2014 Volume 100 Issue 6 Pages 788-793
Over the last decade, regulations regarding end-of-life vehicle (ELV) recycling have been introduced in many countries, leading to an increased recycling rate of ELVs. However, steel scrap from ELVs is recycled as a secondary iron source in the steelmaking process with rare consideration of alloying elements loss. Consequently, dissipation to slag and contamination in metals with alloying elements during the steel recycling process are likely to occur, but very few open data about destination of alloying elements which is available for stakeholders of ELV recycling.
The purpose of this study is to obtain information about the amounts of alloying elements associated with ELV scrap and its allocation ratio between metal and slag phases in an electric arc furnace (EAF) steel making process. Our results indicate that, over half a kilogram of chromium and manganese are contained in a unit of ELV. 10% of chromium and 20-40% of manganese are transferred to slag during the dissolution process, and more alloying elements are expected to be lost depend on the condition of oxidation pressure.
我が国における鉄鋼・非鉄金属資源のフローに着目すると,その多くは建築資材あるいは自動車用途材料として用いられている。中でも自動車には多様な素材の部品が組み込まれており,鉄やアルミ,銅といったベースメタル,プラスチックをはじめとし,基盤に用いられるレアメタル,モーターに用いられる磁石に付随するレアアース等,多種多様なエレメントが自動車部品に随伴して存在する1,2,3,4,5)。
翻ってスクラップ利用に目を向けると,著者らの先行研究によれば,老廃スクラップの発生量の多いのは建設,土木,自動車由来であり,最も特殊鋼含有量が多いのは使用済自動車(End of Life Vehicle;ELV)由来のものとなっている3)。さらに,近年は強度を保ったまま軽量化を実現するために,乗用車ボディにおける高張力鋼の使用比率が著しく高まっており6),そのため,自動車用途鉄鋼材においてフェロアロイ等の合金投入量が増加傾向にある。
生産・販売され,一般ユーザーや運送業などで使用された自動車は,最終的に登録が抹消されることでELVとなる。2005年に施行された自動車リサイクル法の影響もあり,我が国における2011年度の乗用車平均車齢は約11年7),年間ELV台数は400万台前後となっている8)。このうち約100万台は輸出に回り,残りの約300万台が解体業者へと引き渡されることとなっている。自動車はエンジン,触媒など有用金属・部品を多く含んでおり資源として価値が高いため,解体業者により精緻解体が行われ,リユース・リサイクル部品として回収が行われる。その後,解体ガラや一部の部品が中間業者にわたり,「シュレッダー破砕」あるいは「全部再資源化」による処理が行われる。「全部再資源化」はシュレッダー破砕により発生するダスト(ASR;Automobile Shredder Residue)発生削減の一方策として取り入れられたものの,現状のELV中間処理はシュレッダーが主体となっている9)。その後,処理されたELVスクラップは製鋼原料として電気炉メーカーに引き渡され,電気炉で熔解されて再び鋼材となる。しかし,中間処理を経ると発生するスクラップの起源となる部品,鋼種の同定が不可能であり,組成情報を把握することは困難となっている。これに加え,車種により部品に違いが有るために中小規模の解体事業所での情報蓄積が十分にできないという問題もある。そのため,現状において一部の例外を除き,ELVスクラップは中間処理業者において組成を確認,選別することはなく,冷鉄源として電気炉に投入されており,随伴する合金元素は鋼材中へ混入,もしくはスラグへ散逸し,利用価値を失っている。この問題に対し,鉄鋼業におけるレアメタル資源有効利用の観点から,電気炉に投入される前に適切な処理を行うことが重要だと考えられる。
