Tetsu-to-Hagane
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Introduction to Selected Papers
Introduction to “The Coke Dry Quenching Process as the Energy-saving Technology, Tetsu-to-Hagane, 64(1978), No.13, pp.1914-1921 by Takashi Mori, Takeo Fujimura and Seiichiro Sato”
Eiji Yamasue
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2014 Volume 100 Issue 6 Pages R11-R12

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【選定理由】

本論文は1978年に出版されたものであるが,これはちょうど第1次石油危機を企業や国民の省エネルギー努力によって乗り越えた直後に,OPECが「1979年より原油価格を値上げする」ことを決定し,第2次石油危機が始まりつつある時期に相当する。このような時期にも関わらず,日本はそれまで増え続けていた石油の輸入量を押さえつつ,年1~2%の成長を遂げるという奇跡を成し遂げた。鉄鋼産業においても企業の大きな努力が行われたものと推察される。

その一例として,当時の日本鋼管(株)が老朽化した京浜製鉄所をリプレースすべく扇島地区に徹底的な合理化と環境対策のために最新の技術を取り入れ,1976年秋に一期工事が完成し,二期工事が進行中という段階で技術報告として投稿・掲載されたのが本論文である。コークス乾式消火法はCDQ(Coke Dry Quenching)とも呼ばれ,鉄鋼業における省エネルギーに貢献した技術であり,まさに当時の時代の要請を受けて導入された技術と言える。

従来,コークス炉から押し出された赤熱コークスは散水冷却され,その冷却に用いた水は水蒸気となり大気中に放散されていた。その結果,赤熱コークスの熱エネルギーは水の蒸発熱として失われ,さらにコークス粉塵の飛散という問題も生じていた。それに対しCDQは高温赤熱コークスの顕熱を不活性ガスを用いて回収する手法である。回収した顕熱で高温・高圧蒸気を生産し,新たなエネルギー投入なしに発電あるいは工場用蒸気として利用する。水を使わない乾式消火のため,エネルギー有効利用に加え,様々な優れた特長を有している。

例えば,CDQは重油を用いるボイラ発電と異なり,二酸化炭素の発生量を抑えることもできる。さらにCDQでは閉鎖系内でコークスを冷却するため,粉塵を含む白煙の放散が無く作業環境も改善される。またコークス品質の改善にも大きな効果があり,CDQでは赤熱コークスがチャンバー内でガスにより徐冷されるため,コークス強度が数%改善される。また,CDQコークスは含水がなく,蒸発熱相当分を補償する必要がないため,燃料費が改善される。同時に高炉頂温度が高くなるため,炉頂圧発電量も増加でき,高炉の生産性が高まる。

このような理由から現在においてもCDQは日本では多くの製鉄所,コークス炉に設置されている。近年は中国でもCDQの有効性が認知され,2000年の中国政府の国家第10次5カ年計画で普及目標に定められている。そして漢方・北京・承徳・杭州の製鉄所等においては,すでに日本のCDQ設備が導入されている。本論文はそのようなCDQ普及の端緒となった論文といえるだろう。

論文によると,CDQは古くヨーロッパで実施され,日本でもかつて一部で実施されていたが採算性,操業性,安全性などの問題で一時姿を消し,散水消火法が一般的となっていた。しかし,当時のソ連では改良されたCDQにより安定操業が実現されており,日本にもその技術が導入された。当時,回収された蒸気は雑用蒸気として活用するため,蒸気発生の安定化がきわめて重要なファクターであったが,Fig.1に示すように,安定な蒸気発生が実現されている。また,Fig.2はCDQの熱フロー図であるが,CDQの入熱の内83.5%が蒸気として回収されることがわかる。ボイラにおける放熱損失は2%程度であったとされ,ボイラ負荷率が96.4%と高いことを考慮すると非常に低いレベルである。そして当時のソ連のCDQでは蒸気発生量0.45~0.50 t/tコークスが達成されているが,上述のように新設されたCDQでは実績値として0.44~0.51 t/tコークスとほぼ同レベルであり,熱回収効率は極めて高いことが立証されている。

Fig. 1.

 The change of steam generation.

Fig. 2.

 Heat balance of CDQ plant.

新しい技術はただ導入するだけでは同じ水準を達成することは難しく,それを維持することには相当な努力を必要とする。ソ連から導入した新たなCDQ技術を1年半に渡って高い技術で維持し,それを現在に至るまで使用され続けるほどに昇華させた当時の技術者の不屈の努力と精神力に心からの敬意を感じるものである。

 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

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