Tetsu-to-Hagane
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ISSN-L : 0021-1575
Review
Recent Advances of Trace Analysis of Iron and Steel by Separation and Preconcentration Techniques
Koichi OgumaNobuo Uehara
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2014 Volume 100 Issue 7 Pages 818-831

Details
Synopsis:

Accurate chemical analysis of iron and steel for trace elements usually requires appropriate separation and preconcentration procedures prior to instrumental measurements of analytes. The present review is concerned exclusively with recent advances in separation and preconcentration techniques, including liquid-liquid extraction, ion exchange, solid-phase extraction, coprecipitation, volatilization and electrolysis.

1. はじめに

鉄鋼中の微量成分を対象とした湿式分析では,主成分である鉄と分析成分との分離が行われることが多い。その目的は,先ずFeの妨害を除くことであり,次いで目的成分を濃縮し高感度化を図るためである。鉄鋼分析の現場では,溶媒抽出法が分離に最も広く利用され,次いで,イオン交換法,共沈法,気化法などが利用されている1)

1990年以降の分離技術に関しては,吸光光度法,原子吸光法またはICP発光分析法(ICP-AES)と化学分離との組み合わせに関する高田らの総合論文2),総・解説3,4,5)が報告されている。また,本誌の2002年6月号に「鋼中微量成分分析のための試料前処理技術」と題する藤本らの総説6),同時期の「ふぇらむ」誌に「高純度材料分析のための分離化学」と題する平出の解説7),本誌の2011年2月号に「鉄鋼微量成分分析における分離技術の最近の進歩」と題する松宮らの総説8)が掲載されている。さらに,日本分析化学会の「ぶんせき」誌に掲載された鉄鋼分析に関する「進歩総説」の一部に試料前処理としての化学分離を取りあげたものがある9,10,11,12,13)

本稿では,あえて上記の総・解説との重複を避けることなく,内容の大きな変貌を遂げた1990年から2013年前半までの鉄鋼分析における分離技術についてまとめておくことにしたい。なお,報告された分離法ごとに概要を表形式で提示するが,筆者が興味を覚えた研究例については幾分か詳しく記述する。

2. 液液抽出分離

鉄鋼分析における液液抽出分離の研究例をTable 1に示す。この表では,主成分の鉄を抽出除去する場合と,目的成分(分析種)を抽出分離する場合とに分類してある。抽出操作後の目的成分の定量法に注目すると,1990年代までは吸光光度法が比較的よく使われていたが14,34,35,36),2000年代に入ってからは主に原子スペクトル分析法が利用されていることが分かる。

Table 1. Separation by liquid-liquid extraction.
AnalytesExtraction mediaSample solutionsSpecies extractedDetectionRemarksRefs.
Extraction of iron
Ni4-Methyl-2-pentanoneHClIon-pair of chloro complex with H+Photometry14
B, Al, Si, P, Cr, Mn, Co, Ni, Cu, Mo4-Methyl-2-pentanone7 M HClIon-pair of chloro complex with H+ICP-MSExtraction with PFA test tubes15
BChloroform + acetylacetoneAqueous soln. (pH 1.4)Acetylacetonato complexICP-MS16
Zn4-Methyl-2-pentanone + di (2-ethylhexyl)- phosphateAqueous soln. (pH 1.1)Di (2-ethylhexyl)- phosphate complexFAASd)FIA17
V4-Methyl-2-pentanone6 M HClIon-pair of chloro complex with H+ETAASe)18
Mn, Cu, Zn, Pb, Bi4-Methyl-2-pentanone5.4~7 M HClIon-pair of chloro complex with H+ICP-AES19
Al, Ca, Ti, V, Cr, Mn, Co, Ni, Cu4-Methyl-2-pentanone6 M HClIon-pair of chloro complex with H+ICP-AESContinuous extraction20
Ti, Cr, Mn, Co, Ni, Cu, Zn, Cd, Pb, BiPolyoxyethylene (7.5)- 4- isononylphenoxy ether7 M LiClIon-pair of chloro complex with Li+ICP-MS, ETAASAqueous two-phase extraction21
Cr, Mn, Co, Ni, Cu, PbToluene-heptane +Span-80a) +8-quinolinolAqueous soln. (pH 2)8-Quinolinolato complexETAASEmulsion technique22
Mn, Ni, BiPolyoxyethylene (7.5) -4- nonylphenoxy ether4×10–3 M EDTA-2 M NH4SCNThiocyanato complexETAASCloud-point extraction23
Bi4-Methyl-2-pentanone6 M HClIon-pair of chloro complex with H+Voltammetry24
Zn4-Methyl-2-pentanone7 M HClIon-pair of chloro complex with H+HPLC-photometry25
Extraction of analytes
AsBenzene8 M HCl + KIIodo complexPhotometry, ETAASFIA26
As, SnBenzene7 M HCl + KI (for As), 5.5 M H2SO4 + KI (for Sn)Iodo complexETAASContinuous extraction27
TiDichloromethane + dibenzo-18-crown-6Acetate buffer (pH 4)Dibenzo-18-crown-6 complexPhotometry, ICP-AES28
B4-Methyl-2-pentanone0.01 M HF + Rhodamine 6G (R-6G)Ion-pair of fluoro complex with R-6GPhotometry29
CuToluene + Span-80a) + 8-quinolinolAqueous soln. (pH 3.5)8-Quinolinolato complexETAASEmulsion technique30
Ti, Cu, Ga, In, BiToluene-heptane + Span-80a) + Kelex-100b)Aqueous soln. (pH 3.5)Kelex-100b) complexICP-MSEmulsion technique31
As, P4-Methyl-2-pentanone+ cyclohexane/1,2-dichloro- ethane4 M HClIon association complex of heteropolymolybdic acid and cationic dyePhotometryFloating-pairing ion-exchange- extraction32
Sn, Bi, Sb, In, Ga, As4-Methyl-2-pentanone2 M HCl containing 1 g each of KI and ascorbic acidIodo complexFAAS33
Nb1,4-Dichlorobenzene (microcrystalline)3 M HCl-0.5 M KSCN-5%(m/v) ascorbic acid-0.06% ion pair reagentc)Ion-pair of thiocyanato complex with ion pair reagentc)Photometry34
Sbp-Toluidine-benzene5 M H2SO4-0.0125 M KIIon-pair of iodo complex with protonated p-toluidinePhotometry35
Sb1,4-Dichlorobenzene (microcrystalline)2 M HCl-7×10–3% (m/v) Brilliant Green (BR)Ion-pair of hexachloro- antimonate (V) with BRPhotometry36

a) Sorbitan monooleate. b) 7-Dodecenyl-8-quinolinol. c) 1-Naphthylmethyltriphenylphosphonium chloride. d) Flame atomic absorption spectrometry. e) Electrothermal atomic absorption spectrometry.

かつては,Feを塩酸溶液系からエーテルにイオン対抽出するのが一般的であったが,最近では,抽出溶媒として4-メチル-2-ペンタノンが汎用されている。濃い塩酸溶液からFeを有機溶媒に抽出分離し,水相に残った成分をそれぞれ適切な方法で定量する。特に,分析効率の上から,除鉄した試料溶液を用いて,ICP-AESあるいはICP質量分析法(ICP-MS)により多元素同時定量を行う例が増加傾向にある。

鉄鋼分析では,一般に分析に供する試料量が制限されることは少ないため,1回の分析に比較的多量の試料が使用されている。そのため,液液抽出で使用する有機溶媒の量も連動して多くなっていた。しかし,最後の定量段階に高感度なICP-MSを適用すれば少量試料での分析が可能になることから,次のようなスケールダウンが試みられた。すなわち,1 gの試料を酸分解し,50 mL定容とした塩酸溶液から3 mL(試料60 mgに相当)をPFA製試験管に分取し,4-メチル-2-ペンタノンを6 mL加えてFeを抽出除去した。水相から1 mL分取し,硫酸を50 µL加えて白煙処理して塩化物イオンを揮散させ,100 ng/mLのInを内標準とする5 mLの1%硝酸溶液としてからICP-MSによる定量に供した。このようにして,高純度鉄中のサブppm(µg/g)~数十ppm(µg/g)の成分を定量し,認証値とよく一致する結果が得られている15)