このような社会情勢を背景に,本研究はELV由来スクラップのみを電気炉で通常の普通鋼生産と近い条件で熔解し,スクラップリサイクル過程において,随伴する合金成分がどのように循環,拡散,散逸しているのかを定量的に明らかにすると同時に,金属スクラップに随伴するレアメタルのさらなる有効利用に向けたシステム提案を行うことを目的とした。
本研究はハンドヘルド蛍光X線分析計を用いたスクラップ中の合金元素濃度の調査ならびにラボスケールならびに実炉による熔解実験,考察の順で進めた。
2・1 ELV各パーツの合金元素濃度測定 2・1・1 ガソリン車における部品含有合金元素量の推計精緻解体により回収されたELVの各部品をサンプルとして組成を分析し,部品に随伴している合金元素量を推計した。対象とした車種はTable 1で示す軽自動車である。分析を行った部品は電気製鋼で実際に原料として投入されている解体ガラ(ボディ),排気処理装置,足回りの3分類である。普通自動車は解体の際にドアやバンパー等リユースパーツを外して国内外で再利用されたり,輸出される部品の総重量比率が比較的高いのに対して,軽自動車はほとんど部品リユースの対象とされないことから,排出される車両のほとんどは冷鉄源としての資源化に向かう。そのため本研究では軽自動車を精緻解体の対象として選択し,一台あたりの合金元素随伴量の推計を行った。ここで精緻解体を行い,詳細な分析を行った対象は1996年製の軽自動車1台である。対象車種は軽自動車の中で最も多く流通しているタイプであり,先行研究11)で調査を行っている車種の仕様に最も近いものを選択した。
Reference | Sample | ||
---|---|---|---|
Small-sized automobile I | Small-sized automobile II | Small-sized automobile | |
Type | 3 door/hatchback | 3 door/hatchback | 4 door/hatchback |
Production year | 1993 | 1992 | 1996 |
Engine displacement | 660 cc | 660 cc | 657 cc |
Weight | 880 kg | 800 kg | 773 kg |
Drive system | Front-engine Front-drive | Front-engine Front-drive | Front-engine Front-drive |
部品に随伴する合金元素の分析にはハンドヘルド蛍光X線分析計(オリンパス・イノベックス社製DP-2000)を用いた。本分析計の特徴として,特に軽元素の定量でICP発光分光分析法に比べると精度には劣るものの,エネルギー分散型分光法により多元素の組成分析を同時に測定できる点が挙げられる。
分析に当たり,塗装加工等がなされている表面はグラインダーを用いて研磨を行った。塗装の除去に関しては,分析の際に表面メッキ層に含まれるZnが0.1 mass%以下であることを確認して研磨完了を判断した。研磨後は誤差を考慮して同種鋼材を2~3回測定し,その平均値をその部品構成素材組成とした。予めICP発光分光分析によって組成を定量した8種類の鋼材サンプルをハンドヘルド蛍光X線分析計で定量し,その結果を検量線として用いることでハンドヘルド蛍光X線分析計の値より各部品の鋼材組成を決定した。
まずボディ部品に随伴する合金元素の推計について述べる。ボディの組成分析には1.ルーフパネル,2.リアフェンダー,3.トランクリッド,4.フロアパネル,5.6.リアドア(内,外),7.ルーフレール,8.9.フロントコナー(側面,前面)の計9ヶ所の一部を切り取ったものをサンプルとして用いた。ボディ部品は大きく1~6で示したパネル部品と,7~9で示した構造骨格部品とに分けることができる。
本研究の分析対象部品は,その組成によって大略4種類に分類することができ,おおむねCr含有率は低く0.01-0.02 mass%程度,Mnは0.08-0.19 mass%程度であった。ボディ部品ではNiは検出されなかった。濃度が低いものの,組成の傾向としてパネル部品に比べ構造骨格部品時随伴する合金元素濃度がやや高いことが分かった。
Table 2にボディ,廃棄処理装置,足回り部品随伴合金元素量の推計結果を示す。推計は以下の手順で行った。
Reference | Sample | Amount of alloying element | |||
---|---|---|---|---|---|
Weight | Weight | Cr | Mn | Ni | |
Parts | [kg] | [kg] | [g] | [g] | [g] |
Fender | 4.7 | 3.8 | 0.4 | 3.2 | N.D. |
Front door | 43.2 | 34.8 | 3.4 | 53.4 | N.D. |
Rear door | 36.1 | 29.1 | 2.9 | 44.6 | N.D. |
Deck lid | 13.2 | 10.6 | 1.2 | 8.9 | N.D. |
Skeleton structure | 329.4 | 265.6 | 52.8 | 355 | N.D. |
Total | 426.6 | 343.9 | 60.7 | 465.1 | N.D. |
Sample | Amount of alloying element | |||
---|---|---|---|---|
Weight | Cr | Mn | Ni | |
Parts | [kg] | [g] | [g] | [g] |
