本実験で得られた偏析係数はCu濃度0.5~3.7 mass%の範囲において1.2で一定であった。この値は報告されている平衡分配係数よりも小さく,その原因はミクロ偏析にあると推察された。

謝辞

本研究はJSPS科研費22760575,(社)日本鉄鋼協会第21回鉄鋼研究振興助成を受けて実施したものである。また,本研究の実施にあたり大阪大学の笠井夕子氏に一部の分析・観察で協力を得た。ここに感謝の意を表する。

文献
 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

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