リン酸ジ(2-エチルヘキシル)(D2EHPA)は,金属イオンの抽出試薬として広く利用されている。D2EHPAは4-メチル-2-ペンタノン溶液として用いると,pH2の溶液からFe(III)を容易に抽出することができる。この操作をフローインジェクション法によって自動化し,除鉄後の水相をフレーム原子吸光分析法(FAAS)に供してZnが定量されている17)

鋼中のVの定量の際,Fe,Mo,CrをK2S2O8とKMnO4を加えて加熱酸化した後,6 mol/L塩酸溶液から4-メチル-2-ペンタノンにより抽出除去できる。このとき,Vの他にVよりはるかに大量のNiが水相に残るので,6 mol/L硝酸溶液からVのみをトリブチルリン酸に抽出し,次いで2%過酸化水素−6 mol/L硝酸で逆抽出すると,Vは黒鉛炉原子吸光分析法(GFAAS)により定量できる18)

チオシアン酸イオンは塩化物イオンよりもFe(III)と安定な錯体を形成し,1 mol/L程度の添加でもFe(III)をジエチエーテルに抽出できることにヒントを得て,チオシアナトFe(III)錯体をポリオキシエチレン-4-ノニルフェニルエーテル相に抽出除去することが試みられた。手法としては曇点抽出である。本法の特長は,試薬からの汚染が無視できるほどに削減できること,チオシアン酸アンモニウムはGFAASによる測定を妨害しないこと,の二点が挙げられる。汚染の削減は,少ない塩の添加で十分にFe(III)を抽出できることによる。また,添加するチオシアン酸アンモニウムは170 °Cで分解蒸発するので灰化過程で除去され,分析対象元素の原子化には妨害しないためである23)

一方,目的成分(分析種)を抽出分離する場合には,その成分に対して選択的な抽出系が必要である。抽出の選択性を得るには,通常,抽出化学種(錯体)の安定度の差を利用することが多い。例えば,ヨード錯体を生成しやすい金属イオンを抽出しているのが好例である27,33,35)。また,よく知られたBF4をかさ高な陽イオン色素(ローダミン6G)とのイオン対として抽出し,吸光光度法で定量した研究もこの種の典型である29)

高速液体クロマトグラフィー(HPLC)では,カラム充填剤(固定相)の極性が溶離液(移動相)の極性より低い場合,この手法を逆相HPLCとよぶ。逆相HPLCの分離機構は,固定相を有機相,移動相を水相にそれぞれ見立てて多段抽出モデルにより説明されることが多い。この逆相HPLCを,塩酸−4-メチル-2-ペンタノン系抽出によるFeマトリックスの除去と組み合わせた鉄鋼中Znの高感度定量法が報告された25)。すなわち,0.500 gの試料を塩酸と硝酸の混酸で加熱溶解後,塩酸を加えてから4-メチル-2-ペンタノンで3回抽出を繰り返してFeを除去した。水相を硫酸で白煙処理した後,少量の塩酸と硝酸を加えて残渣を溶解し,25 mLとした。この溶液から1.00 mLを分取し,Znをα,β,γ,δ-テトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィン(TCPP)錯体とした溶液25 mLから0.10 mLを分取してHPLCに注入,Znを定量した。なお,HPLCの実験条件は,カラム充填剤がC18-シリカ,溶離液が0.070 mol/kg乳酸緩衝液(pH 4.15)を含む水−アセトニトリル混合溶液(45:55 m/m)であった。本法によれば,検量線からは鉄鋼中の0.2 ng/gのZnが検出可能である。この感度は,既報の方法では達成し得ないものである。しかし,Znは至る所に存在する元素であるためコンタミネーションを受けやすく,実際にはブランク値の変動の影響により,検出感度は鉄鋼中のZnに換算して0.32 µg/gとなる。高純度な試薬やクリーンルームの使用などにより実質的な感度向上が期待される。

有機相中に微細な水相領域を分散させたw/o(water in oil)エマルションを水溶液に加えて分散させると,目的成分がエマルション液滴の有機相に捕獲され,続いて分散相内水相へと移行する。これは,通常の液液抽出における抽出と逆抽出を一度の操作で行うことに相当する。この手法とGFAASを組み合わせて高純度鉄中のCu30),ICP-MSと組み合わせてTi,Cu,Ga,In,Bi31)が定量されている。

Nbの定量では,チオシアナトニオブ酸イオンと1-ナフチルメチルトリフェニルホスホニウムイオンとのイオン対を生成させる。ここに1,4-ジクロロベンゼンのアセトン溶液を加えると,先のイオン対を取り込んだ微結晶状の1,4-ジクロロベンゼンが析出する。この固相となった1,4-ジクロロベンゼンは容易にろ別でき,1,2-ジクロロエタンに溶解して393 nmにおける吸光度を測定すればNbが定量できる34)。なお,Sbについては,ヘキサクロロアンチモン酸イオンとブリリアントグリーンとのイオン対生成を利用した同様な分離定量法が報告されている36)

ナノグラム(ng)レベルのSbの吸光光度法では,以下のような“化学的増感法(chemical enhancement procedure)”が試みられた。SbをSbI3としてp-トルイジンを含むベンゼンに抽出し,共抽出されたHIをアミン塩として除いた後,水で逆抽出し,十分な臭素を加える。スルホサリチル酸,硫酸,KIの各溶液を加えてからベンゼンと振りまぜ,水相を捨てる。有機相を水で洗浄後,KIO3,硫酸,ローダミン6G,NaClの各溶液を加えて振りまぜる。乾燥した試験管に移した有機相に無水Na2SO4を加えて脱水した後,535 nmにおける吸光度を測定する。ここで,吸光度の測定対象となっている化学種は,Sbと当量関係にあるICl2とローダミン6Gとのイオン対である。測定されたモル吸光係数は1.07×106 L mol−1 cm−1,呈色は1時間安定である35)

3. イオン交換分離

鉄鋼を酸などで分解した鉄鋼分解液中において,ほとんどの場合,マトリックス成分であるFeも測定対象となる元素もイオンの形で存在している。このため,イオン交換分離法はFeイオンと測定対象元素のイオンとを分離する有効な前処理法の一つとして用いられている。

イオン交換とは,固体化合物の電荷を有する官能基に保持されているイオンが,溶液中の同じ符号のイオンと可逆的に交換することである。イオン交換分離法には,有機溶媒を使わない,イオン交換樹脂を再生し繰り返し使用できる,カラムクロマトグラフィーによる主成分マトリックスの分離・測定対象元素相互の分離が行える,といった利点がある。イオン交換分離の詳細な原理とその鉄鋼関連分析への展開については,本誌に小熊の解説が掲載されている37)。この解説以外にも,鉄鋼分析のための分離濃縮法としてイオン交換分離法を扱った総説,解説および総合論文が発表されている38,39,40)

ここでは,1990年以降に報告された鉄鋼の湿式分析法に用いられたイオン交換分離法について概観する。なお,イオン会合(あるいはイオン対)抽出などイオン交換反応を含む液液抽出法については,“2. 液液抽出分離”を参照されたい。同様に,イオン交換反応によらない固相抽出法については“4. 固相抽出分離”を参照されたい。一方,キレート樹脂法については,錯形成反応とイオン交換反応が密接に関係していることから,重要なものを“3・3その他のイオン交換分離”で取り上げた。

Table 2に1990年以降に報告されたイオン交換に基づく鉄鋼分析に関する報告をまとめた。Table 2では用いられるイオン交換体の種類により,“陽イオン交換体”,“陰イオン交換体”,“その他のイオン交換体”に分類し,掲載年度順に並べた。“その他のイオン交換体”には陽イオン交換体あるいは陰イオン交換体には分類しきれないものやキレート樹脂などをまとめた。以下,イオン交換のメカニズムごとに分離例について紹介する。