Exhaust pipe (Inner) | 5.5 | 1.2 | 8.1 | 0.0 |
Exhaust pipe (Outer) | 2.9 | 258.0 | 6.7 | 4.5 |
Rear exhaust piece | 0.1 | 10.6 | 0.6 | 4.1 |
Catalyst unit (Outer) | 0.5 | 0.1 | 0.7 | 0.0 |
Catalyst unit (Inner) | 1.6 | 147.0 | 3.8 | 0.5 |
Automobile muffler | 1.6 | 0.1 | 0.8 | 0.0 |
Total | 12.2 | 417.0 | 20.7 | 9.1 |
Sample | Amount of alloying element | |||
---|---|---|---|---|
Weight | Cr | Mn | Ni | |
Parts | [kg] | [g] | [g] | [g] |
Shock absorber (Front) | 9.7 | 11.9 | 31.9 | 0.4 |
Brake pad | 0.8 | 0.1 | 3.1 | 0.2 |
Lower arm | 2.2 | 0.3 | 3.9 | 0.0 |
Disc rotor | 5.8 | 6.9 | 59.4 | 0.5 |
Drive shaft | 16.2 | 55.1 | 85.3 | 2.4 |
Brake caliper | 4.8 | 0.8 | 5.6 | 4.2 |
Rrear axle | 11.7 | 11.4 | 47.7 | 0.4 |
Trailing arm | 3.8 | 0.8 | 7.4 | 0.0 |
Disk rotor | 9.4 | 1.7 | 48.2 | 0.0 |
Lateral rod | 6.9 | 2.4 | 14.8 | 0.0 |
Shock absorber (Rear) | 0.7 | 0.1 | 1.7 | 3.3 |
Others | 0.1 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
Total | 72.1 | 91.5 | 309.0 | 11.4 |
1)本研究で得たサンプルは一部,部品を切断したものがあるため,Table 1で示す参考資料データ10)と本研究で対象とした車両のボディ総重量を基に,各部品重量の比例配分を行うことで部品重量を推計した。(本研究車種/参考車種=0.81)
2)組成分析より得られた値に各部品の重量を掛けることで,各部品に随伴する合金元素量を推計した。
3)ドアのように組成がアウターパネルとインナーパネルで2種類確認された部品については,その平均値の組成を用いた。
濃度としてはそれぞれCr約0.02 mass%,Mn 0.14 mass%であり,結果として,ボディにはCrが約60 g,Mnが約460 g随伴していることが分かった。
続いて,排気処理装置部品に随伴する合金元素量について述べる。排気処理装置のサンプルに関しては各部品重量,組成共に実測値である。排気処理装置は排気パイプと触媒ケース部分が二重構造となっており,その内側部分がフェライト系ステンレス鋼であった。また,排気ガス出口部分(リアピース)に関しては,部品重量が小さいもののオーステナイト系ステンレス鋼で構成されていた。ELV処理現場でのヒアリングによれば,これらの排気処理装置周りのスクラップは触媒部分を外して非鉄金属精錬業に売却する以外は,通常の普通鋼電気炉メーカーでの資源化が行われている例が多く,Crの散逸源となっていることがわかった。Cr,Niの鋼材中への意図せぬ混入,拡散を防ぐ意味でも,排気処理装置周りの鋼材も必要に応じてさらに選別し,Cr,Ni源として利用可能な需給マッチングを進めるべきだといえる。
最後に,足回り部品に随伴する合金元素量について述べる。対象車種は駆動方式がFFであり,エンジン動力を車輪に伝えるドライブシャフトと,ブレーキ部品に当たるキャリパーアセンブリーがフロント足回り部品にあることから,そこで両者の合金元素量に違いが見られた。特に,フロント足回り部品ではドライブシャフトのハブナックル部分でCr,Mnがそれぞれ約1 mass%,キャリパーアセンブリーの付属部品と,リア足回り部品のショックアブソーバー内部のシリンダーでNiが約2 mass%と,他の部品に比べ着目元素の濃度が高かった。足回り部品全体でみるとMnの随伴量が他の2元素に比べ多く,濃度として約0.43 mass%であることから,足回り部品はMnの混入・散逸源になるといえる。
随伴合金元素量の推計結果をFig.1に示す。各合金元素の流入源に関して,Crは排気処理装置,Mnはボディ,足回りであるといえる。Niについては,足回りの一部部品の他,排気処理装置のオーステナイト系ステンレス鋼由来のみであった。また,電気炉再資源化部品であるボディ,排気処理装置,足回り部品には,Crが部品重量の約0.13 mass%に当たる569 g,Mnが約0.19 mass%に当たる795 g,Niが約0.005 mass%に当たる20 gほどと,対象車種には合金元素がほとんど随伴していないことが明らかになった。これより,対象車種については合金元素がほとんど随伴していないため,電気炉にて再資源化を行っても不純物の少ない鋼材を生産することができる可能性が示唆された。
Estimated amount of alloying elements associated with ELV scraps.
試料としてボディのみのシュレッダー製品および足回り部品のみのシュレッダー製品の2種類を各5トン使用した。ボディシュレッダーについてはTable 3の車種を処理したものからサンプル抽出を行った。足回りについての車種は特定できない。この際,使用する電炉の投入口幅の制約からプレスやギロチンシャー切断を行った試料は使用不可能であったため,シュレッダー製品のみとした。シュレッダー製品は廃自動車20台分の解体ガラおよび足回り部品を原料とし,粗破砕,シュレッダー,磁力選別などの選別工程を経て,シュレッダー鉄,アルミ,非鉄金属類に分離回収されたうちのシュレッダー鉄を使用した。それぞれのシュレッダー製品チャージについて,加炭材吹き込みやドロマイト,アルミナ,蛍石の添加を行い,通常操業に近い条件となるよう操作した。熔解後のメタルおよびスラグのサンプルを一部採取し,ハンドヘルド蛍光X線分析計によりメタル中合金元素,SEM-EDXによりスラグ中合金元素の分析を行った。
Producer | Size | Type | Engine displacement | Production year | |
---|---|---|---|---|---|
1 | Domestic | standard-sized | 4 door/hatchback | 1000 cc | 1999 |
2 | Domestic | standard-sized | 4 door/sedan | 1838 cc | 1999 |
3 | Domestic | small-sized | 4 door/wagon | 1328 cc | 1996 |
4 | Domestic | standard-sized | 4 door/sedan | 3210 cc | 1998 |
5 | Domestic | standard-sized | 4 door/hatchback | 1339 cc | 2004 |
6 | Domestic | standard-sized | 4 door/wagon | 1495 cc | 2005 |
7 | Domestic | standard-sized | 4 door/sedan | 1998 cc | 1997 |
8 | Domestic | standard-sized | 4 door/sedan | 2825 cc | 1995 |
9 | Domestic | standard-sized | 4 door/hatchback | 1000 cc | 1999 |
10 | Domestic | standard-sized | 4 door/wagon | 1834 cc | 1996 |
11 | Domestic | standard-sized | 4 door/wagon | 1495 cc | 2005 |
12 | Domestic | standard-sized | 4 door/hatchback | 1386 cc | 2003 |
13 | Domestic | standard-sized | 4 door/wagon | 2499 cc | 2000 |
14 | Domestic | standard-sized | 4 door/hatchback | 1348 cc | 1998 |
15 | Domestic | standard-sized | 4 door/hatchback | 1323 cc | 2001 |
16 | Domestic | standard-sized | 4 door/wagon | 2156 cc | 1996 |
17 | Domestic | standard-sized | 4 door/sedan | 3210 cc | 1998 |