Table 2. Separation by ion-exchange.
AnalytesIon-exchangerSolution constituentEluentDetectionRemarksRef.
Anion-exchangers
BDionex IonPac AC100.2 M Formate (pH 2.7)0.5 M NaClO4PhotometryHPLC41
As, Bi, PbCapriquata) impregnated cotton0.5 M HCl + KIMethanolETAAS43,47,48
CdUnavailable0.24 M HCl + 0.32 M HNO3TMPyP soln.Photometry44
LanthanidesDowex 1-X86 M HCl1.6 M HNO3ICP-AESSorption of Fe matrix45
Bi, Cu, Cd, Pb, Sb, TeBio-Rad AG1-X80.5 M HCl + KI3 M HNO3ICP-AES49
Ti, Zr, Nb, Mo, Sn, Hf, Ta, WMitsubishi CA08P2 M HF3.5 M HNO3 + H2O2ICP-AES52
BiDowex 1-X80.5 M HCl0.5 M H2SO4PhotometryFIA53
ZnDowex 1-X82 M HCl0.005 M HClFAASFIA55
ZnDowex 1-X80.6 M HCl + NaCl1 M HNO3FAASFIA56
BBio-Rad AG1-X83 M HF6.5 M HNO3ICP-AESFIA57
MoEIChrom Industries TEVA® resin0.05 M H2SO47 M HNO3ICP-AESFIA (59)59,69
B, SbDowex 1-X84 M HF3.5 M HNO3 + H2O2ICP-MSIsotope dilution62
Nb, Ta, W, Zr, HfDowex 1-X82 M HF0.18 M HNO3 + 0.13 M HCl + 0.013 M H2O2ICP-MSFIA68,75
Cation-exchangers
Al, Ca, Mn, Mg, Ba, Cd, Zn, SrEmpore cation-SREDTA soln. (pH 2.3)3 M HNO3ICP-MS42
Mg, Ca, Mn, Sr, Ba, TlEmpore cation-SREDTA soln. (pH > 1.7)3 M HNO3ICP-MS46
Cd, Hg, PbDowex 50W-X81 M HF8 M HClICP-MS50
Be, Mg, Al, Ca, Mn, Zn, Sr, CdBio-Rad AG-50-X4EDTA soln. (pH 1)3 M HNO3ICP-AES54
CoNaphthalene + tetra- phenylborateAcetate buffer (pH 6) + 5-Br-PADAPDimethyformamideFAASDissolution of adsorbent63
NiHitachi 26111 M HNO3 + 0.25 M HCl0.11 M Tartrate (pH 6.0)PhotometryFIA60
Ni, Cu, Zn, CdBond Elute SCXCitrate buffer (pH 5.5) + 1,10-phenConc. HNO3ICP-MS61
Al, Mn, Ni, CoBio-Rad AG 50W0.5 M HCl + 0.05 M oxalate + 1.5% H2O24 M HClICP-AES69
SiStrongly acidic cation-exchange resindiluted HClUnavailableMPT-AESb)FIA Retention of Fe matrix73
B732 Cation-exchange resinAcidic soln. (pH 2-3)UnavailableICP-AESFIA Retention of Fe matrix74
Mg, Cu, Zn, Ag, PbDowex 50W-X81 M HF8 M HNO3ICP-MSIsotope dilution76
Rare-earth elementsDowex 50W-X82 M HCl8 M HNO3NAA77
Other types of ion-exchangers
BAmberlite IRA-743EDTA soln. (pH 10)0.1 M HClFluorometryFIA51
BAmberlite IRA-7430.13 M NH3 + 0.045 M EDTA1 M H2SO4PhotometryFIA58
Mg, Ca, Ti, Mn, Co, Ni, Cu, Zn, Y, Zr, Nb, Mo, Cd, In, Sn, Ba, La, Ce, Hf, Ta, W, PbDowex 50W-X8 and Dowex 1-X81~2 M HF4 M HNO3 + H2O2ICP-MSLaminated column64
BAmberlite IRA-743CyDTA soln. (pH 8.2)2 M HClICP-MS70
NiPolyurethane foam1 M KSCNPhotometryRetention of Fe matrix, FIA71
CoPoly (aminophosphonic acid)pH 2.0 soln.2.0 M HNO3FAASFIA72

a) Tri-n-octylmethylammonium chloride. b) Microwave plasma torch atomic emission spectrometry.

3・1 陰イオン交換分離

鉄鋼の湿式分析においては,陰イオン交換分離法が最もよく利用されている。陰イオン交換分離法では,陰イオン交換樹脂を用いて負電荷を持つ測定対象元素を保持させることで,Feマトリックスから分離する。

もっとも簡単な分離例として,Mo(VI)とFe(III)との分離が挙げられる。一般に,価数の大きなイオンは,酸素と結合した形態の陰イオン(オキソアニオン)として水中に溶存している。Mo(VI)では硫酸酸性の溶液中においてモリブデン酸イオン(MoO42−)として存在し,このイオンは含浸型の陰イオン交換樹脂であるTEVA樹脂に保持される。TEVA樹脂はジデシルメチルオクチルアンモニウム塩を担持した疎水性樹脂である。TEVA樹脂では過酸化水素を加えなくても,Mo(VI)が定量的に吸着される。Mo(VI)が吸着する条件においてFe(III)イオンはTEVA樹脂に吸着しない。TEVA樹脂を充填したカラムにMo(VI)を含む鉄鋼分解液を通液し,0.05 mol/Lの硫酸でカラムを洗浄後,7 mol/Lの硝酸でMo(VI)を溶離した溶出液がICP-AESで測定された69)。この方法では過酸化水素を加える必要が無いので,過酸化水素の分解に伴う気泡の発生による操作性の低下が起こらない。この特長を生かして開発されたフローインジェクション分析法(FIA)では,50 mgの鉄鋼を分解した分解液(25 mL)の50 μLを分取して測定した際の検出限界が8 μg(Mo)/gとなっている59)

多くの場合,鉄鋼分解液中の金属元素は陽イオンで存在していることが多いので,測定対象とする金属イオンを一旦,陰イオンに誘導してから陰イオン交換分離する方法がとられる。陰イオンへの誘導にはハロゲン化物イオンとの反応が用いられる。この時,マトリックスであるFe(III)イオンもハロゲン化物イオンと反応し錯体を形成することから,実際の分離は陰イオン交換樹脂への分配係数の違いにより達成される。以下に陰イオン交換に用いられたハロゲン化物ごとに解説する。

金属イオンと配位子との反応性に関するHard and Soft Acids and Bases(HSAB)則によれば,フッ化物イオンは硬い塩基に分類され,硬い酸(ルイスの定義では金属イオンは酸と見なされる)との反応性が高い。Fe(III)イオンは硬い酸に分類され,フッ化物イオンと安定な錯体を形成するが,フッ化物イオンの濃度を調整すれば錯体は陰イオンとはならない。フッ化物イオンとの親和性の高い元素の中には,Fe(III)が錯陰イオンにならない条件でも錯陰イオンを形成するものがある。

ホウ素は硬い酸に分類され,フッ化物イオンと反応してBF4を形成する。フッ化水素酸と過酸化水素とを用いてホウ素を含む鉄鋼試料を分解すると,分解液中でホウ素はBF4の形で存在する。フッ化物イオンの濃度を3.0 mol/L以下とすることで,ホウ素は陰イオン交換樹脂Bio-Rad AG1-X8を充填したカラムに保持される。この条件において,マトリックスであるFeはBio-Rad AG1-X8には捕捉されない。陰イオン交換樹脂に捕捉されたBF4は6.5 mol/L硝酸で脱着され,ICP-AESで定量された57)。この時の検出限界は1.3 μg/gであった。