18 | Domestic | standard-sized | 4 door/sedan | 1686 cc | 1996 |
19 | Domestic | standard-sized | 4 door/wagon | 1998 cc | 1999 |
20 | Import | standard-sized | 4 door/hatchback | 1595 cc | 2001 |
試料として合金元素を高濃度で含むELVスクラップの足回り部分を使用した。CaO-SiO2-Al2O3系スラグにFeOを5,
10, 20 mass%添加したものを模擬スラグとし,スクラップ試料1.75 gおよびスラグ0.70 gをMgO坩堝に入れ,高周波誘導加熱炉によりAr雰囲気下1600
°Cで1時間加熱した。本実験では模擬スラグ中のFeO濃度を変化させて,Fe+
%FeO | %CaO | %Al2O3 | %SiO2 | |
---|---|---|---|---|
A | 5.0 | 37.1 | 23.8 | 34.1 |
B | 10.0 | 35.1 | 22.5 | 32.4 |
C | 20.0 | 31.2 | 20.0 | 28.8 |
ボディシュレッダースクラップとして5470 kgをアーク炉で熔解後,真空誘導加熱取鍋精錬炉(VILF)にて脱酸を行い,鋳込みのプロセスでサンプルを回収した。副資材として主に炭材,酸化カルシウム,アルミナ,アルミドロス等の投入を行った。ボディシュレッダー熔解においては,アーク炉熔解時に炭材50 kg,酸化カルシウム80 kg,アルミドロス40 kg,フェロシリコン70 kg,保温材10 kgの投入,VILF熔解においてドロマイト10 kg,アルミナ3 kg,蛍石5 kg,保温材15 kgの投入を行った。また足回りシュレッダー熔解においては炭材30 kg,酸化カルシウム80 kg,アルミナ40 kg,フェロシリコン45 kg,保温材25 kgの投入を行った。なおフェロシリコンの組成はC 0.05 w%,Si 75 w%,Cr 0.13w%,Fe 24.82w%である。
熔解後のメタル重量は5430 kgであり,スラグ重量はアーク炉出鋼後285 kg,VILF後30 kgの計315 kgであった。それぞれの溶鋼温度はアーク炉出鋼後で1563 °C,VILF処理末溶鋼温度で1597 °Cである。
足回りシュレッダーの熔解実験において投入したスクラップ重量は5210 kg,アーク炉で熔解後,VILFを経ずにアーク炉で脱酸を行い,鋳込みのプロセスでサンプルを回収した。事前の予定ではボディと同じプロセスで実験を進める予定であったが,VILF用取鍋の耐火物に支障が出たため前掲の手順を踏んだ。熔解後のメタル重量は5040 kgであり,スラグ重量はアーク炉出鋼後の340 kgであった。それぞれの溶鋼温度はアーク炉出鋼後で1640 °Cであった。
サンプルの随伴合金元素組成と熔解実験により得られたメタル/スラグ間分配傾向をそれぞれFig.2に示す。ボディ,足回りの両サンプルにおいて同様の傾向が得られ,Crは約1割,Mnは3~4割ほど酸化されてスラグへ移行した。一方で,Niに関してはスラグへの移行が確認されず,鋼材中に留まることを確認した。著者らは先行研究において鉄/スラグ間での各元素の分配挙動を熱力学的に解析したが4),本実験結果と矛盾なく対応することが確認できた。
Amount of alloying elements associated with body/undercarriage component scrap and its allocation ratio between slag and metal.