Sb(III)も1 mol/Lフッ化水素酸の条件下で,Dowex 1-X8を充填したカラムに保持される62)。マトリックスであるFeを分離後3.5 mol/L硝酸を用いることによりSb(III)は溶離され,溶出液中のSb(III)が同位体希釈ICP-MSで測定された。このときのSb(III)の検出限界は5.8 ng/gであった。硬い酸であるHf,Mo,Nb,Sn,Ta,Ti,W,Zrは2 mol/Lフッ化水素酸条件下でフッ化物イオンと反応して錯陰イオンとなる52)。これを強塩基性イオン交換樹脂Mitsubishi CA08Pを充填したカラムに保持させてFeイオンと分離した後に,過酸化水素を含む3.5 mol/Lの硝酸で溶出させる。検討した元素の回収率はいずれも98%以上であった。この方法では溶出液を硫酸で白煙処理した後に再度水に溶解している。この溶液に含まれる各元素の濃度がICP-AESを用いて定量された。

塩化物イオンはフッ化物イオンよりもやや“軟らかい”塩基であることから,塩化物イオンと反応しクロロ錯イオンを形成する金属イオンにはZnやCdといった元素が含まれる。Znを0.6 mol/L塩酸と100 g/L塩化ナトリウムを含む溶液でDowex 1-X8に保持させ,1 mol/L硝酸で溶離させる。溶離したZnはオンラインでFAASに送られ測定される55)。この方法におけるZnの定量範囲は,0.075~2.2 μg/mLであった。ほぼ同時期に,類似したFIAシステムによる鉄鋼分解液中のZnの測定が報告された56)。どちらの測定法でもZnはクロロ錯陰イオンとしてDowex 1-X8に保持される。この時,マトリックスであるFeもクロロ錯体を形成するが,この条件では陰イオンとはならないため,Dowex 1-X8には保持されず流出する。CdはZnと類似した性質を持ち,酸性条件下でクロロ錯陰イオンを形成する。Feマトリックス分離後に陽イオン性ポルフィリンである5, 10, 15, 20-テトラキス(N-メチルピリジニウム-4-イル)-21H, 23H-ポルフィン(TMPyP)と反応させることで,陰イオン交換樹脂からCdをポルフィリン錯体として脱着させ,そのままオンラインで検出する44)。Cd-TMPyP錯体は非常に大きなモル吸光係数を持つため,鉄鋼中のCdとして0.1 μg/gの検出が可能である。Biは0.5 mol/L塩酸中でクロロ錯陰イオンとしてDowex 1-X8に保持され,0.5 mol/L硫酸溶液を用いて溶離された53)。溶離したBiはヨウ化物イオンによりヨード錯体に変換され,オンライン検出システムにより波長460 nmにて吸光検出される。Biの検出限界は,鉄鋼中の含有量として0.2 μg/gであった。

フッ化物イオンや塩化物イオンは硬い金属イオンに対して親和性を示すのに対して,ヨウ化物イオンは軟らかい金属イオンに対して高い親和性を示す。Fe(III)イオンは硬い金属イオンなので,ヨウ化物イオンとは安定な錯体は形成しない。これに対して,Bi,Cu,Cd,Sb,Te,Pbは塩酸酸性条件下でヨウ化物イオンと反応してヨード錯陰イオンとなる。ヨード錯体としてFeマトリックスから分離するために,陰イオン交換樹脂(Bio-Rad AG1-X8)へのBi,Cu,Cd,Sb,Te,Pbのヨード錯体の分配係数が,0.5 mol/L塩酸中におけるヨウ化カリウム濃度の関数として測定された49)。陰イオン交換樹脂に保持されたヨード錯陰イオンの効果的な溶離は,硝酸を用いてヨード錯陰イオンを陽イオンとヨウ化物イオンとに解離させることで達成された。同様のイオン交換反応が含浸型の陰イオン交換体についても検討され,BiおよびPbがマトリックスであるFeから分離された。塩化トリオクチルメチルアンモニウムを脱脂綿に含浸させた陰イオン交換体はイオン交換反応によりBi,Pbのヨード錯陰イオンを吸着するが,Feは吸着しない43)。少量のメタノールを用いて吸着したヨード錯陰イオンをトリオクチルメチルアンモニウムとのイオン対として溶離させることができる(Fig.1)。この方法では吸着(イオン交換)と脱着(イオン対溶離)の機構が異なることから,双方を別々に最適化することができるため,高い濃縮倍率を達成している43)

Fig. 1.

 Principal model of ion-exchange adsorption/ ion-pair elution.

ハロゲン化物イオンだけでなく,有機配位子を用いて目的元素を陰イオン性錯体に誘導した後にマトリックスであるFeと分離させる方法も提案された41)。Bはクロモトロープ酸と1:2の割合で反応し,陰イオン性錯体を形成する。この錯体をオンラインで陰イオン交換カラムに保持させ,0.5 mol/L過塩素酸ナトリウム溶液で溶離させた後にそのままオンラインで吸光検出された。EDTAとBは安定な錯体を形成しないことから,マトリックスであるFeをEDTAによりマスキングすることで,Bを選択的に定量できる。この方法におけるBの検出限界は,鉄鋼換算で0.04 μg/gであった。

3・2 陽イオン交換分離

鉄鋼分解液中に存在する多くの金属元素は陽イオンとして存在する。測定対象とする陽イオンを陽イオン交換分離法によりFeマトリックスから分離するためには,あらかじめFeイオンを陰イオンに誘導しておく必要がある。最も良く用いられている配位子はエチレンジアミン四酢酸(EDTA)である。EDTAは二つのアミノ基と四つのカルボキシ基を持ち,多くの金属イオンと1:1の安定な錯陰イオンを形成する。中でも,EDTA-Fe(III)錯体の安定度定数は非常に大きいことから(logβ1=25.0),pH1~2付近の酸性条件下でも,錯体は安定である。これに対して,Al(III)や多くの2価金属イオンとEDTAとの安定度定数はFe(III)ほど大きくはないため,pH1~2付近の条件ではEDTAと安定な錯体は形成しない。この安定度定数の違いに基づき,pH1~2の条件下でマトリックスであるFeの分離が検討された。pHを約1に調整した鉄鋼分解液にEDTAを固体のまま加え溶解した溶液を陽イオン交換カラム(Bio-Rad AG 50W-X4)に通液することで,Be,Mg,Al,Ca,Mn,Zn,Sr,Cdがカラムに保持される54)。このとき,陰イオンとなっているFe錯体はカラムに保持されずに流出する。溶離には3 mol/L硝酸を用い,溶出液をICP-MSを用いて測定する。各元素の回収率はほぼ100%であった。球状の粒子ではなく,ディスク状の陽イオン交換体を用いるとさらに簡便にFeマトリックスを分離することができる42,46)。ディスク状の陽イオン交換体は,pH 1.8においてMg,Ca,Mn,Sr,Ba,Tlを,pH 2.3においてAl,Ca,Mn,Hg,Ba,Cd,Zn,Srを吸着し,これらの元素をFeマトリックスから分離できる。いずれの条件においても,捕捉した金属イオンは3 mol/L硝酸を用いて溶離することができ,溶出液はICP-MSを用いて測定された。

ポリカルボン酸の一種であるクエン酸もEDTAと同様にFe(III)と反応して錯陰イオンを形成する。ただし,クエン酸はFe(III)に対しEDTAほど大きな安定度定数は持たないことから,弱酸性条件(pH5.5)で反応させる必要がある。マスキング剤としてクエン酸を用い,測定対象金属イオンの誘導体化に1,10-フェナントロリンを用いるNi,Cu,Cd,Znの分離濃縮法が報告された61)。1,10-フェナントロリンの金属錯体は正電荷を持つので,錯体の疎水性と静電的な相互作用といった協同的な作用により,錯体は効率的に陽イオン交換型の化学修飾シリカゲルに保持される。保持された錯体は濃硝酸により容易に溶離でき,溶出液をICP-MSで測定したときの検出限界(3σ)はNiで0.29 ng/g,Cuで0.098 ng/g,Znで0.15 ng/g,Cdで0.022 ng/gであった。

前節(3・1)で述べたように,高濃度のハロゲン化物イオンが共存する条件ではFe(III)イオンはハロゲノ錯陰イオンを形成する。中でも,硬い塩基であるフッ化物イオンと親和性が高いことから,フッ化物イオンを用いるFe(III)の錯体への誘導は効果的である50)。一方,Cd(II),Hg(II),Pb(II)は軟らかい金属イオンであることから,フッ化物イオンとは安定な錯体を形成せず,フッ化水素酸中でこれらの金属イオンは陽イオンとして存在する。陽イオン交換樹脂を用いることで,金属分解液中のCd, Hg, Pbが陰イオン性の鉄フルオロ錯体から分離される。8 mol/L塩酸を溶離液として用いることで,これらの元素は陰イオン錯体として樹脂から溶離される50)

2-(5-ブロモ-2-ピリジルアゾ)-5-ジエチルアミノフェノール (5-Br-PADAP)はCo(III)に2分子配位し,陽イオン性錯体を形成する。この錯体はテトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む微結晶のナフタレンを充填したカラムにイオン交換と疎水性相互作用により捕集された63)。捕集されたCo錯体はジメチルホルムアミドを用いてナフタレンごと溶解して回収される。試料水600 mLをこの方法により処理することで,5 mLのジメチルホルムアミドに濃縮できる(120倍濃縮)。Coを含む濃縮液は空気−アセチレンフレームを用いるFAASで測定された。濃縮倍率を変えることで,0.25 μg/L~0.8 mg/LのCoを定量できる。

3・3 その他のイオン交換分離

過去20年の間に,鉄鋼分解液に含まれる元素のイオン交換分離法において,新しいタイプのイオン交換体の開発やイオン交換体の新たな使用方法といった展開が見られた。その結果,広義にはイオン交換に分類されるものの,陰イオン交換分離にも陽イオン交換分離にも分類されにくい研究が数多く報告された。ここではこれらの中からトピックス的な展開について取り上げる。具体的には,陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂を積層したカラムを用いる方法,キレート樹脂を用いる方法,および基材そのものの持つイオン交換作用に基づく方法ついて紹介する。

陽イオン交換樹脂(Dowex 50W-X8)の利点と陰イオン交換樹脂(Dowex 1-X8)の利点を最大限に引き出すため,両方のイオン交換樹脂を同一カラムに順次充填した積層カラムが作製され,マトリックスであるFeとMn,Co,W,Moといった20種類以上の測定対象元素との分離が検討された64)。2 mol/L以下のフッ化水素酸条件下では,Fe(III)は積層カラムには保持されず溶出する。一方,検討した測定対象元素は,このカラムに吸着されるため,一度の操作によりFeマトリックスから分離することができた。積層カラムに保持された元素は,過酸化水素を含む4 mol/L硝酸により溶離できた。Feマトリックスと一緒に溶出するAl,V,Se,Beは,溶出液に塩酸を添加した後,陰イオン交換カラムを通すことによりFeマトリックスから分離できる。積層カラムによって分離された元素は,ICP-MSで測定された。

錯形成反応は,キレート官能基に結合している水素イオンと金属イオンとのイオン交換反応と見なすことができる。換言すれば,キレート官能基を有するキレート樹脂は一種のイオン交換樹脂として見なすことができる。鉄鋼分析に最も良く用いられているキレート樹脂はホウ素分離用に開発されたAmberlite IRA-743である。この樹脂はヒドロキシ基(−OH)を有する炭素が5個連結しているグルカミン基を持つ。Bはα-ジオール基(隣接している二つの炭素原子に結合している水酸基)と安定なキレートを形成する性質があり,グルカミン基との錯形成を通してAmberlite IRA-743に効果的に捕集される。なお,Bは陰イオンであるホウ酸イオンの形態で捕集されることから,Amberlite IRA-743は陰イオン交換樹脂に分類される場合もある。一方で,BはEDTAとは安定な錯体を形成しない。この性質は鉄鋼分解液中に含まれるホウ素の分離のために非常に好都合であり,EDTAはBの分離濃縮や分析のためのマスキング剤として汎用されている。鉄鋼分解液にEDTAを加えた溶液を,Amberlite IRA-743を充填したカラムに通液することで,Bは定量的に樹脂に吸着され,Fe(III)はEDTA錯体として保持されることなく溶出する。Amberlite IRA-743に吸着したBは塩酸や硫酸で容易に溶離できる51,58,70)

基材そのものが有するイオン交換能を利用することで,イオン交換基を導入しなくても測定対象イオンを濃縮することができる。このような発想で鉄鋼分析に用いられたものにポリウレタンフォーム(PUF)がある。PUFの中には酸性条件下で,陰イオン交換能を発現するものがある。ウレタンそのものは陰イオン交換能を持たないものの,ウレタン合成時に触媒として用いる第三級アミンの一部がPUFに埋め込まれる形で残存し,PUF表面に現れた第三級アミンの窒素原子が弱酸性条件でプロトネイトし,これが陰イオン交換基として作用する。チオシアン酸イオンは多くの重金属イオンと反応して錯陰イオンを形成するが,Ni(II)とは安定な錯体を形成しない。Ni(II)やFe(III)を含む試料溶液にチオシアン酸塩を加えた後,PUFを充填したカラムにこの溶液を通液すると,Fe(III)はチオシアナトFe(III)錯陰イオンとしてカラムに保持される。その一方,Ni(II)は保持されることなく溶出する。溶出したNi(II)を4-(2-ピリジルアゾ)-レソルシノール(PAR)を用いて発色させ498 nmで検出することにより,Niに対して77 ng/mLの検出限界が達成されている71)

3・4 イオン交換に基づく分離検出システムの構築

過去20年間における鉄鋼化学分析の目覚ましい進歩の一つに,自動分析化が挙げられる。代表的な流れ分析法であるフローインジェクション分析法(FIA)は鉄鋼分析法の自動化において主導的な役割を果たしてきた。FIAにおいてイオン交換体を充填したイオン交換カラムは分離濃縮のためのデバイスとして重要な役割を持つ。FIAによる分析はおおよそ以下の流れで行われる。FIAシステムに注入された鉄鋼分解液は,イオン交換カラムに運ばれ,ここで目的元素が保持される。Feマトリックスがカラムから流出した後,流路を切り替え,目的元素を検出部へと送る。検出にはFAAS,ICP-AES,あるいはICP-MSといった原子スペクトル法や,オンラインで測定対象元素のイオンを発色試薬や蛍光誘導体化試薬と反応させ,吸光検出あるいは蛍光検出する方法が用いられる。FIAの典型的なブロックダイヤグラムの例として,前項で取り上げたPUFを充填したカラムを組み込んだNi分析システムをFig.2に示す71)。バルブの切り替えが(A)の状態で,試料溶液Sはチオシアン酸塩溶液の流れと合流し,PUFを充填したカラムに送られる。Feはチオシアナト錯陰イオンとしてPUFに保持される。一方,Niはそのまま流出しサンプルループLに到達する。(B)の状態にバルブを切り替えると,L内にあるNiはキャリア流れに押し出されPAR溶液の流れと合流し,反応コイル中で錯形成し検出器においてPAR錯体として検出される。このとき,PUFはCSにより洗浄され,保持されていたFe(III)のチオシアナト錯体は洗い出される。

Fig. 2.

 Flow injection system for the spectrophotometric determination of nickel. (A) separation and loading mode, (B) measurement and cleaning mode. C=carrier, water at 1.54 ml/min; S=sample; L=sample loop, 40 µl; PUF=minicolumn, 0.125 g of polyurethane foam; R=reactor coil; R1=1 mol/l KSCN, 1.59 ml/min; R2=0.05% PAR, 0.57 ml/min; CS=cleaning solution, EtOH/H2O 1:1 in 1% HCl, 3.51 ml/min; D=detector, 498 nm and W=waste.