また高周波誘導加熱炉による下回り部品の熔解実験におけるメタル,スラグ中のCr,Mn,Ni濃度をTable 5に示す。メタル中のCrは完全に酸化され,Mnも大部分が酸化されスラグに移行し,その一方,Niはメタルに完全にとどまっていた。また,スラグ中のFeO濃度の増加とともに,Mnがより多くスラグに分配される傾向を示した。温度,スラグ組成が大きく変化しない条件下ではFeOの増加とともにFeOの活量も増加するため,スラグ中のFeO濃度を増加させた場合,ルシャトリエの法則より,合金元素はよりスラグに分配される。すなわち,スクラップ中の有用元素の多くは酸化損失によりスラグ中に拡散していることが示唆される。なおTable 5の実験結果A,Bにおいて,分配結果が逆転しているのは,メタル中のMn濃度が低いことによる分析誤差によると思われる。
Cr | Mn | Ni | ||
---|---|---|---|---|
A | (a) Slag [mass%] | 0.02135 | 0.23317 | N.D. |
(b) Metal [mass%] | N.D. | 0.00073 | 0.01336 | |
Allocation ratio (a/b) | All to slag | 318.697 | All in metal | |
B | (c) Slag [mass%] | 0.01806 | 0.23344 | N.D. |
(d) Metal [mass%] | N.D. | 0.00076 | 0.01288 | |
Allocation ratio (c/d) | All to slag | 308.640 | All in metal | |
C | (e) Slag [mass%] | 0.02103 | 0.23735 | N.D. |
(f) Metal [mass%] | 0 | 0.00056 | 0.01388 | |
Allocation ratio (e/f) | All to slag | 426.108 | All in metal |
N.D. Not Detected.
シュレッダー処理後のボディ,足回りともに溶鋼組成はCu 0.1 mass%程度を含むが,普通鋳物用銑鉄並の組成であることがわかった。これは言い換えると個別部品に随伴する合金元素は希釈・拡散しているということであり,ELVスクラップに随伴する合金元素循環システムを考えるには,電炉での熔解前に比較的多く合金を含む部品を外す必要があることが示唆される。なおスラグ,メタル間の分配傾向までは調査しなかったが,メタル中のP,Si,Al,MoについてもICPにより濃度測定を行った。結果としてPは0.02%と非常に低く,Siは0.48%,Al,Moは検出限界以下であった。
精緻解体ELVスクラップ中の合金元素濃度をハンドヘルド蛍光X線分析計を用いて測定し,一台あたりの合金元素量を推計したところ,Cr 569 g,Mn 795 g Ni 20 gの随伴があると推計され,これは自動車重量の0.13%(Cr),0.19%(Mn)にあたる。Crは主に排気処理装置に随伴があり,随伴量の7割を占めている。Mnは約半分が車体構造部に随伴しており,残りの多くもボディに随伴している。Niの随伴量はごくわずかであるものの,そのほとんどが後方足回り部品に集中していることが示された。
ラボスケールならびに実炉による熔解実験の結果,精緻解体したボディ,足回りスクラップを熔解したところCrは1割程度,Mnは2割~4割のスラグ損失が確認された。この結果は酸素分圧条件によって変化し,実操業ではより多くの合金スラグロスが起こっていることが示唆された。
一部の解体業者は,手解体作業のさらなる精緻化により基盤,樹脂類,ガラス類の回収,さらには小型モーター類の回収まで行うケースもあるが,鉄鋼資源については精緻な解体選別を行っても,スクラップ市場における価格差別がほとんど行われておらず,選別を行わない場合と同様の普通鋼電炉での資源化がなされているケースも多い。しかし,昨今の自動車用途特殊鋼需要量の増大を鑑みるに,廃自動車は重要な鉄鋼二次資源であり,一部の部品が高い品位で蓄える鉄鋼合金元素の有効利用推進も重要な施策として実施する必要がある。
鉄鋼は他の金属素材に比べて圧倒的に生産量,社会蓄積量が多く,随伴元素の種類と量も極めて大きい。しかし本研究で示したように循環においてロスする元素も少なくない。こうした状況から,鉄鋼随伴元素の情報は,資源管理の点から特に重要であり,これからのスクラップ流通において,組成情報を把握した上で取引を行うことが極めて重要であると考えられる。
本研究は日本鉄鋼協会環境・エネルギー・社会工学部会「素材産業から見た自動車リサイクル」研究会ならびに科研費若手研究A(23686131),環境省平成23年度自動車リサイクル連携高度化等支援事業の助成支援を受けたものである。
サンプル採取,ならびに熔解実験,エンジン部品フロー調査でそれぞれ西日本オートリサイクル株式会社,株式会社大同キャスティングス,株式会社青南商事,鉄リサイクリングリサーチ株式会社 林誠一氏にお世話になりました。特にサンプル採取,熔解実験においては通常業務の傍ら,多大なるご支援を賜りました。ここに記して謝意を申し上げます。