もう一つの代表的な流れ分析法であるシーケンシャルインジェクション分析法(SIA)も鉄鋼分析に利用されている。SIAはシリンジポンプによる液の吸入,吐出に基づく流れ分析法である。Fig.3に鉄鋼分解液中のCdを分析するために開発されたSIAのダイヤグラムを示す44)。シリンジポンプにより吸入された液は,保持コイルにおいて保持され,ミキシングバルブの切り替えの後に吐出され,イオン交換カラムへと導入される。陰イオン交換カラム上に吸着したカドミウムは,発色試薬である5, 10, 15, 20-テトラキス(N-メチルピリジニウム-4-イル)-21H, 23H-ポルフィン(TMPyP)と反応しカラムから脱着し,吸光検出器へと送られ測定される。

Fig. 3.

 Schematic diagram of FI system for the determination of trace cadmium in iron and steel. C: Carrier; SP: syringe pump; HC: holding coil (1.0 mm i.d., 2 m long); MV: multi-position valve, S: sample solution; R: 1.5×10–3 M TMPyP solution (0.1 M THAM/0.3 M sodium tartrate, pH 10.1); NaCl: 0.1 M solution; HCl: 0.3 M solution; IC: anion-exchange column (1.0 mm i.d., 40 mm long); TB: temperature-controlled bath (60 ºC); V: valve; FC: Z-shape flow cell; D: CCD detector; OF: optical fiber; L: light source; BC: back-pressure coil; PC: personal computer.

高圧の液流れに基づいて分離と検出を行うHPLCも鉄鋼分析に利用されている。陰イオン交換カラムを用いるHPLCにより鉄鋼中の微量ホウ素が分析されている41)。Bとクロモトロープ酸との反応,カラム分離,そして検出を液流れの中で行うシステムは,基本的にはFIAと同じである。しかしながら,高い分離能を持つHPLCカラムには高圧送液ポンプが必要である。高分離能カラムによりBのクロモトロープ酸錯体は鋭いピークとして観察され,このピークは過剰のクロモトロープ酸からも完全に分離される。この方法によるBの検出限界は鉄鋼ベース換算で0.04 μg/gであった。一方,オフラインであらかじめ分析対象元素をイオン性錯体に誘導し,イオン対としてHPLCにより分離検出する方法も開発されている65,66,67)。この場合,イオン対試薬を添加した溶離液を用いることで,疎水性カラム充填剤の表面に吸着したイオン対試薬が,あたかもイオン交換基として作用する。したがって,この方法はイオン交換クロマトグラフィーの一種とみなすことができる。

4. 固相抽出分離

固相抽出は,固体の捕集剤(吸着剤)に目的成分を吸着させて捕集し,適当な溶媒で溶出する操作である78)。目的成分により極性または非極性の吸着剤が用いられ,時にはイオン交換体を捕集剤に用いることもある。その際,固相自体に目的元素が直接吸着するのではなく,固相表面に固定化された化合物に目的成分が捕集される場合も固相抽出とみなすことにする。また,イオン交換体の利用は“3.イオン交換分離”ですでに取りあげたので,ここでは対象としない。鉄鋼分析における固相抽出の研究例をTable 3に示す。

Table 3. Separation by solid-phase extraction and related techniques.
AnalytesSorbentsSpecies sorbedEluentsDetectionRefs.
Sorption of iron
Ti, Cr, Mn, Co,Amberlite XAD-4Ion-pair of chloro complexICP-MS, ETAAS79
Ni, Cu, Zn, Ag,+ polyoxyethylene (20)-with H+
Cd, Pb, Bi4-isononylphenoxy ether(sample soln., 8 M HCl)
Co, Ni, As, PbPolystyrene + tributyl-phosphateIon-pair of chloro complex with H+ (sample soln., 6 M HCl)ICP-AES80
Sorption of analytes
CuAlumina + sodium dodecylsulfate + 1,5-diphenylcarbazone1,5-Diphenylcarbazonato complex0.7 M HBrFAAS (FIA)81
P, AsAmberlite XAD-4a) + polyoxyethylene (20)- 4-isononylphenoxy etherHeteropoly molybdic acids0.3 M Tetra- methylammonium hydroxideHPLC-photometry82
PbEIChrom Industries Pb-SpecTM resin0.1 M Ammonium oxalateFAAS (FIA)83
CuMicrocrystalline naphthaleneDithizonato complex4 M HNO3FAAS84
BiMitsubishi MCI Gel CHP20Pa)Ion-pair of iodo complex with tetrabutylammonium70% Methanol + 0.1 M HNO3FAAS85
AsSilica + zirconiaUnknown3 M HClETAAS86
SbPTFE tubeIon-pair of chloro complex with Co (III)-5-Cl-PADAPb) complex99% MethanolPhotometry87
SiDextran gelMolybdosilicate5% (v/v) aq. NH3ICP-MS88
NiPolystyrene divinylbenzeneDimethylglyoximato-complex2 M HClFAAS89

a) Styrene-divinylbenzene copolymer. b) 2-(5-Chloro-2-pyridylazo)-5-diethylaminophenol.

非イオン界面活性剤であるポリオキシエチレン(20)-4-イソノニルフェノキシエーテル(PONPE-20)を表面に塗ったAmberlite XAD-4(巨大網目状スチレン−ジビニルベンゼン共重合体)を詰めたカラム(内径7 mm,高さ50 mm)を用いると,8 mol/L塩酸酸性とした試料溶液から数十mg量のFe(III)をカラムに定量的に捕集し除去できる。本系では,カラムを通過する微量成分Ti(IV),Cr(III),Mn(II),Co(II),Ni(II),Cu(II),Zn(II),Ag(I),Cd(II),Pb(II),Bi(III)は,マトリックスのFe(III)から分離され,ICP-MSまたはETAASにより定量可能である79)。PONPE-20を塗ったAmberlite XAD-4は,pH1.5でP(V)とAs(V)をヘテロポリモリブデン酸として吸着・捕集するのに利用することもできる82)

環状のポリオキシエチレンはクラウンエーテルと呼ばれ,その環状構造に由来するアルカリ金属イオン親和性を示すことが知られている。クラウンエーテルの中でも18-クラウン-6はアルカリ金属イオンだけでなく,Pb(II)に対しても親和性を持つ。この性質に着目し,長鎖アルキル基を導入した18-クラウン-6を含浸させたPb-SpecTMがPb(II)選択性を持つ樹脂として開発,市販されている。鉄鋼分解液中のPb(II)を分析する方法として,Pb-SpecTMを充填したカラムを組み込んだFIAシステムが開発された83)。Pb(II)はカラムに保持され,Feマトリックスから分離された後にフレーム原子吸光分析装置に運ばれ測定される。この方法におけるPbの検出限界は0.05 μg/gであった。

中国では,抽出剤であるリン酸トリブチル(TBP)を含むポリスチレン樹脂(CL-TBP®)が市販されていて,主成分のFeを6 mol/L塩酸から吸着除去するのに利用された。この分離法は,高純度鉄中のPb,As,Co,NiをICP-AESで定量するのに採用されている80)

界面活性剤を塗ったアルミナに1, 5-ジフェニルカルバゾンを固定化して小型カラムに詰め,このカラムにCu(II)を濃縮,臭化水素酸溶液で溶離してオンラインでETAASに供したFIAが報告されている81)

ナフタレンとジチゾンをアセトンに加熱(40 °C)溶解した溶液を室温の水にゆっくり注ぎ入れると,ジチゾンを含む微結晶性ナフタレンが得られる。このジチゾン含有ナフタレンはカラム法によるCu(II)の前濃縮に利用できる84)

イオン対を固相に吸着させることも試みられている。Bi(III)は,ヨード錯イオンとテトラブチルアンモニウムイオンとのイオン対としてポリスチレン−ジビニルベンゼン樹脂に吸着され,メタノール−硝酸を用いて溶離された後,FAASで定量されている85)。他方,Sb(V)のFIAでは,Sb(V)のクロロ錯イオンとCo(III)-2-(5-クロロ-2-ピリジルアゾ)-5-ジエチルアミノフェノール錯イオンとがイオン対を形成し,PTFEチューブの内壁に捕集された。次いでSb(V)のイオン対はメタノールで溶離され,オンラインで吸光度が測定された87)

高純度鉄鋼中のSiを高感度定量するために,Moとのヘテロポリ酸イオンとしてデキストランゲルカラムに捕集し,アンモニア水で溶離後,同位体希釈/ICP-MSでSiが定量された。空試験値の標準偏差(σ)より求めた本法の定量下限値(10σ)は,0.3 gの試料を用いた場合に0.05 µg/gであった88)

目的成分が吸着剤に強く吸着し過ぎると,定量的な溶離が困難な場合がある。ポリスチレン-ジビニルベンゼン樹脂に吸着したNi(II)-ジメチルグリオキシム(DMG)錯体は,その例の一つである。この場合,試料溶液に非イオン界面活性剤を試料溶液に加えることによって,2 mol/L塩酸を溶離液としてNi(II)-DMG錯体を定量的に回収し,FAASによってNiを測定することができた89)

5. 共沈分離

共沈分離は簡便な方法であり,Table 4に示すように,比較的よく使われている。しかし,共沈剤として加える試薬に含まれる不純物による汚染や,共沈剤自体が新たなマトリックスとなり得ることに注意する必要がある。

Table 4. Separation by coprecipitation.
AnalytesCoprecipitantsDetectionRemarksRefs.
PBeryllium hydroxidePhotometry90,91
AsBeryllium hydroxidePhotometry92
PBeryllium hydroxidePhotometryFIA93
AsBeryllium hydroxidePhotometryFIA94
Ga, Hf, Mo, Nb, Ti, V, ZrFe-cupferron complexICP-AES95
TaFe-cupferron complexICP-AES96
Ti, V, Ga, Zr, Nb, Mo, Hf, TaFe-cupferron complexICP-AES97
Ti, V, Zr, Nb, Mo, TaFe-cupferron complexICP-AES98
Ti, V, Zr, Nb, Mo, TaFe-cupferron complexICP-MS99
CrLanthanum hydroxidePhotometryFIA, combined with matrix-precipitation100
As, Sn, Sb, BiManganese dioxideICP-AES101,102
AsManganese dioxideMFAASa)103
Se, Ag, Te, AuMetallic PdGFAASb)With L-ascorbic acid as a reducing agent104~106
Ge, Sn, SbMetallic PdGFAASWith NaPH2O2 (for Ge and Sb) or NaBH4 (for Ge and Sn) as a reducing agent107
PbYttrium phosphateGFAASWith L-ascorbic acid to reduce Fe (III) to Fe (II)108

a) Metal furnace atomic absorption spectrometry, b) Graphite furnace atomic absorption spectrometry.

Be(II)は,EDTA錯体の生成定数が比較的小さい(logβ1=9.63)ため,Fe(III)をはじめとする金属イオンのマスキング剤としてEDTAを用いると,Be(OH)2を共沈剤とする共沈分離法を設計することができる。この共沈分離法によりFeマトリックスからP90,91,93)とAs92,94)を分離することができる。ただし,Be(OH)2にはPとAsが共に共沈するので,それぞれの定量に用いる方法次第では配慮が必要である。例えば,共沈分離したPをモリブドリン酸−マラカイドグリーンあるいはモリブドリン酸−ブリリアントグリーン吸光光度法で定量する場合は,AsをAsBr3として揮散除去している90)。また,モリブドリン酸青吸光光度法でPを定量する場合,Asの共存量が多いときにはAsBr3として揮散除去する必要がある91,93)

Asについては,Be(OH)2共沈分離した後,テトラヒドロホウ酸ナトリウムを用いて気化させたアルシンを過マンガン酸カリウム溶液に捕集し,以後,モリブドヒ酸青吸光光度法で定量されている92)。FIAでは,モリブデン青吸光光度法により先ずP(V)とAs(V)の合量を求め,次に検液にチオ硫酸ナトリウムを加えてAs(V)をAs(III)に還元してP(V)のみを測定して,2回の測定値の差からAs(V)を求める方法を提案している。しかし,論文中では,リンを含まない鉄鋼試料の分析例のみが提示されている94)

主成分のFeの一部をクペロン塩として沈殿させ,これを微量金属の共沈剤として利用する方法が提案されている95,96,97,98,99)。この方法では,クペロン塩生成時の酸濃度及びクペロン濃度が目的成分の回収率に影響を与えるため,両パラメーターの最適化が重要である。 また,共沈分離した金属をICP-MSで測定する場合は,測定に先だってクペロンを始めとする有機物を硝酸で十分に分解処理し,m/z 90付近のスペクトル干渉を抑制する必要がある99)

FIAによる鉄鋼中クロムの定量では,最初にFeを水酸化鉄の沈殿としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターチューブにより除去し,次いでLa(OH)3を共沈剤としてCr(VI)を別のPTFEフィルターチューブに濃縮する。この沈殿を塩酸で溶離してから1,5-ジフェニルカルボノヒドラジド法によってCr(VI)を吸光光度定量し,濃縮しない場合より17倍の感度改善を達成している100)

MnO2共沈法は,様々な分野で微量成分の分離濃縮に利用されている。鉄鋼分析では,ICP-AESと組み合わせたAs,Bi,Cu,Pb,Sb,Sn,Znの定量101,102),メタル炉原子吸光法と組み合わせたAsの定量103)が報告されている。

Pd(II)はGFAASにおける干渉抑制剤としてよく知られている。このPd(II)を試料溶液に加え,L-アスコルビン酸で金属Pdに還元するとSe,Ag,Te,Auが共沈104,105,106),NaPH2O2で還元するとGe,Sbが共沈,NaBH4で還元するとGe,Sn107)がそれぞれ共沈する。各沈殿を酸に溶解すれば,干渉抑制剤を改めて加えなくても,共沈した各元素をGFAASにより測定できる。

鉄鋼中鉛の定量にリン酸イットリウム共沈分離が利用されている。共沈剤は後続のGFAASによるPbの定量を妨害しないが,L-アスコルビン酸で主成分のFe(III)をFe(II)に還元してFe(III)のリン酸イットリウムへの混入を抑制する必要がある108)

6. 気化分離

鉄鋼分析における気化分離の例をTable 5に示す。なお,気化分離を利用する定量のうち,非金属元素については次のような解説記事がある:「還元ガス化反応を用いた高純度鋼中の微量炭素,燐,硫黄の定量」109),「燃焼−赤外線吸収法による炭素・硫黄の微量分析」110),「燃焼赤外線吸収法による鉄鋼中硫黄定量の現状と課題」111),「極低炭素定量用鉄鋼認証標準物質の調製とその認証値の決定」112)

Table 5. Separation by volatilization.
AnalytesSample solutionsChemical species volatilizedDetectionRefs.
SFe (II)-strong phosphoric acidH2SCoulometry113
SHI (55-58%)-HPH2O2 (ca. 50%) (4:1)H2SVoltammetry114
S4 M HClH2SPhotometry115,116
S2 M HClH2SICP-AES117
SHCl-HI-H3PO2H2SICP-MS118
Si2 M H3PO4-10 M H2SO4-0.01% HFSiF4Photometry119
As, Se, Sb, Pb, Bi1~2 M HCl + NaBH4HydridesMIP-AESb)120~124
Cu3 M HCl + NaBH4HydrideICP-AES125
Co, Ni, Cu, As, Se, Ag, Sn, Sb, Te, Au, BiAcidic solution + NaBH4HydridesICP-AES126~128
Ag0.5 M HCl + KBH4HydrideETAAS129
Pa)6 M HClHydrideICP-AES130
As9 M HClChlorideAFSc)131
CH2 atmosphereCH4, CO, CO2GC with FID132
P10 M HCl (iron removed by extraction with 4-methyl- 2-pentanone)ETV-ICP-MSd)133
S10 µg KOH (modifier)ETV-ICP-MS134
NHe atmosphereN2TCe)135
B13 M H2SO4-1 M H3PO4-16% methanolMethyl borateICP-AES136

a) Electrolytic sample dissolution was employed. b) Microwave induced plasma atomic emission spectrometry. c) Atomic fluorescence spectrometry. d) Electrothermal vaporization inductively coupled plasma mass spectrometry. e) Thermo-conductimetry.

Sは,多くの場合,H2Sとして気化分離された後,様々な方法で測定されている113,114,115,116,117,118)。ただし,電気加熱気化(ETV)-ICP-MSによるSの定量では,塩酸酸性の試料溶液を4-メチル-2-ペンタノンと振りまぜてFeを抽出除去した後,黒鉛炉に10 µl滴下する。試料溶液を乾燥して塩酸を除き,共存元素の化学修飾剤KOHを加えてから気化し,質量スペクトルを測定する134)

高純度鉄中のSiは,Feをリン酸でマスクして分析に供する試料量を増やすと,フッ化物分離/モリブドケイ酸青吸光光度法によってppm未満の微量を定量できる119)

金属元素の気化分離は,水素化物を利用するもので,酸性溶液でNaBH4120,121,122,123,124,125,126,127,128)またはKBH4129)が用いられている。検出には,発光分光分析法または原子吸光法が採用されている。例えば,AsおよびSbを含む標準あるいは試料溶液と還元剤(NaBH4)溶液をペリスタポンプで連続的に送液・混合し,気−液分離器内に窒素ガスを通気することによって同時に発生するアルシンおよびスチルビンを溶液から分離し,ネブライザーチャンバーからマイクロ波誘導プラズマ(MIP)中に導入する120)

Pは,ハロゲンランプを用いた加熱電解によりPH3とし,その全量をICP-AESに導入して高感度で定量されている。具体的には,P濃度が32 µg/gのレベルで,RSD(n=3)が7%であった130)。一方,PをETV-ICP-MSで定量する際は,主成分のFeを塩酸系液液抽出で除いておくことが必要である133)。また,Asは,揮発性のAsCl3としてオンラインでAr-H2炎に導入され,原子蛍光分光法(AFS)により定量されている131)

切削状高純度鉄試料(直径約0.1 mm,長さ約10 mm)中のCの定量では,試料を水素雰囲気中で1100 °Cに加熱し,試料中のCをCH4,CO,CO2として抽出している。その後,これらのガスをFID-GCにオンラインで導入し,定量している。定量下限は2 µg/gである132)

鋼中のNは,従来,滴定法あるいは吸光光度法によって定量されていたが,迅速かつ簡便な定量への要求に応えるため,不活性ガス気流中で鋼試料を融解後,熱伝導度法によりNを定量する際の機器校正法が研究された。

校正用規準物質には,組成式からN含有量が計算できる純化学物質を用いることとし,融解操作時の回収率と熱安定性の点からKNO3が選ばれた。本校正法は,0.001%~0.5%のN含有率の測定に適用できる135)

Bの定量では,Bをホウ酸メチルとしてFeマトリックスから分離することが多い。反応容器中で硫酸(200 µl)とリン酸(20 µl)に鋼試料溶液(20 µl)を加えておき,そこにメタノール(45 µl)を注入して発生する気体状ホウ酸メチルをアルゴンガスでICP-AESに移送して定量する装置が報告されている。本法の絶対検出限界は,20 µlの試料溶液を用いた場合,20 ngである136)

7. 電解分離

鉄鋼分析における電解分離の利用例は必ずしも多くないが(Table 6参照),電解法は高感度化に有効な方法である。

Table 6. Separation by electrolysis.
AnalytesWorking electrodesDetectionRefs.
Deposition of iron
B, Y, Zr, Hf, Th, U, lanthanoidsFlowing mercury poolICP-MS137,138
Deposition of analytes
SbGold plated glassy carbonAnodic stripping voltammetry139
AsGold plated glassy carbonAnodic stripping voltammetry140
SiGlassy carbonAdsorptive stripping voltammetry141
Cu, SbCarbon pasteAnodic stripping voltammetry142
Zn, Pb, BiHanging mercury dropAnodic stripping voltammetry143,144
BHanging mercury dropAdsorptive stripping voltammetry145
MoHanging mercury dropAdsorptive stripping voltammetry146
Cu, Zn, Cd, PbHanging mercury drop, mercury-coated glassy carbonAnodic stripping voltammetry, constant-current stripping analysis147

ICP-MSを検出に用いたFIAで,小型の水銀陰極電解法が利用された。本法は,鋼のマトリックス成分であるFe,Cr,Ni,Co,Mn,MoからZr,Hf,Y,La,Ce,Pr,Nd,Gd,Dy,Th,Uを分離,定量するために考案されたものである。試料0.200 gを塩酸,硝酸,フッ化水素酸,硫酸の混酸でマイクロ波分解し,硫酸白煙処理した後,20 mLの0.3 mol/L硫酸溶液とする。その溶液から2 mLをFIAシステム内のミクロ電解セルに取り込み,8.5 Vで3分間電解,電解済み溶液の300 µLをICP-MSに導入して目的元素を測定している137)。また,同様な溶液系でマトリックスを電解分離後,BをICP-MSによって定量することができることが同じ研究グループにより報告されている138)

鋼中のSbの定量では,Feマトリックスを分離することなく,回転金膜電極を用いた示差パルスアノーディックストリッピングボルタンメトリーが適用された。Fe(III)の妨害は,KIによりFe(II)に還元し,生じたI2をアスコルビン酸で還元して抑制した139)。また,同様なFe(III)のマスキング法とボルタンメトリーによってAsを定量することができる140)

Siの定量では,β-シリコ十二モリブデン酸を形成しているMoの電気化学的反応を巧みに利用して高感度化が達成されている。すなわち,β-シリコ十二モリブデン酸をグラッシーカーボン電極上に吸着濃縮するとヘテロポリ酸中のMo(VI)はMoO2に還元されるので,これを示差パルス法で酸化溶出させることによりSiを定量できる。10分間の析出時間での検出限界(3σ)は4.3×10−9 mol/Lであった141)。また,MoはMo(VI)-タイロン錯体としてつりさげ水銀滴電極上に吸着濃縮し,酸性溶液中での塩素酸イオンの電気化学還元に対する触媒効果を利用しても定量でき,検出限界(3σ)は0.006 ng/mLである146)。Bの定量では,B-ベリロンIII錯体をつりさげ水銀滴電極上に吸着濃縮するストリッピングボルタンメトリーが検討されている145)

以上の他に,CuとSbの同時定量142),Zn,Pb,Biの同時定量143),および亜鉛めっき鋼板の付着量測定144)にアノーディックボルタンメトリーが応用されている。また,Cu,Pb,Cd,Znの同時定量には,定電流で酸化溶出する定電流ストリッピングアナリシス(CCSA)とアノーディックストリッピングボルタンメトリー(ASV)が比較検討され,ASVは感度と操作性に優れるが,CCSAに比べて分解能が劣ることが示された147)

8. まとめ

鉄鋼製造現場で最近行われている元素分析は,分析時間短縮のため,試料を溶解しないで固体のまま行われることが多くなっている。最もよく用いられている分析法は,スパーク放電発光分光分析法と蛍光X線分析法である1)。さらに,レーザーアブレーションとICP-AESまたはICP-MSとの組合せも試みられるようになってきた。

固体試料を直接分析する上記の方法は,機器が進歩し,マトリックス効果等の補正法が改良されている。しかし,精確な分析値を得るには,試料ごとに組成の類似した標準物質を調製し,それを用いて検量線を作成することが依然として必要である。

また,溶液試料を用いて測定する分析機器であっても,試料中の成分間の干渉がまったくない分析機器は存在しない。さらに,微量成分の定量に際しては,用いる分析機器の定量感度まで濃縮する必要がある。一般に,分離と濃縮とは兼ねることが多い。また,目的成分を分離すれば,標準溶液を用いて検量線を作成し,定量できる。その結果,試料ごとに標準物質を調製する煩わしさが避けられる。以上の理由により,化学分離は今後とも精確な元素分析にとって不可欠であり,分離技術は分析法の進歩にとって大きな意味を持ち続けるものと期待される。

文献
 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan
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